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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/16(金)日本フィル第638回東京定期/横坂源のエルガー:Vc協奏曲とラザレフのラフマニノフに喝采の嵐

2012年03月18日 00時54分04秒 | クラシックコンサート
日本フィルハーモニー交響楽団 第638回 東京定期演奏会
ラザレフが刻むロシアの魂 Season 1: Rachmaninov 2


2012年3月16日(金)19:00~ サントリホール・大ホール A席 1階 2列 11番 3,984円(会員割引)
指 揮: アレクサンドル・ラザレフ
チェロ: 横坂 源
管弦楽: 日本フィルハーモニー交響楽団
【曲目】~ラザレフが刻むロシアの魂《Season 1 ラフマニノフ》
エルガー: チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
ラフマニノフ: 交響曲 第2番 ホ短調 作品27
《アンコール》
 ラフマニノフ: ヴォカリーズ(管弦楽版)

 ちょっとした事情があって急遽日本フィルハーモニー交響楽団の春期会員になった。日本フィルの年間シーズンは9月~翌年7月で、シーズン後半にあたる春期は3月~7月の5回である。東京定期は、会場がサントリーホールで、金曜夜と土曜午後の2回ずつ公演がある。申し込んだのは先週のことで、今日の3月公演にギリギリ間に合ったが、通常の会員のように固定席だと良い席が空いていなかったため、席はバラバラにしてもらったので毎回変わる。A席設定の1階2列目で、今日は左ブロックになってしまったが、次回からの4回はセンターブロックに席を確保できたので、今のタイミングとしては良しとすべきだろう。
 日本フィルは、正直に言えば、その演奏のレベルにおいてあまり評判は芳しくないし、実際に2週間ほど前に「コバケン・ガラ」で聴いたばかりだが、その後に聴いた東京フィル、東響、読響などと比べても、在京のオーケストラの中でも決してレベルの高い方ではない。なので、あまり多くを期待していたわけでもなく、まあ、楽しめれば良いかな、という程度の気持ちでいたのだが…。

 前半は、エルガーのチェロ協奏曲。ゲスト・ソリストは横坂 源(よこさかげん)さん。横坂さんは1986年生まれの25歳。ジュニアのころから数々のコンクールで実績を重ねてきた天才肌だが、今も少年のような初々しい容貌。しかし音楽は本格派で、円熟ともとれるような華麗な演奏をする人だ。今日は2列目とはいえ左ブロックなので、ソリストが直接見えるギリギリの位置だった。
 横坂さんのチェロは、明瞭でクッキリした造形を感じさせる演奏だ。明るく輝かしい音色からは、チェロにありがちな陰影のようなものが比較的感じられず、若々しい。かといって軽くて奥深さに欠けているという風でもなく、若い奏者らしい生命力が感じられた。
 第1楽章は憂いに満ちた短調にもかかわらず、瑞々しい躍動感があった。第2楽章の冒頭のピチカートには深みがあり、長調に転じてからは色彩的な音色が美しい。第3楽章の感傷的な旋律はことのほか美しく、抒情的であると同時に芯の強さを感じさせる演奏だった。第4楽章は短調に戻るが、明瞭で躍動感溢れる演奏が、この曲を暗く沈ませずに、若々しく快活に仕上げていた。横坂さんの演奏については全く文句のつけようもない素晴らしいものであったと思う。また、アレクサンドル・ラザレフさんのサポートも抜群で、抑え気味にオーケストラをコントロールし、しっかりしたアンサンブルを保っていた。独奏チェロとのバランスも良く、うまくチェロを引き立てていたと思う。
 ただ残念だったのは、チェロという楽器は音の指向性が強いらしく、左ブロックの2列目という席は、ほとんどソリストの真横に近い位置であったため、音の芯が届いてこない。楽器から前方に向かって出て行く音を横から聴いているイメージである。そのため、おそらく横坂さんのチェロの魅力の何割かは感じ取れていなかったのだと思う。急遽取った席だったのでやむを得ないが、次に彼の演奏を聴く時は、正面から聴いてみたいと強く感じた。幸いなことに、2012年4月26日に東京フィルの東京オペラシティ定期で、ハイドンのチェロ協奏曲第1番が演奏されるので、来月には実現しそうである。

