Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/17(金)N響Cプロ定期/諏訪内晶子のシベリウスVn協奏曲とパーヴォ・ヤルヴィのショスタコ10番

2017年02月17日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
NHK交響楽団 第1857回定期公演《Cプログラム 1日目》

2017年2月17日(金)19:00~ NHKホール S席 1階 C1列 20番 7,200円(会員割引)
指 揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン:諏訪内晶子*
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:篠崎史紀
【曲目】
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005 より第3楽章「ラルゴ」*
ショスタコーヴィチ:交響曲 第10番 ホ短調 作品93

 大変珍しいことになるが、NHK交響楽団のCプログラムの定期公演を聴くことになった。AプロとCプロはNHKホールで開催されるので、まず、行くことはない。NHKホールの音響が良くないからというのは理由のひとつになっているが、実は最大の理由は渋谷駅から遠いからである。駅から上り坂を歩いて15〜20分かかる。距離もけっこうあるが、なにより夕刻や休日の午後は道路に人が溢れかえっていて、スイスイとは歩けない。もう行くだけでウンザリなのである。
 そんな状況下に朗報があった。この2月からタクシーの初乗り運賃が1kmちょっとで410円という新しい料金体系に変わったことだ。この機会に早速タクシーを利用してみることを思いついた。渋谷駅をハチ公口を出て、スクランブル交差点を渡ったところでタクシーを拾う(駅前からだと逆方向になってしまうので)。NHK本社ビルの車寄せの方まで回り込んで、NHKホール正面入口の左側の車道に着けてもらって、450円。時間も7〜8分。うまくタクシーが拾えれば、これは安くて楽チンだ。コンサートとは直接関係しないことだが、一応ご報告まで。

 さて何故Cプロを聴きにやって来たのかといえば、それは諏訪内晶子さんがシベリウスのヴァイオリン協奏曲を弾くからだ。とはいえNHKホールだからステージから離れた席をわざわざ取ってまで聴こうとは思わなかったが、友人のSさんが1階1列目センターの席を譲ってくれることになつた。至近距離で聴くのであればナマの直接音を浴びることになるのでホールの音響はあまり気にならなくなる。そういった理由での参戦であった。ところが会場に行ってみたら、本日はステージ拡張がなく、C1列の前にポツンと離れた1列(A席ランクのP5列という名称)が追加されていた。ま、視覚的に邪魔になるわけではないが、ステージとオーケストラの配置がちょっと遠くなってしまったのが残念であった。

 今月のマエストロはN響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィさん。2月はサントリーホールでのBプロがないので、AブロとCプロの4回と、横浜スペシャルの2回、合わせて6公演を指揮する。主な曲目は、Aプロではシベリウスの交響曲第2番、Cプロはシベリウスのヴァイオリン協奏曲とショスタコーヴィチの交響曲第10番、横浜では武満徹の「弦楽のためのレクイエム」とマーラーの交響曲第6番「悲劇的」となっている。
 N響はこの後、2月28日から3月8日までヨーロッパ・ツアーを行う。指揮はもちろんパーヴォさん。そしてそのツアーのプログラムは、マーラーの交響曲第6番「悲劇的」、シベリウスのヴァイオリン協奏曲(ただしヴァイオリンはジャニーヌ・ヤンセンさんに変わる)と交響曲第2番、ショスタコーヴィチの交響曲第10番、武満の「弦楽のためのレクイエム」などで構成されているのである。つまり今月の定期などはヨーロッパ・ツアーの予行演習のようなものなのだ。

 さて、前置きが長くなって・・・・というよりは肝心のコンサートのレピューに関してはあまり書くことがないのである。
 まず前半のシベリウスのヴァイオリン協奏曲だが、ソリストの諏訪内さんの演奏が、やや精彩を欠いているような印象だった。もちろん世界のトップレベルの諏訪内さんのことであるから、普通の演奏家以上のクオリティであることは間違いないが、それでも彼女の協奏曲の演奏は首都圏でのものはほとんど間近の席で聴き続けた者の感じ方としては、演奏に輝きが足りなかったと感じるのである。事実、第1楽章の冒頭部分から、フラジオレットで音が抜けるなどのミスが見られたり、出だしから集中力が漲っていない印象もあった。もっともすぐに立て直され、ぐっと引き締まった演奏になったが、それでもいつもに比べれば、絹のような滑らかな豊かな音色や、突っ込む際のインパクトのある低弦にパッションの漲る感じなどがやや不足気味。ダイナミックレンジも諏訪内さんにしては広くなく、自慢のストラディヴァリウス「ドルフィン」がいつものように鳴っていない。全体的に出力が90%以上上がらないといった印象であった。だから情感が深く描き出されてこないような気がした。誤解のないようにいっておくが、あくまで諏訪内さんの演奏レベルとしては、という意味であって、客観的に見れば、世界のトップレベルの演奏であることは間違いなく、この演奏を凌駕できる人は世界中にそう多くはないはずである。
 一方のパーヴォさんのドライブするN響は、非常にリズミカルでダイナミックレンジの広い演奏。要するにメリハリが効いていて、縦の線をピタリと合わせて立ち上がりのシャープな演奏だ。いかにもパーヴォさんらしい、躍動的な音楽作りである。極寒の空気感と秘めたる熱き血潮という相反する2面性を持つシベリウスのこの曲だが、パーヴォさんのアプローチは熱き血潮の方が勝っている感じで、冷たい空気感がやや薄い印象となった。このことが一層、諏訪内さんのヴァイオリンのちょっとした翳りを際立たせてしまっていたのかもしれない。

 諏訪内さんのソロ・アンコールは、バッハの「ラルゴ」。コチラは速めのテンポを採り、濃厚で極めて抒情的な表現。大人のロマンティシズムといった感じである。

 後半はショスタコーヴィチの交響曲第10番。ショスタコーヴィチはクラシック音楽を愛する人たちの間で人気が高いが、私はあまり思い入れを感じない方である。だから普段からあまり積極的に聴かないし、曲もよく知らないから、演奏についてどうのこうのというと、ショスタコーヴィチ・ファンに人たちや、N響ファンの人たちにもお叱りをいただきそうである。だから・・・・ごく簡単に印象を述べるに留めたい。
 まず演奏自体はかなりハイ・クオリティであると思う。パーヴォさんの特徴だと思うが、演奏全体が非常にリズミカルだ。この交響曲には緩徐楽章がないというのも、その印象を強めているのかもしれない。つまりすべての楽章でリズム系が強烈に押し出される。アンサンブルは縦の線が明確に揃えられ、打楽器類は常に前のめりっぽく叩き出してくるので、リズム系が先へ先へと進む推進力を生み出している。
 同時に強弱が明瞭でダイナミックレンジを広く採っているため、いわゆるメリハリがかなり効いていて、強烈な迫力を生み出す。全合奏の最強音であってもアンサンブルを見ださないところは、N響もパーヴォさんの音楽作りを見事に体現していると思う。もちろん、各パートの演奏技術も音色の美しさも見事であって隙がない。
 こうして演奏を聴いていると、N響のこの後のヨーロッパ・ツアーもおそらくは高い評価を得るだろうと想像される。N響もまた世界のトップレベルのオーケストラであることは間違いないと思う。つまり本日のショスタコーヴィチは素晴らしい出来映えで、ヨーロッパ・ツアーの予行演習としても既に完成度が高い仕上がりになっているようだ。

 今日は珍しく参戦したN響Cプロ定期。お目当てにしていた諏訪内さんは不発気味だったし、メインのショスタコーヴィチには積極的な関心を持てないので、私としてはわざわざ聴きに来て良かった・・・・と思えるコンサートではなかった。N響との相性は相変わらずあまり良くないようだ。しかし、個人的な嗜好を抜きに客観的に捉えるならば、やはり聴き応えのある素晴らしいコンサートであったのだというべきだろう。ハーヴォさんとN響の関係は、実にアクティブな音楽を生み出していると思う。

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2/16(木)仲道郁代・幸田浩子・川久保賜紀/女神たちが贈る素敵なコンサートは美しい音楽の饗宴

2017年02月16日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
2/16(木)仲道郁代・幸田浩子・川久保賜紀/女神たちが贈る素敵なコンサートは美しい音楽の饗宴

公共ホールネットワーク事業 2017
女神たちが贈る素敵なコンサート

2017年2月16日(木)19:00〜 川口リリア・音楽ホール 指定席 A列 9番 3,800円
ピアノ:仲道郁代♡
ソプラノ:幸田浩子♦
ヴァイオリン:川久保賜紀♥
【曲目】
グノー:歌劇『ロミオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」♦♡
リスト:愛の夢 第3番 S.298「おお、愛しうる限り愛せ」♦♡
クライスラー:愛の悲しみ♥♡
クライスラー:愛の喜び♥♡
ショパン:「12の練習曲 作品10」より第12番 ハ短調「革命」♡
ショパン:「12の練習曲 作品10」より第3番 ホ長調「別れの曲」♡
ショパン:ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53「英雄」♡
シューマン:アベッグ変奏曲 作品1♡
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲♥♡
クライスラー:シンコペーション♥♡
サラサーテ:アンダルシアのロマンス♥♡
J.シュトラウスⅡ:喜歌劇『こうもり』より「侯爵様、あなたのようなお方は」♦♡
レハール:喜歌劇『メリー・ウィドウ』より「ヴィリアの歌」♦♡
ジーツィンスキー:ウィーン、わが夢の街♦♡
《アンコール》
 スティーブンソン/加藤昌則 編:庭の千草♥♦♡
 バッハ/グノー/藤満 健 編:アヴェ・マリア♥♦♡

