Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/31(土)野平一郎作曲「悲歌集」男女の悲しい恋愛を綴った現代歌曲の傑作/11年の時を経て初演メンバーが集結・再演が実現

2018年03月31日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
開館5周年記念事業 FOCUSこがねい
演劇的組歌曲「悲歌集」


2018年3月31日(土)15:00〜 小金井 宮地楽器ホール・大ホール S席 1階 1列 13番 4,500円
メゾ・ソプラノ:林美智子
テノール:望月哲也
フルート:佐久間由美子
ギター:福田進一
【曲目】
ポンセ:「我が心君へ」「エストレリータ」(福田)
シューベルト:歌曲集『冬の旅』より「菩提樹」「春の夢」(望月/福田)
ピアソラ:「オブリヴィオン」「チェ・タンゴ・チェ」(林/福田)
野平多美編:『3つの日本の歌』より「荒城の月」(佐久間/福田)
野平一郎編:『3つの日本の歌』より「城ヶ島の雨」「ふるさと」(佐久間/福田)
武満 徹:「エア フルートのための」(佐久間)
野平一郎作曲/林望作詩:演劇的組歌曲『悲歌集』(林/望月/佐久間/福田)
      第1曲 男「悲しいぞ」
      第2曲 女「得失」
      第3曲 二重唱「豪雨と雷鳴」
      第4曲 男「八年の痛み」
      第5曲 二重唱「海風」
      第6曲 女「想うことはいつも」
      第7曲 二重唱「永劫の・・・」

 今日は年度末の3月31日。月半ばより例年になく暖かい日が続き、東京の桜もすでに満開を過ぎて散り始めている。ちょうど3年前の2015年3月31日に、JR総武線の千駄ヶ谷駅前にあったクラシック音楽専用ホールの「津田ホール」が諸般の事情により閉館となった。本日はその津田ホールゆかりの作品の演奏会である。

 12年前の2006年2月14日、津田ホール初の委嘱作品として、野平一郎作曲、林 望作詞による演劇的組歌曲『悲歌集』が初演された。作品はギターの福田進一さんの演奏を中心に据え、メゾ・ソプラノの林 美智子さんとテノールの望月哲也さんの歌唱、それに佐久間由美子さんのフルートが加わるという編成で、7曲の歌曲からなる。
 林 望さんの歌詞は、男女間の悲しい恋愛事情を物語性のある生々しい言葉で綴ったもので、野平さんの音楽はもちろん現代的な鋭さと不条理性で、複雑な情感を詩情豊かに描き出している。当時は若手で売り出し中であった林 美智子さんと望月哲也さんが現代曲の難しい歌曲を瑞々しく歌い上げていた。
 こうして『悲歌集』は作品としても、演奏としても高い評価を得たのである。そして、翌2007年5月30日、津田ホールで再演された。私はその演奏会を聴きに行った。難解な音楽だとは感じたものの、その研ぎ澄まされたような音楽世界に強い感銘を受けたことも確かだった。その日の再演のコンサートの模様がNHK-FMで後日放送されたので、私はそれを録音して、CDに編集して長らく保管していたはずであった。今回、小金井に場所を変えて『悲歌集』の演奏会が行われることを知り、いつもの通りに最前列のチケットを取った。自作した『非歌集』のCDは、他のCDの山の中に埋もれてしまっていて見つからなかったが、パソコンの中に録音の音源が残っていたため、最新のオーディオ・ソフトで編集し直して、再度CDに焼き、パッケージも古いデータを再構築して自作した。つまりデジタル・リマスター盤というわけである(?)。従って、今回は曲をよく知った上での鑑賞ということになった。

 会場となった「小金井 宮地楽器ホール」には初めて訪れた。開館5周年というから、あまり知られていないのかもしれない。東京都小金井市のいわゆる公的な「市民交流センター」であるが、ネーミング・ライツ導入により「小金井 宮地楽器ホール」の名称となっている。JR中央線の武蔵小金井駅の南口の駅前にあり、ガラス張りの現代的な建物の中に、音楽用の大ホール、小ホール、美術展示用の市民ギャラリー、練習室、茶道・華道などに使える和室、講演会なども行えるマルチパーパススペースなどを備えた多目的の文化施設である。
 大ホールは2階構造を持った579席。実質的には小〜中ホールの規模だが、ステージは広く、オーケストラも乗せられるくらいで、可動式の反響板も設置されている。音響もなかなか良い感じであった。本日の演奏会は、最大4名による室内楽であるし、演奏の中心が音量の小さいギターなので、会場としてはちょっと大きすぎるかな、というところだ。

