Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/27(水)サマーミューザ/東京フィル+チョン・ミョンフン+クララ=ジュミ・カンでチャイコフスキー!!

2016年07月27日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
フェスタサマーミューザKAWASAKI 2016
東京フィルハーモニー交響楽団「チョン・ミョンフンの情熱」


2016年7月27日(水)19:00〜 ミューザ川崎シンフォニーホール S席 2階 2RB1列 6番 6,000円
指揮:チョン・ミョンフン
ヴァイオリン:クララ=ジュミ・カン*
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35*
《アンコール》
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 BWV1005 より「ラルゴ」*
チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 作品36

 7月後半から8月いっぱいは音楽界も夏休みモードに入ってしまうのでコンサートが極端に少なくなる。そんな中で毎年恒例の「フェスタサマーミューザKAWASAKI」は、在京のプロ・オーケストラが総出演して名曲を中心としたプログラムを展開するので、この時期、東京を離れられない音楽ファン達が皆ここに集まってくる。私には地の利があまり良くないのであまり積極的には聴きに行く方ではないが、今年はとくにプログラムにあまり魅力が感じられなかったので、本日の東京フィルハーモニー交響楽団の公演1回だけ、聴くことにした。逆に本公演は、桂冠名誉指揮者のチョン・ミョンフンさんが登場し、ゲスト・ソリストにはヴァイオリニストのクララ=ジュミ・カンさんが呼ばれて、1夜限りのチャイコフスキー・プログラムという超豪華番で、これは聴かずにはおけない今夏最大のコンサートになるはず(ちょっと大袈裟?)。
 チョン・ミョンフンさんは今回の来日で東京フィルの「東京オペラシティ定期シリーズ」「サントリー定期シリーズ」「オーチャード定期演奏会」のすべてを指揮している。「サントリー」と「オーチャード」ではプッチーニのオペラ『蝶々夫人』全曲を演奏会方式で演奏して話題になった(私はすべての定期会員になっているのだが諸事情により行けなかった)。一方「オペラシティ」では今日と同じチャイコフスキーの交響曲第4番で素晴らしい演奏を聴かせてくれた。定期がすべて終わって、最後が本日の「サマーミューザ」というわけで、これは楽しみだ。考えることは皆同じらしく、ミューザ川崎に今日ほど知っている人が多かったのも珍しい、というか初めてのことだ。

 さて私はといえばちょっと油断してチケット取りをミスしてしまい、今日は珍しく2階席、しかも正面でもないRBブロック(右サイドのバルコニー)。とくにヴァイオリン協奏曲のある日に2階席を取ることはほとんどないので、またいつもとは違った印象になることは間違いないだろう。
 ご承知のように、ミューザ川崎シンフォニーホールは音響に優れているとの評判のホールで、マリス・ヤンソンスさんの一番のお気に入りのホールだということはよく知られている。左右対称でないすり鉢のようなカタチをしたヴィンヤード形式で、狭い1階フロアの半分を占めるステージの上方の天井がやたらに高い。反響板のまったくないこの空間のカタチから考えると、オーケストラの音は上方に向かって広がるように飛んでいくことになるので、1階では音があまり飛んでこないはず。まあ実際に、2階や3階の正面側の方が音が良いと言う人が多いようだ。私はこのホールには滅多に来ないので、経験的にはなにも語る資格はないが、今日2階席で聴いてみて、ナルホド、音が良いというのはこういう音のことを言っているのか、と何となく分かるような気がした。席に座った状態で、オーケストラのすべてのパートの奏者が見えるので、直接音が届くはず。実際には木管も金管もクッキリと聞こえるが、弦楽は音が混ざり合ってしまい分離しないようだ。私としては、普段聴き慣れている1階の前方、指揮者の真後ろ辺りで聴くのとはまったく違う感覚なので、むしろ途惑うばかり。やはりクラシック音楽は席の位置が重要なのだと改めて感じた次第であった。

 プログラムの前半は、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストのクララ=ジュミ・カンさんは、5年前の2011年6月に浜離宮朝日ホールでリサイタルを聴いて以来となるが、押し出しの強い情熱的な演奏という印象が強かった人である。
 さて、登場したクララ=ジュミ・カンさんだが、改めて思うのは、2階のRBブロックという比較的ステージに近い席であっても、演奏家の全体像しか見ることができず、表情どころか顔も良くは見えない。本人を知っているから分かるようなもので、初めて聴く演奏家では、その顔を心に刻むこともできそうもない。3階や4階からは・・・どう見えるのだろう。
 音についても同じことが言えそうで、聞こえてはいるのだが、よく響く残響と混ざってしまい、あるいはオーケストラの音と溶け合っていて、曖昧な感じがするのは否めない。ヴァイオリン1挺で引く協奏曲では、大きなホールでの演奏会には基本的に向いていない。だから演奏家も、大きな音を出し、より遠くへ音を届かせるために、どうも無理をしているような気がしてならない。クララ=ジュミ・カンさんも弱音から強音まで全体的に大きな音を出すように強く弾いているような印象であった。演奏そのものは、なかなか素晴らしかったと思う。キレが良く、速いパッセージは流れるようなレガートが美しくリズミカルで快調であったし、主題を大きく歌わせるのも情熱的で力感が溢れている。
 一方オーケストラ側は、チョン・ミョンフンさんが速めのテンポで切れ味の鋭い音楽を作っていき、緊張感を常に高く保っていた。ただし、このようにテンポを速めに演奏すると、残響音の長いこのホールでは、例えばヴァイオリンとオーケストラが短いフレーズで丁々発止とやり合う場面などでは、鋭く突っ込むヴァイオリンの音がその前のオーケストラの残響に埋もれてしまい、聞こえなくなってしまうのだ。これは1階のステージ近くで聴いている場合にはCDの録音を聴くごとくにヴァイオリンの直接音とオーケストラの音が分離して聞こえるのだが、2階席ではもう渾然一体となってしまうためにこのような現象が起こってしまう。3階、4階ではなおさらだろう。
 同様にヴァイオリンのソロも、速いパッセージはもやもやした残響に包まれてしまい、よく聴き取れない。まあ、無理なことを言っても仕方がないのだが、やはりヴァイオリン協奏曲はもう少し小さなホールの方が演奏する方も聴く方も良いのではないかと思う。あるいはあまり響かないホールの方が良かったりして・・・・。
 クララ=ジュミ・カンさんのソロ・アンコールは、バッハの「ラルゴ」。ねっとりと濃厚なロマンティシズムを漂わせた自由度の高い演奏で素晴らしいかった。テンポが遅ければ、残響に絡め取られることなく音の芯がはっきりと聞こえるし、こういう対位法の多声的な曲の場合はホールが響く方が良い。・・・・何とも難しいところだ。

 後半は「交響曲第4番」。チョン・ミョンフンさんお得意の演目で、先週7月21日に「東京オペラシティ定期シリーズ」でも聴いたばかり。演奏自体はほとんど変わるところもなく、拍のアタマを明確に打ち出す立ち上がりの鋭さを聴かせ、全体的にははやめのテンポ設定で緊張感の高い演奏。そして旋律を歌わせる必要がある部分ではチョン・ミョンフンさんの棒捌きは弾力のあり竹が撓うようにフレーズを膨らませる。東京フィルの演奏も見事と言って良いレベルだ。とくにホルンとトランペットがパワフルで艶のある演奏をし、オーボエとクラリネットが濃厚な色彩感を滲ませ、全体の質感をグッと高めていた。弦楽も透明感のあるサウンドで見事なアンサンブルであったが、金管の馬力に対してはややパワーが不足気味のようにも感じられた。
 ここでまた音響の話になってしまうのだが、2階のRBブロックで、オーケストラの全員が見える位置で聴いていると、つまりはオーケストラが出している音がすべてロスなく聞こえて来ていることになる。だから個々の楽器の音質についてはダイレクトに聞こえるだけに、東京フィルが上手い演奏をしていることは改めてよく分かった。ミューザ川崎のように響きの良いホールでは、各楽器がソロで演奏するような場面では非常に美しく艶やかに聞こえるが、一方で全合奏になっる場面などでは残響を含む渾然一体となった音がひとかたまりになってしまって、あまり音楽的ではないような気がするのだ。もっと響きがタイトに引き締まっているオペラシティでは、指揮者の真後ろの最前列で聴いたので、今日とはだいぶ違った印象であった。つくづく思うのだが、クラシック音楽と音楽ホールの関係、そして聴く席位置との関係は永遠のテーマである。個人の好みもあるが、値段の高い席の方が必ずしも良いとは限らないのである。

