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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/28(日)川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ/浦安音楽ホールでお馴染みの名曲とラヴェルのピアノ三重奏曲を久々に

2019年04月28日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
浦安音楽ホール 2019/2020シーズン オープニング・ガラ・コンサート
ミューズたちが贈る名曲集とピアノ・トリオ


2019年4月28日(日)14:00〜 浦安音楽ホール 指定席 A列 8番 4,000円
ヴァイオリン:川久保賜紀
チェロ:遠藤真理
ピアノ:三浦友理枝
【曲目】
ラヴェル/山田武彦編:亡き王女のためのパヴァーヌ(トリオ)
クライスラー:美しきロスマリン(川久保/三浦)
マスネ:タイスの瞑想曲(川久保/三浦)
ドビュッシー:『ベルガマスク組曲』より「月の光」(三浦)
フォーレ:夢のあとに(遠藤/三浦)
サン=サーンス:白鳥(遠藤/三浦)
ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲 第1番 ハ短調 作品8(トリオ)
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調(トリオ)
《アンコール》
 ショスタコーヴィチ:『2台のヴァイオリンのための5つの小品』より「ワルツ」(トリオ)
 ショスタコーヴィチ:『2台のヴァイオリンのための5つの小品』より「ガヴォット」(トリオ)

 千葉県浦安市にある「浦安音楽ホール」は開館してまる2年ということで、3年目のシーズンのオープニング・ガラとしての位置付けとなるコンサートが開かれた。このホールは席数300の小ホールだが音楽専用であり、またこのサイズのホールとしては座席が階段状で2階席やバルコニー席まである立体的な造りが珍しい。どの席からもステージが見やすく、音響もなかなか良いようだ。JR京葉線の新浦安駅の間近にあるのは良いが、都心からのアクセスを考えると少々来にくい感じもあるが、今後の企画次第では、リサイタルや室内楽の会場として活用の機会が広がっていくと思われる。

 今回のガラ・コンサート、出演はお馴染みのピアノ・トリオだ。ヴァイオリンの川久保賜紀さん、チェロの遠藤真理さん、そしてピアノの三浦友理枝さんのトリオは、2008年に結成されたのでもう10年を過ぎてしまった。公私ともに仲良しの三人が奏でる音楽は、トップ・レベルのソリスト集団ならではの高い音楽性と高度の技巧性を発揮し、緊密なアンサンブルと即興的なヒラメキが適度にブレンドされている。生み出される音楽は創造性に富んでいて、美しくエレガントで、心地よい。

 今日のコンサートでは、トリオが結成した時からメインに取り組んできたラヴェルの「ビアノ三重奏曲」を中心としたトリオの曲と、3人がそれぞれソリストとして演奏する名曲が用意された。
 1曲目はトリオによる演奏で、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。このトリオのために山田武彦さんが編曲したものだ。友理枝さん独特の透明感のあるピアノに、賜紀さんの滑らかなヴァイオリンが乗り、真理さんの陽性の音色のチェロがグンと低音を押し出す。この三人のバランス感覚は絶妙。なんて美しい響きなのだろう。

 続いては、賜紀さんによるヴァイオリンの名曲ということで、クライスラーの「美しきロスマリン」とマスネの「タイスの瞑想曲」が演奏された。「美しきロスマリン」はクライスラーの愛の三部作の中でも賜紀さんのお気に入りらしく、リサイタルなどでしばしば演奏される。本来は男性目線から描かれた美しいウィーン娘ということなのだろうが、賜紀さんが演奏すると、ちょっとはにかんだような娘心が浮かび上がってきて素敵だ。「タイスの瞑想曲」も何度も聴いているが、ヴァイオリニストなら誰でも必ず演奏するこの曲なのに、本当の意味で歌わせるのは意外に難しい。曲自体はオペラの間奏曲なので決して「歌」ではないのだが、器楽的な演奏だと美しい旋律の抒情性が生きて来ない。ひとつひとつの音の間合いに呼吸するような息遣いが感じられないと、旋律が歌わないのだ。賜紀さんの演奏は、ごく自然体で本当に瞑想するような夢見心地のように聞こえてくる。素晴らしい演奏だと思う。

 次は友理枝さんによるピアノのソロ。ドビュッシーの「月の光」だ。私のイメージでは、真冬の夜のキーンと引き締まった空気に差し込む冷たい月の光(関東では冬は晴れが多く空気が乾燥するため澄んでいる)。友理枝さんのピアノは本当に音が澄んでいて極めて綺麗である。微妙な不協和音を含む独特の和声が、透明度の高い空気感を描き出している。