 ポンセの「我が心君へ」と「エストレリータ」の2曲を福田さんがギターのソロで演奏された後、マイクを取って簡単な趣旨説明があった。彼が語るには、「本日はアンコールから始めました」と。メイン・プログラムである後半の『悲歌集』は50分間にも及ぶ大曲なので、その後でアンコールは無理、だから前半に小品を集めたというわけだ。前半は4名の演奏家(日本を代表するトップクラスの4名)がそれぞれの持ち味を十分に発揮していた。
 福田さんのロマンティックなギターのソロに続いて、望月さんによるシューベルトの歌曲「菩提樹」と「春の夢」。ノーブルで透明感の或ある望月さんのテノールは、ドイツ歌曲の抑制的な表現にもよく合っている。伴奏が福田さんのギターというのも、珍しくもあり、また落ち着いた音楽世界を創り出している(今日はピアノがなく、すべて福田さんのギターが伴奏をする)。そういえば1週間後の4月7日には、Hakuju Hallで望月さんの「美しき水車小屋の娘」の演奏会があるが、その日の伴奏もギターの朴 葵姫さんである。
 続いては林さんがピアソラの「オブリヴィオン(忘却)」と「チェ・タンゴ・チェ」を歌った。アルゼンチン・タンゴとクラシック音楽を融合させた傑作である。日常会話に近いメゾ・ソプラノの声域で、人間味が強く、体温を感じさせる歌唱であった。
 前半の音楽は世界を駆け巡る。メキシコ(ポンセ)、ドイツ(シューベルト)、アルゼンチン(ピアソラ)、そして日本。野平多美さんの編曲によるフルートとギターのための「荒城の月」は、タンゴ風のリズムが面白い。続いて野平一郎さんの編曲による「城ヶ島の雨」はブルース風、「ふるさと」はお馴染みの旋律が妙な方向に転調していく不思議な作品だ。佐久間さんのフルートは落ち着きがある感じの柔らかな音色が自然でとても美しい。
 最後は佐久間さんのフルートのソロで、武満 徹の「エア フルートのための」。武満さんの遺作である。自然の空気感を見事に描き出した作品に、佐久間さんのフルートが優しい風のように聞こえた。

 後半はいよいよ『悲歌集』である。「演劇的組歌曲」とあるように、この作品が描くのは物語性のある世界で、朗読劇のような歌詞の歌曲が7曲まとめられている。テノールの独唱曲とメゾ・ソプラノの独唱曲が2曲ずつと、二重唱の曲が3曲。全曲ともギターの伴奏(伴奏と言うにはかなり存在感がある現代音楽調だが)で、フルートが加わる曲もある。組歌曲なのでそれぞれは独立しているが、それどれの間をギターのソロやフルートを交えた間奏曲でつなぐカタチになっていて、全曲が連続して演奏される。
 第1曲は望月さんの歌唱で「悲しいぞ」。別れた女への断ち切れない心情を歌う。望月さんの歌唱は、熱い心情が込められて歌われるが、あくまでノーブルで、声質も透明感がある。じっくりと歌う歌曲だけに、オペラの舞台とは違って、その心情表現には細やかなニュアンスが込められている。
 フルートとギターによる間奏曲を挟んで第2曲は林さんの歌唱で「得失」。別れた女側の心情が歌われる。そこでは恋は罪だという。林さんの歌唱はこれまで随分たくさん聴いて来たが、本当の意味での現代ものはこの曲くらいかもしれない。無調のようで、音がどこに飛んでいくか予測できないような旋律が無常感・喪失感をうまく表現している。人の会話に近い音域のメゾ・ソプラノの温かみのある声が、かえって嘆きの心情を浮き彫りにしていく。
 ギターによる間奏曲を経て、第3曲は二重唱「豪雨と雷鳴」。神経を逆撫でするようなフルートに乗せて、物語の情景を語るト書きの歌詞が歌われる。時系列的に少し遡って、豪雨が降り雷鳴が轟く夜、車を走らせていた2人だったが、女の家に着くと別れの時が来る。男と女がそれぞれの未練の残る心情を歌う。二重唱というよりは、ここではオペラの1場面のようにリアルな音楽表現となっていて、演奏を聴いていると情景が目に浮かぶようであった。
 フルート独奏による間奏曲を経て、第4曲は望月さんの歌唱による「八年の痛み」。8年間も続いた男と女の関係、その肉欲の日々を思い出し嘆き苦しむ。望月さんの心情表現には鬼気迫るものがあり、オペラ界の第一人者たる力量を見せる。
 フルート独奏による短い序奏に続き、第5曲は二重唱「海風」。この曲にはギターの伴奏がなく、テノールとメゾ・ソプラノとフルートの三重奏のようなカタチになり、「失われた恋」に思いを残す2人の心情が海辺の風景に置き換えられて語られていく。
 今度はギター独奏による長めの間奏曲が入り、続く第6曲は林さんの歌唱による「想うことはいつも」。ここでガラリと雰囲気が変わる。林望さんの解説文によれば「この曲は歌謡曲である」とのこと。調性音楽になり、ジャズ風のギターが付く。もちろん野平さんの音楽であるから、歌謡曲といえるほど単純ではないが・・・・。女が遠い空の下にいるであろう別れた男をカラリと歌う。
 最後となる第7曲は、二重唱「永劫の・・・」。フルートを交えて4名による演奏である。男と女の忘れられない相手への想いは、無理矢理忘れようとする永劫の嘘に置き換えられていく。最後は言葉を持たないフルートが張り裂けそうな心の叫びを訴えかける。

