Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/30(水) BSジャパン「バイオリンの聖地クレモナへ」(川久保賜紀さん出演)を見て感激

2009年12月31日 23時31分12秒 | テレビ・FMで観る・聴く
12月30日(水)BSジャパン「バイオリンの聖地クレモナへ~ストラディバリウスに魅せられた日本人たち~」

 年末の押しつまったこの時期に、BSジャパンで大好きな川久保賜紀さんが出演するドキュメンタリー番組が放送された。
 2002年のチャイコフスキー国際コンクールで最高位を獲得して、今や日本を、いや世界を代表する若手ヴァイオリニストのひとりとなった川久保さん。相変わらずお美しくたおやか。いつもステージで見せる集中と緊張を伴う厳しい表情とは打って変わって、今回の番組では素顔の自然な表情がたっぷり拝見でき、ファンとしては嬉しい限りである。今年(2009年)で30歳になられたはずだが、ちょっとたどたどしい日本語がとてもチャーミング(彼女はまだ帰国していない帰国子女?)。

 テレビ番組は、15歳の時から10年間、貸与を受けて使用してきた1707年製ストラディヴァリウス「カテドラル」を所有者に返すことになり、新しい楽器を探すという観点から、ヴァイオリンの聖地と呼ばれる来たイタリアの古都クレモナを訪ねた川久保さんが、現地でヴァイオリン製作に取り組む日本人の制作者たちと交流する、というストーリーである。
 クレモナは、かのアントニオ・ストラディヴァリがヴァイオリンを製作していた都市。今でもその伝統が息づき、80余りのヴァイオリン工房があるという。川久保さんは、クレモナでヴァイオリンを製作している菊田浩さん、高橋明さん、天野年員さんの3人と出会い、彼らの製作したヴァイオリンを弾いてみる。伝統を引き継ぎ、さらに研鑽を重ねて作られる新しい楽器は、もちろん1台1台音色が異なるし、製作者によっても個性が違ってくる。1台の楽器でも、微妙な調整によって音が変わってくるのだという。4本の弦のバランスも大切だ。微調整を繰り返しながら、徐々に製作者の意図した音に近づけていく。しかも、そうして作られたピカピカの新品の楽器は、これから弾き込んでいくことで、名器になる可能性を持つのだという。
 演奏者である川久保さんは、製作者の意図や感情を知り、新たな発見をする。


 川久保さんが菊田さんの自宅の工房を訪れ、彼が2002年のチャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン製作部門で優勝した時の楽器を弾いてみる。その表情は真剣そのもの。音楽家の厳しい耳が楽器の微妙なニュアンスを捉えていく。製作者と演奏者の意見交換で、さらに楽器作りの新たなヒントが生まれていくのだ。コンクールで優勝したこの楽器も、今後、良い楽器に成長していく可能性がある、と川久保さんは感じたようだ。ところで、彼のヴァイオリン保管ケースの中に、マングースのキャラクターのぬいぐるみが…。こんなところにまで「のだめ」が出没しているとは。

 あらためてわかったことだが、音楽家の皆さんの耳の良さ。楽器の持つ音色の差異や個性を実に高いレベルで聞き分けて、自身の演奏への適合性を究めていく。われわれ凡人には、感覚的には理解できても、本質的にわからないレベルの話である。こうして日々研鑽と努力を続けている人々が創り出す音楽を私たちは聴いているわけで、素人が無責任に良いの悪いのと批評したりするのはいかがなものかと思う。とはいえ、いつも素敵な音楽を聴かせてくれる川久保さんの、いわば舞台裏の苦労の部分をほんのわずかでも知ることができて、とても嬉しかった。

 テレビの番組では、結局、川久保さんが自分の楽器を見付けはしないまま終わってしまった。取材されたのは2008年のこと。結論はないまま、番組は終了した。
 後日談となるが、「カテドラル」と別れた後、日本音楽財団からストラディヴァリウス「ムンツ」を短期貸与され使用していた。現在の使用楽器は1757年製のカルロ・ランドルフィだとのことだ(『音楽の友』2009年11月号)。
 次に川久保さんに会えるのは2010年1月16日(土)/文京シビックホールでサラサーテのカルメン幻想曲とサン=サーンスの序奏とロンド・カプリチオーソ(沼尻竜典指揮/東京フィルハーモニー交響楽団)と、翌週23日(土)/第一生命ホールでモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」(N響メンバーによる室内オーケストラ)。また素敵な音楽を聴かせてくださいね。
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12/29(火)「第九と四季」東京交響楽団の「第九」と南紫音の「四季」

