端っこの「お気に入り」プチ感想です。 (前回)
・『狼の口 ヴォルフスムント』1巻
・『魏志 文帝紀 建安マエストロ!』1巻
歴史モノ(?)な1巻作品です。
双方ともに期待大! シブいところを題材としていますね。
気合いが入りすぎて、ちょっと長文ぎみになってしまいました。
話の内容に触れる部分があります。
『狼の口 ヴォルフスムント』1巻
(久慈光久 先生)
14世紀のアルプス地方を舞台とする、森林同盟とオーストリア・ハプスブルク家との戦い。
処刑された反乱軍の闘士エルンストの娘リーゼロッテ、そして彼女を守る騎士ゲオルグ。
2人の逃避行は、互いの想いを秘めながら過酷につづくが・・・・・・
リーゼはいわゆるお嬢様的な女性であり、切迫した状況にも今ひとつ実感がない様子。
それに対するゲオルグは、冷静に厳格にリーゼを国外へ逃がそうと努めています。
リーゼに恨まれようとも憎まれようとも、ただそれだけの目的のために。
そんなところから始まる本作品は、非常に「ホネのある」作品に仕上がっております。
それは、「抵抗と抑圧の歴史」であるこの時代の、強烈な「抑圧」の描き方が凄まじい・・・
ということに尽きます。 その圧倒的抑圧に対する「抵抗」は、はたして虚しいものなのか?
かのヴィルヘルム(ウィリアム)・テルも登場し、抵抗運動は加速していくような雰囲気では
あるものの、その「抑圧」はこれでもかというくらいに圧倒的で、心が折れそうになります。
その残酷なまでの「抑圧」は、読者の中に“怨念”にも似た感情を芽生えさせると同時に、
抑圧者の冷酷な表情に、もしかすると“憧憬”のような不純な想いを抱かせてしまうかも・・・
ここまで「抑圧」と「抵抗」をみごとに描く作品は、なかなかお目にかかれないかと。
ただ、私は森林同盟の歴史を、その行く末を、ほんのわずかではありますが知っています。
ここで登場するハプスブルクの公弟レオポルトの末路を知っています。
なので、私はこの胸の内に秘めた暗い“怨念”が、いつかはじけ飛んで最高級のカタルシス
を味わわせてくれる・・・かもしれないことに期待したいのですが、おそらくは単純に
「抵抗バンザイ」になるとも思えませんし、ヴォルフラムという人物についても興味がある
などなど、とにかく今後が楽しみと言うしかありません!
『魏志 文帝紀 建安マエストロ!』1巻
(中島三千恒 先生)
「三国志」の時代。 魏国の公子である曹丕を主役とする作品。(こちらで読めます)
後世、〈魏〉の文帝として知られるようになる彼をコミカルに、そしてシリアスに描く物語。
話の入口が小難しさのない人間模様なので、「三国志」を知らない人でも楽しめそうです。
曹丕の周囲には、偉大なる父・曹操をはじめ、詩才あふれる弟・曹植、美しき妻・甄氏など、
魅力的な人物が大勢いますが、曹丕といえば何というか・・・面白味のない地味系ぽい。
曹植の奔放ながらもほとばしる才能の「華」に比べると、生真面目というか堅いというか。
そんな彼が詩作にふけったり、宝玉を欲しがったり、友人の恋路(?)を応援したりと、
乱世にありながら宮廷生活をエンジョイしつつ、騒動を起こしたりする感じのお話。
「三国志」を知る人間には、曹丕が主役というと「地味な話」という印象を抱かせるかも?
しかしこれが、自称・三国志マニアの私にも「面白い!」と思わせるほどの素晴らしさ!
「三国志」といえば、いわゆる豪傑たちが一騎打ちとか乱戦とかしたり、
知略にたけた軍師が策をめぐらして大軍を退けたりするシーンが目立ちますが、
政治・政争やら文化やら人物伝やらがシブい面白味にもなっているので、
そこらへんのツボを突いてくる楽しさがあります。
たとえば、曹丕をはじめとして、父・曹操や弟・曹植は詩才のある教養人としても
知られているのですが、じつはこの詩を中心とする「文学」というものが、
それまで中華の根本を支えていた思想である「儒教」に対抗するために持ち出されたもの
である・・・という話は、なかなかに興味深いものがあるのではないでしょうか?
ここらへん、「儒教」というものを知ったり、なぜそれに対抗しなければならなかったのか・・・
などを考えると、さらに深く楽しめると思うのですが、それは別の話。(あー語りたい!)
そんな難しそうなことを考えなくとも、軽いタッチの「宮廷物語」として楽しめる作品ですし、
「三国志」好きであるならば、司馬懿や陳羣や賈クといった人々の活躍に心躍らせることも
あるでしょうし、いずれにしても面白い作品ですね。
・・・まあ、司馬懿や陳羣を「偉大な曹操路線を変更しやがった不埒な奴らだ」と考える方も
おられるやもしれませんが、そんなことは置いておいて楽しむのが吉かと思われます。
「三国志」については、語ってしまうと長いのでここらへんで・・・・・・
なにはともあれ、面白い!