 久し振りに川口リリアホールにやって来た。この前に来た時はまだブログを書いていなかった頃なので、もう10年以上前になるかもしれない。JR川口駅のホームから見えるところにあり、西口を出て左手の方、徒歩1分。来てみるとかつてのことを思い出し、4階へ上るエスカレーターの記憶が戻って来る。川口リリアホールには、2002席・多目的の「メインホール」と600席の「音楽ホール」がある。今日のコンサートは「音楽ホール」で開催された。600席という規模は、日経ホールや浜離宮朝日ホールもあるいは東京文化会館・小ホールと同じくらいのコンパクトなサイズだが、1フロアの客席は後方に行くに従って階段状にせり上がっていくため、全体の天上が高く、自然で豊かな残響の音の良いホールだ。この規模でパイプオルガンが設置されている。

 さて今日のコンサートは、「公共ホールネットワーク事業」などという何ともお役所的なネーミングなのが笑いを誘ってしまうが(失礼)、同じ内容のコンサートを2月20日に岩手県奥州市でも開催するらしい。地方都市においてもトップクラスのアーティストのコンサートが開かれるのは歓迎すべきことではあるが、東京から電車で30分の川口市で行うのにはいささかローカル色が強すぎ、のような気もする。

 実際にはそれほど遠くはない川口リリアホールまで足を伸ばしたのは、川久保賜紀さん、幸田浩子さん、そして仲道郁代さんといういつも聴いているお馴染みのアーテイストが珍しい組み合わせによるコラボレーションの企画になっているからだ。実際には、ヴァイオリンとソプラノとピアノのための楽曲が、ない。だからプログラムを見れば分かるように、ヴァイオリン曲とピアノ伴奏、ソプラノ曲とピアノ伴奏、ピアノのソロ演奏を組み合わせることになる。3名がセッションするためには、それ用に編曲するしかないのである。

 まず初めは、幸田さんの歌唱を仲道さんが伴奏する。1曲目はグノーの「私は夢に生きたい」。いつも変わらないことだが、幸田さんの声は若い、というか娘役によく合った声質で、嫌味がなく、とても健やかなイメージである。コロラトゥーラ系の歌唱技術もレベルが高いし、高音域も無理なく出せるので、この手の曲はピッタリだ。

 次の曲に進む前にトークを挟み、お二人で曲の解説などを行った。2曲目はリストの歌曲「おお、愛しうる限り愛せ」。有名なピアノ曲「愛の夢 第3番」はこの曲を編曲したものだが、元の歌曲を聴く機会は意外に少ない。ピアノの分散和音(ピアノ版とは微妙に違っている)に乗せて、お馴染みの旋律が登場する。歌詞はドイツ語。幸田さんはドイツ語の歌唱も心得たもので、発音もキレイだし聴き取りやすい。

 続いて賜紀さんが登場して仲道さんのピアノでヴァイオリンの名曲を。クライスラーの「愛の悲しみ」は、儚なさを漂わせる憂いを帯びた音色で、賜紀さんのヴァイオリンが歌う。ここで描かれる「悲しみ」は絶望的な悲しみではなく、喜びの中のちょっとした翳りという程度。艶やかで流麗なレガートには気品が漂う。

 そして「愛の喜び」。もちろんコチラの方が華やかで明るい。粋で洒脱なクライスラーの本領発揮で、ワルツの調べも優雅に踊る。賜紀さんの流れるようなリズム感と美しいレガート、気の向くまま自由に踊るようなテンポの変化が非常に大らかで、まさに踊るように旋律が歌う。愛の喜び・幸せいっぱい、という明るい雰囲気が随所に現れているようであった。仲道さんのピアノも軽快で優雅だ。

 続いては仲道さんのソロでショパンの名曲たち。「革命のエチュード」と呼ばれる作品10-12の練習曲は、それまでの伴奏とは違って、音量が倍くらいに跳ね上がり、幅広いダイナミックレンジの中で表現は豊かだ。激しく力強いパッセージも仲道さんの演奏はどことなく「しっとり系」だ。左手の無窮動的な動きに右手の叩き付けるような主題が重ねられていくが、音に角がなくマイルドなためだろうか、決して無機質なイメージにはならない。「強さ」よりも「優しさ」が勝っている風に聞こえる。

 続いては同じ作品10の練習曲集より第3番の「別れの曲」。敢えてかなり遅めのテンポを採り、その中でフレーズに寄り添うようなテンポが揺れている。この微妙な表現力も、決して意図的な感じがせず、自然体なところがとても素敵だ。ショパンの前にあって、感情の趣くままに自由に振る舞うといった感じ。

 前半の最後を締めくくるのは、「英雄ポロネーズ」。重低音の響きがホールに満ちてしまい、ゴーッという音の奔流にようになってしまうところがあり(もっとも誰が弾いてもそうなるわけだが)、CDなどの録音を聴くのとホールでのナマ演奏の聞こえ方の違いを実感してしまう。躍動的に弾むポロネーズのリズムが、濁って音のせいでスッキリしないところが惜しく感じた。中間部などは高音域は繊細にして華麗なショパンらしい抒情性を湛えていて素敵だった。

 後半は、ピアノの譜面台を外したまま、仲道さんのソロから。シューマンの「アベッグ変奏曲」は作品番号1が示す通りの初期作品だが、「アベッグABEGG」という名称が《ラ-シ♭-ミ-ソ-ソ》主題の音型をなしているが、実在するシューマンの愛した女性(ただし不倫だった)の名だったとか、諸説あるらしい。この主題はいかにも「これぞロマン派」といったシューマンらしさでとても美しい。どう聴いても愛しい女性を表している主題だが、変奏が進むと一筋縄では行かない恋の道(不倫だから?)のごとく、複雑に展開していく。仲道さんの演奏はここでも「しっとり系」で、ことさらロマンティックな情感を浮き彫りにしていくようであった。

 ここで再び賜紀さんが登場して、ヴァイオリンの曲となる。まず、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」。このような地方型のコンサートではあまり聴く機会のない曲なのかもしれないが、私などは何回聴いたか分からないくらいで、曲もすっかり覚えてしまっている。賜紀さんの演奏は、今日はいつもよりは伸び伸びとしていたような気がする。仲道さんのピアノとの相性も良いのだろう。旋律は豊かに歌い、音色はいつもより太く艶やかだ。テンポの変化や、強弱の差を極端にしても仲道さんはピタリと寄り添って合わせてくれる。だからいつもよりはちょっと大胆に振る舞っているのに、肩の力が抜けていた。素晴らしい演奏だったと思う。

 続いてはクライスラーの「シンコペーション」。こちらはラグ・タイムのような軽妙な曲相で、もはやクラシック音楽の領域からも離れつつある曲だ。クライスラーが多彩な楽曲を残しているのに対して、賜紀さんの演奏も多彩さを見せる。先ほどの「愛の喜び」のような古き良きウィーンのようなゴージャスで洒落ている演奏に対して、ここでは軽くステップを踏むような、気さくで楽しげ、ちょっとふざけた感じに変わる。聴いていてもつい笑みがこぼれてしまう。アメリカ育ちの賜紀さんには、こういう一面もあるのだ。

 次もお馴染みの曲だが、サラサーテの「アンダルシアのロマンス」。今日の賜紀さんは本当に伸び伸びとしている。スペインの暑苦しい夏の夜、愛し合う二人を取り巻く空気感・・・・といった感じの曲なのだが、今日はその暑苦しさがあまり感じられずに、スッキリと陽性で明るいイメージ。何と晴れやかなロマンスなのだろう。

 ここからは再度、幸田さんが登場し、ウィンナ・オペレッタの世界へ。まずはヨハン・シュトラウス二世の『こうもり』からアデーレのアリア「侯爵様、あなたのようなお方は」。明るく無邪気な庶民パワーは貴族社会に大胆に切り込んで行く。幸田さんはウィーン・フォルクスオーパーの専属だったこともあるくらいだから、ウィーン風のドイツ語もとてもキレイで、軽妙なコロラトゥーラがよく回り、お侠なアデーレの舞台姿が目に浮かぶようであった。

 続いてレハールの『メリー・ウィドウ』から「ヴィリアの歌」。こちらの方はちょっと大人の雰囲気の曲。幸田さんがハンナの役を演じたら、清楚で上品な感じになるだろう。ちょっと細めのキレイな声で、高音域もとても美しかった。

 プログラムの最後は、これもお馴染み、ジーツィンスキーの「ウィーン、わが夢の街」。幸田さんの歌うのを何度聴いたことか。今日は幸田さんも本当に気持ちよさそうに伸び伸びと歌っていた。古き良き時代の感傷的なロマンティシズム。ウィーンか・・・私も一度行ってみたい。

 アンコールは、ソプラノとヴァイオリンとピアノがセッションできるようにと、特別に用意された編曲で、アイルランド民謡の「庭の千草」。原題は「The Last Rose of Summer」で「夏の名残のバラ」として知られている。あまりにも有名な民謡なので、古今東西に様々な編曲があるが、ヴァイオリンの世界ではエルンスト作曲の無伴奏ヴァイオリンのための「夏の名残のバラ」が超絶技巧曲として有名だ。今日は加藤昌則さんの編曲でヴァイオリン・パートは抒情的で優しい。歌唱は英語である。確かにソプラノとヴァイオリンとピアノというのは珍しい組み合わせで、私も初めて聴いた。
 アンコールの2曲目は、バッハ/グノーの「アヴェ・マリア」を藤満 健さんの編曲で。幸田さんの清冽な「アヴェ・マリア」に賜紀さんの上品なヴァイオリンが寄り添う。素敵なアンコールであった。