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7/21(木)東京フィル/オペラシティ定期/チョン・ミョンフン得意のチャイコフスキー交響曲第4番を爆演

2016年07月21日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東京フィルハーモニー交響楽団/第103回東京オペラシティ定期シリーズ

2016年7月21日(木)19:00〜 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 3列(1列目)17番 5,355円(会員割引)
指 揮:チョン・ミョンフン(桂冠名誉指揮者)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:近藤 薫
【曲目】
モーツァルト:交響曲 第40番 ト短調 K.550
チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 作品36

 東京フィルハーモニー交響楽団の「東京オペラシティ定期シリーズ」を聴く。桂冠名誉指揮者のチョン・ミョンフンさんが振る時は、東京フィルがいつもに増して引き締まった素晴らしい演奏を聴かせてくれる・・・・これは過去の経験によるもので、同じことを感じている人も多いはず。しかも今日は、チャイコフスキーの交響曲第4番がメインだから、これはもう聴かなくてもだいたい予想ができるくらい。名演の期待に胸を膨らませて会場に入る。

 演奏の方は期待に違わず、素晴らしいの一言。前半のモーツァルトの「交響曲 第40番」は速めのテンポで虚飾を排した純粋なイメージ。端正で鋭く、凄味のあるモーツァルトだ。後半のチャイコフスキーの「交響曲 第4番」は、チョンさんの得意の演目だけあって、気合いの入った指揮ぶりであった。鋭くリズムを刻み、アンサンブルを絞り上げつつ、独特のしなやかさで音楽に艶やかさをもたらす。自身に満ちた解釈でオーケストラをドライブすれば、東京フィルも見事にそれに応える演奏で返した。とくにホルンを始めとする金管群の咆哮と、木管群の色彩も鮮やかな音色が秀逸で、相変わらずの濃厚なサウンドが今日はキレ味が鋭く、インパクトの強い演奏に終始。ダイナミックレンジも広く、オペラシティの比較的タイトな空間を轟音で満たしていた。とにかく、Bravo!!な演奏だったことは間違いない。

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7/19(火)読響/名曲シリーズ/コルネリウス・マイスター+バイバ・スクリデのベートーヴェンVn協奏曲

2016年07月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 第594回 名曲シリーズ

2016年7月19日(火)19:00~ サントリーホール S席 1階 3列 20番 4,851円(会員割引)
指 揮:コルネリウス・マイスター
ヴァイオリン:バイバ・スクリデ*
管弦楽:読売日本交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61*
《アンコール》
 ウェストホフ:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調から第3曲「鐘の模倣」*
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73

 読売日本交響楽団の「名曲シリーズ」を聴く。前期までは「サントリー名曲シリーズ」という名称だったシリーズを継承している。読響の場合は定期シリーズの種類が多いので、プログラムが重複することが多い。そのため、このシリーズはいつも他のシリーズと同プログラムなので、結果的にサボってしまうことが多かった。今回のプログラムでは、バイバ・スクリデさんによるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲が是非聴きたかったので、同プログラムであった「みなとみらいホリデー名曲シリーズ」を止めて、久し振りにサントリーホールの「名曲シリーズ」に参戦となった。
 開場前のほんのわずかな時間、コンビニで缶コーヒーを買っている間にゲリラ豪雨に見舞われ、這々の体でホールに駆け込む。同じ目的だったのだろうか、今日は友人・知人が多かった。

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7/16(土)女神との出逢い/松田華音/ロシア仕込みのスケール感+可憐な日本の感性が秀逸

2016年07月16日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
土曜ソワレシリーズ/女神たちとの出逢い
松田華音 ピアノ・リサイタル


2016年7月16日(土)17:00~ フィリアホール S席 1階 1列 10番 3,500円(シリーズセット券)
ピアノ:松田華音
【曲目】
ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58
ショパン:ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61「幻想」
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」
《アンコール》
 シューマン:ロマンス 嬰ヘ長調 作品28-2
 ラフマニノフ:前奏曲 嬰ハ短調 作品3-2「鐘」

●詳細なレビューは後日、書き加えるつもりです。

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7/13(水)小林愛実リサイタル/平日午後の横浜で聴くフレッシュなショパンの「24の前奏曲」

2016年07月13日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
別冊 アフタヌーンコンサート Vol.2
小林愛実 ピアノ・リサイタル


2016年7月13日(水)13:30〜 横浜みなとみらいホール 指定 1階 C2列 18番 4,300円
ピアノ:小林愛実
【曲目】
ラヴェル:水の戯れ ホ長調
リスト:巡礼の年第2年「イタリア」より「ペトラルカのソネット 第47番」
    巡礼の年第2年「イタリア」より「ペトラルカのソネット 第104番」
    巡礼の年第2年「イタリア」より「ペトラルカのソネット 第123番」
リスト:ダンテを読んで〜ソナタ風幻想曲
ショパン:24の前奏曲 作品28
《アンコール》
 ショパン:マズルカ 第13番 イ短調 作品17-4
 ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調(遺作)

 横浜みなとみらいホールで開催される平日のアフタヌーンコンサート。昨年開催され、多くの日本人がエントリーした「第17回ショパン国際ピアノ・コンクール」で日本人でただ一人のファイナリストとなり、それまでの天才少女ぶりから大きく飛躍した評価が得られた小林愛実さんのリサイタルである。
 プログラムは、前半がリストを中心とした技巧的なもの、後半はショパンの「24の前奏曲」全曲である。あえてオール・ショパン・プログラムにせずにリストやラヴェルを選んだところに、彼女の意気込みが感じられる。彼女の演奏はこれまで一度だけ聴いたことがあるが、それは今年2016年2月の東京フィルハーモニー交響楽団の「東京オペラシティ定期シリーズ」でのこと。桂冠名誉指揮者理チョン・ミョンフンさんがモーツァルトのピアノ協奏曲第23番を弾き振りすることになっていたのに、指の故障でピアノ独奏の方がドタキャンとなり、急遽代役に立ったのが彼女だったのである。その時はおそらく本当に急に決まった演奏だったらしく、端正にまとめ上げたモーツァルトという印象で、むしろソロ・アンコールで弾いてくれたショパンの遺作のノクターンの方にこそ本来の姿が現れているように感じたものである。というわけで、今日はソロのリサイタル。彼女自身の音楽をたっぷりと聴かせていただけるはずなので、無理を押して平日のマチネーに横浜まで脚を伸ばすことになった(もちろん、チケットは発売日にしっかり押さえておいたのだが)。

 さて今日の演奏をざっと概観してみよう。
 1曲目はラヴェルの「水の戯れ ホ長調」。気負いのない可憐なタッチで、比較的狭いダイナミックレンジの中に、キラキラと煌めく音の粒を集めている。音が透き通っていて、向こう側が見えるような・・・そんな印象である。

 続いて、リストの巡礼の年第2年「イタリア」より「ペトラルカのソネット 第47番」、「ペトラルカのソネット 第104番」、「ペトラルカのソネット 第123番」の3曲を続けて。描写的で抒情的な旋律が、美しくしっとりとした音色で描き出されていく。音質に関しては美しく澄んでいて、水が流れ飛び散るよう。高音域の弱音がとくに繊細で綺麗な反面、低音部はホールの長い残響に飲み込まれて濁って籠もりがちなのが残念。解釈と表現の方は素晴らしく、物語性を感じさせる語り口でテンポもフレージングも自在に変化し淀みなく流れていく。完全に自分の世界観を持っていて、抒情的な表現が素晴らしい。

 前半の最後は、リストの「ダンテを読んで〜ソナタ風幻想曲」。陰鬱で重苦しい曲想に対して、愛実さんのピアノが先ほどまでとはまったく違った表情を見せる。広いダイナミックレンジ、立ち上がりの鋭い打鍵、縦横に駆け巡る技巧的なフレージング。力強く、スケール感の大きな、ドラマティックな演奏である。中間部では、高音部の弱音が非常に繊細なタッチで微細なニュアンスで描かれ、ロマンティックな旋律が切なげに歌われる。中盤や終盤の激しい曲想の部分では、強い打鍵と強靱なリズム感による躍動的なフレージングが素晴らしい。しかしここでも、低音部の分離の効かない残響のせいで、音が籠もってしまうのが惜しく感じられた。

