現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

津村記久子「ウェストウィング」

2017-11-30 10:36:59 | 参考文献
 駅のターミナルの反対側の不便な場所にある、古い大きな商業ビルが舞台です。
 ネゴロは三十代前半の長身の独身女性(津村の分身か?)で、あまり景気の良くない小さな会社の支所に勤めています。
 フカボリは二十代後半の独身男性で、やはり不景気で給料がカットされてしまう建築関係の計測会社の支社に勤めています。
 ヒロシは小学六年生で、ビルの中にある塾に通っていますが、コインロッカー屋でアルバイトもしています。
 この全く関係のない三人が、ビルの四階にある物置き場で、別々に息抜きをしています。
 ひょんな事で、三人はお互いに正体を知らないまま、手紙や物をやりとりにします。
 一読して、「これは作者の今までの「仕事小説(あるいは学生小説)」の集大成なんだな」という気がしました。
「ワーカーズ・ダイジェスト(その記事を参照してください)」での複数主人公がすれ違うように生きる姿の書き方。
「まとまな家の子はいない(その記事を参照してください)」での現代の子どもたちの生きづらさ。
「とにかくうちに帰ります(その記事を参照してください)」での、大雨による帰宅困難シーン。
 そういったすべての要素が、この作品には詰め込められています。
 三人が感染症にかかって入院したり、ビルが解体されそうになるなどのピンチが、最後は一応回避されてひと段落という感じですが、今までの作品に比べると、仕事などへの将来の展望の暗さは一段と増したように思えます。
 それに代わって、人との結びつきの重要さが強調されています。
 ネゴロは、ビルで働いているいろいろな同性の人たちの存在が救いになっています。
 フカボリは、ひょんなことからビルで知り合った女性と再会できます。
 ヒロシは、勉強に向いていない(その一方で物語作りや手仕事(スケッチや消しゴムハンコなど)には才能を示しています)ので塾へ行きたくないことを、ようやく母親に打ち明けられます。
 こういったラストでは、今までの作品よりも、仕事や勉強に対する作者の否定的な見方が強くなっています。
 これは、作者が会社を退職して、作家専業になったことが影響しているかもしれません。

ウエストウイング
クリエーター情報なし
朝日新聞出版
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

伊坂幸太郎「FINE」AX所収

2017-11-30 10:33:35 | 参考文献
 凄腕で恐妻家の殺し屋の主人公が第四話で殺された真相を、本人と彼の最愛の息子(殺されてから十年後なので彼自身も結婚して息子がいます)の両方の視点で交互に書いて、追及していきます。
 この作品では、作者の持ち味のユーモアがほとんど消えているので、妙にシリアスであまり楽しめませんでした。
 ただし、主人公とほとんど同じ境遇(息子がいて(ただし二人)、孫も男の子)なので、代々受け継がれていく父親の息子に対する想いはよく書けていて身につまされました。

AX アックス
クリエーター情報なし
KADOKAWA
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

11月29日(水)のつぶやき

2017-11-30 06:59:53 | ツイッター
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

本谷有希子「パプリカ次郎」嵐のピクニック所収

2017-11-29 08:47:11 | 参考文献
 露天商の少年と、定期的に台風や雷のように現れ露店を破壊していく暴徒たちとの接触を、シュールなタッチで描いた掌編です。
 なんとなく作者の意図する比喩も想像できるのですが、描き方に迫力がないので印象に残りません。
 児童文学の世界(特に絵本)では、スズキコージの「サルビルサ」(その記事を参照してください)のように、はるかにシュールで、はるかに迫力のある作品がたくさんあります。

嵐のピクニック
クリエーター情報なし
講談社
  
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

グレムリン

2017-11-29 08:46:13 | 映画
 1984年公開の子ども向けホラー映画です。
 これもまた、そのころたくさん作られていたスピルバーグ印(製作総指揮)の映画の一つです。
 当時アイドルだったフィービー・ケイツが出演していたこともあって、日本でもヒットしました。
 中国由来(?)のモグワイというかわいい不思議な動物(光が嫌いで(日光を浴びると溶けてします)、水をかけると増殖し、十二時をすぎてから餌を与えると悪鬼(グレムリン)に変身する)が、大勢のグレムリンに変身して、クリスマスイブの田舎町で大暴れします。
 ストーリー自体はたわいのない物なのですが、CGのない時代に特撮シーンをどう撮影したかには興味が惹かれます。
 作品中で、外国製品批判(おそらく日本製品でしょう)が登場するのが、当時のアメリカの社会的背景を感じさせます。
 古典的な中国人の扱い(神秘性や歴史など)なども、現代だったら変わっていたかもしれません。
 
