Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/12(日)NDRエルプフィル/アリス=紗良・オットの絶品ベートーヴェンP協3番とウルバンスキの「ツァラ」

2017年03月12日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東芝グランドコンサート2017
NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団


2017年3月12日(日)14:00〜 ミューザ川崎シンフォニーホール S席 1階 1C 1列 19番 17,000円
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
ピアノ:アリス=紗良・オット*
管弦楽:NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)
【曲目】
ベートーヴェン:序曲「レオノーレ」第3番 ハ長調 作品72b
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37*
《アンコール》
 グリーグ:組曲『ペールギュント』より「山の魔王の宮殿にて」*
R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30
《アンコール》
 ワーグナー:歌劇『ローエングリン』より 第3幕への前奏曲

 3月7日に引き続き、NDRエルプフィルハーモニー交響楽団のコンサートを聴く。本日からツアーの後半に入り、プログラムが一転してオール・ドイツ・プログラムとなった。今回のツアーを率いて来た首席客演指揮者のクシシュトフ・ウルバンスキさんにとっては、新たに獲得してきたレパートリーということだろう。オーケストラは北ドイツ・ハンブルクで70年の歴史を持つ、中堅どころであり、ドイツ・プログラムには定評がある。ハンブルク北ドイツ放送交響楽団の名は、過去のこのオーケストラを率いて来たハンス・シュミット=イッセルシュテット、ギュンター・ヴァント、クリストフ・エッシェンバッハ、クリストフ・フォン・ドホナーニらの指揮者たちはいずれも名だたる巨匠揃い。ドイツ音楽の伝統は遺伝子レベルでこのオーケストラに埋め込まれているはずだ。そこへ若いポーランド生まれのウルバンスキさんが当時要することによって、どんな化学変化が起こるのやら、期待と不安が入り乱れる・・・。

 もう一つの眼目は、お馴染みのアリス=紗良・オットさんが弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番だ。この曲は2015年にNHK交響楽団と共演しているが、アリスさんにとっては新しいレパートリーの1つで、わずか3年前に初めて演奏したのだという。今や世界中の一流オーケストラから引っ張りだこのアリスさん。ドイツを中心としたヨーロッパだけで亡く、アメリカやロシア、そしてアジアへと、まさにグローバルな活躍をしている。そんな超多忙なアリスさんだが、毎年来日してくれるのはファンにとっても嬉しい限り。今回も最前列の「足元」の席を確保できた。

 さて1曲目は「レオノーレ序曲 第3番」。歌劇『フィデリオ』が完成する途中の改定を繰り返していた際、まだ『レオノーレ』と題されていた頃の改訂版の序曲である。この序曲の人気は高く、コンサートでもしばしばプログラムに載るが、『フィデリオ』自体がオペラ界での評価がそれほど高くないために、クラシック音楽ファンの間でも『フィデリオ』を実舞台で鑑賞したり全曲を繰り返し聴いたりしている人はあまり多くないものと思われる。私は個人的に『フィデリオ』が昔から大好きで、戦前のワルターやトスカニーニから録音を聴いたりしているので、このオペラと序曲に関してはいささかこだわりがあるのだが・・・・。それは置いておいて・・・・。
 本日のエルプフィルの演奏は3月7日の時よりははるかに筋が1本通ったようになっていた。ウルバンスキさんの指揮では、序奏はゆったりとしたテンポでタメを十分に採った重厚なもの。そしてソナタ形式の主部に入り主題が出てくると、全体にレガートを効かせてしなやかに旋律を歌わせる感じになる。キレ味鋭くリズムを刻むのではなく、しなやかに流れるような演奏だ。これはウルバンスキさんの特徴だろう。途中、大臣の到着を知らせる伝令のトランペット・ソロがバンダで入るが、1回目はどこか遠くでほとんど聞こえなかった。2回目はホールの上の方の階の客席からだったようで、見たわけできないので定かではないが、こちらはよく聞こえた。再現部もレガートを効かせた演奏。急にテンポが上がるコーダに入るとオーケストラが少しバタつくクセが出てしまったが、一旦流れに乗ると最後は推進力で突っ走った。個人的には、オペラの序曲はもっとワクワク感を煽るような、リズム感がキレキレの方が好きなのだが・・・・。

 2曲目は「ピアノ協奏曲 第3番」。ベートーヴェンの5つのピアノ協奏曲の中では唯一の短調の曲。しかも運命の調(苦悩を通じて歓喜に至る)、ハ短調である。この曲が作られた時期(1800〜1803年)は「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた時期とも重なる。重苦しいハ短調の曲想はピアノによって激しく翻弄されるように展開し、迷走的な憧れの第2楽章を経て、終楽章ではハ短調が最後にはハ長調に転じて、一応の解決を見る。しかし「歓喜」にまでは至っていないように思える。非常に悩ましい曲である。
 裸足の天使、アリスさんの登場。足元の席なので、目の前にアリスさんの足が見える。最初から余談になるが、アリスさんはピアニストに向いていて手が大きいが、足も大きいことを発見した(失礼!)。足指を曲げてペダルを包み込むように踏む。これにより高速で繊細なペダール・ワークが可能になる・・・らしい。
 さて演奏の方はというと、この曲は第1楽章は古典的な協奏風ソナタ形式で、まずオーケストラだけで主題が提示されるわけだが、ここでもやはりウルバンスキさんの音楽が現れていて、どこかふわりとしていて柔らかい。ダイナミックレンジはそれなりに広く採っているので強弱に関してはメリハリがあるが、ヨコの流れはレガートとしなやかさ。ベートーヴェンが選んだハ短調に対しては意外にもエレガントな演奏になっている。オーケストラについては最後まで基本的には変わらない。
 アリスさんのピアノが入って来ると、また別の意味でエレガントな音楽が追加される。彼女のこの曲へのアプローチは、主題を初めとする旋律やフレーズに豊かなニュアンスを与え、スケール感も大きく歌わせて行く。音質もあえて煌びやかさを控えているが、透明感のある美しい音色と、レガートやスタッカートなどの使い分けが鮮やかで、豊かな表情と色彩感を作り出している。例によってピアノの真下で聴いているため、ビアノの底から出てくる雑味のある音が気になるところだが、アリスさんの場合はそれでも美しい音とフレージングが伝わって来る感じがする。むしろすぐ近くで聴いているからこそ、彼女のディテールまで繊細にコントロールされたキメ細かな音楽作りを肌で感じることができるのだと思う。ホールの響きに惑わされることがないからだ。カデンツァでは、それに自由度が加算される。
 第2楽章は緩徐楽章。ホ長調に転じ、憧れをいっぱい乗せた主題が描かれて行く。抒情的で極めて人間的な情感に溢れている。中間部は混沌としていて、再び迷いの中に彷徨い込んでしまう。このような穏やかで美しい音楽は、ウルバンスキさんとエルプフィルが描き出すのにピッタリかもしれない。またアリス=紗良・オットさんの透明感のあるピアノも曇りのない情感を描き出し、作曲者の感情を素直に表現できていたように思う。
 第3楽章はロンド。ハ短調に戻り、軽快さを伴いつつ悲哀の込められたロンド主題が回る。アリスさんのピアノには推進力があって前へ前へと進んで行きたがるが、オーケストラ側はリズムの立ち上がりがキリッとしないため、低音楽器や打楽器がちょっと遅れて聞こえて来るイメージだった。それでもアリスさんは上機嫌でノリの良い弾きっぷり。時折鼻歌が聞こえて来るのも最前列ならではの楽しみである。ダイナミックに弾むカデンツァを経てコーダはハ長調に転じていて、明るく終わるので鮮やかさが増す印象だ。

 アリスさんのソロ・アンコールは、グリーグの組曲『ペールギュント』より「山の魔王の宮殿にて」。だんだん速く、段々強くなっていき、最後は超絶技巧の嵐となる。今日は古典派のベートーヴェンに対してロマン派の超絶技巧を対比させた選曲も面白いし、何より強烈なインパクトのある演奏で、会場の聴衆を圧倒した。

 やはり改めて思うのだが、アリス=紗良・オットというピアニストは、タダモンじゃない。ただの美人ピアニストでもなければ、ただのヴィルトゥオーゾというわけでもない。彼女の最大の魅力は、国際的なスケール感といかにも日本人的な繊細で緻密な表現力。伸び伸びとした自由な感性、瑞々しい情感。そして豊かに歌う音楽性だ。今日のところはウルバンスキさんやエルプフィルよりも遥かに強い存在感を発揮していたと思う。持っているオーラがオーケストラを圧倒するくらいに強かった。