 『悲歌集』は50分近い大曲ではあるが、たった4名で演奏されたとは思えない程の、重さがあった。この曲が「歌劇的」組歌曲であったら、もっと物語的になり、特定のキャラクタを持つ人物の特定のお話になってしまうような気がする。「演劇的」組歌曲であることで、どこにでもいるような「男」と「女」による抽象的・観念的な世界観が生まれ、かえってリアルな悲恋の心情を描くのに成功している。もちろん、林望さんの作詞だけでなく、野平さんの音楽も素晴らしい効果を発揮した。とにかく緊張感の高い音楽であり、決して分かりにくい現代音楽という訳でもない。調性が曖昧で先の展開が読めないことが聴く者を惹き付け、この独特の世界観に呼び込まれてしまう。福田さんのギターも、この長い曲をほぼ一手に引き受け、無常感に包まれた世界を見事な演奏で創り出していた。素晴らしい再演だったと想う。
 ただ苦言を一言。この静かな音楽を演奏している最中、大きな咳やクシャミなどがかなり頻繁に聞こえた。目の前で聴いているギターの音よりもかなり大きな咳が後方の席から聞こえて来るのだ。それも後半から終盤に向けて段々多くなってきた。誰かがするから自分も、と段々無遠慮になってくる。聴く方の集中が途切れてしまったように思えた。これでは音楽を聴きに来ているのか、演奏の邪魔をしに来ているのか分からない。花粉症の季節柄、仕方のないことかもしれないが、もう少し「我慢」することはできないものだろうか。

 終演後には、出演者の4名に野平さんと林望さんも加わってサイン会が開かれた。私は2007年の録音から作成したCDを林美智子さんと望月さんにプレゼントし、ジャケットのウラ面に6名の方々のサインをいただいた。作詞家、作曲家、演奏者の全員が揃ったものになったので、大変嬉しかった。永久保存版として今度こそキチンと保管しておこう。
 最後に皆さんで記念撮影ということになった。左から、望月哲也さん(テノール)、林 望さん(作詞)、福田進一さん(ギター)、野平一郎さん(作曲)、林美智子さん(メゾ・ソプラノ)、佐久間由美子さん(フルート)。一番右は、『悲歌集』の生みの親で、元津田ホールプロデューサーの楠瀬寿賀子さんである。


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3/24(土)ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会/堀米ゆず子を中心に新旧の名手が集まりモダン楽器による華やかな演奏

2018年03月24日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 全曲演奏会

2018年3月24日(土)14:00〜 ヤマハホール 1階 A列 10番 8,000円
ソロ・ヴァイオリン:堀米ゆず子
オーボエ:古部賢一
ヴァイオリン:米元響子/青木尚佳/大江 馨/黒川 侑/山口裕之/北岡 彩
ヴィオラ:篠﨑友美/柳瀬省太/瀧本麻衣子
チェロ:安田謙一郎/長明康郎/湯原拓哉
コントラバス:池松 宏
オーボエ:古山真里江/石井智章
フルート:高木綾子
リコーダー:水内謙一/宇治川朝政
ホルン:日橋辰朗/藤田麻理絵
トランペット:高橋 敦
チェンバロ:曽根麻矢子
【曲目】
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV1046
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV1050
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調 BWV1051
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調 BWV1049
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV1047

 東京・銀座にあるヤマハホールで、J.S.バッハの「ブランデンブルク協奏曲 全曲演奏会」が開催された。ヴァイオリニストの堀米ゆず子さんが中心となって集められたメンバーは、上記の通り豪華そのもの。ソリストとして活躍している人、オーケストラの首席奏者、音楽コンクールの優勝経験のある若手など各楽器の第一人者ばかり、いずれ劣らぬ名手揃いである。

 「ブランデンブルク協奏曲」は第3番をかなり昔に演奏したことがあって、かなり難しくて苦労したことがトラウマになってしまったのか、その後ほとんど聴く機会を持たなかった。合奏協奏曲という形式が古いせいか、オーケストラの定期シリーズなどではほとんど聴く機会がない。また。「合奏」曲であるため、室内楽では人数が足らないし、オーケストラでは多すぎるなど、演奏の規模の問題もあるのだろう。さらに私の場合は、バロック音楽は積極的には聴かないので、自然に遠ざかっていたのであろう。
 それでは今回なぜ聴くことになったのかといえば、ヴァイオリンの青木尚佳さんが参加しているから。ただそれだけの理由といってしまったら、他の錚々たる演奏家の方々に失礼になってしまいそうだが、まあ、知り合いが出演しているから、という理由もありだろう。実際、それぞれの関係者やファンらしき方たちも大勢見受けられた。わずか333席のヤマハホールであったため、当然のごとく完売となり、聴きに来られなかった人も多かったと聞く。私は発売日にちゃんと手配したので、友人のKさんといつもの通りに最前列のセンターで聴くことができたが、他には知り合いの顔は見られなかった。

 さて、バロック音楽を比較的苦手としている私にとっては、つまり普段あまり聴かないから、どの曲も似たり寄ったりで、なかなか区別もつかないのが実情だ。「G線上のアリア」などのように有名な曲は極端に有名だが、とにかく曲が山のようにあるバッハはみんな同じように聞こえるのが素人の悲しさというものだ。
 昔演奏したことがあるから、第3番についてはもちろん知っているが、その他の曲はよく知らない。実際に聴いてみれば、どこかで聴いたことがあるなァ、というレベルなのである。
 ところが、今回は珍しい「全曲演奏会」。全6曲の全楽章である。こうして全部通して聴いてみると、それぞれの曲によって楽器の編成も違うし、協奏曲としての形態も違う。もちろん曲相も違う。かえってそのことが明瞭になり、それぞれの曲に際立つ個性があることも知った。ちょっと勉強になった気分である。