 プログラムの後半は、ショパンの「24の前奏曲 作品28」全曲である。愛実さんについてはどうしても天才少女・・・子供・・・のイメージで捉えてしまっていたのだが、20歳を過ぎた今、驚くべきほどの大人っぽい表情を見せる(もちろん演奏の上で)。ショパン・コンクールのファイナリストという結果が生み出した自信なのか、あるいは悔しさなのか。ピアノに関しては私はまったくの素人なのだが、それでも感じるのは、愛実さんの演奏は同じ世代の音大生たちとは世界観が違うように感じられる。
 ショパンを聴く限りでは、音は柔らかく、深い。柔らかなタッチで音が流れるようにつながっていく。全体に美しくレガートがかかったような連続性があり、それが旋律を大きく歌わせ、豊かな表情を作っていく。描かれている抒情性には、少女のような清らかささえ感じられるのである。実際にはかなりねっとりした濃厚な描き方をしているのだが、それがまたごく自然な雰囲気を醸し出しているから不思議だ。

 アンコールは2曲。やはりショパンだ。1曲目は「マズルカ 第13番 イ短調 作品17-4」で、哀愁を帯びたロマンティックな表現が優しく、哀しげで素敵だ。最後はお決まりの「ノクターン 第20番 嬰ハ短調(遺作)」。ねっとりと、濃厚な語り口で、奥深い表現。普通に考えるとやり過ぎっぽいところだが、愛実さんだと何故か嫌らしく感じない。素晴らしいノクターンであった。

 それにしても・・・・横浜みなとみらいホールはピアノのリサイタルには向いていない。ピアノの音量で後方席まで音が十分に届くかどうかは別として、このホール特有の音が濁って籠もるように響き、とくに低音部は音が混ざりあって分離せず一塊になってしまう。これではせっかくの美音も台無しといった感じで、後方や2階の席ではどうなるのか心配に思った。

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7/9(土)田原綾子&原嶋 唯/デュオ・リサイタル/サロンに響く瑞々しく健やかなヴィオラとピアノ

2016年07月09日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
田原綾子&原嶋 唯 デュオ・リサイタル

2016年7月9日(土)13:00〜 紀尾井町サロンホール 自由席 1列中央 2,500円
ヴィオラ:田原綾子
ピアノ:原嶋 唯
【曲目】
フンメル:ヴィオラとピアノのための幻想曲 ト短調 作品94
シューマン:おとぎの絵本 作品113
ヒンデミット:ヴィオラ・ソナタ 作品25-4
ベートーヴェン:ビアノ・ソナタ 第27番 ホ短調 作品90(ピアノ・ソロ)
ルビンシテイン:ヴィオラ・ソナタ ヘ短調 作品49
《アンコール》
 クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
 成田為三/森 円花編:浜辺の歌(ヴィオラとピアノのための)

 桐朋学園大学の4年に在学中のヴィオラの田原綾子さんが、同級生の原嶋 唯さんとデュオ・リサイタルを行った。ヴィオラは曲が少ないという事情もあり、ソロのリサイタルはそう頻繁に行えるものではない。私は縁があって最近は田原さんの演奏はかなり頻繁に聴いているが、その多くは室内楽である。リサイタルは、昨年2015年5月の「東京文化会館モーニングコンサート」と、今年4月の「CHANEL Pygmalion Days」の2回を聴いたことがあるだけで、しかもその2回は1時間クラスのいわばハーフサイズのリサイタルでしかなかった。したがって、デュオ・リサイタルとはいえ、本格的なフルサイズのリサイタルを聴くのは、今回が初めてなのである。
 曲目を見ても分かるように、なかなかどうして一般的に知られた曲がないのが実状。だからこそ、私たちはヴィオラ音楽を聴く機会が余計に少なくなってしまうのであろう。オーケストラの中にあっても、室内楽のアンサンブルであっても、ヴィオラは内声部を受け持つことが圧倒的に多く、目立たない存在になってしまう。しかしひとたびオモテに出てくると、独特の温かみのある音色(人の声の音域に近く、大らかに響く)の魅力に気が付くはずである。やはり、リサイタルでソロの曲を聴かないことには、聴く側としてはなかなかヴィオラの魅力には思いが至らない。私は田原さんにヴィオラの素晴らしさを教えていただいたようなものなので、今日のリサイタルは何よりも楽しみにしていたのであった。

 会場の「紀尾井町サロンホール」は今回初めて訪れることになった。東京メトロ有楽町線の麹町と永田町の間くらいのところ(ともに徒歩4分)にあり、私は銀座線の赤坂見附から歩いたが10分くらいだった。あいにくの雨模様、実を言うと道に迷ってしまいかなりウロウロしてしまった(教訓1:初めてのコンサート会場に行く時は30分以上の余裕を持った方が良い/教訓2:スマートフォンの地図アプリ&道案内を信用しないこと)。それはともかく・・・・。
 「紀尾井町サロンホールは」普通のビルの1階にあり、2階以上には他のテナントが入っている。80平方メートル、天井高2.7〜3.0メートル、可動式の椅子を並べて、80席規模のサロンである。20cmくらいの高さのステージがあり、ピアノはスタインウェイのフルコンサートD-274。新しいホールらしく、とてもキレイで快適な空間であった。

 さて前置きが長くなってしまったので、演奏について紹介していこう。
 まず1曲目はフンメルの「ヴィオラとピアノのための幻想曲 ト短調 作品94」。この曲は4月の「CHANEL Pygmalion Days」のコンサートでも聴かせていただいたが、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の中のアリアが転用されていたりする面白い曲だ。哀愁を帯びた序奏がヴィオラによって大らかに歌われていく。息遣いさえ聞こえる暗いの距離感で聴いているので、丸みを帯た柔らかな音色を肌で感じることができる。モーツァルトのアリアが出て来るところからは、歌謡的な旋律が中心になるので、アルトの声域のヴィオラならではの「歌う」魅力が伝わって来る。原嶋さんのピアノも軽快でリズミカル。終盤は技巧的なパッセージが続くが、正確な音程と安定した表現力で、やはり聴く度に上手くなっていくのが分かる。

 2曲目はシューマンの「おとぎの絵本 作品113」。この曲は、シューマン唯一のヴィオラのための曲で、1851年の作。4つの楽章から成るが、急-緩-舞-急という形式は採らずに、自由な曲想を連ねているので、ソナタではなく組曲ということなのだろう。第1楽章は「速くなく」で、下降系の主題が哀愁を誘う。歌謡的な息の長い旋律である。感情のうねりのようなものが繰り返されるように、田原さんのヴィオラの音色もやや湿り気を帯びている。第2楽章は「生き生きと」で、スケルツォ風。リズム感のピッチが上がるように、立ち上がりが鋭いものに変わった。弾むようなボウイングが生命力を感じさせるが、ヴァイオリンよりは重く感じられるのは音域が低いからだろう。第3楽章もスケルツォ風だが、こちらは無窮動的で、激しく揺らいでいるが曖昧で混沌とした心情が描き出されるようである。短い中間部の重音奏法が儚げなロマンティシズムで歌うのが印象的だ。第4楽章はいわば緩徐楽章に相当する。いかにもロマン派というような、シューマンならではの憧憬がいっぱい含まれた抒情的な旋律は、極めて歌謡的。このような美しく儚げな旋律は、女性的な繊細な質感の演奏がよく似合っている。中間部でピアノに主体が移ると、ヴィオラは合いの手を入れるように装飾的なフレーズで優しく応える。終わり方も儚げで、「おとぎ話」といっても青春の旅情か憂愁といった風情。シューマンの音楽はヴィオラの曲であっても極めて心情的であり、内面的な情感の描写は、田原さんのヴィオラにも十分に込められていた。