 プログラムの後半は、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。
 まず冒頭の誰でも知っている「序奏」は、出だしこそトランペットが平板な印象があったがすぐに持ち直して金管と打楽器とオルガンが織り成す壮麗な世界は、重厚にして豊潤な響きだ。だかやはり細部は合っていない。流れで音楽を作っていく。
 「背後の世界を説く人々について」は途中から現れる弦楽のコラールが柔らかく、そして分厚いアンサンブルを美しく聴かせ、この辺はいかにもシュトラウスといった感じが出ている。
 「おおいなる憧れについて」ではオルガンとオーケストラが対話するように、そしてやがて全合奏へと盛り上がって行くが、細かく刻まれる低弦がモゴモゴとして聴きづらいのは、アンサンブルのバラつきによるものか、あるいはホールの音響によるものか(もっとも最前列では音響も何もあったものではないが)。
 「歓喜と情熱について」はほぼオーケストラがフル稼働する。新しい動機が展開していくが、混沌の中から美しい旋律が浮かび上がって来るあたりのロマンティックな響きは、やはりドイツのオーケストラという感じだ。
 「墓の歌」では弦楽の各パートのトップが弦楽四重奏のようにオーケストラから分離してきて、こういう時こそは最前列で聴いていて良かったと思うところ。
 「学問について」は現代音楽わ先取りしたような12音による不許和音が不気味で重々しい。終盤には管楽器の各パートが入り乱れるが、ここはあまり色彩的な感じではなく、全体が渋い調子で同じ色調に整っている。こういうところはオーケストラの巧いところだと思う。
 「快癒しつつある者」はこれまで出て来た様々な動機が入り乱れて展開する。ソナタ形式で言えば展開部の後半の盛り上がるところ。
 「舞踏の歌」は全体の再現部に当たり、動機が再現されるが、ここでいうところの舞踏はワルツで現れる。独奏ヴァイオリンが甘く官能的な旋律を奏で、濃厚でロマン的なアンサンブルの展開は、後の『ばらの騎士』のワルツを彷彿とさせる。管楽器の書くパートにもソロが入るが、中でもホルンはふわりとした柔らかさがあって巧かった。最後のクライマックスに向けて盛り上がって行く様は、極めてシンフォニックな響きであるが、純音楽たる交響曲とは違う、標題音楽ならではの劇的なものがある(オペラに近いイメージ)。 
 「夜にさすらう者の歌」は沈静化していくコーダに相当する。独奏ヴァイオリンが甘く美しい。最後の方で、木管群の弱音と低弦のピツィカートの繰り返してデクレシェンドしていくところは難しいところだ。
 全体の印象としては、やはり、柔らかくしなやかで、エレガントという感じ。迸るようなエネルギーは感じられない代わりに流麗である。それが良いのかどうかは解らないが、何となくではあるが、音楽全体がドイツ語の語法で語られていないような印象であった。かといって何語だったのかと問われても困るのだが・・・・。

 アンコールはワーグナーの『ローエングリン』より「第3幕への前奏曲」。派手な曲で盛りあげ感動的な印象を残すには最適な選曲だ。

 今回のエルプフィルのツアーは、ちょっと期待していたものとは違っていた。ドイツのオーケストラだからドイツっぽい演奏と音を期待していたのは、こちらの勝手な思い入れなのかもしれない。新しい世代の指揮者たちは、新しい音楽を創り出していく。アリスさんの自由で瑞々しい感性やウルバンスキさんの柔らかくてしなやかな音楽を聴いていると、コチラの方が過去の亡霊に縛られてしまっているような気がしてきた。頑なにならずに心を開いて、新しい音楽を受け入れることも必要かもしれない。

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3/8(水)都民芸術フェス/東京交響楽団/上森祥平の「ドヴォコン」と山下一史の「展覧会の絵」

2017年03月08日 23時30分00秒 | クラシックコンサート
2017 都民芸術フェスティバル 参加公演
オーケストラ・シリーズ No.48 東京交響楽団


2017年3月8日(水)19:00〜 東京芸術劇場コンサートホール B席 1階 A列 18番 2,800円
指 揮:山下一史
チェロ:上森祥平*
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
【曲目】
メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」作品26
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104*
《アンコール》
 ブリテン:無伴奏チェロ組曲 第1番 作品72より「無窮動」*
ムソルグスキー/ラヴェル編:組曲「展覧会の絵」
《アンコール》
 ラヴェル:組曲『クープランの墓』より「リゴドーン」

 「2017 都民芸術フェスティバル」のオーケストラシリーズもいよいよ終盤となり、本日は東京交響楽団のコンサートである。指揮は山下一史さん。情熱的かつドラマティックな音楽作りを展開する人だ。

 1曲目はメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」。小舟が波間に揺れるイメージが描かれ、やがてゴツゴツとした岩場が見えてくるような演奏になる。東響の音は美しいが繊細過ぎるところが難であるが、山下さんの手によりダイナミックレンジを広げて劇的な描き方となった。金管と打楽器が強めにしてメリハリを出すが、弦楽がやや弱めなのが残念。

 2曲目はドヴォルザークの「チェロ協奏曲」。ソリストは上森祥平さん。この人のチェロを聴くのは初めてだと思う。まずオーケストラから始まるが、なかなかダイナミックに引き締まっていて、リズム感も良い感じにオーケストラがドライブされていく。第2主題のホルンも牧歌的な穏やかさを描き出す。上森さんのチェロが入って来る。音はキリッと立ち上がるがゆるりとしたテンポでレガートを効かせる。主部に入るとテンポを速めてキリキリと音を刻んでいく感じだ。第2主題はこれでもかとばかりに大きな節回しで歌わせる。最前列の指揮者の真後ろという位置で聴いている割りには、チェロの音量が地位サロに感じた。3階の後方席まで届いていただろうか。
 第2楽章は東響の木管群の巧さが際立っていた。それを山下さんが抒情性たっぷりに歌わせて行く。そこにチェロが絡みつくように入って来る。その色調はちょっと暗めで渋い質感を醸し出す。この翳りのある音色が長調に転じてもなかなか良い雰囲気を作り出していた。土臭い感傷(ホームシックのような・・・)の表現には合う音色だ。
 第3楽章に入ると、ちょっと暗めの音色は良いが、全体的に少々まったりとしていてインパクトが弱い感じ。どうしても線が細い感じになってしまい、オーケストラ側がメリハリを強く打ち出そうとするところとの間に、ギャップを感じた。だからフィナーレを力強く締めくくろうとしても肝心のチェロが少し大人しいように感じられてしまうのである。

 上森さんのソロ・アンコールは、ブリテンの「無伴奏チェロ組曲 第1番」より「無窮動」。その名の通り細かく刻まれた音形が無窮動敵に上下に駆け巡る。確かな技巧を感じさせる演奏だが、やはり音量が小さいような・・・。

 プログラムの後半はムソルグスキー/ラヴェル編で、組曲「展覧会の絵」。この曲を演奏させると、東響の木管や金管の持つ質感の高い色彩感が光る。山下さんの指揮では、全体的に主題旋律を大きく歌わせるのは良いが、少々まったりとレガートがかかり、いささかキレが甘く感じるような流れを作っている。冒頭のプロムナードのトランペットや、次のホルンもレガートの効いた演奏で、もちろんそれはそういう狙いで演奏しているので私などがとやかく言うべきではないが、個人的な好みでは、この曲はもう少し縦の線を明瞭にキリッとさせる方が良いと思う。
 しかし色彩的な美しさという点では素晴らしい。オーボエを中心に木管の質感が極めて高いため、原色に近い色彩イメージが湧いてくる。実に絵画的な表現になっていると思う。
 一方で弦楽に力感が不足気味なのは東響の特徴かもしれない。ヴァイオリンとヴィオラが線が細く、管楽器に負けてしまう。音色は透明感があってとても美しいだけに残念なところだ。最後の「キエフの大門」も美しいアンサンブルで聴かせてくれるのだが、壮大なイメージがなかなか湧いて来ない。やはり金管と打楽器が鳴っても弦楽の音量が足らないので、全体にエネルギー不足な感が否めないのである。

 アンコールはフランスものの流れで、ラヴェルの組曲『クープランの墓』より「リゴドーン」。このようにパワーを必要としない曲に関しては、東響は実に上手い。まさに絵画的な色彩感に溢れている。描かれる景色の空気までがリアリティを持っているような演奏である。

 今日の東響の演奏は、とても色彩的で美しく、素敵なコンサートになっていたのだが、ちょっと「もの足りない感」が残ってしまった。

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3/8(水)東京文化会館モーニング/白井菜々子のコントラバスは柔らかくしなやかで躍動的

2017年03月08日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
3/8(水)東京文化会館モーニング/白井菜々子のコントラバスは柔らかくしなやかで躍動的

東京文化会館 モーニングコンサート Vol.103 白井菜々子(コントラバス)

