不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

板垣巴留「BEASTARS11」

2019-06-30 18:36:38 | コミックス
 この巻では、主人公のハイイロオオカミのレゴシ(高校二年生)は、アルパカのテムを食殺したヒグマのリズと、命を懸けて大晦日に戦います。
 それを知った先輩のアカシカのルイは、裏市を牛耳るシシ組のボスの座を捨てて(そのために側近のライオンのイブキは死にます)、二人の決闘の場に向かいます。
 体力差で劣勢にたち、殺される寸前のレゴシにパワーを与えるためにルイがやったことは、なんと自分の右足をレゴシに食べさせることでした。
 肉食獣に草食動物の文字通り捨て身のパワーが加わったレゴシは、リズとの決闘に勝利します。
 男が男のために死んだり(ルイのためにイブキが死にます)、男が男のために自分の右足を犠牲にしたり(レゴシにルイは自分の右足を食べさせます)と、昔懐かしい少年漫画のDNA(例えば、「巨人の星」や「男一匹ガキ大将」など)を、このシュールな新しいコミックスの中に発見して、懐かしさと新鮮さが入り混じったような不思議な気分です。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

白土三平「海原の巻」カムイ伝所収

2019-06-29 09:35:36 | コミックス
 予想されたように、最終回のこの巻で、国家権力(幕府)と大資本(三井)の弾圧や搾取の前に、カムイ(元の抜け忍)以外の主要な登場人物はほとんどすべて悲惨な最期を遂げます。
 これは、他の記事にも繰り返し書きましたが、この作品の連載終了時(1971年)の70年安保における革新勢力の無残な敗北と二重写しになっています。
 また、作者の主張によると、カムイ伝は当初から三部構成になっていて、ここまではその第一部にすぎないわけですが、1988年から開始された第二部の連載が尻切れトンボに終わったのも、皮肉にもその後の革新勢力の低迷と二重写しになっています。
 そういった意味でも、1960年代の70年安保闘争における革新勢力の高揚とその後の衰退といった時代背景があってこそ、漫画史におけるカムイ伝の栄光と悲劇があるのかもしれません。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

白土三平「号びの巻」カムイ伝所収

2019-06-28 09:17:34 | コミックス
 幕府勘定方と商人(裏には夢屋七兵衛がいます)の結託による横暴で、日置藩は元のひどい状態(百姓は商人や武士にいいように搾取され、一度はあいまいになったたちもまた差別されます)に戻らせられます。
 たまりにたまった百姓たちの怒りは、全藩一揆(隣の望月藩も含めて)になって、一度は幕府勘定方や代官(一時的な良政を実現した草加竜之進に代わって新代官が赴任しました)や商人(夢屋の手先)を妥当します。
 しかし、それは幕府によるさらに激しい弾圧を予感させています。
 この状況は、この巻の連載前に起きた、1969年の70年安保闘争における革新勢力の高揚とその後の挫折と、二重写しになっています。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS11」

2019-06-27 17:12:12 | コミックス
 この巻では、主人公のハイイロオオカミのレゴシ(高校二年生)と食殺事件の犯人のヒグマのリズの対決を中心に描かれています。
 さらに、レゴシがコモドオオトカゲの祖父を持つ異種動物(しかも、哺乳類と爬虫類というとんでもない組み合わせ)のクォーターだということが明かされ、彼の動物全体(肉食獣も草食動物も昆虫類も)の幸福を願う理由の一端が明らかになります。
 また、金持ちの草食動物が貧しい肉食獣の体の一部を薬として買っていることが紹介されて、肉食獣=強者、草食動物=弱者という単純な構図でないことが分かり、作品の世界観が複雑化しています。
 作者は書きたいことをどんどん書いているようなので、ここまで広げた大風呂敷をどのように収れんさせるかの腕前が、これから問われることになります。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS9」

2019-06-24 14:40:38 | コミックス
 この巻で、お話の冒頭で発生したオスアルパカのテムの殺食事件の真犯人(オスヒグマのリズ)が判明します。
 それが、テムと仲が良く愛するがゆえに食べてしまうという、肉食獣の性が原因だったのです。
 一方、学園では、問題解決のために、肉食獣と草食動物の別学化がすすめられます。
 レゴシが属する演劇部も活動停止にされそうになり、反対運動が立ち上がります。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS8」

