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スリーデイズ

2011年10月11日 | 洋画(11年)
 『スリーデイズ』(The Next Three Days)を吉祥寺のバウスシアターで見ました。

(1)この映画のオリジナルのフランス映画『すべて彼女のために』を昨年の3月に見たことがあって、リメイク版を見ても仕方がないのではと思っていましたが、やはりラッセル・クロウの主演映画だからということで映画館に足を運びました。
 実際のところ、オリジナル版の細部はすでにあらかた忘れてしまっていたので、このリメイク版もまずまず面白く見ることができました。

 物語は、無実にもかかわらず殺人事件の容疑者として逮捕され20年の刑が確定した妻ララエリザベス・バンクス)を、夫ジョンラッセル・クロウ)が刑務所から脱獄させるというものです。いったいどんな風にして、というところが本作の見所でしょう。

 とりわけ要になるのが、妻ララが糖尿病を病んでいて(注1)、「医学分析研究所」から血液の検査結果が、定期的に刑務所内の医療部門に車を使って送られてくるという点でしょう。
 そこに目を付けた夫ジョンが、妻の症状が危険なレベルにあるように検査結果を偽造してしまいます(注2)。そのため、妻は一般病院に緊急入院することになり、夫には刑務所の外で妻と接触する機会が与えらることになるわけです。
 刑務所内のセキュリティシステムは厳重を極めていて、夫がずっと調査を続けていても取っ掛かりを見出すことは出来ず、所内にジョンが入って妻を奪還することは不可能事にみえましたから、これはまさに蟻の一穴といえるでしょう。

 ラッセル・クロウは、昨年末の『ロビン・フッド』以来のところ、一方で大学での講義を続けながらも頻繁に妻と面会し、他方で一人黙って妻の脱獄計画を練るという、超人的な働きをする男を演じていますが、マサニはまり役という感じです。



 妻のララを演じるエリザベス・バンクスは、どうしてもラッセル・クロウの活躍ぶりに隠れてしまいがちですが、それでも例えば車で逃走する途中、夫ジョンの独断的なやりかたに抗議して車から飛び降りようとして車のドアを開けてしまい、あわやという寸前でジョンに支えられて助かる場面の演技など、目を瞠るものがありました。




(2)本作とオリジナルとを比べてみると、96分のオリジナルに対し、本作は133分と随分長くなっています。また、オリジナルはフランス・パリが舞台のところ、本作はピッツバーグ。さらに、主人公の職業については、オリジナルは国語の教師で、本作は2年制大学の教授、その妻の職業は、オリジナルは出版社の編集長で、本作は歯科医、といったところです。

 ただ、そうした差異は単に当初の設定上のことに過ぎず、念のためにDVDを見てみましたが、上記(1)で触れた要の点などのあらましは両者で殆ど同一といっていいでしょう。

 とはいえ、オリジナルの場合、冒頭に続くシーンは、夫と妻の性愛シーンであり、その後も2人でたえずキスを繰り返したりする有様が映し出され、如何に夫が妻を愛しているのか観客を説得します(なによりも、妻を演じるダイアン・クルーガーの美貌が、平凡な国語教師に過ぎない夫を虜にしている様子がよくわかります)。
 この点、本作では、まずレストランで2人が食事したあと家に帰って子供の寝顔を見るというシーンとなります。ジョンは、大学教授という職業に就いていることもあって、全体として妻を見る目は、オリジナルよりもずっと冷静であり、オリジナルのように愛する妻を自分の手元に奪還したいというよりも、むしろ妻が人生を棒に振る不条理を何とかしなくてはと思って、大それた計画を考えるに至ったように思えます(注3)。

 さらに違いを言えば、子供の扱いの点でしょう。
 オリジナルの場合、子供(オスカル)は、父親が乾坤一擲の行動をとっている間、ホテルで言われたように大人しく待っているだけです。他方本作の場合、子供(ルーク)は、当日、公園で知り合った女の子の誕生日パーティーに出ていることになっていて、当然その子の家にいるものと思ってジョンは引き取りにいくのですが、実際にはパーティーは動物園で開かれていて、危険を犯して市内の動物園まで戻らざるを得なくなってしまうのです。
 こういう展開になるのも、一つには、オリジナルの子供よりも本作の方が年齢が上の設定になっているためといえるかもしれません。オリジナルの場合、オスカルはまだ保育園に通っている年齢なのに対し、本作のルークは、小学生で、学校でいじめを受けたりしているようなのです(その点も、ジョンが計画を実行しようとした理由の一つでしょう)(注4)。



