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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります

2016年02月12日 | 洋画(16年)
 『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』を新宿シネマカリテで見てきました。

(1)モーガン・フリーマンダイアン・キートンが初共演の作品だというので映画館に行きました。

 本作(注1)の冒頭では、車が走るブルックリンの界隈が映し出されます。
 主人公のアレックスモーガン・フリーマン)のモノローグ「妻のルースダイアン・キートン)とブルックリンのここにやってきた。ここはド田舎と言われた。だが、貧乏画家だったから、他では家賃が払えなかった」(注2)が入り、彼がアパートメントから犬のドロシー(注3)を連れて外に出ると、近くの店の男が「明日は内覧会だね」と声をかけてきます。



 雑貨店に入ったアレックスが、家にいるルースに電話を入れて、「何を買うんだったっけ?新聞か?」と訊くと、ルースは「動きまわらないで。姪のリリーシンシア・ニクソン)が来たわ」と答えます。

 そのリリーは不動産仲介業を営んでいて、ルースが今の部屋を売却したいと言うので訪れたものです。
 リリーは、部屋のカーテンを全開にして日光を取り入れようとし、ルースの「内覧会には何人くらい来るの?」との質問に対し、「部屋を買わずに、他人の生活を覗きにくる人もいる」などと答えます。

 アレックスは、「街は変わった。アップル・ストアがある。だけど、変われば変わるほど愛おしくなる」などとつぶやきながら自分のアパートメントに戻り、ドロシーと一緒に5階にある部屋まで階段を登っていきます。
 途中でアレックスは、犬のドロシーに向かって「疲れたろう、私もだ」と言ったりします。

 リリーは、「明日は大変よ。部屋を広く見せるために、アトリエを片付けておいて」と言って帰ります。



 アレックスが「内覧会では物が盗まれたりするそうだ」と言うと、ルースは「あなたは映画でも見に行ったら?」と応じます。



 そんな最中に、ルースがドロシーの異変に気づき、二人でマンハッタンの獣医にドロシーを見せに行こうとして、タクシーを拾います。ですが、ウィリアムズバーグ橋で事件があったらしく、道路は大渋滞。
 さあ、この後、物語はどのように展開するでしょうか、………?

 ニューヨークのブルックリンにある古いアパートメント。その最上階で40年間暮らした老夫婦にとっては、外の眺めが抜群とはいえ、エレベーターが設けられていないため、部屋のある5階まで昇っていくのが大変になってきています。本作は、住まいを売りに出して別のところに移り住もうとした老夫婦を巡るお話。それだけでは取り立てて言うこともない他愛のない話ながら、同時に起こる2つの出来事をうまく絡ませることによって、全体を味のある小品(注4)に仕上げています。

(2)本作のメインのお話は、住居の売却を巡る実に他愛のないもので(注5)、それだけではわざわざ字幕をつけて日本で上映するまでもないでしょう。
 それを次のような点から、まずまずの作品にまで仕上げているように思いました。

 まずは、78歳のモーガン・フリーマンと70歳のダイアン・キートンとが、初共演ながら貧乏画家とその妻の役を味わい深く演じています。
 『ラスト・ナイツ』では他を圧する威厳に満ちた封建領主・バルトーク卿を演じたモーガン・フリーマンですが、本作では一転して、アトリエで人物画を描いたり、屋上菜園でトマトなどを栽培したりする実におだやかな役柄を演じていますし、ダイアン・キートンも、お馴染みの眼鏡をいろいろ取り替えながら、明るくポジティブな老妻役を巧に務めています。

 ただ、このくらいであれば、最近流行りの老人物ということで終わってしまうでしょう(注6)。
 本作では、ペットのドロシーの病気(注7)とテロリスト騒ぎ(注8)という現代的な要素を映画の中に取り入れ話の進行に絡ませることで、ひと味違った作品になっているように思います。

 エンディングでは、ヴァン・モリソンの「Have I Told You Lately」(注9)が流れる中、空から見たブルックリンやマンハッタンなどが映し出されます。
 ごく最近、『ザ・ウォーク』を見たばかりで、そういえば同作では空中からニューヨークを見下ろすシーンが多かったな、他方本作ではむしろ地上から空を見上げるシーンが多いのでは(注10)、と思ったところです。

(3)渡まち子氏は、「不動産売買という人生の大きな選択を通して、深く愛し合う夫婦の忍耐と真実の愛を穏やかに描いて、何とも好ましい佳作に仕上がっている」として70点をつけています。
 秋山登氏は、「映画の眼目は長年連れ添った夫婦の濃やかな愛の形である。ビジネスを言い募る若い画商に、絵は商品ではないと妻が反論する、痛快な場面がある。夫婦一体を謳う、これは心温まる第一級の大人の映画である」と述べています。
 日経新聞の古賀重樹氏は、「図式的ではあるが、フリーマンとキートン演じる二人が知的で偉ぶらず仲むつまじいのが説得力となる。夫婦の年輪が人生を味わうことの大切さを教えてくれる」として★3つ(「見応えあり」)をつけています。



(注1)監督はリチャード・ロンクレイン
 原作は、ジル・シメント著『眺めのいい部屋売ります』(高見浩訳、小学館文庫)。
 原題は「5 flights up」(「階段を5階まで」という意味でしょうか)。

 なお、出演者の内、最近では、モーガン・フリーマンは『ラスト・ナイツ』、ダイアン・キートンは『映画と恋とウディ・アレン』や『恋とニュースのつくり方』で、それぞれ見ています。

(注2)ブルックリンは、40年前はアレックスのような若手の貧乏画家でも住むことができたものの、今ではアレックスとルースの部屋は100万ドルで売却出来るとされます。

(注3)ドロシーは、ルースの退職記念としてアレックスがプレゼントした犬。

(注4)上映時間の方も92分です。

(注5)と言っても、アメリカにおける不動産売買の一端がうかがわれ、興味深いところがあります。映画によれば、アメリカでは、一般の住居の売買に際しても、仲介業者が間を取りもって普通に入札が行なわれるようです。日本では仲介業者が予め値決めしてしまい、アメリカのように手軽に入札が行われないのではないでしょうか?

(注6)ただ、劇場用パンフレット掲載の「Production Note」によれば、原作では「マンハッタンのロウアー・イースト・サイドに住むユダヤ系老夫婦」のことが描かれているのに対し、本作の設定では「異人種間結婚したブルックリンに住む」夫婦に変えられています。
 それで、「黒人と白人の結婚がまだ30州で禁止されていた頃に、私たちは結婚した」という台詞が出てきたり、ルースがアレックスとの結婚を母親に告げると、「祝福する」ではなく「納得した」と言われてしまい、ルースが怒る場面が描かれたりします。

(注7)動物病院でドロシーは、ヘルニアで手術が必要とわかりますが、診断に際し、人間並みにCTスキャンが使われたのには驚きました。
 なお、ドロシーは、アレックスとルースの住居売却騒ぎの間中、動物病院にいて、騒ぎの最中には、術後に発作が起きたりしてアレックスたちを心配させますが、騒ぎが収まるとともにドロシーも元の通り回復します。その様子は、まるでアレックスとルースの心の動きと同期しているかのごとくです。

(注8)マンハッタンとブルックリンとをつなぐウイリアムバーグ橋の途中でタンクローリー車を停止させたまま運転手が逃走してしまったために、付近一帯で大渋滞が起きただけでなく、逃げた運転手が中東アジア出身者ということから、テロの可能性があると報道されて大騒ぎとなります。
 それで、アレックスたちのアパートメントがウイリアムバーグ橋の直ぐ側に位置するために、内覧会が上手く開催できるかが問題となり、またそうした騒ぎのために価格が下がってしまうのでは、と懸念もされます。
 結局、運転手はテロリストではなく、彼を取り巻く人々が大騒ぎをしただけにすぎないことがわかり、一件落着しますが、この経緯をTV生中継で見ていたアレックスには思うところがあったようです。

(注9)例えば、ここで聴くことができます。
 歌詞はこのサイトで。

(注10)例えば、アレックスとドロシーがアパートメントの階段をゆっくりゆっくり踏みしめながら上ったり、ウイリアムバーグ橋のたもとにある公園のイースト川に臨むところに設けられたベンチにアレックスとルースが座って、対岸のマンハッタンのビル群の方を見上げたり、マンハッタンのビル群の間を通る道路で、大渋滞のためにタクシーの中に二人が閉じ込められたりします。





★★★☆☆☆



象のロケット:ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります



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6 コメント

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家は買ったの? (milou)
2016-02-26 21:11:41
当然原作があることも知らなかったが映画の原題が気になったので調べると、小説の方は Heroic Measures (思い切った手段)。
基本的な構成は映画と同じようだが、まずアパートの場所がイースト・ヴィレッジであること。夫婦が40年ではなく55年も結婚していること、つまり夫婦は映画よりはるかに年上で階段が苦痛なのもよく分かる。そしてテロさわぎは橋ではなくトンネル。

家がイースト・ヴィレッジ(ロウアー・イースト・サイドとは言いがたくイメージがまったく違う)なら当時の若い貧乏画家の話にぴったりだが“眺めのいい部屋”には違和感がある。映画の設定では“眺めのいい”がキーワードなのでブルックリンに変え、だからテロもトンネルではなく橋に変えたのだろう (事件の後の橋の遠景で1台だけのパトカーらしきランプ点滅には感心)。

映画は特に面白くもなかったが不動産売買の様子や立派すぎるほどの動物病院などは興味深かった。それにしても犬の手術代が100万円もするとは…

ただ不動産売買の法律的な面について、疑問が1つ。
アレックス夫婦は新アパートを落札し前金を持って行ったとき(つまり正式契約前)相手が売らないというとリリーは契約違反で“裁判”に持ち込むと脅す(?)。ところが自分のアパートのときは(前金などの話はないが)落札者の前で突然売らないと言い出し契約違反などには何も触れられない。
リリーの奮闘で落札したなら前金を渡したはずだが残金を払わなければ“契約違反”にはならないのか?
当然売らなければ金はなく買うこともできないが…

どうでもいいが原作小説には多分“眺めのいい”というキーワードはないと思われるが“映画の原作本”として売るためか映画と同じ題名にしているのも引っかかる…
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Unknown (クマネズミ)
2016-02-27 06:10:30
「milou」さん、コメントをありがとうございます。
原作小説の訳者は、原作小説について「ほろ苦くも愛すべき人生を、ぴりっと辛いユーモアにくるんでうたいあげた大人の童話」と言っていて(下記のサイトの記事)、そんなところからすると、おっしゃるように、「原作小説には“眺めのいい”というキーワードはない」というような感じがするところです。
なお、原作小説のタイトル「 Heroic Measures」ですが、ネットを見ると、「Heroic measures are often taken in cases of grave injury or illness, as a last-ditch attempt to save life, limb, or eyesight」などとあり、なぜそんな大仰なタイトルが付けられているのかよくわかりません。
まあ、いずれにせよ同書を読めば分かるのでしょうが。
http://bp.shogakukan.co.jp/mado/1512/talk.html
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Unknown (ふじき78)
2016-05-20 07:57:25
> 5 flights up

yahoo翻訳で翻訳して見ました。
→「上へ5機の便」

上にあがるには5機もの便を乗り継がないといけないようです。上って何だろう。天国? 
はっ、「地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天上界」六界のうち、今いる人間界から他の五つの世界を乗り越えないと天国に行けないという、、、、、いやいやいやいや、そんな壮大な話じゃなかった。

いや、実は餓鬼は眼鏡の女の子、畜生はペットのドロシー、修羅は不動産業界、を表わしてたりして。地獄は階段を登れなくなるという未来予想で、天国は登れなくはならないという未来予想。うわ、うまく収まった。ビックリポンや(古い)。
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Unknown (クマネズミ)
2016-05-21 06:43:03
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、アレックスとルースが住んでいる5階の「人間界」に辿り着くためには1階の「地獄界」から一つ一つ階段を登って行かなくてはならず、でも屋上(なかったかもしれませんが)の「天上界」を夢見て「餓鬼界・畜生界・修羅界」を乗り切って二人は生きていくのでしょう!
なお、エキサイト翻訳で調べると、「 5 flights up」は「上がる5便」とされ、あるいは「首都行きの5便」ということなのかもしれません。
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こんにちは (ミス・マープル)
2016-09-04 16:31:24
こんにちは。初めてコメントします。
この映画はわたしの周りではかなり高評価なのですが、わたし自身は「普通」でした。
5 flights up はそのまま「5階段上る」、と考えていましたが、ふじき78さんのご意見を読んで、そんな意味も考えられるなと納得。
老人の夫婦愛+犬の病気+テロ騒ぎ+アパートの売却という話を描いていたので、ラストはありきたりで特に感動しませんでした。
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Unknown (クマネズミ)
2016-09-04 21:05:06
「ミス・マープル」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、本作は、「老人の夫婦愛+犬の病気+テロ騒ぎ+アパートの売却という話を描い」た「普通」の作品であり、モーガン・フリーマンとダイアン・キートンとが共演していなければ、ことさらに見るべき作品とまで言えないような気がします。
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