現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

新井けいこ「生き物がかり」あける28号所収

2017-05-16 11:21:55 | 同人誌
 主人公の五年生の女の子は、密かにあこがれていた女の子と一緒に、生き物がかりをやることになります。
 生き物好きの彼女とインコの世話をするうちに、主人公は一年生の時にインコを死なせてしまったトラウマを次第に克服できるようになります。
 二人の関係の深まりを、体育係を中心にクラスでやっている大なわ大会の練習とからめて描いていきます。
 繊細な主人公、風変わりな魅力を持つ生き物係の女の子だけでなく、体育係の元気のいい女の子と男の子も含めて、登場人物が魅力的に書かれているので、長編か連作短編で、このクラスの子どもたちのハーモニーを、もっと大きな物語にまとめてもらいたいと思います。

電車でノリノリ (文研ブックランド)
クリエーター情報なし
文研出版
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井出ひすい「一馬くんがやってきた」あける28号所収

2017-04-30 09:16:55 | 同人誌
 作者が、児童文学の同人誌の例会に断続的に発表している「老年」児童文学です。
 主人公のウマばあさんを中心に、マコ兄、善吉さんの老人トリオが活躍する、ユーモアたっぷりの人情話です。
 今回は、母親の病気で善吉さんが預かっていた孫の一馬くんと、彼のために役場に掛け合って作ってもらったブランコをめぐるお話です。
 ブランコ設置を担当した役場のカマキリ係長(マコ兄によると、女房が子どもを連れて出てってしまっているそうです)を含めて、泣いたり笑ったりでホロリとさせてくれます。
 他の記事にも書きましたが、お年寄りに届ける流通の問題を解決すれば、「老年」児童文学は高齢化時代の児童文学のフロンティアになる可能性があります。

老年文学傑作選 (ちくまライブラリー)
クリエーター情報なし
筑摩書房
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ばんひろこ「ひめおどりこそうが ゆれたよ」あける28号所収

2017-04-29 09:52:14 | 同人誌
 女の子のグループの秘密基地(神社の裏の細長い公園)をめぐる話です。
 リーダーの女の子の指令で、その時いなかった女の子の仲間外れ(ごっこ?)が始まり、メンバーは次々とその子の悪口を言わされます。
 でも、その子と仲のいい主人公だけは、なかなか悪口を言えません。
 とうとう、ひめおどりこそうの精(?)に励まされて、主人公はその子が好きなことをみんなに告白します。
 そのために、主人公はグループ内で微妙な立場に置かれます。
 しかし、ひめおどりこそうの蜜を吸う遊びをきっかけに、またみんなとつながれます。
 低学年の女の子たちの微妙な人間関係が、丹念に描かれています。
 特に、ラストでリーダーの女の子を悪者のままにしなかったことが、読み味を良くしています。 

天馬のゆめ
クリエーター情報なし
新日本出版社
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高山榮香「ひまわりの里」あける28号所収

2017-04-29 09:34:23 | 同人誌
 人付き合いが苦手で、生涯独身だった地方公務員の男性が、母親の影響でひまわりを育て、退職後は野球場ほどの広さのひまわり畑に育て上げる話です。
 初めは地元の人たちにも馬鹿にされながら、数少ない理解者と共にひまわり作りに丹精していく姿が感動的です。
 彼のひまわり畑はやがては観光名所になり、鉄道の廃線で寂れていた地元をよみがえらせます。
 人にほめられることを期待せずに、自分の信念を貫き通す主人公は、児童文学にとって大切な人物像(キンセルの「シューレス・ジョー」(フィールド・オボ・ドリームスの原作)など)のひとつでしょう。
 特に、ひまわりの迷路を子どもたちが歓声をあげて走り回る姿は、宮沢賢治の「虔十公園林」の杉林やサリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(その記事を参照してください)のライ麦畑を子どもたちが走り回るシーンを彷彿とさせます。

横丁のさんたじいさん (鈴の音童話)
クリエーター情報なし
銀の鈴社
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最上一平「ぴょこぴょこぴょこちゃん」あける28号所収

2017-04-28 09:37:08 | 同人誌
 いつもは目立たないおとなしい女の子が、突拍子もないころびかたをしたのをきっかけに、主人公のこれもまたおとなしい男の子は、その子が気になってたまりません。
 思いきって声をかけてから、男の子は、その子と自分自身に今まで知らなかった別の面があることに気づいていきます。
 小学校低学年の男の子と女の子が仲良しになっていく過程が、ほほえましく描かれています。
 ぴょこぴょこぴょこちゃんというのは、靴下が破けていてとび出していた親指を、女の子が自分で名づけたものです。
 主人公は、そのぴょこぴょこぴょこちゃんに強く惹かれて、ラストで思いきった行動をします。

