Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/21(金)読響/名曲シリーズ/アヴデーエワデーの清冽なピアノによるグリーグのピアノ協奏曲が秀逸

2017年04月21日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 第601回 名曲シリーズ

2017年4月21日(金)19:00〜 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 C列 17番 4,868円(会員割引)
指 揮:サッシャ・ゲッツェル
ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ*
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:長原幸太
【曲目】
ウェーバー:歌劇『魔弾の射手』序曲
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16*
《アンコール》
 ショパン:ノクターン 嬰ハ短調(遺作)*
ドヴォルザーク:交響曲 第7番 ニ短調 作品70

 読売日本交響楽団の「第601回 名曲シリーズ」を聴く。定期会員になっていながら、この「名曲シリーズ」は昨年2016年の8月公演を最後にずーっとサボってしまっていた。諸々の事情があってのことだが、およそ半年間もサボっている内に、新シーズン(2017/2018)に入ってしまった。今日は新シーズンの第1回である。ご承知のようにサントリーホールが改修工事で使用できないため、東京芸術劇場コンサートホールでの開催となった。読響の「名曲シリーズ」は、今後9月開催まですべてがここ芸劇で開催されることになっている。「土曜マチネー/日曜マチネー」シリーズも芸劇だから、読響の東京での定期シリーズは9月まではすべて芸劇での開催となる。

 今月のマエストロは、4月前半の「土曜マチネー/日曜マチネー」と「定期演奏会」は常任指揮者のシルヴァン・カンブルランさんが受け持ち、後半の「名曲シリーズ」と「みなとみらいホリデー名曲シリーズ」は、読響初登場のサッシャ・ゲッツェルさんが振る。彼は1970年、ウィーンの生まれで、ウィーン・フィルのヴァイオリン奏者から指揮者となった人。そのためか、コンサートだけでなくオペラの指揮でもキャリアを伸ばしている。日本には、NHK交響楽団や東京フィルハーモニー交響楽団に客演しているが、読響へは初見参となる。

 1曲目はウェーバーの「歌劇『魔弾の射手』序曲」。演奏が始まると、ナルホド、これがウィーンの音楽か、と思わせる。読響の音が、随分と違っているのだ。とくに弦楽が素晴らしい。読響の弦と言えば、荒々しいまでの爆発力があり、ダイナミックレンジも広くゴツゴツして豪快なイメージであったが、今日の弦楽は、常に抑制的で音量は控え目であったが、その分だけ繊細にして緻密。そしてアンサンブルが柔らかくて実に優美な雰囲気を持っている。コンサートマスターは長原幸太さんだったが、トップサイドにはこの4月からコンサートマスターに就任した荻原尚子さんがいる。第2ヴァイオリンの首席は瀧村依里さん、ヴィオラの首席はソロ・ヴィオラの柳瀬省太さんだがトップサイドには留学から復帰した渡辺千春さん、チェロの首席はやはり4月からソロ・チェロに就任した遠藤真理さんがいる。世代交代が進んできれいどころが揃った感じだが、演奏にも繊細な美しさが表れていて、とてもまろやかな印象だった。
 ゲッツェルさんの音楽作りは、ウィーン・フィル(ウィーン国立歌劇場管弦楽団)の香りを漂わせるオペラを意識させるもので、ゆったりした間合いの取り方や、主旋律の歌わせ方が実にしなやか。器楽的というよりは歌謡的にオーケストラをドライブする。冒頭のホルンが遠くから聞こえて来る狩人の角笛のように柔らかく響き、ティンパニはやや強めに躍動感を叩き出す。序曲から早くもBravo!の声が飛んだ。

 2曲目はグリーグの「ピアノ協奏曲 イ短調 作品16」。ゲスト・ソリストは日本でも各オーケストラから引っ張りだこのユリアンナ・アヴデーエワさん。読響には初登場だ。2010年のショパン国際コンクールに優勝して以来、ショパン弾きのイメージが強いが、繊細なタッチとロマンティックな表現力はグリーグにも合っているだろう。
 第1楽章は冒頭のピアノのカデンツァから聴かせてくれる。重低音の力感はロシア系の雰囲気も残しつつ、透明感のある和音と弱音の繊細で澄んだ音が素晴らしい。主部に入るとオーケストラとの掛け合いの中で、自由度を発揮してテンポを自在に操り、抒情性豊かに旋律を歌わせて行く。透明な水が流れ、細かく飛び散り跳ねるような変幻自在のイメージを描き出している。ゲッツェルさんのしなやかな対応も見事で、強く押し出すことはないが、さりげなくアヴデーエワデーさんを盛り立てる。息がピタリと合っているというのではなくて、むしろバラついたりもするのだが、その微妙なズレが音楽に生々しさと生命力を与えているように感じさせるのである。
 第2楽章は緩徐楽章。この楽章も音楽史の中でも屈指の美しい抒情性を誇る音楽だと思う。ピアノが出てくる前のオーケストラだけの部分から、ゲッツェルさんがネットリと濃厚なロマンティシズムを発揮して主題をゆったりと歌わせる。それに呼応するように、アヴデーエワさんのピアノも実に情感が豊か。消え入るようなピアニッシモの美しさ、感情が盛り上がる際のクレッシェンドの躍動感、自由に、感性の趣くまま旋律を歌い上げるピアノはこれぞロマン派という感じ。何て美しいのだろう。北欧的な清涼感よりは、ロシア的な濃厚なロマンティシズムである。
 第3楽章はロンド・ソナタ形式。民族的な要素の強いロンド主題が力強く提示されるが、演奏の方はいささかバラついていて、ピアノとオーケストラが合っていない。しかしそのことが演奏にとってあまりマイナスに働いてはいないようで、躍動的なリズムと抒情的なピアノのせめぎ合いが活き活きとした緊張感を生み出している。中間部のテンポを落としたロマンティックな主題は、クリスタルのような澄んだ輝きを持つ弱音が美しい。終盤に向けて盛り上げて行く中で、主導権がピアノにあることは確かで、ここへ来てアヴデーエワデーさんのロシアっぽい力感が垣間見える。オーケストラ側の追従もしかやかでドラマティック。素晴らしいフィナーレであった。

 アヴデーエワデーさんのソロ・アンコールは、定番とも言えるショパンの嬰ハ短調の遺作のノクターン。あらためて彼女のショパンも素晴らしい。しっとりとした抒情性、寂寥感の漂うロマンティシズム。自由度の高い情感の表現。ホール全体がうっとりと聴き惚れていた。

 後半はドヴォルザークの「交響曲 第7番 ニ短調 作品70」。第9番「新世界より」と第8番に対して「第7番」になるとグッと人気も下がり演奏機会も減ってしまうようだ。音楽的にはスラブ系の土臭いイメージはあまり強くなく、むしろドイツ的な、つまり作曲された当時としては世界に通用させることを目指したのかもしれない。ブラームスに似ているなどと言われることもある。私としては、少々捉え所が薄いような感じがして、美しい曲ではあるが印象度が弱く感じてしまうのであるが・・・。
 ところで今日の読響の演奏はいつもとはかなり違っていて、実にしなやかだ。これはゲッツェルさんの指揮を見ていればよく分かることで、もとより旋律の美しさや豊かさには定評のあるドヴォルザークだけに、旋律を歌わせる抑揚の付け方が実に歌謡的で、ひとつひとつのフレーズや主題に、青竹がが撓うようなコシの強い表情を付けているのである。サラリと流すような部分がなく、あらゆるシーンが濃厚に、歌うように描かれて行く。弦楽が、フルートが、オーボエが、クラリネットが、ホルンが、トランペットが・・・・。繊細なピアニッシモから大らかに歌わせるフォルテまで、実に表情豊かだ。縦の線を合わせるようなタイプのアンサンブルではなく、横の線を寄り添わせて紡ぎ上げていくような演奏。各楽章を通じて、角の尖っていない、柔らかくしなやかでふくよかな演奏なのである。途中、ホルンが何度か音程を乱す場面があって、それがとても残念に思えた。それと個人的な感覚ではティンパニが強すぎるように思えたが、これはゲッツェルさんの好みなのか、あるいは聴く席位置のせいかもしれない(今日は1階3列目のセンター)。いずれにしても、読響のいつものイメージが一新するような演奏で、指揮者によって変われば変わるものだ。

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4/19(水)信時 潔のカンタータ「海道東征」/封印されていた戦時中の楽曲の再演

2017年04月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
交声曲『海道東征』

2017年4月19日(水)19:00〜 東京芸術劇場コンサートホール A席 2階 LBI列 4番 7,000円
指 揮:大井剛史
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ソプラノ:幸田浩子
ソプラノ:盛田麻央
アルト:田村由貴絵
テノール:小原啓楼
バリトン:原田 圭
合 唱:栗友会(合唱指揮:栗山文昭)/杉並児童合唱団(合唱指揮:津嶋麻子)
【曲目】
シベリウス:交響詩「フィンランディア」作品26
大栗 裕:管弦楽のための「神話」~天の岩屋戸の物語による~
信時 潔:交声曲『海道東征』(作詞:北原白秋)
《アンコール》
 信時 潔:海ゆかば

 主に大正時代末期から戦後期にかけて多くの作品を残した作曲家、信時 潔(のぶとききよし/1887〜1965)氏の代表作といえる交声曲(カンタータ)『海道東征』を再演するコンサート。
 信時は牧師の子として生まれたが、東京音楽学校(現在の東京藝術大学音楽学部)に学び、その後西洋に留学、帰国後は東京音楽学校の教授になった。代表作は交声曲『海道東征』、歌曲集『沙羅』、「海ゆかば」などの他、校歌・団体歌など多数に及び、1,000曲を超えるという。

 本日のコンサートは産経新聞社主催、神社本庁共催により、『海道東征』を再演するというもの。この曲は、1940年(昭和15年)、皇紀2600年の奉祝楽曲として作曲された。作詞は北原白秋である。当時、演奏会がラジオで中継放送されたという。戦後はその内容が故に封印されることになる。その後、部分的に演奏されることはあっても、完全な形での演奏は、1962年と2003年にあったのみである。楽譜の改訂なども進められて、2015年に大阪で産経新聞社主催により演奏会が開かれた。本日は、その東京公演という位置付けになるようである。

 楽曲はスケールの大きなカンタータ。編成は、ソプラノ2、アルト1、テノール1、バリトン1の独唱と、混声四部合唱、児童合唱、オーケストラは2管編成と14型弦楽5部。ティンパニとピアノが加わる。これを見ても、物理的にも演奏する機会がなかなか持てないことも分かる。