 また、本作のラストの場面もオリジナルにはないものです(注5)。
 米国映画ならではと思われますが、あたかも、最後の最後まで物語を語り尽くさないとジ・エンドとならない決まりが設けられているような感じを、この映画からも受けてしまいます。

(3)この映画では、刑務所に入っている妻のララが長年糖尿病を患っていることが重要な意味合いを持っているところ、丁度NHK番組「ためしてガッテン」の10月5日放送では、インスリン注射が糖尿病を完治させる方法として見直されていることが解説されていました。
 従来は、インスリンは糖尿病治療の最後に使うものとされていましたが(←一般にそう思われてきましたが)、実は、体質が原因でない糖尿病の場合、適当な早い段階でインスリンを注射すると、膵臓のβ細胞が元気を取り戻し、自身でインスリンを分泌できるようになって、注射の方も1か月~3か月でやめられるようになるようです。
 そして、番組の中で、専門の医師は、この治療法は従来から行われてきたものの、余り周知されてこなかったと述べていました。

 映画の場合、ララが、刑務所に入っているときに(刑が確定するまでに、3年もの時間が経過しているのですから)、きちんとした医療機関で診察を受け、こうした治療法を施されて糖尿病から解放されていれば、夫のジョンは、妻を脱獄させることが大層困難になってしまったかもしれません!

 とはいえ、7回の脱獄経験を持ち、『塀を越えて(Over The Walls)』の著者であるデイモン・ペニントン(リーアム・ニーソン)がジョンに対して、「脱獄は簡単だ。逃げ続けることが難しい(Escaping is easy, the hard part is staying free.)」と言っていることですし(注6)、きっと別のやり方をジョンは発見するでしょう(ちなみに、オリジナルでは、『脱獄人生』というタイトルの本の著者と夫が会うとされています)!

(4)青森学氏は、「この作品では典型的な脱獄劇にラッセル・クロウの男らしさが程良くブレンドされて、なかなか楽しめる佳作に なっている」として75点をつけています。
 これに対し、渡まち子氏は、「オリジナルの仏映画で、バンサン・ランドンが醸し出した、平凡で弱い小市民という風情は、クロウにはない。演技は上手いが、明らかにミスキャストだろう。とはいえ、クライマックスの、警察からの逃亡劇はすさまじい緊張感で目が離せない。爽快感さえ漂うラストのその後に付け加えた、事件の真相の小さなエピソードとその顛末が、ほろ苦い余韻を残していた」として65点をつけています。
 また、福本次郎氏は、「映画は、身に覚えのない罪で濡れ衣を着せられた妻を救いだそうとする主人公の執念を描く」として50点をつけています。



(注1)冒頭近くで、妻がトイレで足に注射をするシーンがあります。オリジナルの場合、インシュリンと記載されたラベルが付いている注射器を使うのでわかるのですが(ご丁寧に「インシュリン」との字幕も出ます)、本作の場合は、そんなラベルが付いていない通常の注射器のために、まるで覚醒剤を打っているような感じを受けてしまいます。

(注2)ただし、検査結果がPCを通して送られてくるシステムになっていれば、ジョンの計画は成立しませんし、それを搬送する車のバックドアの鍵がいつもかかっていないこと、検査結果が記載されている用紙が簡単に偽造できること、そして刑務所内の医療部門が外部との連絡を有線電話でしか行っていないことも、計画がうまくいくための必要な条件だと考えられます。

(注3)こうした夫の妻に対する姿勢の違いは、ラストの違いにも現れているように思われます。オリジナルの場合、家族が到着したグアテマラの首都は、真っ青な空と輝く太陽の下、教会などの建築物も美しい姿で立ち並んでいる街並みで、そこにたたずむ彼らからは、ここなら幸せに暮らせそうだとの雰囲気が漂っているように思えます。
 他方、ベネズエラのカラカスに逃れた本作の家族は、取り敢えずでしょうが、狭いホテルの一室に閉じこもり、ラッセル・クロウの表情も、これから味わうことになる苦難を思っているかのように沈んだ感じなのです。

