Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/9(土)都響プロムナード/初めて聴く川久保賜紀のシベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」と小泉和裕のチャイコフスキー「冬の日の幻想」

2019年02月09日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東京都交響楽団 プロムナードコンサート No.381

2019年2月9日(土)14:00〜 サントリーホール S席 1階 1列 17番 4,550円(会員割引)
指 揮:小泉和裕
ヴァイオリン:川久保賜紀*
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:四方恭子
【曲目】
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
チャイコフスキー:交響曲 第1番 ト短調 作品13「冬の日の幻想」

 朝、起きたら雪が降っていて、うっすらと積もり始めていた・・・・なんと今日のコンサートに相応しいのだろう。東京都交響楽団の「プロムナードコンサート No.381」は「冬景色に思いを馳せる名曲」と題して(公演チラシのキャッチコピー)、シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」 とチャイコフスキーの「交響曲 第1番『冬の日の幻想』」というシンプルなプログラムである。結果的にはアンコールもなかったので、本当にこの2曲だけだった。
 交通機関のダイヤが乱れることも想定して午前11時過ぎには家を出て、雪の中、クルマも自転車も使えないのでバスで駅に向かう。何のことはない、電車は普通に動いていたので一安心。高架線の車窓から見る家々の屋根が白くなっていて、東京では滅多に見られない「冬景色に思いを馳せ」ながら「冬の日の幻想」的な景色を眺めつつ・・・・うぅ、寒そう。

 私はほとんどの在京オーケストラについて何らかの定期会員になっているが、どういうわけか都響とは接点が持てないままになっている。つまり普段から定期的に聴くことがないのだが、今回は「プロムナードコンサート」にヴァイオリンの川久保賜紀さんがゲストとして参加し、シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」を弾くというので、1年半前に今期のスケジュールが発表になった時点から、チケット確保のためにあの手この手を駆使して頑張った。結果的には会員さんの持つ最前列の席を入手することができたので、大変恵まれた環境で聴くことができるようになった次第である。
 なぜそれほどまで聴きたかったのかというと、賜紀さんのシベリウスを聴いたことがなかったからだ。十数年にわたって賜紀さんの出演する東京近郊でのコンサートはほとんど聴きに行っているつもりだが、その中にシベリウスはなかった。終演後にご本人に訊いてみたところ、10年くらい前に一度演奏しているとのこと。私にはまったく記憶になかったが、調べてみると、2008年10月4日に横浜みなとみらいホールで、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の来日公演で演奏していた(指揮はクリスチャン・ヤルヴィさん)。今となっては何故そのコンサートの記憶がないのか、聴きに行かなかったのかは分からない。恐らく何か重要なイベントがあって、初めからスケジュールに入れられなかったのだろう。
 それはさておき、三大ヴァイオリン協奏曲に数えられるチャイコフスキー、メンデルスゾーン、シベリウスの協奏曲は、超人気曲でもあるし、また必ず音楽コンクールの課題曲にもなるから、それぞれ年に5回以上は聴いていると思う。賜紀さんの演奏でも、チャイコフスキーやメンデルスゾーンは何回聴いたか分からないくらい。しかし不思議とシベリウスがない。賜紀さんのクラスのトップ・アーティストには珍しいことのように思えるのだが、かえってオファーする側が、チャイコフスキー国際音楽コンクールの最高位に輝いたことや、ドイツに活動拠点を置いていたことなどから、オーダーする曲目を絞り込みすぎてしまっていたのかもしれない。
 いずれにしても、私にとっては初めて聴くことになる賜紀さんのシベリウス。単純に楽しみにしているなどと言ってはいられない。聴く方も緊張しそうである。

 さて、前置きが長くなってしまったのでそろそろ本題に。シベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」についてレビューしよう。

 結論から先に言ってしまうと、賜紀さんの演奏は豊かな情感によって描かれる大人の音楽。ひとつひとつの音符やフレーズにも歌心が溢れていて、繊細で優美、質感の高い音色とともに、いつものようなエレガントさと、協奏曲ならではの強めの押し出しによって、「川久保賜紀ワールド」を創り出している。もちろんシベリウスの世界観がリアルに描かれていたことも確かで、まさに「冬景色に思いを馳せる」ような凜とした空気感と、氷に閉ざされた大地の底では熱いマグマが煮えたぎっているような世界観が見事に表現されていた。
 しかし、そのようなシベリウスの世界観を前面に押し出していたかというと、そうでもない。というよりは、自然に賜紀さんの音楽的な個性が表面に出て来ていて、そういった意味では個性的な演奏になっていたともいえる。つまりソリストとしての自我が確立しているということだろう。
 20代くらいの若手のヴァイオリニストの演奏を聴いていると、誰もが似たような解釈・表現の演奏をしていて、コンクールなどではその範囲内で優劣を競っている。つまり師匠の教えを伝統的に継承しているのだろう。しかし、賜紀さんのクラスになると、ご自身の個性が音楽を創り出して来るので、聴き慣れた演奏とは異なった部分が飛び出して来たりして、かえって新鮮さを感じたりもする。

