Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/30(金)ソヒエフ+ベルリン・ドイツ交響楽団/神尾真由子のメンデルスゾーンVn協奏曲は・・・

2015年10月30日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
2015-2016 海外オーケストラシリーズ
ベルリン・ドイツ交響楽団


2015年10月30日(金)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 16番 16,000円
指 揮: トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン: 神尾真由子*
管弦楽: ベルリン・ドイツ交響楽団
【曲目】
シューベルト: 劇音楽『ロザムンデ』序曲 D644
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64*
《アンコール》
 エルンスト: シューベルトの「魔王」による大奇想曲 作品26*
ベートーヴェン: 交響曲 第7番 イ長調 作品92
《アンコール》
 モーツァルト: 歌劇『フィガロの結婚』序曲

 東京芸術劇場の「開館25周年/芸劇フェスティバル」の一環として開催され「2015-2016 海外オーケストラシリーズ 」の内容が極めて充実している。この秋に開かれる3回のコンサートは、本日の「ベルリン・ドイツ交響楽団」(ゲスト・ソリストは神尾真由子さん)、11月12日の「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」(同、ユジャ・ワンさん)、11月19日の「フランクフルト放送交響楽団」(同、アリス=紗良・オットさん)という豪華な顔ぶれで、どれも絶対に聞き逃せないレベルの公演だ。一方サントリーホールで開催されているKAJIMOTOの「ワールド・オーケストラ・シリーズ2015」は4回の公演で、すでに終わっている6月4日の「ハンブルク北ドイツ放送交響楽団」(同、アラベラ・美歩・シュタインバッハーさん)9月28日の「ロンドン交響楽団」(同、マレイ・ペライアさん)に続いて、11月3日の「ベルリン・ドイツ交響楽団」(同、ユリアンナ・アヴデーエワさん)、11月13日の「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」(同、ユジャ・ワンさん)と、こちらも素晴らしい陣容だ。ベルリン・ドイツ響とロイヤル・コンセルトヘボウ管がダブっているが曲目が違うのでそれぞれはずせない。フランクフルト放送響はJAPAN ARTSの招聘なのでサントリーホールでもコンサートがあるし、同じ時期に11月4日には「フィンランド放送交響楽団」(同、諏訪内晶子さん)、11月26日~29日には「ラハティ交響楽団」のシベリウスの交響曲ツィクルスなんてのまである。協奏曲好きの私にとって、11月は外来オーケストラのラッシュで大忙しになりそうだ(ほとんどの公演でソリスト間近の席を確保してある)。

 さて今日は、芸劇で「ベルリン・ドイツ交響楽団」である。率いてきたのは音楽監督のトゥガン・ソヒエフさん。世界中のオーケストラからオファーがかかる若手の人気指揮者で、フランスの「トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団」の音楽監督としての来日公演(2009年2012年2015年)「NHK交響楽団」の定期公演(2013年)への客演などを聴いているが、いずれも高評価、素晴らしい演奏であったと記憶している。今回は2012年から音楽監督を務めているベルリン・ドイツ響との来日なので、これまでのフランス風の色彩感豊かな演奏に対して、ドイツのオーケストラでドイツ系の曲目をどのように指揮するのか、興味津々であった。ゲスト・ソリストはお馴染みの神尾真由子さんで曲目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲である。今日の席も協奏曲狙いで、最前列のソリスト正面。神尾さんに手が届きそうな距離感である。

 1曲目はシューベルトの『ロザムンデ』序曲。ちょっと渋めの分厚い弦楽で始まり、オーボエが優しく歌う。ヴァイオリンが息の長い歌謡的な主題を、今度は澄んだ音色のアンサンブルで聴かせる。曲が長調に転じて明るく晴れやかな曲想になると、霧が晴れたような明るい色彩の音色に変わる・・・・。聴いている席の関係で、コンサートマスターのヴァイオリンの高音が少し耳に付いたが、それ以外は極めてバランスの良い音楽だという印象だ。一昨日のチェコ・フィルも同じような位置で聴いているのに、今日はは木管の音がよく聞こえる。ホールの違いなのか、演奏の違いなのか・・・・。全体にフランスのオーケストラのような絵画的なカラフルさはないが、純音楽としての質感の高さはなかなかのものである。

 2曲目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。一昨日は庄司紗矢香さんとチェコ・フィルの演奏で同じ曲を聴いている。神尾さんはこの曲を演奏するのはもう50回くらいを数えるという。毎回違ったアブローチで取り組んでいるということだが、今日は・・・・。
 第1楽章。解釈し尽くされたこの曲は、かえって難しく感じるものらしい。冒頭の主題から・・・・先鋭的な入り方で、哀愁・感傷・浪漫といったイメージではない。ところがかつてのようなスピード感のある攻撃性があるわけでもなく、何だか音が尖っているだけのようにも感じられた。第一、音程が少し不安定で、聴いていても座りが悪いというか、居心地の良くない音楽になってしまっている。展開部からカデンツァにかけても、ギリギリと音が尖り、少々荒っぽい。全体の構成も落ち着かず、それぞれのフレーズがバラバラの印象だ。
 第2楽章は前半は落ち着きを知り戻し音程も安定してきたが、クライマックスを迎える辺りから音が荒れ出してくる。音に潤いがなく、艶もない。楽器が十分になっていないのに無理に歌わせようとしている印象だ。
 第3楽章も無理をして弾いている感じで、殺伐とした演奏に思えた。低音は尖り、高音は引きつり、乾いた音、リズムに乗りきれないもどかしさが、イライラした音楽を創り出していく。オーケストラ側が抑制的でマイルドな音色で端正に仕上げていただけに、ソロ・ヴァイオリンが荒々しく浮き上がってしまう。さすがにこれは良い演奏とはいえないのではないだろうか。曲が終わればBravo!がとびかっていたが、何でもかんでもBravo!と叫べば良いというものでもないだろう。私にはとてもBravoな演奏とは思えなかった。

 神尾さんのソロ・アンコールは、エルンストの「シューベルトの『魔王』による大奇想曲」。こんな調子の時に何もこれほどの超絶技巧曲をアンコールに持ってくることはないのに・・・・。神尾さんの意地だろうか。

