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オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

田代櫂の「クルト・ヴァイル」

2017-11-13 15:24:56 | 読書
田代櫂の「クルト・ヴァイル」を読む。2017年8月の春秋社からの出版だから、まだ出たばかり。あとがきによると、著者は最近亡くなられたとのことで、この本が遺作となった。索引等も含めて350ページ位の本で、図版も充実している。

クルト・ワイルは、ドイツ出身の作曲家だが、ユダヤ系であったため、ナチスの台頭とともに、フランス経由でアメリカに渡り、アメリカでも活躍した。ドイツ時代はブレヒトと組んで書いた「三文オペラ」が有名だが、その後もオペラを書きたいという気持ちが強く、アメリカでもミュージカルやオペラを残している。

この本を読むと、最初はいわゆるクラシック音楽の勉強をして交響曲なども書いていたが、次第にオペラへの情熱が高まったらしい。ブレヒトは劇が主体で、音楽は従という立場だったようで、本格的なオペラに取り組みたいワイルとは、一緒には活動できなかったようだ。

僕は、ドイツ時代の活動はあまり知らなかったが、アメリカ時代に脚本家マックスウェル・アンダスンと組んで「街の情景」や「星に散る」などの名作を書いたことを知っていたから結構楽しく読んだ。

全体は9章の構成で、ドイツ時代が5章、フランス時代が1章、アメリカ時代が3章という構成。副題に「生真面目なカメレオン」となっているが、これは環境変化にうまく対応して、求められる作品を書いているという意味か。別の言葉でいうと、職人的に何でもこなす器用人ということだろう。

確かに純音楽ではなく、実用的な音楽を目指したということもあり、アメリカでの活動は、時には真面目なオペラを書き、時にはブロードウェイで商業的なミュージカルをヒットさせている。

僕などは、ワイルの書いたミュージカルの「闇の中の女」や「ヴィーナスの接吻」が好きなので、こうした大衆受けする作品がもっと評価されても良いのではないかとも思う。

事実関係をよく調べて書いてあり、淡々と事実が述べられているが、時にはもうちょっと背景的な説明があったほうが良いのではないかと思える。本当に叙事的で淡々とした文体だ。クールではあるが、ときどき読みづらいと感じることもある。

ワイルの書いた作品を一つ一つ解説してあるが、オペラなどは詳しく物語が紹介されていて、便利というか、親切だろうが、ちょっと詳しすぎる印象もある。

一方、気になる書きっぷりもある。ブロードウェイの芝居について、「封切られた」みたいな表現が出てくるが、「封切り」というのは新着の映画の封を切って上映するという意味なので、芝居の「初演」を「封切り」と書かれると、読んでいて戸惑う。

著者はドイツの専門家なので、間違えたわけではないと思うが、俳優の「ペーター・ローレ」を「ピーター・ローレ」と表記しているのも気になった。ローレはドイツ映画界の出身で、晩年はアメリカ映画への出演も多く、アメリカでは「ピーター」と呼ばれていたが、ドイツ時代の出演はやはり「ペーター」のほうがしっくりくるのではなかろうか。ワイルもヴァイルとこだわっているのだから、徹底したほうが良いと思う。

いずれにしろ、面白く読んだが、どうしてクルト・ワイルを取り上げて書こうと思ったかを、本人の言葉で聞いてみたかった。

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