映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

金メダル男

2016年11月08日 | 邦画(16年)
 『金メダル男』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)コメディアンの内村光良の監督作品ということで、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、チャップリン桑田佳祐出川哲朗などの言葉が字幕で引用されます。
 次いで、主人公の秋田泉一内村光良)の語り。
 「東京オリンピックが開催され、高度成長まっしぐらの1964年に、長野県塩尻市で生まれた」、「両親(平泉成宮崎美子)は同じデパートに勤めていて、慰安旅行先の旅館で合体」、「名前の泉一の“泉”は温泉の“泉”から来ている」、「幼いころはごくフツーの子供だった」。
 でも、「小学校の運動会の徒競走で転機が訪れた」。
 泉一(大西利空)は、徒競走で1位になり、女の子が金メダルを渡してくれます。
 両親が喜び、皆が拍手します。



 泉一の語り。「1等賞、素晴らしく歓喜な響き。唯一無二の存在」、「ありとあらゆる1等賞に取り憑かれた」、「私の人生が始まった」。
 そして、ここでタイトルが流れます。

 次いで、絵を描いている泉一少年が映し出され、泉一の声で、「この絵が子供絵画コンクールで金賞」、「この時、自分探しの旅に出て家にいない父について母は真剣に離婚を考えていた」。
 にもかかわらず、「私は、1等賞をとることにのめり込んでいった」として、火おこし大会、大声コンテスト、鱒のつかみ取り大会などで1等賞を取り続けます。

 小学校の教室で、先生が「将来なりたいものは?」と質問したところ、泉一少年が、「すべてのことで1等賞をとること。これが僕の将来の夢」と答えるものですから、先生は「中学に行って、ゆっくり考えなさい」と言うしかありません。

 泉一は中学に入学します。
 泉一によれば、「私の名は既に轟いていた」。
 水泳部に入った泉一(知念侑李)は、「50m無呼吸泳法」で1番を確保していましたが、ある日、1年先輩の黒木よう子上白石萌歌)の水着姿を見ようとして、溺れてしまうのです(これが最初の挫折!)。

 さあ、こんな泉一ですが、その後はどうなるのでしょうか、………?

 本作は、コメディと銘打たれているにもかかわらず(注2)、笑える要素は殆ど見かけませんでした。小学校の運動会の徒競走で1位となり金メダルをもらったことから、なんでも一番になって金メダルを獲得していこうと頑張る男の物語。とはいえ、幼い頃はいろいろ金メダルを獲得したものの、その後はうまくいかなくなり、さあどうするのでしょうかというところですが、様々の分野で主人公の頑張る姿が描かれているだけのことであって、おかしさを感じさせるシーンが殆ど見られないというのでは、『ギャラクシー街道』に感じたものを本作にも感じざるを得ませんでした。

(2)8月に開催されたリオ・オリンピックで、日本選手団は「金メダル」を12個も獲得し(注3)、マスコミで随分と騒がれましたが(注4)、ようやくそれも沈静化してホッとしたなと思ったら、本作の公開です。
 またまた“金メダル”なのかと食傷気味のクマネズミはかなり躊躇したものの、ウッチャンが作るコメディ作品ならきっとおもしろいに違いないと映画館に行きました。
 確かに例えば、高校時代の泉一は、一人で「表現部」を立ち上げて(注5)、学校の中庭で「坂本龍馬 その生と死」を演じるのですが、なかなか良く考えられているシーンでしょう。

 幼い時からそこらあたりまで、本作は、まずまずの展開を見せています。
 でも、正月のTVニュースで原宿の賑わいを見て(注6)、「東京へ行こう。そこで1番になろう」と決意して上京し、寿司屋(注7)でバイトをするなどというのは、当時ごくありきたりなコースではなかったでしょうか?
 それから、泉一は、劇団(注8)に入って役者になった後、それが挫折すると、世界に旅立って世界一を目指します(注9)。ただ、劇団の役者時代は、劇団代表に扮するムロツヨシの演技もあってまずまずなものの、その後の世界旅行は、あまりに急ぎ過ぎであり、なくもがなの感じがします。

 さらに、「手漕ぎボート太平洋横断」で遭難するも、無人島に漂着し7ヵ月経過したところで救い出され、一躍超有名人になるというエピソードが続きます。
 でもそれよりも、イベントマネージャーの亀谷頼子(注10:木村多江)と組んで漫才(注11)をやる話を膨らませた方が面白いのでは、と思ったりしました(注12)。



 総じて言えば、本作において1等賞をとろうとする話がこれでもかという具合にてんこ盛りされているところ、むしろ、ウッチャンの得意分野であるお笑いとか演劇といった分野に絞ってストーリーを展開したら、それも1等賞をその分野でとるためにどんな努力を泉一が払ったのかをも合わせて描くようにしたら、こんなに慌ただしい感じを見る者に抱かせず、またもっと笑いを誘う作品に仕上げることができたのでは、と全くの素人ながら思ってしまいました。

 ラストで泉一は、50歳を超えてなお、「これまで取り組んだことのなかった新しい分野に挑戦する」と豪語しますが(注13)、どうせやるのであれば、そんな手垢まみれの既存分野ではなく、奇想天外な新分野を創出して1等賞を目指してもらいたいものです(注14)。

(3)渡まち子氏は、「どこまでも前向きな主人公の、たくさんのエピソードをポンポンつないでいく構成は楽しいが、やはり映画はじっくりとみたいという思いと重なった」として55点をつけています。



(注1)監督・脚本は、『ボクたちの交換日記』(DVDで見ました)の内村光良
 原作は、内村光良著『金メダル男』(中公文庫)。
 原案は、内村光良作『東京オリンピック生まれの男』(一人舞台)。