 続いてはヒンデミットの「ヴィオラ・ソナタ 作品25-4」。パウル・ヒンデミット(1895〜1963)はドイツの作曲家で、オペラから管弦楽、室内楽、様々な楽器の独奏曲など数多くの作品を残しているが、現在ではあまり頻繁に演奏されることがないのが残念である。自身がヴィオラ奏者でもあったため、ヴィオラの曲を多く残していて、ヴィオラ奏者にとってはありがたい存在だとか。協奏曲もあるし、ヴィオラの無伴奏ソナタも数曲あり、ヴィオラとピアノのためのソナタも3曲ある。その内、作品11-4のソナタは、田原さんがNHK-FMの『リサイタル・ノヴァ』に出演した時に演奏されたのを聴いた。本日は作品25-4の方である。曲想はかなり現代的に変わる。
 第1楽章は叩き付けるような激しいリズムによるピアノの長い序奏の後、ヴィオラが同型の主題を提示していく。ここではヴィオラは器楽的に扱われていて、この現代的な曲想に対しては、中音域の丸みを帯びた音が人間的な温かみを感じさせ、無味乾燥とした抽象的な世界から遠ざけていく。曖昧な調性やピアノが叩き出す不協和音と対比させる。
 第2楽章はは緩徐楽章に相当する。弱音器を付けたヴィオラの音色は、紗がかかった向こう側から聞こえてくるような不透明感が生じ、また一段と柔らかくなる。やや漠然とした雰囲気が幻想的な心象風景を描いているようにも聞こえるが、田原さんのヴィオラの温かみが、全体をふわりとした雰囲気を生み出し、人肌の温もりのある幻想といったところだ。
 第3楽章はスケルツォ的な要素も併せ持つフィナーレ。激しく叩き付けるようなリズム感の中に諧謔性が含まれている。中欧辺りの民族的な舞曲風の旋律が、キレ味が鋭く変わった田原さんのヴィオラで踊るように刻まれる。ぐっとトーンを落とした中間部を経て、終盤は疾走するスピード感と技巧的なパッセージが入り乱れて、駆け抜けるように突き進んで行く。その疾走感はとても躍動的でエネルギッシュだが、ひとつひとつの音が明瞭、正確に弾かれていて造形的にもしっかりした構造感ょ打ち出しているのは素晴らしいところだと思う。

 後半は、まず原嶋さんのソロでベートーヴェンの「ビアノ・ソナタ 第27番 ホ短調 作品90」。短い2楽章構成のソナタであり、1814年の作曲ということなので、中期から後期にかけての変化のプロセスの中に位置する。
 第1楽章は激しく感情をぶつけるような曲想のソナタ形式だが、中期の作品群に見られる堅牢な構造性がやや崩れて、ロマン派への萌芽が感じられる自由な発想が含まれている。激しくぶつけるような和音(f)とそれに続く穏やかで単純な旋律(p)という相反する要素を組み合わせで構成される第1主題、激しい経過部に埋もれてしまうようにさりげなく現れる第2主題、激しい曲想の主部に対して静かに終わる終結部など、ユニークな構成になっている。原嶋さんの演奏は、立ち上がりが鋭く引き締まり、和音は重厚な響きと強靱な意志を感じさせる力強いリズム感で引っ張り、穏やかな第2主題や終結部などと鮮やかな対比を見せる。音色は硬質に感じられた。
 第2楽章は「速すぎないように、そして十分に歌うように」という指定のあるロンド。緩徐楽章の穏やかな曲想と終楽章を彩るロンド形式という2つの要素を併せ持つ楽章である。ロンド主題は可憐で微笑ましいような優しさがあり、歌謡的な旋律になっている。繰り返し現れるロンド主題がふわりとした丸い音色で優しく演奏されているのがとても印象に残る。第1楽章との対比も鮮やかで、立ち上がりの穏やかなタッチが歌謡的な主題を「十分に歌」わせていた。演奏自体は表現力も豊かでとても素晴らしかったと思う。
 ただひとつだけ気になったのは、ホールの大きさに対してフルコンサートのピアノがオーバーサイズ気味で、行き場のなくなった音が大きな音圧になって覆い被さってくる。つまり強奏時の音が大き過ぎたということで、これは後方の席で聴いていた人も同じように感じたと言っていたので、注意点と言えるのではないだろうか。

 最後はルビンシテインの「ヴィオラ・ソナタ ヘ短調 作品49」。ルビンシテイン(1829〜1894)はロシアの作曲家、ピアニスト、指揮者。ロマン派時代にヨーロッパ〜ロシアで活躍した人で、あらゆる分野の膨大な作品を残しているが、現在では演奏される曲目は少ない。「ヴィオラ・ソナタ 作品49」は1855年の作、まさにロマン派中期であり、ドイツで学んだということもあって曲想はドイツ・ロマン派のイメージである。また自身がピアニストでもあったため、ピアノ・パートも充実している。
 第1楽章はインパクトの強い出だしで、いきなり主題を提示するソナタ形式。低弦によるガリッとした音にハッとするが、抒情的な主題が大らかに歌い出す。経過的な現れる旋律にもロマン派の香りが漂う。第2主題はピアノに現れヴィオラが分散和音で伴奏、こちらもロマンティックな旋律が美しい。この曲ではヴィオラを器楽的に扱っていて、その特性を前面的に出すために低音域での演奏が多い。ドイツ風の純音楽に近いイメージだ。主題旋律は大きく歌えるようになっているので良いが、分散和音の部分などは、ホールがもう少し響いてくれるともっと奥行きが出て良いのだが・・・・。
 第2楽章は緩徐楽章。息の長いロマンティックな主題が、ピアノ伴奏に乗ってヴィオラが滔々(とうとう)と歌い上げられる。歌曲のように歌心に溢れた非常に美しい旋律。田原さんのヴィオラが息遣いとともに大きく旋律を膨らませて歌えば、原嶋さんのピアノもキラキラとした煌めきを見せる。
 第3楽章はスケルツォ。リズムは軽快だが単調に刻まれて行くのに対して、絡みつくヴィオラには技巧的な要素もあり楽しいさが溢れる。中間部になると不可思議な音楽空間がふいに現れ、無窮動的で神秘的な世界になる。
 第4楽章はAllegro assaiのフィナーレ。軽快なリズムに乗って提示される主題は憧れを乗せたロマンティックな旋律だが、ちょっと土俗的・民族的な雰囲気も併せ持つ。田原さんのヴィオラが持つ基本的に陽性の音色と雰囲気が、抒情性の方を勝らせるような表現にしていくような感じ。途中、経過的に技巧的なパーッセージが挟まれ、ここぞとばかりに見せる超絶技巧も流れを捉えた見事なものであった。
 この曲は初めて聴かせていただいたが、基本的にドイツ・ロマン派に近い音楽なので非常に分かりやすく、親しみやすいものだ。もっと頻繁に演奏されても良い曲だと思う。田原さんと原嶋さんの演奏にBravo!を贈ろう。もっともピアニストの方がもっと演奏機会が少ないのかも。

 アンコールは2曲。まずは、クライスラーの「ベートーヴェンの主題によるロンディーノ」。これはもちろんヴァイオリンのための曲だが、今日は原調のまま、ヴィオラでの演奏となる。クライスラーが、過去の埋もれた楽曲を掘り起こし、それを主題とした編曲ものとして、完全に自作の曲を発表していたことは広く知られているが(代表的なのは「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」)、この曲に関してはベートーヴェンのあまり知られていない「ロンド ト長調 WoO 41」から本当に主題を拝借していて、現在では圧倒的にクライスラーの「編曲」の方が有名になっている。音域があまり高くないのでヴィオラでもそのまま弾けるということなのだろう。「ロンディーノ」は「小ロンド」くらいの意味。もちろん、ヴィオラでの演奏を聴いたのは初めてだ。軽快で洒脱なクライスラーのヴァイオリン曲が、ヴィオラで演奏されると太く丸みを帯びた音の持つ暖色系の響きが、やや庶民的というか、日常的な穏やかな雰囲気に変わるのが面白い。ほのぼのとしたロンディーノであった。そして何気なく気が付いたのだが、このロンディーノの主題が、先ほど原嶋さんが演奏したベートーヴェンの「ビアノ・ソナタ 第27番」の第2楽章の主題とよく似ているのである。このつながっていく感じがまた作曲家や演奏家の思いを乗せているようで面白い。
 最後は、今や田原さんのアンコールの定番となった(?)日本の歌曲シリーズ。有名な「浜辺の歌」を仲良しの森 円花さん(桐朋学園大学作曲科研究科1年に在学中)がヴィオラとピアノのための小品に編曲したものである。これは2015年5月の「東京文化会館モーニングコンサート」のアンコールで演奏されたのが初演で私もその時聴いているが、その後何度か演奏されているらしく、すっかり自分のオリジナル曲として磨きをかけている。ゆったりとした鷹揚な主題に始まり、変奏を重ねるうちにテンポも上がり、十分に歌わせた後、静かに曲を閉じる。感動的な響きをもたらす重音奏法、フラジオレットや左手ピツィカートなどの高度な技巧も盛り込まれていて、曲も素晴らしいし演奏もまた素敵だ。リサイタルを締めくくるのに相応しい、田原さんならではの演奏であった。


