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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

美しい絵の崩壊

2014年06月11日 | 洋画(14年)
 『美しい絵の崩壊』を新宿武蔵野館で見ました。

(1)これはナオミ・ワッツが出演するからというので映画館に行きました。

 本作の舞台はオーストラリアの東海岸。
 リルナオミ・ワッツ)とロズロビン・ライト)は、幼い頃から近所同士でとても仲が良い二人(注1)。



 それぞれ結婚し息子を一人ずつ設けています(注2)。



 ただ、リルの夫は交通事故で亡くなり(注3)、ロズの夫ハロルドベン・メンデルソーン)はシドニー大学に招聘されることに(注4)。
 そんなときに、リルの息子イアンとロズとが愛しあってしまい、それを見たロズの息子トムもリルと愛し合ってしまいます(注5)。
 そんなことがあっていいのでしょうか、一体どんな展開になるのでしょうか、………?

 邦題では何のことかサッパリわかりませんが、原題「Two Mothers」が示しているように(注6)、本作では親友の母親をセカンドマザーとして慕っている内にそれが愛にまで高まってしまったことが描かれています。大変景色が美しい海辺での優雅な生活が映し出されているものの、酷く浮世離れしている話に思え(注7)、まあ勝手にやってくださいとしか言いようがない感じがしました(注8)。

(2)つまらないことを少々申し上げると、
イ)邦題にある「美しい絵」というのは、それが「崩壊」するのであれば、劇場用パンフレットに掲載されている小柳帝氏のエッセイ「奇数から偶数へ 不安定と安定の間の危うい均衡」で言う「親子三代にわたる美しい家族のポートレート」を指すのかもしれません(注9)。
 でも、この映画で「美しい絵」といったら、むしろラストに映し出されるシーンではないでしょうか?



 そこでは、海に浮かぶ浮き台(floating platform)の上にロズとイアン、それにリルとトムとが水着姿で横たわっています。確かに、トムとイアンのそれぞれの結婚によってこの構図が一時は崩れてしまいますが、なんと最後には再び元に戻っているのです(注10)。タイトルとするのであれば、あるいは「美しい絵の復活」なのかもしれません!

 とはいえ、邦題が「絵」を持ち出すのは見識かもしれません。本作においては、登場人物の内面についてほとんど語られず、専ら画像の推移で物語が綴られているのですから。むろん、映画というのは本来そうしたものかもしれませんが、本作は、殊更その点を強調しているように思われます(注11)。

ロ)本作の公式サイトの「映画情報:Introduction」に「禁断の愛」とあったり、劇場用パンフレット掲載の金子裕子氏のエッセイのタイトルが「美しすぎた背徳のパラダイス」であったりと、本作については随分とその“インモラル”な点が強調されます。
 確かに、ロズにしてもリルにしても、こうした関係はやめなくてはいけないと自覚しているようです(注12)。
 でも、これが実の母親と性的な関係を持つというのであれば反道徳的でしょうが、イアンとロズ、そしてトムとリルとの関係は、ロズとリルとが幼友達であるというだけのことであり親族関係にあるわけでもないのですから、それほど反道徳的だと非難すべきことなのか疑わしいようにも思われます。
 ただ、ロズとリルトがいつも一緒に仲良くしていることから、息子らが相手の母親をセカンドマザーとして意識しているのだとしたら、近親相姦的な臭いも立ち込めるのかもしれませんが(注13)。

(3)折田千鶴子氏は、「主演女優2人の美貌と清潔感のある色気、水着姿に嘆息必至。だからこそ熟女と青年の恋が絵になる。この恋、実は女の隠れた欲望そのものかも。背徳の甘美な味に思わず舌なめずり」と述べ、★5つのうち4つをつけています。



(注1)ロズは近くの街でギャラリーを営んでおり、またリルも会社を経営しています。

(注2)海でサーフィンをする息子たちを見ながら、ロズとリルは、「私達の作品ね」、「私達、腕が良い」などと話します。

(注3)リルにずっと恋心を抱いてきたサウルゲイリー・スウィート)が近づいてきますが、リルは全然相手にしません。ある時、ロズがいる前で、サウルはリルに愛を告白しますが、リルは黙ってロズと顔を見合わせていたところ、サウルの方で二人が同性愛の関係にあると誤解し吹っ切れて、リルから去っていきます。
 なお、二人の同性愛については、リルが「1度だけキスしたことがあるわ」と思い出しますが、ロズは「あれは練習だった」と否定します。

(注4)ハロルドは、「滅多にないチャンスなのでロズとトムにもシドニーに来てもらいたい」と話すのですが、ロズの方は「私に相談なしに応募したのね」などと言って、ついていく気は全くありません(ハロルドの方は、ついにはシドニーで新しい家族を持つことになります)。

(注5)イアンがロズとトムが暮らす家に泊まったある夜、トムは、ロズがイアンのいる部屋から出て行くのを見てしまいます。それも、ジーンズを手に持ちTシャツだけを身につけた格好のところを。
トムはそのことをリルに告げ、キスをしますが、リルは「ロズはイアンにとって母親も同然」と言って信じようとしません。ですが、次の日トムがリルの家に行って泊まろうとすると(「家に帰りたくない」と言いながら)、リルは許してしまいます。
 次の朝、トムはリルの家に泊まったことをロズに告げ、さらに「母さんたちと同じことをした」と言うと、ロズはトムの頬を叩きます。

(注6)本作に関するWikipediaの記事を見ると、現在では「Adore」というタイトルとなっているとのこと。
 なお、原作は、ノーベル文学賞を受賞したドリス・レッシングによる「グランド・マザーズ」(未読)。

(注7)劇場用パンフレットに掲載されている「アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー」において、彼女は、「ドリス・レッシングの短編小説というのは、失楽園のようなセンセーションで満たされている」と述べています。
 ただ、彼女の話しによれば、レッシングの短編小説は「実際に起こった出来事に基づいている」ようなのです!

(注8)俳優たちについては、ナオミ・ワッツは『インポッシブル』などで、ロビン・ライトは『声をかくす人』などで、それぞれ見ています。

(注9)2年後、トムはシドニーで女優のメアリーと、またイアンもハナと、それぞれ結婚し子供を設けるので親子三代になります(ロズとリルはお祖母さんなのです!)。そして、映画では、彼らが一緒に海岸で弄れる様子が描かれます。

(注10)イアンが、トムが結婚後もリルとの関係を続けていたことを皆の前で告発したために、憤激したメアリーはハナや子どもたちを引き連れて彼らの家から立ち去ってしまいます。それで、海辺では元の4人の生活が送られることになります。
 もしかしたら、彼らの生活は、先ごろ亡くなった渡辺淳一氏の『失楽園』のようなことが二組出現して終りを迎えるようになるのでしょうか?

(注11)上記「注7」で触れた劇場用パンフレットに掲載されている「アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー」において、彼女は、「数ヶ月を脚本執筆に費やした後、これはうまくいかない、とわかったの。これはフランス固有の文化だけど、物事を説明せずにはいられない傾向にあるのね。でもそれをやると、全てが心理的なものになってしまって、それは「グランド・マザーズ」においては絶対に避けなければならないことだった。それに、この映画の舞台は、この世のものとは思えないくらいに美しい場所でなければならないと、と強く感じていたわ」などと述べています。

(注12)例えば、上記「注5」で触れたようにロズとイアン、リルとトムの間で性的な関係ができた後、ロズはリルと会って「私達何をしたの?」と問いかけると、リルは「一線を超えたの」と答え、ロズが「繰り返さないことね」と言うと、リルも「許されないことね」と応じます。ですが、実際には、………。

(注13)それに、ロズとイアンが性的関係を持った時点では、ロズはまだハロルドと離婚していなかったでしょうから、不倫の関係にあったことにはなりますが。



★★★☆☆☆



象のロケット:美しい絵の崩壊


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4 コメント

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禁断のリンゴ (milou)
2014-06-26 17:02:42
公式サイトやチラシには“禁断のリンゴ”という表現がある。アダムとイブじゃないが、それほど大げさな話でもないので恐らく宣伝用資料に書かれているのだろう。

そういえば少なくとも2回リンゴが登場する。
1回目はロズの家で4人が和やかに歓談しているときテーブルの上には縦に“4つ”に切ったリンゴがある。イアンだけが不機嫌に立ち上がりバルコニーに移る。その時(僕の記憶は不確かだが)リンゴをアップで映したから恐らく一切れ取って(つまり4人の関係が崩壊する)立ち上がったと思われる。不機嫌なイアンの態度からは彼の欲望が読み取れ、その夜“事件”が起きて4人の関係が崩壊する。
もう1回はリルの仕事場でPCの(画面で)左横にある数冊の本の上に赤いリンゴが1つ置かれている。そして(これも記憶が不確かでイワンかもしれないが)トムがリンゴを持ち去る。ほかの場面でもリンゴがあったかもしれないが思い出せない。