2017年3月8日(水)11:00〜 東京文化会館・小ホール 自由席 A列 33番 500円
コントラバス:白井菜々子 *第13回東京音楽コンクール弦楽部門第3位
ピアノ:山崎早登美
【曲目】
エルガー:愛の挨拶 作品12
シューベルト:アルペッジョーネ・ソナタ イ短調 D.821より 第1楽章
モンティ:チャルダッシュ
ボッテジーニ:コントラバス協奏曲 第2番 ロ短調
ボッテジーニ:グランド・アレグロ 「メンデルスゾーン風協奏曲」
《アンコール》
 ボッテジーニ:エレジー 第1番 ニ長調

 東京文化会館の「モーニングコンサート」シリーズは、小ホール/自由席/500円で平日の午前11時からの60分のコンサート。東京音楽コンクールの入賞者たちによるリサイタルなので、若手の音楽家たちに演奏の機会を提供してきた企画である。
 今回はコントラバスの白井菜々子さんのリサイタルである。白井さんは2015年の「第13回東京音楽コンクール」の弦楽部門で第3位を獲得した。コントラバス奏者が参加できるコンクールも少ないので、弦楽部門がある東京音コンで並み居るヴァイオリンやチェロの精鋭たちを抑えて第3位に入賞したのは快挙といえる素晴らしいことだ。私はその時、第2次予選と本選で彼女の演奏を聴いていて、すっかり魅了されてしまった。その後、彼女のコントラバスを聴ける機会がやっと訪れたのである。今日は午前中にもかかわらず仕事をコントロールして、随分前から楽しみにしていたのであった。そもそもコントラバスのリサイタルというのも珍しくてなかなか聴く機会も少ないはず。クラシック音楽通の人でも聴いたことがないという人がほとんどではないだろうか。私がコントラバスに拘るのは、昔少しだけ弾いていたことがあるからで、他の楽器よりはコントラバスのことを多少知っている(?)からなのである。ま、それはどうでも良いことだが・・・・。
 ちなみに今日は電車が遅れて会場に到着するのが大幅に遅れてしまったため、良い席が取れなかった。そのため、1列目ではあるが右ブロック。ピアノとフロン台の間にちょうど奏者と楽器が見える位置なので、まあまあといったところ。白井さんは4弦のコントラバスを使用しているが、エンドピンを短くして、低い位置に楽器を置き、立って演奏する。その際、左足のつま先をヒョイと上げて、楽器を支える独特のスタイル(ウィーンで教わったのだとか)を採るのだが、右側の席位置からはそれがよく見えた。

 さて60分のリサイタルを開くにあたっても、上記の曲目を見れば分かるように、コントラバスはソロで弾けるような曲が極端に少ないのである。エルガーの「愛の挨拶」は誰でも知っている名曲だが、ピアノ曲またはヴァイオリンとピアノのための曲として知られている。シューベルトの「アルペッジョーネ・ソナタ」はアルペッジョーネという現在はほとんど存在しない楽器のために書かれた曲で、今ではヴィオラやチェロで演奏されることがある(ヴィオラもソロの曲が少ないので・・・・)。モンティの「チャルダッシュ」は元々はマンドリンのために書かれた曲だが現在ではヴァイオリンの超絶技巧曲の定番になっていて、時々チェロでの演奏を聴くことがある。
 ということで、コントラバスのために書かれた曲は、ボッテジーニだけ。この作曲家の名前もコントラバスに関心のない人にはほとんど知られていないと思われる。ジョヴァンニ・ボッテジーニ(1821〜1889)はイタリアの作曲家であり、「コントラバスのパガニーニ」と呼ばれるほどのコントラバスの名手であった。そのため、コントラバスのための単独の曲を数多く残したが、現在のコントラバス奏者にとっては唯一無二の作曲家といえるほどの存在である。ロマン派時代の人だがイタリア出身ということもあって、その曲相は伸びやかで歌謡的な旋律が美しい。コントラバスのことを知り尽くしているので、音程を聴き取りにくい低音域を巧みに使いつつ、チェロの音域と重なる中〜高音域ではチェロよりも太い音色を巧く使った曲作りをしている。

 白井さんは、15歳からコントラバスを始めたという。この楽器を子供の時からやる人はいない。楽器が大きすぎるからだ(小さな分数楽器もあることはあるらしいが・・・)。一般的には、吹奏楽の弦バスとして始める人が多いようである。才能というのは恐ろしいもので、15歳から始めた白井さんは、2008年に桐朋学園大学に進学し、2010年から4年間はウィーン国立音楽大学に留学、2014年に帰国して現在は東京音楽大学大学院修士課程に特別特待奨学生として在籍中とのことだ。私も同じ15歳の時にコントラバスを始めたクチだが、才能のカケラもなく、間もなく引退・・・・。


 さて前置きが大変長くなってしまった。本日の演奏についてレビューしよう。
 1曲目はエルガーの「愛の挨拶」。チェロでの演奏は時々聴くことがあるが、その聴き慣れた曲もコントラバスになると雰囲気が違う。1オクターブ低くお腹にビリリと伝わって来る独特の音は、伴奏ピアノの高音域よりもかなり低く離れていて、ちょっと不思議な音楽空間を創り出す。白井さんの演奏は暖色系の明るい音色で、とても柔らかく滑らか。ゴツゴツしたコントラバスのイメージからはかけ離れた優しい雰囲気が意外であり同時に嬉しかった。

 2曲目はシューベルトの「アルペッジョーネ・ソナタ」の第1楽章。前述のように現在はアルペッジョーネという楽器はほとんど見ることができない。シューベルトの時代の19世紀に誕生したこの楽器は、チェロとギターを掛け合わせたような構造で、弓で弾く擦弦楽器だが6弦で、ギターのように指板にフレットがある。ごく短期間で廃れてしまったため、アルペッジョーネ用の楽曲はごく少ないが、シューベルトのこの曲は親しまれ続けて、現在でもヴィオラやチェロで演奏されることがあり、昨年にはヴィオラの安達真理さんがリサイタルで演奏するのを聴いた
 哀愁を帯びた主題は1度聴いただけで耳に残るほどの親しみやすい旋律。コントラバスで弾く場合はおそらくチェロ用の楽譜を使うのだろうが、コントラバスとしては高音域が多くなり、難しそうだ。白井さんの演奏はどの音域でも極めて正確な音程で、あくまで滑らかに旋律を歌わせる。やはりあまり聴き慣れない低音域での主旋律の動きは、かなり独特の世界を創り出す。低音域で主旋律が大きく歌うというのはなかなか聴く機会がないので新鮮な響きに聞こえる。また速いパッセージでも明瞭な音でとても鮮やかな印象を描き出していた。抒情的な表現も柔らかくふくよかである。男性的な楽器と思われがちなコントラバスだが、こうした女性的で柔らかな演奏はとても新鮮に思えた。

 3曲目はモンティの「チャルダッシュ」。ヴァイオリンではよく聴くことがあるが、たまにチェロでの演奏に出会うこともある。しかしこの曲をヴァイオリンのようなテンポでチェロで弾くとかなり技巧的に難しくなってくる。弦が長くなるために運指の動きが大きくなってしまうためだ。それをさらに弦の長いコントラバスで弾くとなると・・・・。
 ところが白井さんは難なく弾いてしまう。さすがにテンポはヴァイオリンよりは遅めになるし、音域が低いために派手さがなくなってしまうものの、演奏そのものは高速パッセージでも正確で、リズム感も流れも良い。超絶技巧といってしまうのは簡単だが、集中力と体力も含んでのことだ。そう、コントラバスは疲れるのだ。

 つづいていよいよボッテジーニの曲が登場。「コントラバス協奏曲 第2番」である。この曲は、彼女が東京音コンの本選会で、オーケストラと演奏しているのを聴いている。要するにコントラバス界では名曲中の名曲なのである。15分くらいの曲だが3楽章構成でカデンツァもあり、形式的にも本格的な協奏曲になっている。
 第1楽章は第1主題がパガニーニらと通じるイタリアならではの歌謡的な旋律だ。さすがにボッテジーニの曲は、コントラバスの機能性を完全に網羅し、全音域を見事に使って華やかで技巧的、そして旋律が美しい。とても魅力的な曲を作っている。白井さんの演奏は、陽気なリズムに乗り、柔らかくしなやかな表現力、温かみのある音色で、この曲の魅力を引き出していると思う。カデンツァもお見事。
 第2楽章はさらに歌謡的で、大らかに、抒情的な歌う。とても美しい旋律であり、逆のヴァイオリン用に編曲すれば人気が出そうだ。主旋律はチェロと同じような音域のため聴き取りやすく、装飾的なパッセージが低音部から駆け上がる時のズシンとくる重みはコントラバスならでは。幅というか、奥行きを感じさせる音だ。
 第3楽章も主題は歌謡的でリズム感が躍動する。この曲の良いところは、独奏コントラバスとオーケストラ(本日はピアノ)が交互に対話するように展開していくので、聴き取りにくい低音域のコントラバスであっても、くっきりと明瞭に聞こえるように作られているところだ。もちろん白井さんの演奏は素晴らしく、しなやかで躍動的で、コントラバスでこれほど豊かな音楽性を発揮できること自体が文句なしのBrava!!である。