 さてすべての演奏を聴き終えてみると、なかなか充実した内容であったことがわかる。プログラムもバラエティに富み(といっても初めて聴く曲が多かったが)、聴き応えがあった。田原さんのヴィオラは、基本的には陽性の音色で、迷いがなくストレートに聴く者に届く。低弦(C線)のガリっとした独特の音色、中音域のマイルドで丸みのある音、そして高音域の太い音。低音から高音域まで、音色が変化していきながら滑らかに連続していて、それが音楽に幅を広げるようなある種の豊かさを生み出していく。さらにとても丁寧に弾いているのに、その中に自由な発揮度で伸びやかな演奏が随所に現れて、ヴィオラの特長である「歌う」表現力に広がりを生み出しているのである。この世代で才能のある人は聴く度に上手くなっていくのが分かる。まだまだ伸び白をいっぱい残していることを踏まえた上でも、今日の演奏は気合いが入っていて集中が高く、とても素晴らしい演奏であったことは確かだ。
 ヴィオラのための音楽(無伴奏ソナタ、ピアノ伴奏のソナタ、協奏曲など)も、調べてみるとけっこう沢山あるようだが、有名な曲は極めて少なく、作曲家の名前をみると知らない人がほとんど。曲がないわけではなく、つまりは私たちが知らないだけなのである。だから今日のようなリサイタルの場で、埋もれている名曲(?)をもっともっと聴かせて欲しいものである。田原さんの「今」と「未来」にBrava!!を贈ろう。

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7/8(金)藤川真弓/ヴァイオリン・リサイタル/パッションが伝わる懐の深い正統派の演奏

2016年07月08日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
藤川真弓 ヴァイオリン・リサイタル

2016年7月8日(金)19:00〜 王子ホール 指定席 A列 13番 6,000円
ヴァイオリン:藤川真弓
ピアノ:オリバー・マークソン
【曲目】
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 変ホ長調 作品12-3
グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ト長調 作品13
マークソン:エヴォケーション
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18 TrV151
《アンコール》
 フォーレ:子守歌 作品16

 藤川真弓さんといえば、世界を舞台に活躍するヴァイオリニストで、日本を代表する存在だ。1946年の生まれというから既に70歳を超えるわけだが、もちろん現在も第一線で演奏活動を行っている大ベテランでもある。英国に在住し、御主人のリチャード・マークソンさんはチェリスト、ご子息のオリバー・マークソンさんはピアニストという音楽一家で、ご家族での共演も多い。今回も息子さんとのデュオで、息の合ったところを聴かせてくれている。一方で、教育者としての実績も豊富だし、また世界中の国際コンクールにも審査員として招聘されているなど、活躍の幅も広い。

 藤川さんは、当ブログにたびたび登場するヴァイオリニストの青木尚佳さん(現在は、英国の王立音楽院の大学院に留学中)のお師匠さんでもあり、今回のリサイタルはその関係もあって情報をいただいたので、滅多に聴くことのできない方だけに、この機会に聴いてみようと思った次第である。というわけで、結局はいつものように最前列で聴くことができた。

 藤川さんのヴァイオリンは、とても年齢を感じさせられることのないもので、実にエネルギーが溢れている。とにかく、前向きの音楽で、熱情を訴える部分も、情感をにじみ出させる部分も、悠然として力強い。楽器もよく鳴っていて、音量も豊か。確かに、年齢から来る技巧の衰えがないとは言えないとしても、それを補い、あるいはそれを上回る大きなチカラ(表現力と発揮度)があり、聴く者に強く働きかけてくるのである。

 1曲目のベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ 第3番」は、自然の柔らかさ(しなやかさと言った方が良いかも)を持つ音色とリズム感で、丁寧に演奏されている印象だが、非常にオーソドックスな演奏にも関わらず、心にすーっと響いてくる。決して強く訴えかけるような演奏ではないのに、いつの間にか聴く者の心の中の大きな面積を占めている、そういう印象の演奏なのであった。

 2曲目はグリーグの「ヴァイオリン・ソナタ 第2番」。こちらは強い熱情とロマン的な自由な精神の発露がリアルに感じられる力強い演奏。一見して冷たく感じられる音色に変わり、民族的な主題にも翳りのある熱情が垣間見える。

 3曲目のマークソンの「エヴォケーション」という曲は、本日ピアノで共演している息子さんの作曲による曲である。いささか捕らえどころのない曲で、現代曲には違いないが、前衛的なものではない。ピアノが複雑な和声を提供して調性を曖昧にし、ヴァイオリンは同じような音型のフレーズが繰り返されてながら変容していく。

 最後はリヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」。シュトラウスが24歳の時の作品で、後に交響詩で大管弦楽法とオペラの大家となる以前の時代であり、若い時の作品故に若いヴァイオリニストが演奏すべきであると、常日頃から思っていた曲である。ところが今日の藤川さんの演奏を目の前で聴かせていただくと、そんな考えは無用であったと痛感させられた。力強いフレージング、瑞々しい音色、ロマンティックな感性、そして演奏自体に漲る生命力。若さだとか、年齢だとか、そういうことを超越して、素晴らしい演奏はどんな時でも人の心を打つことができるのだと、改めて知らされた思いである。「青春賛歌」のようなこの曲を、こうも鮮やかに演奏されると、青春というものは永遠に続けることができるのだなぁと思わされる。見事な演奏だったと思う。

 そして、もう一つ。マークソンさんのピアノも素晴らしい。何とも温かみのある優しい音楽性が滲み出ていて、聴いていてもとても心地よい。ご高齢の母親の演奏を下からしっかりと支えて、孝行息子ぶりを発揮しているのだが、けっこう遠慮なく、大胆にピアノを鳴らし押し出して来る。とくにシュトラウスではガンガン弾いていた。そのやり取りの中に感じるのは、プロの演奏家同士の矜持と揺るがない血縁関係による「信頼」といったところか。実に良い「関係」が音楽に反映されていて、うらやましくさえ感じたものである。

 こういうのを聴いた良かったコンサートというのだと思う。何よりもエネルギーがいっぱいで、まったく枯れてなどいない。現役そのものである。そしてもちろんベテランの深い味わいもたっぷり。同年配のベテラン・ヴァイオリニストで、誰とは言わないが、とんでもなく技巧が衰えてしまっているのに、けっこう高い金額を取ってリサイタルを行っている人たちもいらっしゃる。余計に藤川さんの不変的かつ普遍的な実力というか、正統派の奥深い演奏に目が覚める思いがした。(画像は、王子ホールのホワイエに青木尚佳さんから届いていたお花)

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7/7(木)都民劇場/プレトニョフ・リサイタル/奔放に濃厚なロマンティシズムで描くグリーグとモーツァルト

2016年07月07日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
都民劇場音楽サークル 第640回定期公演
ミハイル・プレトニョフ ピアノ・リサイタル


2016年7月7日(木)19:00~ 東京文化会館・大ホール A席 1階 1列 16番 9,000円
ピアノ:ミハイル・プレトニョフ
【曲目】
J.S.バッハ/リスト編:前奏曲とフーガ イ短調 BWV543
グリーク:ピアノ・ソナタ ホ短調 作品7
グリーグ:ノルウェー民謡による変奏曲形式のバラード ト短調 作品24
モーツァルト:ピアノ・ソナタ ニ長調 K.311
モーツァルト:ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457
モーツァルト:ピアノ・ソナタ ヘ長調 K.533
《アンコール》
 リスト:「愛の夢」第3番

 先週、2016年7月1日の「協奏曲の夕べ」に続いて、ミハイル・プレトニョフさんの「リサイタルの夕べ」を聴く。といっても諸事情により、東京オペラシティコンサートホールにおける本公演ではなく、「都民劇場」として開催されるリサイタルを聴くことにした。もちろん、あらかじめ計画的にスケジュール化していたもので、最前列のプレトニョフさんの正面の席は確保していた。今回の日本ツアーでは、7/2西宮、7/3京都、7/6東京(東京オペラシティ)、7/7東京(本日/東京文化会館)、7/9豊田のリサイタルが予定されていて、基本的には同じプログラム。本来なら圧倒的に音響に優れた東京オペラシティで聴くべきところだとは思ったが、諸事情により「都民劇場」に絞らざるを得なかったのであった。
 東京文化会館・大ホールの音響については何をか言わんやで、あの大きな空間にピアノ1台というのはいかにも心許ない。実際に響かないし音が乾いて質感が伝わって来にくい。5階席辺りではどのように聞こえているのか、心配になってしまう。巨匠プレトニョフさんの選んだプログラムを見ても分かるように、ガンガン弾くような曲はないし、巨匠自身も究極の美音を求めてか、極めて抑制的で、ピアニッシモの繊細な表現を重視するような弾き方だったので、尚更・・・・という感じであった。

