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杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

こころのカルテ  潜入心理師・月野ゆん

2025年06月01日 | 
秋谷りんこ(著) 小学館文庫

潜入心理師、人の心の「核」に触れる。
横浜みなと大学病院で働く月野ゆんは、精神疾患をかかえた人の心の「核」に潜入し、治療をおこなう潜入心理師だ。日本で初めて人の心に潜入した潜入師で、ゆんの憧れの先輩である本城京と、精神科の看護師経験を持つ、同じく潜入師の先輩・蓮まこととともに、ゆんは今日も患者の記憶のなかへと潜っていく。
ゆんには、患者の心の「核」がどこにあるかがわかる不思議な力があった。幼いころに母親から「あんたなんか、産むんじゃなかった」と言われた記憶、いじめに加担してしまった記憶、夫の不倫発覚など、ゆんたちが対峙する患者の心の「核」は様々だ。まだ新しい資格で成り手が少ないなか、ゆんがこの仕事を志したのには、実は理由があって──。(内容紹介より)

潜入心理師は、人の記憶に直接潜入して死にたい気持ちの原因(核)を探りあてることにより希死念慮の解消につとめる架空の専門職です。もちろん患者の同意は不可欠だし、潜入する方の心理的負担も少なくはない。それでも現実にこんな専門職があったら自殺防止の効果は間違いなくありそうです。

一 渇望 28歳女性。産後うつ。幼少期の母親による虐待の記憶が「絡み」

二 圧縮 23歳女性。 中学の時にいじめの加害者。被害者の遺書を握り潰し   
た罪悪感が「絡み」

三 願望 40歳女性。夫の不倫による抑うつ状態。相手の女性への強い憎しみが「絡み」

四 贖罪 45歳男性。うつ病。家族で川遊び中に鉄砲水に巻き込まれ咄嗟に自分の息子を助けたが一緒にいた他人の子を助けられなかった罪悪感が「絡み」

五 休暇   四話の患者の治療中、自分の過去の記憶に囚われたゆんは強制排出で事なきを得たが、休むよう言われる。母親の墓前でゆんの命の恩人に声をかけられ自分が助けられた経緯を知る。

六 混乱 35歳男性。うつ病。自殺した同僚の第一発見者で、彼を助けられなかった苦しさを抱えていたが七回忌で彼の両親の憔悴した姿にその思いが再燃し希死念慮を発症。

七 自責 六話の患者と以前の職場で同僚だった本城が自殺を図って運び込まれ、急遽彼の心に潜入し、その核(自責の念)に辿り着き絡みを解くが、一緒に潜入した漣や自分の心とリンクしてしまう。

八 カンファレンス
戻って来られた3人だが、思わぬ結果に開発者の滝博士は潜入治療の中断を決める。

九 希望
潜入治療が中断されたことで、潜入師の3人はそれぞれの道を歩き始めることに。本城は実家の旅館を手伝う選択をし、漣は看護の大学院進学を決め、ゆんは滝博士の研究を手伝うことにしたと話す。

ゆんは自分だけが助かったことに罪悪感を抱いており、誰かの役に立つことで埋めようとしていました。しかし、自分を助けてくれた夫婦と再会し、彼らから「元気で生きていてくれさえすれば、私たちは嬉しい」と言われ、自分の心を縛っていたものが少し緩んだと感じます。本城の治療中に自分の絡みである母親に「私は生きていたい」と言えた彼女は、つらい過去が自分を苦しめていたことを受け止めて生きていこうとします。

治療者それぞれの中にも「絡み」が存在していて、物語が進むにつれ顕在化していきます。患者だけでなく治療者にも大きな負担となる場合もあることが判明して治療は中断されますが、研究が続けられることでより良い治療への希望が残されました。

