COLKIDが日々の出来事を気軽に書き込む小さな日記です。
COLKID プチ日記
犬
SIGMA DP2
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何年も前の話であるが、知人の会社の新しい工場に出かけたことがある。
工場は地方都市郊外の開けた土地に、川に沿ってぽつりと建てられていた。
ちょうど菜の花の季節で、傍らの土手は黄色く染まり、何とものどかで、時間がゆっくりと流れているように感じた。
土手で川をのぞいていたら、一匹の犬が歩いてきた。
薄汚れた白い犬で、首輪をしていなかった。
僕から少し離れたところで立ち止まり、座りながらこちらを見ている。
穏やかな顔つきを見ると、敵意は持っていないようだ。
近付くと後ずさりし、僕と一定の距離を保とうとする。
カバンの中にお菓子が入っているのを思い出し、それを投げてみた。
犬は匂いをかいでから、ぽりぽりと音を立ててお菓子を食べた。
親しみを持った表情で、こちらを見ているが、決してそれ以上近付こうとはしない。
へつらうことも無く、吠えかかることも無い。
ただ黙って座っている。
犬と人間との微妙な関係が、とても懐かしいものに思えた。
ここにはまだ、こういう世界が残っているのか・・・
子供の頃、犬は常に身近にいた。
多くの犬は放し飼いであった。
僕の飼っていた雑種のチビは、工場で仕事を終えた工員さんが帰宅の途につくと、その後をとぼとぼとついていった。
駅に着いた工員さんが
「チビ、もう帰りな」
と言うと、チビは今来た道を引き返し、ひとりで家まで戻ってくる。
時折、チビが帰って来ないことがあった。
これは危ないかな・・と思い、父親に保健所に連れて行ってもらう。
保健所には大きな檻が三つあって、捕獲後一日目、二日目、三日目と分けて犬が入れられていた。
三日目を過ぎた犬は、されるのだ。
檻の中には、驚くような高級な犬がいっぱい入っており、コンクリートで囲まれた部屋は、犬たちの鳴き声で騒がしかった。
自分たちの運命を知っている悲しげな鳴き声であった。
「チビ、いるか?」
と声をかけると、多くの犬の中から、チビが立ち上がって、嬉しそうにこちらを見た。
係りの人に言って、チビを檻から出してもらい、連れ帰った。
犬との関係は、そういうものであった。
土手で出会った首輪の無い犬は、やがて立ち上がると去っていった。
明日はどうなるかわからない運命の犬だ。
多分長生きすることは出来ないだろう。
今でもその土手は、季節には菜の花で覆われる。
土手で佇んでいると、時折ロープでつないだ犬を連れて散歩する人とすれ違う。
しかしあの時のような、薄汚れたのら犬と、出会うことはなくなった。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
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COLKIDさんの写真はかなり好きです。
文章もちゃんと読ませていただいてます。
犬の話と、この写真もいいですね。
昨日の猫もいいですね。
私も同年代の男性です。
生活は随分違って、そんなにいろいろな
レンズは買えませんが。
いつも見せてもらっているだけて、
ほとんどコメントしたことがないので、
「毎日連続更新記録2年突破」
を記念して、お礼のご挨拶をしようと
思いました。
どうも、ありがとうございます。
コメントありがとうございます。
2年以上も読んでくださっている方がおられると思うと本当に励みになります。
これからもよろしくお願いいたします。
なるべく続けていきますので・・・(笑)
本当にありがとうございました。
ノラ犬というのは、なかなか面白い存在です。
Mrs.COLKIDの裏山には野犬が出ることがあって、それは非常に危険です。
人間の住むエリアから離れると、獣になってしまうんですね。
今から40年前、うちに住み着いた犬は、妹のあとをついて来て玄関に居座った真っ白な野良犬の子供でした。子供の目で見ても小さかったので生まれて間もなかったんでしょう。
玄関にぴったりと座って、しっぽを振ってこちらを見上げていた光景を今でも思い出します。
それからは家族の一員で、放課後どこへ行くにもその犬と一緒でした。
その場の状況を自分で判断できる凄く頭の良い犬で、あまり困った記憶がありません。路先案内は得意で、目的地が近づくと小走りになって、誘導してくれました。2年間くらいいました。
当時は放し飼いが普通でしたから、それが良くなかったです。保健所の野良犬駆除用のダンゴを食べたらしく、ある日こつ然と居なくなってしまいました。
完全に気を許すまでには長い歳月がかかりますけどね・・・
でもああいう体験はもう二度と出来ないだろうと思います。
近所の家や親戚にまで伝説として残っているくらいで、今でも語り草になっています(笑)