2009年12月30日 02時59分55秒 | クラシックコンサート
12月29日(火)14:00~ サントリーホール・大ホール S席 1階 4列 21番 10,000円
指揮とチェンバロ:秋山和慶
ヴァイオリン:南 紫音
ソプラノ:ヘレン・クォン
メゾ・ソプラノ:渡辺敦子
テノール:アッティラ・フェケテ
バス:アッティラ・ユン
管弦楽:東京交響楽団
合唱:東響コーラス
合唱指揮:安藤常光
曲目:ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」より「春」と「冬」
   ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」
  《アンコール》「蛍の光」

 今年最後のコンサートはやっぱり「第九」で締めくくることになった。毎年、どの「第九」を選ぶか悩ましいところだが、指揮者、ソリスト、オーケストラなど様々な要素がある。N響と読響はテレビで放送されるからそれを観るとして…今回はカップリングの曲目で選んでしまった。南紫音さんの「四季」というかなり魅力的なプログラムが付いていたからだ。

 まず「四季」から。南紫音さんがこの曲を演奏するのは初めて聴くので、期待していた。オーケストラはヴァイオリンが第1と第2に各6名、ヴィオラが4名、チェロ3名。コントラバス2名という編成で、秋山和慶さんのチェンバロ弾き振りという形だ。今回は「第九」の序曲的なプログラムなので、「春」と「冬」のみだった。
 南さんのヴァイオリンはちょうど1ヶ月前にリサイタルを聴いたばかりだが、その時よりも今日の方がリラックスしている印象だった。時折微笑みを浮かべながらも、小気味よく刻む音色が美しい。今日もグァルネリ・デル・ジェスがよく鳴っていた。「春」は、まさに薫風が吹き抜けていくような爽やかさに歌い、地中海的な明るさが加わった、若々しい演奏だった。「冬」は厳しさの中から春への息吹を感じさせてくれた。南さんは今日は楽譜を見ながらの演奏だったが、のびのびとした良い演奏だったと思う。この次は、ぜひ全曲を聴かせていただきたいものだ。

 20分の休憩をはさんで、「第九」となる。オーケストラの編成は、第1ヴァイオリンの対向にヴィオラ、その後ろがチェロ、コントラバスは右奥、ティンパニは左奥という一般的な配置だったが、合唱は女声を左右に分けて中央に男声となっていた。ソリストはオーケストラの後ろで、通常のソプラノ、メゾ・ソプラノ、テノール、バスの順である。もっとも私の席からはほとんど見えなかったが。
 秋山さんの曲づくりは、オーソドックスだが力感あふれるものだ。芸術的な新しい試みはなくとも、名曲コンサートのような安心感があり、東響もノリが良く、エンジン全開といった感じで、ダイナミックな爆発的な演奏だった。サントリーホールのセンタープロック4列目ということもあり、音量も十分、左右のバランスも良かった。ただ、席が前すぎるせいもあって、弦にさえぎられて管楽器が若干弱く感じられたのが残念だった。
 ソリストの4人はいずれも実力者揃いで、十分な声量を持っていた。とくにバスのアッティラ・ユンさんの朗々たる声の響きが、いかにも「第九」という存在感を発揮していた。今日の演奏では、オーケストラも合唱もかなり音を出していたが、ソリストたちはそれに負けない力強さがあり、全体のバランスもすばらしかった。さすがは大御所の秋山さんだけのことはあって、見事にまとめ上げていたといえるだろう。とくに、第4楽章は現代的にみればやや遅めのテンポということになるのだろうが、オーケストラの各楽器も合唱も、ソリストたちも十分に旋律を歌わせることができ、これぞ「第九」というようなダイナミックでドラマティックな盛り上がりを見せ、すばらしい一時を過ごすことができた。

