「雨露」 梶よう子 幻冬舎 2023.10.20
慶応四年。
鳥羽伏見の戦いで幕府軍を破った新政府軍が江戸に迫る。
多くの町人も交えて結成された彰義隊は上野寛永寺に立て籠るが、最新兵器を駆使する新政府軍にわずか半日で敗北ーー。
なぜ、名もなき彼らは、無謀な戦
いに身を投じたのか。
絵を描くことが唯一の取り柄だった臆病者の武士・小山勝美は、兄に引きずられるようになし崩し的に入隊。
絵の師匠・芳近は諌める。
「ほんとなら人の命を取れば、死罪のお裁きを受ける。けど、戦は、人殺しをしてもいいってお上が認めているんでさ。いくら殺めても構わねえ。そんな理不尽が戦ならまかり通る。お優しい勝美さまに出来ますか?ましてや相手は同胞だ」
それでも……
ただ、江戸を守りたい。
非力であろうと、臆病であろうとーー。
「寄ってたかって皆が守ってくれたーーきっと臆病で弱かったからでしょう。だから、生き残れた、生き延びた。それが私の生き方だった。後悔はしておりません」
生き延びて新聞記者になった丸毛が言う。
「戦には思想がある、戦う意義がある。武力の行使は正義を守るためでもある」
それに対して、(無惨絵を描く)月岡芳年は
「つまりはどっちが多く人殺しをしたかで決まるんだろう?(略)おれは思想も意義もわかりゃしねえ。けどな、戦なんざやってまいいことなんかありゃしねえのだけはわかってるよ」
「人ってのはな、どんなに善人面していても、腹の底には悪意や憎悪が眠ってるもんさ。(略)人を殺める奴の心根なんか知りたくも」えが、誰もが持っている。恐怖が極まった人間も同じさ。そこから逃げたくて、狂気に走る」