 楽曲は8つの曲からなる。白秋の詩が第一章〜第八章に分かれていて、以下のように標題がある。
 第一章:高千穂(たかちほ)
 第二章:大和思慕(やまとしぼ)
 第三章:御船出(みふなで)
 第四章:御船謡(みふなうた)
 第五章:速吸と菟狭(はやすいとうさ)
 第六章:海道回顧(かいどうかいこ)
 第七章:白肩津上陸(しらかたのつじょうりくひ
 第八章:天業恢弘(てんぎょうかいこう)

 物語は日本神話に基づき、天地開闢から大和政権の樹立までを描いている。その中心となる部分がいわゆる「神武東征」の物語である。戦後の歴史教育から神話の部分が分離されてしまったため、戦後72年の今日、学校教育を受けただけでは一般にはあまり知られていない物語になってしまった。私は今人的に興味を持ち、多少は勉強したので、話としては知っている。

 信時は西洋に留学していたため20世紀初頭からの西洋音楽の潮流(シェーンベルクやバルトークなど現代音楽の初期)にも通じていたが、自信の作る音楽はドイツ・ロマン派の系譜に属するものを基礎に持っている。そこに日本の音楽的な要素が盛り込まれてくる。従って、現在聴いても、さほど違和感を感じることもないし、難解なものでもない。音楽自体は非常に重厚で美しく分かりやすい。
 ただし、白秋の詩の方は現代の日本語の感覚からするとやや難解である。今では使われていないような言葉が多く出てくるし、また皇統に関する物語なので特殊な用語が使われる。作られた昭和15年当時の人々にはよく分かる詩だったのであろう。配布されたプログラムには歌詞全編が記載されていたし、ステージ上方に字幕が映写されていたので、目で見れば(漢字を読めば)意味は分かるが、聴きで聴いているだけでは理解できない部分が多かった。

 プログラムの前半には、シベリウスの交響詩「フィンランディア」と大栗 裕(1918〜1982)作曲の「管弦楽のための『神話』~天の岩屋戸の物語による~」という曲が演奏された。今日のコンサートは「愛国」をテーマにしているということである。『神話』は1973年に作曲された吹奏楽のための曲を1977年に管弦楽曲に再編されたもの。アマテラスの天岩戸の物語を描いていて、土俗的なリズム管が支配的な、幻想的で現代的な作風の曲である。

 アンコールは信時を最も有名にした「海ゆかば」。本日のような特別なコンサートでもなければオーケストラと混声合唱の大編成で演奏されることはないだろう。

 本日のコンサートは、『海道東征』を再演することを最大の目的とするものであり、演奏を楽しむとか、評価するというものとは違っていたような気がする。普通のクラシック音楽のコンサートとは趣がかなり違っていた。私としては知らない世界に迷い込んでしまったような気分であった。

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4/14(金)華麗なる協奏曲の祭典/安達真理・鷲宮美幸・ドゥオール・瀬川祥子・水谷川優子らによる4大協奏曲

2017年04月14日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
The 10th WORLD PEACE CLASSIC CONCERT
〜華麗なる協奏曲の祭典〜


2017年4月14日(金)18:30〜 東京芸術劇場コンサートホール SS席 1階 C列 12番 7,000円
指揮:新田 孝
ヴィオラ:安達真理
ピアノ:鷲宮美幸
ピアノ:ピアノデュオ ドゥオール(藤井隆史/白水芳枝)
ヴァイオリン:瀬川祥子
チェロ:水谷川優子
管弦楽:ニッポン・シンフォニー
【曲目】
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品85(ヴィオラ版)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 作雛30
ブルッフ:2台のピアノのための協奏曲 変イ長調 作品88a
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102

 新田孝さんの指揮とニッポン・シンフォニーによる「The 10th WORLD PEACE CLASSIC CONCERT」を聴く。「華麗なる協奏曲の祭典」と銘打ったこのシリーズは、世界で活躍するトップクラスのソリストを招いて、文字通り協奏曲だけのプログラムを構成する。過去には、2014年5月に開催された「The 3rd WORLD PEACE CLASSIC CONCERT」を聴いたことがある
 今回は4曲の協奏曲が演奏された。いずれも名曲ではあるが、ちょっと変わったところではエルガーの「チェロ協奏曲」をヴィオラの独奏で演奏すること。ヴィオラとチェロは調弦がちょうど1オクターヴ違うので、ヴィオラで演奏するとどのような雰囲気になるのか興味深いところだ。それと、ブルッフの「2台のピアノのための協奏曲」はこのカテゴリの曲としては知られているらしいがコンサートで演奏される機会は滅多にないと思われる。だから貴重な体験ができそうである。この4曲の中ではラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第3番」が一番聴く機会が多く、年に数回は聴いていると思う。ブラームスの「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」は有名な曲ではあるが、実際の演奏機会はそれほど多くはない。やはりソリストを2人招くのは色々な意味で大変なのだろう。

 1曲目はエルガーの「チェロ協奏曲」のヴィオラ版。ソリストは安達真理さんである。実は今日のチケットは安達さんに用意していただいた。つまり私としてはこの曲がメイン・イベントで、この曲を聴きたくて来たようなものだ。1階の3列目、左ブロックの通路側という席は、指揮者やソリストが遮られることなく見通せ、音もダイレクトに抜けてくるので、理想的な音量バランスで聞こえて来る。いつものような最前列からわずかに離れただけで、東京芸術劇場コンサートホールの豊かな響きに包まれるようになるのだ。
 安達さんの演奏は、室内楽リサイタル、それに現代音楽なども聴かせていただいているが、協奏曲は今日が初めて。もとより、ヴィオラの協奏曲が演奏される機会は極端に少ないから、とても楽しみにしていた。しかもロマンティックなエルガーの「チェロ協奏曲」なら、ますます期待が高まるというものだ。
 第1楽章冒頭の序奏、ヴィオラのソロ(カデンツァ)で始まる。チェロに比べると1オクターヴ高いために軽く聞こえる印象はかなり違う。悲劇的な要素の代わりに人間的な温かみを感じやすい音域になるため、曲全体も重厚で劇的なものから優しいロマンティシズムへと変わる。安達さんのヴィオラはとくに柔らかくふくよかな音色で、歌うように流れていく。
 続けて演奏される第2楽章はヴィオラが細かな音形を刻み続けるが、チェロと比べるとどこかユーモラスで滑稽さも感じられる。それも暖色系の柔らかな音色に起因するところだろう。
 第3楽章は緩徐楽章。Adagioのゆったりとした3拍子で、濃厚なロマンティシズムが語られて行く。チェロがヴィオラに変わると、男性的な雰囲気が女性的に変わり、オーケストラ側の柔らかな弦楽のアンサンブルと、ゆったりと対話していくようになる。中音域が多用されているからか、あたかもヴァイオリン協奏曲の緩徐楽章のようにも感じられる。美しい旋律と美しい音色。悲劇的な雰囲気は消え、夢見るような抒情性が温かく聴く者を包み込むようだ。
 第4楽章はロンド。主題が提示された後すぐにカデンツァとなる。チェロよりも軽快に技巧的なパッセージが踊る。むしろヴィオラがオーケストラを牽引するような軽快感と疾走感は協奏曲らしいスリリングな展開だ。これはチェロだと重々しくなってしまう分だけなかなかそうはならない。ヴィオラならではの良さだろう。後半はテンポが落ちて内省的な音楽に変わるが、安達さんのヴィオラはあくまで柔らかくふくよかな音色で大らかに歌うため、悲劇的な雰囲気は緩和され、より抒情性が増してくる。終盤は、各楽章の主題が回帰して来て劇的なフィナーレ。会場からは盛んにBravo!が飛び交った。
 やはり有名な「チェロ協奏曲」をヴィオラで演奏するといった珍しいシチュエーションへの評価と、それが思っていたより違和感がなく、むしろ自然にこの曲が表現されていて、それが素敵な演奏だったからだろう。暗い音色のタイプの男性チェリストと比べると、こうも印象が変わってしまうものかと驚かされた。安達さんのヴィオラに、Brava!!


(演奏中の写真はⒸ中村義政さんからご提供いただきました)


 2曲目はラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」。ソリストの鷲宮美幸を聴くのは初めてだったと思う。第1楽章冒頭で提示される息の長い第1主題は、淡々とした抑制的なロマンティシズムで語るように弾いていく。甘美で極めて美しい第2主題は鷲宮さんのピアノもオーケストラもこれでもかとばかりにねっとりと濃厚に歌わせる。とはいえ全体的にテンポは速めで、経過句のピアノの分散和音などはキレ味鋭く疾走感さえ感じる。聴いている席の位置にもよるのだろうが、私のところからだとピアノとオーケストラのバランスも良かったが、ややピアノの音が硬質に、あるいはエッジが立ったような音に聞こえた。カデンツァなどはヴィルトゥオーソ的な要素が前に出ていて硬派の技巧派っぽい雰囲気も感じられたが、オーケストラとの絡みの中からは時折ハッとするような甘美なロマンティシズムが顔を見せる。硬軟併せ持つ素敵な演奏だ。
 第2楽章はAdagioの間奏曲。オーボエによる甘美な主題と弦楽によるメランコリックな部分を経てピアノが重厚に入ってきて、すぐに甘美に歌い出す。以降はピアノの独壇場となり時に激しく時に甘く、まさにロマン派後期の自由な感情表現ともいうべき曲相が展開する。鷲宮さんのピアノは、音は硬質に感じるが、時には技巧的に、時にはロマンティックに、美しい音楽を描き出していく。
 アタッカで演奏される第3楽章は、ピアノがこれでもかとばかりに超絶技巧を繰り返す。ソナタ形式でもあり、主題の展開では変奏曲的でもあるが、あくまでピアノ中心に曲が目まぐるしく動いていく。溢れんばかりのピアノの音の奔流が、激流になったりゆったり流れたり、太く大きな旋律を描き出したりする中から、いかにもラフマニノフらしい甘美な旋律がすうっと抜け出てくる辺りの鷲宮さんのピアノは、表現の幅が広くとても豊かだ。
 とにかく、ピアノ協奏曲としては難易度最高ランクのこの曲。超絶技巧だからといって技巧だけに走ってはラフマニノフにはならない。基本にあるのは骨太で無骨な広大な自然と甘美な抒情性。その両者を同時に表現できなければただ弾いていてだけになってしまう。その点でも鷲宮さんの演奏は力感にも溢れ、また豊かな抒情性も描き出されていて、素晴らしかったと思う。