 「ブランデンブルク協奏曲」の6曲が、ブランデンブルク辺境伯クリスティアン・ルードヴィヒに献呈されたのは1721年のこと。およそ300年も昔のことである。従ってその時代は、現代とは楽器の種類が違う。ヴァイオリンやチェロ、そしてチェンバロは当時からあったが、その他の楽器は300年間にかなり進化していて当時のモノとは別物になっている。この曲で使用されている楽器には、ヴィオリーノ・ピッコロ(ヴァイオリンで代用)、ヴィオローネ(同コントラバス)、ヴィオラ・ダ・ガンバ(同チェロ)、ヴィオラ・ブラッチョ(同ヴィオラ)、フラウト・トラヴェルソ(同フルート)、コルノ・ダ・カッチャ(同ホルン)などという、現代には消滅してしまっている楽器が含まれているのである。本日は、ピリオド奏法などによる古楽様式の演奏会ではないので、現代の楽器で代用され、普通に演奏された。

 演奏が番号順でなかったのは、曲によって楽器の編成が異なるからである。演奏順に概観すると、「第1番」は、独奏がホルン、ヴァイオリン、オーポエ3、ファゴットで、合奏部はヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、チェンバロ。コントラバスは5弦の楽器を使いチェロのオクターヴ下を弾いていた。
 「第2番」は、独奏のない弦楽の合奏協奏曲で、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが各3部、コントラバス、チェンバロ。第2楽章はチェンバロのカデンツァのみとなる。
 「第5番」は、独奏がフルート、ヴァイオリン、チェンバロ。合奏部はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス。三重協奏曲のような形式である。
 「第6番」は、弦楽の合奏協奏曲で、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス、チェンバロという構成。ヴァイオリンがないアンサンブルはちょっと不思議な、地味な雰囲気になる。
 「第4番」は、独奏がヴァイオリン、リコーダー2の3人。合奏部はヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、チェンバロ。リコーダーは古典派以降はあまり使われなくなるので、バロックらしいピュア・サウンドが雰囲気を盛り上げる。
 「第2番」は、独奏がトランペット、リコーダー、オーボエ、ヴァイオリン。合奏部はヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、チェンバロ。トランペットの高橋 敦さんが使っていたのは小さなポケット・トランペット。高音域がとても華やかであった。

 演奏はいずれも素晴らしかったと思う。バロック音楽のことはよく知らないのであくまで感想というレベルの話になるが、3時間に及ぶ「ブランデンブルク協奏曲全曲演奏会」を聴いてもまったく退屈しなかったのは確かで、自分でも意外であった。各曲には明確な特徴があり、古典派以降とはまた異なる「協奏曲」の概念がよく分かる明快な演奏だった。また、堀米さんをはじめとして、演奏している方々が実に楽しそうで、音も明瑠は華やいでいた。バロック時代の音楽は、形式が明確に定まっていない分だけ自由度が高い。そんな雰囲気が伝わって来る楽しい演奏会であった。

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【お勧めCDのご紹介】
 ブランデンブルク協奏曲とはまったく関係ないので大変恐縮ですが、本日出演していた青木尚佳さんがCDデビューすることになりましたのでご紹介させていただきます。タイトルは「Ein Konzert」。ひとつのコンサート、というわけで、その内容は、2017年10月4日、Hakuju Hallで「スーパー・リクライニング・コンサート」として開催されたヴァイオリン・リサイタルのライブ録音です。共演はピアノの中島由紀さん。収録曲は、モーツァルト/クライスラー編の「ロンド」、クライスラーの「プレリュードとアレグロ」「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」、リヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」、シュトラウス/プシホダ編の「歌劇『ばらの騎士』より“ワルツ”」、クライスラーの「ウィーン風小行進曲」(アンコール)です。実は本日のヤマハホールで先行発売されたので早速購入したのですが、2018年4月4日一般発売ですので、現時点では予約受付中となっています。

Ein Konzert
青木尚佳,中島由紀,モーツァルト,クライスラー,R.シュトラウス
フォンテック


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3/23(金)東京・春・音楽祭/辻彩奈ヴァイオリン・リサイタル/丁寧かつ大胆/力感溢れる表現で常に前向きな発揮度

2018年03月23日 23時30分00秒 | クラシックコンサート
3/23(金)東京・春・音楽祭/辻彩奈ヴァイオリン・リサイタル/丁寧かつ大胆/力感溢れる表現で常に前向きな発揮度