銀のうさぎ (新日本少年少女の文学 23)
クリエーター情報なし
新日本出版社
 
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倉本 采「スルスルスルッ!」あける28号所収

2017-04-27 10:22:51 | 同人誌
 けんばんハーモニカが苦手な男の子が、楽譜から抜け出した音符たちの頼みをきいて、「心が歌いたくなるとおりに、指を動かして」いるうちに、テストの課題曲を、初めて最後までひくことができるようになります。
 音楽の先生でもある作者ならではの発想や観察がいかされていて、楽しい作品になっています。
 ラストでは、このお話が主人公の夢なのか本当にあったのかは、読者にゆだねられます。

パックル森のゆかいな仲間 ポーとコロンタ (子どものしあわせ童話セレクション3)
クリエーター情報なし
本の泉社
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原 結子「トカゲじゃない、カナヘビだ。」あける28号所収

2017-04-18 08:55:19 | 同人誌
 作者が、同人誌の合評会に断続的に発表している長編の冒頭です。
 身体の弱い主人公の女の子としゃべることができるカナヘビを中心に、日常とファンタジーの世界が交錯する作品です。
 文章や描写が優れていて、上質な作品世界を生み出しています。
 しゃべれるカナヘビが、「不思議の国のアリス」の白ウサギのように、主人公と読者を不思議な世界にいざなってほしいと願っています。

日本児童文学 2017年 02 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小峰書店
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鳥野美知子「麦プップ」ふろむ第11号所収

2016-07-12 17:45:23 | 同人誌
 主人公の五年生の女の子は、クラス替えで、仲良し四人組の中で一人だけ別のクラスになってしまいます。
 それをきっかけにして、他の三人との関係がうまくいかなくなっていきます。
 その一方で、クラスに新しい友だちもできました。
 友人関係の中で揺れ動く女の子の気持ちがよく描けています。
 主人公を、小さいころからかわいがってくれているおばあちゃん(作ってくれるおでんや肉まんがすごくおいしそうです)。
 やはり主人公をかわいがってくれた二年前に死んでしまったおじいちゃんの思い出。
 パパとママ。
 出戻り(?)のママのお姉さんと主人公と同い年の一人息子。
 たくさんの登場人物が、主人公をにぎやかに取り囲んでいます。
 作品のところどころに、90歳になる作者のおかあさんの短歌がちりばめられているように、これは作者の実生活をかなり色濃く反映しているようです。
 読み味のいい大団円的なエンディングには、作者の願いがこめられているのでしょう。

鬼の市 (新・わくわく読み物コレクション)
クリエーター情報なし
岩崎書店
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三枝ひかる「ほおずき」あける27号所収

2016-04-27 17:43:13 | 同人誌
 離婚話が持ち上がって実家に戻ってきた叔母さんとその子どもたち(兄妹)と、主人公の少年と祖母との交流を描いています。
 いつの時代でも、大人たちの問題は、子どもたちにも大きな影響を及ぼします。
 安易な解決を求めずに、大人たちと子どもたちとの共棲をていねいに描いていけば、もっと今日的な意義を持った作品になるでしょう。

ふたりのロッテ (岩波少年文庫)
クリエーター情報なし
岩波書店
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倉本 采「おいで、ラック!」あける27号所収

2016-04-27 11:27:38 | 同人誌
 先天性内反足で右足が不自由な四年生の男の子が、リハビリのために飼いはじめたミニュチュアダックスの子犬をめぐって、いろいろな体験をする話です。
 限られた紙数の中にいろいろな素材が持ち込まれているのでやや未消化ですし、大人目線の教訓臭さがぬぐえない点は残っていますが、もっと書き込んでいけば十分に一冊の本にできると思います。
 先天性内反足のよる尖足とそのリハビリ、八人制サッカー(2011年から日本でも導入されたU12世代(主に小学生)向けのサッカー)、にせブリーダー問題、動物虐待、動物愛護、子犬の病気など、今日的で興味深い問題がたくさん扱われていて、現在の日本の児童文学に決定的に欠けている社会性を持った作品です。

小学生の8人制サッカー最強の戦術 (コツがわかる本!)
クリエーター情報なし
メイツ出版
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荒木せいお「高速道路の神様」あける27号所収

