映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ラビング

2017年03月22日 | 洋画(17年)
 『ラビング 愛という名前のふたり』を日比谷のTOHOシネマズシャンテで見ました。

(1)出演しているルース・ネッガがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされているというので、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭の舞台は、1958年のバージニア州(注2)。
 夜、家のポーチに若い男と女が座っています。
 黒人のミルドレッドルース・ネッガ)が、「妊娠したの」と告げると、白人のリチャード・ラビングジョエル・エドガートン)が、「すげえ(good)、やったな」と答え、ミルドレッドが笑います。

 次いで、ドラッグレースの場面。
 2台の車がレースをするのを、白人、黒人が一緒になって見ています。
 その中には、リチャーやミルドレッドもいます。



 レースが終わると、ホームパーティーが催され、皆が踊ったりして騒ぎます。

 さらに、リチャードが働いている現場。
 モルタルを敷いた上にレンガを重ねていきます。
 自分の分担が終わると、リチャードは「悪いな」と言ってその場を離れます。
 同僚が「何処へ行く?」と尋ねても、リチャードは答えることなく駐車場に急ぎます。

 広い原っぱを見ながら、リチャードが「どうだ?」と訊くと、ミルドレッドは「何が?」と訝しがり、リチャードが「この土地さ」と答えると、ミルドレッドは「ここ?」と尋ね、リチャードが「ああ」と言うと、ミルドレッドは、「よく知っている場所だし、家の近くよ。ええ、気に入ってるわ」と応じます。



 さらに、リチャードが「ここに台所を設ける」などと地面を指して言うものですから、ミルドレッドがたまらず「リチャード、止めて、一体何の話?」と尋ねると、リチャードは、「ここを買ったんだ。この土地に家を建てる。僕らの家だ」と答え、そして「結婚してくれ」とプロポーズします。

 ミルドレッドは、姉のガーネットテリー・アブニー)にそのことを言います。
 すると、ガーネットは「彼は気が違ったのかも」と言いながらも、「式はいつ?」と尋ねます。
 ミルドレッドは、「すぐよ。ベビーが生まれる前に」と答えます。
 さらに、ガーネットが「彼は、私から妹を奪うのね?」と言うと、「いいえ、近所に住むのよ」と応じます。

 こうして、物語が始まりますが、リチャードとミルドレッドの将来にどんな困難が待ち構えているのでしょうか、………?

 本作は、実話に基づいて作られており、別の場所で結婚式をあげた白人の夫と黒人の妻の夫婦が、故郷の州で生活を始めたところ、その州の法律に違反するというので逮捕され、その後紆余曲折がありますが、およそ10年経過して、2人は連邦最高裁から、同法は違憲との判決を勝ち取ります。本作は、そういう事情を背景にしながら、事件の渦中の夫婦の暮らしぶりの方にもっぱら焦点を当てて、じっくりと描き出します。生真面目過ぎる作り方ながらも、こういう夫婦愛も実際にあるのだな、としみじみと感じ入りました。

(2)リチャードとミルドレッドは、ワシントンDCに行って結婚し(注3)、バージニア州に戻り、ミルドレッドの実家で一緒に暮らし始めましたが、真夜中にやってきた保安官(マートン・ソーカス)によって2人は逮捕され、留置場に入れられます。
 その際、保安官は、リチャードに次のように言います。
 「お前の父親はクロに雇われていた。お前には同情する。この町は人種がゴチャ混ぜになってしまっている。部分的にインディアンだったり、黒人だったり、白人だったりする。お前の生まれた場所が悪かったんだ。お前にはそれが自然だったのだから」、「だが、これは自然の法に反している。白人は白人であり、黒人は黒人なのだ。俺は、白人と黒人の結婚を見逃せない。これが神の掟であり、自然の理なのだ」。

 この背景にあるのは、バージニア州(注4)で制定されていた異人種婚姻を禁止する法律。この記事によれば、「白人」に分類される人々と「有色人種」に分類される人々の結婚を禁じた1924年人種統合法に反するとして、2人は逮捕され起訴されました(注5)。