 今日は地方型のコラボレーションによるコンサートで、それ故に完全な名曲ものであったから、全部よく知っている曲。新鮮味はないが、安心して聴ける。心穏やかにコンサートを楽しむ・・・というのがコンセプトだろうから、素直に楽しむことができた。
 終演後は恒例のサイン会があった。3名がテーブルに横に並ぶと記者会見のようになって面白い。ただし今日は写真はNGだった。3名とも人気者なので、けっこう長い列が出来ていた。とくに仲道さんはCDをたくさん出されているので、多くのファンが並んでいたようだ。私はといえば、賜紀さんと幸田さんのCDは全部サイン入りで持っているので、昨年2016年11月11日、文京シビックホールでの「夜クラシック」コンサートの時の賜紀さんの写真にサインしていただいた。
 この後、2月20日の日曜日に、岩手県・奥州市で今日と同じ「女神たちが贈る素敵なコンサート」が開催される予定。もう一度聴きたいけど、さすがに岩手県まで追っかけていくのは・・・・ムリですね。



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2/15(水)千住真理子&スーク室内オーケストラ/マイルドなアンサンブルの「四季」など

2017年02月15日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
千住真理子&スーク室内オーケストラ

2017年2月15日(水)19:00〜 東京オペラシティコンサートホール 招待席 1階 30列 18番(無料招待)
ヴァイオリン:千住真理子*
ヴァイオリン:マルティン・コス(コンサートマスター)**
弦楽合奏:スーク室内オーケストラ
【曲目】
グリーグ:ホルベアの時代から 作品40
カッチーニ:アヴェ・マリア*
モーツァルト:アダージョ K.261*
モーツァルト:アレルヤ*
J.S.バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043* **
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集 作品8-1〜4「四季」*
《アンコール》
 明治チョコレートのテーマ*
 クライスラー:愛の喜び*

 チェコの名門、スーク室内オーケストラと千住真理子さんのコンサートを聴く。同楽団の日本公演ツアーは、長崎、宗像、大阪、横浜、東京(本日)、東京(葛飾)、砺波(富山県)の7公演が予定されている。ツアーにはヴァイオリンの千住真理子さんが同行し、彼女中心のプログラム構成になっている。
 スーク室内オーケストラは、1974年に結成され、現在はコンサートマスターを務めるマルティン・コスさんが芸術監督ね兼任して、チェコを中心に主にヨーロッパで活動している。30枚以上のCDがリリースされているという。この団体は、スーク室内管弦楽団の名でも知られているが、今回のツアーではプログラムの構成上、管楽器や打楽器のない弦楽合奏+チェンバロであるため、「室内オーケストラ」の呼称を使用したのであろう。第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン3、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1、チェンバロ1という構成であった。

 実は今日のコンサートは、Japan Artsの主催で、夢倶楽部会員に与えられる年1回の無料招待枠に応募したもの。そもそも、Japan Arts主催公演の中でも聴きたいものは早めに良い席を取ってしまうので、無料招待という特典があってもほとんど利用できないでいた。毎年結局は行きたいものがないのである。今年度も残すところあとわずかになってしまったので、最後のチャンスに本公演を選んだ。内容的には千住真理子さんの「四季」全曲演奏というのは魅力的なプログラムであるし、S席7,500円が無料ご招待なら多少席は悪くても・・・・と思っていたら、18時からのチケット引き換えでいただいたのは1階30列のセンター。東京オペラシティコンサートホールでは最後列のひとつ前の列で、2階のバルコニーの軒下になる。どう見てもS席というランクではない。まあ、タダだから文句が言える筋合いではないのかもしれないが、夢倶楽部の中でもけっこうヘビーユーザーの方に入ると思うので、もう少しまともな席で聴きたかった。30列ではステージが余りに遠く、視力が弱いからよく見えないのである。ホールの音響が優れているため、音はクリアに聞こえたのがせめてもの救いであった。

 まず1曲目はグリーグの「ホルベアの時代から」組曲。弦楽合奏曲なのでスーク室内オーケストラのみの演奏。遠くで聴いているため、音はマイルドに混ざり合っているが、各パートの分離も意外に良い。そのためシッカリとした造形と音色の美しさは伝わって来る。5曲の組曲だが、各曲の後に拍手が入ってしまったのにはマイッタ。

 ここで千住さんが登場し、軽妙なトークで楽曲の解説をしてくれた。どちらかというと初心者向けの解説だったが、分かりやすくて今日の客層にはその方がよいと思ったのだろう。

 2曲目はカッチーニの「アヴェ・マリア」。弦楽合奏の和音進行に乗せて、千住さんのヴァイオリンが美しくも儚げな旋律を歌わせる。本当はカッチーニ(1545〜1618)の作ではなく、旧ソ連の作曲家ヴァヴィロフが1970年頃に作曲した歌曲である。確かに、バロックの音楽にしてはあまりにもロマンティック過ぎる。でも素敵な曲には違いない。

 3曲目はモーツァルトの「アダージョ K.261」。こちらはいかにもモーツァルトといった美しく気品のある楽曲。ヴァイオリン協奏曲の緩徐楽章として作曲されたものともいわれている。千住さんのヴァイオリンが柔らかく豊潤な音色で、ゆったりと歌わせて行く。

 続いてモーツァルトの「アレルヤ」。これはモテット「踊れ、喜べ、何時幸いなる魂よ K.165」の第3楽章。歌詞は「アレルヤ」が繰り返されるだけなので、ヴァイオリンで弾いても違和感はさほどない。コロラトゥーラの技巧がヴァイオリンに置き換えられるとなかなか素敵だ。

 前半の最後は、J.S.バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043」。千住さんとコンサートマスターのマルティン・コスさんが独奏を受け持つ。2台のヴァイオリンが競い合うように、から絡み合うように、対位法を構成していき、格調高い調べがホールを満たしていく。音ははっきりと分離して聞こえるのだが、遠いためにお二人のどちらの音なのかが区別がつかなかった。第1楽章は荘厳に格調高く、第2楽章は抒情的で優しく、第3楽章は緊迫した美しさ。素晴らしい演奏だ。

 後半はヴィヴァルディの「ヴァイオリン協奏曲集 作品8-1〜4『四季』」の全曲演奏。演奏の前にトークがあり、さりげなく途中で拍手をしないようにと牽制する。この辺りはベテランの味わいだ。
 この「四季」はとても素晴らしい演奏だった。千住さんのヴァイオリンは角の尖っていない柔らかな音色と演奏スタイルだが、音には厚みがありふくよかで暖色系の色合いがある。技巧的な部分もふわりと流れていく優雅さも素敵だ。同時にスーク室内オーケストラの方も、全体的にマイルドな風合いを持っていて、それでいて十分な厚みのあるアンサンブルを聴かせる。非常にこなれている印象で、ソリスト集団のようなオーケストラだそうだがまとまりは非常に良い。聴いていても緊張がほぐれるような、優しさがある。
 各楽章とも、やや早めのテンポに終始し、適度に緊張感を保ちながら、決して飽きさせないような素敵な演奏であった。

 アンコールは・・・・。昨日がバレンタインデーということで、今日のコンサートには株式会社明治(明治製菓)が協賛していて、帰りがけには《女性のみ》にチョコレートがプレゼントされていた。日本では女性から男性へチョコレートを贈るが、ヨーロッパでは逆とかいうことで・・・。
 ということで、アンコールは「明治チョコレートのテーマ」。「チョっコレート、チョっコレート、チョコレートはメ・イ・ジ」というアレである。けっこう受けていた。
 本当のアンコールは、クライスラーの「愛の喜び」。弦楽合奏の分厚いアンサンブルを伴奏にすると、お馴染みの名曲も雰囲気が変わる。洒脱なクライスラーが、ちょっと重厚に、ウィンナ・ワルツ風の優雅さが加わった。

 今日は無料の招待で「千住真理子&スーク室内オーケストラ」に来たわけで、チケットをもらった時は席番号を見て愕然としたのだが、聴いてみるととても楽しく、素敵なコンサートであった。全体にただようほのぼのとした雰囲気、優しく心が安まるような演奏。タダだからいうわけではないが、聴きにきて良かったと心から思った。

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2/10(金)都民芸術フェス/東京フィル/田中正也のリストP協1番と三ツ橋敬子のチャイコフスキー「悲愴」

2017年02月10日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
2017 都民芸術フェスティバル 参加公演
オーケストラ・シリーズ No.48 東京フィルハーモニー交響楽団


2017年2月10日(金)19:00〜 東京芸術劇場コンサートホール B席 1階 B列 17番 2,800円
指 揮:三ツ橋敬子
ピアノ:田中正也*
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:川田知子(ゲスト)
【曲目】
グリンカ:歌劇『イヴァン・スサーニン』(皇帝に捧げた命)序曲
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調 S.124*
《アンコール》
 プロコフィエフ:10の小品より 第7番 前奏曲「ハープ」*
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 作品74「悲愴」
《アンコール》
 J.S.バッハ:管弦楽組曲 第3番より 第2曲「アリア」(G線上のアリア)

 「2017 都民芸術フェスティバル」の参加公演で「オーケストラ・シリーズ No.48」、東京フィルハーモニー交響楽団の公演を聴く。席は10日前に同フェスのNHK交響楽団を聴いたときと同じ、2列目のセンター。その時と違って、今日は反響板がちゃんと下がっていた。やはりこの方が音にまとまりがあるのが実感できた。東京フィルを芸劇で聴くことはあまりないが、定期シリーズではいつも聴いているので音の特性はよく知っている。濃厚な色彩感と分厚いアンサンブルが特徴だ。
 本日の指揮は、三ツ橋敬子さん。2014年に日本フィルハーモニー交響楽団の横浜定期と、東京二期会のオペラ公演『チャールダーシュの女王』を聴いて以来なので、ちょっと久し振りな印象となった。東京フィルを指揮するのを聴くのは、2012年11月の「東京オペラシティ定期シリーズ」以来である。