むかし僕が死んだ家

2025年05月25日 | 
東野圭吾(著) 講談社文庫

「あたしは幼い頃の思い出が全然ないの」。7年前に別れた恋人・沙也加の記憶を取り戻すため、私は彼女と「幻の家」を訪れた。それは、めったに人が来ることのない山の中にひっそりと立つ異国調の白い小さな家だった。そこで二人を待ちうける恐るべき真実とは……。(内容紹介より)


タイトルから主人公の隠された過去の真実が明かされるのかと思いましたが違いました。7年前に別れた恋人が失くした過去の記憶を探る内容でした。主人公の「僕」は理学部物理学科の研究助手となっており、『透明な螺旋』の湯川学の過去(親戚の町医者夫婦の養子として育てられ、中一の時にその事実を知らされた直後に実母が会いにきている)と重なることから、僕=湯川学であると推察されます。

小学校以前の沙也加の記憶を取り戻す手伝いを引き受け、彼女の父が遺した鍵と地図を頼りに長野の松原湖付近に建つ「灰色の家」を訪れますが、何故か玄関は開かず、裏側から入るようになっていました。家中の時計が11時10分で止まっており、電気も水道も元々通っていないことも判明します。

この家に住んでいたと思われる御厨佑介という少年が書いた日記を読み解くにつれ、この家の謎や沙也加の失われた記憶が呼び覚まされていきます。
日記に登場する「チャーミー」や「あいつ」の正体がわかるとそれまでの「僕」の推理は逆転します。

「僕」たちが初め佑介の両親と考えていた人たちが実は祖父母だったというのは、彼らと佑介の年齢がかなり離れていることを思えば、早い段階で気付けると思います。そう考えれば「あいつ」が彼の父親であることにも思い当たるわけです。
ただ、「チャーミー」が猫ではなく佑介の異母妹の久美だったのは意外でした。

日記にはあちこちに伏線が仕込まれています。佑介が「あいつ」から虐待を受けていたことの他に、妹に対して父親が行っていた鬼畜な行為を彼が知ったことが、23年前の火事に繋がっていく展開です。

この父親はどうしようもないクズだけど、そうなってしまったのは厳格過ぎる彼の父のせいでもあります。父から認めてもらえず、その父に育てられた息子にも軽蔑の目を向けられるという状況が彼を追い詰めたとも言えます。ただそうはいっても、自分の娘にその捌け口を求めるのはやはり最低で救いようがないですね。

妹を守るため父親を殺そうとした佑介自身も火事に巻き込まれて死んでしまっていたのです。それだけではなく、一緒にいた家政婦の娘の倉橋沙也加もまた亡くなっていました。そう!亡くなったのは倉橋沙也加で、久美は祖母と動物園に行っていて無事だったのです。祖母は遺体を孫娘だと偽り久美を御厨家に恩義のある倉橋夫妻に頼み、娘として育てるよう頼んだのです。
(火事の日、何故沙也加が御厨家にいたのか、いくら恩義があるとはいえ、娘を殺された夫妻がすり替えに同意した心情など疑問点は残ります。)
また火事で焼失した筈の家がなぜ存在するのかですが、それはこの「灰色の家」が祖母が建てた墓標であり追悼だったから。そして倉橋氏はこの家=墓を守ってきたのね。彼が鍵と地図を遺したのは、いつか娘に真実を知って欲しかったからかもしれません。

沙也加=久美は、兄が父を殺そうとして死んでしまったことや父からの虐待のショックで記憶を失くしたことに気付きます。「僕」はもう少し早い段階でその事実に気付き、沙也加が記憶を取り戻して真実を知ることを危惧していました。

沙也加は娘を虐待しており、そんな自分が母親失格だと思い詰め、その原因が幼少期の記憶の欠如によると考えて、元恋人の「僕」を頼ったのですが、「僕」自身も実母と養家の間で苦しんだ過去がありました。ある種の欠落を抱えているという共通点が彼らを結びつけたということもあったかもしれません。

