12月30日(水)BSジャパン「バイオリンの聖地クレモナへ~ストラディバリウスに魅せられた日本人たち~」
年末の押しつまったこの時期に、BSジャパンで大好きな川久保賜紀さんが出演するドキュメンタリー番組が放送された。
2002年のチャイコフスキー国際コンクールで最高位を獲得して、今や日本を、いや世界を代表する若手ヴァイオリニストのひとりとなった川久保さん。相変わらずお美しくたおやか。いつもステージで見せる集中と緊張を伴う厳しい表情とは打って変わって、今回の番組では素顔の自然な表情がたっぷり拝見でき、ファンとしては嬉しい限りである。今年(2009年)で30歳になられたはずだが、ちょっとたどたどしい日本語がとてもチャーミング(彼女はまだ帰国していない帰国子女?)。
テレビ番組は、15歳の時から10年間、貸与を受けて使用してきた1707年製ストラディヴァリウス「カテドラル」を所有者に返すことになり、新しい楽器を探すという観点から、ヴァイオリンの聖地と呼ばれる来たイタリアの古都クレモナを訪ねた川久保さんが、現地でヴァイオリン製作に取り組む日本人の制作者たちと交流する、というストーリーである。
クレモナは、かのアントニオ・ストラディヴァリがヴァイオリンを製作していた都市。今でもその伝統が息づき、80余りのヴァイオリン工房があるという。川久保さんは、クレモナでヴァイオリンを製作している菊田浩さん、高橋明さん、天野年員さんの3人と出会い、彼らの製作したヴァイオリンを弾いてみる。伝統を引き継ぎ、さらに研鑽を重ねて作られる新しい楽器は、もちろん1台1台音色が異なるし、製作者によっても個性が違ってくる。1台の楽器でも、微妙な調整によって音が変わってくるのだという。4本の弦のバランスも大切だ。微調整を繰り返しながら、徐々に製作者の意図した音に近づけていく。しかも、そうして作られたピカピカの新品の楽器は、これから弾き込んでいくことで、名器になる可能性を持つのだという。
演奏者である川久保さんは、製作者の意図や感情を知り、新たな発見をする。
川久保さんが菊田さんの自宅の工房を訪れ、彼が2002年のチャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン製作部門で優勝した時の楽器を弾いてみる。その表情は真剣そのもの。音楽家の厳しい耳が楽器の微妙なニュアンスを捉えていく。製作者と演奏者の意見交換で、さらに楽器作りの新たなヒントが生まれていくのだ。コンクールで優勝したこの楽器も、今後、良い楽器に成長していく可能性がある、と川久保さんは感じたようだ。ところで、彼のヴァイオリン保管ケースの中に、マングースのキャラクターのぬいぐるみが…。こんなところにまで「のだめ」が出没しているとは。
あらためてわかったことだが、音楽家の皆さんの耳の良さ。楽器の持つ音色の差異や個性を実に高いレベルで聞き分けて、自身の演奏への適合性を究めていく。われわれ凡人には、感覚的には理解できても、本質的にわからないレベルの話である。こうして日々研鑽と努力を続けている人々が創り出す音楽を私たちは聴いているわけで、素人が無責任に良いの悪いのと批評したりするのはいかがなものかと思う。とはいえ、いつも素敵な音楽を聴かせてくれる川久保さんの、いわば舞台裏の苦労の部分をほんのわずかでも知ることができて、とても嬉しかった。
テレビの番組では、結局、川久保さんが自分の楽器を見付けはしないまま終わってしまった。取材されたのは2008年のこと。結論はないまま、番組は終了した。
後日談となるが、「カテドラル」と別れた後、日本音楽財団からストラディヴァリウス「ムンツ」を短期貸与され使用していた。現在の使用楽器は1757年製のカルロ・ランドルフィだとのことだ(『音楽の友』2009年11月号)。
次に川久保さんに会えるのは2010年1月16日(土)/文京シビックホールでサラサーテのカルメン幻想曲とサン=サーンスの序奏とロンド・カプリチオーソ(沼尻竜典指揮/東京フィルハーモニー交響楽団)と、翌週23日(土)/第一生命ホールでモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」(N響メンバーによる室内オーケストラ)。また素敵な音楽を聴かせてくださいね。