 休憩を挟んで後半の最初はブルッフの「2台のピアノのための協奏曲」。私も聴くのはまったく初めてだ。ステージには2台のピアノが向かい合って置かれ、上手側の第2ピアノは蓋が外されている。しかし改めてこの状況を見ると、2台のピアノがオーケストラの正面に壁を作っているようで、これではオーケストラの音が客席の方に飛んで来ないのでは?? と疑問に思ってしまう。この曲を聴くには、1階ではダメで、2階や3階の両サイドのバルコニー席の方が良いかもしれない。
 ブルッフというドイツ・ロマン派の作曲家は、「ヴァイオリン協奏曲 第1番」が圧倒的に名曲として非常に人気が高く、演奏される機会も極めて多いが、その他には「スコットランド幻想曲」やチェロと管弦楽のための「コル・ニドライ」が知られている程度でしかなく、しかもこれらも演奏機会は少ない。しかし作曲家としては生前は人気も高かったようで、交響曲3曲、ヴァイオリン協奏曲は3番まであり、室内楽や合唱曲を多数、、オペラ作品まで3作も残しているという。現在ではそのほとんどが演奏されることはない。本日の「2台のピアノと管弦楽のための協奏曲」もその中の1曲で、演奏されることが滅多にないだけでなく、録音も極めて少ない。だから、本日の演奏はかなり貴重なものだと思われる。4つの楽章からなり、演奏時間は25〜26分。
 独奏(?)を受け持つのは、「ピアノデュオ ドゥオール」の藤井隆史さんと白水芳枝さんのデュオ。2004年にデュオを結成したというから、息の合ったところを聴かせてくれるはず。デュオとして活動しているからならではのブルッフということなのだろう。
 第1楽章は重々しいAndante sostenuto。5分強という短さのため、曲全体の中では序奏のような位置づけだろうか。旋律はロマン派の香りが濃厚に漂うが、2台のピアノが対位法的な佇まいを見せ、古典的な造形を見せる。実際に聴いてみても、ピアノが何故2台必要なのか・・・・よく分からない。ドォウールのお二人の演奏も、オーケストラと重なるとあまり聞こえてこなくなってしまう。
 第2楽章は序奏付きのAllegro楽章で、本来なら第1楽章に相当するソナタ形式。明快でロマンティックな第1主題がピアノとオーケストラで提示、流れるように歌わせる第2主題も美しい。ピアノとオーケストラが掛け合いながら展開して行き、ピアノ協奏曲らしい華やかな曲相が続く。2台のピアノは煌びやかに音楽を飾り立てる。親しみやすく美しい旋律はブルッフの面目躍如といったところだ。演奏は軽快で非常にリズミカル。ノリの良い推進力がある。ただ、実際に聴いている上では、2台のピアノがどのように役割を分担しているかまでは聴き取れない。
 第3楽章は緩徐楽章だが、徐々に盛り上がって行きやがて力強いクライマックスを形作る。旋律は美しく何処までもロマンティックで、非常に素敵な楽章なのではあるが・・・・。緩徐楽章で壮大なクライマックスを作るのは「ヴァイオリン協奏曲第1番」にも似たところがある。
 第4楽章は、第1楽章と同じ音型の序奏で始まり、Allegroの主部に入ると、2台のピアノが縦横無尽に駆け巡り、次々と美しい旋律が登場する。フィナーレらしい躍動感と推進力、そしてドラマティックな盛り上がりを見せる。ピアノが2台あるので、片方が主題をロマンティックに歌い上げ、もう片方が装飾的なパッセージで絡みつく。こういうところは2台ピアノならではの造形だ(ただしラフマニノフなら一人でも弾けてしまいそう)。演奏の方はピアノの力感が増し、オーケストラとの対話を進めていくが、(初めて聴くので詳しいことは分からないが)ちょっとバタついた感じがして、両者が合っていないように感じた場面もあった。
 聴き終えてみると、楽曲自体はブルッフらしい美しい旋律のオンパレードで、とても親しみやすく聴きやすい。曲の形態が特殊であるとはいえ、もっと人気が出ても良い曲だと思う。作曲年次は分からないが作品番号88aということは晩年の作であろうと推察される。20世紀に入ってからのドイツでのロマン派べったりの音楽は、当時としては時代遅れに感じられたのかもしれない。今後、再評価され時が来るかもしれない、とても素敵な曲だと思うのだが・・・・。今日は聴くことができただけで大満足であった。

 最後はブラームスの「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」。いわゆる「Doppelkonzert 〜ドッペルコンツェルト」と呼ばれる名曲である。1887年の作でブラームス最後の管弦楽曲としても知られる。つまり古典的ともいうべきシンフォニックな造型を持つ管弦楽作品としては、ブラームスの完成形だと見ることもできる。独奏を受け持つのは、ヴァイオリンが瀬川祥子さん、チェロが水谷川優子さん。中堅クラスの年代ではトップクラスの演奏家だと思うが、実はお二人とも聴いたことがなく、協奏曲が初めてだった。とくにチェロの水谷川さんは機会があれば是非聴いてみたかった人だったので楽しみにしていたのである。
 第1楽章は始まるとすぐに独奏チェロによるカデンツァ。強めの立ち上がりで、重厚に押し出して来て曲に厚みを付ける出だしとなったが、瀬川さんのヴァイオリンが入って来る辺りからチェロの音色が柔らかく丸みを帯びて来て、しかもとても艶やかで優しい。この独特の柔らかな音色こそが宮川さんの持ち味なのだとすぐに分かった。逆に、瀬川さんのヴァイオリンは硬質で芯がハッキリとしているタイプで、緊張感が高く、押し出しも鋭く感じる。このお二人によるヴァイオリンとチェロが、単純に音域の違いだけではなく、音色や音質においても対比が明瞭になっていた。このことが本日のブラームスに、厳しさと甘さを同居させるような効果を生み出し、その意味では個性的な演奏になったと思う。
 第2楽章は緩徐楽章だが、やや速めのテンポだろうか。ここでもヴァイオリンが鋭く空気を切り裂き、チェロが柔らかく包み込むような印象で、実際には十分にロマンティックに歌っているのだが、硬軟が混ざり合った独特の雰囲気を生み出していた。
 第3楽章はチェロの独奏で軽妙な主題を提示する。テンポはやや遅めの感じだろうか。ヴァイオリンが被さってくるとやはり尖った印象を植え付ける。ヴァイオリンとチェロが対話的に演奏されればその対比は鮮やかに描き出されるが、同じ旋律を弾く際には音質の違いによりうまくハモっていないようにも聞こえた。
 オーケストラの演奏もメリハリを効かせて、この古典的な造型の曲にロマン的な感情を盛り込んでくる。瀬川さんのヴァイオリンも宮川さんチェロも演奏自体は的確で素晴らしく、ロマンティックで自由な感情表現を十分に発揮していたと思う。後は個人的な好みの問題となるわけだが、私としては初めて聴いた水谷川さんのチェロにいたく感激した。丸く柔らかく艶やかな音質で、基本的には明るく陽性。そして気品があって優しい。聴く者の心が温かくなるような演奏だと思う。協奏曲の中では強い押し出しが必要な場面もあるが、その中でも決して尖ることのない優しさがある。リサイタルや室内楽などの小さな空間で、是非ともまた聴いてみたい演奏家である。

 しかし長いコンサートであった。何しろフルサイズの協奏曲を4曲も演奏したわけだし、曲間にはピアノを出したり引っ込めたりとステージ転換にも時間がかかる。1階の休憩はたったの15分間だったが、18時30開演で終わったのが21時30分。いささか疲れを感じた。やはり4曲は、ちとツライ。しかし演奏自体はみな素晴らしく、協奏曲好きの私としては十分に楽しむことができた。
 終演後はとくにイベントもなかったので(おそらく撤収時刻が迫っていたのだろう)そのまま帰ることにした。今日はソリストが6名もいたので、楽屋はファンや関係者でいっぱいになっていたことだろう。

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4/8(土)気楽にオペラ!『ラ・ボエーム』/ピアノ伴奏でも本格的な歌唱の圧倒的な質感に思わず涙…

2017年04月08日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
気楽にオペラ!『ラ・ボエーム』(イタリア語上演/日本語字幕付き)
甘く切ないラブストーリー!!


2017年4月8日(土)14:00〜 横浜みなとみらいホール・小ホール 指定席 2列 14番 5,000円
演 目:『ラ・ボエーム』(ジャコモ・プッチーニ作曲/1896年初演)
指 揮:田島亘詳
ピアノ:朴 令鈴
演 出:今井信昭
【出演】
ミミ:新垣有希子(ソプラノ)
ロドルフォ:大川信之(テノール)
ムゼッタ:鷲尾麻衣 → 菊地美奈 → 鈴木玲奈(ソプラノ)
マルチェッロ:門間信樹(バリトン)
ショナール:泉良平(バリトン)
コッリーネ:田中大揮(バス)
ベノア/アルチンドロ:志村文彦(バス)

 横浜みなとみらいホールが主催する小ホールオペラシリーズ「気楽にオペラ!」で、今回はプッチーニの『ラ・ボエーム』が上演された。このシリーズは、指揮者がいてピアノ伴奏、演出もあり、舞台装置も衣装も揃えて、というスタイルで上演される。出演するオペラ歌手の皆さんは二期会や藤原歌劇団の本公演に多数の出演経験を持つクラスの人たちで、レベルは高い。つまり、国内の団体が主催するオペラ公演のミニ版という感じだ。
 今回の演目である『ラ・ボエーム』では、上記のように主要に登場人物はしっかりとキャスティングされており、本格的な合唱の入る部分のみカットされていた。第1幕35分、第2幕15分、第3幕20分、第4幕25分と予定には書かれていたから、カットされた部分はわずかである。14時開演で、2回の休憩を挟んで終演は16時30分くらいになった。『ラ・ボエーム』は、私の最も好きなオペラのひとつなので、上演があれば観に行く機会も多い。今回は小ホールにおけるピアノ伴奏による簡易版ではあるが、出演者の顔ぶれから見ても、本格的な上演になることが十分に期待できるので、横浜まで出かけることにしたのである。
 もう一つのポイントになったのはムゼッタの存在。公演が発表された当初は鷲尾麻衣さんがキャスティングされていたが、菊地美奈さんに変更になった。美奈さんとは面識もあるし、出演されたオペラやオペレッタなどをスケジュールが合う限り観て来たので今回も楽しみにしていた。直近では昨年2016年10月に東京オペラ・プロデュースの定期公演『グリゼリディス』のタイトルロールを歌ったのを聴いている。ところが残念なことに、比較的直前になってから鈴木玲奈さんに代わったのである。とはいえ、玲奈さんも昨年2016年9月にハイライト版の『カルメン』でミカエラを歌ったのを聴いていて、注目株でもあったので嬉しい誤算となった。