 実際の印象でいくと、小泉和裕さんの指揮する都響側はしっかりとシベリウスの世界観を忠実に、重厚かつダイナミックに描いていたのに対して、その上に乗る賜紀さんのヴァイオリンは自由度が高く、半分くらいはご自身の世界観が表れていたように感じた。そうなると、テンポを自在に操り、フレージングを大胆に、もっと旋律を歌わせようとするので、ヴァイオリンがオーケストラと合わなくなるところもある。小泉さんのオーケストラ・ドライブはやや剛直なスタイルだということもあるから尚更である。しかし、それはそれで協奏曲の魅力でもあるのだ。お互いがお見合いをしてアンサンブルをまとめてしまうと、演奏としては完成度が高くなるが、インパクトやテンションが希薄になってしまう。後は好みの問題になると思うが、私は、場の緊迫した空気感が伝わってくる今日のような演奏の方が面白いと思う。

 第1楽章では、やや緊張気味だったのか、冒頭から丁寧に弾いている感じで、一旦オーケストラだけの部分を過ぎた辺りから、テンポに独特の節回しが表れてい来て、旋律がしなやかに歌い出す。カデンツァは技巧を披露するようなタイプのものでなく、あたかも無伴奏ソナタ(イザイのような?)のような、情感と質感たっぷりの演奏。オーケストラが絡んでくると今度はヒリヒリするような緊張感が生まれてきて、聴いている方も肩が強ばってくる。そんな中でも、賜紀さんのヴァイオリンは、ひとつひとつの音に微妙なニュアンスが込められて、フレージングがしなやかで旋律がよく歌い、豊かな音楽性に彩られているのだ。それが「川久保賜紀ワールド」なのである。
 第2楽章は緩徐楽章。穏やかな中にも情感に起伏があり、決して弾き急がないところに、感情を抑えている雰囲気がよく出ている。感情を爆発させたいのに、堪えて、堪えて・・・・。クライマックスを過ぎた辺りの弱音が切なく、むせび泣くようであった。
 第3楽章は感情を前面に押し出す楽章。テンポをあまり速くは採らずに、主題に情感を乗せていく。音に張りと艶があり、オーケストラに飲み込まれない。小泉さんの引っ張るオーケストラもダイナミックレンジを広く取りかなりシンフォニックに鳴らしていた。パワフルでエネルギッシュな演奏であった。

 十数年にわたって賜紀さんを聴き続けてきて、初めて聴かせていただいたシベリウス。とても魅力的な演奏であった。なかば予想していた通り、誰もが弾くようないかにもシベリウスといった演奏ではなくて、あくまで「川久保賜紀ワールド」であるところの、美しくエレガントな演奏の中に熱い思いを秘めさせる。外は雪が降っているし、「冬景色に思いを馳せる」ような荒涼とした世界を描いているのに、優しくたおやかな人間性に彩られた演奏は、「熱い」というよりは「温かい」情感に満ちていた・・・・と言ったら個人的な思い入れが強すぎるだろうか。

 後半のチャイコフスキーの交響曲「冬の日の幻想」については、ごく簡単に。あまり聴く機会のない曲なので、ナマ演奏を聴くのは何度目だろう・・・というくらい。小泉さんの演奏は、造型がしっかりと構造的で、ダイナミックに都響をドライブしている。ちょっと硬いイメージはあるものの、なかなか素晴らしい演奏だったと思う。
 都響については、私は普段聴いていないので相変わらず特定のイメージを持てないままではあるが、今日の演奏を聴く限り、木管も金管も各パートの質感は高いし、弦楽のアンサンブル能力も高く、比較的パワーもあって、総合力の高いオーケストラだと思った。今後も聴く機会があれば良いのだが・・・・。

 終演後は、都響の場合は楽屋には入れてもらえないようなので、久し振りに地下の楽屋入口で出待ちをして、賜紀さんとお会いした。今日は全音のポケットスコアを持っていたので、初シベリウスの記念にサインをいただいた。時間がなかったようであまりゆっくりとお話しすることは出来なかったのが残念。大急ぎで撮らせていただいた写真は、帰りがけだったために思いっきり私服で、もふもふっぽいコートと乱れた髪が「冬景色に思いを馳せる」感じがよく出ている? 何しろ外は雪だったし・・・・。




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