杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

烏百花 白百合の章 八咫烏シリーズ外伝2

2021年09月11日 | 

 阿部智里(著) 文藝春秋(出版)

人気キャラクターたちの秘められた過去や、知られざる思い。本編では描かれることのなかった珠玉のエピソード。 「オール讀物」に掲載された「あきのあやぎぬ」「ふゆのことら」「なつのゆうばえ」「はるのとこやみ」「ちはやのだんまり」「おにびさく」のほか、「かれのおとない」、さらに書下ろしを加えた全8編を収録。(内容紹介より)

 

「蛍の章」同様、本編に登場する主要人物の周囲の人間にまつわる短編で構成されています。脇キャラを知ることで主要人物にも深みが出てきますね

・かれのおとない

本編では親友の茂丸の衝撃的な死が雪哉を変えてしまいましたが、茂丸の妹、みよしの視点から兄や雪哉の思い出が語られます。彼女の嫁ぐ前日に訪れた雪哉との会話の中で、山内の平和を望む思いは同じでも、望む形はすれ違っていたのではないかと、本編を読み終えている今感じます。

 

・ふゆのことら

勁草院で雪哉の一年先輩になる一柳との出会いのエピソードが語られます。

北家領の風巻郷郷長の三男坊として生まれた一柳は、特に将来なりたいものもなく、喧嘩の強さを自慢にしていました。常に比較される垂氷郷の三兄弟、特に雪哉の意気地なさが気にくわず、彼の宮仕えの話もその出自故の依怙贔屓だと思い悪感情を募らせます。しかし、武術大会が終わった後、稽古をつけて欲しいと頼まれ二人きりになった道場で、雪哉はそれまでのへなちょこぶりをかなぐり捨てて完膚なきまでに一柳を叩きのめします。彼の怒りは、垂氷郷の不和を招きかねない一柳たちの発言に対してでした。雪哉は一柳に貴族としての責任を自覚するよう言い放ちます。一柳は、雪哉が抱える重荷に気付き、自分が恵まれた環境で育ったことを思い知り、勁草院行きを決心します。一つには雪哉が勁草院には入らないと宣言したからでもありますが、後に本編で後輩として再会することになるとはこの時点では夢にも思っていなかったのよね

 

・ちはやのだんまり

千早の妹・結が紹介したいと連れてきた男は、間に立った明留から見ても見目も態度も悪い谷間のシンという若者でした。彼の優しさが好きだという結に対し、シンは「声と顔が良かった」と言います。その間一言も発しない千早を前に結は席を立ち帰ってしまいます。明留が谷間で聞いたシンの評判も最悪でしたが、姉の真赭の薄は伝え聞きで判断せずに自分で確かめるよう諭します。そんな時、シンが明留に会いにやってきます。喧嘩して互いの性根を認め合い、シンが本当に結を想い、彼女を守っていこうとする気持ちを聞いて、明留は彼の味方をすることにします。それを真赭の薄に呼ばれて陰で聞いていた千早が、後日改めて設けた席で、二人の交際を認めるのですが、シンから「お義兄さん」と呼ばれて返した一言「貴様に義兄と呼ばれる筋合いはない!」に彼の心情がほとばしり出ているような気がしました まさしく娘を送り出す父の心境だよな~~

 

・あきのあやぎぬ

借金を残して死んだ夫のせいで家も財産も失い幼子二人を抱えて明日のお米にも困っていた環に手を差し伸べたのは西本家の次期当主・顕彦でした。彼には既に18人の側室がいて、全員に認められなければ19人目にはなれません。正妻・楓の方を始め、温かく迎えられた環ですが、その憐みを素直に受けることができず、贅沢三昧に甘んじる生活を良しとすることができずに怒りを貯めこんでいきます。それが爆発した時、側室の一人から憐みに救われ今を生きている者の気持ちを否定しないで欲しいと言われます。側室たちはただ贅沢な衣装を着て暮らしているのではなく、自分にできることをしていることに気付かされ、自分の心得違いに気付く環なのでした。