 さて今回の『ラ・ボエーム』は、ピアノ伴奏による小ホール・オペラということであるが、ステージには舞台装置をキチンと用意して、質感の高い舞台を創り上げていた。伴奏のビアノはステージの下手側に配置され、蓋を半開にした状態。演奏はピアノだけだが、客席の1列目センターブロックの左側半分を取り払い、その部分の2列目には客を入れずに空席としていて、そこで田島亘詳さんが指揮をした。私の席は2列目のセンターやや右寄りだったので、指揮者の右側真横という位置になった。小ホールではピットがないたし、あまりステージが高くないので、2列目だと本当に手の届きそうな感覚の距離感で、歌手の皆さんが演技し、歌ってくれる。ブレスの息遣いや衣擦れの音まで聞こえるので、臨場感は抜群。ステージ上のオペラの世界を客席側から鑑賞するというよりは、オペラの物語の中に自分がいるような感覚になる。

 演出は比較的スタンダードに原作を踏襲している。ただし時代の読み替えは行っていて、少なくとも19世紀のパリではなくて、現代へとシフトさせている。ただ、ストーリーに出てくる蝋燭や薪ストーブ、ボンネット(ミミの帽子)やマフなどはそのまま使われるので、あまりトンチンカンにはなっていない。というのも出演者の衣装が、ホールに隣接するショッピングモール、クイーンズスクエア横浜[アット!]内のアパレルブランド3店舗からの提供となっていて、現代の若者のカジュアルな雰囲気を描き出しているので、観ていてもほとんど違和感を感じなかった。
 なお、日本語字幕は後方の壁面に映写する方式であったが、幕間には原作となったアンリ・ミュルジェル作の戯曲『ボヘミアンの生活風景』からの象徴的な文が引用され映写されていた。会場がザワついていてあまり見ている人が多くなかったのは残念。ホールに入って座席に着いたらあまり日常的な会話などはせずに、気持ちをステージに向けていくと、こうしたさりげない部分に演出家の意図が語られているのに気付く。油断していると大切なことを見逃してしまうことがあり、もったいない。

 『ラ・ボエーム』は、何と言っても主人公達4名の歌唱と演技によって出来映えが大いに左右することは間違いない。ひとりずつ見ていこう。

 まずはミミの新垣有希子さん。大らかな歌唱が特徴で、リズミカルというよりは、全体に滑らかな山場を作るような感じ。一見するとまったりとしていて一本調子のようにも聞こえるかもしれないが、細やかなニュアンスも込められていて、情感を訴えるチカラは強い。声質は柔らかく自然な感じで、発音は明瞭で長く伸ばす母音のヴィブラートが美しい。声量もタップリ、地力があるようだ。第1幕のアリア「私の名はミミ」では、ゆったりとしたテンポで伸びやかに、しかも芯に力があり、しっとりとした情感が込められていた。第3幕のアリア「さようなら」は、より新垣さんの特徴が表れていたいたと思う。ゆったりと大らかに歌う独特の世界がある。今回の演出ではミミは地味な衣装に終始していたが、これしドラマを離れてみてもちょっと可哀想にも思えた。いくに貧乏な役柄のミミとは言え、もう少しオシャレをさせて上げても良かったのでは? 年頃の女性なのだから・・・・。


 ロドルフォ役の大川信之さんはとにかくパワフルなテノール。声質はやや硬質だが艶と伸びがあるので、硬いイメージは少ない。声量は大ホールでも十分過ぎるくらいにたっぷりとあるし、立ち上がりの鋭い、力感溢れる歌唱は圧倒的な迫力である。ロドルフォというキャラクタに対しては、ちょっと力みすぎのような気がしないでもないが、若くて一途な正確を前面に押し出してという解釈であろうか。ほとんど出ずっぱりのロドルフォが最後まで力を失わないためには相当の体力が必要だろう。その点でも大川さんはスゴイ。第1幕のアリア「冷たい手を」は初めで出会ったミミに一目惚れして口説くシーンで歌われる訳だが、これほど力強く訴えられたら、ミミもコロリとまいってしまったのも頷ける。そんな歌いっぷりであった。


 ムゼッタ役の鈴木玲奈さんは、とても美しい声のソプラノさんである。高音域がキレイなコロラトゥーラ系の人だと思うが、コケティッシュなムゼッタの役柄に対しては、毒気が少々足らない感じではあったが、よく通る高音書きの声が、お侠なイメージをかわいらしく描き出していた。第2幕の「私が街を歩くと」(ムゼッタのワルツ)はこの役の最大の見せ場だが、他の歌手たちに比べるとずっと若手ではあるが、見事に歌い切っていた。オペラの本舞台ではバックに群衆がいて皆の注目を集めるシーンなのだが、今日のステージでは人数が少なかったので、演出的な見映えとしては今ひとつであった。それでも玲奈さんのムゼッタは素敵なお衣装でステージの上に鮮やかな花を咲かせるようであった。


 マルチェッロ役の門間信樹さんは、落ち着いた声質のバリトン。このオペラの中ではアリアもなく、終始脇役であり続けることになるが、第1幕と第4幕の冒頭のシーンでのロドルフォとの掛け合いや、第2幕でのムゼッタとの心理戦、第3幕終盤の派手な痴話喧嘩など、演技力も求められ、主役を引き立てる重要な役柄である。門間さんの声質は嫌味がなく、善良で不器用なところのあるマルチェッロに相応しい、柔らかい歌唱がなかなか良い味を出していた。


 ショナールの泉 良平さんはベテランのバリトン。脇役に徹して、存在感のあるところを見せていた。歌唱は安定していて声量もあるし、ステージ上での細かな演技なども素晴らしい。

 コッリーネ役の田中大揮は、第4幕のアリア「古い外套よ」という聴かせ所をうまくこなしていた。声質が若々しく、艶があるところが良かった。ヘタをすると年寄りっぽくなってしまう曲だからである。しかし・・・・「外套」という言葉は完全に死語だと思うが、このアリアとプッチーニの三部作オペラ『外套』以外ては、まず雨に書かれない単語。最初に翻訳されたのが未だに生きているのだろうが、何度聞いても違和感を感じる言葉だ。

 第1幕のベノア、第2幕ではアルチンドロを演じたのは志村文彦さん。この手の役柄に欠かせないバイプレーヤーである。

 全体を通してみると、歌手陣は皆さん上手く、小ホールで上演するにはもったないくらいの、本格的なレベルの歌唱を聴かせてくれた。そうなると、分かってはいるのだが、ピアノ伴奏であったことが惜しまれる。朴 令鈴さんのピアノは情感たっぷりにとても素敵な演奏を聴かせてくれていたが、オーケストラでの演奏を聴き慣れているだけに、どうしても物足りなさを感じてしまう。まあ、言っても仕方のないことなのだけれども。
 それにしても、プッチーニの音楽はどのように演奏しても涙腺を刺激するようにできているらしい。『ラ・ボエーム』は何度観たか、聴いたか分からないくらいで、ストーリーも歌詞も楽曲もほとんど頭の中に入っているのに、毎度のことで今回も泣けてしまった。『ラ・ボエーム』の物語や登場人物たちは、誰しもが持っている青春時代の想い出とリンクして私たちと共感し、音楽はノスタルジーに共鳴する。作品にそういう力があるから、それを上手く歌われれば、聴く側はただ泣けてしまうだけ。『ラ・ボエーム』の終演後の聴衆は、皆、目がウルウルしているのである。そうでないときは上演が失敗に終わったということだ。

 そんな終演後、出演者の方々が皆さんロビーに出て来られて、それぞれのファンに囲まれていた。私は今回は知っている人はいなかったのだが、ま、それなりに皆さんに声をかけて写真を撮らせていただいた。最後に皆さんが集まって、記念写真を、ということになった。ホールの撤収時刻が迫っていたので、ちょっと慌て気味・・・・。でも素敵な時間を過ごすことができて、泣いた後には皆笑顔である。


上の写真。後列左から、演出の今井信昭さん、コッリーネの田中大揮さん、マルチェッロの門間信樹さん、ショナールの泉 良平さん、ロドルフォの大川信之さん。中央は左がムゼッタの鈴木玲奈さん、右がミミの新垣有希子さん。前列左がベノア/アルチンドロの志村文彦さん、ピアノの朴 令鈴さん。
皆さん私服に着替えているのではなくて、アパレルショップから提供された舞台衣装のままなのである。


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3/25(土)杉原千畝物語・オペラ「人道の桜」再演/苛烈な時代を生きた人々の慟哭と真実の持つ力が心に響く

2017年03月25日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
杉原千畝 物語 オペラ『人道の桜』(再演/日本語上演)

2017年3月25日(土)14:00〜 新宿文化センター・大ホール SS席 1階 5列 30番 10,000円
演 目:杉原千畝物語 オペラ『人道の桜』
台本・作詞:新南田ゆり
作 曲:安藤由布樹
指 揮:飯坂 純
管弦楽:杉浦千畝メモリアルオーケストラ
ピアノ:安藤由布樹
合 唱:杉浦千畝オペラ合唱団
合唱指揮:中橋太郎左衛門
演 出:鳴海優一
制 作:東京オペラプロデュース
主 催:杉原千畝物語 オペラ「人道の桜」制作委員会
【出演】
杉原千畝:大貫史朗
杉原幸子:新南田ゆり
大橋忠一:角田和弘
二シュリ:織部玲児
バルハフティック:土崎 譲
はる:正岡美津子
サラ:勝倉小百合
ベンジャミン:中村祐哉
アンナ:辰巳真理恵
リンゴ売り娘:みすぎ絹恵

 杉原千畝(すぎはらちうね/1900〜1986)は、早稲田大学に学び、旧満州国在任の外交官となり対ロシア外交に手腕を発揮したが、第二次世界大戦前にソ連に入国を拒否されたためフィンランドに赴任、1939年にリトアニアの在カウナス日本領事館に着任した。当時のカウナスには日本人はまったくいなかったという。ドイツのポーランドに侵攻により第二次世界大戦中が始まり、リトアニアがソ連に併合されていく中で、ロシア事情に詳しい千畝は対ロシアの諜報活動に当たっていた。ところが戦乱の最中、増え続けるユダヤ系難民が、ロシア経由で日本に逃れるための通過ビザの発給を求めて日本領事館に押し寄せることになった。千畝は領事館が閉鎖されるまでの間、日本外務省の命令(その背景には日独伊三国軍事同盟がある)に反し、人道的な立場から難民たちにビザを発給し続け、およそ6000人の難民を救ったのである。難民達の一部はシベリア鉄道でウラジオストクへ、そして日本にまで辿り着いている。やがて、リトアニアはドイツに併合され国内のほとんどのユダヤ人が虐殺された(その数19万5000人とも)。その後再びソ連に併合され、戦後はソ連を構成する共和国の1つとなった。再び独立するのはソ連崩壊に伴う1990年のことである。
 リトアニアの日本領事館が閉鎖された後の千畝は、戦渦の吹き荒れるヨーロッパの各地を転々として諜報活動に当たっていた。1945年に第二次世界大戦中が終結した後、一時はソ連軍に拘束されたが、1947年に帰国することができた。しかし外務省から事実上解任され、名誉を失ったまま在野の人となる。1968年になって、千畝のビザに救われたニシュリ(イスラエルの参事官になっていた)が千畝を探し出して再会を果たし、翌年にはイスラエルの宗教大臣になっていたバルハフティクと再会する。1980年代になってようやく、千畝に対する再評価の機運が徐々に育ち、1985年にはイスラエル政府から表彰された(ヤド・バシェム賞)。日本国政府による公式の名誉回復がなされたのは、千畝の死後、2000年のことである。