真実を知った沙也加はこの家で「僕」にさよならを告げます。
その後、彼女は離婚し娘を手放しますが、「僕」への手紙の中で「私は私以外の誰でもないのだと信じてこれからも生きていこうと思います。」と記しています。差出人の名前は倉橋沙也加となっていることに、彼女の選んだ道が示されていました。

さだまさしコンサートツアー2025 生命の樹〜Tree of Life〜 

2025年05月21日 | ライブ・コンサート他
2025年5月21日 17時開場 18時開演 ウェスタ川越 大ホール

2020年9月に行われたコロナ禍中でのコンサートの話をこの会場に来るといつも熱く語るさださんです。
今回のアルバムはソロ通算45作目、グレープ/レーズンを合わせると50作目の記念作品で、吉田政美との楽曲収録されているため、今回のツアーにはマチャミもステージに登場しています。(通算三度だったかな)
先月共立講堂で聴いた時もでしたが、マチャミのトレモロがもう最高です✨
グレープ時代には一度も足を運べなかったコンサートですが、ここで聴けるのは望外の喜びです。

トークは野球(ヤクルト)、グレープ結成のきっかけ、友人ネタ(死んでません)などなど。マチャミは社長として物販の宣伝に熱が入っていました。
今回初めて知ったコーラスの三人それぞれの活躍話。ミュージックフェアのテーマソング?はこの3人が歌っているとか、特にトリビアだったのが「お母さんといっしょ」の歯磨きの歌やムーミーマン(紙おむつ)のCMフレーズも歌っていたという事実です。佐田工務店のYUMA君は丁度その世代だったとのこと💛
X金箱 も続いているらしく、ツアー終了時には40万以上集まるかもと(これはスタッフの打ち上げに使う予定)

春の歌から始まり冬に移って再び春という選曲で、前回のツアーが旅だったのに対して今回は季節を巡る趣向でした。終演は20時半過ぎでした。

セットリスト
①初恋駅
②縁切寺

③桜の樹の下で
④道の途中で~ON THE WAY

⑤Tomorrow
⑥桐の花
⑦つゆのあとさき

⑧蝉時雨
⑨精霊流し

⑩さだ工務店のテーマ
⑪北の国から〜遥かなる大地
⑫案山子
⑬晩鐘

⑭雪の朝
⑮残月

⑯母標
⑰はなむけの詩

アンコール:⑱生命の樹〜Tree Of Life〜
セトリは市川と変わらないようなのでこのままいくのかな~😀

ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング

2025年05月19日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2025年5月23日公開 アメリカ 169分
先行上映 2025年5月19日鑑賞

すべての”ミッション”はここにつながる-。
映画の常識を変え、不可能を可能にし続けてきた「ミッション:インポッシブル」シリーズの集大成にして最高傑作。「ファイナル・レコニング」。トム・クルーズ演じるイーサン・ハントの運命は?そしてタイトルが持つ”ファイナル”の意味とは・・・?(チラシより)


「ミッション:インポッシブル」シリーズの第8作で、前作「デッドレコニング」から続く物語です。前作で世界の命運を握る鍵を手にしたイーサン・ハントが鍵に導かれる運命が描かれ、彼の過去も明かされます。これまで同様アクションシーンを本人が全て演じていて、潜水艦や小型プロペラ機でのシーンは最大の見どころとなっています。
イーサンの盟友ベンジー・ダン(サイモン・ペッグ)、ルーサー・スティッケル(ビング・レイムス)の他、「デッドレコニング」から登場したグレース(ヘイリー・アトウェル)、パリス(ポム・クレメンティエフ)、ガブリエル(イーサイ・モラレス)も続投しています。

前作から二か月後。
鍵を米政府に渡せば、政府が人工知能エンティティで世界を支配すると考え、どうすべきか迷っていたイーサンに、大統領からのメッセージが届きます。
エンティティが核保有国の保管庫を乗っ取り始め、世界中に核を落として人類を滅亡させようとしており、エンティティによるネットの情報操作で、エンティティ信者が激増して世界の分断が起きていました。