2019-06-23 17:05:10 | コミックス
 この巻では、肉食獣と草食動物の微妙な距離感が描かれています。
 主人公のハイイロオオカミのレゴシ(高校二年生)は、肉座禅(肉の塊をつるした前で、肉食欲に耐える)の影響か、あごの噛む力が衰え、その分四肢の力がパワーアップします。
 学園内での食殺事件が起きてから、肉食獣と草食動物には溝ができてしまっていますが、それぞれの動物がその溝を乗りこえる努力を始めています。
 うがった読み方をすれば、荒廃してしまった学園を、生徒たち自身が、大人たちの力を借りずに(パンダの精神科医のゴウヒンを除いて)自分の力で立て直そうとしているとも読めます。
 そうしたストーリー構成は、かつての現代児童文学(1980年代の後藤竜二や長崎夏海の作品など)を思い起こさせて興味深いです。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS7」

2019-06-22 14:45:38 | コミックス
 この巻では、肉食獣と草食動物が、互いに分かりあえるための様々な試みが行われます。
 主人公のハイイロオオカミのレゴシ(高校二年生)は、肉の塊の前で座禅のようなことまでやって修業しますが、なかなかうまくいきません。
 これらは、たんに男女関係だけではなく、さらには強者(肉食獣)と弱者(草食動物)との関係だけでもなく、様々な多様性(ここでは動物の形を借りてデフォルメされていますが、人間社会でもまったく同様です)を持った存在がお互いを尊重して生きていくすべを考えさせてくれます。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS7」

2019-06-21 20:54:37 | コミックス
 この巻では、主役のハイイロオオカミのレゴシ(高校二年生)の活躍の場は、学園を出てこの世界全体の矛盾(肉食獣と草食動物の共棲)へ向かいます。
 一方、学園の演劇部では、看板役者のルイ(高校三年生)が去って、美少年のドールビッグホーンのピノ(高校一年生)が入部して、人間関係が複雑化します。
 はたして、レゴシは「肉食獣と草食動物の共棲」という矛盾をはらんだ壮大なテーマにどのように立ち向かうのかが、今後のストーリーの中心になるでしょう。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS6」

2019-06-20 17:47:43 | コミックス
 この巻では、主人公のハイイロオオカミのレゴシ(高校二年生)をめぐる二人の女性のキャラが明らかになってきます。
 新城カズマ「ライトノベル「超」入門」(その記事を参照してください)によると、男性向けライトノベルには次のような主要キャラ類型があるそうです。
 メガネっ娘、妹、委員長、巨乳、貧乳、戦闘美少女、人造少女、ポニーテール、ツインテール、メイド、猫耳、ツンデレ、年上のおねーさん、エルフ、ロリ、ゴスロリ、どじっ子、ショートカット、お嬢さま、ボク女、オレ女、片目っ娘、車椅子娘、ショタコン、電波系。
 この作品のドワーフウサギのハル(高校三年生)には、年上のおねーさん、ロリ、貧乳、ツインテール、猫耳(ウサギ耳ですが)などのキャラが付与されていて、さらにビッチという最近はやりの強烈なキャラも用意されています。
 レゴシと同じハイイロオオカミのジュノ(高校一年生)には、妹、委員長、戦闘美少女などのキャラが用意されていて、さらに美人でスタイル抜群です。
 読者(圧倒的に男性が多いでしょう)は、彼女たち二人の中に自分の萌えるキャラを発見できる確率が高いので、女性関係にうぶなレゴシを通して、彼女たちと疑似恋愛をできるのもこの作品の魅力の一つでしょう。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS5」

2019-06-13 09:47:20 | コミックス
 この巻からは、主人公のハイイロオオカミのレゴシ(高校二年生)を中心に、恋愛関係をメインにした学園物から、突然バイオレンス物に変貌します。
 レゴシが初めて好きになった年上の女の子(高校三年生のドワーフウサギのハル)が、裏市を仕切っている暴力団のシシ組に誘拐されたからです。
 ハルは、シシ組のボスのライオンの生餌にされてしまうのです。
 レゴシは単身(途中からは、レゴシを自分の患者(肉食獣なのに、草食動物に禁断の恋をしているのを病気だとみています)とみなしている、裏市の精神科医の中年パンダのゴウヒンが助っ人に現れます)シシ組にのりこみ、食べられる寸前だった(脳内で遺書も書きました)ハルを救出します。
 性的にきわどいシーンもありますし、かなり残酷だったりグロテスクだったりするシーンもけっこうあります。
 掲載誌が少年誌(週刊少年チャンピオン)なので、読者の保護者や教育関係者に対して大丈夫かなあと思ったりもしますが、性や暴力に対して漂白されて女性化している現在の男の子向けのコミックス(児童文学はさらに女性化していますが)の中では異彩を放っているのは間違いなく、講談社漫画賞やマンガ大賞を受賞していることを考えると業界でも評価されているのでしょう。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS3」