年末の押しつまったこの時期に、BSジャパンで大好きな川久保賜紀さんが出演するドキュメンタリー番組が放送された。
2002年のチャイコフスキー国際コンクールで最高位を獲得して、今や日本を、いや世界を代表する若手ヴァイオリニストのひとりとなった川久保さん。相変わらずお美しくたおやか。いつもステージで見せる集中と緊張を伴う厳しい表情とは打って変わって、今回の番組では素顔の自然な表情がたっぷり拝見でき、ファンとしては嬉しい限りである。今年(2009年)で30歳になられたはずだが、ちょっとたどたどしい日本語がとてもチャーミング(彼女はまだ帰国していない帰国子女?)。
テレビ番組は、15歳の時から10年間、貸与を受けて使用してきた1707年製ストラディヴァリウス「カテドラル」を所有者に返すことになり、新しい楽器を探すという観点から、ヴァイオリンの聖地と呼ばれる来たイタリアの古都クレモナを訪ねた川久保さんが、現地でヴァイオリン製作に取り組む日本人の制作者たちと交流する、というストーリーである。
クレモナは、かのアントニオ・ストラディヴァリがヴァイオリンを製作していた都市。今でもその伝統が息づき、80余りのヴァイオリン工房があるという。川久保さんは、クレモナでヴァイオリンを製作している菊田浩さん、高橋明さん、天野年員さんの3人と出会い、彼らの製作したヴァイオリンを弾いてみる。伝統を引き継ぎ、さらに研鑽を重ねて作られる新しい楽器は、もちろん1台1台音色が異なるし、製作者によっても個性が違ってくる。1台の楽器でも、微妙な調整によって音が変わってくるのだという。4本の弦のバランスも大切だ。微調整を繰り返しながら、徐々に製作者の意図した音に近づけていく。しかも、そうして作られたピカピカの新品の楽器は、これから弾き込んでいくことで、名器になる可能性を持つのだという。
演奏者である川久保さんは、製作者の意図や感情を知り、新たな発見をする。
川久保さんが菊田さんの自宅の工房を訪れ、彼が2002年のチャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン製作部門で優勝した時の楽器を弾いてみる。その表情は真剣そのもの。音楽家の厳しい耳が楽器の微妙なニュアンスを捉えていく。製作者と演奏者の意見交換で、さらに楽器作りの新たなヒントが生まれていくのだ。コンクールで優勝したこの楽器も、今後、良い楽器に成長していく可能性がある、と川久保さんは感じたようだ。ところで、彼のヴァイオリン保管ケースの中に、マングースのキャラクターのぬいぐるみが…。こんなところにまで「のだめ」が出没しているとは。
あらためてわかったことだが、音楽家の皆さんの耳の良さ。楽器の持つ音色の差異や個性を実に高いレベルで聞き分けて、自身の演奏への適合性を究めていく。われわれ凡人には、感覚的には理解できても、本質的にわからないレベルの話である。こうして日々研鑽と努力を続けている人々が創り出す音楽を私たちは聴いているわけで、素人が無責任に良いの悪いのと批評したりするのはいかがなものかと思う。とはいえ、いつも素敵な音楽を聴かせてくれる川久保さんの、いわば舞台裏の苦労の部分をほんのわずかでも知ることができて、とても嬉しかった。
テレビの番組では、結局、川久保さんが自分の楽器を見付けはしないまま終わってしまった。取材されたのは2008年のこと。結論はないまま、番組は終了した。
後日談となるが、「カテドラル」と別れた後、日本音楽財団からストラディヴァリウス「ムンツ」を短期貸与され使用していた。現在の使用楽器は1757年製のカルロ・ランドルフィだとのことだ(『音楽の友』2009年11月号)。
次に川久保さんに会えるのは2010年1月16日(土)/文京シビックホールでサラサーテのカルメン幻想曲とサン=サーンスの序奏とロンド・カプリチオーソ(沼尻竜典指揮/東京フィルハーモニー交響楽団)と、翌週23日(土)/第一生命ホールでモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」(N響メンバーによる室内オーケストラ)。また素敵な音楽を聴かせてくださいね。