東京・春・音楽祭 〜東京のオペラの森2018〜
ミュージアム・コンサート
辻 彩奈 ヴァイオリン・リサイタル

2018年3月23日(金)19:00〜 国立科学博物館・日本館講堂 自由席 1列 中央やや左寄り 3,600円
ヴァイオリン:辻 彩奈
ピアノ:大須賀恵里
【曲目】
グノー:アヴェ・マリア
J.S.バッハ/ウィルヘルミ編:G線上のアリア
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 作品24「春」
パガニーニ:24の奇想曲 作品1 より
      第21番 イ長調
      第24番 イ短調
エルンスト:シューベルト 『魔王』 の主題による大奇想曲 作品26
クライスラー:愛の悲しみ
       愛の喜び
       美しきロスマリン
       中国の太鼓
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
《アンコール》
 ファリャ:スペイン舞曲
 パラディス:シチリアーノ(Sicilienne)

 東京では毎年、3月から4月にかけて「東京・春・音楽祭 〜東京のオペラの森2018〜」が開催される。大小様々なコンサートが上野地区で開かれ、大きいものは東京文化会館・大ホールで行われるオペラ公演(ただしコンサート形式)から、小さいものは上野公園内に点在する博物館・美術館などで開催されるミュージアム・コンサートなどまである。本日の公演は、国立科学博物館の中にある日本館講堂で開催される、辻 彩奈さんのヴァイオリン・リサイタルだ。
 辻さんとは、およそ1ヶ月前の2018年2月28日に東京芸術劇場で開催された「都民芸術フェスティバル/オーケストラ・シリーズNo.49/新日本フィルハーモニー交響楽団」でシベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏した際に顔見知りとなった。だから特別にというわけではないが、いつものように早めに会場入りして並び、ヴァイオリン・リサイタルを聴くには最良のポジションである(と確信している)最前列のセンターよりやや左寄りの席を確保した。ヴァイオリニストが正面に、ピアニストは鍵盤が見える位置になる。ピアノはもう少し右寄りの方が正面になるため本来の音が聞こえるが、ヴァイオリンとの音量バランスを考えると、やはりセンターよりも左寄りがベストだと思う。

 さて、辻さんはただ今売り出し中の若手バリバリのヴァイオリニスト。2013年の「第82回 日本音楽コンクール・ヴァイオリン部門」で第2位を受賞した際(当時高校1年生)の本選会でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴いたことがあるのと、先日のシベリウスを聴いたほか、室内楽のメンバーに加わっているのを聴いたことがあるくらいで、考えてみるとリサイタルは今回初めてであった。
 上記の曲目を見れば分かるように、今回はヴァイオリンの名曲を集めている。前半はベートーヴェンの「スプリング・ソナタ」をメインに、後半は超絶技巧ものを交えて小品の名曲をズラリと並べた。デビューして間もないニューフェースのプログラムとしては、王道を行くもので、誰でも知っている名曲で技巧面と表現力を伝えることができることになるだろう。2016年には「モントリオール国際音楽コンクール」に優勝するまでに成長した実力のほどは? 興味津々である。ピアノはベテランの大須賀恵里さん。


 グノーの「アヴェ・マリア」はピアノの分散和音に乗せて、辻さんは比較的強い押し出しで大らかに歌わせて行く。バッハの「G線上のアリア」は淡々と刻むピアノに対比させ、ヴァイオリンが抑制的な中にも情感豊かな語り口であった。

 続くベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ 第5番「春」は、本日のリサイタルの中では唯一のソナタ。構成力が見られるのはこの曲だけだ。第1楽章はやや遅めのテンポ感だろうか。辻さんのヴァイオリンはかなりしっかりとしたタッチを持っていて、音の立ち上がりが明瞭で、音にも力感がある。解釈も明瞭で、造型がハッキリしている。ひとつひとつの音がハッキリとしたカタチを持っていて、力強いという印象の演奏である。「春」という標題にとらわれることなく、純音楽的にベートーヴェンに向き合っている感じだ。
 第2楽章の緩徐楽章でも、誰もがこの曲に感じる標題性にとらわれることなく、純粋にスコアが読み出した音楽を創り出しているという印象だ。ひとつひとつの音がくっきり明瞭なこともそうした印象を創り出しているようだ。
 第3楽章のスケルツォは、鋭く弾みキレ味もある。
 第4楽章のロンドは、ピアノが提示する主題を受けて、ヴァイオリンが力強く繰り返していく。経過的なパッセージにも力感がいっぱいで、全体的にも力強く、エネルギッシュだ。ダイナミックレンジも広く、音量もたっぷり出ている。ただしテンポはあまり速くなく、演奏自体は非常に丁寧。そのためか、演奏者の意志がリアルなカタチとなっているように感じられた。緩衝
ロマンティシズムにとらわれず、ベートーヴェンの強い人格の部分を描き出している、そんな雰囲気の演奏であった。
 もしかすると響きの薄いホールで、目の前で聴いていることが影響しているのかもしれない。後方の席ではまた印象が異なるのかもしれなかった。

 後半は、まずパガニーニの「24の奇想曲 作品1 」より「第21番 イ長調」。重音奏法の朗々とした主題の歌わせ方が力感と抒情性を織り交ぜて素晴らしい。速いパッセージの流れるようなスピード感も、エネルギッシュでパワフルだ。続く「第24番 イ短調」のいわゆる「ラ・カンパネラ」は、無伴奏・超絶技巧の代名詞のような曲だ。辻さんのヴァイオリンは、圧倒的に豊かな音量と、発揮度の強さが特徴的だ。技巧的には安定していて淀みなく、むしろその技巧の上に乗せた表現部分の押し出しの強さが持ち味というか、個性だといえる。悪魔的な奏者であったパガニーニ自身も、このような強烈な押し出しの演奏をしたに違いない。

