見もの・読みもの日記

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2022年1月関西旅行:名画の殿堂 藤田美術館展(奈良博)

2022-01-12 17:01:30 | 行ったもの(美術館・見仏)

奈良国立博物館 特別展『名画の殿堂 藤田美術館展-傳三郎のまなざし-』(2021年12月10日~2022年1月23日)

 この展覧会の情報を得て、慌てて奈良行きの計画を立てた。奈良博が年末年始に特別展を開催するのは異例である。奈良博ホームページの「過去の展覧会情報」を10年くらい遡ってみたが、だいたい年末年始は、春日若宮のおん祭特集か新たに修理された文化財の特集陳列なのだ。

 本展は、2019年春に開催された特別展『国宝の殿堂 藤田美術館展』の続編として、藤田美術館所蔵の絵画を中心に構成したもの。会場で「初公開」の多さにびっくりした(展示74件中23件!)が、藤田美術館と奈良博の共同調査によって、隠れた名品群が確認されたのだという。

 すでに評価の確立している名品絵画も、もちろん出ている(この展覧会、会期中の展示替えがほぼないのが嬉しい)。『華厳五十五所絵巻残闕』は、昨年秋に東大寺ミュージアムで東大寺所蔵分を見たもの。藤田美術館は冒頭の第1段から第10段までを所蔵する。ふわふわした絵柄だが、基壇に載った円筒形の宝塔を斜め上から見た図など、構造物を破綻なく描ける画力が素晴らしい。また第5段にいる水鳥が可愛い。『玄奘三蔵絵』は巻四、目に鮮やかな青と緑で大胆に描かれるのは天竺(インド)の風景。非現実的な岩山。遠山の木々は琳派のデザインみたいに整然と並ぶ。仏陀ゆかりの仏足石や濯衣石を礼拝する玄奘たちの顔には、生き生きした驚きと喜びがあふれている。大好きな『春日明神影向図』(牛車の中、霞で顔を隠す)も奈良で見ると格別の感慨。

 宋元絵画や中世水墨画は、馬麟・牧谿・正信などの伝承作者は疑わしいものの、印象深い作品がたくさんあった。『芦鱸藻鯉図』(室町時代、初公開)は水中を泳ぐ鯉の背中に水面の浮草が被さっていて、空間を立体的に表現している。雪村の『竹林七賢図』は小品だが雪村らしい人物の描き方で、手元に置きたくなる。さっぱりした『墨蘭図』(南宋~元、初公開)も好き。

 近世絵画では『破墨山水図』(17世紀、初公開)がお菓子を並べたような愛らしさだった。冊子の『競馬図』(17世紀、初公開)は、馬と乗り手のさまざまなポーズを描く。3面くらい開いていたかな。人物は岩佐又兵衛風。馬の体のひねり方が作為的でカッコいい。『随身庭騎絵巻』とか『泰西王侯騎馬図』とか、いろいろな類似作品が頭をよぎる。長沢芦雪の『幽霊・髑髏・仔犬白蔵主図』3幅対は、真ん中の幽霊が美人。狩野山雪『夏冬山水図』(初公開)は、なるほど山雪だ~と納得の山水図。

 藤田傳三郎は、明治維新以後、大名旧家や寺社に伝えられてきた文化財の多くが、海外へ流出したり、国内で粗雑に扱われたりすることに危機感を覚え、美術品の蒐集に乗り出したという。本展の冒頭では、木造の坐像(作者不詳)が傳三郎の面影を伝える。最後のセクションは「奈良の明治維新」と題して、傳三郎が救出した文化財、内山永久寺(廃寺)真言堂の障子絵であった『密教両部大経感得図』などを展示する。冷泉為恭の『古絵巻写本』や為恭の遺愛品と伝える『阿字義』も最後のセクションにあり。

 また、京都・六波羅蜜寺の像によく似た空也上人立像(室町時代)は、高畑町の隔夜寺にゆかりの像であるという。明治初期の奈良博覧会(奈良博覧大会)に展示されたこともあり、明治14年(1881)に日本を訪れた英国アルバート王子とジョージ王子の旅行記には、東大寺大仏殿で「口から人を出す仏」を見たという記述があるそうだ。

※参考:藤田美術館の空也上人立像 奈良市の隔夜寺ゆかりか(産経新聞2019/5/31)

 今年4月に控えた藤田美術館のリニューアルオープンも楽しみだなあ(いつの間にか、ウェブサイトが一新していた!)。

■なら仏像館 名品展『珠玉の仏たち』(2021年12月21日~)

 久しぶりに仏像館を参観する。中央展示室の特別公開『金峯山寺仁王門 金剛力士立像-奈良・金峯山寺所蔵-』はそのまま。回廊の展示には、いくつか見慣れないものがあった。個人蔵の普賢菩薩坐像(平安時代)と不動明王及び二童子立像(平安時代、童子は江戸時代)は、吉野に伝来。明治維新後の神仏分離で多くの仏像が桜本坊に集められた中にあったが、一部の仏像が資産家などに有償譲渡されることになり、昭和16年、鎌倉国宝館に下託された。戦後、鎌倉を離れ、個人所有となり、公開もされてこなかったという。不動明王は、筋骨逞しいが穏やかな丸顔で、頼れるお父さんの雰囲気。普賢菩薩は、両手のてのひらを胸の前でぴったり合わせ、両目もほぼ閉じている。高い宝冠には彩色の赤が少し残る。

 木地と黒漆の残り(?)がまだらになって、修復後の痛々しさが残る阿弥陀如来立像には、「石川・尾添(おぞえ)区」という意外な地名があって驚いた。この像は、雪深い白山の過酷な環境で守られてきたもので、見た目は痛々しいが、保存修理で面目を一新した状態だという。2021年8月3日から半年あまりの期間限定で特別公開中とのこと。私は、昨年7月『奈良博三昧』のついでに仏像館を参観したが、11月の正倉院展のときは見ていないのだ。見逃さなくてよかった! なお、台座に「錦小路本尊也」という墨書が発見されており、もとは京都の錦小路に安置されていたのではないかとも考えられているそうだ。

※参考:修理を終えて公開へ 霊峰白山の仏像(ならはく教育普及室:奈良博手帖2021/8/3)

※参考:白山下山仏1体 1年かけ修理 鎌倉時代作の県文化財(中日新聞2021/4/28) 

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