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7/14(土)日本フィル横浜定期/西本智実が颯爽と登場しラフマニノフ・プロ/小林愛実のピアノ協奏曲第2番と濃厚な交響曲第2番

2018年07月14日 23時30分00秒 | クラシックコンサート
日本フィルハーモニー交響楽団 第339回 横浜定期演奏会

2018年7月14日(土)18:00〜 横浜みなとみらいホール A席 1階 C2列 10番 3,800円(年間会員)
指揮:西本智実[ミュージック・パートナー]
ピアノ:小林愛実*
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:扇谷泰朋
【曲目】
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18*
《アンコール》
 ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調(遺作)*
ラフマニノフ:交響曲 第2番 ホ短調 作品27

 日本フィルハーモニー交響楽団の「第339回 横浜定期演奏会」を聴く。今日は午後2時からのマチネーではすみだトリフォニーホールで新日本フィルハーモニー交響楽団の「ルビー」シリーズを聴き、その脚で横浜まで移動してきてソワレで日本フィルという、オーケストラのダブルヘッダー。しかも非常に珍しいことに、2つのコンサートが女性の指揮者であった。
 日本フィルを振るのは、「ミュージック・パートナー」というポジションに就いている西本智実さん。従来から、西本さんは「横浜定期」に年に一度登場している。ご存じのように西本さんは主にロシアで指揮者としてのキャリアを積み、日本には逆輸入されるカタチで人気を得た。早くから映像素材が販売されたり、テレビ出演やCMにも登用されたりと、ある意味でクラシック音楽界では異色の指揮者として知名度が高い。その颯爽とした身のこなしや指揮ぶりは、あたかも宝塚のスターのようなオーラを発していて、女性ファンが非常に多いのだ。その人気は絶大なものがあり、本日の日本フィルの「横浜定期」も完売、会場もほぼ満席という状況であった。

 実は私は西本さんの指揮する日本フィルは聴いたことがなく、本日が初体験である。これまで2010年のラトビア国立交響楽団の来日公演と、2011年のロシア国立交響楽団の来日公演で、西本さんのロシア・スラブ系の音楽を指揮するのを聴いている。また2007年にプラハ国立歌劇場の来日公演で『椿姫』を振ってオペラ・デビューを飾ったのも聴いている。実際に聴いたそれらの演奏はあまりパッとしない感じで、彼女の音楽性を掴みきれなかったというのが本音。そのため、その後は実質的に聴く機会を設けなかったのであった。

 ところが今回は、ピアノのソリストとして小林愛実さんが登場し、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を弾くという。愛実さんも子供の頃からいわゆる天才少女としてマスコミの注目を集めて来た、ある種の有名人であったが、2015年の「第17回 ショパン国際ピアノ・コンクール」で日本人唯一のファイナリストに残り、天才少女だった彼女が20歳になり、若手の本格派として再認識されることになった。私もそれ以来注目していて、2016年2月に東京フィルハーモニー交響楽団と共演してモーツァルトの「ピアノ協奏曲 第23番」を演奏したのを聴いたし、その年の7月にはここ横浜みなとみらいホールでリサイタルを聴いた。翌年2017年には読売日本交響楽団にも客演した際のシューマンの「ピアノ協奏曲」を聴いている。2つの協奏曲はいずれも大物ピアニストの代役として抜擢されたものだっだか、ショパン・コンクールのインパクトはそれほど強かったということなのだろう。

 本日の「横浜定期演奏会」はラフマニノフ・プログラムということで、前半は「ピアノ協奏曲 第2番」、後半は「交響曲 第2番」である。このシリーズでの私の席位置は、左ブロックの2列目ということで、オーケストラの場合は第1ヴァイオリンが強く聞こえ過ぎてしまうのが難点ではあるが、ピアノ協奏曲の際は意外と音量のバランスが良い。横浜みなとみらいホールは非常に響きが良いため残響音が長く、かえって低音がドロドロとこもりがちになるが、ステージが低いために、管楽器はけっこう音が抜けてくる。ピアノからの適度の距離があるため、クリアなサウンドが届き、残響音に取り込まれてとまうことが比較的なかった。そうなると、俄然ピアニストの力量や感性がよく分かることになる。
 さて、小林愛実さん。見た感じもすっかり大人びてきて、素敵なお嬢さんに成長した。演奏の方は、まず遅めのテンポで序奏から弦楽による主題の提示へと移り、ピアノは分散和音で背景を彩る。主旋律がビアノに移ると、ネットリとした抒情性を発揮し、ロマンティックな表現も濃厚なイメージ。第2楽章はやや控え目にロマンティシズムを描き出す。第3楽章は煌びやか。技巧的にも素晴らしいが、音の作り方が上手く、音が輝いている。表現力の方は、若いからもっとアッサリと瑞々しいイメージになるかと想像していたが、意外と情感を露わにして歌わせるタイプの演奏だ。
 西本さんのドライブする日本フィルも元々濃厚なサウンドであるし、追随性も良く、ドラマティックに盛り上げて行く。旋律の曲想に応じてテンポをかなり変化させるが、決めているのは愛実さんの方であろうか。少なくともピアノの方は曲の流れの作り方や、リズム感の良さもあり、音楽がよく歌っている。素晴らしい演奏を繰り広げているのだ。彼女は現在22歳、この年代のピアニストたちと比較しても、その音楽性は大人びているというか、確信に満ちているというか、堂々とした自信が感じられる。それも「ショパン・コンクール」の結果なのかもしれない。