 1曲目はJ.S.バッハ/リスト編の「前奏曲とフーガ イ短調 BWV543」。淡々とした佇まいの中にロマン的な香りを濃厚に漂わせる。響かないホールでペダルを多用しているにも関わらず、対位法の2声の造形はクッキリとしていて、もちろんひとつひとつの音は極めて美しい。濃厚な色彩感と豊かな抒情性を感じさせるのである。バッハの名曲が、リストを介して、プレトニョフさんに味付けされる。巨匠は基本的にロマン派の人だと思う。

 続いて、グリーグの「ピアノ・ソナタ ホ短調 作品7」。今回巨匠が選んだ曲は、どれも繊細なロマンティシズムに彩られている。巨匠の演奏は、あくまで美しい音色をベースに、楽興の趣くまま、自由でヒラメキに満ちた解釈と表現だ。第1楽章は民族的な土臭さと、北欧特有の極寒で澄みきった空気感が絶妙にブレンドされる。第2楽章は美しい世界への憧れがいっぱい詰まった抒情的な表現。これ以上に美しい音楽があるだろうか。第3楽章は憂愁に満ちた主題と中間部のロマン性が鮮やかに対比で、繊細に描かれる。第4楽章は本来はもっと激情的な音楽であるように思うのだが、巨匠は抑制的にロマン性を浮き彫りに描き出す。乗ってくれば鼻歌も全開で、この美しい演奏とキャラクタのギャップがこれほどかけ離れている人も珍しい。なかなか本質を掴みきれない巨匠なのである。

 前半の最後は、グリーグの「ノルウェー民謡による変奏曲形式のバラード ト短調 作品24」。変奏曲形式のバラードという珍しい形式の曲で、主題となる「ノルウェー民謡」はもの悲しい雰囲気の淡々とした曲想で、変奏が進む内にバラード風の盛り上がりを見せるが、もの悲しい雰囲気は変わらずに続く。広大な大地の上に地平線まで続く雪雲が厚く垂れ込める、といったイメージだろうか。巨匠の演奏は、そんな情景描写とはまたひと味違って、自然の風景の中に佇む作曲者自身の心情を描くかのような、息遣いと体温をも感じさせ、悲しげな中にもロマン性を豊かに描き出している。音質そのものは極めて美しく、クリスタルの煌めくごとくである。


 プログラムの後半は、モーツァルトのピアノ・ソナタが3曲続けて演奏された。共通して言えることは、究極の美音が繰り出されて、キラキラと煌めくクリスタルの珠が転がり、跳ね回るような、光と純粋さで構成された美しい音によって、濃厚なロマンティシズムが描かれていることだ。古典派の造形をロマン派の感性で塗り込めたような、巨匠独自の世界観なのである。
 最初は「ピアノ・ソナタ ニ長調 K.311」。第2楽章の豊かな抒情性が秀逸で、巨匠のロマン的な感性は純粋で美しい。第3楽章のロンドも細やかな表情に彩られていて、十分にロマン派の音楽になっているように感じる演奏だ。
 続いて「ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457」。強い激情を緊張感で包んだような第1主題から軽快で陽性の第2主題が対比を見せる。第2楽章の緩徐楽章も、自由に気分の趣くままに旋律が歌う。第3楽章のロンドは短調の主題を可憐に歌わせ、憂いを秘めたような情感が切なげである。聴いていると確かにモーツァルトなのだが、その解釈と表現はあまりにもロマン的で、感情の表出が顕著。これはいったい誰の音楽なのだろう。もちろんそれでも、素晴らしい演奏には違いないのだけれども。
 最後は、「ピアノ・ソナタ ヘ長調 K.533」。第1楽章ソナタ形式だが対位法的な音の構造が美しい。巨匠は可憐なタッチであたかね少女のささやきのような微細なニュアンスを描き出している。第2楽章はソナタ形式の緩徐楽章。こちらはグッと大人っぽくなった女性のような、エレガントな抒情性を情感たっぷりに描く。第3楽章のロンドは、洗練された主題がクリスタルのような透明感で描かれる。中間部では短調になり激情を一瞬見せるが、すぐに可憐な音楽に戻っていく。全体的に極めて抑制的で、とくに弱音の繊細な煌めきは、見事と言うほかはない。
 巨匠のモーツァルトは、どれも後期ロマン派のごとき濃厚なロマンティシズムに彩られていている。しかもこの繊細な美音は、巨匠が求めたSHIGERU KAWAIだからこそ生まれるのかもしれない。確かに機能的で冷徹なSTEINWAYではイメージしにくい感じがする。

 アンコールは、かなり意外なリストの「愛の夢」第3番。何て乙女チックな曲・・・・。当然のように、濃厚なロマンティシズムがいっぱいで、ガラス細工のような繊細さと、カデンツァの流麗な技巧はさすがの一級品(見た目のイメージと聞こえてくる音楽にギャップがありすぎ??)。巨匠はどんな愛の夢を見ているのだろう・・・・。

 「都民劇場」の音楽サークルは、オーケストラから室内楽や声楽などまでバラエティに富んだプログラムが組まれるが、会員制であるためか、客層が普段のクラシック音楽のコンサートとはちょっと異なる感じがする。ピアノのリサイタルだからといって、ピアノ好きの人だけが聴きに来るわけではない。とくに今日の巨匠のように、凝ったプログラム(つまりマニア向け??)だと、聴いているうちに飽きてしまうのか、途中からだんだん雑音が多くなってきた。東京文化会館の大ホールは客席の音もあまり響かないのが幸いだったが、最前列で聴いていると、客席側からゴホンゴホンと咳がやたらに聞こえてくる。巨匠がキレてしまうのではないかとハラハラしたが、カーテンコールの最後にはニッコリとご満悦の表情をちょっとだけ見せた。まあ、アンコールが1曲だけだったので、本当にご満悦だったのではなさそうだが、演奏はご自身の思うままにできたのだろう。実際のところ、賛否両論真っ二つに分かれる演奏だとは思うが・・・・。

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7/6(水)安達真理ヴィオラ・リサイタル/暖色系の柔らかな響きが心を癒す一時

2016年07月06日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
安達真理 Salon Concert Series 《#0
ヴィオラの音色でこころを結ぶ


2016年7月6日(水)18:30〜 ムジカーザ 自由席 1列中央 4,000円(先着特典付き)
ヴィオラ:安達真理
ピアノ:横田知佳
【曲目】
ヴュータン:エレジー ヘ短調 作品30
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番(ヴィオラ版)
武満 徹:鳥が道に降りてきた
シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D821
ジンバリスト:サラサーテアーナ
《アンコール》
 フォーレ:夢の後に(ヴィオラ版)

 留学〜ヨーロッパでの活動から帰国してちょうど1年になる安達真理さんによるヴィオラ・リサイタルを聴く。安達さんは、昨年2015年8月のものすごく暑い夜に行われた、尾池(現在は伊藤)亜美さんの「Ami's Friends CONCERT 真夏のNightmare」というサロン・コンサートに出演されていたのをきっかけに知り合いとなり、その後はコンサート会場で顔を合わせたりしているうちに、今日のリサイタルをいち早く紹介していただいた。最近はヴィオラを機会が多くなっていて、緊張感の高いヴァイオリンとはひと味もふた味も違うヴィオラの柔らかな音色にも大いなる魅力を感じている次第。先日も紀尾井ホールでの室内楽のコンサートを聴かせていただいたばかりだが、やはりリサイタルでたっぷりと聴きたいものである。そこで早速、早期特典付きのチケットを申し込んだ。先着10名に「大事な人割り引き」という特典があって、つまり2人目は無料ご招待とのことである。友人のRさんを誘って行くことにし、18:30開演で自由席だったので17:30に会場に行ってみたら何と1番乗り。並ばずとも入れてくれたので、ゆうゆうと最前列の席を確保した次第であった。