 最後は、ボッテジーニの「グランド・アレグロ」と呼ばれる曲で別名「メンデルスゾーン風協奏曲」。これは有名なメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をモチーフにして、主題を違う旋律に置き換え、同じような構成の曲に仕上げたというもの。聴いているとナルホドというところが随所に感じられて面白い。曲相が歌謡的なイタリア音楽からドイツ風の器楽的な造形になっているところも楽しい。オーケストラ版で聴くとより分かりやすいはずだ。
 いかにもヴァイオリン協奏曲のような華麗で華やかな技巧を披露するように作られているが、白井さんの演奏技術の高さがよくわかる。ややドイツ風のイメージになっても、伸びやかで暖色系の音色に変わりはなく、リズムにのってよく歌わせる。ゴツゴツしたイメージがなく、明るく軽快で屈託がないところが、とても魅力的な演奏である。

 アンコールは、やはりボッテジーニで「エレジー 第1番」。これがまたとても素敵な曲。エレジー(悲歌)とは思えないほど、ロマンティックな憧れがいっぱいの曲なのである。ボッテジーニはコントラバスのことを知り尽くしているだけでなく、コントラバスが大好きだったということが、そんな思いがいっぱい詰まった曲に聞こえる。そういう意味では、本日の白井さんの演奏の中で、一番ロマンティックで、旋律が豊かに歌っていたような気がする。素敵な演奏であった。

 終演後、若手の演奏家のコンサートでは、たいていロビーに出て来てくださるので、タイミングをみてご挨拶を交わす。コントラバス奏者はリサイタルや協奏曲の機会が本当に少ないので、こうして交流の場を持てるのも次はいつのことになるか分からないだけに、貴重な時間であった。機会があれば、今後ももちろん聴き続けたいアーティストのリストの上位の方にランク・インしたことは間違いない。まだ聴いたことがない人は「えー、コントラバスなんて」などと言わずに、是非聴いて欲しい。必ず新しい発見があるはずである。

 さて「モーニングコンサート」シリーズは、実は今回が最終回。4月からは「上野deクラシック」というシリーズにリニューアルされる予定になっている。変わる点は、モーニングだけでなく、マチネーやソワレで開催されることもあり、チケット価格も500円均一だったものが内容や出演者によって500円〜1500円に設定されること。発表されているプログラムの中にも、いくつか聴きたいものがある。ただ、開催時間帯が変わったとしても、自由席には違いないので、早く行って並ばなければならないところが・・・・ツライ。

 ついでだからコントラバスに関するミニ知識を。
 コントラバスは、単独で演奏される楽器とはほとんど認識されておらず、オーケストラや弦楽合奏の中で弦楽5部の最低音部を受け持っていることは知られている。その形状から、ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロ→コントラバスという風に段々大きくなり音域が下がっていくので、ヴァイオリンの仲間(ヴァイオリン属という)と思われがちだが、実はコントラバスだけは現在はほとんど使われなくなったヴィオール属と呼ばれるヴィオラ・ダ・ガンバの仲間に起原があり、現代に残る特徴としては、胴がなで肩でヴァイオリン属とはよく見ると形が違うことや、調弦が4度(ヴァイオリン属は5度調弦)であること、弓の持ち方がジャーマン・ボウ(ヴァイオリン属はフレンチ・ボウ)であること、などがある。ヴィオラ・ダ・ガンバは竿の指板にフレットがあったが、コントラバスにはない。これはヴァイオリン属との合奏に応じてチェロに近づいていったからだろうか。現代のコントラバスには4弦の楽器と5弦の楽器があるが、その調弦は、高い方からG-D-A-Eの4度調弦で、5弦の楽器では低い方にC弦が加わるのが一般的である。これにより、チェロの最低音Cよりも1オクターヴ低い音が出せるようになる。記譜はチェロと同じへ音譜表だが、実際には楽譜よりも1オクターブ低い音が出る。コントラバスはその名の通り、本来のバスの音域であるチェロよりも倍低いのである(英語ではダブルベースとも呼ばれている)。

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3/7(火)NDRエルプフィル/やや不満が残る庄司紗矢香のプロコVn協奏曲1番とウルバンスキの「新世界より」

2017年03月07日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東芝グランドコンサート2017
NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団


2017年3月7日(火)19:00〜 Bunkamuraオーチャードホール A席 1階 6列 19番 13,000円
指 揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
ヴァイオリン:庄司紗矢香*
管弦楽:NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)
【曲目】
グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19*
《アンコール》
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 BWV1003より 第3楽章「アンダンテ」*
ドヴォルザーク:交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界より」
《アンコール》
 ドヴォルザーク:スラヴ舞曲 第1集 作品46より 第8番 ト短調

 毎年恒例の「東芝グランドコンサート」、今年はNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団である(旧ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)。率いてくるのは2015年9月から首席客演指揮者のポストに就いているクシシュトフ・ウルバンスキさん。彼は2013年4月から2016年6月まで東京交響楽団の首席客演指揮者を務めたことで日本でもすっかりお馴染みになっている指揮者だ。ポーランド出身の34歳。東響では東欧やロシアの作曲家を多く採り上げていた。日本のオーケストラにポストを持っていた人が海外のオーケストラのツアーを率いて来ても、何となく新鮮味に欠けるような気がしてしまうのは、その音楽的な傾向を知っているからだ。しかし彼が北ドイツのハンブルクにポストを得たということは、ドイツもののレパートリーが確実に評価されているということなのだろう。
 今回のエルプフィルの日本ツアーでは、本日3/7が初日で東京、3/8仙台、3/11名古屋、3/12川﨑、3/14福岡、3/15大阪というふうに合わせて6公演が予定されている。その内前半の3公演が本日と同じプログラム、後半の3公演は別プログラムで、ベートーヴェンやリヒャルト・シュトラウスなどのドイツものになっている(そちらは川﨑の公演にも行く予定なのでその際に詳しく伝えたい)。

 さてツアー初日の今日、会場はBunkamuraオーチャードホールである。サントリーホールが改修工事で使えないためか、外来オーケストラのみならず日本のオーケストラも会場探しに苦慮したところだ。オーチャードではいつもNHK交響楽団を聴いているが、基本的にはあまり行かないところなので、音響の傾向もあまり掴めていない。今日もいつものように最前列のセンター(ステージ拡張のため6列が最前列となる)。ステージが比較的高いので、音がアタマの上を飛んで行ってしまう感覚なので、ヴァイオリン協奏曲以外はあまり期待していなかった。

 さてエルプフィルは「ハンブルク北ドイツ放送交響楽団」が名称変更したもので、かつてのイメージは無骨で硬いというか渋いというか、そんな感じであったが、今日聴いてみると、これがまた随分とエレガントな音になっていた。ウルバンスキさんのちょっとクネクネしたしなやかさによるものなのか、オーケストラそのものが変わったのか。あるいはツアー初日で時差ボケも手伝っていたのか・・・・。

 1曲目の『ルスランとリュドミラ』序曲は、あまり体調が良くないときに演奏すべき曲ではないと思う。超高速のパッセージで始まる序奏から第1主題へと、オーケストラが目覚めていない。アンサンブルの縦の線が合っていないのでドタバタしているのに、それを気にしないで雰囲気で流している感じの演奏だ。そもそもウルバンスキさんは拍をしっかりと刻むような指揮ではないので、流れを重視するタイプだと思う。まあ、それでも元気いっぱい、躍動的でダイナミックな演奏であった。

 2曲目はプロコフィエフの「ヴァイオリン協奏曲 第1番」。ソリストはツアー前半の3公演を受け持つ庄司紗矢香さん。いつものような緊張感の張りつめたような演奏で曲が始まる。もともとちょっと捕らえどころのないような曲ではあるが、それは急-緩-急という普通の協奏曲の楽章構成ではなく、緩-急-緩という逆の構成になっていることや、ソナタ形式の楽章を持たないことなどが原因だと思われる。基本的には抒情的な曲想だがその中に先鋭的な先進性が含まれていることもある。
 庄司さんのヴァイオリンは、今回はとくに感じたのだが、音量があまり出ていない。オーケストラ側もかなり抑制的に寄り添わせていたが、全体的に繊細でやや力感に乏しく感じたものである。オーチャードホールは奥に細長いので、3階の後方席まで音が届いたかどうか心配になるくらい。この曲のソロ・ヴァイオリンは演奏の仕方によってはかなり多彩な音色で表現されるはずで、第1楽章のちょっと斜めに構えたようなロマンティシズムや第2楽章のおどけた諧謔性など、多様な演奏法が駆使されている。その点でも庄司さんのヴァイオリンは独特の緊張感を孕みつつ、多彩な表現を見事に演奏しているのだが、表現の幅が繊細すぎて、遠くまでは伝わらなかったのではなかろうか。私は最前列で聴いていてそう感じてしまった。
 庄司さんのソロ・アンコールは、バッハの「アンダンテ」。こちらは手慣れた感じの演奏ではあったがさすがに巧いものである。ただ、このオーチャードホールは天上がかなり高く音が大きく広がってしまうために、ヴァイオリンには向いていないホールだとつくづく感じた次第。