 続いて、エルンストの「シューベルト 『魔王』 の主題による大奇想曲」。エルンストはパガニーニ以上ともいえる超絶技巧の持ち主であったろうことは、残された曲からも推測できる。よくもまあこんな曲を作ったものだと呆れるばかり。しかし最近の若手のヴァイオリニストはこの手の曲に果敢にチャレンジして、またそれをモノにしてしまうから驚きだ。


 ここからは再び大須賀さんのピアノ伴奏が加わり、グッと雰囲気を変えてクライスラーの名曲集となる。クライスラーといえば、小粋で洒脱なウィンナ・ワルツが持ち味だと思うが、辻さんのアプローチはちょっと雰囲気が違っていた。「愛の悲しみ」は感情を前面に押し出し、とくに中間部で訴えかける熱い思いが印象に残る。
 「愛の喜び」は、元気いっぱいで若いエネルギーが満ち溢れている。はち切れんばかりの躍動感は、聴く者をグイグイと引っ張って行くようであった。
 愛の三部作の最後「美しきロスマリン」は、一番感情を抑えている曲だが、辻さんのヴァイオリンはここでも前向きで感情を表に出してくる。音が明瞭な点もそうした印象の元になっているようだ。
 「中国の太鼓」は一転してクライスラーもまた超絶技巧の持ち主だったことを偲ばせる。辻さんのヴァイオリンはどんなに速いパッセージであってもひとつひとつの音がクッキリ明瞭なカタチをもっているから、あまりスピード感を感じさせないが、テンポは速く、彼女もまた超絶技巧の持ち主だということなのだろう。

 プログラムの最後は、サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」。「序奏」はそれまでの曲に比べると陰影の深い演奏に感じたが、「ロンド・カプリチオーソ」に入ると、強い個性が前面に出てくる。鋭いボウイングが生まれる立ち上がりのハッキリした音と、広いダイナミックレンジ、メリハリの効いた表現などが、力強い音楽を創り出している。超絶技巧もそれ自体を押し出しの強い表現に変えてしまう。この押しの強さは相当なモノで、これだけ訴えるチカラが強ければ、聴く者の心にも届くモノが多いはず。

 アンコールは2曲。まずはファリャの「スペイン舞曲」。こちらはスペイン風の「熱い」情感がエネルギッシュに押し寄せてくる。
 最後はパラディスの「シチリアーノ」。今日のリサイタルの中で最も落ち着いた、内面を見つめるような情感を歌い上げる演奏だったかもしれない。

 それにしても、アンコールを含めて今日の選曲は古今東西のバラエティに富んでいる。それだけ、特定の分野に偏らず、幅広いレパートリーに取り組んでいるということなのだろう。
 いずれにしても、辻さんの演奏は発揮度が強い。最近の日本人の若手ヴァイオリニストの中では珍しいタイプかもしれない。作曲家が言いたかったことを演奏家が音に変えて代弁する。その際には一切のためらいはなく、あくまでダイレクトでストレートだ。これは辻さんの若さに起因するのではなく、あくまで個性なのだと思う。国際的なレベルでの評価を得るためには、このような個性を発揮することも重要な要素だ。少なくともソリストとして活動していくためには欠くべからざることだろう。

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【お勧めCDのご紹介】
 辻 彩奈さんがソリストを務めているちょっと珍しいヴァイオリン協奏曲のCDをご紹介します。NAXOSから出ている「シャルル=オーギュスト・ド・ベリオ ヴァイオリン協奏曲集」です。共演は、ミヒャエル・ハラース指揮/チェコ室内管弦楽団パルドビツェ。ベリオ(1802〜1870)はベルギーのヴァイオリニスト・作曲家で、フランス・ベルギー楽派の創始者に位置付けられます。収録されているのは、ヴァイオリン協奏曲の「第4番 ニ短調 作品46」「第6番 イ長調 作品70」「第7番 ト長調 作品76」「エール・ヴァリエ 第4番 作品5『モンタニャール』」「バレエの情景 作品」。いずれも独奏ヴァイオリンとオーケストラのための作品で、パガニーニのヴァイオリン協奏曲にちょっと似ているような感じのロマン派の美しい楽曲です。辻さんのヴァイオリンが明るく伸びやかに歌っています。

シャルル・オーギュスト・ド・ベリオ:ヴァイオリン協奏曲集
NAXOS
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3/23(金)新日本フィル/ルビー/ボッテシーニのコントラバス協奏曲の妙技と上岡敏之の個性的な「悲愴」交響曲

2018年03月23日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
新日本フィルハーモニー交響楽団 ルビー〈アフタヌーン・コンサート・シリーズ〉#13

2018年3月23日(金)14:00〜 すみだトリフォニーホール S席 1階 2列 19番 4,050円
指 揮:上岡敏之
コントラバス:渡邉玲雄*(NJP首席コントラバス奏者)
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔 文洙
【曲目】
レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」 P.106
ボッテシーニ:コントラバス協奏曲 第2番 ロ短調*
《アンコール》
 沖縄民謡:童神(わらびがみ)*
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 作品74「悲愴」