ルーサーとベンジーと合流したイーサンは、ルーサーがエンティティへのデジタル毒薬を作ったことを知ります。
ガブリエルの居場所を突き止めるために服役中のパリスから情報を引き出そうと 刑務所へ潜入したイーサンとベンジーは、パリスを脱獄させ、CIAエージェントのドガも仲間に引き入れます。

パリスからロンドンのアメリカ大使館 のパーティーにガブリエルが来ると聞き潜入しますが、そこに現れたグレース共々ガブリエルの部下に捕まってしまいます。ガブリエルのアジトでの拷問を回避した二人ですが、ガブリエルには逃げられます。ガブリエルがエンティティと交信するために使っていたポッドを発見したイーサンは、エンティティを阻止しようとすれば仲間が死ぬヴィジョンを見せられ、南アフリカにあるオフラインサーバーに侵入してエンティティのデータを入れろと要求されます。イーサンは仲間と世界の両方を救うと決意します。

前作で鍵の奪回に失敗しエンティティに見限られたガブリエルは、潜水艦セヴァストポリからエンティティのソースコードが書かれた「ポドコヴァ」を回収しエンティティを支配しようとしていました。ルーサーからデジタル毒薬を奪った上で罠にかけます。ルーサーの自己犠牲により街は救われますが、イーサンは大切な仲間を喪ってしまいます。

大統領や上層部の面々と会ったイーサンは、エンティティを止めるためにポドコヴァの鍵と空母の命令権を要求します。上層部は反対しますが、大統領はイーサンに1通の手紙(空母の指揮官宛て)を渡し申し出を了承します。

空母からオスプレイでロシア軍とアメリカ軍の境界にいる潜水艦に合流し、耐圧訓練を始めたイーサンをエンティティ信者が襲いますが事なきを得ます。

一方で、ベンジーたちは古いソナー機がある基地を訪れ、潜水艦の座標をイーサンに伝えます。ここでウィリアム・ダンローに再会。彼は1作目の金庫潜入の時のCIA職員(ナイフのシーン)で左遷されていたのね。同じ目的でやってきたロシア兵とのバトルではグレースとパリスが活躍します。
その最中、ダンローは無線機のモールス信号でイーサンに座標を伝達します。
ダンローの妻とグレースはイーサンが潜水から戻った時の即席減圧室を用意し準備を整えます。

セヴァストポリへの潜入に成功したイーサンは様々な障害を乗り越え「ポドコヴァ」を回収しますが、潜水服と酸素ボンベを失い水中で意識を失くします。
次の場面では浮上したイーサンを引き上げたグレースが心肺蘇生して生還してますが、極寒の海中(しかも深い)に裸で出たら1秒と保たずに死んじゃうぞ😨 

ここまでで1本分の作品の尺ですが、本番はこれからなのね~。

エンティティは核で人類を滅亡させた後で自分は保管庫のサーバーに入り生き残ろうとしていました。保管庫に到着したイーサンたちは、敢えてポトコヴァをガブリエルに渡して彼がデジタル毒薬と組み合わせるよう仕向け、エンティティが保管庫と間違えて用意した光学ドライブに入る作戦を実行しようとします。
しかし、CIAのキトリッジ(ヘンリー・ツェーニー) たちが現れて戦闘になり、ベンジーが撃たれ、ガブリエルに逃げられてしまいます。ガブリエルが仕掛けた核爆弾の解除を担当したダンロー夫妻とドガと、イーサンがポトコヴァを取り戻し毒薬を仕込み混乱したエンティティが光学ドライブに入るタイミングでグレースがドライブを抜いて閉じ込める作戦は成功し、人類は滅亡から救われます。

ガブリエルを追って小型飛行機上で繰り広げられるアクションはまさに命がけでスリル満点。小型機にしがみついて操縦席に移動 するなどありえない展開の中、見事にミッションを遂げたイーサンは、ルーサーが残した最期のメッセージを聞きます。