 後半はドヴォルサークの交響曲「新世界より」。やはりここでも感じたのは、オーケストラが目覚めていない感じだった。やはり初日だけあって時差の問題がまだ解消していなかったのかも。序奏の段階から、管楽器の縦の線がかなりバラけてしまっている。何もピタリと合わせれば良いということではないが、何だか緊張感が薄れていってしまう。だから全体に緩〜い感じ。つまりキレがないのである。これはウルバンスキさんの持ち味でもあって、音楽の流れを重視するタイプの音楽作りの結果でもあるようだ。とにかく全体がまったりとした音楽なのである。だがそれでは旋律が豊かに歌っていたかというと、必ずしもそうではなかったような気がして・・・・。
 逆の見方をすると、音楽全体がしなやかでとても上品に聞こえる。ドヴォルザークの持つ土臭いところがなく、美しくエレガントなのである。後は好みの問題になるだろう。
 余談になるが、第2楽章の「家路」のテーマのコールアングレのソロの部分で、かなり大きな咳をしている人がいた。ホール全体の人が耳を澄ませて聴き入る部分だけに、あまりにも無神経すぎる。我慢することができなかったのだろうか。
 アンコールの「スラブ舞曲 第8番」もオーケストラがバラけていて混沌とした音楽になっていたように感じた。

 というわけで、本日のエルプフィルは、あくまで個人的な見解だが、あまり見るべきところがなく不満か゛の凝ってしまった。ウルバンスキさんで聴くなら東京交響楽団の方がよほど上手いと思う。5日後の3/12にミューザ川崎でもう一度聴くことになっているので、それまでに時差ボケを解消して(?)素敵な演奏を聴かせてくれることを期待したい。

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3/5(日)CHANEL Pygmalion Days/毛利文香/たった1時間でも「クロイツェル」メインの重量級プログラム

2017年03月05日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
CHANEL Pygmalion Days/毛利文香

2017年3月5日(日)17:00〜 CHANEL NEXUS HALL 自由席 3列左ブロック 無料招待
ヴァイオリン:毛利文香
ピアノ:原嶋 唯
【曲目】
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 9番 イ長調 作品47「クロイツェル」
ラヴェル:ツィガーヌ
《アンコール》
 フォーレ:夢のあとに

 「CHANEL Pygmalion Days」の2017シーズンが始まっている。今年のアーティストは、ヴァイオリンの毛利文香さん、チェロの笹沼 樹さん、ソプラノの嘉目真木子さん、ピアノの務川慧悟さん、小野田有紗さんの5名。毛利さんはこれまでにもけっこう聴く機会があったが、室内楽が多く、協奏曲は一昨年2015年12月の東京交響楽団の「第九と四季」を最前列で聴いているが、リサイタルはどういうわけかタイミングが合わず聴いたことがなかった。チケットを取っていたのに行けなかったこともあるくらいである。本日は「CHANEL Pygmalion Days」の毛利さんの今期第1回であり、私も初めてリサイタルを聴くのでとても楽しみであった。

 この機会に毛利さんについて簡単に紹介しておこう。彼女は、桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマ・コース、および洗足学園音楽大学アンサンブルアカデミーを修了しているが、大学は音大ではなく現在、慶應義塾大学文学部在学中という才媛でもある(ただし休学しているらしい)。2015年9月よりドイツの弦楽器が専門のクロンベルク・アカデミーに留学中。2015年の第54回パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで第2位となったが、エリザベート王妃国際音楽コンクールは第6位でちょっと惜しかった。いずれにしても素晴らしい才能の持ち主であることは間違いない。


毛利文香さん 〜CHANELのメイクはいつも女性を美しく輝かせる〜

 ピアノは原嶋 唯さん。彼女は昨年7月のヴィオラの田原綾子さんとのデュオ・リサイタルで知遇を得た。桐朋学園大学を今年卒業するとのこと。この年代の若手には世界に飛び出していって研鑽を積んだり活躍している逸材がいっぱいいる。彼女たちももちろん日本の音楽界を背負っていく人材なのである。

 さて、本日のプログラムは、ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」とラヴェルの「ツィガーヌ」の2曲。「CHANEL Pygmalion Days」はアーティストが全6回のリサイタルのプログラムを自由に組めるので、本日のプログラムには毛利さんの決意のようなものが感じられる。とくに「クロイツェル」は、ロマン派以降の超絶技巧曲などとはタイプは異なるが、ヴァイオリン・ソナタの傑作中の傑作で、私もこの曲が音楽史上の最高傑作だと信じている。要するにベートーヴェンそのもの。うっかり触ると怪我をするくらいに、抜き身のような鋭さがあり、ベートーヴェンの魂がむき出しになっているような曲なのである。だからこの曲に挑戦するということは、ベートーヴェンに対して真っ向から勝負を挑むというか、まあ戦いではないので勝負ということはないとしても、本気の度合いが計られることは確か。少なくとも、聴いている側も「クロイツェル」がちゃんと弾けるかどうかが、そのアーティストの試金石になると、捉えてしまうのである。
 そしてもう一つの問題点は、これは条件面のことだが、CHANEL NEXUS HALLの音響が味方にならないということ。このホールは音が響かず、残響がないに近い。ピアノならペダルの使い方で工夫ができるが、擦弦楽器のヴァイオリンでは、弓を止めた瞬間に音がピタッと消えてしまうのである。このようなデッドな音響空間においては、演奏家が作る音が丸裸にされて聴き手に直接届く。それがサロン・コンサートの醍醐味だという人もいるが、よほど上手くないと、あるいは集中を欠くと、アラが目立ち聴き手に心地よい音楽を届けられなくなってしまう。

 なぜ敢えてこのような厳しい言い方をしているのかというと、それ以上に毛利さんの演奏にチカラがあったからだ。
 第1楽章は序奏からヴァイオリンのピュアな音が伝わってくる。響かないというのはこういうことか、というくらいに重音の2つの音がくっきり聞こえ、そのバランスの細やかなニュアンスまで手に取るように分かる。ソナタ形式の主部に入ると立ち上がりの鋭いタッチで主題を力強く打ち出してくる。それでもアグレッシブになりすぎないところが良い。第2主題は優しく歌わせるが緊張感を保っている。続く経過句には力感が満ち、推進力がグッと増してくる。提示部をリピートして、楽曲としての造形もしっかりと構築していく。展開部はメリハリを効かせて緊張感を高く保っち、再現部は第1主題、第2主題ともきっちり丁寧に再現する。激しい曲相の経過句を過ぎて、コーダの最後は魂の叫びを叩き付けるようなフィニッシュだった。
 第2楽章は変奏曲形式の緩徐楽章。主題の提示はAndanteにしてはやや速めのテンポだろうか。抒情的な主題をゆったりと歌わせるというタイプの演奏ではなく、淡々とした造形の中によく聴くと細やかなニュアンスを忍ばせ、さりげなく彩りに深みを与えている。第1変奏はピアノがメインに活躍。第2変奏は快調なテンポに乗せてメリハリを効かせ、立ち上がりのキリッとしたボウイングで聴く者に鋭く迫ってくる。短調に転じる第3変奏は悩ましげな音楽の中に強めの主張を込め、聴く者を休ませない。第4変奏はピツィカートと弓の対比を美しい音色で描き出してくる。高音域の旋律がまさにピュアな音で繊細にして優美、それでいて緊張感の高い演奏で、絶妙の情感を描き出していた。
 第3楽章はPresto、ソナタ形式のタランテラ。細かな音形が踊るような第1主題は弓が弾むよう。細かく刻まれる速いパッセージの経過句は、低音部では激しく感情的な表現にもなり、高音域では高い緊張を生み出す。技術的にはダイナミックレンジも広く、音色の変化も多彩で、表情が目まぐるしく変わるように、感情的な表現力も幅か広い。フィニッシュは圧倒的な推進力で弾ききった。この楽章は技巧的な面に意識を取られがちだが、むしろ情感の表現の多彩さが、毛利さんのスケールの大きさを感じさせた。