 杉原千畝の物語は、1980年代から少しずつ、テレビのドキュメンタリーやドラマ、あるいは演劇やオペラなどで紹介されるようになってきた。2015年の唐沢寿明さんが主演した映画『杉原千畝 スギハラチウネ』は記憶に新しいところだ。

 本日鑑賞したオペラ「杉原千畝 物語 オペラ『人道の桜』」も2015年に初演された新作である。作曲家の安藤由布樹さんの構想に基づき、ソプラノ歌手で多方面の活躍をしている新南田ゆりさんが台本を執筆、子供でもわかるような平易な台本に安藤さんが作曲して全2幕のオペラにした。千畝の研究者や研究団体も協力して、できる限り史実に基づく作品とした。
 世界初演は2015年5月12日、リトアニアの首都ビリニュスの国立ドラマ劇場にて行われた。7月26日には早稲田大学大隈講堂にてピアノ伴奏にて日本初演。12月5日には品川きゅりあん大ホールにてオーケストラ版で舞台初演されている。
 本日は、そのオーケストラ版舞台の再演で、昼夜の2回公演である。本作主催の中心的な人物の一人である新南田さんとは以前からの知り合いなので、当然2015年の初演の時から声をかけていただいたのだが、両日ともスケジュールが合わずに残念な思いをしていた。今回再演が成ることになり、私も今回こそはと他のコンサートもすべてキャンセルして、ようやく観ることができたものである。しかも新南田さんには最前列の指揮者の真後ろの席を用意していただいた。嬉しい限りである。

 「杉原千畝 物語 オペラ『人道の桜』」は全2幕のオペラで、前記の通りの千畝の生涯を時系列的に辿るストーリーになっている。
 第1幕は、千畝が早稲田大学に入学する日から始まり、満州国の書記官に赴任してロシア相手に北満鉄道の買い取り交渉を成功させる。日本に帰ってきて、友人宅で妹の幸子と知り合い結婚する。外交官となってリトアニアに赴任すると、ユダヤ人迫害の問題に直面、二シュリやバルハフティックと会って、悩んだ末に幸子と話し合いってビザの発給を決意、リトアニアを離れるまでビザを書き続ける。
 第2幕は、千畝のビザに助けられたユダヤ難民たちが日本の敦賀に辿り着くところから始まる。難民たちは日本人の親切さに「まるで天国のようだ」と喜ぶ。終戦後、千畝夫妻は日本に帰ってくるが、千畝は外務省から解雇されてしまう。一方、千畝のビザで命を救われた難民たちは世界中に散り散りになっていたが、命の恩人であるSENPO(千畝が発音しにくいので、リトアニアではセンポと名乗っていた)を探し始める。ニシュリはようやく千畝と再会することができ、イスラエルの宗教大臣になっていたバルハフティクは千畝に「ヤド・バシェム賞」を贈り称える。千畝の死後、母校の早稲田大学がリトアニアの首都にモニュメントを立て、250本の桜を植樹した。それが「人道の桜」として今、満開になっている。

 新南田さんによる台本は、千畝の妻幸子(新南田さん自身が演じている)が語り手となって進められる形になっている。ナレーションによる物語の背景の説明や進行と、台詞回しによるドラマ部分があり、その間に音楽があるわけだが、第1幕が15曲、第2幕が14曲に及ぶ。独唱、二重唱から合唱まで、様々な形の楽曲に彩られていた。確かに、台本も非常に分かりやすいし、楽曲も比較的平易な調性音楽で書かれていて、子供にも分かるように、というコンセプトが貫かれている。

 音楽自体はピアノ伴奏版が主体となっていて、それを管弦楽な拡大して編曲したという感じが残っていた。ピアノも重要なパートとして加わっていて、中にはピアノのソロ(乙女の祈り〜バダジェフスカ作曲〜リトアニアに隣接するポーランドの作曲家)まであった。新しい音楽について言葉で説明するのは難しい・・・・というよりは不可能・・・・と思われるので割愛させていただくが、印象に残った楽曲もいくつかあるのであげておこう。
 第1幕で、千畝と幸子の出会いのシーンでの二重唱「初めての出会い」。ロマンティックなワルツの調べが美しく、全編を貫く深刻な物語の中で、希望に満ちた抒情性を鮮やかに描き出していた。第1幕の終盤は緊迫感が迫り、リトアニアを去らなければならなくなりもうビザを書けなくなってしまった千畝のアリア「どうか生きて」は胸に迫るものであった。
 第2幕では幸子のアリア「日本を離れて11年」と千畝のアリア「間違っていたというのか?」は心情の吐露を劇的に歌う。幸子のアリア「歌曲集『幸子』より」は、幸子が実際に作った和歌に曲を付けたもので、切ない心情が切々と歌われている。最後に全員で歌う「人道の桜」は、千畝の功績を称えるもので、感動的な音楽と合唱の持つ力が合わさって、涙なしには聴いていられなかった。

 ピットに入ったオーケストラは、この再演のために編成された「杉浦千畝メモリアルオーケストラ」で、第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1という弦楽5部編成に、フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペット各1、パーカッション2、そしてピアノが入る。ピアノは今回も安藤さん自身による演奏となっている。
 出演されたオペラ歌手の皆さんは、新南田さんの他には知る人がなく、歌唱がどうであったかについては、あまりコメントする立場ではない。純粋な意味で、オペラ作品としての仕上がりはまあまあといったところだろう。

 しかし本作の場合は、やはり作品の持つ力を評価すべきだと思う。会場に来られていた方々は決してオペラ・ファンでもクラシック音楽マニアでもなく、あくまで「杉原千畝物語」を鑑賞しに来られていた方が多かったようだ。歌手の歌がどうの、オーケストラの演奏がどうの、演出がどうの、といった論評をしてもあまり意味がないように思う。しかしながら会場に充満していた、何ともいえないチカラがあって、そこにいる人たちの心を揺さぶってくる。どこかの国の総理大臣のように「感動した!」などと安っぽい言葉で表現したくはない、もっと次元の高い気持ちの昂ぶりを感じたものである。もちろん、千畝の行為自体が強く訴えかけるチカラを持っているし、物語そのものも感動的だ。しかしそれを表現する方法として、言葉と人が生み出す音楽とがうまく融合したとき、読み物や映画から得られるものとは違った、より高い次元の感動を得ることができたのだと思う。それこそがオペラという表現芸術の持つ力なのだろう。

 会場では様々な関連グッズを販売していた。本作のヴォーカル・スコア(厚さ1cm/200ページに及ぶ立派な印刷物)を売っていたので、記念にもなるし、後の研究材料(?)にもなるので買い求めた。表紙をめくったところに安藤由布樹さんと新南田ゆりさんのサイン入りであった。スコアは全編の歌唱部分とピアノ伴奏譜が載っているもので、オーケストラ版ではなかったのが残念ではあるが、このスコアがあれば、この先何処ででもピアノ伴奏で上演することができるわけで、価値あるものになりそうだ。


 終演後、ロビーが出演者やスタッフの皆さん、関係者の方々でごった返して大変なことになっていた。何とか新南田さんを見つけてご挨拶と記念写真。桜色のお着物は、幸子が着ていた舞台衣装のままである。



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3/23(木)小林沙羅リサイタル/子守歌とアヴェ・マリアと日本の歌曲も織り交ぜて母性の情感を歌う

2017年03月23日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
小林沙羅 ソプラノ・リサイタル
この世でいちばん優しい歌


2017年3月23日(木)19:00〜 紀尾井ホール 指定席 1階 1列 12番 5,000円(会員割引)
ソプラノ:小林沙羅 ♥
ピアノ:河野紘子 ♦
チェロ:高木慶太 ♠
児童合唱:明星学園小学校の子どもたち ♣
【曲目】
不詳/中村裕美編:お江戸子守歌 ♥♦♠
中村裕美/中原中也:子守唄よ ♥♦♠♣
シューベルト:子守歌 ♥♦
ブラームス:子守歌 ♥♦
フリース:モーツァルトの子守歌 ♥♦
プッチーニ:そして小鳥は(子守歌)♥♦
山本正美/美智子皇后陛下:ねむの木の子もり歌 ♥♦
池辺晋一郎/別役 実:風の子守歌 ♥♦♣
ロジャース:My Favorite things(私のお気に入り)♥♦♣
平吉毅州/東 龍男:気球に乗ってどこまでも ♣(ピアノ:小林沙羅)
小林沙羅:子守歌 ♥♣
シャーマン:Stay awake 〜映画『メリーポピンズ』より ♥
草川 信/北原白秋:揺籠のうた ♥♦
R.シュトラウス:子守歌 ♥♦
池辺晋一郎/新川和江:歌 ♥♦
カッチーニ:アヴェ・マリア ♥♦♠
ウェーバー:ピエ・イエズ ♥♦♠
レーガー:マリアの子守歌 ♥♦♠
バッハ=グノー:アヴェ・マリア ♥♦
マスカーニ:アヴェ・マリア ♥♦
池辺晋一郎/谷川俊太郎:歌 ♥♦
《アンコール》
 小林沙羅:えがおの花 ♥♦
 小林沙羅:子守歌 ♥

 ソプラノ歌手の小林沙羅さんが昨年2016年11月に2枚目のCDアルバムをリリースした。タイトルは「この世でいちばん優しい歌」。母親となった沙羅さんが、古今東西の「子守歌」や聖母を称える複数の「アヴェ・マリア」を収録したものである。今日は、そのCDリリース記念のリサイタルであり、曲目はほぼCDと同じだが、曲順を変えたり、一部の曲は編曲を変えて児童合唱を加えたりもしている。ピアノ伴奏は河野紘子さん。一部の曲にはチェロの高木慶太さん(読売日本交響楽団チェロ奏者)が参加しているのはCDと同様である。