 暮れもずいぶんと押しつまった29日ということもあってか、「第九」のコンサートでは珍しくアンコールがあった。曲が始まると、…? この曲は? と思ったらなんと「蛍の光」だった。一部の合唱団の人たちが客席の方に降りてきてくれて、聴衆も一緒に大合唱。最後は照明を落としLEDライトを持ち出して…ジルベスターコンサートのような楽しい演出があり、柄にもなく感激してしまった。年の瀬にほのぼのとした気分にさせてくれた、とてもすばらしいコンサートでした。Bravo!!
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2007年~2008年「ばら戦争」の思い出(第3回)

2009年12月28日 02時05分11秒 | 連載/2007-2008 ばら戦争の思い出
 連載「ばら戦争」の思い出の第3回。今回はドレスデン国立歌劇場の来日公演を取り上げる。

【ドレスデン国立歌劇場 2007年来日公演「ばらの騎士」】





公演日:2007年11月18日・23日・25日
会 場:神奈川県民ホール(11/18)/NHKホール(11/23・25)
指 揮:ファビオ・ルイジ
管弦楽:ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
合 唱:ドレスデン国立歌劇場合唱団
演 出:ウヴェ=エリック・ラウフェンベルク
出 演:元帥夫人:   アンネ・シュヴァンネヴィルムス
    オクタヴィアン:アンケ・ヴォンドゥング
    ゾフィー:   森 麻季
    オックス男爵: クルト・リドル
    ファーニナル: ハンス=ヨアヒム・ケテルセン
    ヴァルツァッキ:オリヴァー・リンゲルハーン
    アンニーナ:  エリザベート・ヴィルケ
    マリアンネ:  ザビーネ・ブローン
    警部:     ユルゲン・コミシャウ
    テノール歌手: ロベルト・ザッカ
    公証人:    マティアス・ヘンネベルク
    料理屋の主人: トム・マルティンセン

 ゼンパーオーパーことドレスデン国立歌劇場の来日公演。日本では慣例に従って「ドレスデン国立歌劇場」と呼称しているが、正しくは「ザクセン州立」である。オーケストラは世界最古のひとつといわれ、その音色はしばしば「燻し銀」と形容されるが、ウィーン・フィルと同等ともいわれるほど最高水準のアンサンブルと伝統的な色彩を持っている。ドレスデン国立歌劇場管弦楽団としてオーケストラ単体の来日公演ししばしばあったが、歌劇場の引っ越し公演は1981年来日(演目は「魔弾の射手」と「ばらの騎士」)以来、なんと26年ぶりとなった。ちなみに、私は1978年に歌劇場管弦楽団の来日公演を日比谷公会堂で聴いて以来である。その時はヘルベルト・ブロムシュテット氏の指揮でベートーヴェンの交響曲6番と7番だった。
 歌劇場の公演が長らく実現しなかったのは、第二次世界大戦の時に劇場が空爆で破壊されたまま1985年まで再建されなかったからである。また、戦後のドイツの東西分割で、ドレスデンは東ドイツに属していたため、戦後の経済復興が遅れていたこと、東西ドイツの統合の後も旧東側の経済がなかなか復興できなかったことなどにもよる。いずれにしても、26年ぶりの来日公演で、ドレスデンで初演され大成功を収めた「ばらの騎士」が上演されたのは嬉しい限りだった。