 ボッテシーニのコントラバス協奏曲がオーケストラの定期演奏会で聴ける機会は滅多にないので、新日本フィルハーモニー交響楽団のチケット・マイプラン(3つの定期シリーズの中から任意のチケットを5枚買うと割引等の特典がある)を利用して、今日の「ルビー」シリーズのチケットを取っておいた。

 とはいうものの、最近の新日本フィルの演奏には正直に言って失望することが多く、周囲にも同意見の人が多い。本日は音楽監督の上岡敏之さんが指揮をするので、多少は期待していたのだが・・・・。

 1曲目は、レスピーギの「交響詩『ローマの噴水』」。気持ちとしては、抜けるような青い空と目映い陽光といったような色彩感が欲しい曲である。ところが演奏の方は、全体に「薄い」印象で、オーケストラの音にコクがなく、アンサンブルにも厚みがない。上岡さんが描こうとしている世界観がそのままカタチになっているようにはあまり感じられないのだ。もちろん、16型の弦楽と3管編成の管と打楽器などを合わせれば大編成のオーケストラになるのに、クライマックスでもエネルギーが伝わって来ないのは何故だろうか。

 2曲目はボッテシーニの「コントラバス協奏曲 第2番」。ソリストは新日本フィル首席の渡邉玲雄さん。もとよりコントラバス自体は大きな音量の出る楽器ではないので、オーケストラの編成は室内オケのレベルにまで縮小された。渡邉さんの演奏は、音程は正確で技巧的には良かったと思う。コントラバスとしては高音域が多用されるこの曲で、やはり音質はチェロよりも太くまろやかで、ほのぼのとした温かみがある。しかし、やはり音量が少々足りないように感じられたる。何しろ2列目のセンターで聴いているにそう感じるのだから、後方席や2階席などではちゃんと聞こえたのだろうか。オーケストラ側もそれに合わせてかささやくような感じ。これでは室内楽のようだ。

 後半のメイン曲は、チャイコフスキーの「交響曲 第6番 『悲愴』」。さすがにこの手の名曲になると、どんなオーケストラでも毎年数回は演奏しているのではないだろうか。いかにも演奏死なれている感じがした。前半と違って、オーケストラの各パートの音が生き生きしていて、質感もぐっと良くなった。上岡さんの独特の間合いの取り方や、オーケストラ・ドライブにも比較的柔軟に対応して、旋律がしなやかに歌い、細やかなニュアンスも描き出されている。音量的なメリハリも効いていて、迫ってくるような迫力も感じられたし、上岡さんの描きたい情感もそれなりに出ていたように思う。

 新日本フィルの現状はこんな感じだ。いわゆる「名曲コンサート」としてなら、今日の「悲愴」などはこれで良いのだろうが、プロのオーケストラの定期シリーズのコンサートとしてなら、もう少し「熱」のこめられた演奏を期待したいと思うのは、私だけではないはず・・・・。

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3/21(水・祝)「未来の音ガラ」/北村朋幹・郷古廉・横坂源・エール弦楽四重奏団/重量級プログラムで若手ならではの実力を発揮

2018年03月21日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
めぐろパーシモンホール開館15周年記念
未来の音 ガラ・コンサート

2018年3月21日(水・祝)15:00〜 めぐろパーシモンホール・大ホール 指定席 1階 1列 7番 3,000円
ピアノ:北村朋幹
【曲目】シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 作品6(初版/第1集・第2集)
ヴァイオリン:郷古 廉
ピアノ:加藤洋之
【曲目】ルクー:ヴァイオリン・ソナタ ト長調
チェロ:横坂 源
ピアノ:北村朋幹
【曲目】ラフマニノフ:チェロとピアノのためのソナタ ト短調 作品19
エール弦楽四重奏団
 ヴァイオリン:山根一仁
 ヴァイオリン:毛利文香
 ヴィオラ:田原綾子
 チェロ:上野通明
【曲目】シューベルト:弦楽四重奏曲 第13番 イ短調 D.804 作品29「ロザムンデ」
《アンコール》〜全員で
 リスト/北村朋幹編:ウィーンの夜会 第6番(シューベルトのワルツによるカプリース)S.427

 東京都目黒区にある「めぐろパーシモンホール」が開館15周年を記念するガラ・コンサート。旧都立大学の跡地にできた目黒区民キャンパスの中にあり、柿の木坂に面しているのがパーシモンという名称の由来だ。音楽ホールは大ホールと小ホールがある。2007年より、若手の音楽家たちの「今」を聴く、というコンセプトで「未来の音」というシリーズを小ホールでリサイタル形式で続けている(これまでに26回開催)。本日は、過去の出演者の中から、とくに近年演奏活動を積極的な行っている有力な若手演奏家を招聘し、豪華なメンバーによる大ホールでのガラ・コンサートとなった。全員、何度も聴いている演奏家たちが集まったことになる。
 上記の出演者と曲目を見れば分かるように、「未来の音」シリーズの延長線上で、リサイタル形式の室内楽のコンサートである。したがって、1200席規模の大ホールでの開催は、演奏環境としては若干厳しいようだった。大きな空間に音が広がり、しかも比較的長い残響があるため、ステージから離れた場所では、室内楽的な細やかなニュアンスは聞き取れなかったのではないかと思う。私は1階の1列でも左ブロックの方だったのだが、それでも聞こえ方としてはギリギリセーフというレベルだったと思う。