グレムリン [Blu-ray]
クリエーター情報なし
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

11月28日(火)のつぶやき

2017-11-29 06:53:34 | ツイッター
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

現代における戦争児童文学

2017-11-28 09:54:25 | 考察
 現代において新しい戦争児童文学を書く意味は、よく考えなければならないかもしれません。
 日本では、戦争児童文学は一つのジャンルとして成立するほど多く書かれています。
 その上で、さらに新しい作品を書くのであれば、従来の作品にはない新しい面がなければいけないのではないでしょうか。
 平和な現代の日本に暮らす子どもたちに、戦争が「遠い過去のこと」でも、「どこかの外国のこと」でもなく、ともすれば自分自身も巻き込まれる可能性があることを想起させるような工夫が必要だと思います。
 「戦争は悲しい」、「戦争は悲惨だ」、「戦争は恐ろしい」といった風に、情緒的に反戦を訴えるだけでは、限界があるのではないでしょうか。

戦争児童文学は真実をつたえてきたか―長谷川潮・評論集 (教科書に書かれなかった戦争)
クリエーター情報なし
梨の木舎
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

伊坂幸太郎「EXIT」AX所収

2017-11-28 09:53:00 | 参考文献
 主人公の凄腕の殺し屋が、同等の腕前の同業者と対決します。
 この対決は引き分けに終わるのですが、その後主人公はあっさりと(二行で)別の手段で殺されてしまい、主人公は対決した同業者へ移ります。
 この短編では、作品の一番の魅力である主人公の恐妻家ぶりがぜんぜん生かされていなくて、まったく物足りません。
 息子への愛情(これは同業者も同じです)は他の短編と同様に書かれているのですが、とってつけたようでうまくいかされていません。
 そのため、同業者との対決がメインになっているのですが、こうしたアクションシーンはもっと上手に書ける作家はたくさんいるので、特に魅力はありません。
 他の短編は雑誌に発表されているのに、この作品と次の最終作品だけが書き下ろしになっているようなのですが、それが悪影響(本にするために無理に書かされたかもしれません)しているように思われます。

AX アックス
クリエーター情報なし
KADOKAWA
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

三崎亜記「正義の味方」チェーン・ピープル所収

2017-11-28 09:52:22 | 参考文献
 ウルトラマンを想起させる「正義の味方」が、実はみんなにとって迷惑な存在(「敵」に壊されるのだけならその被害は国が補償するが「正義の味方」との格闘で被害がさらに拡大されてしかも誰も保障してくれない、「敵」は「正義の味方」がいるから日本だけを襲ってくるのではないか、政争に利用されているなど)になっていったことが、「正義の味方」がいた四十年前を懐古する形で語られます。
 明らかにウルトラマンのパロディなのですが、書き方が独特です。
 ほとんどリアルタイムのストーリー展開はなく、過去の事実を淡々と説明する感じです。
 そう、何かの教科書のようです。
 この作品はかなり極端ですが、最近のエンターテインメントでは、描写、アクション、ダイアローグといった従来の小説の文章よりも説明文でストーリーが語られる傾向にあります。
 これは、対象としている読者の読書体験が昔と比べて少なく、文字情報から物語を読み解く力が弱くなっているので、説明文の方が物語を追いやすくなっているためだと思われます。
 このことが悪いと言っているのでなく、かつて物語消費の媒体が「人による語り」から「文字情報」へ変わったように、現代では「文字情報」から「視覚プラス音声情報」へと変化していると言っているのです。
 文学に限ってみても、「詩」から「散文」へ、その「散文」もより意味を限定する(児童文学研究者の宮川健郎の言葉を借りれば)取扱説明書のような誰が読んでも同じように意味が伝わるものへと変化しつつあります。
 極論すれば、文学は限りなく芸術から遠い世界へ向かっていると言えるかもしれません。