 実はこの日、仕事がかなり忙しい時期で、コンサートに遅れまいとかなり集中して働きづめであったためか、いざ芸劇に辿り着いた時には体調が思わしくなくなっていた。そのため、聴くことは聴いたものの、ボンヤリしていてあまりよく覚えていないのである。だから、レビューは簡単に留めることにするが、内容に関しても本当のことを書いているかどうか疑わしいのだが・・・・。

 1曲目はグリンカの『イヴァン・スサーニン』の序曲。もちろんこのオペラの存在すら知らなかった。グリンカは19世紀前半に活躍した「近代ロシア音楽の父」なのだそうだが、少なくとも日本で聴かれるグリンカの曲はオペラ『ルスランとリュドミラ』の序曲くらいだろう。『イヴァン・スサーニン』の序曲もロシアの民族調の主題を西欧の音楽形式で描いた曲のようだ。東京フィルのしなやかでダイナミックな演奏が、オペラ作品は知らなくても、ワクワク感をかき立ててコンサートへ誘う。おそらくは会場に来ていた人のほとんどが初めて聴いたのではないだろうか。

 2曲目はリストの「ピアノ協奏曲 第1番」。ピアノ独奏は田中正也さん。この人の演奏を聴くのは初めて。15歳の時ロシアに渡り、以来ロシア音楽、中でもプロコフィエフを得意とするピアニストだということだ。この曲はリストの代表的な超絶技巧曲であり、今日の席位置、つまり2列目のソリスト正面では、ピアノの強烈な音によってオーケストラの音がかき消されてしまうくらいになる。第1楽章はとくに重低音の和音が強音で多用されるため、何が何だか分からないまま通りすぎてしまう。田中さんのピアノは、繊細そうな風貌に似合わず、ロシア仕込みの打鍵の強い強烈な押し出しを見せる。ここで聴いていると轟音になってしまうので、そこはノーコメントにしたい。第2主題の抒情的な旋律で、ちらりと繊細な姿を見せる。第2楽章はロマンティックな緩徐楽章。曲はリストでも、甘く感傷的なロマンティシズムを描くのはやはりロシア系の表現だろう。第3楽章はトライアングルが印象的だが、私の席からはあまりよく聞こえなかった。いやピアノの音が大き過ぎるのか。第4楽章は第1楽章の主題が戻って来て、オーケストラは交響詩のように派手な管弦楽を聴かせ、ピアノの超絶技巧が続く。田中さんのピアノは抒情的な部分はキラキラと煌めくような鮮やかさがあり、逆に重低音の和音が鳴り出すと音の奔流が押し寄せてくる感じ。まったくこの辺の席で聴いていると、楽曲がオーケストラ伴奏付きの超絶技巧ピアノ・ソナタになってしまう。ピアノ協奏曲はもう少しまともな席で聴かないとダメみたいだ。

 田中さんのソロ・アンコールは、お得意のプロコフィエフの「10の小品」より 第7番 前奏曲「ハープ」。変化する曲想に対応する多彩な色彩感で、光りが煌めくようなすてきな演奏。コチラの方がずっと良い。

 後半は、チャイコフスキーの「交響曲 第6番「悲愴」。三ツ橋さんはやや早めのテンポで、切れ味の良いリズム感で曲を進めていく。メリハリが効いていてダイナミックではあるが、抒情的な部分になると女性的な繊細さが現れ、とても美しい音楽を描き出す。東京フィルの側もノリが良く、濃厚な音色が出ている。金管群が一斉に鳴る辺りは、輝くような晴れやかな音色で、派手なアンサンブルを聴かせる。一方の弦楽は繊細なイメージでしなやか。これはコンサートマスターがゲストの川田知子さんであったからだろうか。ロシア風のゴツゴツしたイメージではなく、ロマンティックな表現の方がとてもよく歌っていた。全合奏になると弦楽がちょっと金管に負けてしまうところもあった。
 全体としては、造形的なまとまりを見せていた。リズミカルで淀みなく流れ、ダイナミックなのにロマンティック。力強いけれどもしなやか。荒々しいロシア音楽を影を潜め、柔らかく優しい。とても素敵な演奏であった。

 アンコールは、J.S.バッハの「G線上のアリア」。弦楽のアンサンブルが、柔らかくふくよかな厚みを持ち、低弦が刻む4つの拍はきちんとリズムを刻んでいるのに、ヴァイオリンの主旋律は横の線がなだらかで、天上の響きの美しさ。ボンヤリ聴いていたとはいえ、この美しさは心に染み入るモノがある。心が安まる素晴らしいアンコールであった。

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2/8(水)デジタリリカ「トスカ」/小川里美の絵になるタイトルロール/突き抜ける歌唱は魂の慟哭

2017年02月08日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
デジタリリカ『トスカ』
Digitalyrica “TOSCA”
プッチーニ作曲(イタリア語歌唱/字幕付き/日本語ナレーション)

2017年2月8日(水)19:00〜 東京文化会館・小ホール S席 A列 22番 6,000円
トスカ:小川里美(ソプラノ)
カヴァラドッシ:高田正人(テノール)
スカルピア:与那城 敬(バリトン)
演出・語り:彌勒忠史
エレクトーン:清水のりこ

 かつて東京・銀座のヤマハホールで開催されていた「銀座オペラ」というシリーズがあり、「椿姫」や「蝶々夫人」などの名作オペラを、主な登場人物に絞り込み、エレクトーンの伴奏でハイライト上演するという企画であった。私は2015年5月の「蝶々夫人」を聴きに行ったが、サロン風のオペラ上演にしてはかなりクオリティの高いものだったことが思い出される
 その後継シリーズということになるのだろうか、ほとんど同じスタイル、同じメンバーによる上演だが会場を東京文化会館の小ホールに移して、今回のデジタリリカ『トスカ』の上演ということになった(ヤマハは主催から協賛に変わった)。上演方式は基本的には変わっていないが、今回から「デジタリリカ」という呼称を採用している。これは「デジタルDigital」と「リリカLyrica」を合わせた造語である。「リリカLyrica」は「歌詞」のことだが「lirica」はイタリア語でオペラの意味もあり、「デジタル」はもちろん電子楽器のことを指していて、つまりエレクトーンのこと。要するに、「エレクトーン伴奏で上演されるオペラ」ということになる。
 これは実際に聴いたことがない人にき中々イメージしにくいものだと思われるが、清水のりこさんの演奏するエレクトーンは、単なる電子オルガンのイメージを遥かに超越したもので、かなり本格的にオーケストラのイメージを作り出す。弦楽器、金管楽器、木管楽器、そして打楽器までが1台のエレクトーン(ヤマハのSTAGEA)から紡ぎ出されてくるのである。世の中には色々な人がいて、それぞれの分野で素晴らしい才能を発揮する人がいるものだ。

 会場の東京文化会館・小ホールでは、ステージ後方の反響板(蛇腹折りのようになっているヤツ)を少し下げてあり(反響板が下がる構造になっていることを初めて知った)、その最上部に字幕を映写していた。ステージ上には最小限の小道具が置かれ、衣装も19世紀つぽく見えなくもないという感じのもの。演出としては、彌勒忠史さんが真っ暗なステージの下手側にスポットライトだけで登場し、物語りの進行させるト書きを日本語で語る。弥勒さんはカウンターテナーの歌手としては第一人者だが、今日は歌わず、普通の声でナレーションのみ。途中、少しだけドラマに参加したが黙役であった。

 演目はプッチーニの『トスカ』全3幕。本来なら正味2時間近く、休憩を2度入れると3時間近くになる作品だが、今日の公演は3人に絞り込まれた登場人物だけのシーンで構成されるハイライト上演となっていて、休憩を1度入れても2時間以内に治まるようにカットされていた。
 登場人物は、歌姫のトスカ(小川里美さん)、画家のカヴァラドッシ(高田正人さん)、警視総監のスカルピア(与那城 敬さん)の3人のみ。
 第1幕は、逃亡した政治犯アンジェロッティも教会の堂守も出演しないので、導入部の音楽に続いていきなりカヴァラドッシのアリア「妙なる調和」となる。さすがにちょっと慌ただしく感じる。高田さんは張りのある美声で、力強く朗々と歌う。声量もたっぷりで長く伸ばす歌唱がドラマティックな世界を創り出す。
 すぐにトスカの登場シーンとなり、客席に出入り口から小川さんが歌いながら入って来る。彼女のオペラは何度も見ているが、今や日本を代表するソプラノ歌手といって良く、まさに今が旬といった感じで、輝くようなオーラを放っている。高音域まで豊かな声量を持っていて、息の長い歌唱も可能なので、プッチーニの主役ソプラノにはピッタリかもしれない。スラリとした立ち姿も美しく、プリマ・ドンナとしての存在感も抜群である。
 二人によるシーンが終わると、スカルピアが登場する。与那城さんもまた存在感抜群のバリトンで、今やオペラ界には欠かせない存在だが、押し出しの強い歌唱だが基本的には端正で、イケメンの与那城さんの悪役ぶりもまたカッコイイ。トスカへの邪悪な思いを膨らませる独白は、与那城さんの憎々しげな歌唱が迫力満点で、圧倒さされる。ここまでが第1幕で、30分弱に圧縮されていた。