 ウィーン国立歌劇場やメトロポリタン歌劇場、スカラ座などと違って、ドレスデン国立歌劇場はアンサンブル・システムという運営方式を採っている。つまりスター・システムではないということだ。人気と実力のあるスター歌手たちを招聘して、豪華なプログラムを組むスター・システムとは一線を画し、劇場専属の歌手たちと緻密なアンサンブルを組み立てていくという考え方だ。もちろん予算上の理由もあるだろうが。結果的には、オーケストラ、合唱団、ソリストたちの息がぴったり合って、確かに美しいアンサンブルを聴かせていた。そんな中、元帥夫人役で出演予定だったアンゲラ・デノケさんがインフルエンザで降板。「タンホイザー」に出演するために来日メンバーに入っていたアンネ・シュヴァンネヴィルムスさんが代役となるハプニングもあった。また当初発表されていた予定を変更し、「ばらの騎士」は音楽監督のファビオ・ルイジさんが指揮することになった。もともと「ばらの騎士」は準・メルクルさんの指揮、ルイジさんは「タンホイザー」の予定だったが、交換した形になった。このあたりは、NHKホールでの公演が映像収録され、NHKのBSで放送されたり、のちにブルーレイ/DVDが発売されたことなども影響していたのかもしれない。前評判や事前の宣伝の割には何かとドタバタした公演になった。
 本プロダクションは2000年10月に初演されたもの。現代風にアレンジされた清楚な舞台が上品にまとまっていて美しい。7年の間には、幾度となくキャストを変えて公演がなされたと思うが、ドレスデンでの2007年3月の公演には、日本から森麻季さんがゾフィー役で参加。そのまま来日公演にも出演することになったのが、もうひとつの話題だった。

 さて実際の公演を振り返ってみよう。会場のNHKホールは音響も悪いし、なにより3400人も入れる階段状のホールなんて大きすぎる。ゼンパーオーパーは馬蹄形の1300席だから、ホール自体はこぢんまりしているはずだ(行ったことはありませんが…)。ここで開催されるオペラは大物が多くいつもチケットが高い。といって、予算をケチって3階の後ろの方の席になってしまうと、ステージが遠くてよく見えないし、音もメチャクチャ。というわけで、26年ぶりのドレスデン国立歌劇場の「ばらの騎士」なので奮発してS席を取ったが、それでもセンターブロックは取れなかった。1階R2列9番という席は、もうオーケストラ・ピットの端の方。指揮者を横から見るような位置だった。
 第1幕。ルイジさんのタクト一閃、オクタヴィアンのライト・モチーフをホルンが力強く吠える。続く弦楽が美しい。燻し銀どころか澄みきった音色だ。これこそドレスデン。ご本家の「ばらの騎士」だ。冒頭のわずか10秒で完全に魅了されてしまった。いくら音響が悪かろうが、席の位置が悪かろうが、オーケストラの音が直接目の前から聞こえる2列目だけのことはあって、左右のバランスなんか関係ないほど、このオーケストラは音が良く、しかも雄弁だ。またアンサンブルも緻密かつ繊細。ちょっと渋めの金管と流麗な弦楽のバランスの良さ…。リヒャルト・シュトラウス自身が求め、聴いた音だと思っただけで、涙が出てくるほど嬉しかった。
 前奏曲が始まるとすぐに幕が開き、ドラマが始まる。元帥夫人の寝室に、夜会帰りの夫人とオクタヴィアンが帰ってくるという設定だ。甘い旋律の流れる中、夜…の部分を経て、オクタヴィアンの歌が始まる。ここからは、美しい旋律に乗って、シュトラウス独特の会話オペラが延々と続いていく。アンケ・ヴォンドゥングさんは見た目も麗しく17歳の青年貴族役にぴったり。さわやかな声質のメゾ・ソプラノだ。元帥夫人のアンネ・シュヴァンネヴィルムスさんはベテランのたたずまい。オックス男爵のクルト・リドルさんは大ベテランのバスでなんといっても貫禄十分である(1980年のウィーン国立歌劇場の初来日公演で「フィガロの結婚」でバルトロ役で出ていた)。歌手たちのうまさもさることながら、この歌劇場のアンサンブルの美しさといったら、何者にも代え難い、すばらしさだ。後半の元帥夫人のモノローグも憂いを秘めた押さえた演技としっとりとした歌声には泣かされるものがあった。第1幕の楽しみの一つにゲスト出演のテノール歌手があるが、本公演では、主役級のロベルト・ザッカさんが美声を聴かせてくれた。彼はこの1曲半の歌のために来日したのである。