 同じ趣旨の法律は、バージニア州のみならずほかの州でも制定されていました(注6)。
 日本から見るととても考えられない法律ながらも、この記事によれば、驚いたことに、「サウス・キャロライナは1998年まで、アラバマは2000年までこの法律を施行していた」とのことで、決して過去の話ではないのです。

 2人は裁判で、懲役1年の実刑判決を受けましたが、25年間バージニア州に一緒に戻らないという条件付きで執行猶予となります。
 それでラビング夫妻は、ワシントンDCに移り住むことになります。でも、見知らぬ土地での生活は大変で、ミルドレッドは、アドバイスを受けて、当時のロバート・ケネディ司法長官に手紙で訴えます。そのことで道が拓かれ、ついには、1967年に、異人種間の結婚を禁止する法律は違憲だとする連邦最高裁の判決を勝ち取ることになります。

 そんな話ですから、普通に考えれば、連邦最高裁に行き着くまでのプロセス、さらには最高裁の裁判を巡って、随分とプレイアップした描き方ができるはずです(注7)。
 ですが、本作では、その裁判の原告側(ラビング夫妻)の弁護士コーエンニック・クロール)とハーシュコプジョン・ベース)が行う弁論のサワリの部分が少しだけ描かれるに留められています(注8)。

 さらには、原告であるラビング夫妻がこの裁判を傍聴する場面も映し出されるはず、と思っていたところ、「大変な名誉ですよ」と出席を勧める弁護士に対し、リチャードは「そんなことはしません」と言い、ミルドレッドも「夫に従います」との返事(注9)。
 結局、コーエンからの電話連絡によって、2人は判決内容を知るに過ぎません。

 総じて、本作で描かれるラビング夫妻については、トテモ地味でおとなしく、実直で勤勉なアメリカ人という印象を受けます(注10)。
 でもそう描かれているからこそ、「ライフ」誌に掲載された写真に似せた場面が本作で映し出されますが(注11)、何ものにも代え難い十分の説得力を持っているように思いました。
 そして、そんなリチャードとミルドレッドとを、ジョエル・エドガートンとルース・ネッガは、他に代え難い俳優と見る者に思わせるような魂のこもった演技で演じています。

(3)渡まち子氏は、「英雄でも活動家でもない男女の愛が歴史を変えた。このことに誰もが感動を覚えるだろう。タイトルは、リチャードとミルドレッド夫妻の姓だが、それが“ラビング(愛)”であることが、映画を見終わった後、深い余韻となって心に残る秀作だ」として80点を付けています。
 渡辺祥子氏は、「庶民の生活の哀歓を描く水彩画のように穏やかな映像美がある」として★4つ(「見逃せない」)を付けています。
 大久保清明氏は、「ミルドレッドがリチャードに妊娠を告げる冒頭の場面。彼女が言葉を発するまで、しばしの沈黙が流れる。夜のしじまを、虫の鳴き声だけが流れる。リチャードが、ゆっくりと笑みを浮かべ「よかった」とつぶやくまでに、やはり、ためらいの時間が流れる。そんな、人間のためらいの美しさが『ラビング』を貫いている」として★4つ(満点)を付けています。
 藤原帰一氏は、「愛しあう2人が結婚することのどこがいけないんだ。こんな単純なメッセージを観客の胸に届けるためには、行き届いた映画づくりが欠かせない。その技術を持った作品としてどなたにもお勧めいたします」と述べています。



(注1)監督・脚本は、『MUD-マッド-』のジェフ・ニコルズ
 原題は「Loving」。

 出演者の内、最近では、ジョエル・エドガートンは『ブラック・スキャンダル』で見ています。

(注2)公式サイト掲載の年表などによれば、ラビング夫妻は、バージニア州キャロライン郡セントラル・ポイントで生まれ育っています。

(注3)小さな裁判所に行き、そこの裁判官の立ち会いのもと、結婚証明書を出してもらいます(なお、ミルドレッドの父親も同席)。

(注4)バージニア州は、イギリスから独立した最初の13州の一つですが、南北戦争の際は、奴隷制存続を主張するアメリカ連合国の方に加わっています。

(注5)ただ、この記事によれば、「1661年にバージニア州がもっとも早く異人種間の結婚を禁止する法律を通過し、違反した場合4,540 Kg のタバコ進呈を懲罰とし、30年後には、白人女性が黒人との混血児を出産した場合、その女性には5年間、彼女の子供には30年間の契約による強制労働を課す法律を制定した」とのこと。
 この記事が言う1661年の法律が、1924年の人種統合法の元になっているものと考えられます(ただし、同記事では、1661年にバージニア州が成立しているかのように記載されているところ、同州の成立は独立戦争後の1788年ですから、その記事が正しいとしたら、同法は植民地時代の法律ということになるでしょう)。

(注6)この記事によれば、「黒人と白人との異人種間結婚は、20世紀初めまで南部の全州(16州)で、州の憲法ないし法律で禁止されていた。北部でも、コロラド州、インディアナ州、アイダホ州、南北ダコタ州で禁止されていた。また、アリゾナ、カリフォルニアなど西武の7州と南部の諸州は、白人と東洋人との結婚も禁止していた」とのこと。

(注7)最近見た映画でアメリカの連邦最高裁が登場するのは、『黄金のアデーレ 名画の帰還』と『ブリッジ・オブ・スパイ』でしょう。後者に登場するドノヴァントム・ハンクス)は練達の弁護士ですが、前者のランディライアン・レイノルズ)は、本作のコーエンと同じく駆け出しの弁護士です。

(注8)コーエンは、自分の事務所を持たない駆け出しの弁護士で、最高裁案件など取り扱ったことがありませんから、かなり舞い上がっている感じで描かれています。

(注9)ただ、「裁判官に何か伝えたい事があるか?」とのコーエン弁護士の質問に、リチャードは「俺は妻を愛してると伝えてくれ(Tell the judge I love my wife.)」と答えます。

(注10)ジェフ・ニコルズ監督は、このインタビュー記事の中で、「制作の初期の段階から、できる限り、リチャードとミルドレッドの視点から映画を作ろうと決めていた。つまり、映画の構成も、トーンも、シーンのスタイルもすべて、この2人の人柄を反映したものになるということだ」、「少なくとも、この2人を人間としてきちんと描けていると思っているし、それが僕にとって重要なことだった」、「僕は、公民権運動に関する映画を作った監督として考えてほしくない。もし、それがテーマなら、もっと優れた監督が他にたくさんいる。それよりも、ある2人の人間に関する映画を作った監督だと思ってほしいし、彼らの本当の人となりを讃えたかったんだ」と述べています。

(注11)本作では、『ライフ』誌のカメラマンのグレイ・ブレットマイケル・シャノン)がラビング夫妻の家にやってきて、彼らの暮らしぶりをカメラで撮影します。ただ、その写真記事「結婚という犯罪」が掲載された雑誌(1966年)が、誰だかわからない人物によって車の座席に投げ込まれているのを見たリチャードは、自分たちが周囲にどのように見られているかを感じます。





★★★★☆☆



象のロケット:ラビング 愛という名前のふたり
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2 コメント

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Unknown (atts1964)
2017-03-29 08:51:18
今見ると恐ろしい悪法が蔓延っていた暗黒時代に見えますが、意外と普通の人はそれが当たり前、生まれた時からそうだった、かもしれませんね。
「42」でも、この保安官が主人公に諭すシーンも、あまり横暴さは感じられませんでした。
しかし時代は確実に変わって来ていて、その時代を一歩進めようとしたケネディ兄弟がいたんですね。
TBありがとうございました。
Unknown (クマネズミ)
2017-03-29 20:46:25
「atts1964」さん、コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、当時は「その時代を一歩進めようとしたケネディ兄弟がい」ましたが、特定の国からの入国を禁止しようとする現在のトランプ政権は、時計の針を昔に戻そうとしているかのように思われます。

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