 短い休憩を挟んで後半はラヴェルの「ツィガーヌ」。こちらはこちらで前半は完全に無伴奏のソロが延々と続く。この響かない環境での無伴奏というのもけっこうキツイものがありそうだが、毛利さんの演奏は幾分緊張感が薄れてきたのか、ソロ部分から楽器が豊かに鳴り出したように感じた。ロマ系の熱い血潮が騒ぐような、強い情熱を訴えかけてくる。伴奏がないだけに自由度が高く、実に伸び伸びとしたスケール感の大きな演奏になった。高度な重音奏法による表現もアグレッシブだ。ピアノが入って来ると自由度は幾分制限されるようになるが、その分だけ音楽的な厚みが増して来て、それはそれで素晴らしい。随所に散りばめられているフラジオレットや左手のピツィカートなどの技巧的な部分も見事にこなしている。ピアノの描き出す不協和音のゴツゴツした音形と、一方ではフランス音楽らしいキラキラと煌めくような色彩感が交互に現れてきて、民俗調の音階を持つヴァイオリンとの間に多彩な音楽が展開している。「ツィガーヌ」は様々な要素がふんだんに盛り込まれたかなり難易度の高い曲だとは思うが、毛利さんも原嶋さんもそれぞれの持ち味を発揮した素敵な演奏であった。

 アンコールはぐっと雰囲気を変えてフォーレの「夢のあとに」。無限の空間を彷徨うような、息の長いロマン的な旋律を、毛利さんのヴァイオリンは非常にゆったりと、情感を込めて歌わせる。ここでの音色はあくまで優しく、絹の上を滑るように滑らかで美しい。「クロイツェル」と「ツィガーヌ」という精神性の強い曲の後だけに、昂ぶった神経をやさしく癒してくれる心憎い選曲であった。


 終演後は、毛利さんとお話しすることができた(原嶋さんとも)。実はきちんとお話しするのは初めてなのだが、何度も顔を合わせているので初めてという感じがしなかった。初めてのCHANELのリサイタルなので緊張したところもあったようだが、この会場の難しさも感じ取ったことだろう。お二人とも今年が大学を卒業する年次に当たり、この後は海外と日本を行ったり来たりしながら、さらなる研鑽と演奏活動の日々となる。今年度中にあと5回のリサイタルが予定されているので、留学の成果も含めて、こういったサロン会場での表現方法なども課題として、さらなる飛躍を期待できそうである。またCHANELで聴く機会があれば良いのだが・・・・。

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3/4(土)読響/千葉特別演奏会/代役小林愛実のシューマンピアノ協奏曲/尾高忠明のエレガントな名曲たち

2017年03月04日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 千葉特別演奏会

2017年3月4日(土)15:00〜 千葉県文化会館・大ホール A席 1階 1列 23番 4,050円(会員割引)
指 揮:尾高忠明
ピアノ:仲道郁代 → 小林愛実*
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:長原幸太
【曲目】
スメタナ:連作交響詩『我が祖国』より「モルダウ」
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54*
ディーリアス:歌劇『村のロミオとジュリエット』より間奏曲「楽園への道」
エルガー:行進曲「威風堂々」第1番
シベリウス:悲しきワルツ
ラヴェル:ボレロ

 長年複数のシリーズの定期会員になっているので、わざわざ特別演奏会まで聴かなくてもよいのだが、地元千葉に久々に読売日本交響楽団がやって来るというので、スケジュールも空いていたということもあり、読響の会員割引も効くことも手伝って、チケットを取ろうとしたら、最前列のソリスト正面が取れてしまった。曲目は地方公演にありがちな名曲もので、指揮は尾高忠明さん。実は前日マチネーで同プログラムでパルテノン多摩でも行われていたものである。名曲ものといっても目玉はシューマンのピアノ協奏曲。仲道郁代さんが演奏する予定であったが・・・・急な体調不良により降板、急遽代役にたったのは、若手の急成長株、小林愛実さんであった。
 私は前日、開演時刻を確認しようと思いホームページを見たら出演者変更のお知らせが掲載されていて知った。とくに読響や千葉県文化会館からの連絡があったわけでもないので、おそらく多くの人が会場に来て知ったのであろう。出演者が変わったことに不満があるわけではないが、事前に何らかの方法で告知できなかったものかとも思う。WEBはコチラから見に行かなければならないので、情報を「発信」していることにはならないからである。

 さて、そのシューマンのピアノ協奏曲についてから。今回のようにソリストの突然の降板により急遽抜擢される若手の場合、そこで素晴らしい演奏を披露して一気に評価を高めスター街道への足掛かりになるような場合と、そうは問屋が卸さず「あの人と比べると」という評価をされてしまう場合がある。
 今回の小林さんの場合は、いわばベテランの仲道さんと比較すればフレッシュで瑞々しい感性に溢れた演奏であったと思う。素晴らしい演奏だとは思った。だが懸念していた通り、あまりにも突然の代役であったためか、曲を十分に弾き込んでいない印象があった。抒情的な旋律の歌わせ方や、技巧的なパッセージでの指の回り具合など、ややスムーズさに欠け演奏が強ばっている(あるいは肩に力が入っている)ように感じられたのである。つまり解釈や表現には瑞々しい感性があり、豊かな音楽性を感じさせるものであったが、その表現を100%できるだけの準備をする時間が短すぎたということであろう。だから、彼女の才能に疑いを持つことは全くないが、今回の演奏に関しては、100%の能力を発揮できていなかったように思う。
 さらに、演奏の条件も良くなかった。連日のコンサートともマチネーであり、しかも地方公演であるから(多摩市とと千葉市)移動にも時間がかかり、ホールでのリハーサル(ゲネプロ)の時間が長く取れない。またホール環境が違うので響きや音量をチェックするのも大変だったと思われる。さらには音響の極端に良くない千葉県文化会館・大ホールと、ホールのスタインウェイのメンテナンスが悪く、鳴りがかなり悪いという悪条件が重なる。これではどう考えても気持ちよく演奏ができるわけがなく、本番も緊張が強いられたことだろう。
 というわけで色々と書いてしまったが、繰り返すが私は彼女の才能に疑いをまったく持っていないので、もっと条件の良い環境で、伸び伸びと演奏させてあげたいと切に願っている。

 シューマン以外のオーケストラの曲に関しては、簡単に述べるに留めたい。何しろいつも聴いている読響なので、このような名曲ものの場合、あまり良いの悪いの論評してもあまり意味がないように思うのである。
 1曲目の「モルダウ」は冒頭の弦楽のアンサンブルがバタついていたが主題の辺りからは美しくレガートの効いた演奏になった。尾高さんの指揮は、柔らかくエレガントで、チェコの土臭さがなくとても美しい。
 後半に入って、ディーリアスの歌劇『村のロミオとジュリエット』より間奏曲「楽園への道」は初めて聴いたと思うが、1901年の作で、ロマン派と印象派を足したような音楽。天国的な美しさの曲である。英国音楽の得意な尾高さんならではの珍しい選曲であろう。
 続くエルガーの「威風堂々」は、逆にあまりにも有名な「英国第2の国歌」としても知られる。エルガーを得意とする尾高さんの指揮でこの曲が聴けるのは嬉しい。「威風堂々」といっても、尾高さんの指揮はあくまでエレガントである。高貴で威厳に満ちているが、決して奢ることなく、「紳士の国」の音楽とはこうしたものかと。読響から最後まで爆音を轟かせることはなかった。
 シベリウスの「悲しきワルツ」はアンコール・ピースとしてお馴染みの曲だ。残響の少ないこのホールだけに、弦楽のピュアな響きがとても美しい。
 最後はラヴェルの「ボレロ」。この面倒くさい名曲は、今日のような名曲コンサートの定番になっているが、演奏する側はけっこう大変だろうと思うのだが・・・・。しかし日本のオーケストラは本当に巧いと思う。私は「ボレロ」で失敗したのを聴いたことがない。ほとんどの楽器にソロが回ってくるので、かえって腕の見せ所だとばかりに気合いが入るのかもしれない。また最初から最後まで延々と続くクレシェンド。これを見事に構築するオーケストラも指揮者も素晴らしい。最後の最後まで取っておきましたとばかりに爆音を轟かせたのは、やはり読響だなァという感じで、すっきりと満足のいく演奏であった。

 今日はアンコールもなく、曲目だけ見ると「ちょっと短いのでは?」と思われそうだが、実は曲間に尾高さんのトークがあったのである。その辺りもすっかり地方公演っぽい(司会者がいないだけでもマシか)。しかしながら、尾高さんのトークは実に面白く、曲の解説などをしながら世界中の音楽界の面白い逸話などを織り交ぜて会場の笑いを誘う。話にちゃんとオチがあるのだ。
 結局のところ、終わってみれば聴きに来て良かったなァという印象を残した。これも尾高さんの人徳によるものだろう。地方公演の場合は、生活の中にホッとする何かを落としてくれる今日のようなコンサートが良いのかもしれない。

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3/3(金)日本フィル東京定期/チャイコフスキー・プロ/金子三勇士のP協奏曲とコバケンの「マンフレッド」

2017年03月03日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
日本フィルハーモニー交響楽団 第688回 東京定期演奏会《第1夜》