 第2幕は豪華絢爛な曲想の前奏曲で始まる。最もシュトラウスらしい、この華麗な音楽を、ドレスデンのオーケストラは宮廷音楽のような輝かしさと、聴く人をワクワクさせる明るい音色で演奏する。燻し銀どころかピカピカに磨き上げた銀細工のような晴れやかさだ。銀のばらの献呈の場で、ヴォンドゥングさんの凛々しい青年貴族の姿も眩しく、森麻季さんの初々しい少女のような振る舞いもさわやかな印象を与えている。


献呈の場のヴォンドゥングさんと森麻季さん

 このメンバーの中では森麻季さんを力不足だという批判をどこかで読んだが、実際のステージを見る限り、決してそんなことはなかった。若干声量が足らないようにも思えるが、ゾフィーが大声で歌う必要はないではないか。十分に役をこなしていたと思う。ただちょっと残念なのは、DVDなどの映像素材で見ると、森さんは指揮者の方を見ているために視線が伏せぎみだったことと(会場では気にならなかった)、結婚指輪をしていたこと。婚約の使者が銀のばらを届けに来た場面なのに…。
 第2幕の後半はオックス男爵のワルツがすばらしかった。美しい響きなのだけれど、ウィーン・フィルとはちょっと違った、儚さを感じさせる優雅な音色だった。

 第3幕のハイライトは何といっても音楽史上最も美しいといわれる三重唱だ。このオペラの中で一番盛り上がるこの場面を、ルイジさんは比較的冷静に演奏していた。3人の登場人物の思惑が入り乱れるこの場面で、音楽的にはクライマックスを迎えるが、オペラを通してのテーマである元帥夫人の諦念ともいえる心情をうまく表現していたと思う。あえて抑えたクライマックスの中に、一方で自由な振る舞いを求めつつも現実の立場が抑制せざるを得なくしている夫人の「切なさ」「哀しさ」がにじみ出ていた。ここは3人の歌唱もすばらしかったが、アンサンブル重視のドレスデンの真骨頂を発揮したということで、ルイジさんにBravo!を送ろう。

 最後に演出についても触れておこう。本プロダクションは、とくに奇をてらったところもなく、現代的にさらりとまとめた美しい舞台構成が印象的だった。時代設定としては1950年くらいのところだろうか。第2幕の献呈の場にはマスコミが取材に来ていたりするが、カメラがマグネシウムのフラッシュだったりする。その意図するところが必ずしも伝わってきたわけではないが、でしゃばらない演出がかえって音楽に集中できて良かった、といったら失礼だろうか。

 本公演は、とりあえず文句の付けようのないすばらしいものだった。新国立、チューリヒと「ばらの騎士」を続けて観てみると、全体の印象は、しっかりとした構成力を持っていてまとまりが良かった。見方によってはやや盛り上がりに欠け、迫力もない仕上がりだが、それこそがドレスデンの「燻し銀」たる所以なのだろう。決して乱れないアンサンブル。優雅で美しい音色。まさにこれが伝統の力なのだと、あらためて感じさせてくれた。
 なお、本公演はDVDとブルーレイが発売されているので、当日の感動を永遠に記憶に留めておけるのが嬉しく思う。

【2007年11月25日(日)15:00~ S席 1階 R2列 9番 56,000円】
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12/16(水)東京都交響楽団 第690回定期演奏会/イザベル・ファウストの弾くシューマン

2009年12月17日 23時19分10秒 | クラシックコンサート
「東京都交響楽団 第690階定期演奏会 Aシリーズ」

2009年12月16日(水)19:00~ 東京文化会館・大ホール A席 1階 3列 23番 3,800円(会員券)
指揮:ジェイムズ・デプリースト
ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
曲目:シューマン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
  《アンコール》バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番から第3楽章(イザベル・ファウスト)
   ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調(ノヴァーク原典版)

 イザベル・ファウストさんが登場するということで、偶然にもとても良い席のチケットが入手できたので、都響の定期に出向いた。都響はあまり聴く機会がなかったのだが、とくに理由があるわけではない。聴きたい演奏家やプログラムがかみ合わなかったからだ。今回の定期では、イザベル・ファウストさんをソリストに迎えて、なんとシューマンのヴァイオリン協奏曲、ということで期待して出かけたのである。