 1曲目は北村朋幹さんのピアノ・ソロで、シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集 第1集・第2集」。今に至ってもピアノのことはあまりよく分からないのでコメントする立場でもないとは思うが、強いて言うなら、北村さんのピアノは抒情性豊かで表情に富んでいる。同時にとてもフレッシュな印象が強く、長調でも短調でも、鮮やかで瑞々しく、華やかである。また、端っこの方で聴いていて言うべきことではないかもしれないが、ホールの残響が一緒に聞こえて来る感じで、音が混然と濁ってしまうのは、残念でならなかった。

 2曲目は、ヴァイオリンの郷古 廉さんとピアノの加藤洋之によるデュオで、ルクーの「ヴァイオリン・ソナタ ト長調」。郷古さんを聴くのは昨年の「せんくら2017」以来だが、会場の響き方の違いが影響しているのかどうかは分からないが、彼のヴァイオリンはとても豊かに響いて来ていた。以前の印象は、研ぎ澄まされたようなソリッドな音色で、演奏の熱意は十分に伝わって来るものの、緊張感が強くて聴いていてちょっと疲れる感じだった。ところが今日の演奏では、音が丸みを帯びていて、潤いもあり、豊潤な響きを持っている。曲がルクーということもあるが、瑞々しくロマンティックで、前へ向かうような推進力が強く、生命感に溢れた素晴らしい演奏だったと思う。ピアノが共演を繰り返している加藤さんだったことも安心感がプラスの方に作用していたのであろう。

 休憩後の後半は、まず横坂 源さんのチェロと北村朋幹さんのピアノで、ラフマニノフの「チェロとピアノのためのソナタ」。ご存じのように、ピアノのパートがかなり重みを持っている曲であり、その意味でも北村さんのピアノはとても雄弁で良かった。横坂さんのチェロは、元々あまり押し出しが強い方ではないと思うが、逆に端正で非常に気品があり、完成度が高い。今日の演奏もまさにそんな感じで、基本的に明るい音色、大きくはみ出すことはないが、旋律の歌わせ方は上品で、楽曲の美しさをうまく引き出いている。素敵な演奏であったと思う。ただ、私の聴いている位置からだと、左にピアノ、右にチェロという位置関係になってしまい、しかもチェロは右向き。これはいささか条件が悪い。チェロという楽器は腰掛けて演奏するせいか、低音楽器であるせいかは分からないが、意外と指向性が強く、正面方向でないと音があまり飛んで来ない。ピアノの方が反射板はあるものの全方位的に音が飛ぶ。従って、ピアノがチェロを凌駕してしまい、ラフマニノフの豊潤なピアノの和声の中にチェロのロマンティックな旋律が埋もれてしまいがちに聞こえたのが、いかにも残念だった。

 最後は、エール弦楽四重奏団の演奏で、シューベルトの「弦楽四重奏曲 第13番『ロザムンデ』」。第1ヴァイオリンが山根一仁さん、第2ヴァイオリンが毛利文香さん、ヴィオラが田原綾子さん、チェロが上野通明という4名のカルテットは、この世代の演奏家たちの中では抜群の存在感を発揮している。ソリストを目指す4名がカルテットとしても高校生の頃(2011年に結成)から活動を続けているので、アンサンブル能力と個々の発揮度のバランスに優れているのだ。今日の演奏も、若々しくメリハリの効いたアンサンブルでありながら、叙情性も豊かで、憂いを秘めた曲想の部分などでは4名の情感が同じ方向に向けて見事に揃う。主旋律が個々の奏者に回ってきた時にはすーっと前に出てくるし、4名が揃う場面では意志乱れず、抜群の力感を発揮する。楽曲の解釈は、全体的に若くフレッシュなイメージになるのは、彼らの年代ではむしろ当然というべきで、変に老成しているところがなくて良い。有名な第2楽章も、速めのテンポで生き生きとしている中で旋律を大きく歌わせているし、その際のアンサンブルも ピタリと合っていて、お見事である。
 
 アンコールはピアノの加藤さんを除く全員で、リストの「ウィーンの夜会 第6番(シューベルトのワルツによるカプリース)」。北村さんの編曲で、ヴァイオリン3、ヴィオラ1、チェロ2、ピアノという構成での演奏だった。ちょっと影の部分を含んだ華やかな曲だ。さすがにこれだけの力量の演奏家が揃うと、パワフルな7重奏になり、量感も質感もかなりのもの。3時間をはるかに超えるガラ・コンサートを華々しく締めくくった。

 今日は朝から関東地方は大荒れの天気で、春分の日なのにかなり冷え込み、雪になった。鉄道が乱れるほどのレベルではなかったようだが、今日のところは早々に引き上げることにしたので、関係者へのご挨拶は遠慮させていただいた次第である。

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