2017年3月3日(金)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール A席 1階 B列 15番 3,500円
指 揮:小林研一郎
ピアノ:金子三勇士*
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:木野雅之
【曲目】
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23*
チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58

 日本フィルハーモニー交響楽団の「第688回 東京定期演奏会《第1夜》」を聴く。
 サントリーホールが改修工事により休館となったため、日フィルの「東京定期シリーズ」は今回から会場が定まらず、流浪の旅に出ることになる。今回は東京芸術劇場コンサートホールである。定期会員にはサントリーホールの時とほぼ同じような位置の席が割り振られることになった。とはいえ、S席・A席の1階席では可能であっても、サントリーホール特有のLA・RAブロックやステージ後方のPブロックなどは、振り替え会場となる芸劇や、東京文化会館・オーチャードホールにはないので、かなり異なる場所に回されてしまったようだ。そのことで定期会員を止めた人もいると聞く。まあ、仕方のないことなのだけれども。半期だけ我慢して継続していれば、来期からは希望すればサントリーホールの元の席に戻れるようである。私はA席で、1階の2列目なので、ほとんど変わらない位置関係の席をいただくことができた。

 今月のマエストロは桂冠名誉指揮、小林研一郎さん。今日はチャイコフスキー・プログラムなので、お馴染みのコバケン節がたっぷり聴けそうだ。ところが・・・・。

 プログラムの前半は「ピアノ協奏曲第1番」。ゲストのソリストは金子三勇士さん。若手とは言え、すでにかなり活躍している人気・実力ともに十分のピアニストである。
 曲が始まると、どうもピアノとオーケストラの相性が良くないようである。才気活発な金子さんは母がハンガリー人であり幼少期りハンガリーで学んだということもあり、ヴィルトゥオーソでもある。そのせいか、速めのテンポを好んでいるような弾き方になる。一方のコバケンさんは相変わらずの重厚・濃厚な指揮。両者のテンポ感やリズム感がどうにも合っていないように感じる。金子さんが先へ先へ行こうとしているのに、コバケンさんが後ろへ引き戻しているような感じだ。要するにピアノが先に行ってしまい、オーケストラが後から付いてくるといったイメージで、微妙に合っていないのである。
 これは、若手のソリストとベテランの指揮者との間でしばしば見られるパターンで、ソリストはイライラが募ってペースを乱しがちになる。ベテラン指揮者は頑固でテンポを譲らないのだ。だいたいこのパターンに陥ったときは、第2楽章の緩徐楽章ではテンポが合わせられるので、第3楽章が成否のカギとなる。
 第3楽章もピアノが先走る格好になってしまったが、テンポが早めになったことにより状況はやや改善された。それでもピアノとオーケストラの掛け合いになると、どうしてもオーケストラの立ち上がりが遅れるので、曲の中から疾走感は生まれてこなかった。
 そういうわけで、金子さんのピアノはなかなかの快調なものだったにも関わらず、楽曲の演奏としてはバタ付いた感じが終始消えず、聴いている方も不完全燃焼気味であった。終盤も劇的に仕上げようとしてオーケストラ側がテンポを落としてタメを入れてくるとピアノがズレてしまう。若いソリストの時は、もう少し現代的な指揮をしていただきたいと思う。演奏が終わると盛んにBravo!!が飛んだが、これは金子さんに対してであって、協奏曲の演奏としては決して満足のいくものではなかったと思う。

 後半は「マンフレッド交響曲」。私自身も疲れ気味で体調もあまり優れなかったので、この曲の演奏についてはあまり集中して聴けなかった。ということでコメントは控えることにするが、一言だけ。第4楽章終盤に壮大なイメージで登場するパイプオルガンが響き渡ると、それほど大きな音量ではないのに芸劇のホール空間がビリビリと振動し、実に鮮やかで目が覚めるような興奮を感じた。こういった劇的な曲の場合には、コバケン節はかなり有効であることは言うまでもない。チャイコフスキーの中でももっともスケールの大きな曲であるだけに、こちらの体調が良いときにじっくりと聴きたいものである。

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3/2(木)都民芸術フェス/都響/小山実稚恵の「皇帝」と梅田俊明のオール・ベートーヴェン・プロ

2017年03月02日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
2017 都民芸術フェスティバル 参加公演
オーケストラ・シリーズ No.48 東京都交響楽団

2017年3月2日(木)19:00〜 東京芸術劇場コンサートホール B席 1階 A列 18番 2,800円
指 揮:梅田俊明
ピアノ:小山実稚恵
管弦楽:東京都交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン:劇付随音楽『エグモント』序曲 作品84
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
ベートーヴェン:交響曲 第8番 ヘ長調 作品93

 都民芸術フェスティバルの参加公演で、東京都交響楽団を久し振りに聴く。どういうわけか都響とはあまり縁がなく、定期シリーズなどはほとんど聴いたことがない。だから演奏を聴いても普段よりも良かったのか、そうでなかったのかはよくわからないのである。

 指揮は梅田俊明さん。彼の指揮は、あまり個性的なものを感じさせない一方で、手堅くまとめるのが巧いというイメージがある。逆に言えば、大きく不満を感じさせることも少ないようである。日本のクラシック音楽界、オーケストラ界を支える中堅指揮者の一人だといえる。
 今日はオール・ベートーヴェン・プログラムで、誰でも知っているレベルの「エグモント序曲」とピアノ協奏曲「皇帝」に加えて、人気的にはちょっとマイナーな交響曲第8番。しかし小粒でピリリと感じさせる部分のある名品なのであるが(ベートーヴェンには駄作などない)、構成上は後半がやや軽めの感がするのは否めないところだ。

 「エグモント序曲」は、ゆったりとして重厚な序奏に続き、ソナタ形式に入ると都響の引き締まったアンサンブルが良い。第1主題が提示されの緊張感がグングン高まって行き第2主題への流れも良く、全体的に速めのテンポでダイナミックに展開させていく。コーダに入ると長調に転じ「苦悩を通じての歓喜」が実現し晴れやかに金管が吠える。手堅くまとめたイメージはあるもののなかなか素晴らしい演奏だった。

 小山実稚恵さんをソリストに迎えたピアノ協奏曲「皇帝」は、小山さんのピアノ・ソロを完全に前面に出した演奏だったと思う。小山さんのピアノは堅牢で力強い。ひとつひとつの打鍵がしっかりしているイメージで、冒頭のカデンツァも煌びやかに分散和音を駆け上る。今回は聴いた席がピアノの真下だったので、音の聞こえ方に難があったので、自信を持っていうことはできないが、離れた席で聴いていれば堅牢なイメージと豪快さは感じられたであろうことは想像できる。小山さんは比較的インテンポでしっかりとした構造感を打ち出す。その分だけ、オーケストラの方がやや控え目に抑えられていた。曲全体としては剛直なイメージで、どちらかというとリズム系が強く、古典派的でありロマン派的な要素は少なかったと思う。第2楽章の緩徐楽章も、インテンポで淡々としていて、古典派的な造形にダイナミックスを加えた感じ。第3楽章はピアノが少々カラ回りするところもありオーケストラ側と息の合わないところも見られた。

 交響曲第8番は、ベートーヴェンの9つの交響曲の中では最も可憐で、愛らしい曲である。だから全曲演奏会などでは必ずそういったポジションの演奏がされる。何しろ「リズムの権化」と呼ばれる第7番と「第九」との間に挟まれているから、尚更である。ところが今日は、この第8番がメイン曲であるためか、この曲の持つイメージとはやや違ったアプローチというか、かなり豪快でダイナミックな演奏を展開したので意外な感じがした。第1楽章はダイナミックレンジを広く採りスピード感もある、メリハリを効かせた演奏。第2楽章は可憐なスケルツァンド。終始抑制的であったが、リズム系をしっかりと刻み、硬めの造形を整えている。第3楽章はベートーヴェンには珍しいメヌエット。ここをけっこうダイナミックにメリハリを効かせたため、かえって古典的なメヌエットの優雅さが失われてしまったのが惜しい。中間部のホルンは上手い。第4楽章はロンド。リズム系を強調するようにティンパニが強めに叩かれていた。ここもダイナミックでドラマティックな造形を見せる。推進力もあって、生命力に溢れる演奏であった。

 都民芸術フェスティバルのオーケストラ・シリーズは在京のプロ・オーケストラ8団体の名曲コンサートが低価格で聴けるとあって人気が高いが、演奏のレベルは、それなりのものになってしまうようだ。今日は久し振りに聴いた都響であったが、ナルホド、といった印象で、とくに感動するような要素もないが、かといってガッカリというレベルでもない。そこそこ、というのが企画主旨なのかもしれない。

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2/25(土)森麻季&林美智子デュオ/いつの間にかもうベテラン?/1年ぶりの共演で息の合ったところを披露