チェーン・ピープル
クリエーター情報なし
幻冬舎
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

グーニーズ

2017-11-28 09:51:45 | 映画
 1985年に公開された子ども向け冒険映画で、その頃大人気だったシンディー・ローパーが主題歌を歌っていたこともあり、日本でもヒットしました。
 当時夥しい数あったスピルバーグ印(この映画では製作総指揮)の映画だったことも人気の原因ですが、演出力は彼が監督した作品には遠く及びません。
 子どもたちの海賊の宝物さがしを、脱獄中の偽札作り犯人グループとの対決や、ゴルフ場開発のために町がなくなる話などに絡めて、いいもの役と悪人役がはっきりしていて、最後にはいい方がすべて勝つという単純明快なハッピーエンドストーリーです。
 見どころは、スピルバーグの「インディー・ジョーンズ」を子ども版にした冒険活劇シーン(CGではないのでそれなりにスリルが味わえます)と、「インディー・ジョーンズ」や「スタンド・バイ・ミー」(この映画より一年後の公開ですが)で活躍した子役たちも含めた少年たちの達者な演技でしょう。
 そう、この映画は「インディ・ジョーンズ」の子ども版であるとともに、「スタンド・バイ・ミー」のエンターテインメント版なのかもしれません。
 そういう意味では、児童文学のエンターテインメントを書こうとしている人にはお勧めできます。

グーニーズ [Blu-ray]
クリエーター情報なし
ワーナー・ホーム・ビデオ
 
 
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

11月25日(土)のつぶやき

2017-11-26 06:58:51 | ツイッター
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

小説的技法と児童文学

2017-11-25 08:47:50 | 考察
 1980年代ごろから、児童文学でも描写を中心にした小説的手法の書き方の作品が出版されるようになりました。
 従来の現代児童文学では、アクションとダイアローグを中心に描かれることが多かったのですが、それに飽き足らない作家たちがこの手法を好んで用い、それに伴い児童文学の読者の高年齢化や一般文学への越境が盛んに行われてきました。
 これらを支えたのは、1980年代から1990年代初めにかけての出版バブルでしょう。
 実に多様な作品が出版されていました。
 しかし、バブルがはじけて出版される児童書が売れ筋を中心に絞り込まれるようになると、こういった描写を中心とした小説的手法の作品は出版されにくくなりました。
 そのため、多くの児童文学作家が一般文学の方へ越境していきました。
 特に、中学年以下の読者を対象とした作品では、小説的手法ではそれを読みこなされる読者は限定されてしまいます。
 そこでは、従来のアクションとダイアローグを中心として物語をすすめる作品が中心になっています。

小説読本
クリエーター情報なし
中央公論新社
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

11月24日(金)のつぶやき

2017-11-25 06:49:52 | ツイッター
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ロマンス

2017-11-24 17:30:11 | 映画
 元AKBの大島優子主演の映画です。
 私は彼女のファンではないのですが、読売新聞の映画評によるとアイドル映画ではなく、共演がくせ者の大倉孝二だったので見てみました。
 全体的な評価は、封切り初日だったせいか出口でやっていた満足度調査に答えたように、70点でした。
 一番の欠点は、この映画がかなり露骨なタイアップ作品(小田急や箱根に対して)であったことで、ロマンスカーや箱根の観光案内風な所が鼻につきました。
 出演者はほとんど大島優子と大倉孝二だけなのですが、二人とも自然な演技をしていて作品世界にすんなり溶け込めました。
 「0.5ミリ(その記事を参照してください)」の安藤サクラについても同じことを書きましたが、大島優子は美人でもスタイルがいいわけでもないのが、前田敦子よりも女優として有利に働いているようです。
 彼女のような普通の容姿の女優の方が、作品にリアリティを与えています。
 この作品のような地味な映画に出続ければ、演技派女優として地位を築ける可能性があります。

ロマンス
クリエーター情報なし
文藝春秋
コメント   トラックバック (1)
この記事をはてなブックマークに追加

トップガン

2017-11-24 17:28:46 | 映画
 1986年に公開されたトム・クルーズの出世作です。
 ストーリー自体は、戦闘機パイロットのエリートたちの世界を描いた、アメリカ万歳的な他愛のない物なのですが、全編にトム・クルーズの若々しい魅力があふれています。
 アメリカ海軍の全面協力(完全に宣伝映画ですから)のもとに、空中戦などでは、実機をフルに生かして、CGではない特撮映像も手作り感満載で、今でも楽しめます。
 また、MTV全盛の時代ですので、全編にアメリカン・ヒットチャートをにぎわせたヒット曲が流れていて懐かしいです。
 それにしても、あれから30年以上たっているのに、以前としてアクション・スターを続けているトム・クルーズは、すごいというべきか、進歩がないというべきか判断に迷います。

トップガン スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
クリエーター情報なし
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
コメント
この記事をはてなブックマークに追加