劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

新国立劇場の「ホフマン物語」

2018-02-10 11:04:29 | バレエ
新国立のプログラムでは、バレエとオペラで同じ演目をかけるというのがあるが、今シーズンは「ホフマン物語」がバレエとオペラで出ている。2月9日の夜の回を観た。たったの3公演しかやらない上に、三日ともキャストが異なる。公演日は、金曜日の夜と、土曜日、日曜日の昼と3日続けてなので、全部のキャストを観たい人は、三日間連続で観なければならない。これってどうかなと思う。新国立劇場は、同時に2公演分ぐらいのセットは置いておけると思うので、せめて公演の間を空けて、週2回ぐらいのペースにして欲しい。

さて、9日の夜は初日だということもあり、客席にはバレエ関係者も多い様子だった。売り切れではないが、ほぼ満席といった感じ。客層の中心はそれでもリタイア組が多そうな感じ。

「ホフマン物語」はバレエ作品としては、あまり有名ではなく、新書館の出している「バレエ101物語」にも載っていない。そこで、オックスフォードのダンス事典でみてみると、ピーター・ダレルの振付で、1972年にスコットランドのバレエ団で初演となっている。そういえばバレエの芸術監督の大原永子はスコティッシュ・バレエに在籍していたので、その縁で新国立のレパートリーに入ったのかなあと考える。

バレエの物語もオペラを踏襲していて、ホフマンをめぐる3人の女性が描かれる。第一話のオリンピアは自動人形なので、バレエでも人形振りで踊る。オペラではゼンマイ仕掛けで動くために、途中で動力が切れると慌ててゼンマイをまいたりするが、バレエでは単なる人形になっていて機械仕掛けのムードはない。これは科学技術の進歩に対する描写だろうから、バレエでもそうしたムードがあっても良いのではと感じた。人形が踊るという設定なので、ホフマンが眼鏡を掛けるまでは池田理沙子は仮面をつけて踊る。せっかくの美人なのに、仮面では残念だと思っていると、眼鏡を掛けると仮面を外す演出だが、それでもかなり濃い人形メイクで宝塚風。人形振りを見ていたら、歌舞伎で八百屋お七が鐘を鳴らす場面を思い出した。

第二話はアントニアの話で、オペラでは体が弱いので歌うことを禁じられた娘が、母の思い出とともに歌い死んでしまう話だが、バレエではもちろん踊り死ぬ。ここはうまい工夫だが、ミラクル博士が催眠術を掛けるので、夢の場面となって、クラシック・チュチュのコールドとともに、アントニア役の小野絢子もクラシック・チュチュとなり、ホフマン役の福岡雄大と一緒にグラン・パ・ド・ドゥをたっぷり見せる。後ろ向きにジャンプして高くホールドする振付が二か所も入り、結構すごいと思う。この場面のアントニアは、催眠術にかけられて体は苦しいが、恋人ホフマンのピアノ伴奏で踊り続けるわけだが、小野絢子の感情表現が見事で、思わず見惚れてしまう。ジゼルの一幕にしろ、バレエでも演技は重要だと改めて思う。

第三話はジュリエッタの話で、米沢唯がヴェネチアの娼婦となってホフマンを誘惑する。オペラでは単に自分の影を奪われてしまう話だが、バレエではホフマンが聖職者となっていて、胸にかけた十字架をジュリエッタに奪われる。最後にはありあわせの棒で十字架を作ったホフマンがジュリエッタたちを追い払うが、ここらはなんとなく吸血鬼映画のムードだ。ヴェネチアの設定だと思うのだが、なぜか踊りや衣装はアラビア風のものが沢山出てきた。

最後のエピローグは、最初のプロローグと同じ場面で、ホフマンと逢引きしようとした大女優ステラ(本島美和)が、酔いつぶれたホフマンにバラを一輪残していく。最後の場面はそのバラ一輪を手にもってホフマンが佇んで幕となるが、なんとなく映画「巴里のアメリカ人」の最後の場面に似ている気もする。

グラン・パ・ド・ドゥの見せ場があるので、アントニアの場面がメインだろうが、それを米沢唯で観ようと思うと、11日の日曜日に見る必要がある。割と清潔ムードの漂う新国立のダンサーの中で、妖艶なジュリエッタを踊れるのは誰かなと考えると本島美和のジュリエッタも見たくなる。そうすると10日の土曜日にも行く必要がある。結構3回全部を観る人がいるのではないかと推察した。

この性格の異なる3人を別のダンサーでいるのも良いのだが、一人のダンサーが演じ分けるのも面白いかもとおもったら、1973年にアメリカン・バレエ・シアターで上演した時には一人が、三人を踊り分けたと事典には書いてあった。

オペラから脚色しているので、音楽はオッフェンバックの有名曲やメロディが出てくるが、踊る場面では結構自由に編曲してリズムを明確にしており、バレエ音楽としてはうまくまとめた印象だ。全体的に、ホフマンのドイツ的な暗いムードはなくなり、英国風になった感じ。最初の幕では英語でホフマン物語と出てきて、シェリーの英語の詞が書いてある。プロローグの場面でホフマンが待っているオペラ座の向かいの酒場の看板は「ブラッスリー・リッピ」となっていて、全体的にアールヌーヴォー調の美術なので、なんとなくパリを感じさせるムード。劇場の看板は、サラ・ベルナール風の絵が掲げられているが、題名は「ドン・ジョヴァンニ」と書いてある。

ジュリエッタの場面は衣装と音楽、踊りはアラブを意識しているが、正面のセットの鏡張りの扉の模様はアールヌーヴォー風。ヴェネチアではないのかなあ。美術のムードが違うよなあと、気になった。

2回の25分休憩を挟み、終演は21時35分と掲示されていたが、カーテンコールが長く続いたので、劇場を出ると10時近かった。遅くなったので、いつものスペイン料理屋で軽く食事。ミートボールのトマト煮込みみたいなメニューがあり、「アルボンディガス」となっていたので、食べてみるとクミンの香りが効いていて、コフタを煮込んだムード。恐らく、料理名の最初の「アル」はアラビア語の冠詞だろうが、ボンディガスというのはどういう意味なのか気になった。