核のボタンを巡る大統領の判断は、人類の絆が試されるシーンになっていて、結果的に人の絆がAIに勝つ展開になっています。そうあって欲しいという製作者の願いが込められている気がします。
これまでのシリーズに登場する出来事が今作に繋がり、イーサンが行ってきたミッションの是非が問われますが、今作で答えが出た感じかな。
シリーズ登場人物の相関図が欲しいところです😁 
そして、本作で完結かと思いきや新たなミッションが・・・まだ続くのね~~😱 

ザ・ワイルド

2025年05月16日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
1998年5月30日公開 アメリカ 115分
2025年5月13日(火) テレ東 午後のロードショー放送

大富豪のチャールズ(アンソニー・ホプキンス)は仲間たちとアラスカ旅行に出掛けた。ファッションモデルをしている若く美しい妻ミッキー(エル・マクファーソン)は仕事も兼ねてカメラマンのロバート(アレック・ボールドウィン)も同行させる。現地の老人スタイルズ(L・Q・ジョーンズ)の山小屋で荘厳な自然の美しさを満喫する一行。スタイルズの友人のインディアンの写真を見たロバートはぜひとも彼をモデルに使いたくなり、インディアンの住む山小屋まで行かないかとチャールズを誘った。ところが彼らを乗せた水上飛行機は渡り鳥の群れに突っ込み墜落、チャールズ、ロバート、カメラ助手のスティーヴ(ハロルド・ペリノー)はなんとか助かったもののパイロットと機体は湖に沈んでしまった。チャールズの博学と冷静な判断を頼りに3人は焚き火をして暖をとりつつ山を下りていく。しかし極限状況下での協力は容易いものではない。ロバートとスティーヴはチャールズの知識に裏打ちされた落ち着きぶりに次第に反感を強めていき、チャールズもまた前からなんとなく感じていたロバートとミッキーが不倫関係にあるのではないかという疑惑が頭から離れなくなっていた。そんな中、獰猛な熊が襲ってきた。なんとか逃げ延びた3人だが、怪我をしたスティーヴの血の匂いを追ってきた熊は彼を喰い殺す。捜索隊のヘリコプターも彼らの頭上を通り過ぎて行き、ロバートは恐怖と絶望から半狂乱になる。そんな彼を慰めながらチャールズは黙々とサバイバルを続けるのだった。人の肉の味を覚えた熊はふたりを執拗に追いかけてくる。とうとうチャールズは熊に正面から闘いを挑むことにした。ロバートも生き残るために倒木で作った槍を手にする。激しい死闘の末、チャールズは熊を殺す。久しぶりの食料と毛皮で作った防寒具を手にして勝利の喜びを噛みしめるふたりは意気揚々と脱出行を再開した。だがチャールズはひょんなことからロバートとミッキーの不倫の決定的な証拠を発見してしまう。彼の腕時計の裏蓋にミッキーからの愛の言葉が刻まれていたのだ。ロバートは狼狽するチャールズを殺そうとするが、熊捕り用の罠に嵌まって大怪我をする。チャールズは迷いながらもロバートを助け、一緒にカヌーで川を下っていく。ロバートは自分の行いを悔い、ミッキーが本当に愛しているのはチャールズだけだと告げる。捜索隊のヘリがふたりを発見した時、彼は息を引き取った。救出されたチャールズは彼を迎えるミッキーを何も言わずに抱きしめた。(あらすじ紹介より)


アンソニー・ホプキンスといえばレクター博士を連想してしまいます。知的で冷静なキャラは本作でも遺憾なく発揮されていますが、大富豪という位置づけが何だか嫌味に感じられてしまう冒頭部分。
遭難して早い段階で、助手のスティーブが自ら負った怪我が元で人食い熊に襲われ退場。雨の中、血の匂いを嗅ぎつけることが可能かどうかは置いといて、ロバートがチャールズの指示に背いて血の付いた着衣を土中に埋めずに木に引っ掛けていたのがそもそも悪いのだけどね。

