【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「善き人のためのソナタ」:白河バス停付近の会話

2007-07-01 | ★東20系統(東京駅~錦糸町駅)

やけに大きなアンテナね。何に使うのかしら。
本物かどうか、怪しいもんだ。
でも、これくらい大きければ国中の情報が手に入るんじゃないの。
旧東ドイツの政府なら喉から手が出るくらいほしかった代物かもな。
「善き人のためのソナタ」なんか観てると、すごい監視国家だもんね。
でも、監視している側が、いつのまにか監視対象に情が移っちゃって、国を裏切った結果、ベルリンの壁崩壊につながる事件に加担することになるという物語。
まあ、犬だって三日飼えば情が移るもんね。毎日毎日監視してればどんな人にだって情が移るわよ。
俺がお前に情が移ったようにか?
私があなたに情が移ったようによ。
あ、そう。
東ドイツという国はそういうところまで考えなかったのかしら。
人間的な感情は悪とするような国家だからな。自分で自分の落とし穴に気づかなかったようなものだ。
監視される側の男をやっていたのは、「ブラックブック」でドイツ側の将校をやっていた俳優でしょ。あの映画ももよかったけど、この映画のほうが真実味は優ってたわね。
それより、監視する側の男性。独身の中年男ってところが泣かせる。仕事一筋のまじめ男ってところが体中に現れてて、将来の自分を見てるみたいだ。
あなた、いつから仕事一筋になったの?
背中に男の哀愁があって寡黙なところが泣かせるんだよ。仕事一筋なだけに、一度人間的な感情を知ってしまうと止められないってところもな。
ほんとうに泣かせるのは、ベルリンの壁が崩壊したあとよね。
東ドイツ時代は将来を嘱望された人物なのに、国家への裏切りによって、壁の崩壊後はDMをアパートの郵便受けに入れるような寂しい仕事をしている。
リストラで会社をクビになった管理職が、電車の網棚に残された漫画本を集めて生計をたてているようなものよね。
うーん、お前が言うとなんかリアルだなあ。
でも、最後に本屋で見つけた本を見て、すべてが報われる。
俺の選択は間違ってなかったんだ、って気づくシーンだろ。チャップリンの「街の灯」と並ぶような映画史に残る名シーンだ。
なにそれ?意味わからないけど。
わからなきゃ「街の灯」を買え。DVDで500円だ。エステを一回パスすれば10枚は買える。
そんなにいらないわよ。
とにかく、名を名乗ることもなく賞賛されることもなく、単に善意の気持ちでやったことが、一瞬にして報われる感動的なシーンだ。ここで泣きゃなきゃ、どこで泣く。
東ドイツにもこういう人間的な人がいたのかと思うとほっとするわね。
バカ言え。東ドイツの人だって俺たちと同じ人間だ。ほとんどの人はこういう善意にあふれた人たちなんだよ。それが、一部のおかしな連中によって尊厳も自由もなくすところに問題があるんだ。
そこがあなたのアンテナに触れたってことね。
ああ、あんな大きなアンテナを持ってなくても、小さな善意のアンテナを持ってる人間なら、俺の気持ちがわかるはずだ。


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白河バス停



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