2019-06-08 09:22:39 | コミックス
 この巻で、初めて学園の外の世界が描かれています。
 こうした動物ファンタジーの世界では、作品の舞台(この作品の場合は、寄宿制の学校(中学と高校?))と外部の世界の関係や描き分けが難しく、下手をすると作品世界のリアリティを失なわせたり、色褪せさせてしまったりする場合があります。
 BEASTARS1の記事において引き合いに出した動物ファンタジーの古典、ケネス・グレアムの「楽しい川辺」においても、作品世界である川辺とそれを取り巻いている外界(人間社会や森社会)との間で、幾つかの矛盾(主人公たち(川ネズミ、モグラ、アナグマ、ヒキガエルなど)と人間の関係、主人公たちと他の動物(森世界に住む動物たちや人間に飼われている家畜)の関係)があります。
 この問題は、矛盾を解決しようとすればするほど、作品世界を(合理的に説明しようとして)陳腐化させる恐れがあります。
 むしろ、矛盾は矛盾として開き直って、作品世界の魅力を最大化にして、多少の矛盾は気にならないようにする方が成功することが多いようです(「楽しい川辺」はこの方法を取っています)。
 この作品の外部世界では、肉食動物が禁じられている肉食を裏市ですることによって、肉食動物の野性をかろうじて抑えて、草食動物との共棲を実現させていることが示唆されています。
 また、これらの行為が「大人になること」と関連付けて描かれていることを考えると、人間社会に置き換えると、ドラッグや、違法な性風俗産業やギャンブルの存在に似ているかもしれません。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悪童日記

2019-06-07 08:28:55 | 映画
 アゴタ・クリストフの有名な児童文学作品を完全映画化したとの触れ込みに惹かれて見ました。
 確かに原作に忠実に作られているのですが、全体的にあらすじを追っている感じがして物足りませんでした。
 これは有名な文学作品を映画化するときにはいつも感じるのですが、通常の映画は尺が決まっているので(1時間40分前後でしょうか)、原作に忠実に作ろうとすればするほど、どうしても駆け足になってしまうのです(ただし、指輪物語やハリー・ポッターのようなお金をかけた大作は、その限りではありません)。
 また、原作は時代も場所も不明なのですが、この映画では1944年のハンガリーに設定しているので、どうしてもナチスドイツやホロコーストの話になってしまい、原作の持つ普遍性が失われてしまっています。
 もし、私がこの映画を作るとするならば、原作同様に時代や場所を不明にするか、作者自身が体験したと言われるハンガリー動乱(1956年)を舞台に設定するでしょう。
 その方が、現代の観客にはよりアピールできますし、作者の意図にも忠実だと思われます。

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)
クリエーター情報なし
早川書房
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

板垣巴留「BEASTARS2」

2019-06-05 18:28:05 | コミックス
 いよいよ主人公のハイイロオオカミのレゴシが、誤解からビッチなドワーフうさぎのハルに誘惑されますが、レゴシが不器用ながら紳士的にふるまったので、ハルだけでなく読者も、レゴシにさらに好感を持つことでしょう。
 特に、レゴシが高校二年で、ハルが高校三年に設定されているところが、絶妙です。
 性的な体験だけでなく精神年齢もハルの方がかなり高く設定されているので、多くの男の子の読者(最近は男性が性的体験をする年齢がかなり高くなっているので、未体験者が圧倒的に多いと思います)には、ハルはちょっと怖いけれど魅力的な存在なのかもしれません。
 その他の登場人物も、レゴシの属する演劇部の看板役者で学園のヒーローの異様にプライドの高いアカシカのハルや、レゴシとは対照的に大型肉食獣であることをむき出しにしているベンガルトラのビルなど、派手なキャラの登場人物がからみあってくるので、内省的なレゴシのキャラがうまく際立っています。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする