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あやしい彼女

2016年04月08日 | 邦画(16年)
 『あやしい彼女』を渋谷シネパレスで見ました。

(1)『ピース オブ ケイク』で好演した多部未華子の主演作ということで、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭は、病院の手術室でしょうか、傷ついた男(注2)がベッドに横たわっています。
 そして、その隣に据えられたベッドに横になっている女(大鳥節子多部未華子)から血液が管を通って流れていきます。

 タイトルが映し出されて、女(瀬山カツ倍賞美津子)が踊りながら商店街を歩く姿が画面で描かれます。
 洋品店の店主に向かって、カツが「この服、去年のじゃないの?」とイチャモンを付けると、店主は怒って「余計なお世話」と言い返します。
 若者とぶつかってよろけて倒れたので、若者が「お婆さん、大丈夫?」と尋ねると、カツは「失礼だね、あたしには名前があるの」と応じます。

 カツは近くの稲荷神社にお参りをしますが、「とかく、この国は若い女至上主義、1歳でも若い女の勝ち」とか、「中年を過ぎた女は女ではない、老人という別の生き物となる」、「私も、若いうちは、お婆ちゃんになる前に死んでしまおうと思ってた」などとつぶやきます。

 そして銭湯の場面。
 カツはここでパートで働いているところ、客のみどり金井克子)とは犬猿の仲。カツが娘(幸恵小林聡美)の自慢話をしたり、「家には孫がいて、私がいなきゃあ回っていかない」などと言うと、みどりは「娘、娘とうるさい」と反撃し、「私はシニアなの」、「海外旅行をするので、パスポートの写真を撮ってきた」と自慢すると、カツは「遺影にちょうどいい」と皮肉ります。

 こんなカツが、幸恵と喧嘩して家を飛び出して夜道を歩いている時に、オードリー・ヘップバーンの大きな写真が飾られている写真館(「オオトリ写真館」)を偶然見つけ、その店主(温水洋一)の勧めに従って写真を撮ることになるのですが、さあ、物語はどのように展開するのでしょうか、………?

 本作は、韓国映画『怪しい彼女』(未見)のリメイク作で、舞台を日本に移して、中身は73歳にもかかわらず外見は20歳の主人公が、様々の歌を歌って大人気を集め、そして…、というストーリー。実に他愛無いお話ながら、主演の多部未華子をはじめ、出演者が随分と張り切っていて、まずまず面白い作品に仕上がっています。

(2)本作はタイムスリップ物ではなく、ふしぎな写真館に入った73歳の老女・カツが、外見だけ20歳の若い女・大鳥節子として同館を出てきて大活躍するというファンタジーです。
 活躍するのは歌を歌って。
 初めは、商店街主催ののど自慢大会で『見上げてごらん夜の星を』(注3)を歌い、新人発掘に悩んでいた音楽プロデューサーの小林要潤)に注目されます。



 次いで、カツの孫の翼のバンド「怪しい彼女」のヴォーカルとして、『真っ赤な太陽』を路上で歌い、さらに、バンドが小林のサポートでメジャーデビューし、『悲しくてやりきれない』をTVで歌います。



 クライマックスは、「TOKIO ROCK FESTIVAL」の沢山の聴衆の前で『帰り道』(注4)を演奏するところ(注5)。

 ここで注目されるのが、節子が歌う歌が発表された年です(注6)。特に、最初の『見上げてごらん夜の星を』が1963年です。
 というのも、節子の意識は73歳のままですから、上手く歌える歌というのは若い時分に感動して覚えた曲でしょう。1963年といえば、カツがちょうど20歳の頃に該当し、説得力は充分あると思います。

 加えて、オリジナルの『怪しい彼女』では70歳の老婆が20歳になるという設定ですが(注7)、変身する年齢をオリジナルのまま20歳とし、さらに本作において『見上げてごらん夜の星を』を使うということになれば、カツの現在の年齢を70歳ではなく73歳とする必要が出てくるでしょう。

 ただ、節子を演じる多部未華子の現在の年齢は27歳で、20歳というには少々難があるのかもしれません(もちろん、充分すぎるほど可愛いのですが!)。



 仮に、節子の年齢設定を25歳としてみたらどうでしょう。
 その場合には、今度はカツの年齢設定を78歳くらいにする必要が出てきますし、69歳の倍賞美津子の方に年齢の開きがかなり生じてしまいます。

 とはいえ、カツはよく笠置シヅ子の「東京ブギウギ」を鼻歌交じりに歌います。この歌は、1947年発表の歌ですから、本作の年齢設定の場合、カツがまだ4歳の頃となり、そんな歌が身につくのかどうか少々疑問に思われます。他方、現在のカツの年齢を78歳とすれば、その曲を耳にするのは9歳くらいであり、覚えていてもおかしくない年齢になると思われます(注8)。

 しかしながら、こんなつまらないことは全くどうでもいいことであり、本作については、多部未華子の歌の巧さを堪能し、カツと幸恵の母娘関係に思いを致し、さらにはカツとみどりと銭湯の主人・次郎志賀廣太郎)の三角関係のドタバタを愉しめば良いのではないでしょうか。

(3)渡まち子氏は、「韓国映画「怪しい彼女」を日本映画がリメイクした「あやしい彼女」は、多部未華子のコメディエンヌぶりが光る快作だ」として65点をつけています。



(注1)監督は、『謝罪の王様』の水田伸生
 脚本は吉澤智子

 なお、出演者の内、最近では、多部未華子は『ピース オブ ケイク』、倍賞美津子は『一枚のハガキ』、要潤は『吉祥寺の朝日奈くん』、温水洋一は『Zアイランド』、志賀廣太郎は『森のカフェ』、小林聡美は『紙の月』で、それぞれ見ました。

(注2)実は、交通事故に遭った(瀬山カツの孫:北村匠海)。

(注3)エンドロールでもこの歌が歌われますが、その際の舞台はライブハウスで、曲もロック調にアレンジされていて、節子は実に楽しげに歌い、観客もノッています。

(注4)本作ではフェスのために翼が創った曲とされていますが、実際には、ユニット「anderlust」のデビュー曲(デビューは、本年3月30日)。作詞・作曲は、本作の劇中歌プロデュース担当の小林武史氏とanderlustの越野アンナ(彼女は、本作において、翼が思いを寄せるアンナとして出演しています)の共作とされています。

(注5)初めて披露する曲にもかかわらず聴衆のノリがいいのはふしぎですが。

(注6)他の2つは、『真っ赤な太陽』が1967年、『悲しくてやりきれない』は1968年。

(注7)同作の公式サイトの「STORY」によります。

(注8)もっと言えば、本作の回想シーンからすると、夫に死なれたカツは幼い娘の幸恵を連れて大変な生活を強いられています。ただ、それが20歳位のことだとしたら(多部未華子が演じていますから)、東京オリンピック(1964年)とか大阪万博(1970年)などで日本経済が上昇する直前のことのように思われ、なんだかそぐわないような感じもするところ、それよりも5年ほども前であったなら、昭和30年代であり、描かれているような厳しい生活もあったのかなとも思えるところです(実際のところはサッパリわかりませんが、井戸端での酒瓶の洗浄とか健康食品の販売といったことはいつまで行われていたのでしょう?総じて、回想で映し出される映像は、歴史ドキュメンタリーなどでしか知りませんが、なんだか戦後すぐの復興期のもののようにも思えるところです)。

 また、20歳に若返ったカツが、銭湯でのぼせて倒れた際に名前を聞かれて「大鳥節子」と言ってしまいます。これはオードリー・ヘップバーンと原節子とを合わせたものとされています(公式サイトの「ストーリー」によります)。ただ、こうした場合に咄嗟にそうした名前が出てくるのなら、78歳の年齢設定の方がふさわしいような気もします。



★★★☆☆☆



象のロケット:あやしい彼女



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4 コメント

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Unknown (クマネズミ)
2016-04-18 05:18:23
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
「江戸川なん子」だと「江戸川コナン」のアナグラムになってしまいインパクトに多少難があるとはいえ、「小さくなっても頭脳は同じ、迷宮無しの名シンガー」は良く出来ています!ラストに「歌で世界を一つに」とでも付けてみてはいかがでしょうか?
Unknown (ふじき78)
2016-04-17 22:00:17
> また、20歳に若返ったカツが、銭湯でのぼせて倒れた際に名前を聞かれて「大鳥節子」と言ってしまいます。これはオードリー・ヘップバーンと原節子とを合わせたものとされています

江戸川なん子でもいいかな。
(小さくなっても頭脳は同じ、迷宮無しの名シンガー)
Unknown (クマネズミ)
2016-04-12 05:55:17
「 atts1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるとおり、本作は、「田部(→多部)未華子演じるカツ改め大鳥節子の歌が染み入りました」。
クマネズミも、ぜひオリジナル版を見てみたいと思っています。
Unknown (atts1964)
2016-04-11 09:24:30
この作品は、田部未華子演じるカツ改め大鳥節子の歌が染み入りました。
数か月ボイトレをしてこの作品に望んだ彼女の歌唱が、しっかり生きていましたし、泣きながら歌う「悲しくてやりきれない」が、こっちまでジーンときました。
女優が本気で歌うと、さすがだなあと感じたシーンでした。
オリジナルを見なさいと、ブロともさんのご指摘もあるんで、機会あれば見ようと思っています。
TBこちらからもお願いします。

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