 シューマンのヴァイオリン協奏曲をナマで聴ける機会は滅多にないだろう。曲そのものがシューマンの生前から長く封印されていて日の目を見なかったばかりか、発見された楽譜がいろいろ問題があったり、演奏しにくかったりと、いわく因縁の多い作品であり、決して名曲とはいえない曲のようだ。私もナマはおろか、CDでさえ曲自体を聴いたことがなかった。それだけに高まる期待と…不安もあった。まあ、一流のソリストを迎えての珍しい試みだけに聴いておく価値は十分にあった。
 さて、「のだめカンタービレ」にも実名で登場したジェイムズ・デプリーストさんが電動車椅子で登場。譜面代を整えてからイザベル・ファウストさんがにこやかにステージへ。さすがに今日の協奏曲ではソリストも楽譜を用意していた。やはりこの曲を弾ける人は少ないのだろう。
 協奏曲風ソナタ形式の第1楽章。重く憂愁に満ちた提示部が長く続き、やがてヴァイオリンが入ってくる。初めて聴くのでは何ともいえないが、どこか混沌とした曲想だ。ソロ・ヴァイオリンのパートも淡々としていて、美しい旋律を奏でる出もなく、派手な技巧を駆使する出もなく、どこか醒めているような、それでいて迷っているような、つまり混沌としているのだ。一方、イザベル・ファウストさんのヴァイオリンの音色も落ち着いた大人の音という感じ。派手さはなく、ちょっと渋めのくすんだ音色ながら、几帳面に性格に弾いているような印象だった。使用楽器はご多分に漏れず、ストラディヴァリウスの「スリーピング・ビューティ-」(1704年製)とのこと。そのニックネームの由来は知らないが、音色はまさにそんな感じだった。ドイツ的な重厚さがよく合っている。
 第2楽章は短く、チェロの主題が美しく提示され、ヴァイオリン協奏曲をさらに混沌とさせる。
 続けて演奏される第3楽章は、ロンド形式で、ソロ・ヴァイオリンにはかなり難しい部分があるらしい。といっても早いパッセージなどの難しさではなく、重音などの構成に無理があって「非ヴァイオリン的」なので弾きにくいらしい。私のような素人が聴いている分には、とくに難しそうでもなく。ファウストさんは淡々と、しかも正確に弾いているように聞こえたが…。
 曲が終わると、都響のメンバーからも拍手が続いていた。オケの皆さんも貴重な体験だったんですね。
 アンコールにバッハを弾いてくれた。やはり世界クラスの人はうまいなあ…感心させられる。

 休憩を挟んで後半のメイン・プログラムはブルックナーの第7番交響曲。美しい旋律が次々と現れる荘厳なイメージの名曲であり、私も大好きな曲である。デプリーストさんの曲作りは、全体としては「豪壮」とでもいうべきか。全体的に音量が大きく、もともと金管の構成が厚いからどうしても大音量になりがち。弦が負けまいと必死になって弾いていたのが印象的だった。気持ち遅めのテンポだったろうか、奇をてらったところもなく、独断的でわがままな解釈もなく、スタンダードな印象ではあったが、重厚で堂々たるブルックナーであった。日本のオーケストラは本当にクセがなく技術的なレベルは高いと思う。今日のブルックナーのように、指揮者の求める音がおそらくアメリカ的なビッグ・サウンドなのだろう、実に迫力満点の演奏だった。疲れていたのでちょっと眠かったけど、お手頃価格で良い音楽に巡り会えるととても幸せな気分になれる。今日もBravo! だった。おかげで、都響の来期の会員になろうか、などと真剣に考えています。

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堀内 修 著『オペラ入門』(講談社学術文庫/2009年11月10日刊)を読んで