 なお、出演者の内、最近では、知念侑李は『超高速!参勤交代 リターンズ』、木村多江は『くちびるに歌を』、ムロツヨシは『ヒメアノ~ル』、土屋太鳳は『るろうに剣心 伝説の最後編』、平泉成は『シン・ゴジラ』、宮崎美子は『かぞくのくに』、笑福亭鶴瓶は『後妻業の女』で、それぞれ見ました(他にも知っている俳優が大勢出演していますが、省略します)。

(注2)劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事において、内村監督は、「映画館でお客さんに笑ってもらいたくて、この映画を撮ったようなものなので、大勢の人に笑って貰いたいのが、今一番の願いです」、「コメディとして作りましたから、笑って劇場を後にしてもらえたらそれが一番です」などと述べています。

(注3)史上最多かと思ったら、この記事を見ると、1964年の東京大会や2004年のアテネ大会で日本は16個も獲得しているのですね。

(注4)極めつけは、10月7日に行われたメダリストの銀座凱旋パレードでしょう。どうして、オリンピックでメダルを獲ることにこれほど皆がこだわるのか、よくわからない感じがするのですが。

(注5)「表現部」に横井みどり土屋太鳳)が入部し、泉一と2人で鳥の求愛ダンスをするシーンがありますが、『オーバー・フェンス』の蒼井優を思い出しました。



(注6)1983年のこととされ(泉一は19歳くらい)、TVニュースでは中曽根内閣組閣が映し出されています。原宿が「若者の街」とされ、「ローラー族」が紹介されます。

(注7)寿司屋は笑福亭鶴瓶がやっていて、「俺がみっちり教えたるわ」などと言うので、泉一は「江戸前寿司なのに関西弁?」と訝しがりますが。

(注8)ムロツヨシが扮する村田が主宰する「劇団 和洋折衷」で、日本と西洋の芸術を折衷することを狙っています。泉一は「何だこの劇団は?」と思いながらも、村田はこの劇団で天下を取ると言い、泉一も、今までのように独りで一番になるというのではなく、皆で力を合わせて一番になるのだという考えになります。でも、村田(泉一と親密な仲になろうとしたものの拒否されてしまいます)が突然ニューヨークに行ってしまい、劇団は解散の憂き目に。

(注9)泉一は、ピザ大食い大会に出場したり、自転車やスクーター等による世界一周を狙いますが、ことごとく失敗します。

(注10)少女時代は、以前泉一がファンだったアイドル・北条頼子清野菜名)。

(注11)コンビ名は「東京アイランド」とされます。これは、泉一が無人島から生還したことを踏まえているのでしょうが、あるいは、木村多江の主演作『東京島』を踏まえているのかもしれません。

(注12)泉一と妻の頼子は、「MANZAI日本一」に出場しますが、スベリまくり笑いを取ることができませんでした。でも、一度の挑戦で尻尾を巻いて退散してしまうのでは、1等賞を獲得することなどもとよりできないことでしょう!

(注13)泉一は、「プロのカメラマンとしてこの後の人生を歩んでいくつもりはありません」と言って、ゴルフに打ち込んでおり、「4年後の東京オリンピックを目指している」とも語ります。

(注14)本作は、泉一の1等賞獲りを巡るお話と受け取れますが、もう一つ、泉一と両親とを巡るお話とも受け取れるように思います。
 なにしろ、小学校の時、徒競走で1等賞を獲った時に大層喜んだのが両親ですし、金賞を獲った絵のタイトルは「お母さん」、大声コンテストで「お父さん、ここにいるよ」と叫んだら、旅に出ていた父親が家に帰ってきます。さらに、高校に入って竹越(竹岡啓二)という友人ができたことを泉一は父親に報告しますし、上京する時は両親が揃って見送ります(母親は「信じてる」と言います)。また、世界旅行をする時に家に電話を入れると、母親は「あんたには何かある。思った通りに生きなさい」と励まします。はては、無人島に漂着して7ヶ月目に沖合に船を見た時、泉一が「お父さん、ここにいるよ」と叫んだら、救出されて無事に日本に帰還できますし、フォトコンテストでグランプリを獲った写真は、両親が横断歩道を渡る姿を撮ったもの。
 泉一は、ずっと一人で頑張ってきたように見えますが、結局は両親の掌の中で生きてきたようにもみえます。
 とはいえ、こうした視点から本作を見るにしても、ことさら新しい事柄が描かれているわけでもないように思います。



★★☆☆☆☆



象のロケット:金メダル男



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4 コメント

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Unknown (atts1964)
2016-11-08 07:02:11
なんでも金メダルを目指す。1番を目指すのであって2番ではないんですよね(^^)
4年後を見据えたような映画でしたが、ウッチャンらしいど根性作品でした。
こちらからもTBお願いします。
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Unknown (ふじき78)
2016-11-08 08:08:07
蓮舫「2番じゃダメなんですか?」

一番でも二番でも面白くしてくれるなら文句はない。コメディーとしては生まれたての馬みたいに足腰立たない弱さを感じます。
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Unknown (クマネズミ)
2016-11-08 18:50:32
「atta1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっさyるように、主人公は「なんでも金メダルを目指す」のですが、ただ、予選などで敗退するとすぐにその競技を放棄してしまい違う競技に移ってしまうので、「ど根性」物とは言い難いように思えました。
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Unknown (クマネズミ)
2016-11-08 18:55:05
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「コメディーとしては生まれたての馬みたいに足腰立たない弱さ」があるのかもしれません。
得意の分野で話を展開させれば、あるいは笑いを呼べるかもしれません。でも本作のように様々な分野で1番になるというだけでは、何の面白味もないように思います。
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