(注4)ジョンが、ラストで浮かない感じになるのも、特に、幼いルークの学校教育をどうしたらいいのかということが気になるのかもしれません。

(注5)オリジナルにおいては、妻リザが無実であることが途中の映像で明らかにされていますから、こうしたラストは元々不要でしょう。
 他方、本作のラストでは、大学教授があれほどまでの計画をたてて妻を脱獄させたことに衝撃を受けたとみえて、警察の刑事がもう一度事件の現場を捜査し、ララの供述に従って、犯人が落としたはずのボタンを排水溝の蓋まで開けて探しだそうとします。結局その捜査は実りませんが、画面には排水溝の蓋の裏に引っかかっているボタンを大写しすることで、観客に、ララの無実を明らかにします。
 でも、3人の家族が飛行機に搭乗する姿を映し出すだけでジ・エンドとしても十分と思えるのに、こんな場面まで映し出すのはマッタクの蛇足ではないでしょうか?あるいはララは上司を殺していたかもしれないとの選択肢を、観客にどうして残しておこうとしないのでしょうか?

(注6)この記事を参照して下さい。




★★★☆☆



象のロケット:スリーデイズ


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (リバー)
2011-10-12 09:46:46
TB ありがとうございます。

元になったフランス映画が見たくなりました
時間的にもスピーディーさを期待してしまいます

本作はポール・ハギスらしくドラマ部分が
多かったように感じますね
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糖尿病 (KGR)
2011-10-12 10:06:45
冒頭近くのインスリン注射のシーンは確かに説明不足です。
その時は何やってんだろう?の感じでした。
検査結果で医師が焦りまくっているのを見てそう言えばって思いましたけど。
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Unknown (KLY)
2011-10-12 16:25:17
仰るとおりだと思います。
曖昧さを許さないというか、白黒ハッキリつけるというか。その方が確かに話的には疑問も残らずスッキリする場合もありますが、代わりに余韻と言うか、自分の中で「結局どうだったんだろう」と考える楽しみは無くなりますね。私はどちらもありだし好きですが、クマネズミさんのように釈然としない感じを受けられても当然かと思います。
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やはりオリジナル? (クマネズミ)
2011-10-13 19:00:07
「リバー」さん、TB&コメントをありがとうございます。
この映画は、リメイク作としてヨクできていると思いますが、やはりハリウッドはハリウッド独自のアイデアで、元から勝負してもらいたいなと思います。
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インスリン (クマネズミ)
2011-10-13 19:02:41
「KGR」さん、TB&コメントをありがとうございます。
マア後から分かるからドウデモいいようなものですが、中には事情がわからない人もいるかもしれません!
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ラストのしつこさ (クマネズミ)
2011-10-13 19:08:17
「KLY」さん、TBのみならず、わざわざこちらにもコメントをいただき恐縮です。
アメリカ映画で実話(true story)に基づく作品の場合には、必ずと言っていいほど、主人公のその後がラストで詳しく語られますが、実話に基づくものでもない本作のラストも、念押しシーンがあるとは思いもよりませんでした!
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Unknown (Quest)
2012-05-21 20:07:28
こんにちは。

ネタ元のフランス映画は未鑑賞ですが、懇切丁寧なリメイクになったみたいですね。
仰る通り、妻が冤罪なのかどうなのかはっきりさせなかった方があれこれ考えられて面白いかもしれないですね。旦那はもう間違えようのない殺人犯になってしまっていますが・・・。
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自由はどこに (クマネズミ)
2012-05-22 20:56:06
Questさん、TB&コメントをありがとうございます。
この作品の場合、妻の無実を晴らそうというよりも、妻の自由を取り戻そうという旦那の意志が物凄く強固と思われ、それだったら妻が無実だったことまで示さなくともと思いました。
それでも、旦那は、組織の者を撃ち殺してしまったのですから、地の果てまで逃げようとも安眠できない夜を過ごさざるを得ないと思われます。
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