現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

古田足日著・田端精一イラスト「おしいれのぼうけん」

2023-12-23 14:56:39 | 作品論

 日本の物語絵本のロングセラーです。
 初版は1974年で、私が読んだのは2001年の158刷です。
 見開きに描かれた保育園の全景に、「ここは さくらほいくえんです。さくらほいくえんには、こわいものが ふたつ あります。」という文章で、おはなしは始まります。
 次の見開きには、左に押入れの絵があって「ひとつは おしいれで、」の文章が書かれ、右には「もう ひとつは、ねずみばあさんです。」の文章とねずみばあさんの絵があります。
 ラストは、みんなが楽しく遊んでいる保育園の全景が描かれて、以下の文章が書かれています。
「さくらほいくえんには、とても たのしいものが ふたつあります。ひとつは おしいれで、もうひとつは ねずみばあさんです。」
 「こわいもの」から「とても たのしいもの」への変化が、読者が素直に実感できるところが、この絵本のもっともすぐれた点でしょう(もちろん、それが作者たちのねらいなのですが)。
 体罰として閉じ込められる真っ暗な押入れ。
 水野先生が演じる恐怖のねずみばあさん。
 それらが合体して、二人の男の子たちを冒険の世界へ誘います。
 暗闇という原初的な恐怖が生んだ意識と無意識の世界(「かいじゅうたちのいるところ」の記事を参照してください。)、現実と空想の境を超越して、二人の冒険の世界が広がります。
 男の子たちの友情、ねずみばあさんの恐怖、ネズミたちとの戦い、子どもたちの大好きなおもちゃの活躍、「子どもの論理」の「大人の論理(体罰など)」への完全勝利、楽しい思い出の反芻など、子ども読者の立場からはほぼ完ぺきな絵本だと思われます。
また、児童文学者の安藤美紀夫は、「日本語と「幼年童話」」(その記事を参照してください)という論文で、「物語絵本」の成立要件として、以下のように述べています。
「その時、まず考えられることは、長編の構想である。物語絵本は、そこに文字があろうとなかろうと、少なくとも二十場面前後の<絵になる場面>が必要なことはいうまでもない。そして、<絵になる場面>を二十近く、あるいはそれ以上用意できる物語といえば、いきおい、起承転結のはっきりした、ある種の山場を伴う物語にならざるを得ない。たとえそれが<行って帰る>といった一見単純な物語であっても、である。」
 この作品は、安藤の定義する「物語絵本」の成立要件を、完全に満たしています(もしかすると、安藤が1983年に論文を書いた時には、この作品が念頭にあったのかもしれません)。
 最後に、この作品の歴史的および現時点での価値とは無関係なのですが、「押入れに閉じ込める」という設定自体が体罰あるいは虐待と受け取られて、現在の保育園を舞台にした場合には成立しにくいかもしれません(もちろん、作者たちは体罰を明確に否定していますが)。
 古田足日先生は2014年にお亡くなりになりました。
 先生のご冥福を心からお祈り申し上げます。

おしいれのぼうけん (絵本ぼくたちこどもだ 1)
クリエーター情報なし
童心社

 


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