 1曲目は「お江戸子守歌」。チェロの独奏で始まり、非常にゆったりとテンポでお馴染みの子守歌が歌われていく。ピアノが入ってくると現代風の編曲で斬新な印象を創り出している。
 トークを挟んでの2曲目は、中村裕美作曲/中原中也作詞の「子守唄よ」。この曲には児童合唱として明星学園小学校の子どもたち8名が加わる。子供たちといっても小学校の2〜3年生で、かなり緊張した様子であったが、素朴で清らかな歌声で、けっこう上手い。2部合唱になっていて、沙羅さんと3つの声部を作る。ピアノの伴奏にチェロが深みのある低音を提供し、厚みのある和声を構築し、子守歌を歌う母親の姿を描いた中也の詩の世界を描き出していた。

 ここからは西洋の有名な子守歌。といっても芸術的な表現による歌曲の世界である。原典に従ってピアノ伴奏で歌われた。
 シューベルトの「子守歌」もブラームスの「子守歌」も小学校で習う曲だが、芸術的歌曲として捉えても素晴らしい曲だ。ドイツ語の発音や原語の持つ響きを特に大切にしている沙羅さんの歌唱は、子守歌のレベルを遥かに凌駕する藝術の領域だ。美しい発音による細やかなニュアンスの表現、しっとりとした情感がとても優しく伝わって来る。
 いわゆる「モーツァルトの子守歌」として知られる曲は、実はベルンハルト・フリースという人が作曲したものである。まあ、誰が作ったとしても美しい曲には違いなく、沙羅さんの歌唱も優しい。
 そしてちょっと毛色が変わって、プッチーニの「そして小鳥は」という子守歌。珍しいプッチーニの歌曲だが、軽妙な旋律はやはりプッチーニ節である。イタリア語の歌唱は母音が多く、長く伸ばされるので、ドイツ語とはまったく違った抑揚になる。沙羅さんはイタリア語の発音もとても綺麗で、明瞭だけれども優しく響く。

 「ねむの木の子もり歌」は、美智子皇后陛下が高校生の頃に書かかれた詩に山本正美さんが作曲したもの。歌詞自体が柔らかく聞こえる音で構成されていて、濁音もほとんどなく、例えば詩を音読してみるとその美しい日本語の響きが分かる。歌になったときには更にその優しい日本語の響きが生きてくるのである。沙羅さんの声も優しく清冽に届く。

 ここから再び児童合唱が加わる。池辺晋一郎さん作曲、別役実さん作詞の「風の子守歌」は合唱曲としても有名な、とても素敵な曲である。合唱が2部に分かれ、沙羅さんと美しいハーモニーを作り出す。河野さんのピアノも優しく包む込むような柔らかさがある。

 ここで雷の効果音が轟き、子供たちが怖がって叫ぶ。沙羅さんは(母親というよりは幼稚園の先生のように)子供たちに怖いときは好きなもののことをことを考えるといいよ、君たちの好きなものは何? と尋ねる。子供たちが口々に答える「好きなもの」を綴って、ロジャースの「My Favorite things(私のお気に入り)」を歌う、という趣向だ。これはミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の1場面である。この曲はJR東海のCM「そうだ、京都へ行こう」でも使われた曲。今日は沙羅さんの訳詞による日本語歌唱で、子供たちの合唱も加わると、ミュージカル風の楽しい世界が描かれる。

 次は、子供たちの合唱だけで「気球に乗ってどこまでも」。特別サービスで沙羅さんが伴奏のピアノを弾いてくれた。声楽家としてデビューとして依頼、人前でピアノを弾くのは始めてなのだという(これがけっこう上手い!!)。子供たちの合唱には、見栄や打算がないから、聴いていてもすがすがしい思いになる。小学校低学年で8名だけという割りには、けっこうというか、かなり上手いと思う。たまにはこういう合唱曲も良いものである。

 前半の最後は、沙羅さんの作詞作曲による「子守歌」。もちろん、新しいCDにも収録されている。本来はア・カペラの独唱曲だが、今日は特別編曲版の児童2部合唱付き。この曲は今後も聴く機会が多いとは思うが、合唱付きはもう二度とないかも。貴重な演奏になったかも。

 休憩を挟んで後半は、映画『メリーポピンズ』より「Stay awake」。ア・カペラで歌われた。子供たちに「眠らないで」と歌う子守歌だ。

 草川 信作曲/北原白秋作詞の「揺籠のうた」は誰でも知っている日本の近代の子守歌としては代表格であろう。ピアノ伴奏で歌う沙羅さんの歌唱は、優しい情感と芸術的な表現力とが適度にバランスされていて、とても素敵だ。

 リヒャルト・シュトラウスの「子守歌」は爛熟期のロマン派後期の芸術歌曲としての曲。描き出される濃厚なロマンティシズム。沙羅さんの歌唱は、切々とだが訴える力が強く、オペラ・アリアのような劇的な盛り上がりを見せる。さすがシュトラウスという感じ。ロマン派の巨人は、子守歌を作っても格調高い芸術性を発揮している。

 池辺晋一郎さん作曲/新川和江さん作詞の「歌」はとても美しい歌曲。もちろん沙羅さんのCDにも収録されていて、この歌詞の中に「この世でいちばん優しい歌」という1フレーズがあり、アルバムのタイトルになっているのである。沙羅さんのわが子への思いが込められているように、やや強い意志のチカラが感じられた。

 ここから再び高木さんのチェロが加わる。ソプラノとチェロとピアノの三重奏はあまり聴く機会がなかったが、考えてみれば、ピアノ・トリオがヴァイオリンと同じ高音域のソプラノに代わるのだから、各声部のバランスは良いはずだ。
 カッチーニの「アヴェ・マリア」は、すでに旧ソ連の作曲家ヴァヴァイロフによる偽作であることが判明しているが、カッチーニ風のバロック調の造形の上にロマン主義的な音楽が載せられているとても美しい曲。沙羅さんの清冽な声質とチェロの抒情的な旋律がとても素敵だ。
 「ピエ・イエズ」は、『オペラ座の怪人』などのミュージカル作曲家として知られるアンドリュー・ロイド・ウェーバーの書いた宗教曲「レクイエム」の中の1曲。清らかな曲だ。
 レーガーの「マリアの子守歌」は聖母マリアがイエスをあやす子守歌。宗教曲の一種だが、むしろ母性の情感がほのぼのと描かれている。
 続いては有名なバッハ=グノーの「アヴェ・マリア」。流れるようなピアノの分散和音に乗せて、息の長いゆったりとした旋律が、沙羅さんの濁りのない歌声で大らかに伝わって来る。
 続いても有名なマスカーニの「アヴェ・マリア」。オペラ『カヴァレリア・スルティカーナ』の余りにも美しい間奏曲に「アヴェ・マリア」の歌詞を付けたもの。位置づけとしては宗教曲だが、オペラのアリアのような豊かな表情が他の曲とは一線を画している。沙羅さんの歌唱は、やはりオペラ歌手としての一面が垣間見え、情感の表現に心を打つものがある。先日観た『カルメン』の中のミカエラのアリアを思い出した

 プログラムの最後は、新作「歌」という曲の初演。沙羅さんが大好きな谷川俊太郎さんの詩に池辺晋一郎さんに作曲をお願いしたものだという。さりげない日常を「歌」が様々に彩っていると歌う。とても優しい旋律と美しい和声で、自然体よりちょっと力んだ感じの沙羅さんの歌唱が印象的だった。

 アンコールは2曲。両方とも沙羅さんの作詞・作曲によるオリジナル曲だ。1曲目はお馴染みの「えがおの花」。今日はチェロが加わり、抒情的なイメージが一段と深まっている。
 最後の最後は「子守歌」。プログラム本編の前半で歌ったときには児童合唱を交えてだったが、アンコールでは本来のア・カペラ。短い曲の中にも万感の思いが込められているようで、心に染み入る感じがした。

 終演後は恒例のサイン会。今日はセカンド・アルバムの発売記念を兼ねてのリサイタルということなので、CDも飛ぶように売れて、会場には長い行列ができていた。
 沙羅さんのファースト・アルバム『花しらべ』に収録されている曲で、沙羅さんご自信が作詞作曲した「えがおの花」は今日もアンコールで歌ってくれるたし、ファンの間ではすっかりお馴染みになっているが、要望が多かったということで2017年4月1日付で楽譜が出版されることになった。まだ発売前だったが、会場で先行発売としていたので、早速購入。サイン会では表紙にサインをいただいた。


 サイン会は長く続き、やがて紀尾井ホールの撤収の時刻が迫っているということで、最後の方は慌ただしくなってしまい、いつものように記念写真を、というわけにはいかなかったのが、ちょっと残念。
 しかし、リサイタルは大成功たったといえる。CDに収録された曲をただ歌うだけではなく、児童合唱を交えるなどの企画も加わり、ほのぼのとした世界を創り出していた。沙羅さんの人柄と、プロデュース力によるところが大きい。今後のますますの活躍が期待できそうだ。

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【お勧め楽譜のご紹介】
 本文でも紹介させていただいた、小林沙羅さんの作詞作曲による「えがおの花」の楽譜です。ピアノ譜(中村裕美編曲)付き。2017年4月1日 第1刷発行。発行/小林沙羅。制作/カワイ出版。日本音楽著作権協会(出)1702258-701号。定価/本体463円+税。amazon.co.jpでは取り扱いがないので、ご希望の方はカワイ出版 ON LINE まで直接どうぞ。


【お勧めCDのご紹介】
 小林沙羅さんのセカンド・アルバムCDは、今日のリサイタルとほぼ同じ内容の「この世でいちばん優しい歌」。全17曲を収録している。共演は、ピアノが河野紘子さん、チェロが高木慶太さん。2016年11月2日のリリース。
この世でいちばん優しい歌
日本コロムビア
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3/22(水)Ensemble Old-Fashion/若い力が輝く石原悠企・大江馨・田原綾子のオール・モーツァルト・プロ

2017年03月22日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
Ensemble Old-Fashion Vol.5

2017年3月22日(水)19:00〜 四谷区民ホール 自由席 1階 A列 11番 2,000円
指揮・ヴァイオリン:石原悠企*
ヴァイオリン:大江 馨**
ヴィオラ:田原綾子***
管弦楽:Ensemble Old-Fashion
【曲目】
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調 K.219「トルコ風」*
モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364** ***
《アンコール》
 モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第1番 K.423より 第2楽章** ***

 Ensemble Old-Fashionは2014年に慶應義塾大学の学生有志により結成された弦楽合奏アンサンブル。今回で5回目のコンサートとのことだ。一般の学生さん達によるアマチュアの団体ということなので、正直言ってあまり期待はしていなかったのだが、演奏を聴いてビックリ。意外(といっては失礼だが)なくらい、けっこう上手い。しかもモーツァルトの名曲が揃っていたので、かなり楽しむことができたのである。アマチュアとはいえ、2,000円でこれだけの演奏を聴かせていただけるのであれば、文句の付けようもない。

