Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/10(土)日本フィル横浜定期/小林美樹の美麗なコルンゴルトVn協と山田和樹の濃密なラフマニノフ2番

2014年05月13日 01時30分41秒 | クラシックコンサート
日本フィルハーモニー交響楽団 第297回横浜定期演奏会

2014年5月10日(土)18:00~ 横浜みなとみらいホール A席 1階 2列 23番 3,800円
指 揮: 山田和樹
ヴァイオリン: 小林美樹
管弦楽: 日本フィルハーモニー交響楽団
ゲストコンサートマスター: 白井 圭
【曲目】
コルンゴルト: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
ラフマニノフ: 交響曲 第2番 ホ短調 作品27

 日本フィルハーモニー交響楽団の横浜定期演奏会を聴く。本日の午後は文京シビックホールで東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートを聴き、カーテンコールの最中に抜け出して、後楽園駅からみなとみらい駅までおよそ60分かけて移動してきた。結果的には余裕を持って到着することができたが、ホールのロビーではマエストロ山田和樹さんご自身によるプレトークがすでに始まっていた。4月25日の日本フィルの東京定期演奏会の時も、時間をオーバーして楽曲の説明を楽しく聞かせてくれていた。けっこう話し出すと止まらなくなるタイプらしく、軽妙な語り口で、プログラムノートには載っていない音楽家の本音の部分をポロッとこぼしたりして面白い。今日は人垣が幾重にもできていたのでよく聞こえなかったのが残念。もれ聞こえたのは、ラフマニノフの交響曲第2番に関して、長い曲なのでしばしば部分的にカットされて演奏されることがあるが、今日はノーカットで演奏する・・・・というようなことを語っていたようだったが、定かではない。どなたかプレトークをきちんと聞いた方がおられたらご教示いただきたく思います。
 今日のゲストソリストはヴァイオリンの小林美樹さん。昨年2013年末にあった姉の小林有沙さんとのデュオ・リサイタルの際、若干の知遇を得たので、5ヶ月近く間をおいてしまったが、演奏を聴けるのを楽しみにしていたものである。今回は堂々の日本フィルとの共演。そして曲目はコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲という、ちょっと異質な選曲だ。山田さんの尖らない音楽作りには合う曲だと思えるので、興味津々と行ったところであった。
 また、コンサートマスターがいつもの日本フィルの人ではなく、どこかで観たことがある人だなァと思ってプログラムで確認したら、ソリストとして活躍している白井 圭さんであった。ゲストに呼ばれた経緯は不明だが、ラフマニノフの交響曲にはヴァイオリンのソロもあるし、聴く方としてはちょっと得した気分だ。