 神尾さんの演奏もずーっと聴き続けてきたので、その変化のプロセスもよく分かっているつもりだ。チャイコフスキー国際コンクールで優勝した前後は常に攻撃的で、オーケストラとガチンコ勝負といった勇ましい協奏曲が多かった。その後徐々にクールな音楽に変わってきて究極の美音を追求しているような、ひたすら美しい音色に収束していった。結婚されてからは音楽が優しく温かくなったが、出産後は練習不足からか調子を落としてしまった。最近はやや上り調子で、期待していたのだが、今日のように音程も不安定でフレージングにもリズム感がないと、解釈や表現以前に、やはり練習不足なのではないだろうかと思ってしまう。もちろん、お金を払って聴きに来ているからといって「いつでもどこでも名演奏を聴かせてくれなければイカン」などと言うつもりはないので、彼女を非難することは決してしない。次の演奏会で、素敵な演奏を聴かせて欲しいと思うだけである。

 後半はベートーヴェンの「交響曲 第7番」。いよいよドイツのオーケストラでのソヒエフさんのお手並み拝見というところだ。
 第1楽章。長い序奏の部分はあまりもったいを付けずに速めのテンポで快調な滑り出し。それでもダイナミックレンジは広いし、フルートやオーボエの質感の高い音色とバランス感覚で、なかなかフレッシュな出だしだ。ソナタ形式の主部に入ると中庸からやや遅めテンポを採り、あまりリズムを強調するような感じではなく、旋律のフレージングを丁寧に作りながら、端正で品良く仕上げて行くのは、いかにもソヒエフさんらしい。提示部のリピートはなく、展開部はちょっとまったりとしてしまったが、再現部に入ると造型がしっかりとしてきて、純音楽らしい佇まいとなった。若い指揮者にありがちな勢いで突っ走るようなところは微塵もなく、ひとつひとつの音符にまで丁寧でしっかりとした構造感を打ち立てている。反面、あまりドラマティックではなく、躍動感も少ない。
 第2楽章では主題をしっかりと演奏させているのが特徴的。弦楽が徐々に厚くなっていくプロセスなどは大きな山を構築していくような安定した構造感を打ち出す。オーケストラの各パートをキチンとコントロールしていて、実に自然で豊かに響くアンサンブルである。また木管群が実に質感の高い音色と演奏で、碧の森の中の風や小鳥のさえずりのような、自然な色彩感で描かれていて、基本的な演奏レベルの高さが感じられた。
 第3楽章のスケルツォは、快調なリズム感が前に出て来て。比較的メリハリを効かせるようになる。これは第4楽章への布石であろうか。ここへ来て「リズムの権化」が顔を見せだしたといった印象だ。中間部ははやる気持ちを抑えて、テンポを遅めにしていく。クライマックスへの盛り上げ方も、抑制的な雰囲気を残しつつドラマティックだ。
 第4楽章は「リズム」がいよいよ主役に躍り出る。それでもテンポはあまり早くしない。だから勢いで突っ張るような前のめりの感じではなく、アフタービートのリズムで後ろから背中を押すようなイメージで、端正で抑制的な面を崩さない。だから構造感は揺るぎない。終盤に向けてフガート風に盛りあげで行く辺りは流れるように勢いが生まれてくるが、それでもこの曲のフィナーレとしては落ち着きのある方に入ると思う。ちょっと惜しいと思ったのは、ティンパニがずっとわずかに遅れ気味であったために、躍動感が多少損なわれたところだろう。時折何やら濁音の混じったうなり声のようなものが聞こえてくるのは、ソヒエフさんだろうか。

 アンコールはモーツァルトの『フィガロの結婚』序曲。こちらは素晴らしい演奏。早めのテンポを抜群のリズム感で引っ張って行くような感じで、ヴァイオリンなども立ち上がりの鋭い演奏で、キレ味が良い。聴いている者の期待感をかき立てるような、心弾む演奏だ。これは間違いなくBravo!!である。

 今日のベルリン・ドイツ響のコンサートは、期待していた神尾さんのメンデルスゾーンはいささか難ありだったが、ソヒエフさんの指揮とオーケストラはなかなかまとまりが良かったと思う。ソヒエフさんらしい、端正で上品な音楽作りは、ドイツのオーケストラからはドイツ的な造型の堅牢さを引き出している。もちろんオーケストラ側にもともと備わっている特質もあるとは思うが、ソヒエフさんの指揮は常に抑制的でクールさを失わない。ひとつひとつの音符やフレーズを丁寧に描き、アンサンブルをしっかりと積み重ねる。気がついてみれば、オーケストラの音色は美しく澄んでいて、音楽にはフレッシュな瑞々しさ、生命力のようなものも感じられる。老成しているようで、やはり若い。なかなか魅力的な指揮者である。

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10/28(水)チェコ・フィル/庄司紗矢香のメンデルスゾーンVn協奏曲とビエロフラーヴェクの「運命」

2015年10月28日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団/2015年・日本公演
Czech Philharmonic Japan Tour 2015


2015年10月28日(水)19:00~ サントリーホール・大ホール S席 1階 1列 19番 19,000円(会員割引)
指 揮: イルジー・ビエロフラーヴェク
ヴァイオリン: 庄司紗矢香*
管弦楽: チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
スメタナ: 連作交響詩『わが祖国』より「シャールカ」
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64*
ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
《アンコール》
 メンデルスゾーン: 交響曲 第5番 ニ長調 作品107より第3楽章
 スメタナ: 歌劇『売られた花嫁』3つの舞曲から「スコッチナー」
 ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第10番 ホ短調 作品72-2

 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の2年ぶりの来日公演ツアー。率いてくるのは、お馴染みの音楽監督・首席指揮者のイルジ・ビエロフラーヴェクさん、ツアーに同行するソリストはヴァイオリンの庄司紗矢香さんとピアノのダニール・トリフォノフさんである。今回の来日ツアーは、昨日10/27富山、今日10/28東京(サントリーホール)、10/29福岡、10/30東京(サントリーホール)、11/1名古屋、11/2浜松、11/3横浜、11/4東京(NHK音楽祭)というスケジュールで、6都市で8公演が行われる。持ってきた曲は、協奏曲はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、メイン曲はチャイコフスキーの交響曲第5番とベートーヴェンの交響曲第5番「運命」、そして定番のドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。これらの組み合わせを変えて、各会場で演奏される。一方、NHK音楽祭ではスメタナの『わが祖国』全曲がプログラムされていて、他の会場ではこの中から1曲がコンサート序曲として組まれている。
 チェコ・フィルの公演は、前回の来日の時も1回聴いた。2013年11月、ミューザ川崎シンフォニーホールで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ピアノは河村尚子さん)とドヴォルザークの「新世界より」などを聴いている。こうしてみるとプログラムもあまり代わり映えがしないようである。
 その前の来日が2011年の3月で、ツアー中に東日本大震災が発生して日本中が大混乱に陥り、ミューザ川崎の天井崩落で中止となった公演に出演する予定だったのが庄司さんだったという因縁もある。そんなこともあって、チェコ・フィルと庄司さんの日本での共演は、今回のツアーが初めてなのである。