 会場のムジカーザは初めて訪れる。小田急線代々木上原の駅から徒歩2分という優れた立地にあり、正方形の1角に演奏場所を置き(ステージはない)、扇型に客席を置く平土間だけでなく、両サイドには中二階、後方には二階席もあり、最大120席。吹き抜けのため天井は高く、専用の建物だけに、このサイズのサロン・ホールとしては音響に優れている(残響約1秒)。ピアノはベーゼンドルファーのModel 200でちょうど良いサイズだろう。

 さて今日のリサイタルは、タイトルの「ヴィオラの音色でこころを結ぶ」にもあるように、ヴィオラの魅力を紹介しながらの演奏会ということである。やはりヴィオラはどうしても地味な存在に思われがちで、実際にヴィオラのための曲も少ないし、リサイタルも開かれる機会は非常に少ない。だから、ヴィオラの魅力を広めることはとても有意義なことだと思う。
 ヴィオラはフランスではアルトと呼ぶ。つまり女性の低い方の声域と同じということで、会話をするような音域なので、とても自然に感じる音色だと思う。4本の弦はヴァイオリンより5度低く、下からC-G-D-Aとなる。この5度の違いが日常会話のような、ヴァイオリンとは違った大らかで豊かな響きをもたらすのである。


 1曲目はヴュータンの「エレジー ヘ短調 作品30」。アンリ・ヴュータン(1820〜1881)はベルギーの出身で主にフランスやロシアで活躍したヴァイオリニストで作曲家。時代的にはロマン派。主にヴァイオリンの協奏曲や小品などに優れた作品を多く残しているが、実際にヴュータンの曲が日本のコンサートでプログラムに載ることは少ない。ヴィオラの曲としては、本作の他に「ヴィオラ・ソナタ 変ロ長調 作品36」が有名で、とても素敵な曲である。
 「エレジー」は「悲歌」であり曲想は切なげな憂愁に満ちている。ピアノが刻む和音の流れに乗せて、ヴィオラが悲しげな旋律を歌わせていく。安達さんの演奏は、色彩的には明るい方の音色に感じるが、全体にひとつひとつの音が明瞭であるにも関わらず、尖ったところがなく、丸くマイルドで、優しく感じる。だから、この曲の演奏においても、悲劇的なイメージだけでなく、希望を残した情感が盛り込まれた「悲歌」になっていた。

 2曲目は、J.S.バッハの有名な「無伴奏チェロ組曲 第1番」。もちろん、ヴィオラでの演奏となる。チェロの4本の弦は、ヴィオラより1オクターヴ低いC-G-D-Aなので、ヴィオラで演奏する際は、原曲よりも1オクターヴ高いことになる。実際に聴くとだいぶ印象が違って聞こえるものだ。もっとも元の曲があまりに有名で聴き慣れているためでもあると思うが、全体が軽快で明るく感じる。とくに有名な「プレリュード」は軽快な中にも暖色系の色彩感がある。通奏低音がオクターヴ高いために深い憂愁が影を潜め、人の温もりを感じさせる優しい音色である。安達さんの演奏は、極めて的確で端正なまとまりを見せつつも、旋律を豊かなレガートをかけて歌わせる部分と、和声の流れをスムーズにリズムを生き生きと刻む部分のバランスが良い。全体の明るい色彩と合わせて、舞曲の組曲に相応しい生き生きとした生命力を感じさせる表情豊かな演奏であった。

 3曲目は武満 徹の「鳥が道に降りてきた」。ヴィオラのための現代の名曲だといえよう。武満さんの作品は、何と言っても自然の中の空気感が描かれていて、目をつぶって聴いていると、森の中や海辺の散歩道にいる自分と、降り注ぐ日差しや頬をなでる風を感じたりする。しかし絵画的というよりは観念的で、現実の自然界ではなく夢の中のような印象だ。私はこの曲を聴いていると、こんな情景を思い描く。遠くに海の見える丘の上の散歩道、車の通れないような狭い砂利道で、両側には草原が広がっている。優しい風が吹いて来て草が波打つように揺れていく。道に降りてきたセキレイが手招きするように尾を振っている・・・・。今日の演奏では、明るめの音色がやや眩しげなの日差しを感じさせ、逆光の中に尾を振るセキレイが見えるようであった。

 後半は、まずシューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D821」から。アルペジオーネというのは19世紀の前半に発明された6弦の楽器で、現在ではまず見ることはできない。従ってアルペジオーネとピアノのためのソナタであるこの曲は、チェロやヴィオラ用に編曲されて演奏されることがほとんど。急-緩-急の3楽章構成である。1824年、シューベルト晩年の作で、病魔に悩まれつつの作品ゆえに、憂鬱とロマン性が混ざり合う曲想だが、いかにもシューベルトらしい旋律の美しさ、親しみやすさを持っている。
 第1楽章はソナタ形式で、憂愁に満ちた息の長い第1主題は歌曲のような旋律、第2主題は対照的に朗らかに心が弾む。音域がアルトのヴィオラで演奏すると、歌曲のような主題がよく似合っていて、シューベルトの憂いがそのまま聞こえてくるような感じもする。安達さんのヴィオラは人が歌うような柔らかさがあり、あまり器楽的ではない主題を表情豊かに歌い上げている。
 第2主題は緩徐楽章。こちらも主題は歌曲のような長いフレーズでゆったりと、美しい。ヴィオラがしっとりと、優しく、情感を込めて歌う。
 続けて演奏される第3楽章は、希望を取り戻したような穏やかな曲想のロンド。やはり歌曲のような美しい旋律である。A-B-A-C-B-Aというような流れの形式で、Bの部分は少し激情が走るが、ロンド主題が帰って来れば穏やかに気分に満たされる。Cの部分は快活でロマン的な憧れを見せる。それぞれの部分の主題がいずれも歌謡的であるため、ヴィオラが大らかに歌っていくが、穏やかな主題と激情の主題がハッキリとした対比を見せつつも、両者ともある種の憂いを含んでいる感じがよく表されていて、柔らかな音色の中にもちょっと哀しみの色彩が感じられた。豊かな情感が描かれた演奏であったと思う。

 最後は、ジンバリストの「サラサーテアーナ」。ヴィオラ音楽を聴くようになると必ず出会うことになる曲である。エフレム・ジンバリスト(1889〜1985)はロシア出身のヴァイオリニストで作曲家。アメリカに移住して活躍した。息子のエフレム・ジンバリス・ジュニアはアメリカの人気俳優で、テレビ・シリーズ「FBI」が有名。私も子供の頃テレビで見て大好きだった(余談)。「サラサーテアーナ」は、もともとはサラサーテがヴァイオリンのために作曲した「スペイン舞曲」を、ジンバリストが名ヴィオリスト、プリムローズのために編曲したものである。「タンゴ」「ポロ」「マラゲーニャ」「ザパテアード」の4つの舞曲からなる。エキゾチックな暑い空気の漂うスペイン舞曲をちょっと低めのヴィオラで演奏するというのもなかなか乙なものだ。踊り手の体温が生々しく伝わって来るような、妙なリアリティがある。楽曲自体は、スペイン風の陽気で情熱的な主題に加えて、サラサーテ→ジンパリスト→プリムローズという名手の流れの末にある超絶技巧もかなりの見せ場、聴かせ所にもなっている。
 安達さんのヴィオラは、ここでは陽性の音色に情熱的な力感を加え、ホットなパッションを描き出す。決して暑苦しくはなく、尖ってもいないが、「熱気」のようなものが伝わって来る演奏で、雰囲気も質感も素晴らしい。とくに「ザパテアード」のサーカス的な超絶技巧オンパレードも聴いていて(見ていても)楽しく、会場も大いに盛り上がった。Brava!!