 さてプログラムの前半はコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲。実際はこの日のために定期会員になってひとつだけ残っていた2列目の席を確保したのだが、センターブロックでも右寄りの方なので、ちょっと角度が付いてしまうが、ソリストは遮るものなく見える位置ではあった。登場した美樹さんは、大柄なので舞台映えがして素敵だ。
 ご存じのように、コルンゴルトはウィーン次代にはリヒャルト・シュトラウスの次代を担うオペラ作曲家として絶賛され、ナチスの脅威から逃れてアメリカに亡命してからはハリウッドでの映画音楽作曲家として賞賛を浴びアカデミー賞も受賞している。
 近年、再評価が活発となり、今年は偶然にも3月に、びわ湖ホールと新国立劇場で、オペラの代表作『死の都』がたてつづけに上演された。今日演奏されるヴァイオリン協奏曲も、コルンゴルトの作品の中でも最もよく知られた曲で演奏される機会も多い。これも偶然だろうか、同じ今年の3月に、読売日本交響楽団の「東京芸術劇場マチネー」と「横浜みなとみらいホリデー名曲」でパク・へユンさんがソリストを務めて演奏されたばかりである。他にも2012年2月には、東京交響楽団の「定期演奏会」で神尾真由子さんが演奏したのを聴いた。オーケストラのコンサートで、あるいはソロ・ヴァイオリニストのレパートリーとして、普通に採り上げられる曲になっているのだ。
 そしてこれもよく知られていることだが、このヴァイオリン協奏曲(1947年初演)の各楽章に登場する主題は、ほとんどがコルンゴルト自身が作った1930年代の複数の映画音楽作品の中から転用されたものだ。当時のハリウッド映画の音楽に、このような20世紀初頭風の濃密なロマン主義的な音楽が浸透していたことがよく分かる。
 さて今日の演奏もなかなか魅力的なものだった。美樹さんの演奏は、全体的には音量がやや不足気味に感じられたが、2列目の右寄りで聴いていてのことなので、後方席や2階ではどうだっただろうか。あるいは遠鳴りしていたのかもしれないが、その辺は不明である。逆に音質は極めて繊細でとても美しく聞こえた。もとより、この「映画音楽」的にロマンティックな曲だけに、甘美な音色がよく似合っていた。協奏曲の演奏としては物足りなさが感じられないでもないが、音楽自体の主張があまり強くないので、美しさを求めたような演奏もありかな、と思った。また山田さんの指揮も、角のない柔らかさと濃厚な色彩感を描き出していて、やはの方向性としてそういう音楽作りを目指していたのだろう。ちなみにオーケストラの配置もちょっと変わっていて、第1ヴァイオリンと第2の間の通路にハープが、指揮者の真正面にチェレスタが配置されていたが、これああまり効果を上げていたとは言えないような気がする(よく聞こえなかった)。
 第1楽章は、ソロ・ヴァイオリンがいきなり主題を弾き出す。その音色は艶やかで潤いがある。主題がオーケストラに広がり、ヴァイオリンがカデンツァ風に絡みついていくと音程が部分的にはずれたように聞こえたりするが、これは原曲がそうなっているから。よく聴けば、美樹さんの音程は正確で、かなり精緻に弾いている印象だ。再現部前のカデンツァもそれほど押し出しは強くなく、全体に甘美な曲想に沿った演奏だったと言えそうだ。オーケストラ側も柔らかい音色を保ち、とくにホルンが素晴らしい味を出していた。
 第2楽章は緩徐楽章に相当し、ソロ・ヴァイオリンがいよいよ切なくすすり泣くように歌う。高音部を多用した息の長い主題が続いていく。この辺りは、ハリウッドの戦前によくある白黒映画のメロドラマを彷彿とさせる。やはりご本家という感じだ。このような甘美な主題は、確かに戦後の作品としてはあまりにも20世紀初頭の後期ロマン派に近すぎる。それにしても、美樹さんのヴァイオリンは意外と違和感なく、この古めかしい音楽に溶け込んでいる。
 第3楽章は、躍動的な曲想に絡みつくソロ・ヴァイオリンの装飾的な速いパッセージが、ヴァイオリン協奏曲らしい技巧的な部分を見せる。ロンド・ソナタ形式の第2主題に相当するロマンティックな旋律が印象的にヴァイオリンで演奏され、この主題が形を変えてオーケストラに展開していく。ヴァイオリンの技巧的な部分も目まぐるしいが、やはり主題を弾く時にレガートが急に美しくなり、鮮やかな音色の変化が素敵だった。コーダは駆け巡るようにテンポを上げ、ここは協奏曲風のフィナーレとなる。最後のホルンの咆哮も素晴らしい。