人食い熊から逃げるという極限状態に陥った二人。窮鼠猫を噛むじゃないけど、逆に熊に反撃を開始します。壮絶なバトルの末、熊は殺され、肉と毛皮を得た二人は廃墟となった山小屋を見つけるのですが、そこでチャールズは妻がロバートにも愛の言葉を刻んだ時計を贈っていたことを知ります。

それに気づいたロバートがチャールズに銃を向けるのですが、伏線として登場していた熊の罠(落とし穴)に落ちて重傷を負うのね。チャールズは瀕死の彼と共にカヌーで川を下ります。死の間際、ロバートはチャールズにミッキーが愛しているのはチャールズだけだと告げます。そこへ救助ヘリ到着。

経験はないけれどサバイバル知識は豊富という無類の本好きな設定が生きています。
そこに年若い美しい妻への愛と疑惑に苦悩する初老の男という人間味が加わり深みを与えていました。
地位も金もある男が、そこに群がる周囲の人たちを信用できなくなり、妻さえも財産目当てではないかと疑ってしまう孤独な内面を、さすがの演技で魅せるアンソニー様でした。ロバートが最初からチャールズの殺害を企てていたとは思えず、成り行きだったと感じたのですが、彼は逆にチャールズの孤独を憐れんでいた気がしました。

パディントン 消えた黄金郷の秘密 (字幕版)

2025年05月13日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2025年5月9日公開 イギリス 107分 G

ロンドンでブラウン一家と平和に暮らしていたパディントン(声:ベン・ウィショー)のもとに、故郷から1通の手紙が届く。育ての親のルーシーおばさん(声:イメルダ・スタウントン))の元気がないというのだ。パディントンとブラウン一家が休暇をとってペルーへ行くと、ルーシーおばさんは失踪、里帰りは一転、彼女を探す冒険へと変わる。だが、都会暮らしになれてしまい野生の勘を失ったパディントンは次々と大ピンチに遭遇。果たしてルーシーおばさんを見つけることができるのか? そして、パディントンを待ち受ける「消えた黄金郷の秘密」とは?(公式HPより)


イギリスの小説家マイケル・ボンドの児童小説を実写映画化した2016年、2018年に続く「パディントン」シリーズの三作目は、パディントンの生まれ故郷・南米ペルーを舞台に、大切な家族を探しながら繰り広げる大冒険が描かれます。また、今作で初めてパディントンのルーツが明らかになります。

おばさんに会いに、パディントンとブラウンさん(ヒュー・ボネビル)一家は、はるばるペルーの老ぐまホームへ向かいますが、到着早々、院長(オリヴィア・コールマン)からおばさんがいなくなったと報告を受けます。
冒頭のパディントンたちを迎える準備をする老ぐまホームの院長たちが踊りながら歌うシーンは「サウンドオブミュージック」のオマージュ?
眼鏡と腕輪を残して失踪したルーシーおばさんの手掛かりは部屋に残されていた地図ですが、実はこれはある人物の罠だったのね。
地図が示すインカの黄金郷はジャングルの奥地にあります。

バードさん(ジュリー・ウォルターズ)はホームで留守番をすることになり、パディントンとブラウンさん、ブラウン夫人(エミリー・モーティマー)、ジュディ(マデリーン・ハリス)、ジョナサン(サミュエル・ジョスリン)はハンター・カボット(アントニオ・バンデラス)船長と彼の娘のジーナ(カルラ・トウス)に案内してもらうことになるのですが、実はハンターは黄金郷を探し続ける一族の子孫だったのです。