 1曲目はスメタナの連作交響詩『わが祖国』より「シャールカ」。『わが祖国』の全曲演奏の時でもなければあまり聴く機会のない曲だろう。演奏の方は、チェコ・フィル独特ともいえる若干泥臭さのある弦楽のアンサンブルが なかなか良い味を出していた。何しろ最前列のコンサートマスターの真下で聴いていたので、第1ヴァイオリンが大きく聞こえてくるのはやむを得ないところだが、木管が聞こえづらいのには閉口した。弦楽セクションの影に完全に隠れてしまっているからなのだが、クラリネットはまだしもオーボエの演奏は抑揚に乏しく平板に聞こえた。ビエロフラーヴェクさんという指揮者は何回も聴いているが、意外に掴み所がなく、巨匠と呼ばれる割りにはあまり個性が感じられない。ご本家のご当地ものだけに、いかにも、といった感じのスタンダードさで、ある意味では洗練されているがゆえにスラブ系の土俗的な雰囲気が少ないということになる。良いことなのか、悪いことなのか、どうもこの指揮者は何が特徴なのかが、今ひとつよく分からないのである。

 2曲目は庄司紗矢香さんをソリストに迎えてのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。もちろんこの曲と庄司さんがお目当てで最前列の席を取っているので、何かが起こることを期待していたのだが・・・・。結論から言うと、意外に平凡だったような気がする。
 第1楽章は、最初の主題の提示部分、つまり掴みの部分で聴衆の心を掴むめるかどうか、一瞬の勝負だと思うが、庄司さんのヴァイオリンは素直にすーっと入ってきて、哀愁が濃厚に漂う音楽世界へ誘う、といったイメージが希薄な感じがした。もちろん演奏は上手いし、ディテールに至るまで細やかに描かれていて、そういう意味では申し分ない。一方で、テンポ設定もスタンダードでインテンポに近く、抑揚やメリハリにねちっこさがない解釈になっている。庄司さん独特のピーンと張り詰めたような緊張感の高い演奏で、どこかでハッとするような煌めきを見せてくれることを期待していただけに、やや拍子抜けである。カデンツァから以降はちょっと無理をしたのか少し荒っぽさが見えた。
 第2楽章は最近の演奏の中ではテンポが遅い方に入るだろう。その分だけ、主題の抒情的な旋律が良く歌い、ロマン主義的な雰囲気を描き出していた。庄司さんのヴァイオリンは、ひとつひとつのまとまったフレーズではディテールまで丁寧に歌わせていて素晴らしいのだが、中間部辺りはやや一本調子になっていたような気がする。
 第3楽章になると庄司さんのヴァイオリンに高い緊張感に伴う鋭さが増してきて、力感が漲ってくる。ところが今度はオーケストラ側が力が抜けた感じになってしまい、どうもうまく咬み合わない。結局、終盤かにコーダに入るあたりでやっと両者のパワーが合わさってスリリングな展開になっていった。
 全体を通してみても、どこか緊張感や盛り上がりに欠けるイメージが残ってしまい、聴いている方としてはちょっと不完全燃焼気味であった。ビエロフラーヴェクさんのまったりとした風情が庄司さんを飲み込んでしまった・・・・そんな印象である。庄司さんのクラスのソリストは、このあまりにも解釈し尽くされた名曲に対しても、何らかの新しいアプローチを見せて欲しいところだが、今日の演奏は普通に「上手い」だけで、それはそれで世界の一級品としての「上手さ」なのだが、「だから?」という疑問が口を突いて出てしまう、そんな要素を残した演奏だったのではないだろうか。

 後半はベートーヴェンの「運命」。これがまた何とも言いようのない演奏であった。ビエロフラーヴェクさんらしいと言えばそれまでなのだが・・・・。
 第1楽章は、かなりスタンダードなイメージ。中庸のテンポ設定で、あまりにも「普通」の演奏過ぎるのである。スコアに忠実と言ってしまえばソレまでだし、教科書的と言うこともできそう。巨匠の音楽らしい堂々たる佇まい、というほどでもないし・・・・。要するに平均的で、キチンと演奏していることは間違いないが、指揮者の個性もオーケストラの特徴も曖昧で、いったい何が言いたかったのかが分からないのである。
 第2楽章も中庸のテンポで、メリハリも付けて頑張って演奏している(?)のだが、いささか感動に乏しい。よくよく聴いてみると、どうも木管群に色気が足りないようである。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットのどれをとっても音色に艶や深みがなく、楽譜通りに吹いているだけ、といった印象だ。
 第3楽章のスケルツォは、やや遅めのテンポになるだろうか。ホルンの主題提示も迫力はあるがあまり上手いとは言えない。トリオ部分のフガートは、コントラバスが後方雛壇の最後列に1列に並ぶ配置であったため、低音部の出所が分散してしまい迫力不足になった。
 第4楽章は冒頭の金管群の咆哮をテンポを落とし主部に入ると速度を上げて推進力を高めていく。それは良いのだが、その後がインテンポで・・・・またまた「普通」の感じ。主題提示部はスコア通りにリピート。2度目の方が推進力があった。展開部の終わりの方ではピッコロが暴走気味。スケルツォ主題の回帰を経て再現部。コーダに入っても推進力が増してくる感じも少なく、カタチの上では盛り上がっていくのだが、なぜか魂を揺さぶるような感動が伝わってこないのであった。
 私自身も「運命」については思い入れが強い方なので、どうしても辛口になってしまうのだとは思うが、どうやらビエロフラーヴェクさんとは相性があまり良くないようである。演奏自体がスタンダードすぎて面白味を感じさせてくれない。どうもあのアクのない感じが音楽をつまらないものにしているような気がしてならないのである。

 アンコールは3曲も。
 メンデルスゾーンの「交響曲 第5番」より第3楽章は、哀しげで抒情的な息の長い主題をちょっと渋めの弦楽が美しく聴かせる。木管が聞こえにくいのは席位置が原因だから、それを補って聴くとすれば、これはなかなか素敵な演奏だ。
 スメタナの歌劇『売られた花嫁』3つの舞曲から「スコッチナー」は、オーケストラが目が覚めるほどに色彩的になり、活き活きとして輝き出す。踊り出したくなるようなリズム感だ。お国ものだとこうも変わるもの?? これはスコアに忠実な演奏では決してない。こんな演奏は日本のオーケストラでは絶対にできないだろう。
 最後は、ドヴォルザークの「スラヴ舞曲 第10番」。哀愁と郷愁に満ちた旋律が弦楽の何ともいえないご本家のサウンドで描かれていく。こちらも絶品だ。

 結局、チェコ・フィルの演奏は、お国ものは文句なしに素晴らしいが、ドイツものはいささか・・・・。これがビエロフラーヴェクさんと私との相性の問題なのだとしたら、仕方のないことだが、他の皆さんはどのように感じたのだろうか。

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10/27(火)デジレ・ランカトーレ/武蔵野/心を揺さぶる熱唱に総立ちの喝采が止まずアンコールを5曲も

2015年10月27日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
デジレ・ランカトーレ ソプラノ・リサイタル

2015年10月27日(火)19:00~ 武蔵野市民文化会館・小ホール 指定 2列 4,500円(会員割引)
ソプラノ: デジレ・ランカトーレ
ピアノ: 浅野菜生子*
【曲目】
ロッシーニ:「約束」(歌曲集『音楽の夜会』より)
ロッシーニ:「誘い」(歌曲集『音楽の夜会』より)
ヴェルディ: 歌劇『オテロ』より「アヴェ・マリア」
ドニゼッティ: 歌劇『アンナ・ボレーナ』より「私の生まれたあのお城へ連れて行って」
ドニゼッティ: 歌劇『ドン・パスクワーレ』より「私もその不思議な力を知ってるわ」
ショパン: ワルツ 第7番 嬰ハ短調 作品64-2(ピアノ・ソロ)*
ドニゼッティ: 歌劇『連隊の娘』より「私は出発します」
グノー: 歌劇『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」
マスカーニ: 歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より「アヴェ・マリア」
ヴェルディ: 歌劇『椿姫』より「さようなら、過ぎ去った日々よ」
ヴェルディ: 歌劇『海賊』より「あの人はまだ帰ってこない・・・この暗い考えを」
ヴェルディ: 歌劇『椿姫』よりメドレー(ピアノ・ソロ)*
ヴェルディ: 歌劇『椿姫』より「ああ、そはかの人か~花から花へ」
《アンコール》
 ガーシュウィン/ヘイワード: 歌劇『ポーギーとベス』より「サマータイム」
 ディ・カプア:「オー・ソレ・ミオ」
 越谷達之助:「初恋」
 シチリア民謡:「まだお休みになっているあなた」
 プッチーニ: 歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」

 イタリア・オペラの名花、デジレ・ランカトーレさん。私の一番好きなソプラノさんだ。ハイFまで出るという高音域の美しさに加えて、超絶的な技巧、群を抜く表現力。圧倒的な存在感の大スターにもかかわらず、陽気で気さくでチャーミングなキャラクタも手伝って、世界中で愛されている。日本での人気も高い。今回の来日は、プラハ国立歌劇場の引っ越し公演ツアーに『椿姫』のヴィオレッタ役として同行して来たものだ。私は先日(10月17日)、東京文化会館で彼女の素晴らしいヴィオレッタをすでに聴いて来た。全国14都市で合わせて18公演を行うツアーの中で、ランカトーレさんは4回出演する予定だが(10/10さいたま、10/17東京・上野、11/1大阪、11/3名古屋)、その公演の合間にリサイタルを、ということで急遽実現したらしい。というわけで、今回の来日ではたった1回のリサイタルが武蔵野市民文化会館・小ホールという、ちょっと変則的な(?)カタチになった。武蔵野は自宅からはかなり遠いイメージなのでこれまでにも行ったことはなかったが、ランカトーレさんははずせない。しかも信じられないことに武蔵野価格(会員)で4,500円!! 昨年2014年の紀尾井ホールでのリサイタルはS席12,000円だったのに・・・・。ホール会員になっている友人の力を借りて、なんとか2列目の席を確保した次第である。ちなみにこのリサイタルは、それこそアッという間に完売になったものである。

 武蔵野市民文化会館は始めてだったので、早めに会場に向かい、地元の友人Yさんに案内してもらった。今回のリサイタルは小ホール。474席のホールにもかかわらずパイプオルガンを備えており、天井も高く音響効果も良い。この環境でランカトーレさんのリサイタルを聴くことができるのは、かなり恵まれているといっていいだろう。

 さて、肝心のランカトーレさんの歌唱についてだが、これはもう、始めから言うまでもなく、素晴らしいの一言に尽きる。深めのヴイブラートと大らかな歌い回しを基本に、いかにも陽気なイタリア女性らしい明るくて張りのある声質、コロラトゥーラ的な技巧、そしてppからffまで自在にコントロールできる高音域の表現力・・・・。どちらの方角から見ても隙のない彼女だが、大スターのオーラを振りまくような感じではなく、ご当地アイドルのような気取らないステージさばきも魅力満点なのである。


 始めの2曲はロッシーニの歌曲集『音楽の夜会』から。「約束」はゆったりとした抒情的な曲で、ランカトーレさんとしては1曲目にはゆったりと無理をせずに歌える曲を配置している。大きな歌い回しが素敵。今日も調子は良さそうだ。「誘い」はややテンポが速くなり、ノリが良くなってきて、瞬発的な声量も十分で、早くもハイCが飛び出す。
 3曲目以降はすべてオペラ・アリアだ。まずはヴェルディの『オテロ』から「アヴェ・マリア」。しっとりと、切々と歌うこの曲では、陽気なイタリア女性の雰囲気が消え失せ、なんて切なく、哀しげであろうか。押し殺したように抑え込んだ声量の弱音があまりにも素晴らしく、聴く者は思わず耳を澄まして聴き入ってしまう。そして思わずこぼれるBrava!の声。
 続いてはドニゼッティのアリアを2曲。『アンナ・ボレーナ』はいわゆる「女王三部作」のひとつで「私の生まれたあのお城へ連れて行って」は狂乱の場の聴かせ所である。このオペラがあまり上演されないのは、タイトルロールを歌い切れる歌手がなかなかいないからだといわれている。その点ではランカトーレさんならまったく問題ない。高音域でしっとりと歌うロマンティックな部分では繊細な弱音と装飾的な技巧もたっぷりと聴かせ、そのまま最後の最弱音でのハイCに、会場からはBrava!が飛び交った。やはり、ランカトーレさんはスゴイ。
 『ドン・パスクワーレ』は一転してオペラ・ブッファで、「私もその不思議な力を知ってるわ」は主人公の恋人役のノリーナが歌う明るいアリア。こういう曲になると、ランカトーレさんの天性の陽性の声質が水を得た魚のように跳ね回る。作品に感情移入しているランカトーレさんは、コケティッシュな表情も豊かに、超絶技巧をさらりと交えながら歌う。最後は高音部を爆発的に歌い、またまたBrava!を聴衆から引き出していた。

 ここで小休止。声楽家のリサイタルは喉を酷使しないように、しばしばピアノのソロを入れる。今日の伴奏ピアノはオペラ・声楽系の伴奏の第一人者である浅野菜生子さんだが、ショパンの「ワルツ 第7番」が出てくるとは思わなかった。彼女が弾くとショパンがイタリア風の節回しに聞こえてくるから不思議である。

 再びランカトーレさんが登場し、もう1曲ドニゼッティ。『連隊の娘』より「私は出発します」。一般的には「さようなら」のタイトルで知られている。切々と歌う弱音のアリアでも高音域が続く。ランカトーレさんは繊細で美妙なニュアンスの描き方が抜群に上手い。
 前半の最後は、グノーの『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」。この曲はランカトーレさん明るい性格にピッタリの曲で、彼女もお気に入りらしく、リサイタルで何度も聴いているが、フランス語の発音が小粋な感じにならなくて、母音の長いイタリア語風の大らかな歌い方になっているのがお馴染みで、とてもチャーミングなのである。ここでもBrava!が飛び交っていた。

 20分間ほどの休憩を挟んで後半は、まずマスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』より「アヴェ・マリア」から。殺伐としたヴェリズモ・オペラの中で天国的な異彩を放つ有名な間奏曲に後に歌詞を付けたものだ。しっとりと情感たっぷりに歌う中にも、力感が漲り、ドラマティックな仕上がりとなっていて、またまたBrava! もう完全に全曲Brava!が合い言葉のようになってきた。
 続いてはヴェルディの『椿姫』より「さようなら、過ぎ去った日々よ」。プラハ国立歌劇場の来日公演ツアーでの演目だけに、ランカトーレさんにとって、いま一番集中して歌えるのがヴィオレッタだろう。演奏は父ジェルモンの手紙を読み返す場面から。オペラ本編ではベッドなどに横たわって歌うことが多いアリアだが、リサイタルの時はさすがに声がよく出ている。そうなるとヴィオレッタの悲しみも心の叫びとなって聴く者の心に突き刺さるような鋭さが出てくる。とくに最後の音を長く伸ばしたのには胸を抉るような悲しみの迫力があった。
 続いては、ヴェルディの『海賊』より「あの人はまだ帰ってこない・・・この暗い考えを」。このオペラはちょっと珍しい。ヴェルディ前期の1848年の作品で、ベルカントの雰囲気を残している。ランカトーレさんの超絶技巧が冴え渡る歌唱であった。

 後半もここで小休止のピアノ・ソロ。曲名が発表されていなかったので、何が出てくるのか。先ほどはショパンだったが・・・・、などと思っていたら、『椿姫』の第1幕の前奏曲が始まった。てっきり前奏曲だけだと思っていたら、途中からメドレーに変わって・・・・第2幕・第1場のヴィオレッタとジェルモンの二重唱へ飛び、第2場の終曲へ続き、また第1場に戻り、そして第1幕へジャンプ。夜会の終わるシーンへ戻る。なるほど、そういう趣向か。おもむろにランカトーレさんがステージに戻ってきて「ああ、そはかの人か~花から花へ」へと続くのであった。
 「ああ、そはかの人か」は技巧的な歌唱もさることながら、揺れ動く心情を歌い上げる表現力が、感情移入された歌唱力が、半端ではない。まさに世界の超一級のオペラ歌手の凄味すら感じさせる。弱音の高音域の連続に切ない女心の情感が見事に乗せられて、歌われていくのである。
 「花から花へ」に入ると、今度は逆に感情を外に爆発させるような力感が漲り、ピーンと張り詰めた声質に変わる。圧倒的な声量と強烈な押し出しで、やはり聴く者の心にズンズンと突き刺さってくる迫力だ。リサイタルなどではしばしば省いてしまうこともあるが、「Follie! follie」からをオペラ本編の慣例通りに繰り返し、2度目はさらなる押し出しで、本当の気持ちを偽って強がるヴィオレッタの悲しみを押し殺した心情が見事に歌い上げられた。最後の装飾的なハイD♯も強靱な声でぶちかまして、もはや貫禄というか、さすがに見事なものであった。会場はBrava!の嵐で熱狂に包まれた。

 アンコールは、まずガーシュウィン/ヘイワードの「サマータイム」。ランカトーレさんはこの曲もお気に入りのようで、いつもアンコールで歌ってくれる。高音部がひたすら美しい。この辺りから拍手が鳴り止まなくなってきた。
 アンコールの2曲目はディ・カプアの「オー・ソレ・ミオ」。これもお馴染みだが、ランストーレさんの歌唱は高音域の熱唱を伴い、ものすごく盛り上がる。もう会場はスタンディング状態。
 アンコールの3曲目は、これも日本ではいつも歌ってくれる越谷達之助の「初恋」。この陽気なイタリア女性が歌う「初恋」は、日本人の歌手が歌うのよりも何故か泣けてくる。本当に上手い歌手というのはそれほどの歌唱力を持っているのである。聴く方としても歌詞がわかるだけに余計に泣けるわけだ。会場は完全にスタンディングで拍手は鳴り止まなくなってしまい、ランカトーレさんも感激してウルウルしてくる。
 アンコールの4曲目はシチリア民謡で「まだお休みになっているあなた」。ランカトーレさんはシチリア島のバレルモ出身で、彼女の地中海的な陽気さそのもののようなこの曲も、日本人にはストレートに伝わって来るものがある。「熱唱」という言葉がぴったりの劇的な歌唱で、会場はさらに熱狂の嵐に包まれていった。
 アンコールは4曲までは想定していたようだったが、満場総立ちの熱狂に押されて、急遽もう1曲となったらしい。お馴染み、プッチーニの「私のお父さん」。最後の最後まで、情感たっぷりの熱のこもった歌唱であった。

 世界のトップクラスともいえるプリマ・ドンナが聴衆の喝采に応えてアンコールを5曲も歌ってくれるなんて。これだから、ランカトーレさんを聴いた人は皆、彼女が大好きになってしまうのである。もちろん、歌唱は本当に素晴らしい。技巧も表現力もしかり。何よりも聴衆の心を掴むというか、心に入ってくるというか、あのハイC以上の高音を聴いたある一瞬から、彼女の虜になってしまうのだ。何しろ即日完売のリサイタルで、満席のお客さん全員のスタンでイング・オベーション。滅多にあることではないでしょう?

 終演後はサイン会まであったが、何しろアンコールが5曲も合ったので、演奏が終わったのが21時20分を過ぎていた。私にとっては武蔵野はかなり遠いので、泣く泣くサイン会は諦めることにした。それにしても遠くまで来た甲斐があったというもの。こんな素晴らしいリサイタルを聴かせてくれたランカトーレさんに感謝!! もちろんBrava!!

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【お勧めCDのご紹介】
 2014年6月にリリースされたランカトーレさんのCD「ランカトーレ・ライブ・イン・ジャパン2012」です。2012年4月21日、よこすか芸術劇場におけるリサイタルをライブ収録したものです。今日歌ってくれた曲の中では、ロッシーニの「約束」、グノーの「私は夢に生きたい」、越谷達之助の「初恋」、シチリア民謡の「まだお休みになっているあなたに」が収録されています。ランカトーレさんの魅力を知るには最高の一枚です。彼女の魅力はライブじゃなければ伝わらないと思います。

ランカトーレ・ライヴ・イン・ジャパン2012
越谷達之助,ビゼー,グノー,グラナドス,ドニゼッティ,ラフマニノフ,ベルリーニ,ロッシーニ,トマ,グリマウド(アントニーナ)
オクタヴィアレコード
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10/25(日)第84回日本音楽コンクール本選会《バイオリン部門》優勝は小川恭子、2位なし3位小林、吉江

2015年10月25日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第84回 日本音楽コンクール 本選会《バイオリン部門》
THE 84rd MUSIC COMPETITION OF JAPAN "VIOLIN"


2015年10月25日(日)16:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 4列(2列目)16番 3,150円(会員割引)
指 揮: 高関 健
管弦楽: 東京交響楽団

 昨年に引き続き、「日本音楽コンクール」の「バイオリン部門本選会」を聴く。今年2015年は第84回の開催となる。昨年は予選会も一部を聴いたが、今年は都合がつかず本選会のみとなってしまった。このコンクールの審査は、第3予選の得点の60%も加えられるので、本選会を聴いただけでは判断できるものではないのだが、とはいうもののコンクールである以上、私たち聴く側にとっても楽しみの一つは結果予想であるには違いなく・・・・・真剣な当事者の皆様とは裏腹に、門外漢の私たちは例年、緊張感漂う独特の雰囲気の中のコンサートを楽しませていただくことになるのである。
 今回の本選会参加者は4名、全員が大学生で、3名が桐朋学園大学、1名が東京藝術大学。私は音大生の知り合いはあまり沢山はいないし、音大内の演奏会にもほとんど行ったことがないので、多くの場合、名前を知っているのは過去のコンクールで聴いたことがあるから、という程度なのである。今回の4名はいずれも1回だけ演奏を聴いたことがある。
 以下、演奏順にレビューを試みると・・・・。

●上野明子(うえの・あきこ/1993年生まれ、桐朋学園大学音楽学部4年在学中)
【曲目】チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
 上野さんは、今年205年の6月に開催された「桐朋学園 音楽部門 作曲科による 第37回『作品展』」を聴きにいったときに、森円花さんの作曲した「弦楽六重奏曲」を演奏しているのを聴いたことがある(その森さんとも会場でお会いした)。というこはソロを聴くのは初めてであった。
 コンクールの本選会で一人目の演奏というのも相当な緊張を伴うことは想像に難くないが、やや緊張気味ではあったが力強い演奏を聴かせてくれた。コンクールの場合、とくにこの会場では審査員席が遠いためか、演奏者が力みがちになる。私は2列目の正面で聴いていたので、上野さんは十分に楽器は鳴っていたと思うが、必要以上に大きな音を出そうとして力んでしまっているようにも見えた。そのために、弱音部も大きめの音量となり、結果的にダイナミックレンジが狭く感じられ、平板な印象になった可能性がある。またその緊張と力みによる微細なミスも散見された(細かな音型のパッセージなどで音がバラつくなど)。全体的な印象として、(当然といえば当然なのだが)コンクール向けの演奏といったイメージで、審査員に向けて思いを届かせようとしているが、一般の聴衆としてはあまり楽しめなかったというところではないだろうか。第1楽章はバタついていたが、第2楽章以降は落ち着いてきたようだった。

●小林壱成(こばやし・いっせい/1994年生まれ、東京藝術大学3年在学中)
【曲目】チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
 小林さんは、昨年2014年の「第83回日本音楽コンクール バイオリン部門」で第3予選まで進んだのを聴いた。結果、本選には進めなかったわけだが、リベンジの今年、みごとに本選入りを果たした。昨年は4名とも女子。今年は小林さんがただひとりの男子。男性陣の劣勢が続いている。
 小林さんも緊張していたのだろうか。結果からいうと安定感のない演奏に終始した。昨年の印象から比べれば、かなり力強く、男性的な演奏に変貌している。立ち上がりが鋭く、音量も大きく音質も太い。このような力感溢れる演奏はまさに男性的であり、それはそれで魅力のひとつであろう。ただし安定を欠くというのは、バラツキが激しいということで、強い押し出しでグッと迫ってくる部分は素晴らしいが、経過的なパッセージなどで音が乱れたりする。別の言い方をするなら「荒っぽい」ということになろう。おそらくは彼の場合も緊張と力みから来るものなのだろう。カデンツァなども弾き急くようなところがあり、音楽的なリズムに乗りきれていないような印象であった。

●吉江美桜(よしえ・みお/1996年生まれ、桐朋学園大学音楽学部1年在学中)
【曲目】ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
 吉江さんは昨年2014年の「第12回東京音楽コンクール 弦楽部門」のファイナリストで3位に入賞している。今年は日本音楽コンクールでファイナリストということだから、安定した実力の持ち主であることは間違いないだろう。後はそこから一歩抜け出す何かが必要だということか。
 吉江さんの演奏は、非常に端正で、生真面目な印象だ。譜面を正確にトレースしていくことは、良い意味では技巧的にも安定しているし、ノーブルな解釈とそれを表現する力量もあるということ。別の見方をすればあまり個性的ではないということになる。その辺は評価も分かれるところかもしれない。私の語人的な好みでいえば、初めの方は固くで面白味がなく感じられたのだが、曲が進むうちにだんだん慣れてきて、こういう個性を内に秘めたような演奏(没個性という意味ではない)も、ブラームスなのだから、ありかな、と思うようになった。
 気になったことがひとつ。遠くの席で聴いていた人は音量が小さかったと言っていたし、ステージ近くで聴いていた別の人とは音が繊細だと言っていた。私は2列目のセンターで聴いていて、音量的にはまったく過不足なく聞こえた。ただし、吉江さんのヴァイオリンは、E線だけが硬質で他の弦と音質が違うように聞こえたのである。つまりE線を使う高音部になると音が固く引きつったようになるし、A線とE線の重音が音質が違うためにキレイな重ならない。そんな印象を持った。つまりは低音部から高音部までが均質の音色の連続ではなくて、低い方はふくよかな音色なのに、E線を使うと急に固くゆとりのない音に変化してしまう。このE線の神経質な音質が全体から優しさや人間的な温かみを奪ってしまい、結果的に個性的でない印象を創り出していたような気がする。

●小川恭子(おがわ・きょうこ/1993年生まれ、桐朋学園大学音楽学部4年在学中)
【曲目】メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
 小川さんは昨年2014年の「第83回日本音楽コンクール バイオリン部門」のファイナリストで、結果は入選に留まった。今年はリベンジを果たし、2年連続の本選進出となった。今年は海外のコンクールでも入賞するなどの成績を残し、正直言ってびっくりするくらいの変貌を遂げて、満を持しての本選出場である。
 選曲はあえてもっともポピュラーなメンデルスゾーン。曲が始まって主題が出てくると、ヴァイオリンが豊かな音色で鳴り出す。深めのヴィブラートが生み出す濃厚な音色は、豊かでコクのある音楽を紡ぎ出していく。ひとつひとつの音符にはっきりとした役割を与えていて(つまりそういう解釈をきちんとしていて)、手を抜いて流すようなところがない。ソロ・ヴァイオリンが主題を弾く時は豊かに鳴らし、決して強く主張しているようなアグレッシブな演奏ではないのに、オーケストラから明瞭に分離して存在感も鮮やかに協奏していく。伴奏に回った時でもくっきりと明瞭に分散和音などを弾き、曲の持つ構造性もかなりバランス良く表現できている。また、リズム感というか、曲の流れというか、オーケストラと一体となって、音楽に揺るぎない流れを生み出していて、指揮者もオーケストラ側も演奏しやすそうに見えた。音は明確にオーケストラから分離しながら、決して対立的ではなく、むしろ一体感があって、推進力を生み出す。オーケストラを味方に付けたという感じであった。第3楽章のコーダからフィニッシャにかけての盛り上がり方など、痺れるような感動をもたらし、もはやコンクールでなかったとしてもBrava!な演奏であったことは間違いない。

 さて4名の演奏を聴き終えて、今回はあえて順位予想などしなかった。というかよく分からなかったのである。優勝と聴衆賞は小川さんであることは確信できたが、あとの3名の順位が付けられないのであった。それは審査員の先生方も同じであったのだろうか。結果発表まで少々時間がかかったような・・・・。結果は以下の通りであった。

【第84回 日本音楽コンクール《バイオリン部門》最終選考結果】
  ●第1位・・・・・・小川恭子
  ●第2位・・・・・・該当者なし
  ●第3位・・・・・・小林壱成・吉江美桜
  ●入 選・・・・・・上野明子
   ※岩谷賞・・・・・・小川恭子


優勝した小川恭子さん。今回は写真がなくて申し訳ありません。m(__)m
画像は昨年2014年の日本音楽コンクール/バイオリン部門/第3予選の日のもの

 つまり、小林さんと吉江さんは得点は同じだったのだろうが、2位2名で3位なしなのか、2位なしで3位2名なのか、審査員の先生方も迷った後が見受けられるようだ。

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10/25(日)東京文化会館まちなかコンサート/田原綾子と仲間たちの弦楽四重奏/日常を彩る音楽の楽しさ

2015年10月25日 15時00分00秒 | クラシックコンサート
東京文化会館主催 まちなかコンサート
芸術の秋、音楽さんぽ(国立科学博物館)


2015年10月25日(日)13:00~ 国立科学博物館・日本館1階中央ホール 入場無料(入館料620円は必要)
ヴィオラ: 田原綾子[第11回東京音楽コンクール弦楽部門第1位および聴衆賞]
ヴァイオリン: 高宮城 凌
ヴァイオリン: 入江真歩
チェロ: 森田啓佑
【曲目】
モーツァルト: アイネ・クライネ・ナハトムジークより第1楽章
久石 譲:『となりのトトロ』から 「となりのトトロ」「風の通り道」
ドヴォルザーク: 弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 作品96「アメリカ」より 第1、2、4楽章

 東京文化会館が主催する「まちなかコンサート」シリーズは、都内の上野を中心とした文化施設を会場に行っている文化事業で。この秋に開催されている「芸術の秋、音楽さんぽ」と銘打った一連のシリーズは、無料で開催されていて観覧は自由。出演者は、「東京音楽コンクール」の入賞者を中心とした若手の演奏家たち。したがって演奏のレベルは本格派なのである。
 今日のコンサートはヴィオラの田原綾子さんが出演するということを知らされていたので、早くからスケジュールに組み込んでおいた。というのもこの時期は例年、「日本音楽コンクール」の本選会が行われるからだ。今日はそのヴァイオリン部門の本選会があるが、幸運なことにそちらは16時から。一方、「まちなかコンサート」は13時からと15時からの2回あり、いずれも30分間の演奏なので、13時から回をゆっくりと聴くことが出来る。初めて聴きに行くシリーズゆえに勝手が分からなかったので、完全自由席の無料コンサートであるから、開演の1時間前くらいには来場者が並んでいるのかなぁ、と思って速めに会場に行ってみた。コンサートは無料でも、会場となる国立科学博物館への入館料620円は必要とのことで、自販機で入館券を買って入る。入口は地下に当たるため階段を登って1階の中央ホールへ急いだ。ホールと言っても各展示室への入口があるロビー・スペースであって、ステージがあるわけでもなく、演奏家用の4脚の椅子と客席用のパイプ椅子が並べられていて・・・・誰もいない。ちょっと拍子抜けして、最前列のセンターを難なく確保した次第であった。今年2015年の5月に開催された東京文化会館・小ホールの「モーニング・コンサート」で田原さんがヴィオラ・リサイタルを行ったときは、平日11時からの500円の自由席で、開演1時間前にはかなりの長い列ができていたので、なかなか予測の難しい上野の文化事業である。

 さて「まちなかコンサート」は、事実上はロビー・コンサートであり、オープンスペースを使用しており、通路は普通に人が歩いていたりおしゃべりしたり、という状態なので、環境音がゴォー、ザワザワ、キャッキャッと聞こえてくる。これは仕方のないことなので、諦めるしかない。まあ、最前列で聴く分には、目の前3メートルくらいの点を扇の要に弦楽四重奏の奏者が並んでいて、直接音を聴くのだから、気にさえしなければ楽しめるはずである。
 国立科学博物館は古い建物で、しかも壁も大理石か何かでできているし、ホールは天井が3階くらいまで吹き抜けになっているので、音はコンサートホールとはまた違った響き方をする。環境音のない状態で聴けば、結構良い響きがありそうだ。
 今日の主役は「第11回東京音楽コンクール弦楽部門第1位および聴衆賞」受賞の田原さんであるが、さすがにヴィオラのソロではマニアックな世界になりすぎるからか、今日は弦楽四重奏での演奏会となった。集まったメンバーも錚々たるもので、ヴァイオリンの高宮城 凌さんは「第12回東京音楽コンクール」入選、入江真歩さんは「CHANEL Pigmalion Days 2015」アーティストに選ばれているし、チェロの森田啓佑さんは「第83回日本音楽コンクール」第1位および聴衆賞受賞といった具合。いずれも桐朋学園大学のお仲間であり、レベルの高いアンサンブルが聴かれそうである。


左から、森田啓佑さん(Vc)、高宮城 凌さん(Vn)、入江真歩さん(Vn)、田原綾子さん(Va)。

 1曲日目はモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」より第1楽章。誰でも知っている名曲なので、聴きに来た人たちも真剣に聴き入っている。目の前3メートルくらいのところ、目の高さから聞こえてくる音色はなかなかリアルである。第1ヴァイオリンの高宮城さんが立ち上がりのキリッとした音色でメリハリを効かせてくると、チェロの森田さんが右側から豊かな低音で応える。内声部を受け持つ第2ヴァイオリンの入江さんと田原さんのヴィオラは中間の音域を厚く膨らませる。時折、ヴィオラがズイっと出てくるところがあったりして、いかにも田原さんらしい。

 2曲目はぐっとイメージを変えて、久石 譲さんの『となりのトトロ』から「となりのトトロ」「風の通り道」。コンサートの趣旨として、子供たちも聴きにくるということを想定してのプログラムだ。「となりのトトロ」はピツィカートから始まり、例の親しみやすい旋律がとても楽しい。弾むような、ウキウキするようなリズム感に乗せられて、明るい音色の弦楽四重奏が豊かに響いた。「風の通り道」ではチェロが低層部をしっかりと支え、ヴァイオリンが風をそよがせる。田原さんがヴィオラならではの温もりのある音色で主旋律を歌わせる。

 メインの曲は、ドヴォルザークの「弦楽四重奏曲 第12番「アメリカ」より 第1、2、4楽章。時間の関係で第3楽章のスケルツォが割愛されたのが惜しいところ。第1楽章はソナタ形式で、第1主題がヴィオラから始まる。やや力感を込めた厚みのある音で、ヴァイオリンやチェロを引っ張って行くイメージ。民俗調の主題もアメリカ時代のドヴォルザークを反映している。第2主題は郷愁を誘う旋律がヴァイオリンで語るように描かれて行く。田原さんのヴィオラの陽性の音色が郷愁に満ちた音楽を暗く沈ませないで明るく盛り立てるようで、なかなかイイ感じである。第2楽章は緩徐楽章。ヴァイオリンからチェロに受け継がれる主題は哀しげで感傷的。第1ヴァイオリン(入江さん)がすすり泣くような旋律を切々と歌うと、第2ヴァイオリンとヴィオラがやや強めに厚く内声部を押してくる。悲しみ堪えて後ろから支えていますよ、といったイメージだ。第4楽章はドヴォルザークが好きだったという鉄道(当然蒸気機関車だ)が野を越え山越え走るイメージのロンド。ウキウキするような主題はヴァイオリンが軽快に飛ばし、機関車風のリズムを快活に刻むのはヴィオラとチェロ。弾むようなリズム感が旅の高揚感をうまく描き出していた。
 4名の演奏は、ダイナミックレンジも広く、繊細な弱音(環境音が大きかったのが残念!)から強奏時の豊かな音量まで、均質で精度の高いアンサンブルを聴かせてくれた。また、何よりも素晴らしいのは、田原さんを中心に実に楽しそうに演奏していることだ。ある意味で音楽の本質である「聴く人を楽しませる」ことが伝わって来るのである。聴いている方も幸せな気分になってくると、1時間も待った甲斐があったものだと納得できた演奏であった。

 終演後には田原さんともお話しすることができた。いつものように記念撮影。たった30分だったけれど、ほのぼのとした雰囲気の良いコンサートであった。



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