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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

映画と恋とウディ・アレン

2012年11月26日 | 洋画(12年)
 『映画と恋とウディ・アレン』をTOHOシネマズシャンテで見てきました。

(1)本作は、これまでに40本以上もの映画を製作してきたウディ・アレンの生涯を綴ったドキュメンタリー作品(2011年)です。
 今年76歳になる彼が、自分の生家の前で話すところから、最新公開作の『ミッドナイト・イン・パリ』の成功までの軌跡を描いています(注1)。

 本作によれば、彼は、たとえば、
・5歳の時に自分は死ぬとわかって幻滅、このゲームを抜けたいと思う(注2)、
・高校時代からジョーク(ギャグ)を作る才能を発揮していて、ライターとして新聞などに投稿(注3)、
・16歳の時に40ドルで買ったタイプライターを今でも使っている、
・その後コメディアンとして様々のクラブに出演するも(注4)、余り受けずに、ステージが嫌いになるが、そのうちに評判となって、ニューヨークタイムズの推薦をうけるまでになり、1967年にはエドサリバン・ショーに出演して全米的な人気を獲得、
・1965年の『何かいいことないか子猫チャン』の脚本を書くも、映画会社の介入でずたずたにされ苦い思いをしたことから、1969年の『泥棒野郎』以降は監督をもやるようになる、
・『アニー・ホール』より前は人を笑わせることだけを考えて制作していたところ、その作品では、人間を描きたいと思う(アカデミー賞4部門を獲得)、
などなどといった具合です。

 こうした彼の軌跡を、ダイアン・キートンなどの女優や、ショーン・ペン(注5)といった男優、そして脚本家や批評家などがいろいろ証言しながら辿っていきます。
 彼らによれば、ウディ・アレンは、夢に描いたことで実現しなかったものはないのではないか、とのこと。なにしろ、たくさんの映画を作っただけでなく、ジャズ・クラリネット奏者としても一流なのですから(注6)!
 また、彼の父親は100歳、母親は96歳まで生きていたということから、106歳まで現役を務めることになろう、などとも言われています。
 彼自身も、「ロマンスを過去のものとする年齢にはまだ達していない」などと嘯いていますから、ありうる話かもしれません。

 なお、家族に関して言うと、彼は、ダイアン・キートン(注7)との後、ミア・ファローと同居していた時、彼女の養女の韓国人女性に手を出して別れてしまいます(1992年)。ただ、ミア・ファローは、この映画に出演して色々話していますし、さらにまた、この映画の最後の方では、その養女と結婚したウディ・アレンの家族の映像も映し出されます。

(2)本作は、ウディ・アレンの映画製作の秘密がそれほど明らかにされるというわけではなく(注8)、また彼の作品について格別斬新な見解が展開されることもなく、従って通り一片のバイオグラフィーに過ぎないとも言えます。
 ただ、彼の製作した作品がいくつも紹介されるので、見逃している様々の彼の作品を見てみようかという気にさせられます。
 クマネズミの場合は、ごく初期の作品『泥棒野郎』(1969年)がTSUTAYAに置いてあったので、借りてきて見てみました。



 ウディ・アレンが扮するバージルは、前科53犯の悪党ながら、ドジばかりを踏む愛すべき存在。『泥棒野郎』は、その悪の履歴を幼いころから辿っているわけですが(注9)、様々なギャグが仕掛けられていて実に面白い作品となっています。
 吹奏楽団にチェリストとして入ったバージルが、椅子を持って吹奏楽団の行進を追いかける様子とか、銀行強盗の際に、脅迫文の綴りの誤りを指摘されるところ(注10)は本作でも取り上げられているところ、その他にも愉快な場面は満載です(注11)。
 さらに、『泥棒野郎』を見ると、その前のウディ・アレン出演作『何かいいことないか子猫チャン』(1965年:その脚本を書いた彼自身は、映画会社の介入によってドタバタ劇になってしまった作品、と本作で述べています)とか、批評家の評判が悪かったとされる『スターダスト・メモリー』(1980年:本作では、自分が一番気に入っている作品と述べています)までも見たくなってきます。

(3)渡まち子氏は、「女性を魅力的に撮ることで定評があるアレンだが、このドキュメンタリーを見ていると、アレンの作品が愛されるのは、彼自身が女性に深く愛されてきたからなのだと納得する」などとして60点を付けています。



(注1)来月日本で公開される『恋のロンドン狂騒曲』は、『ミッドナイト』よりも前に製作された作品。

(注2)学校は嫌いで(「教師は反ユダヤ的」)、呪われた日々だった、とアレンは述べます。

(注3)「週2ドル、1日50本も書いた」とアレンは、述べます。なお、その時から“ウディ・アレン”を筆名として使いだしたようです。

(注4)フォーク・グループPPMが出演していた「ビター・エンド」など。

(注5)彼は、「僕の演技についてのコメントを聞いたことがない」などと話します。

(注6)でも、ラストで、アレンは「人生の落伍者のような気持なのはなぜ」と言います。

(注7)本作で彼女は、「小さい人だなと思った、一目見た時に大好きになった、好きになってもらいたかった」などと述べています。、

(注8)彼自身は、本作で、「脚本を書くのは楽しい、アイデアを書いているときは、『市民ケーン』のような気がする、だが、撮影が始まると、そんな願望は消えうせてしまう」とか、「映画の案は無限にある、脚本はわりと早くできる」などと述べていたり、また俳優たちは、「彼は演技指導しない」などと証言したりしますが。

(注9)バージルの生年月日がウディ・アレンと同一だとすると(IMdbによります)、あるいは本作にも通じていると言えるかもしれません。

(注10)銀行に行って、窓口係に脅迫文を手渡すのですが、バージルは、gunとgub、それにactとabtを書き間違えてしまいます(どうやら「Please put $50,000 into this bag and abt natural, because I am pointing a gub at you.」と脅迫文に書いてあったようなのです:字幕では、「銃」と「銭」、「自然」と「白熱」との書き間違いとされています)。

(注11)なにしろ、バージルの両親が変装して登場し彼について証言するものの、見解が分かれてしまい夫婦喧嘩したり、最後には、バージルが脅迫した幼いころのクラスメートが実はFBIの捜査官で、そのまま刑務所入りになってしまうくらいなのですから!



★★★☆☆




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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
見てみようか (milou)
2012-11-28 23:17:16
この映画に関して特に言いたいこともないが確かに“見逃している様々の彼の作品を(できれば劇場で)見てみようか”という気にはなりました。その一番の理由は古い作品でも画質がよかったから。

元々俳優としてのアレンをあまり好きでないのでアレンの映画も乗り気ではないのだが調べてみると『何かいいことないか子猫チャン』や『ワイルドマン・ブルース』まで含め32本もリアルタイムで見ているので8割はカバーしている。

僕自身が少し芝居に関わったこともあり、しばしば作り手の立場から裏を見てしまうのだが今回の撮影風景のカメラ位置が面白かった(ほとんど本編からメイキングへの連続した切り替え)。

あとはやはりダイアン・ウィーストやダイアン・キートンが老けたなとか。

ちなみに僕が一番好きな作品は『ブロードウェイのダニー・ローズ』、次が『アニー・ホール』かな…
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さすが! (クマネズミ)
2012-11-29 07:04:03
Milouさん、コメントをありがとうございます。
さすがに尋常ではない映画通のmilouさんですね、あの沢山のウディ・アレン作品の8割をもリアルタイムでカバーされておられるのですから!
クマネズミなどその足下にも及びません、早速『ブロードウェイのダニー・ローズ』を探してみましょう。
これからもご教示方、よろしくお願いいたします。
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