 休憩を挟んで第2幕となる。スカルピアがサディスティックな思いをトスカに向けている。カヴァラドッシが逃げているアンジェロッティの居場所を語らないので拷問にかけ、その悲鳴をトスカに聞かせて、トスカに語らせようと脅す。トスカは脅しに屈して白状してしまう。ナポレオン軍が勝利して王制の崩壊が間もないことが伝えられるが、その前にスカルピアはカヴァラドッシを処刑することを部下に命じる。カヴァラドッシを救いたければトスカに自分のものになれと迫る。与那城さんがイヤラシクて憎たらしいが、歌唱は素晴らしい。ここでトスカの悲痛な決意を歌うアリアが「歌に生き、愛に生き」。最大の聴かせ所だ。小川さんの声には透明感がありとても美しいが、ただキレイなだけでなくその中に強い意志が込められていて、情感がとても豊かだ。役にのめり込んだ魂の叫びのような絶唱。Brava!!の声が飛ぶ。
 二人を逃がすための通行証を書いたスカルピアがトスカに迫ってくる。「これがトスカの接吻よ!」と、隠し持ったナイフでスカルピアを刺し殺す。トスカの声は高音域は悲痛な叫び、低音域は憎しみと絶望。このように作品を単純化すると、プッチーニのオペラが細部に至るまで非常に良くできていることが改めて分かる。

 続けて第3幕に移る。カヴァラドッシの処刑の時刻が迫っている。細かな点は省いて「星は光りぬ」のアリアとなる。高田さんの声は柔らかくしなやかで、とても艶やか。切々と歌う情感も豊かで、彼もプッチーニの主役テノールにはよく合っている。素晴らしい歌唱であった。トスカが登場して、処刑の(芝居)の前のやり取りで歌われるのが二重唱「優しい手よ」。お互いの愛を確かめ合うシーンでもあり、このオペラのクライマックスだ。小川さんの歌唱は暗い翳りと明るい希望が入り乱れる心情を、色彩感豊かに歌う。高田さんの伸びのある歌唱も素晴らしく、聴き応え十分のデュオであった。処刑のシーンは、他に登場人物がいないので、高田さんの一人芝居。銃声までがエレクトーンから飛び出すとカヴァラドッシは倒れ、本当に死んでしまったのに気付いてトスカが絶叫する。そのまま一気にトスカが城壁から飛び降りるシーンにつながり、エレクトーンがドラマティックな演奏で盛り上げる。小ホールの舞台ではさすがに飛び降りるところがないので、その場に倒れて舞台は暗転、幕となった。第2幕と第3幕は続けて上演され、55分くらいにまとめられていた。

 休憩を入れても2時間弱に収められたデジタリリカ『トスカ』であったが、ストーリーの肝心の部分は全部残っていたから、かえってスッキリとした内容だったといえる。大袈裟な夢物語としてのオペラの魅力には欠けるものの、一番大切な構成要素である歌唱の部分に関しては文句の付けようもない素晴らしいクオリティであり、単純化されエッセンスのみとなった演出と、エレクトーン1台とはいえゴージャスな演奏(ピアノ1台とは次元が違う)により、シンプルだがハイ・クオリティのオペラ上演だったと言える。100%満足のいくものであった。
 大ホールでの本公演と違い、ステージと客席との距離感が近く、実際に幕がないから、両者を隔てるモノがない。このような、サロン・オペラという分野もなかなか捨てがたい魅力を持っているのだ。室内楽のコンサートを聴く感覚で、オペラを楽しむ。お手軽なオペラ鑑賞は、これからのオペラ文化の普及のためにはもっともっと必要なことだと思う。
 なおデジタリリカ『トスカ』は、3月13日にヨコスカ・ベイサイド・ポケットで再演される予定。

 本日のタイトルロール、小川里美さんは、わずか10日後の2月28日、東京芸術劇場のシアター・オペラ『蝶々夫人』でまたまたタイトル役を歌う。まさにただ今絶好調の活躍ぶりである。こちらも最前列の席を確保してある。5月13日には埼玉県越谷市のサンシティ・小ホールでリサイタルがあり、これも楽しみだ。また、今年2017年の10月には、三枝成彰さんの作曲による新作オペラ『狂おしき真夏の一日』の初演にも出演する予定になっている。ますます目が離せない存在だ。

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2/5(日)藤原歌劇団『カルメン』妖艶なニコリッチ/力強い笛田博昭のドン・ホセ/可憐な小林沙羅のミカエラ

2017年02月05日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
2017 都民芸術フェスティバル 参加作品
藤原歌劇団公演『カルメン』
(ジョルジュ・ビゼー作曲/全4幕/原語上演)


2017年2月5日(日)14:00〜 東京文化会館・大ホール S席 1階 16列 1番 14,800円
指 揮:山田和樹
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
合 唱:藤原歌劇団合唱部
児童合唱:東京少年少女合唱隊
舞 踊:平富恵スペイン舞踊団
演 出:岩田達宗
美 術:増田寿子
照 明:大島祐夫
衣 装:半田悦子
【出演】
カルメン:ミリヤーナ・ニコリッチ
ドン・ホセ:笛田博昭
エスカミーリョ:須藤慎吾
ミカエラ:小林沙羅
スニガ:伊藤貴之
モラレス:押川浩士
フラスキータ:平野雅世
メルセデス:米谷朋子
ダンカイロ:安東玄人
レメンダード:狩野 武

 藤原歌劇団のオペラ公演『カルメン』のニュープロダクション。藤原歌劇団の本公演は一頃は随分と通ったものだが、どういう訳が最近はすっかりご無沙汰してしまい、かなり久し振りになってしまった。東京二期会の公演はけっこうな頻度で観に行っているので対照的ではあるが、別に他意があってのことではなく、演目や出演者、あるいはコチラのスケジュールが合わなかっただけのことだとは思うのだが・・・・。
 今回の『カルメン』もチラシなどで知ってはいたが何となくスルーしていた。ところが昨年末にあった「クリスマスコンサート in 能楽堂」で出演していた小林沙羅さんからミカエラ役で出演するという話を聞いて、改めてチラシを見ると沙羅さんの名前が載っている(ただし写真は載っていない)。うーむ、気が付かなかった。そういえば昨年、藤原歌劇団に入団したということだった。聞けば昨年末の時点で、本公演のチケットは完売に近い状態になっているという。そこで可能であるならという範囲内で、沙羅さんにチケットの手配をお願いしたところ、ギリギリになって座席を確保していただいたという次第。用意していただいたのは16列目でステージ全体が見渡せ、久し振りに「鑑賞に適した良い席」に座ることになった。オーケストラの音も非常にバランス良く聞こえ、歌手の皆さんの声は真っ直ぐ通ってくる。ステージ全体の動きもよく分かるし、オペラグラスを使えば出演者の表情まで読み取れるという距離感。本来はこういう席でオペラを鑑賞するのが正統派の考え方だろう。私のようにオペラでも最前列、というのは本当は邪道なのである。

 今回の『カルメン』の話題のひとつは、指揮が山田和樹さんで、実は今回が彼のオペラ・デビューなのである。その関係でピットに入るのは彼が正指揮者を務めている日本フィルハーモニー交響楽団。オペラのピットに日本フィルとは珍しいナと思っていたら、日本フィルも数十年ぶりなのだそうだ。この辺りの若干の不安材料は、オペラの演奏はシンフォニーとは全然違っていて、指揮者のペースですべてが動いていかないということだ。要は慣れの問題で、経験に裏打ちされた対応力が求められるのは確か。オーケストラも同様である。
 ヨーロッパの都市ごとにある歌劇場には、コレペティトゥーアから上がって来て現場を知り尽くした指揮者がいて、無名だけれども素晴らしく「良い仕事」をしたりする。一方でベルリン・フィルを初めとする一流のオーケストラや、その音楽監督を務めているような、人気・実力共に巨匠・トップクラスの指揮者でも、たまに慣れないオペラをやってグダグダになってしまったのを、実際に聴いたことがある。
 私はヤマカズさんの才能を露ほども疑っていないが、オペラは魔物。何が起こるか分からない。取り敢えず無事に、そして成功裏に終わることを望んでいるものである。

 第1幕の前奏曲が始まると、ヤマカズさんらしい、キレがあってしなやかな音楽がピットから飛び出してくる。速めのテンポを期待感を煽る。日本フィルの演奏も久々のオペラに向けてかなり気合いが入っているらしく、何時にも増して濃厚でダイナミックなサウンドでオペラを盛り上げて行く。オーケストラだけ聴いていても、オペラの情景が目に浮かぶような標題音楽的な表現で、情景描写に力点を強く置いているのが分かる。合唱が加わる部分では、合唱の立ち上がりのタイミングに対してオーケストラがやや先走ることがあったが、これは曲が進むとすぐに修正されていく。オーケストラの演奏は概ね良好で、適度にメリハリを効かせたダイナミックなもので、木管を中心とした濃厚なサウンドが素敵だ。ヤマカズさんのオペラ的な表現・・・・歌手でも合唱でもソロ楽器でも、とにかく主旋律を大きな節回しで歌わせて行くので、聴いていてもさほど違和感なく音楽とドラマが進んでいく。