先祖の妄執に囚われて娘を置き去りにしたハンターでしたが、自分も川に落ちてしまいます。操縦者を失った船は転覆、ジャングルを歩いて向かうことになりますが、パディントンの野生の勘は鈍っていて道に迷い、パディントンは一家とはぐれてしまいます。
一家はジーナと、パディントンはハンターと再会するのですが、黄金郷の入り口を見つけたパディントンにハンターが襲い掛かります。「インディ・ジョーンズ」を連想させる大岩に追いかけられるエピソードはピンチなんだけど何だか楽しい。

一方、ホームの怪しい小部屋を発見したバードさんは院長と飛行機で一行の救出に向かうのですが、実はこの院長はハンターの従姉妹でした。おばさんの腕輪が黄金郷の手掛かりと気付いた彼女がおばさんを川に流してパディントンに探させようとしたのです。
院長の魔手から逃れ、一行は腕輪の鍵を使って黄金郷に入ります。
そこはオレンジがたわわに実るユートピアでした。ルーシーおばさんもここのくまたちに助けられていました。そしてパディントンのルーツはこの黄金郷だったのです。

おばさんや仲間のくまたち楽し気なパディントンに一家は別れを覚悟しますが、彼はロンドンで一家と暮らすことを望みます。黄金郷は故郷でありブラウン一家は「家族」だと彼は言います。

先祖の妄執より愛娘=家族を選んだハンターもまずはめでたし。
一方院長は罪を許されますが、転属先が北極の老ぐまホームというオチでした。😁 
パディントンも家族=ブラウン一家を選んだわけで、今作のテーマになっているようですね。

君たちはどう生きるか

2025年05月03日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年7月14日公開
2025.5.2 よる9時〜11時39分放送 金曜ロードシネマクラブ

舞台は第二次世界大戦中の日本。主人公の少年・眞人(山時聡真)は、火事で最愛の母親を失い、父・勝一(木村拓哉)と共に東京を離れ、疎開先の大きな屋敷に引っ越すことに。しかし、新しい環境になじめず、複雑な感情を抱える眞人は、屋敷で出会った不思議な青サギ(菅田将暉)に導かれ、大伯父(火野正平)が建てた古い塔へと向かい、もうひとつの世界へ迷い込む…。 
その世界で出会ったのは、漁師の女性キリコ(柴咲コウ)、火を操る謎の少女ヒミ(あいみょん)、そして眞人を追う奇妙なインコたち。やがて眞人は大伯父と出会い世界の秘密を知ることに…。 (公式HPより)


眞人が父と引っ越してきたのは「青鷺屋敷」です。和洋折衷の屋敷と7人の老婆たち(声をあてているのが大竹しのぶ、竹下景子、風吹ジュン、 阿川佐和子と豪華な顔ぶれ)、執拗に眞人を見つめるアオサギが不気味さを醸し出します。
軍事工場を営む父は、亡き母の妹・夏子(木村佳乃)と再婚しています。新しい母に馴染めず複雑な感情を抱く眞人は、新しい学校でも馴染めず初日から喧嘩を仕掛けられます。その帰り道、自ら石で頭を打って血を流しながら帰宅した彼をみた父は学校に抗議に出かけ、眞人に学校に行かずとも良いと言います。自傷行為と心を閉ざす少年…苦手なタイプだな😒 

家に引き籠る眞人の前に、アオサギから人間に姿を変えたサギ男が現れ、その導きのまま生と死が混然一体となった世界へ足を踏み入れていきます。きっかけは屋敷からいなくなった夏子を探しに行くのですが、この不思議な世界では老婆の一人、キリコが若い姿で登場して眞人の導き手(守り手)となります。アオサギはこの世界への案内人の役なのかな。

墓の門を開けた眞人がペリカンに襲われているところをキリコが助け連れ帰りますが、眠っている彼を取り囲むのは6体の老婆の人形です。この世界の不思議キャラのワラワラ(滝沢カレン)は生まれる前の命。魚を解体した肉を食べたワラワラは螺旋を描いて上昇していきます。上すなわち生者の世界ですね。
ペリカンがワラワラを食べようとやってくると、ヒミが現れて手から花火を打ち出して退けるのですが、その火により一部のワラワラも燃えてしまいます。全てが生を得るわけではないというのがなかなかリアルな描写です。
色々深読みできるキャラですが、その姿がとっても愛らしいの。「トトロ」のまっくろくろすけや「もののけ姫」のこだま同様の癒しキャラでした。