もう1つ、リルとロズの水着姿は何度も出てくる。ロズはいつもビキニだがリルはラストシーン以外一度もビキニを着ることはなかった。ラストシーンは“復活”というか新たな4人の関係が始まるシーンなので、これも意味を持たせているのかもしれない。

1つ気になったのはサウルを“追い払いたい”とまで言っていたリルがサウルの告白時に最後まで一言も“No”と言わない。これは結局は関係を再開させてしまうリルの優柔不断さの現れなのか…
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Unknown (クマネズミ)
2014-06-27 06:30:10
「milou」さん、コメントをありがとうございます。
リンゴと水着に着目されるのはさすがだなと思いました。
なお、サウルが「最後まで一言も“No”と言わない」のは、サウルが自分勝手にレズ同士だと解釈してくれて言わずに済んでしまったからでは、と単純に思ったのですが。
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親友同士の告白 (zebra)
2014-09-07 09:45:11
クマネズミさん こんにちは
作品見ました。
う~ん どうなんでしょうか? ふたりの それぞれの子供と 付き合うというのは・・・こんな会話になったのかも 色気もない不純愛の田舎風の会話のやりとりになりますが。

タエ「なあ、トミ」 
トミ「なんだね、タエ」

タエ「あんたとわたすは ちっちぇえ頃からの親友だっぺ」 
トミ「そうだべ! どうしたんだぁ」
タエ「あんたんとこのお 権兵衛ちゃん なっかなか たくましゅうなってぇ」
トミ「いんやあ ただ優しくてぇ 力持ちでえ、野良仕事しかできねえ ただの ごんたくれじゃあ」
タエ「トミィ、あんたぁ、自分のせがれを そんなふうに 言うもんでねえ」
トミ「それはそうとぉ、あんたんトコの 吾作ちゃんだって 自慢のせがれでねえかぁ」
タエ「あの バカ吾作は ちいせえ頃から 亭主が死んでから 悪さばっかして 手ぇ焼いただ」
トミ「吾作ちゃん 大きゅうなってからは まじめに野良仕事がんばって あんたを楽させてるでねえかぁ」
タエ「ありがとなぁ・・・ん・・・トミ・・・実はな」
トミ「なんじゃあ タエ なんか悩みかあ?」 

タエ「あんたには 悪いと思ってるコトが あるんよ・・・実は あんたんトコの権兵衛ちゃんとつきあってるんよ」
トミ「なぁに 冗談言ってんのぉ~・・・まさか もう 〇〇〇は やってもうただか」
タエ「すまんなぁ トミ・・・ あの ガタイのよさに 優しさあふれちょってからにぃ、 それにぃ・・ふんどしの中の大きゅうなった ▽▽モツみたらぁ・・ 」
トミ「まさか アンタ せがれに手ぇ出したんか? それとも・・・聞きとうないけど 権兵衛が・・・」
タエ「権兵衛ちゃん、わたすのことを美しゅう言うてくれて・・・そのまま」
トミ「じゃあ この際わたすも言うけどもぉ・・・あんたんトコの吾作ちゃんと つきあってるんよぉ」
タエ「あのバカ吾作・・・悪ガキだったのが 大きゅうなってから 真面目にがんばってくれたけんども ここ最近なってから急にわたすに優しくしたり ほかの村の若い衆が嫌がる仕事まんで 自分から進んでやるようになったもんだから・・・なんか あったとは おもっちょったけんどもぉ~そうだったんかぁ」
トミ「わたすも タエの気持ち ようわかる。人としていかんこととわかっとっても止められんかったんじゃぁ 男と女は死ぬまで男と女だとわかっただ」
タエ「わたすも あんたなら バカ息子の吾作を託せる・・・わたすら やっぱり大親友だっぺ トミ」
トミ「そうじゃあ これからも 頼むなぁ タエ」

案外 こんな感じかな

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Unknown (クマネズミ)
2014-09-07 21:41:26
「zebra」さん、コメントをありがとうございます。
力作のシナリオですね。
日本に置き換えればこんな感じになるのかもしれませんが、映画化にあたっては資金集めにさぞかし難渋することでしょう!
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