 一方歌手陣はといえば、まず主役カルメン役のミリヤーナ・ニコリッチさんはセルビアの出身で、背が高く(おそらく本日の出演者の中で一番高身長)、黒髪のエキゾチックな美人。見た目の雰囲気はカルメン役としては申し分ない。歌唱の方は、とくに際立った印象はなかった。ちょっと暗い感じのメゾ・ソプラノでフランス語の歌唱も聴き取りにくく母音の部分だけが大きく飛んで来る感じ。初めのハバネラではオーケストラとテンポ感がぶれていたりして、ちょっと不完全燃焼気味であった。ただし演技の含めてカルメンっぽい存在感は十分で、意志の強い(我が儘な感じ?)自由を求める女の雰囲気はよく出ていて、それだけでも日本人歌手には出せない味わいかもしれない。
 ドン・ホセ役の笛田博昭さんはやや硬質の声質で、立ち上がりのキリッとした歌唱を聴かせる。声量も十分。体格も良いし、カルメンに翻弄される優柔不断な男のイメージよりは、もっと強く、迷いつつも自分の意志を強く主張するような歌唱のイメージであった。第2幕の「花の歌」は切実に、しかも堂々と歌い、見事であった。第4幕の最後のシーンでは鬼気迫るストーカーぶり(?)を力強く歌い切った。
 エスカミーリョ役の須藤慎吾さんはまずまずといったところ。一番肝心の「闘牛士の歌」でもオーケストラや合唱に負け気味で、もう少し強い押し出しが欲しかった。長く伸ばす所だけが妙に強調されていた。この曲はけっこう難しいようで、フランス語の発音が大きな声量を出しにくいのか、低音部もバリトンとしては音程を保ちにくい。実を言えば、満足のいくような「闘牛士の歌」をオペラの本番ではあまり聴いたことがないのである。
 ミカエラ役の小林沙羅さんは本公演が藤原歌劇団でのオペラ・デビューとなる。ミカエラはメリメの原作小説にはほとんど登場しないがオペラ化の際に創作された人物である。悪女的ヒロインのカルメンに対してあくまで清純派としての存在をアピールするお下げ髪と青いスカート。沙羅さんの役柄としてはピッタリだろう。欲望と打算と情欲の物語『カルメン』の中でのミカエラの存在は一服の清涼剤のよう。第1幕の「手紙の場」の二重唱のまったく曇りのない清純さは、沙羅さんのクセのない綺麗な声質と笛田さんのストレートな歌唱が見事に絡み合っていた。第3幕の「ミカエラのアリア」はこのオペラの中の唯一のアリアであり、作品の中でミカエラに与えられた役割の重要性を物語っている。心情の独白を沙羅さんが切々と、そして精一杯の情感を込めて熱唱する。声も良く通っていて、Brava!な歌唱であった。画像はこの場面のもの(会場で販売していたサイン入りの写真)。『カルメン』の配役では、ミカエラにスター級のソプラノさんをキャスティングするかどうかでカルメン像が変わってくるから、上演のクオリティを左右することになる。もちろん今回は大成功の方に入る。


 演出と重なる部分として、合唱の役割がある。今回のニュー・プロダクションでは、合唱(藤原歌劇団合唱部と東京少年少女合唱隊)に相当の人数を投入した。第1幕の煙草工場前の広場や第4幕の闘牛場前などはステージが人で溢れているくらい。全員にきちんと演技が割り振られている状態で、プロの声楽家・オペラ歌手集団である藤原歌劇団合唱部(プログラムには65名が記載されていた)はさすがに上手い。この合唱のチカラが、時として主役達の歌唱を食ってしまうところがあった。全体のコントロール不足なのか、あるいは役をもらえない歌手たちの気持ちが表れてしまったのか・・・・。
 演出は岩田達宗さん。ニュー・プロダクションだがとくに時代の読み替えなどはせずに、原作の世界を比較的ストレートに表現したものになっている。舞台装置は左右からコンクリートの壁がせり出していいる。基本的に幕ごとに固定されていて、人(それも大勢の)の動きが場面を創っていく。これらの構造物の間から見えるステージ後方のスクリーンには大きく赤い満月が常に映し出されていて、冷たい赤が物語の悲劇性を象徴的な表しているようだ。このような映像を投射する舞台美術の方式は最近多いが、客席の位置によっては見えなかったりもするので、個人的には疑問に思うこともある。今回は沙羅さんのおかげで1階のS席だったからよく見えたので良かったのだが・・・・。

 本当に久し振りの藤原歌劇団公演の鑑賞だったが、本公演は大成功だったと思う。実際に鑑賞していても面白く、退屈してしまうような場面もなかった。ヤマカズさんのオペラ・デビューも上手くいったと思うし、日本フィルも素晴らしい演奏をしてくれた。歌手の皆さんも平均以上の出来映えで、日本のオペラも水準はけっこう高いことを再確認した。

 公演自体はほぼ満席状態で、休憩時のホワイエも人でいっぱいだったのにはちょっと驚かされた。東京二期会のオペラ公演が客の入りが良くないのと対照的である。その理由は分からないが、少なくとも藤原歌劇団の方が様々な努力の成果が実っているということであろう。
 終演後はすぐに出演者の皆さんがホワイエに出て来られて、ファン・サービスも欠かさない。人がいっぱいでちょっとしたパニック状態になっていた。出演者の方々にそれぞれファンの方がいて、もう大変。私も沙羅さんにはチケットを手配していただいたお礼だけはどうしてもしておきたかったので、混雑を必死にかき分けて・・・・といった状態であった。いずれにしても、主催団体と出演者の皆さん、そして観客が一緒になってオペラを盛り上げて行くのは素晴らしいことだと思う。

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2/4(土)読響土曜マチネー/チャイコ・プロ/シモーネ・ラムスマのVn協奏曲とカンブルランの交響曲第5番の快演

2017年02月04日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 第194回土曜マチネーシリーズ

2017年2月4日(土)14:00〜 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 16番 4,851円(定期会員)
指揮:シルヴァン・カンブルラン
ヴァイオリン:シモーネ・ラムスマ*
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:長原幸太
【曲目】
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35*
《アンコール》
 イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 作品27-2より 第4楽章「復讐の女神たち」*
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64

 読売日本交響楽団の「土曜マチネーシリーズ」を聴く。今月のマエストロは常任指揮者のシルヴァン・カンブルランさん。1月25日の「名曲シリーズ」ではデュカス、ドビュッシー、ショーソンを、1月31日の「定期演奏会」ではメシアンを採り上げるなど、お国もののフランス音楽づくしかと思いきや、「土曜マチネー」と「日曜マチネー」はチャイコフスキー・プログラムである。これはなかなかイメージしにくいものがあり、いったいどんな音楽になるのだろう、と期待と不安の入り交じった気分で出かけた。
 チャイコフスキー・プログラムといっても、前半はヴァイオリン協奏曲、後半は交響曲第5番という、至ってシンプルな名曲プログラムである。ヴァイオリン協奏曲のソリストはシモーネ・ラムスマさん。オランダ生まれ、長身の金髪美人である。国際級のヴァイオリニストであることは間違いなく、はたしてどのような演奏を聴かせてくれるのか、楽しみにしていた。
 ところで本日の東京芸術劇場コンサートホールは反響板を出していた。先日の「都民芸術フェスティバル」のNHK交響楽団の時は反響板を上げていたので、日を空けずに聴き比べることになったが、やはり反響板を使った方が、オーケストラの各パートの音が一塊にまとまるような気がする。長い残響音も、反響板がある方が自然な減衰となるようである。

 さてプログラムの前半は「ヴァイオリン協奏曲」。1年間に必ず数回は聴くくらいの、誰でも知っているような名曲。それだけに聴く方としては、評価をするための比較材料が多いので、演奏の良し悪しはけっこう正確に判断できると思う。何しろ、必ずコンクールの課題曲になるから音大生や音高生の演奏も聴く機会があるし、世界のトップ・アーティストも来日公演でよく演奏する。CDなどは無数に発売されているしテレビやFMの放送も多い。最近では動画サイトなどにも無数に素材がある。そのような状態だから、曲の出だしを聴くだけで、「ナルホド、これは・・・」と判断を下してしまいがちだ。悪いクセだとは思うのだが・・・・。
 そいういわけで、本日の演奏は・・・・私としてはラムスマさんに対してダメ出しをしたい。解釈や表現の問題ではない。技術的な問題が大部分を占めているのである。ラムスマさんのヴァイオリンは、何と言えば良いのだろう、音に艶がなく乾いた感じで、何だか練習用の安いヴァイオリンを弾いているような感じ。だから聴いていても殺伐としたイメージで、音楽以前に音が耳障りなので不快感が増してくる。こういうとはあまりない経験だ。また力感はたっぷりあり、弦に弓をぶつけていく感じで、エッジが立った擦過音が強く、音が硬く鋭い。緩やかなパッセージではレガートが効かずに尖ってしまうし、速いパッセージでは指が回っていないようで1音1音が短く流れがぎこちなくなる。曲全体のテンポもやや遅めになっていて、どうも音楽的にキレが悪い印象になってしまったが、これもカンブルランさんではなくラムスマさんの方に問題がありそうだ。今回の客演に対しては、あまり練習して来なかったのではないだろうか。演奏自体がギクシャクして旋律が歌わず、オーケストラとのアンサンブルも咬み合っていない。このようなレベルなら、わざわざ外国からソリストを呼ばなくとも、国内に遥かに優れた演奏をするヴァイオリニストは沢山いると思う。

 ところが、ラムスマさんのソロ・アンコールは意外に素晴らしかった。イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」の第4楽章だが、こちらの方は(オーケストラとのアンサンブルを気にしなくてよい分だけ)自由度が高く伸び伸びとしてして、音も艶やかで楽器がよく鳴っていた。鋭い弓捌きから来る硬質の音色と高音部を引っ張る艶っぽい音色が鮮やかな対比を見せたり、技巧的にも素晴らしいものがあった。やはりチャイコフスキーは練習不足だったのではないかと思わざるを得ない。