 愛実さんのソロ・アンコールは、ショパンの遺作の「ノクターン 嬰ハ短調」。ネットリとした情感たっぷりに、テンポを自在に操り、旋律をしなやかに歌わせる。思い入れたっぷりの雰囲気は、ちょっとやり過ぎの感がしなくもないが、しかしこの年代のピアニストで、これほど豊かな情感を表現できる人がいるだろうかとも思える。素晴らしい演奏であることは間違いない。

 後半は「交響曲 第2番」。私も大好きな曲のひとつであり、西本さんがどのように料理するか興味津々であった。というのも、日本フィルの定期演奏会で、何度もこの曲の素晴らしい演奏に出会っているからだ。2012年3月の「東京定期」ではアレクサンド・ラザレフさん(首席指揮者:当時)の指揮での名演があり、こちらはCDになって発売されている。さらに2014年5月の「横浜定期」では山田和樹さん(正指揮者)が指揮したのを聴いている。こちらも素晴らしい演奏だった。そして今回は、「ミュージック・バートナー」の地位に就いている西本さんの指揮による演奏だ。日本フィルの指揮者ポストに就いている3人の指揮者で聴けるというのも、この曲が日本フィルにとっても大事なレバートリーだということだろう。
 前述したように、西本さんという指揮者について、これまでは特定のイメージを持てないでいた。ロシアで頭角を現した人なのでロシアものの演奏に引っ張り出されるが、今ひとつピント来なかったのである。ところが、今日の演奏を聴いて、イメージが一新した。最初から実に表情豊かに音楽を歌わせるのである。どちらかといえば、曲全体の造型をガッチリと形作っているようなタイプではなく、刹那的に、その場その時の旋律を目一杯ロマンティックに歌わせて行くといったイメージだ。この曲は随所にラフマニノフならでの甘美な旋律が散りばめられているから、そういう手法の音楽作りだと聴く者を退屈させない。美しい主題だけでなく、ちょっとした経過句などにも丁寧に表情を付けてこれでもかとばかりにロマンティックに歌わせる。先を急がず、たっぷりとした間合いの取り方も良い。とくに第3楽章の美しさといったら。曲が美しいから誰が演奏してもそこそこは美しい音楽になるが、今日の西本さんの演奏は、明らかにスコア以上に感傷的だ。しかも器楽的な美しさではなく、歌曲のような人に息遣いまで感じさせる歌わせ方なのである。そして、全体に音量は抑えめにしているものの全合奏時の爆発力は日本フィルが元々持っているので、ダイナミックレンジも広い演奏になっている。
 全曲を通しても、何だか、ひたすら美しいラフマニノフといった印象だ。そこには、ロシア音楽の持つ無骨さや土臭さは思い切って切り捨てられていて、甘美で、感傷的で、抒情的な側面だけが全面的に押し出されて描かれているようにも思える。だから、ロシア音楽っぽくない、といってしまえばそれまでなのだが、実際に聴いていると、これはこれでありかなと。こういった解釈というか、表現の演奏も良いではないか。感情が前面に押し出されて、ロマンティックに徹した演奏。ある意味で、女性指揮者ならではの視点なのかもしれない。ラザレフさんは日本フィルからロシアの香りを濃厚に引き出し、ヤマカズさんは純音楽的な透明感で描いた。西本さんは感情豊かなロマンティストだということだろう。

 こうして、西本さんの指揮を久し振りに聴いたわけだが、今回こそは積極的に評価したい。見た目の印象や人気先行といった先入観を捨てて聴けば、何と豊かな表現力を持った指揮者であることが分かる。今日はラフマニノフを2曲だけだったとはいえ、この2つの名曲から、とくに「交響曲 第2番」からこれほど濃厚なロマンティシズムを描き出したのは初めての体験である。もちろんそこには日本フィルの演奏能力の高さと古参オーケストラならではの上手さやしたたかさも手伝っているとは思う。「ミュージック・パートナー」として毎年、定期演奏会を振ってきた経験値や実績も功を奏しているに違いない。しかし、西本さんの指揮する姿、とくに左手のしなやかな動きで表情の描き方をオーケストラに伝えているのを見ると、あくまで解釈と表現は西本さん独特のものだと分かる。間違いなく素晴らしい演奏だったと思うのである。ちょっとエラソーに言い方になっていまい申し訳ないが、過去に聴いた2007年〜2011年頃と比べると、かなり成長して上手くなったのだと思う。今や人気先行ではなく、実力で評価すべき時が来ていると思うのである。

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1 コメント

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小林愛実 (奥町)
2020-06-07 17:34:21
ショパンコンクールファイナル前に「自分は100%」と自信満々で挑むも入賞止まり(笑)、他のファイナリストがきちんとした服装で表彰式に臨んだのに、小林は普段着のジャンパースカートで不貞腐れてましたよね。佐渡裕氏に思いっきりタメグチで逆らい佐渡氏を「彼女は何も分かっていないようだ」と呆れさせたのもこの人。謙虚さの欠片もない人は大っ嫌いです。

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