2016-04-26 11:56:46 | 同人誌
 ひと月前にとうさんが家を出てしまい、告白した男の子にもふられてしまった、六年生の女の子の話です。
 いろいろなことに傷ついた主人公は、雪で封鎖された高速道路で、自転車に乗った神様(?)と出会ったことをきっかけに立ち直っていきます。
 思春期前期の女の子の繊細な心の動きを、ビビッドに描き出しています。
 良くも悪くも「文学的」な作品なので、現在の主人公と同年代の女の子たちに共感を持って読んでもらえるかは微妙なところです。
 かつて、今は亡き安藤美紀夫は「児童文学とは、アクションとダイアローグの文学である」と定義していました(関連する他の記事を参照してください)が、この作品の半分ぐらいは主人公の「モノローグ」で書かれています。
 このような小説的技法で描かれた児童文学は、1980年代から1990年代初頭にかけてはよく出版されていましたが、今ではその存在は希少になっています。
 この作品に限らず、作者の短編は、よく「玄人好み」と評されるのですが、この「玄人」には作家、評論家だけでなく、いわゆる児童文学の媒介者(子どもたちに本を手渡す大人のことで、編集者、学校の教師、図書館の司書、書店員、読み聞かせのボランティア、両親、祖父母などです)も含まれます。
 現在は媒介者の多くが女性になり、また児童文学の読者も子どもたちだけでなくより広範な女性たちが対象になっています。
 そのため、こうした媒介者の目に留まって、出版される機会は十分にあると思われます。

プールのジョン (牛ライブラリー)
クリエーター情報なし
牛の会
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鳥野美知子「ちゃぺのゆりかご」あける27号所収

2016-04-21 11:36:09 | 同人誌
 お正月に、ばあちゃんの住む山形へ行った男の子の話です。
 主人公とばあちゃんやひいばあちゃん、それと外で知り合った不思議な男の子(ネコの精?)との触れ合いを描きます。
 作者の故郷である山形の冬の風景や暮らしが、物語の背景として生かされています。
 この作品のような、男の子を主人公にして男の子の遊びも取り入れた作品は、現在では貴重(今の児童文学の読者は大半が老若取り混ぜた女性なので、男の子向けの本は出版されにくい)なので、もっと膨らませてぜひ一冊の本に仕上げてほしいものです。
 そのためには、読者の男の子たちの遊びや興味を持っていることを、もっと取材する必要があるでしょう。

鬼の市 (新・わくわく読み物コレクション)
クリエーター情報なし
岩崎書店
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さいとう雷夏「名前が欲しかった鬼」あける27号所収

2016-04-17 10:19:23 | 同人誌
 他の鬼たちと違って自分の名前が欲しかった青鬼と、醜く生れついたために疎外されている炭焼きの男との出会いを描きます。
 アイデンティティの喪失感、生きていることのリアリティの希薄さ、差別、疎外感、孤独など、現在の子どもたちや若い世代にとっても重要なモチーフを取り扱っています。
 問題の解決を急がずに、さらに象徴性を高めれば、今日的な問題に向き合った作品になると思われます。

ないた あかおに (絵本・日本むかし話)
クリエーター情報なし
偕成社
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井出ひすい「おみせばん」あける27号所収

2016-04-09 09:29:26 | 同人誌
 小学三年生の男の子が、おじいさんの釣り具店のおみせばんをする話です。
 お店にやってくる人たち(おじいさんの友だちの老人たちと、不思議な小さな女の子)が、忘れ物ばかりするのがおかしいです。
 今でも地域の人間関係が残っている地方を舞台に、楽しいメルフェンに仕上がっています。
 ただ、ところどころ分かりにくい個所(特に都会の子どもの読者にとって)があるので、もう少し配慮する必要があります。

川づり名人 (まんがでマスター 子ども名人シリーズ)
クリエーター情報なし
集英社
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新井けいこ「げたでジャングルを行く」あける27号所収

2016-04-07 10:46:31 | 同人誌
 中学入学をひとつのきっかけにして、大人への自覚を持ち始める少年を描いています。
 子ども時代へのサヨナラを描くことは、児童文学の大きなモチーフの一つです。
 有名な例としては、「プー横丁にたった家(くまのプーさんの続編)」のラストで、クリストファー・ロビンがみんなに別れを告げて、プーさんとともに子どもの世界(空想世界)を去っていくシーンや「パール街の少年たち」のラストシーンなどがあげられます。
 中学一年という年齢は、精神的成長が遅くなっている現在ではやや若すぎる気もしますが、母子家庭で頼りにしていた祖父にも死別したことを考えると納得できます。
 ただ、こういった文学的な作品を本にするのは現在では難しい(特に男の子向けは)ので、むしろ母親世代を対象とした一般文学としてまとめた方が出版のチャンスはあるかもしれません。

電車でノリノリ (文研ブックランド)
クリエーター情報なし
文研出版
 
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