 弦楽合奏は、メンバー表によると第1と第2合わせてヴァイオリン11、ヴィオラ4、チェロ2、コントラバス1の弦楽5部となっている。本日のプログラムでは、「ヴァイオリン協奏曲」と「協奏交響曲」には各曲の編成に従って、ホルン2とオーボエ2が加わる。
 ゲスト指揮者はヴァイオリニストの石原悠企さん。「ディヴェルティメント」では指揮を、「ヴァイオリン協奏曲」ではソリストとして弾き振りをし、「協奏交響曲」では再び指揮に専念した。
 「協奏交響曲」のソリストは、ヴァイオリンが大江馨さん、ヴィオラが田原綾子さん。大江さんは2013年の「第82回 日本音楽コンクール」のヴァイオリン部門で第1位と増沢賞、田原さんは同年の「第11回 東京音楽コンクール」の弦楽部門で第1位と聴衆賞を獲得している。20歳代前半というこの世代ではトップクラスの演奏家であることは間違いない。また大江さんと田原さんは「ラ・ルーチェ弦楽八重奏団」のメンバーとして一緒に活動していることもあり、息の合った演奏が期待される。そんな彼らの演奏を聴きたくてやって来たのである。

 会場の「四谷区民ホール」は今回が初めてであった。新宿区立の3つある区民センターの1つで、東京メトロ・丸ノ内線「新宿御苑」の駅から徒歩5分くらい。区の総合施設の9階にあるホールは2階構造になっていて、1階334席、2階118席、合わせて452席と、規模としては小ホールだが天井が高く、また空間がシンメトリーでないこともあってか、けっこう音響が良い。客席も緩やかな階段状になっているので、どの席からも見やすそうである。ただし、ステージがちょっと高めであったため、最前列では立って演奏するソリスト達を見上げるようになり少々首が疲れた。今日は自由席であったため、18時30分開場/19時開演に対して、18時に会場入りしたら列の5番目くらいだった。おかげで最前列のセンターを確保できたわけだが、都内で仕事を持つ身にとっては、19時開演の自由席だとかなりツライものがある。

 さて今回はオール・モーツァルト・プログラム。1曲目は有名な「ディヴェルティメント ニ長調 K.136」だ。弦楽5部合奏のみで、石原さんの指揮による。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを対向に配置し、第1の後ろにヴィオラ、第2の後ろにチェロとコントラバス。椅子に腰掛けての演奏である。
 第1楽章は軽快なテンポで、リズム感も良く、主題を提示するヴァイオリンのアンサンブルも素敵だ。内声部と低音部が刻むリズムも推進力のある息遣いが感じられて、なかなか快調な滑り出しだ。時折縦の線が乱れたりもするが、立ち上がりの緊張もあるだろうし、ご愛敬といったレベルだ。
 第2楽章の緩徐楽章は、やや速めのテンポだろうか。けっこうメリハリを効かせている。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの各声部が比較的明瞭に分離していて、造形がはっきりしている。フレッシュで瑞々しい雰囲気がいっぱいである。
 第3楽章はPrestoで一段と軽快感を増す。やや前のめりの感じのするテンポが、音楽に生命力を漲らせている。演奏には若干の緊張感があり、固さが感じられる部分もあったが、全体的にはなかなか素敵な演奏だったと思う。コントラバスが加わっているため低音部が増強されてアンサンブルのバランスに深みが増しているのも良かった。

 2曲目は、「ヴァイオリン協奏曲 第5番『トルコ風』」。弦楽の後方にホルンとオーボエが加わった。ソリストである石原さんは、扇の要の位置に立ち、客席側を向いての「弾き振り」である。
 第1楽章は、序奏部分から石原さんは第1ヴァイオリンのパートを弾いている。目の前で聴いていたせいもあるが、その音がやけに明瞭に聞こえてしまった。ソナタ形式の主部に入り、独奏ヴァイオリンが抜け出すと、オーケストラと対話するようにバランス良く展開する。石原さんのヴァイオリンは鮮やかな音色を持ち、思いの外派手な感じで、音楽を煌びやかに彩っていく。カデンツァではさらに華麗な技巧を披露した。
 第2楽章はAdagioだがやはりやや速めであろうか。石原さんのヴァイオリンが鮮やかな色彩で、主題をロマンティックに歌っていく。
 第3楽章はロンド。ただし主部はTempo di Minuettoで古典的な典雅な舞曲風で、そこにさらに優雅に独奏ヴァイオリンが乗る。石原さんの鮮やかな音色は、この典雅な音楽に合っている。中間部がAllegroとなり「トルコ風」と呼ばれるようになったエキゾチックな主題が登場する。石原さんのヴァイオリンもこの部分ではやや翳りのある音色に変わる。このような極端な曲想の変化がこの楽章の特徴だ。モーツァルトは若干19歳でこのような複雑な内容を持つ協奏曲を見事に創り上げているのである。

 後半は本日の目玉である「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」。やはり注目すべきは田原さんのヴィオラだ。というのも、そもそもヴィオラには協奏曲としての名曲が極めて少ない。ところが、モーツァルト自身がヴィオラを好んだということもありこの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」では、ヴァイオリンとヴィオラが完全に対等に扱われている。本来は内声部を受け持つヴィオラを表舞台に引っ張り出してスポットを当てたのがこの曲だといえる。だからヴィオリストにとっては最も重要な協奏曲だと捉えることもできる作品なのだ。
 そのような名曲には違いないが、だからといってオーケストラのコンサートのプログラムに載せられることが多い訳ではない。だからヴイオリストにとっても実際に演奏する機会は滅多にないというのが現実だろう。ところが、田原さんは、昨年2016年の1年間にこの曲を4回も本番演奏している。2016年1月7日には彼女の師匠である藤原浜雄さんとの共演で(小林研一郎さん指揮/読売日本交響楽団)、11月5日にはCHANEL Pigmalion Daysの土岐祐奈さんのリサイタルにゲスト参加してピアノ伴奏で全楽章を演奏、そして12月30日に毛利文香さんとの共演で(坂入健司郎さん指揮/川﨑室内管弦楽団)昼・夜2回公演で演奏しているのである。これだけの演奏機会に恵まれるということはそうあることではないはず。
 そして今日は大江さんとの共演。毎回ヴァイオリンの共演者も違い、指揮者もオーケストラも違うというのは大いに刺激になることだろうと思う。
 第1楽章。協奏風ソナタ形式は、まずオーケストラのみで主題の提示部が演奏されるが、大江さんも田原さんも第1ヴァイオリンとヴィオラのパートを一緒に弾いている。やはり二人のソリストの音は際立っていて、アンサンブルからちょっと浮き上がっている。ソロのヴァイオリンとヴィオラが独立して主題を繰り返し始めると、協奏曲らしい華やかな楽想に変わる。大江さんのヴァイオリンはやや硬質な冷たい感じのする音色と緊張感の高い張り詰めたイメージ。対して田原さんのヴィオラは柔らかく暖色系で大らかに響き渡る。二人の質感の違いが鮮やかな対比を描き出していて面白い。カデンツァでは息はピタリと合っているが音質の違いが広がりのある響きを創り出していた。また、石原さんの指揮するEnsemble Old-Fashionは、ここでは中庸なテンポであったが、リズム感が躍動的であるため推進力もあるしダイナミックレンジも広い。前半の演奏よりも明らかにノリが良く、溌剌としていたのは、二人のソリストのエネルギーに触発されたのだろう。
 第2楽章は、平行調のハ短調の緩徐楽章で、憂いと悲哀に満ちたとても美しい曲想である。独奏の二人はけっこう音量も出して、主題を明瞭に描き出している。ここでは大江さんのヴァイオリンは繊細なイメージを創り出し、すすり泣くような音色の場面もあった。対して田原さんのヴィオラは深みがあり包み込むイメージだろうか。やはり対比は鮮やかであった。
 第3楽章はPrestoのロンド。軽快に疾走するようなリズム感が心地よく響き渡る。オーケストラ側の躍動的なエネルギーがグイグイと前に出てくる。独奏のヴァイオリンとヴィオラがロンド主題を弾き出すと、同じ旋律や音形を対話するように交互に弾いていく。主題を両者がキャッチボールをしているようにリズム感良く受け渡していくのだ。その息の合った掛け合いの様子は、聴いていても心が躍るような、音楽の喜びに溢れているように感じた。大江さんのヴァイオリンも田原さんのヴィオラも、そしてオーケストラの演奏も素晴らしい。瑞々しく、溌剌としていて、若い演奏家たちならではの生命力がある。聴く者を元気にしてくれる演奏であった。Bravi!!

アンコールは、二人のソリストによるもののみで、モーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第1番」の第2楽章であった。緩徐楽章で、低音域のヴィオラの伴奏の上にヴァイオリンのもの悲しげな抒情的な旋律が乗る。ここでも二人の音質の違いが明瞭で、これはこれで美しいハーモニーを生み出していた。


 終演後のロビーは出演者の皆さんと関係者の皆さんの歓談の場となる。主役はあくまでEnsemble Old-Fashionに皆さんなので、あちこちに人の輪ができていて賑やかだった。演奏者だけでなく運営のスタッフさんたちも皆、明るい表情。演奏会は大成功だったと思う。素晴らしい演奏を心から堪能することができたからだ。石原さん、大江さん、田原さんの3名のゲストも、それぞれファンの方々や関係者の方々に囲まれて楽しい一時であった。

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3/19(日)森 麻季デビュー20周年記念リサイタル/弦楽五重奏や合唱を交えた華やかな日曜の午後

2017年03月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
デビュー20周年記念公演
森 麻季ソプラノ・リサイタル
夢と希望に満ち溢れた歌声〜森 麻季 春を歌う


2017年3月19日(日)14:00〜 横浜みなとみらいホール S席 1階 C1列 19番 5,400円(会員割引)
ソプラノ:森 麻季
ピアノ:山岸茂人
第1ヴァイオリン:長原幸太
第2ヴァイオリン:鍵富弦太郎
ヴィオラ:横溝耕一
チェロ:富岡廉太郎
コントラバス:瀬泰幸
合唱:青山学院横浜英和中学高等学校 コーラス部(合唱指導:辛島由希子/特別出演)
【曲目】
ドニゼッティ:歌劇『シャモニーのリンダ』より「私の心の光」
山田耕筰:からたちの花(ピアノ・ソロ)
中田喜直:さくら横ちょう
別宮貞雄:さくら横ちょう
岡野貞一:朧月夜
中田喜直:はなやぐ朝
グラナドス:組曲『ゴイェスカス』より「嘆き またはマハと夜鳴きうぐいす」(ピアノ・ソロ)
グノー:歌劇『ミレイユ』より「おぉ、軽やかなつばめよ」
《青山学院横浜英和中学高等学校コーラス部とともに》
千住明:エターナル・ライト
菅野よう子:花は咲く~NHK「明日へ」東日本大震災復興支援ソング
黒人霊歌:アメイジング・グレイス(コーラス部のみ)
《弦楽五重奏+ピアノとともに》
グノー:歌劇『ファウスト』より「宝石の歌」
J.S.バッハ:管弦楽組曲 第3番より「G線上のアリア」(弦楽五重奏)
ヘンデル:歌劇『リナルド』より「涙の流れるままに」 
マスカーニ:アヴェ・マリア  
ドビュッシー:「小組曲」より「小舟にて」(弦楽五重奏)
グノー:歌劇『ロミオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」
《アンコール》
 山田耕筰:からたちの花
 いずみたく:見上げてごらん夜の星を