顕彦は女好きではあるけれど、心根の優しい人物で、正妻を心から愛するように側室たちにも分け隔てなく接します。側室には白髪のお婆さんもいれば年端の行かない少女もいますが、決して無理強いすることもありません。まさに広い意味での愛が全てな男なのね よくある女同士の嫉妬も皆無で、それも当主夫妻の人となりのなせる業ですね。真赭の薄や明留の性格の良さもこの両親を知れば納得です

 

・おにびさく

鬼火灯籠は山内の工芸品(照明器具)です。西家の職人・登喜司は孤児だったところを師匠である養父に引き取られ育てられましたが、不器用な自分が何故養父の目に留まったのか自信が持てずにいるうち、養父の死により「お抱え」の座を失います。蓄えも心細くなったところに、皇后のお声がかりで飾り灯籠を納める機会を得ます。皇后の好みを知ろうと中央に出かけたものの逆に自信を失い布団にもぐり込んで泣く登喜司に、養母は何故彼が養子に選ばれたのかその理由を語ります。養父は登喜司の一途さや感性を高く評価していたのです。やがて彼が作り上げた鬼火灯籠は、選者として直接出向いた皇后の目に留まります。それは養父から受け継いだ技法に彼自身のアイディアを加えた斬新で、持ち主となると推測した内親王の心の慰めになることを考えたものでした。長束の政敵と見なす日嗣の宮である奈月彦に対しては暗殺を企てる女傑として描かれる皇后ですが、内親王に対しては同じ「罪を抱える者」としてのある種の同情心があったのかなぁ?

 

・なつのゆうばえ

大紫の御前の少女時代のお話です。当然ながらどんな人にも子供の頃はあったのよね~~

陰謀蠢く南家本家の姫として生まれた夕蝉(大紫の御前の仮名)は、幼い頃から母に姫としての立ち居振る舞いや考え方を厳しく躾けられて育ちます。そうでなければ生き残れない大貴族故の宿命が切ないね。両親を慕い誇りに思う夕蝉は期待に応えようと頑張ってきましたが、嫁ぐ相手である若宮との初対面で彼の暗愚さを知り、同時に自分の容姿へのコンプレックスを抱きます。両親の死により生きる目的を失うも、矜持が彼女を支えますが、末弟に自分と同じ性質を見出しシンパシーを感じます。肉親の情以上の感情を持つように至ったことが示唆されますが、この関係が奈月彦の母や、浜木綿の両親の死に二人が関わっていたかもという疑惑にも通じる伏線にもなっているのかな。

 

・はるのとこやみ

あせびの母の浮雲のお話。あせびの出自についての疑惑は本編でも匂わせていましたが、父親が誰かが判明します。

双子の伶と倫は山烏の出ながら、楽才で東家に仕えることを許されていました。登殿の候補者選びのため開かれた梅見の宴で、浮雲の奏でる音に魅了された弟の倫は、密かに姫と合奏し心を通わせていきますが、彼の楽士としての資質は損なわれ、中央に出仕したのは伶の方でした。ある日、弟が自殺したと知らされた伶は、真相を確かめようと身を偽り下人として潜り込み浮雲の元を訪れます。そこで弟と同じ髪と目を持つ幼い姫を見た彼は、二人が愛し合っていたと確信し浮雲の前に姿を現すのですが、彼女の口から出た「あなただあれ?」という信じがたい言葉に声を失い、同時に弟は殺されたのではなく自ら絶望して死を選んだのだと気付くのです。この母にしてこの娘あり!とまざまざと思い知らされるエピソードだなぁ

 

・きんかんをにる

奈月彦と浜木綿の娘の紫苑の宮が、父と金柑の甘煮を作ります。本編でも奈月彦が雪哉にご褒美で与える場面が度々登場しますが、彼の手作りであり得意料理なのね 思わず作ってみたくなるくらいレシピが詳細に語られています
相変わらず仲の良い奈月彦と浜木綿夫婦の掛け合いも楽しく、奈月彦が父親として姫を溺愛している姿も微笑ましいです。姫の毒殺未遂事件があったこと、姫自身がそれに気づいたこと、事件を知った雪哉の怒り様なども語られていて、第二部以降での更なる展開が待ち遠しくなります。それにしても奈月彦の存在感がどんどん薄くなっていくような

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