2017年02月25日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
森 麻季 & 林 美智子 デュオ・リサイタル

2017年2月25日(土)13:30〜 麻生市民館大ホール 指定 い列 25番 4,500円
ソプラノ:森 麻季 ♥
メゾ・ソプラノ:林 美智子 ♦
ピアノ:山岸茂人*
【曲目】
滝廉太郎:花 ♥♦
久石 譲:Stand Alone 〜NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」メインテーマ ♥
菅野よう子:花は咲く 〜NHK「明日へ」東日本大震災復興支援ソング ♥
武満 徹:小さな空 ♦
武満 徹:翼 ♦
中田喜直:はなやぐ朝 ♥
中田喜直:悲しくなった時は ♦
岡野貞一:朧月夜 ♥
山田耕筰:からたちの花 ♥
山田耕筰:この道 ♦
小林秀雄:落葉松 ♦
オッフェンバック:歌劇『ホフマン物語』より「舟歌」♥♦
グノー:歌劇『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」♥
ビゼー:歌劇『カルメン』よりハバネラ「恋は野の鳥」♦
グラナドス:組曲『ゴイエスカス』より「嘆き、またはマハと夜鳴きうぐいす」*(ピアノ・ソロ)
グノー:歌劇『ミレイユ』より「軽やかなつばめよ」♥
ドヴォルザーク:歌劇『ルサルカ』より「月に寄せる歌」♦
バルトーク:3つのチーク県の民謡*(ピアノ・ソロ)
ドリーブ:歌劇『ラクメ』より花の二重唱「ジャスミンが咲くドームへ」♥♦
《アンコール》
 フンパーディンク:歌劇『ヘンゼルとグレーテル』より「夕べの祈り」♥♦

 ソプラノの森 麻季さんとメゾ・ソプラノの林 美智子さんによるデュオ・リサイタルは1年ぶりとなる。前回は昨年2016年3月に横浜みなとみらいホールでのことだった。ふたりともマネジメント・オフィスがJapan Artsになったので、今後はいわば黄金のデュオとして共演機会が増えそうである。お二人とも超が付く人気者で、美しく歌が上手い。人を呼べるスター歌手なのである。
 ただ、その場合に問題がひとつある。それは、ソプラノとメゾ・ソプラノのデュオの場合、オペラの二重唱曲(主役級のもの)が極端に少ないのである。人気のある有名な曲としては、今日も歌われた「ホフマンの舟歌」と『ラクメ』花の二重唱くらいしかない。だからこの2曲は毎回歌われることになってしまう。後は、森さんと林さんの得意としている持ち歌を組み合わせるから、だいたいいつも同じような曲目になってしまうのである。そうなると、毎回毎回聴いても・・・・ということになり、新鮮味に欠けてしまうことは確かだ。
 今回は前半が日本の歌曲、後半がオペラ・アリアを中心に、というプログラム構成だったが、それでも曲目がマンネリ化しつつあるのがちょっと残念。お二人のファンの身としては、いつも聴いているのでもう少し新しさが欲しいところである。ただ今回の会場は多摩川を越えた先の川崎市の麻生区民館(麻生は「あさお」と読む)。小田急線の新百合ヶ丘の駅から見えるところだから首都圏住宅街で決して田舎ではないが、やはり地方都市(自治体)の文化事業という色合いが強く、どうしても名曲コンサートになってしまうのである。

 というわけで、お馴染みの曲をお馴染みの人が歌っているのでよく分かるが、やはりお二人とも上手い。完全に持ち歌ばかりのプログラムなので、歌唱にも余裕があり、力みが全くない。前半では、林さんの「小さな空」と森さんの「からたちの花」は絶品。これだけでも遙々出かけてきた甲斐があったというもの。後半では、森さんの「私は夢に生きたい」と林さんの「恋は野の鳥」が素晴らしく、何度聞いても素敵である。デュオ曲は少ないが、いつも歌っているので息もピッタリ、声質は明らかに違うのに、よくハモっていた。
 気が付けば、お二人もそろそろベテランの域に達してくる年齢(失礼)。歌をまとめて聴くことができるリサイタルも良いが、やばりオペラの舞台でも見たい。まだまだ声が若々しいのでベテランの役どころを演じるには早いか・・・・。

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2/23(木)東京フィル/オペラシティ定期/プレトニョフ独特の世界観/イオニーツァの秀逸なチェロ

2017年02月23日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東京フィルハーモニー交響楽団 第107回 東京オペラシティ定期シリーズ

2017年2月23日(木)19:00〜 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 3列 17番 5,355円(会員割引)
指揮:ミハイル・プレトニョフ
チェロ:アンドレイ・イオニーツァ*
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:近藤 薫
【曲目】
ストラヴィンスキー:ロシア風スケルツォ
プロコフィエフ:交響的協奏曲(チェロ協奏曲第2番)*
《アンコール》
 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009より「サラバンド」*
 プロコフィエフ:マーチ*
ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』(1945年版)

 東京フィルハーモニー交響楽団の「第107回 東京オペラシティ定期シリーズ」を聴く。2016/2017シーズンも残すところわずかとなった2017年の2月公演、今月のマエストロは特別客演指揮者のミハイル・プレトニョフさん。ピアニストとして、あるいは指揮者としても世界的な存在であることは間違いないが、一風変わったところがあるのも確か。今回の定期シリーズへの客演に関しても、選曲の段階からその「変わったところ」が見えてくる。
 ストラヴィンスキーの「ロシア風スケルツォ」は、はじめはアメリカの映画音楽用に着手され、その映画が制作中止になったためにジャズ・バンド用に作り直したもの。それが不評だったために最終的に管弦楽用に再編したのである。日本で演奏されるのもかなり珍しいことだろう。
 プロコフィエフの「交響的協奏曲」は、実質的にはチェロ協奏曲の第2番に当たるのだが、なぜそう呼ばれないかというと、これが「チェロ協奏曲 第1番 作品58」を大幅に改訂して管弦楽部分も大きく編み直したという経緯の作品だからである。その改作に協力したのは、第1番も本作も初演したムスティスラフ・ロストロポーヴィチであり、初演を指揮したのは何とピアニストのスヴャトスラフ・リヒテルだとか。
 ストラヴィンスキーの『火の鳥』も本日演奏されたのは1945年版。この曲もご承知の通り、バレエ音楽として作曲されたものを後に管弦楽組曲に編曲した1919年版が通常は演奏されることが多い。1945年版は改変点はあまり多くはないが、後年の作風に置き換えられた部分があり、演奏家(指揮者)たちの評判があまり良くないらしい。
 こうしてみると、本日のコンサートにプログラムされた曲は、すべて元曲を「改変」して成立した作品ということになる。妙な共通項を持つ曲ばかり集めたオール・ロシア・プログラム・・・・。それらにさらに独自の解釈を与えてやろうという意気込みなのであろう。さすがはプレトニョフさん。やはり変わっているとしか・・・・。

 しかしながら演奏の方はなかなかのものであった。プレトニョフさんの指揮は、独特のリズム感としなやかさがあって個性的である。これは彼の弾くピアノにも通じるものがあって、一人で弾くピアノならテンポを自在に操り、フレージングも自由にコントロールできるが、それをオーケストラの指揮に持ち込む。彼が創設したロシア・ナショナル管弦楽団を振る時はもっと好き勝手にやる傾向があるが、東京フィルに客演する時はそれほど我が儘を振り回すわけではない。その自制が効いたくらいがちょうど良く、「個性的」といえるレベルに留まり、聴く者にもアッと驚くようなヒラメキに満ちた解釈を見せるのである。とくに「火の鳥」では腰を左右に振りながら、ノリノリの様子で指揮をしていた。カーテンコールでもゴキゲンの様子であった。どうやら演奏は思い通りにうまくいったらしい。
 東京フィルの演奏の素晴らしい。鮮やかな色彩感を持つ濃厚なサウンドで、ホルンやオーボエなどのオーケストラの色を決めるパートが上手いから、全体のグレード感がグッと上がる。弦楽も澄んだアンサンブルを聴かせつつもけっこうパワフルだ。全体のダイナミックレンジは広いのに、抑制的でもあり、打楽器を強く出させなかったところが良い。全合奏のffでも絶妙のバランスを保っている。
 プロコフィエフの「交響的協奏曲」でチェロを弾いたアンドレイ・イオニーツァさんは、1994年生まれというからまだ22歳。2015年のチャイコフスキー国際コンクールで第1位となった若手のバリバリである。明るくスッキリした音色で、音程も正確そのもの、超絶的な技巧も素晴らしい。繊細な表現も若者らしい素直な感性で、爽やかな印象さえ与えてくれる。
 ソロ・アンコールを2曲も弾いてくれたが、東京フィルのメンバー(とくにチェロの人たち)も驚くと同時に笑顔で聴いていたのが印象に残っている。

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