 お馴染みのソプラノ、森 麻季さんのデビュー20周年を記念して横浜みなとみらいホールで開催されたソプラノ・リサイタル。第一線に躍り出てもう20年もの間、トップクラスのアーティストとしての地位を保ち続けているのは立派というか、素晴らしいことだ。とくに声楽家は身体が楽器のようなものだから、器楽奏者よりは年齢に影響される。しかしながら麻季さんは相変わらず透明感溢れる美声と素直な高音域、そしてコロラトゥーラの華麗な技巧を安定的に保っている。もちろん美貌もまったく変わらないが、髪の毛が銀色(?)なのがちょっと違和感があるが・・・・。

 本日のコンサートでは、前半はいつも通りに山岸茂人さんのピアノ伴奏で歌い、後半はまず青山学院横浜英和中学高等学校のコーラス部の皆さんによる女声合唱を交えての3曲、その後はピアノと弦楽五重奏の伴奏で各曲を歌うという趣向である。
 麻季さんが歌った曲はいつもり持ち歌ばかりで新鮮味こそなかったが、合唱や弦楽五重奏が加わることで、いつもとは違って雰囲気がよりゴージャスになった。とはいえ、いささか盛り込みすぎのような印象で・・・・20周年という主旨が曖昧になってしまったような気もする。それでも麻季さんの歌唱はいつも通り、軽やかで心地よい、天上の歌声。最前列の真正面の席で、心ゆくまで堪能させていただいた次第である。

 麻季さんの20周年記念は、もうひとつ大きなコンサートが秋に予定されている。9月9日(土)の18辞より、東京オペラシティコンサートホールで、岩村 力指揮/東京フィルハーモニー交響楽団をバックにオペラ・アリアを中心としたプログラム構成だ。今日の会場でもチケットの先行販売を行っていて行列ができていた。私ももちろんチケット確保済みである。

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3/17(木)文京シビック夜クラシック/横坂源&北村朋幹が描き出す気品ある幻想的な世界

2017年03月17日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
文京シビックホール 夜クラシックVol.12
横坂 源(チェロ)/北村朋幹(ピアノ)


2017年3月17日(金)19:30〜 文京シビックホール・大ホール S席 1階 2列 25番 2,250円(セット券)
チェロ:横坂 源*
ピアノ:北村朋幹**
【曲目】
ドビュッシー:『ベルガマスク組曲』より「月の光」**
ヤナーチェク:おとぎ話* **
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 より「プレリュード」*
シューマン:「こどもの情景」より「トロイメライ」**
シューマン:幻想小曲集 作品73* **
ブラームス:チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 作品38* **
《アンコール》
 フォーレ:シシリエンヌ* **

 文京シビックホールの主催による「夜コンサート」シリーズの第12回は、チェロの横坂 源さんとピアノの北村朋幹さんによるデュオ・リサイタル。

 プログラムは上記の通り、それぞれのソロの曲をまじえてのもの。最初の「月の光」はピアノのソロだったが、これはこの「夜クラシック」シリーズのテーマ曲になっていて、照明を落として真っ暗になったステージで、この曲で始まるのである。今回のプログラムは、名曲を集めたものであるとはいえ、「夜」というテーマに沿った幻想的・夢想的な曲でまとめている。

 横坂さんのチェロは、極めて端正で気品がある。正確な音程、柔らかく暖色系の音色で、伸びやかに旋律を歌わせる。ひとつひとつの音に込められた繊細なニュアンスが、楽曲の表現に美しく聴く者を包み込むような優しさを与えている。強烈に自己アピールをするような独善的なところは少なく、スタンダードの美を追求した、王道を行くような演奏である。何より素敵なのは、聴いている者に安心と安らぎを与えてくれることだ。とくに無伴奏の「プレリュード」は柔らかく穏やかで気品があり、演奏者の人柄が表れているように感じた。「幻想小曲集」は暖色系の明るい音色で、抒情性豊かに歌わせている。ブラームスの「チェロ・ソナタ」は内省的なロマンティシズムを切なげに描き出すが、演奏は基本的に温かくて人間味が溢れている。

 北村さんのピアノは煌びやかでとても美しい音色を持っている。今日のプログラムがとくに幻想的・夢想的な曲を集めているせいもあるが、すべての曲で、常に抑制的ではあったがその分だけ繊細さと優美さを湛えていて、旋律が実に美しく歌われる。「月の光」や「トロイメライ」は印象主義的な光りと影を映し出すような雰囲気。「幻想小曲集」は伴奏ピアノとはいえ美しい分散和音が夢幻的に煌めくよう。ブラームスの「チェロ・ソナタ」は音質は美しいがやや光彩を抑えめにして、曲相に合わせて言いたいことを内に秘めるようなニュアンスが込められていた。

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3/15(水)紀尾井・明日への扉/桑原志織/ダイナミックで繊細、スケール感と色彩感豊かに描く「展覧会の絵」

2017年03月15日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
紀尾井/明日への扉15/桑原志織(ピアノ)
Kioi Up & Coming Artist 15/Shiori Kuwabara, Piano


2017年3月15日(水)19:00~ 紀尾井ホール 1階 1列 11番 2,000(セット券)
ビアノ:桑原志織
【曲目】
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第19番 ハ短調 D958
ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3楽章
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」
《アンコール》
 ラフマニノフ:練習曲集「音の絵」作品39より第1曲 ハ短調

 紀尾井ホール主催の「明日への扉」シリーズのVol.15は、ピアニストの桑原志織さん。彼女は、2014年の「第83回 日本音楽コンクール」ビアノ部門で第2位と増沢賞(聴衆賞/私も投票した)、2016年の「第62回 マリア・カナルス・バルセロナ国際音楽コンクール」でも第2位と最年少ファイナリスト賞を受賞している期待の若手だ。現在は東京藝術大学の3年に在学中。江副記念財団第44回奨学生にも選ばれていて、昨年末(2016年12月24日)の「リクルートスカラシップコンサート」にも出演していた。その模様は今年の1月9日にBSジャパンで放送されたのでご覧になった方もいるかと思う

 今回の「明日への扉」に出演するに当たっては、上記のように思い切ったプログラムで、紀尾井ホールでのリサイタル・デビューに対していきなり大曲で勝負に出たという感じだ。

 シューベルトの「ピアノ・ソナタ 第19番」は30分近い4つの楽章を持つ大曲で交響曲のピアノ版といった感じのスケール感と造形の曲。桑原さんのピアノは非常にダイナミック・レンジが広く、音量も豊かで、雄大なスケール感を発揮している。そして細やかなニュアンスを込めてロマン的な表現力にも生命感が溢れている。緩徐楽章の歌わせ方などにもシンフォニックなイメージを感じた。終楽章は躍動感と推進力があり、いかにも若手の演奏らしい瑞々しさに溢れていて、素晴らしかった。

 ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3楽章」は一転して鮮やかな色彩感で物語性を打ち出してくる。キラキラと細かな光りが煌めくような、沢山の色の光が飛び交うような色彩感である。また高度な技巧の求められる曲でもあるが、桑原さんは技巧性にはまったくとらわれずにひとつひとつの音やフレーズ、主題が物語性を持ってシッカリかつ繊細に描かれているのがお見事。

 後半はムソルグスキーの「展覧会の絵」。言わずと知れた名曲で、私も大好きな曲のひとつ。後年のラヴェル編曲の管弦楽版を知っている私たちは、ピアノ曲としての原曲にも様々な色彩や造形が練り込まれていることを感覚的に知っているので、演奏するピアニストにとってもより深読みした解釈や表現が求められることになる。桑原さんの演奏を聴いていて、そのことを改めて感じた次第。例えば曲間をつなぐ「プロムナード」が出てくる度にピアノの音色が変わる。楽譜を正確に弾いているだけではあり得ないこの色彩感の変化は解釈というよりは感性のなせる技だろう。当然、各曲の表現に至っては、幅広い表現手法を駆使して、それぞれの「絵」を描いている。実際に聴いていて、各曲のタイトル通りの映像が目に浮かんでくるというわけではなく、もう少し抽象的な感覚も含まれていて、ページをめくるたびに異なる色調の絵が目に飛び込んでくるような感覚にとらわれた。いずれにしても表現の幅は広く、彼女がこの曲を自信を持って選んだのが納得できるような気がした。Brava!!な演奏であること間違いなし。
 もう一つ感じたのは、桑原さんはこの紀尾井ホールの豊かな(ある意味では豊か過ぎる)響きを味方に付けていたことだ。実は本日の「明日への扉」は2016/2017シーズンの4回のコンサートの最終回なのだが、桑原さんは昨年9/21のトランペットの守岡未央さん、12/6のヴァイオリンの小川恭子さんなどのコンサートを聴きに来ているのを見かけた。前述の「リクルートスカラシップコンサート」も紀尾井ホールで行われたこともあり、ホールの響きをステージ側からも客席側からも確認できているのだろう。ひとつひとつの音が、生命力を持って明瞭に鳴り、かつ豊かに響いていた。

 アンコールはラフマニノフの練習曲集「音の絵」作品39より「第1曲 ハ短調」。まさに音の奔流のような曲だが、テクニックも素晴らしい。

 終演後、桑原さんはロビーに出て来られて関係者の方々と歓談されていた。私はまったく接点はなく関係者でも何でもないのだが、図々しくもご挨拶に名乗り出て、記念写真を撮らせていただいた。


 桑原さんのピアノは、とにかく器が大きく感じられる。他の人にはない独特のスケール感がある。大らかでダイナミックな部分と繊細でロマンティックな部分が程良くミックスされ、そこに多彩な色彩を持つ音色が加わる。だから表現力には幅広さと奥行きの深さが生まれる。ご自身の世界観がある程度出来上がりつつある感じなのである。私は「第83回 日本音楽コンクール」の時以来注目していたが、今日のリサイタルを聴いて改めて感じたのは、今後も目の離せないアーティストの一人だということである。

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