 後半はラフマニノフの交響曲第2番。前日に日本フィルから来たメルマガにリハーサルの様子が紹介されていたのだが、それによると「ラザレフのリハーサルで驚かされるのは、短時間でオケの音が変わること。これは誇張ではなくホントの話。「ニェット」(英語のNoの意味)の積み重ねから、これだけポジティブな響を生み出す…」とのこと。本当かなァと半信半疑であったが、曲が始まった途端、ビックリ。確かにこれまで聴いた日本フィルとは音の質が全然違ったのである。
 ラザレフさんが指揮する日本フィルは、2010年9月に東京芸術劇場で、チャイコフスキーのピアノ協奏曲(ピアノはアリス=紗良・オットさん)や交響曲第5番などを聴いて以来である。その時の印象がかなり良くなかったので、この1年半の間にどれくらいの進歩が期待できるのかと考えていたのである。
 第1楽章が始まると、確かにオーケストラの音が全然違う。先ほどのエルガーとも違う。ラフマニノフの哀愁が、感傷が、切なく胸に迫ってくる…。あァ、これがロシアの音楽なんだ、ラフマニノフなんだ、と聴いている方も感傷的になるような音楽、そして演奏。まず第一にアンサンブルが緻密で、構造がガッチリしている。各パートの音色も見違えるように良い。トランペットやホルンがしっかりと抑制されていてオーケストラに溶け込んでいる。木管の爽やかさもロマンティックな旋律をうまく表現している。弦楽のアンサンブルは厚いというか深いというか、音量も豊かで、わずかに濁り気味の音がかえってロシア的なイメージを増幅していた。本当に素晴らしい演奏だ。
 第2楽章はスケルツォで、リズム感良く始まり、中間部の感傷的な旋律は,弦楽が美しいアンサンブルを聴かせた。
 そして第3楽章。クラシック音楽の長い歴史の中でこれほど甘美で感傷的な音楽があるだろうか。そしてそれを、ラザレフさんが日本フィルから、力強さと繊細さを併せ持つ演奏を引き出してくる。弦楽の厚いアンサンブルと豊かな音量に、1フレーズ毎に見事な抑揚を付けて歌わせ、その上に乗る木管楽器の音色はロシアの春の大地を吹きわたるそよ風のような優しさと温もり。そのあまりに美しい演奏に、会場全体が息を飲むような、痺れるような緊張感に包まれていた。
 第4楽章は、長調に転じて壮麗でドラマティックになる。各楽章の主題(動機)が変奏されて登場し、抒情的な部分はより切なく美しく、劇的な部分は雄壮で音量も豊かに、緊張感の高い演奏が続く。ここまでくると、弦楽アンサンブルから濁りがなくなり、極めて透明度の高い音色が、より強く哀愁をそそる。このような感傷と雄壮さの対比がラフマニノフの魅力だ。悩める作曲家の心情が伝わってくる。ラザレフさんがその辺りを見事に描き出して、日本フィルから最高の音と豊かな演奏を引き出していた。フィニッシュに向けての盛り上がり方の見事で、全合奏の爆発的な音量の中でもしっりとバランスが保たれており、聴く側の感情をあおり立てて行く。曲が終わった瞬間にBravo!!の声とともに、会場全体が沸き立った。これはもう、文句なしの素晴らしい演奏!! Braaaavo!!!

 今日は日本フィルの春期シリーズの初日ということで、気合いも入っていただけでなく、アンコールも用意されていた。ラフマニノフのヴォカリーズ。これもまた美しく感傷的な音楽、そして素晴らしい演奏だった。
 今日の演奏がとてつもなく素晴らしいものだったことは確かだ。サントリーホールが割れんばかりの拍手に包まれ、ラザレフさんへの絶賛が続く。そしてカーテンコールの最後、ラザレフさんが下がった後の日本フィルの皆さんにさらに盛大に拍手が送られた。今日聴きに来た私たちは本当に幸せだったと思う。これまでの日本フィルのイメージを一新した、素晴らしいコンサートだった。偶然とはいえ、春期の定期会員になって良かった。名本フィルにも当分の間、目が離せなくなりそうだ。

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