 アンコールは、フォーレの「夢の後に」を、もちろんヴィオラ版で。私がいつも聴いているようなヴァイオリニスト(あるいはチェリスト)が演奏するのをほとんど過去に聴いているくらい、名曲中の名曲(元は歌曲/作品7-1)だが、ヴィオラで聴くのは初めてであった。演奏は速めのテンポであったが、同じ音域でもヴァイオリンよりも音が太いヴィオラで演奏すると、情感の厚くなるような感じで、しっとりと濃厚な演奏であった。


 さて聴き終えて見ると、なかなか素敵なコンサートであった。ヴィオラの魅力を伝えるための試みとして、安達さんによる「解説」の時間がかなり長めに取っていて、半ばレクチャー・コンサートの様相を呈していたが、それはそれで良かったと思う。プログラム・ノートに書いてしまうと演奏中に読まれたりして意外にうまく伝わらない。トークで説明されれば、誰でも聴き入ってしまうから、音楽自体だけでなく、その成り立ちや背景についても知識を得たいと思う人にとっては、かなり有意義な方法であったろうと思う。もちろん演奏自体も見事なものであったし、ヴィオラの豊かな音色を響きの良いサロンで聴けたことも素晴らしい体験になった。是非ともこのようなコンサートをシリーズ化してほしいもの。普段あまり聴くことのできないヴィオラの隠れた名曲たちを、どんどん(発掘して?)紹介していただきたいものだ。

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7/2(土)ジャパン・アーツ・スペシャル・コンサート/ベテラン&若手・中堅が勢揃いの豪華ガラ・コンサート

2016年07月02日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
ジャパン・アーツ・スペシャル・コンサート
Japan Arts Special Concert


2016年7月2日(土)13:30〜 サントリーホール S席 1階 1列 19番 4,000円
【出演者】
ソプラノ:安藤赴美子
ピアノ:上原彩子
チェロ:遠藤真理
ヴァイオリン:大谷康子
ピアノ:小川典子
ピアノ:金子三勇士
チェロ:上村 昇
ヴァイオリン:川久保賜紀
ピアノ:河原忠之
ソプラノ:佐藤しのぶ
ピアノ:舘野 泉
ピアノ:寺田悦子
ピアノ:仲道郁代
テノール:錦織 健
テノール:西村 悟
バリトン:堀内康雄
ピアノ:松田華音
ヴァイオリン:松田理奈
ソプラノ:松本美和子
ピアノ:三舩優子
ソプラノ:森 麻季
ピアノ:横山幸雄
司会:好本 恵(元NHKアナウンサー)

 実に錚々たるメンバーが出揃った、Japan Artsの創立40周年を記念したガラ・コンサート。Japan Artsは確かに素晴らしいアーティストたちとマネジメント契約をしている。私も夢倶楽部の会員になって久しいが、その関係もあって、上記のアーティストのコンサートをよく聴いている。
 コンサートは、元NHKアナウンサーの好本 恵さんの司会によって進行された。前半は《第Ⅰ部~円熟のストーリー~》と題され、この道40年以上のベテラン・アーティストたちによる演奏、後半は「今が旬」ともいうべき若手〜中堅のトップ・アーティストたちによる演奏である。出演者の組み合わせや楽曲構成の関係で、すべてがソロ〜室内楽であり、オーケストラは入らなかった。会場のサントリーホールはほぼ満席で非常によく入っていたが、演目の内容からすると、このホールでは少々大きすぎる。私は例によって最前列のセンターなので最高のポジションだと思っているが、2階の後方席あたりではソロや室内楽では辛いものがあったのではないだろうか。

【曲目と出演者】
《第Ⅰ部~円熟のストーリー~》
 前半はベテラン組の登場。ジャパン・アーツを支えてきた皆さんである。
●バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
  大谷康子(ヴァイオリン)/仲道郁代(ピアノ)

 長らく東京交響楽団のコンサートマスターを務めていた大谷さんだが、意外にもソロを聴いたことはほとんどなかったと思う。比較的ゆったりとしたテンポで丁寧に演奏していた。楽器がよく鳴っている。仲道さんのピアノが優しくサポートしている。

●フォーレ:夢のあとに
●サン=サーンス:白鳥
  上村昇(チェロ)/横山幸雄(ピアノ)

 上村さんの演奏はこれまでほとんど聴いたことがなかった。先日のチャリティコンサートでの室内楽に続けて協奏曲はソロだが、深みのある温かい音色で、端正で大らかに歌う、素敵な演奏だ。横山さんのピアノは控え目だがとても色彩的で美しい。

●シューベルト:即興曲 D935 より 第1番 ヘ短調
  寺田悦子(ピアノ)

 意外なことに寺田さんの演奏もほとんど聴いたことがなかったかも。ダイナミックレンジが大きく広がり、豊かな曲想を大きなフレージングで歌わせる。ちょっと渋めで、ちょっと華やか。さすがベテランの味わいである。

●光永浩一郎:サムライ(舘野泉に捧ぐ)
●山田耕筰/梶谷修編曲:赤とんぼ
  舘野泉(ピアノ)

 舘野さんはもう80歳に手が届くという。それだけでも現役を続けているのには感心せざるを得ない。2曲とももちろん左手のためのオリジナルだが、あくまでも挑戦を続ける舘野さんにBravo!

●ドヴォルザーク:歌劇『ルサルカ』より「月に寄せる歌」
●プッチーニ:歌劇『蝶々夫人』より「かわいい坊や”」
  松本美和子(ソプラノ)/河原忠之(ピアノ)

 大ベテランの松本さんだが、曲目が一部変更になり、上記の2曲となった。「月に寄せる歌」のチェコ語の発音は、誰にとっても難しいところだと思うが、歌唱は一級。声量も豊かだし、高音域も力強さがあった。


《第Ⅱ部~未来への音を重ねて~》
 後半は、今が旬のアーティスト達。それでも若手から中堅まで、スターが揃っているのはJapan Artsならではであろう。ソロ、デュオ、トリオ、カルテット、クインテットと、曲順毎に演奏者が増えていくという趣向だ。
●イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品27-3「バラード」
  松田理奈(ヴァイオリン)

 松田さんは、ふだんはあまり聴くことはないが、イザイの無伴奏ソナタ全曲のCDは持っている。テクニックは抜群だが、音がちょっと短めに切れる傾向があるのは個性の内だろうか。私としてはテンポを崩してでももう少したっぷりと鳴らせる方が好きだが、まあそれは好みの問題なので。美しく華麗な立ち姿とダイナミックな演奏スタイルで、会場を魅了した。

●ヴェルディ:歌劇『椿姫』より「乾杯の歌」
  佐藤しのぶ(ソプラノ)/錦織健(テノール)/河原忠之(ピアノ)

 ご存じ「乾杯の歌」だが、佐藤さんは抜群の存在感で、強烈なオーラを放つ。対する錦織さんが華奢に見えてしまうくらいだが、彼もそろそろベテランの域に入ってくる。ノーブル名歌唱は相変わらずで、清々しい。

●メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番 より 第2楽章
  川久保賜紀(ヴァイオリン)/遠藤真理(チェロ)/上原彩子(ピアノ)

 この3名がソロって第2楽章だけというのはいからももったいない。上原さんのピアノはキラキラと煌めきとても鮮やかな印象だ。遠藤さんのチェロは大らかで明るい音色が特徴的。豊かな音量で押し出して来る。川久保さんのヴァイオリンは控え目で(曲がそうなっているからでもあるが)遠藤さんを盛り立てているようなところがあり、主旋律が回ってきた時だけ、いつもの優しくエレガントなレガートを響かせていた。同じ事務所なのだからこの3名でコンサートを企画して欲しいものだ。

●プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より「告別の四重唱」
  森麻季(ソプラノ)/安藤赴美子(ソプラノ)/西村悟(テノール)/堀内康雄(バリトン)/河原忠之(ピアノ)

 ご存じ『ラ・ボエーム』第3幕の最後のシーンである。出演者は上記の順で表記されていたが、主役のミミは安藤赴美子さんが歌い、森麻季さんはお得意のムゼッタ役。しかしこの場面ではちゃんと歌う部分はごく少ないので、非常にもったいない感じがする。安藤さんはしっとりとした落ち着きを感じさせる歌唱で、ミミにはよく合っている。麻季さんのムゼッタは適役そのもの。西村悟さんは以前は声質が硬い感じだったが、かなりこなれてきて艶やかな素敵なテノールになった。堀内康雄さんは上手すぎるくらいなので何もいうことはない。

●横山幸雄:カルメンの誘惑と幻想(5台ピアノ)
  三舩優子(ピアノ)/松田華音(ピアノ)/横山幸雄(ピアノ)/金子三勇士(ピアノ)/小川典子(ピアノ)

 ピアノ5大による演奏というのを初めて聴いた。横山さんの作曲(編曲?)による「カルメン」だ。三舩さんはコージャスで濃厚なサウンドを響かせ、松田さんはリズム感良くキレの鋭い演奏、あとはなんだか音が混ざってしまってよく分からなかった。しかし豪華なメンバーが集まったものだ。松田さんと金子さんは売り出し中の若手、三舩さんと小川さんは中堅の実力派、横山さんは多彩なスーパースターだ。5大ピアノの演奏は貴重な体験だった。

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