 後半は、ラフマニノフの交響曲第2番。結果的には演奏時間も1時間を超えていたので、ノーカット全曲版での演奏だったようだ。日本フィルによるラフマニノフの交響曲第2番といえば、何といっても2012年3月のアレクサンドル・ラザレフさんの指揮による「東京定期演奏会」での演奏が思い出される。私はその年のBest 3に選んだくらいの素晴らしい演奏であり、後にCD化された。その時(ラザレフさんにだいぶシゴかれたそうだが)の記憶が団員の皆さんに残っていたのだろうか、今日も各パートともに非の打ち所のない演奏を聴かせてくれた。もちろん、山田さんのアプローチはラザレフさんとは違う。ロシア的な土臭さが少ない分だけ音質はより透明感があって美しく、濃厚な抒情性もプラトニックなイメージといったらどうだろう。ラザレフさんの音楽は決して標題的ではなかったとしてもロシアの広漠たる風景が目に浮かぶような感傷があったのに対して、山田さんの音楽は器楽的とまではいかないとしても、より純音楽的な抒情性が感じられたものである。
 第1楽章は、動機をいろいろと含んだ序奏の部分から、山田さんが日本フィルを非常に澄んだ音で鳴らし、早くも質感の高い演奏で、期待感を高まらせていく。コールアングレの牧歌的な旋律が導くソナタ形式の主部は、第1主題は弦楽が厚みのあるアンサンブルを聴かせ、第2主題の抒情的な旋律が美しく流れ出すと、本日のラフマニノフは山田ワールドという感じがしてきた。ふわりとした柔らかさとしなやかさを併せ持つ、落ち着きのあるロマンティシズムである。徐々にクレシェンドしてクライマックスを迎える展開部の緊張感もなかなかのものだ。全合奏の爆発的な音量になっても、濃厚な色彩に濁りはなく、日本フィルの演奏も見事である。
 第2楽章はスケルツォ。A-B-A-C-A-B-Aの複合三部形式だが、今日はカットされることなく演奏された。Bの部分の感傷的な主題が泣かせどころ(聴かせどころ)である。山田さんの指揮は、この聴かせどころを十分に踏まえたもので、テンポを落としてたっぷりと歌わせる。弦楽の澄んだ音色が泣かせる。やはりこの泣かせどころは2回出て来ないと・・・・。カットしてしまったら、もったいない。
 第3楽章は、もうこれ以上はないというくらいに、ロマン主義全開の演奏であった。テンポは遅めで、ゆっくりと、せつせつと主題が歌い出す。弦の響きが殊の外美しい。それを追いかけるクラリネットの空気感がまた素晴らしい。ラフマニノフは何故これほど美しい旋律をつぎつぎと創り出せるのか。たっぷりと歌い、タメて、もったいつけて、タメて・・・・、もう一度主題が出てくる頃には、会場全体がうっとりと聴き惚れているのが分かる。かくも美しい音楽。かくも美しい演奏なのだろう。ある種の無限旋律のように、もう少しで手が届きそうになるが、届かない・・・・そんなもどかしいイメージで盛り上がっていく先に訪れる甘美な主題は、麻薬のように私たちのアタマを痺れさせる。
 第4楽章は、怒濤の勢い。トランペットをはじめ金管楽器が輝かしい音色で主題を展開していく。第2主題はやはり弦楽の美しいアンサンブル、しかも厚みがあって、広がりもある。全楽章に散りばめられた甘美で感傷的な主題の数々。これらが回帰してくると、この交響曲第2番がいかに美しい旋律の宝庫であるかがわかる。終盤のクライマックスは全合奏に加えて打楽器が鳴り出すと、地響きで身体が振動するばかりの爆発的な音圧になり、なかば強引に、無理矢理聴いている人を感動させるかのようである。ただ感傷的・ロマンティックなだけで終わらせないところがラフマニノフの魅力だ。時折、ロシアの野太い精神が顔を覗かせるのである。その辺りの精神性の部分も、山田さんはしなやかに描き分けている。やはり、この人も只者ではない。最後は爆音を轟かせて、堂々のフィナーレであった。
 全曲を通せば1時間を超える長い曲。ラフマニノフ自身が短縮盤を作ったほど、冗長であるといわれればそれまでだ。しかしながら、緊張感を保ったままの演奏であるなら、もともと旋律が美しいだけに、決して飽きることはない。要はダラけた演奏をすると飽きてしまうのである。その意味では、今日の演奏は文句なしにBravo!!であった。

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【お勧めCDのご紹介】
《1》小林美樹さんは協奏曲のライブ録音のCDを2枚リリースしていますが、その内の1枚。ブルッフのヴァイオリン協奏曲を宮本文昭指揮・東京シティフィルハーモニック管弦楽団との共演で。このコンサートは聴きに行きましたので、私としても思い入れがあります。同時に収録されているのはリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタで、ピアノはお姉さんの小林有沙さんです。姉妹の息のあったフレッシュな演奏になっています。

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
小林美樹,R.シュトラウス,ブルッフ,宮本文昭,東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団,松本和将
オクタヴィアレコード


《2》本文でも取り上げた、ラフマニノフの交響曲第2番のライブ録音の決定盤(だと思う)です。これ以上の演奏には滅多に巡り会えるものではありません。まあ、実際にコンサートを聴き、その時の演奏がCD化されたものなので、思い入れが強すぎるとは思いますが・・・・。緻密なアンサンブルと木管・金管のクオリティの高い演奏、そして溢れんばかりのロマンティシズム。その辺の海外のオーケストラより遙かに胸を打つ演奏です。

ラフマニノフ:交響曲第2番&ヴォカリーズ
ラフマニノフ,ラザレフ(アレクサンドル),日本フィルハーモニー交響楽団,扇谷泰朋,伊藤寛隆
オクタヴィアレコード

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