2009年12月14日 00時16分22秒 | 書評
 昨今のオペラ・ブームを反映してか、このところオペラに関する入門書が数多く出版されている。それらの多くは名曲解説を中心に、オペラの楽しみ方を紹介している。最近ではCD付きのものや、DVDブックも数種類出版されている。そんな中で本書一風変わった入門書となっている。何しろ「講談社学術文庫」なのだから。
 NHK BS-Hiの「ウィークエンドシアター」の解説でもお馴染みの堀内 修さんの最新刊である。といっても1989年刊の『はじめてのオペラ』という本を現代のオペラ事情に照らして加筆・改稿されたものである。
「歌劇場は博物館じゃない!」と本の帯に歌われているように、堀内さんは過去の歴史上に生まれたオペラが単なる古典芸術として存在しているのではなく、現代も続いている表現芸術として生まれ変わりながら生き続けている、ことを訴えている。
 目次を追っていくと、「序曲」でオペラは一度ハマってしまうと危険な道楽だといい、「第1幕」ではオペラの基本的な楽しみ方を紹介している。さらに「第2幕」では、そうすべきではないといいつつも、オペラの歴史を学ばせてくれる。「第3幕」では海外のオペラ劇場と、その楽しみ方をかなり具体的に紹介。「第4幕」では劇的に進化している現代のオペラ事情を紹介し、現代のオペラの楽しみ方を訴える。それが「歌劇場は博物館じゃない!」ということなのだが…。
 この『オペラ入門』は、入門書には違いないが、読んでみると決して初心者向けの入門書ではない。オペラのことをまったく知らない人が、「そろそろオペラでも…」と思ってこの本を読んでも、かなり難解かもしれない。基礎知識がないと、意味のわからないような内容の記述が多いからだ。中級者までとはいわないが、初級を卒業したくらいの人のための入門書というところか。オペラを30曲くらいは聴いたことがあって、有名オペラの作曲家やストーリー、名アリアなどを知っている。また世界や日本のオペラ界の有名な指揮者やオペラハウス、歌手たちの顔と名前はひととおり知っていて、それらの特徴なども感覚的に理解している。これくらいの人が読むと、思わず笑ってしまうような話が満載だ。私も電車の中で読んでいて、思わず吹き出してしまったところが数カ所あった。講談社学術文庫なのに…。
 堀内さんの文章はユーモアに溢れていて、堅苦しさがなく、とても読みやすい。オペラを多少知っている人にとっては、とても勉強になるし(著者はそういう読み方を望んでおられないようだが)、巻末に掲載されているオペラDVDの推薦盤(?)のリストなども実践的に役に立つだろう。この本を読むレベルの人は、すでに危険な道楽にハマってしまっている人に違いない。

 ここからは私見の「オペラ入門」ですが、これから初めてオペラを劇場で観てみたいと思っている人に、どんなアドバイスをすれば良いかいつも考えさせられる。初めて観たオペラに共感を覚えられれば、その後オペラにハマっていく可能性が大である。いくら字幕があるからストーリーは知らなくても何とかなるとはいっても、最初に観たオペラが「ヴォツェック」だったら、またオペラに行こうと思う人がどれだけいるだろうか。やはりものごとには順序というものがあるから、最初のオペラ体験はポピュラーな演目で、オーソドックスな演出が楽良いと思う。
「フィガロの結婚」「椿姫」「カルメン」「ラ・ボエーム」あたりが無難である。ちなみに私は「椿姫」だった。また、クラシック音楽好きの人が「そろそろオペラでも…」という場合には、好きな作曲家の作品を選ぶという手もある。ベートーヴェン好きの人は「フィデリオ」とか、チャイコフスキー好きの人は「エフゲニー・オネーギン」とか。音楽面から素直にはいっていける。もっともタイミング良く公演があればの話だが…。
 ちょうど良い公演がない場合は、DVDでとりあえず鑑賞してみることになるが、こうなると選択肢が多すぎて迷ってしまう。やはり人気演目でオーソドックスな演出が良いと思うが、出演者は一流のもの、そしてできるだけ新しいものが好ましい。ウィーンかミラノかMETあたりでゼッフィレッリの演出ものというところか。
 結局、劇場に行くにしても手軽にDVDを観るにしても、初めての人は先達に教えてもらう方が良い。オペラ好きの人は仲間を増やしたいと思っているから、懇切丁寧に教えてくれる。頼まなくても教えてくれる。そうやって、とりあえずオペラを体験してみてほしい。そしてちょっとでも面白いと感じた人は、オペラにハマってしまう可能性が大である。堀内さんのいうように、何しろオペラは危険な道楽なのだから。
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