 その次は真理さんの番で、フォーレの「夢のあとに」とサン=サーンスの「白鳥」。どちらもお馴染みの名曲である。真理さんのチェロは、基本的に陽性の音色で、艶やかでしっとりというよりはキラキラと輝いているようなところがある。チェロの音が輝くというのはちょっと変な表現になるかもしれないが、要するにその場を明るく照らすような発揮度があるということだ。この2曲はいずれもゆったりとしたテンポであり、どちらかといえばしっとり系の曲なのだが、真理さんが演奏すると明るく希望に満ちた「夢」のあとであり、白鳥が泳ぐ湖面が陽光を反射しているとでもいおうか。人柄が反映されている素敵な演奏だと思う 。

 前半の最後は再び三人が出揃い、ショスタコーヴィチの「ピアノ三重奏曲 第1番」。16歳の時の作ということで、希望と生命力が感じられる単一楽章の曲である。ハ短調という調性が採用されたことは何やら意味深ではあるが、楽曲自体は、深刻で深い憂鬱と葛藤に包まれている後年の作品に比べれば、希望や憧れを込めた抒情性を残していて、20世紀の前半(1923年)のソ連を考えれば、非常にロマンティックな作品だといえそうだ。演奏の方は、あくまで優美で上品な賜紀さんのヴァイオリンと、明快で自由度の高い真理さんのチェロが表情豊かな掛け合いを繰り返し、友理枝さんのピアノがそれをしっかりと支えている、といったイメージだろうか。


 休憩を挟んで後半は、ラヴェルの「ビアノ三重奏曲」。そもそもトリオ結成時にCD録音のメインとなった曲でもある。10年前にはコンサートで何回も聴く機会があったが、今回は久し振りとなった。曲の構造も難解にできているし、演奏にも高度な技巧性を要求される曲なので、音大生クラスの若手が演奏しているのを聴くと、弾くことに精いっぱいで解釈だとか表現だとかというレベルでないことが多い。しかし今日のトリオは全然違う。やはり10年分の円熟があり、楽曲への理解度の深さと愛着の強さを感じる。三人三様の美しい音色は何者にも替えがたい魅力であり、アンサンブルが溶け合って美しいハーモニーを織り成すかと思えば、一人がすーっと浮き上がってくると他の二人がちょっと控え目になったりする。複雑な構造を辿りながらも、旋律や和声を活かすためにテンポは柔軟に変化させていくし、音量のバランスも一音ずつ変化する。そのような音楽つくりが阿吽の呼吸で出来上がっているのである。久し振りゆえに時折ちょっとした乱れが生じても、一瞬の後に美しさを取り戻す。一流の演奏家同士の信頼と尊敬が生み出す演奏は、聴いていて本当に心地よく、次々と繰り出されてくる音の流れに身を任せているだけで至高の幸福を感じさせてくれた。素敵な演奏だったと思う。

 アンコールは2曲。ショスタコーヴィチの『2台のヴァイオリンのための5つの小品』より「ワルツ」と「ガヴォット」が演奏された。もちろん第2ヴァイオリンのパートはチェロで演奏された。この小品集はとても可愛らしい曲で、ショスタコーヴィチも本来は楽しいことが好きだったのだろうと、その人柄が偲ばれる。

 こうしてコンサートを概観してみると、演奏の方は手堅いものを感じさせるもので、トリオも10年を経過して円熟の域に近づいて来ているのかとも思えた。いずれにしても、聴いていて心地よく、聴く者を共感させる音楽空間を創造していくことのできる素晴らしいトリオであることは間違いない。
 一方で、新しいホールにも若干の不満が残る。音響面のことなのだが、ヴァイオリンとチェロについてはクリアで濁りのない、素直な響き方で良かったが、ピアノの音があたかも霧の中に乱反射しているような漠然とした響き方で、透明度の高い友理枝さんのピアノがボンヤリしたものになってしまっていた。いつものように最前列で聴いていたので、他のホールとはかなり違った響き方であることを実感した次第である。これだと後方席ではどうなるのか。ラヴェルやドビュッシー、そしてショスタコーヴィチなど、不協和音を多く含むピアノの楽曲は要注意かもしれない。

 終演後には恒例のサイン会があった。三人のCDは全部サイン入りで持っているので(しかも複数枚)、今さらサイン会に参加するのも忍びないが、ご挨拶だけはしておこうと列の最後に並び、結局は当日のチラシにサインをいただいた。そしてこれまた恒例の撮影会。美しいミューズたちは本当に絵になる。世間は10連休のゴールデンウィークが始まったところだが、旅行にも行かない私は引きこもっているしかないが、今日のような素晴らしいコンサートを聴くことができれば至高の幸せを感じるのである。


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