 一方、後半の「交響曲 第5番」は、久し振りに聴く名演であったといえる。音楽的な解釈は、カンブルランさんの独特なもので、ロシアっぽさは微塵も感じられなかったが、かといってフランス風の色彩感溢れるというわけでもなく、一風変わっていたが、強いて言うならば、読響の特性を知り尽くしたカンブルランさんだけに、オーケストラの機能性を最大限に引き出す音楽創りをしていたということだろう。ロシア的なものをあまり意識せずに、チャイコフスキーが書いたスコアから素直に美しい音楽を引き出して、抒情的な旋律は豊かに歌わせ、雄壮なリズムは躍動的に刻み、情感の詰まった和声を分厚く響かせていた。
 読響が久し振りにエンジン全開の演奏で、カンブルランさんの指揮に応えていた。なによりも素晴らしかったのは、コンサートマスターの長原幸太さんの率いる弦楽の迫力。立ち上がりの鋭いキレ味を見せ、瞬発力のある豊かな音量、分厚いアンサンブル、全員がひとつになったような一体感。このパワフルな弦楽があってこそ、金管が思いっきり鳴らせることができる。だから音が良い。ホルンもトランペットも晴れやかで輝かしく響き、トロンボーンは豪快に低音部を支える。そして木管はとてもカラフルだ。フルート、オーボエ、クラリネットがそれぞれの楽器の質感の高い音色を聴かせ、ファゴットはユーモラスに音を刻む。ティンパニも適度にダイナミックで、時に地響きのように轟くが、時にはやさしく軽快にリズムを叩き出す。とにかくすべてのパートが活き活きとしていた。読響の持っている本来のチカラを遺憾なく発揮した演奏だったと思う。
 ひとつだけ具体的なことを加えておくと、第2楽章のホルンのソロ。地平線まで続く広大なロシアの草原を、遠くの方から風に乗って聞こえて来る角笛のような、とでもいうべきか、静かな弱音で美しい旋律をゆったりと歌わせていた。この味わいは日本にオーケストラではあまり聴くことができない。雰囲気だけでなく高度な技術によるものだ。ロシアの一流オーケストラにも引けを取らない、素晴らしい演奏だったと思う。

 今日の読響は不思議な演奏会となった。前半の協奏曲をお目当てに聴きに行ったのに、ソチラの方はいささかガッカリ・ムードであった。そしてあまりアテにしていなかった後半の交響曲が途方もない快演。目から鱗が落ちる感じて、こんな解釈もあったのか、と感心してしまった。前半だけ聴いて帰ってしまった人がいたが、アラまぁ、もったいないことをしたものだ。まったく、コンサートは何が起こるか分からない。

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2/3(金)東京フィル/千葉市定期/小山実稚恵のグリーグP協奏曲とコバケン節「新世界から」

2017年02月03日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東京フィルハーモニー交響楽団 第49回 千葉市定期演奏会員

2017年2月3日(金)18:30〜 京葉銀行文化プラザ 音楽ホール 一般 1階 A列 10番 4,500円
指 揮:小林研一郎
ピアノ:小山実稚恵
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:依田真宣
【曲目】
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16*
《アンコール》
 スクリャービン:左手のための2つの小品 作品9より 第2曲「夜想曲」変ニ長調*
ドヴォルザーク:交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」
《アンコール》
 ブラームス:ハンガリー舞曲 第1番 ト短調
【曲目】

 東京フィルハーモニー交響楽団と千葉市の提携事業による「千葉市定期演奏会」。東京フィルの定期会員や東フィルフレンズになって久しく、しかも千葉市に住んでいながらこのシリーズについてはなかなか情報が入って来ない。従って過去に2〜3回しか聴いたことがないのは何とも不思議なところである。今回は東京フィルの会員として発売日にチケットを取ったので、逆にお好みの最前列、コンサートマスターの前の席を確保することができた。
 このシリーズは年間に3〜4回(詳しいことは知らない)のコンサートがあるようで、単体のプログラムが組まれることもあるようだが、今回は翌日に文京シビックホールで開催される「響きの森」シリーズと同プログラムということで、内容的にも充実して期待が持てた。「響きの森」シリーズの方が別のコンサートと重なり行けなくなってしまったので、かえって良い席を取れた「千葉市定期演奏会」を聴くことにした次第である。
 指揮は小林研一郎さん、ゲスト・ソリストは小山実稚恵さんで、グリーグのピアノ協奏曲とドヴォルザークの「新世界から」というちょっと遅めのニューイヤーコンサートといった趣きのコンサートとなった。

 前半はグリーグの「ピアノ協奏曲」。小山さんのピアノはある程度の力感を含み、ロマンティシズムとしっかりした造形が適度にバランスされた完成度の高い演奏。大人の気品が漂うというか、ベテランの域に届きつつあるというか、見事なものである。鍵盤側とはいえ最前列で聴いているので、ピアノの底から聞こえて来る雑味のある音が気になることは確かだが、本来の音色は美しく、しなやかに歌っている。
 一方、コバケンさんの指揮だが、テンポが遅めで、ねっとりと旋律を歌わせるコバケン節。グリーグの持つ北欧的な透明感や大自然の凛とした空気感というような感じは・・・・残念ながら乏しく、むしろ北欧の人々のドロドロとした情念を描いたような、人間味というか、泥臭さを感じさせる演奏であった。グリーグなんだから、ねっとり濃厚というのはあまりいただけないように思うが、どうだろうか。
 また、常にテンポが遅めだったためか、小山さんのピアノが乗りきれずにカラ回りしてしまうところが何度もあった。最近の一般的な傾向としても、もう少し速いテンポでサラリと流す方がピアノがリズムに乗りやすく、和声や旋律が美しく響くような気がする。あまり劇的な効果を狙うような曲ではなく、美しい自然の冷たい空気感を感じたいと思う。

 小山さんがソロ・アンコールで弾いてくれたスクリャービンの「左手のためのノクターン」の方がよほど自由度が高く、ロマンティックな表現がとても美しく、抒情的な情感に満ちていて、うっとりと聴き惚れてしまった。

 後半はドヴォルサークの交響曲「新世界から」。コチラの方は文句なしのコバケン節。毎度お馴染みの、といってしまえばそれまでだが、この「如何にも」といった感じが、これはこれで的を射た感じがしてなかなか良いのである。
 基本的には遅めのテンポ設定なのだが、要所要所でグンとテンポを上げたりしてメリハリを欠かさない。ダイナミックレンジを広く取り、わざとらしいくらいにドラマティックに音楽を創っていく。活発な主題は強めのアクセントを入れたり、タメを入れて間合いを巧く使う。穏やかな主題はあくまで優しく歌わせる。「炎のコバケン」の異名の通りに、熱い語り口が音楽にいっぱい溢れているのである。興が乗ってくると飛び出す「い゛〜」といううなり声もハッキリと聞こえて来た。
 コバケンさんの指揮に応える東京フィルの演奏も、いつもながらの素晴らしさ。弦楽の美しいアンサンブル、木管群の濃厚な色彩感(第2楽章のコールアングレによる「家路」のテーマも秀逸)、豊かな音量と艶やかな金管群など、音質的に優れているし、揺れるテンポやダイナミズムを描き出すしなやかな対応力など、全体的に「濃い」感じが東京フィルの持ち味。コバケンさんが振る時は、その濃厚さが一層強く出て、こういったスラブ系の土臭さを見事に表現してくれる。人によっては好みの別れる所ではあろうが、コバケンさんの音楽はいつ聴いても面白く、飽きさせないのである。

 アンコールはブラームスの「ハンガリー舞曲 第1番」。こちらもコバケンさんのお馴染みのアンコール・ピースの内の1曲。ねっとりと、濃厚に、泥臭く、人間味に溢れている。

 コバケンさんのコンサートはいつも大入り満員。719席を持つ京葉銀行文化プラザ・音楽ホールもほぼ満席だった。このホールは地元以外の人には馴染みがないと思うが、中規模のシューボックス型で、木調の内装。2階のバルコニー席がぐるりと巻いていて、紀尾井ホール(800席)を一回り小さくしたような感じである。音響は・・・音は素直に聞こえるが残響は長くはない。タイトでスッキリした音である。
 このように中規模ホールで、フルスケールのオーケストラのコンサートはちょっとキツイところがある。東京フィルが本気で鳴らせたら、音が行き場を失ってホールに満ちてしまい・・・ウルサイくらい。その辺りも、クラシック音楽のコンサートとしては、今ひとつ中途半端な印象も残してしまうのである。まあ、今日は演奏が良かったので、まあ良しとしよう。

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2/1(水)都民芸術フェス/N響/青木尚佳の優美なプロコVn協奏曲2番と高関健の雄渾のチャイコ4番

2017年02月01日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
2017 都民芸術フェスティバル 参加公演
オーケストラ・シリーズ No.48 NHK交響楽団


2017年2月1日(水)19:00〜 東京芸術劇場コンサートホール B席 1階 B列 17番 2,800円
指 揮:高関 建
ヴァイオリン:青木尚佳*
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:篠崎史紀
【曲目】
ショスタコーヴィチ:バレエ組曲 第1番
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト短調 作品63*
《アンコール》
 山田耕筰/今井 正編:この道*
チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 作品36
《アンコール》
 チャイコフスキー:「弦楽セレナード」より 第2楽章

