現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

ジェームス・サーバー「たくさんのお月さま」

2024-04-16 15:50:16 | 作品論

 ヨーロッパのどこかと思われる小さな王国の、10歳のおひめさまのお話です。
 ある時、おひめさまは木いちごのパイを食べ過ぎて(この作品が書かれたのは70年以上も前ですから、かなりおしゃれですね)病気になってしまいます。
 おひめさまに甘い王さまが何でも欲しい物をあげようとお姫様に尋ねると、「お月さまがほしい」と難題を出されます。
 王さまは、賢いと思われている家来の侍従長と魔法つかいと数学者に、お月さまを取ってくるように命じますが、彼らは、いかにも賢そうに過去の実績を並べるだけで、ちっとも役に立ちません。
 困った王さまのために、道化師が直接おひめさまに「お月さまとは何か」を尋ねると、おひめさまは子どもらしい発想の「お月さま」(金でできたおひめさまの親指のつめより小さい丸い物)を教えてくれたので、金細工師に作らせて金の鎖をつけると、おひめさまは大喜びで「お月さま」を首にかけて病気もたちまち治ってしまいます。
 しかし、新たな問題が発生します。
 その夜も、お月さまが空に出てきたからです(当たり前ですけど)。
 自分が手に入れたお月さまが偽物だと気づいて、また病気になってしまうのではと心配した王さまは、今度も侍従長と魔法つかいと数学者に相談しますが、彼らからは一見賢そうで常識的な、実は陳腐なアイデアしかでてきません。
 困った王さまのために、道化師がまたおひめさまへ直接、「どうしてまた別の月が出てきたのか」を尋ねに行きます。
 その時のおひめさまの答えは?
 ここが作品の一番の魅力ですし、短いお話ですので、そこから先は図書館で本を借りて原文でお楽しみください(ヒントは本のタイトルです)。
 私の持っている本は、今江祥智の洒脱な文章と宇野安喜良のヨーロッパの雰囲気をたたえたイラストがたくさんついた小さな絵本です。
 この作品ほど、「子どもの論理」の「大人の常識」に対する勝利を鮮やかに描いた作品を、私は他に知りません。
 そして、常に「子どもの側」にたって、「子どもの論理」に基づいて創作するのが、真の児童文学者だと、今でも固く信じています。


たくさんのお月さま (1976年)
クリエーター情報なし
サンリオ出版




 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする