Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/30(水)読響定期演奏会/河村尚子を迎えてバーンスタインの「不安の時代」とヴォルコフのショスタコーヴィチ交響曲第5番

2018年05月30日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団 第578回 定期演奏会

2018年5月30日(水)19:00〜 サントリーホール S席 1階 3列 22番
指 揮:イラン・ヴォルコフ
ピアノ:河村 尚子
【曲目】
プロコフィエフ:アメリカ序曲 変ロ長調 作品42
バーンスタイン:交響曲 第2番「不安の時代」
ショスタコーヴィチ:交響曲 第5番 ニ短調 作品47

 読売日本交響楽団の「第578回 定期演奏会」を聴く。実は「定期演奏会」シリーズは会員になっていないのだが、バーンスタインの「交響曲 第2番『不安の時代』」に、ちょっとした好奇心が湧いたので、友人のSさんから会員チケットを譲っていただいた。だからいつもと同じように、3列目のセンターである。
 とはいったものの、この日のコンサートは何だかよく分からない印象で終わってしまった。ピンと来ない感じである。指揮者のイラン・ヴォルコフさんを聴くのも初めてだが、読響との相性が今ひとつ、というよりは関係性がまだ構築されていないうちに本番になってしまったといったところではないだろうか。
 肝心のお目当てにしていた「不安の時代」では、独奏ピアノを蓋を外して縦方向に置き、客演の河村尚子さんは指揮者と向き合う位置で演奏した。蓋(反響板)のないピアノの音はサントリーホールの大きな空間の中に音を拡散させてしまい、3列目で聴いているのに音量がかなりちいさくしか聞こえない。だから「何だかよく分からない」ことになってしまったのか。
 後半のショスタコーヴィチの「交響曲 第5番」も、どこかモヤモヤして説得力がないという感じ。「何だかよく分からない」まま終わってしまった。

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5/25(金)城戸かれん/ヴァイオリン・リサイタル/艶やかで美しい音色の端正な演奏に秘められた熱情を感じる

2018年05月25日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
城戸かれん ヴァイオリン・リサイタル

2018年5月25日(金)19:00〜 浜離宮朝日ホール 指定 1階 1列 15番 3,000円
ヴァイオリン:城戸かれん
ピアノ:江口 玲
【曲目】
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78「雨の歌」
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト短調 BWV1001
パガニーニ:ロッシーニの歌劇『タンクレディ』のアリア「こんなに胸騒ぎが」による変奏曲 作品13
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18
《アンコール》
 パガニーニ:カンタービレ
 ヴィエニアフスキ:華麗なるポロネーズ 第1番
 ブラームス/ハイフェッツ編:瞑想曲

 ヴァイオリンの城戸かれんさんのリサイタルを聴く。城戸さんは以前から名前は存じ上げていたし、コンクールでの本選会での協奏曲の演奏をはじめ、室内楽のコンサートやサロン・コンサートなどで室内楽の演奏は何度も聴いているが、まとまったカタチでのリサイタルを聴くのは今回が初めてであった。使用楽器は、財団法人ITOHより貸与されている1779年製のJ.B.グァダニーニである。
 ピアノの共演はお馴染みの江口 玲さん。万全のサポートを聴かせてくれた。こちらの使用楽器は浜離宮朝日ホールに備え付けのスタインウェイではなく、かのホロヴィッツが称賛したという1887年製のニューヨーク・スタインウェイ、通称「ローズウッド」。現代のピアノの原型が出来上がった時代のオールド楽器で、やや乾いた感じのアコースティックな音色が素敵だ。江口さんが最近好んで使用している。

 演奏を概観すると、城戸さんのヴァイオリンは一口で言うなら「端正」といったところだろうか。技巧的にも極めて安定していて、むしろ技巧的であることを感じさせない、柔らかい造形で聴いていて心地よい演奏である。グァダニーニの音色は極めて美しく、繊細だ。しかし線が細い感じはなく、艶やかでしっとりしている。良い意味で優等生的な城戸さんの演奏スタイルにはよく合っていて、気品があり、優しげな音楽が歌われている。


終演後のホワイエにて

 ブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ第1番」は、全体的にしっとりとした落ち着きのある演奏で、決して個性を強く押し出すことなく、優しくほのぼのとした優しさを感じさせた。
 バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番」は、ピアノがない分だけ解放された抒情性を感じさせる。音色も美しい。
 パガニーニの「ロッシーニの歌劇『タンクレディ』のアリア「こんなに胸騒ぎが」による変奏曲」は、イタリア・オペラのアリアが主題だけに、旋律の歌わせ方は歌謡的で、それを超絶技巧の装飾が彩る。優しげでしっとりと艶やかな音色が演奏される超絶技巧のパッセージは流れるようにお見事。さりげない調子で、かなり技巧的である。
 メイン曲のリヒャルト・シュトラウスの「ヴァイオリン・ソナタ」は、瑞々しさが前面に出た演奏になっていた。やはりこの曲は若い演奏家が弾く方が感性が共感して良いと思う。シュトラウスが23歳の時に描かれた作品であり、まさに今の城戸さんと同年代なのである。ここでも基本的には端正で、あまり強く個性を押し出すことはなかったが、シッカリした造形と、艶やかな音色、そして何より弾むような感性で語られる音楽性が素敵だ。江口さんのサポートも万全で、ギリギリのところまで音を出して、城戸さんのヴァイオリンを押し上げていく。グァダニーニと「ローズウッド」の互いを包み込むように溶け込むサウンドも素敵だった。
 アンコールは3曲。パガニーニの「カンタービレ」はギター伴奏の曲なので、現代のピアノよりも「ローズウッド」の柔らかい音の方が合っている。ヴァイオリンがもっとも「歌う」曲。
 ヴィエニアフスキの「華麗なるポロネーズ 第1番」は、華やかなポロネーズだがヴァイオリン曲としては多彩な技巧を求められる。技巧的にも上手いし、様々に変化する表情も豊かな表現力がある。
 最後はブラームス/ハイフェッツ編の「瞑想曲」。コンサートに甘美な余韻を残す素敵な選曲だ。聴きに来て良かったなぁ・・・・と思わせるロマンティックで夢見るような演奏だった。

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5/24(木)フィリア・トーク&コンサート/林真理子、小林沙羅、ジョン・健・ヌッツォ、河野紘子がオペラを語り名曲を歌う

2018年05月24日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
フィリアホール オープン25周年 スペシャル・トーク&コンサート
「かくも愉しき『オペラ』なるもの」


2018年5月24日(木)14:00〜 フィリアホール 指定席 1階 1列 13番 6,000円
作 家:林 真理子 ■
ソプラノ:小林沙羅 ♥
テノール:ジョン・健・ヌッツォ ♠
ピアノ:河野紘子 ♦
ナビゲーター:浦久俊彦 ●
【構成】
第1部:トーク・ステージ ■●
   「林 真理子が語る〜本とオペラのある人生」
第2部:コンサート・ステージ ♥♠♦
   「林真理子がセレクトする〜オペラの名曲たち」
第3部:クロストーク・ステージ ■●♥♠♦
   「オペラに生きる人たちとの対話」
第4部:プレゼント・ステージ ♥♠♦
   「小林沙羅&ジョン・健・ヌッツォが作家に贈るプレゼント曲」
【曲目】
《第2部 コンサート・ステージ》
ビゼー:歌劇『カルメン』より「何を恐れることがありましょう」♥♦
ビゼー:歌劇『カルメン』より「花の歌」♠♦
マスカーニ:歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より 間奏曲 ♦
プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より「冷たき手を」♠♦
プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より「私の名はミミ」♥♦
プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より「愛らしい乙女よ」♥♠♦
《第4部 プレゼント・ステージ》
プッチーニ:歌劇『ジャンに・スキッキ』より「私のお父さん」♥♦
プッチーニ:歌劇『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」♠♦
《アンコール》
 三枝成彰:歌劇『狂おしき真夏の一日』より「太郎とエミコの二重唱」♥♠♦

 横浜市青葉区にあるフィリアホールの主催公演で、トーク&コンサートのシリーズ。今回は開館25周年を記念しての企画で、作家の林 真理子さんを招いて「かくも愉しき『オペラ』なるもの」というタイトルで開催された。林さんはオペラへの造詣も深く、昨年には三枝成彰さんの作曲による新作オペラ『狂おしき真夏の一日』の台本を手がけ、オペラ・デビューも果たしている。今日はその作品の上演に参加した、ソプラノの小林沙羅さんとテノールのジョン・健・ヌッツォさんがコンサートの部に登場するとのことで聞き逃せないと思い、平日の午後だったが無理をして参加することにした。ピアノはお馴染みの河野紘子さんである。

 トーク&コンサートの構成は、前半が、ナビゲーターの浦久俊彦と林さんのお話に続いて、林さんが選んだオペラの名曲(う・・・あまりにも名曲過ぎる?)を沙羅さんとヌッツォさんが歌ってくれた。後半は、河野さんを含めて全員でのトーク・セッション、そしてまたまた名アリアを今度は林さんにプレゼントするというカタチで歌った。
 アンコールは、林さんが台本を書いたオペラ『狂おしき真夏の一日』より「太郎とエミコの二重唱」。オペラで歌った当人達によるピアノ伴奏の二重唱は、まさに今日ここでしか聴くことのできない、たいへん貴重なものである。

 前後してしまうが、沙羅さんのミミは初めて聴くものであった。『ラ・ボエーム』からは「ムゼッタのワルツ」は何度も聴いているが、ミミを聴いた記憶がない。あとでご本人に確認したところ、やはりミミはこれまで封印していたらしい。藝大の入試の課題曲だった時に歌って以来、ご自身の声質からも、あるいは歌唱力の面からもかなり難しい曲なのだそうだ。最近になって、やっと歌えるようになったと判断したようで、名アリア「私の名はミミ」を沙羅さんが歌うのを初めて聴いたという次第。もちろん、とても素敵な歌唱であり、これはやはりオペラの本舞台で、是非聴きたいものである。登場人物キャラクタとしては、間違いなくミミは沙羅さんに合っていると思う。

 ヌッツォさんは、これまでオペラの舞台では何度も聴いていたが、リサイタル形式でしっくりと聴いたのは実は初めてなのであった。今さら改めて言うのもナンだが、ヌッツォさん、上手い! 甘〜い声質で語りかけるような調子から、声を張って「誰も寝てはならぬ」まで、何て素晴らしいことか。一瞬にして「場」を作りだしてしまう圧倒的な存在感は、見事としか言いようがなかった。



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5/20(日)木嶋真優&横山幸雄デュオ/千葉/優美なヴァイオリンへと進化を遂げる木嶋と俊敏で明晰な横山のピアノ

2018年05月20日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
Premium Classic Series Vol.31
木嶋真優&横山幸雄 デュオ・リサイタル


2018年5月20日(日)14:00〜 千葉県文化会館・大ホール S席 1階 2列 24番 3,000円
ヴァイオリン:木嶋真優
ピアノ:横山幸雄
【曲目】
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 作品137-2 D.385
シューベルト:4つの即興曲 作品90 D.899 より 第3番 変ト長調(ピアノ・ソロ)
シューベルト:4つの即興曲 作品90 D.899 より 第4番 変イ長調(ピアノ・ソロ)
ショパン:バラード 第1番 ト短調 作品23(ピアノ・ソロ)
リスト:「リゴレット」による演奏会用パラフレーズ S.434/R.267(ピアノ・ソロ)
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78「雨の歌」
ブラームス:F.A.E.ソナタ より第3楽章「スケルツォ」
《アンコール》
 シューマン:3つロマンス 作品94 より第2番

 千葉県文化会館で年に3回開催される「Premium Classic Series」の公演で、今年度(2018/2019シーズン)の第1回は、ヴァイオリンの木嶋真優さんとピアノの横山幸雄さんによるデュオ・リサイタル。

 木嶋さんの演奏は、迷いが吹っ切れたような落ち着きのあるものになったというのが、最近の印象だ。純粋に美しく透明感のある音色が素敵だ。もとより技巧的にはトップクラスの人だし、表現力も深くしなやかだ。しかしそれらよりも精神面の落ち着きを感じる。かつてのような攻撃的というか、主張の強い演奏ではなくなり、自然体で、優美で気品があるものになった。つまり、聴いていて心がシンクロするような心地よさがある。緩やかにジワリと伝わって来る音楽で体温が伝わって来るイメージだろうか。そこには穏やかな感動がある。

 前半には横山さんのピアノ・ソロが4曲あった。いずれも彼らしいキリッとした明快な演奏で、筋肉質というか、過度に情に流されないところが魅力だ。

 驚いたことには、あまりにひどかったこのホールのピアノの音がぐっと良くなっていたこと。調律師の方を連れてきていたようで、調律のせいなのか、弾く人が「天才」的に巧いからなのかは分からないが、音がかなりクリアになり、その分和音も重低音も美しく響いている。とはいっても世間一般のスタインウェイから見ればまだまだ状態は良くはない。よみがえらせることができるのなら、本格的なオーバーホールすることが望まれる。

 この響かないホールで、鳴らないビアノとヴァイオリンのデュオは、いささかキツイものがあるようだ。私は2列目の真ん中で聴けるから良いが、後方の席や2階ではどんな音を聴かされているのかと思うと、いささか心配だ。

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5/19(土)田原綾子ヴィオラ・リサイタル/回を重ねる毎に磨きがかかる豊潤なサウンドがしなやかに歌う

2018年05月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
Sound Mariage III 2018
田原綾子ヴィオラ・リサイタル


2018年5月19日(土)19:00〜 南麻布セントレホール 自由席 1列中央 3,000円
ヴィオラ:田原綾子
ピアノ:原嶋 唯
【曲目】
シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D.821(ヴィオラとピアノ版)
ブリテン:無伴奏チェロ組曲 第2番 作品80 より「シャコンヌ」(ヴィオラ版)
シューマン:アダージョとアレグロ 作品70(ヴィオラとピアノ版)
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 BWV1001より「フーガ」(ヴィオラ版)
武満 徹:ア・ストリング・アラウンド・オータム
ブラームス:ヴィオラ・ソナタ 第1番 ヘ短調 作品120-1
《アンコール》
 西村 朗:無伴奏ヴィオラ・ソナタ 第2番「C線のマントラ」
 山田耕筰/森 円花編:からたちの花

 パリに留学しているヴィオラの田原綾子さんが、一時帰国してリサイタルを開くというので、聴きに行った。数日前に帰国したばかりというのに、上記のような重量級のプログラムの本格的なリサイタルをサラリとこなしてしまうあたり、場数を踏んだ演奏家として芯の通ったところのある田原さんである。今回のリサイタルは日程だけ確保していたもので、曲目などの内容はほとんど知らなかった。だから1時間くらいのコンサートかなと思っていたのだが、来てプログラムを見たら、休憩ありで2時間コースというフルサイズのリサイタルだったので驚いた。実にバイタリティ溢れる演奏家へと成長している。

 もっとも、いつも言っていることだが、ヴィオラの場合は一般的に演奏される曲が少ない。プログラムは毎回工夫して変えてはいるが、やはり過去に既に聴いている曲が多くなってしまう。今回はブリテンの「シャコンヌ」とバッハの「フーガ」が田原さんの演奏としては初めて聴く曲となった。ヴィオラの場合は曲が少ないだけでなく、演奏機会自体も少ないので共演するピアニストにも負担がかかることになる。その点、田原さんには盟友の原嶋 唯さんという優れた仲間がいて、毎回素晴らしいサポートをしてくれる。こうした環境も手伝って、マイナーなヴィオラでも(失礼)頻繁にリサイタルを開くことができるのであろう。単純なことだが、本番の演奏機会が多ければ多いほど、経験が豊富になり、心技体ともに向上していくことも確か。聴くたびに上手くなっていく田原さんをこの4〜5年見てきたから、聴く側にとっても毎回が楽しみになるのである。


 今回の会場は「南麻布セントレホール」というところで、私もお伺いするのは初めてである。東京メトロ日比谷線の広尾駅から徒歩7〜8分。小さなビルの4階をワンフロア使っていて、三角形に近い変形のスペースに約80席を設けることができるサロンである。天井はやや高めに取っているため、ビルの1室という圧迫感のあるスペースではない。空席時にはかなり音が大きく響いていたが、満席になると適度に音が吸収されて、残響が少なくなった分だけスッキリして聴きやすい音響になった。この規模のサロンとしてはむしろ音響は良い方になると思う。ただし完全防音ではないので、外の往来の騒音が入ってきてしまうのと、空調の音もけっこう大きかったのが難点ではあった。しかし、救急車のサイレンが遠くから微かに聞こえたりするコンサートというのも、ある意味で暮らしに密着した音楽を感じることができて、たまには良いものである。

 1曲目は、シューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D.821」。ヴィオラで演奏するという点では定番になっている曲だが、一度で良いから、「アルペジョーネ」という楽器で聴いてみたい。歌曲王シューベルトに相応しい、息の長い歌謡的な旋律がとても親しみやすく、一度聴くだけで覚えてしまうようなところがある。人の声に最も近い音域と言われるヴィオラで演奏すれば、その歌謡的な旋律が人肌感覚で伝わってくる、とても素敵な曲だ。最近聴く機会が増えたせいか、すっかり好きになってしまった。
 田原さんの演奏は、一段と安定感が増してきたのと、さらに伸びやかに「歌う」ようになってきた。哀愁を帯びた第1楽章では感情の起伏が息遣いのように表れ、抒情的な第2楽章は緩やかな心情表現が細やかに歌われる。第3楽章は器楽的な表現に安定した技巧を見せる。さりげないフレージングも実に音楽的で素敵だ。

 2曲目は、ブリテンの「無伴奏チェロ組曲 第2番 作品80」より「シャコンヌ」。もちろんヴィオラで演奏するということは1オクターヴ高いということになる。今回初めて聴くことになった。チェロとヴィオラではまったく印象が異なり、低音部がない(少ない)のと、ホールの残響が少ないため、全体がどうしても高音域で浮ついて聞こえてしまうような印象になる。極めて技巧的で器楽的な曲でもあるため、ヴィオラで弾く場合にはその歌謡的な特性があまり表れないようだ。また、半音階的な進行時は音程が取りにくい曲のようだった。

 3曲目は、シューマンの「アダージョとアレグロ 作品70」。まさに「これこそがロマン派」といえるような、しっとりとした情感が描かれる曲で、この曲のヴィオラでの演奏もすっかりお馴染みになってしまった。「アダージョ」部分では、美しい旋律がヴィオラで歌われると、まさにアルトの歌手が歌うような風情が感じられる。「アレグロ」部分では器楽的な曲相が、躍動感と生命力をもって弾む。いずれの部分にも表れる、ロマン派らしい自由な感情の発露。田原さんの演奏は、細やかなニュアンスで情感豊かに、感情の起伏が大きく豊かに描かれる。その感性は瑞々しく、若い生命力に満ちている感じがして、聴いていてもすがすがしい気分になるほどロマンティックな演奏であった。

 後半の1曲目は、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 BWV1001」より「フーガ」をヴィオラ独奏で。ヴァイオリンと同じ運指で、つまり5度低く移調しての演奏である。4弦で多声的なフーガを構成するのはなかなか技巧的ということなのだが、5度低いヴィオラだと通奏低音が豊かに響き、音楽にも深みが増す。その代わりに、高音域が中音域に下がってくるので華やかさがなくなってくる。その雰囲気の違いがおもしろい。ヴァイオリンとヴィオラでは演奏技法に若干の違いがあるのか、弾きにくそうに聞こえる部分もあるようだった。

 続いて、武満 徹の「ア・ストリング・アラウンド・オータム」。1989年のフランス革命200周年記念の委嘱作品として作曲されたもので、今井信子さんのために書かれた。本来はヴィオラとオーケストラのための曲である。この頃の武満さんの作品は、瑞々しくロマンティックな情感を湛えていて、とても美しい。調性を超えた不協和な和声でピアノが自然界の音を紡いでいくと、そこにヴィオラが一陣の風のようにそよりと吹いてくる。ピアノが森の木や岩肌など動かないものだとすれば、ヴィオラは風。田原さんの演奏の暖色系の音色は風の温度から涼しさよりも温かさを感じさせる。極度に抽象化されているはずの武満さんの音楽なのに、聴いていると自然の風景が目に浮かんでくる。演奏が上手ければ、より映像にリアリティが増すような感覚であろうか。

 最後は、ブラームスの「ヴィオラ・ソナタ 第1番 ヘ短調 作品120-1」。しっかりとした造形を持つロマン派のヴィオラ・ソナタとしては、数少ない名作のひとつ。晩年の作だけあって、枯淡の境地というか、実に渋い曲である。ヴァイオリンでも使い方によっては哀愁を帯びた表現ができるが、ヴィオラだと哀愁に年輪が加わって、中高年の哀歌といったイメージか。まあ、あまり若い演奏家に向いている曲だとも思えないが、田原さんの演奏は、自身の若さをよく抑えて、控え目のロマンティシズムをうまく表現している。
 第1楽章は、秘めたる思いを胸の奥に隠し、淡々とした表現の中に、熱いモノを滲ませる。優しさに包まれた諦念とそれを否定する憧れとの葛藤、といったところか。第2楽章の方が豊かな抒情性を表し、素直な情感の表現で、ヴィオラがしっとりと歌っていた。第3楽章はスケルツォに相当するものの、そこには迸るような躍動感も皮肉っぽい諧謔性もなく、飾らず思いのままの情感が自然体で表れている。第4楽章はロンドで、構造的にも主題も器楽的な様相の曲だ。3楽章まで押さえていた感情を解き放つように快活な音楽だ。田原さんの演奏は、やはりこういう明るい曲想の方が似合っているとは思う。立ち上がりがキリッとした明瞭なフレージングと暖色系の音色が、生命の息吹のようなものを感じさせる。素敵な演奏だ。

 アンコールは2曲用意されていた。
 まずは、西村 朗さんの「無伴奏ヴィオラ・ソナタ 第2番『C線のマントラ』」。ほとんど大部分をC線(一番低い弦)だけで弾くようになっているヴィオラの独奏曲である。鋭いタッチとC線特有のビリビリした振動が独特の雰囲気を創り出す。演奏を聴くのは何度目になるだろうか。前回聴いたときよりも一段と鋭さが増し、同時に伸びやかさや自由度の高さも感じさせ、音楽表現と音色がかなり奥行きが深くなってきていると思う。現代音楽とヴィオラという楽器は妙に親和性が高いような気がするから不思議だ。

 最後は田原さん恒例の日本の歌曲シリーズ。今回も新作で、山田耕筰の「からたちの花」を盟友の森 円花さんがヴィオラとピアノ版に編曲したものだ。人の声域にもっとも近いと言われるヴィオラだからこその歌曲であり、旋律楽器であるヴィオラが多彩な音色でヴァリエーションを歌い、ピアノが古風な歌曲に現代的な感性を吹き込み、センスの良い和声で彩る。田原さんの温かみのあるヴィオラ、原嶋さんの透明感のあるピアノ、そして才気活発な森さんの編曲(作曲)。3人が創り出す独特な世界観は、日本人の優しさを象徴しているようだ。


 さて今回のリサイタルは、なかなか重量級のプログラムで、それなりに負担も大きかったとは思うが、こうしたリサイタルを確実に成功させ、また次なるステップへ駒を進めていくことになるのだろう。田原さんのヴィオラは、聴く度に上手くなっている。パリに留学してからはとくに演奏自体や音色に豊かさが増してきたような気がする。十代の頃はもっと尖っていたが、今は角が取れて来たというよりは、大きく膨らんできたというべきだろう。ヴィオラは人の声と同じ音域なので、ヴィオラは豊かに響くようになると聴く者とシンクロを起こす。今日もいつものように最前列の目の前で聴いていたということもあるが、ヴィオラの音が身体に直接語りかけてくるような感覚が実に心地よいのだ。ヴァイオリンがシンクロすると気分が高揚してくる感じになるが、ヴィオラだと落ち着いた気分になるのである。そこがヴィオラの魅力だと思う。

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