 毎年開催されている「都民芸術フェスティバル」の「オーケストラ・シリーズ」は48回目を迎え、在京のプロ・オーケストラ8団体が出揃う春の大イベント。といっても今年は、1月13日の日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートから始まり、3月23日の東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団まで、2ヶ月以上にバラケるので、実際には音楽祭のような雰囲気はあまりない。各オーケストラは定期演奏会などの合間を縫って参加するということになる。2月は定期シリーズの公演がないオーケストラもあるので、この時期はスケジュールを組みやすいということもあるのだろう。各オーケストラが組むプログラムは完全に名曲もので、序曲ないしは短い管弦楽曲と協奏曲、そして交響曲またはそれに準ずる管弦楽曲という構成で、ちょっとクラシック音楽をかじったことがある人にとっては予習はまったく不要なレベルである。

 本日の公演は、NHK交響楽団。そもそも、東京芸術劇場コンサートホールのステージにN響が乗っているという絵面はあまり見慣れないので、妙な感じがする。しかも今日は、ステージ後方の反響板を上げていて、久し振りにパイプオルガン(クラシックなタイプの方)が顔を見せていた。今日のプログラムにはオルガンを使う曲はないので、なぜ反響板を上げたのかは分からないが、この状態だと残響は長いが音が拡散してしまうところがあるような気がする。ヴァイオリン協奏曲のように音量をあまり出さない曲の場合は3階の後方まで音がきちんと届くかが心配。金管が派手に鳴らされる後半のチャイコフスキーの交響曲に合わせたのであろうか。

 指揮は高関 健さん。派手さはないが、堅実で正統派の音楽を創る。
 ヴァイオリンのソリストは青木尚佳さん。先週には埼玉県北本市で、東京ヴィヴァルディ合奏団との共演でヴィヴァルディの「四季」全曲を演奏したばかりである。短い期間に2つの協奏曲を仕上げるのはなかなか大変だと思う。沢山のレパートリーを既に自分のモノにしている経験豊富な中堅やベテランの演奏家ならともかく、若手の演奏家にとっては協奏曲の演奏機会そのものが少なく、しかも初めて演奏する曲が続くことになる。もっとも尚佳さんの場合は、昨年2016年末の東京交響楽団の「第九と四季」で、「四季」の「春」と「冬」を演奏しているし、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番は、昨年6月の「仙台国際音楽コンクール」のファイナルで仙台フィルと演奏しているので、まったく初めての曲というわけではないが、それでも中3日で違う曲を演奏するのは、気持ちの切り替えなどの難しい面もあるのだろうと思う。そういった点から見ても、尚佳さんはプロの顔になりつつあるように見えるのである。

 実は今日はいささか体調が優れず、仕事が忙しい時期とも重なってかなり脳みそが疲れていた。尚佳さんのヴァイオリン協奏曲には神経を集中させなければならないから、高関さんとN響の皆さんには申し訳ないが、1曲目は意図的にチカラを抜いて聴き流すことに。ショスタコーヴィチの「バレエ組曲 第1番」はとても可愛らしい曲なので、ボンヤリしたアタマには優しく聞こえて来る。まあ、聴き流したということなので、レビューも割愛させていただこう。

 2曲目は、私にとってはメインとなるプロコフィエフの「ヴァイオリン協奏曲 第2番」。私は2列目のソリスト前で聴いていたわけだが、第1楽章が始まってとにかく驚かされたのは、尚佳さんのヴァイオリンの音がとても良かったこと。基本的に艶やかで潤いがあり、細部までくっきりとした造形を持っている。音の芯がしっかり腰が座っていて、1本筋が筋が通った上に多彩な色彩感が上乗せされていく感じ。次々と現れる主題(旋律)に対して、それらの曲想に応じて様々に変化する色彩を持ち、表現のバリエーションが非常に多い。極めて正確に音程と流れるようなレガートの効いたフレージング、艶っぽいヴィブラート、リズミカルなボウイング・・・・あくまで多彩で、隙がない。
 第2楽の緩徐楽章では、弦楽5部のピツィカートが刻む和声とリズム(N響もお見事!!)に乗せる抒情的で感傷的な主題が、淡々としているようで、実際は細やかなニュアンスに彩られている。ふと気が付くと、聴く者の心の中にすうっと入り込んでくるような、自然体の音楽に聞こえるが、注意深く耳を澄まして聴けば、ごくごくディテールに至るまで、しっかりと作り込まれていることがわかる。それが極めて音楽的で豊かな感性に彩られているので、自然体に聞こえて来るのだろう。それにしても美しい音色。先週聴いた「四季」における奔放さとはまったく違う側面を見せてくれている。最後のピツィカートによる主題にも歌う要素が詰まっていた。
 第3楽章はロンド。弾むような主題の提示。重音も美しく、弓を弾ませ、活き活きとしたリズム感。弾むリズムの中でも旋律は歌い踊っている。だから一見して混沌とした音楽であるにも関わらず、音楽に生身の人間の情感が埋め込まれていて、生命力を感じるのである。
 今日の尚佳さんの演奏は、もちろんN響との共演で東京でのコンチェルト・デビューということもあって、多少は緊張していたところはあったかもしれないが、結果的には目指している音楽作りが高いレベルでできていたような気がする。ソリストとしてあまり強く自己主張をするわけでもなく、ある程度抑制的な中で、しっかりと自分の音と表現をカタチにしていく。従ってあまり押し出しは強くないが、それは音楽が弱いということではない。極めて高い完成度を目指していることが分かる。おそらくは、同世代の普通のヴァイオリニストたちと比べても目指しているものが数ランク上なのだろう。だから現在の演奏はまだ「道の途中」には違いないと思うが、それでもすでに高い次元に到達していることもまた確かだと思う。Brava!!間違いなし。

 尚佳さんのソロ・アンコールは、山田耕筰作曲、今井 正編曲の「この道」。昨年、テレビ朝日の「報道ステーション」に出演した時のオリジナル曲だ。いわば自分の「持ち歌」であって、他の人が弾くことはないはず。曲の形式は「独奏ヴァイオリンによる『この道』に主題による変奏曲」。アンコール用に与えられた時間の関係で急遽この曲になったのだとか。「持ち歌」だけに演奏を重ねる度に素敵な演奏になっていく。今日は音色の美しさがとくに印象的だった。結果として芸劇の響きを味方に付けたということもあるのだろう。

 後半はチャイコフスキーの「交響曲第4番」。この曲の演奏については多くを語るまい。高関さんの端正で正統派の音楽創りに対して、N響も非常に素直な演奏で応えていたように思う。反響板を上げてしまった芸劇では、オーケストラの音が拡散してやや曖昧(?)な印象もあった。まあ、2列目で聴いているのでバランスが良くないのは承知の上だが、目の前の弦楽は透明感があるのに力強いアンサンブルで、これはN響ならでは。金管は上に抜けていってしまうが、この曲には合っている。間に挟まった木管が音量バランス的には弱く聞こえてしまい、その点が残念でならなかった。
 演奏自体はけっこうというか、客観的に見てかなり良いものだったと思う。もうすこし後方の席で聴いていれば文句なしであろう。ロシアっぽさだとか、チャイコフスキーっぽさだとか、そういうことはさておいて、スコアを素直に音に置き換えたようなイメージで、それがとびきりの高品質。そんな感じの演奏であった。

 終演後は関係者一同、楽屋にお邪魔することができた。芸劇はセキュリティが厳しく、なかなか入れてもらえないのだが、まあ今回は出演者の尚佳さん自らに案内してもらったので特別ということだろう。引き上げていくN響の皆さんの中に今日のコンサートマスターを務めた篠崎“まろ”史紀さんがいらして記念写真を。尚佳さんはジュニア・オケで子供の頃からまろさんにはお世話になっているというご関係なので、本日の成功を祝して表情も素敵だ。



 そう、尚佳さんの東京コンチェルト・デビューは成功に終わったと思う。本人は「無事終わって一安心」などと謙遜していたが、あの演奏のクオリティなら(しかもプロコフィエフで!!)どこのオーケストラに呼ばれてもまったく問題なしである。彼女はこの後、日本では4月29日にマリナートホールで静岡交響楽団とプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番を共演する(指揮は現田茂夫さん)。5月20日には習志野文化ホールで千葉交響楽団とチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で共演(指揮は山下一史さん)の予定。6月3日にはザ・シンフォニーホールで大阪交響楽団とブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を共演(指揮は外山雄三さん)、10月8日には岡山フィルハーモニック管弦楽団との共演で、こちらもブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番が予定されている(指揮はハンスイェルク・シェレンベルガーさん)。来年2018年の1月19日には仙台フィルハーモニー交響楽団との共演でハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲(指揮は今日と同じ高関健さん)、来年の2月3日には東京シティフィルハーモニック管弦楽団との共演でベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲が予定されている(指揮は飯守泰次郎さん)。
 こうしてみると、地方のオーケストラとの共演が続いているが、来年あたりからは東京のオーケストラにも呼ばれるようになってくるのではないだろうか。今後の活躍にますます期待がかかるところだ。
 

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1/28(土)東京ヴィヴァルディ合奏団+青木尚佳/「四季」全曲演奏は自由闊達で伸び伸びとした快演

2017年01月28日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
きたもとニューイヤーコンサート 2017
東京ヴィヴァルディ合奏団 ヴィヴァルディ『四季』全曲演奏会


2017年1月28日(土)14:00〜 北本市文化センター ホール 指定席 あ列 19番 3,000円(前売)
ヴァイオリン:青木尚佳*
弦楽合奏:東京ヴィヴァルディ合奏団
【曲目】
グリーグ:組曲「ホルベアの時代より」作品40
ラター:弦楽のための組曲(1973)
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』作品8より『四季』全曲
《アンコール》
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 ヴィヴァルデイ:『四季』より「冬」第2楽章

※詳細なレビューは後日改めてアップしますので、しばらくお待ち下さい。


【終演後の楽屋にて】



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