瀕死の老ペリカン(小林薫)の最期の言葉は一族の呪われた運命を憂いたものでした。彼らもまた不条理な立ち位置に苦しんでいるということかな?
眞人とヒミを捕らえて食おうとするインコたちも登場しますが、なかなかにリアルだったペリカンやアオサギとは異なり、カラフルでアニメちっくです。なのにけっこう獰猛でギャップが激しいの。

ヒミが眞人に用意したパンにはバターとたっぷりのジャムが塗られています。ヒミの恰好もザ・ジブリ感のあるフリルたっぷりの装いで、母が生きていればこんな朝食風景だったろう明るさがあります。

夏子を見つけた眞人ですが、彼女から拒絶されてショックを受けます。「出ていって!あなたなんか大嫌い!」のセリフは彼女の本心であると同時に、出産を控え無防備な姿を目撃されたことへの狼狽でもあったかもしれません。

眞人は昔失踪したと言われている大伯父とも会います。仕事を継いで欲しいという彼の机の前には白い積み木があります。この世界の均衡を保つ役割を引き継ぐことを望む大伯父でしたが、眞人にきっぱり断られると、落胆するでもなく受け入れちゃうんですね。それに激怒したインコ大王(國村隼)が積み木を崩したことで世界の崩壊が始まります。

脱出しようと扉の前に立つ眞人。
アオサギと夏子も合流し、一緒の扉から外(上の世界)へ。
キリコとヒミはそれぞれ別の扉へ消えていきます。
戻れば火事で死んでしまうという眞人に、彼を産むために戻ると言うヒミ。炎に焼かれることより子供に会える喜びの方が何倍も大きいと言った母の言葉は、母を助けられなかった罪悪感と喪失感に閉ざされていた彼の心を解き放ちます。

眞人のポケットには、キリコの人形とあちらの世界の石が入っています。キリコはどちらの世界でも眞人を守る存在なのでしょう。
石は眞人の記憶を留める要素かな?それでも時が経てば忘れていくだろうとアオサギは思います。それで良いのだと。

大伯父の創り出した世界を宮崎駿自身に当てはめて考える向きもあるけれど、アニメにおいて小難しい哲学とか思想は要らないと個人的には思います。単純に物語を楽しみたいし、そこに作者の意図を汲むことを強いられたくはない。映画は上映されたら作り手を離れ観客に委ねられるべきだと思うのです。

ドライドンの曙 グイン・サーガ149

2025年05月02日 | 
五代ゆう(著) ハヤカワ文庫

かつて中原一の繁栄を誇った国家パロであったが、ヤンダル・ゾッグの魔道的侵略によって疲弊し、ついに首都クリスタルは壊滅した。また、イシュトヴァーンの介入を許してしまい、リンダの安否も定かではない。この状態を打開すべく、沿海州からの遠征隊が組織される。ドライドン騎士団はカメロンの仇イシュトヴァーンを討つべく、ヴァレリウスは国とリンダを案じ、ともに船でアルゴ河をさかのぼってゆく。パロを目指して。(内容紹介より)

前作の表紙はイシュトで今作は・・レムス??か~なり久々の登場ですね。
タイトルからブラン、マルコらドライドン騎士団の活躍がメインかと思ったら、同行するヴァレリウスの葛藤に重きが置かれていました。アッシャの「気」を取り込んでそこそこ強大な魔力を繰り出すヴァレちゃんです。

第一話 河を上る
ドライドン騎士団一行は、沿海州から南へ下ってアルゴ河を遡上し、アルゴス、カウロス領内を通りながら上流のダル湖を目指します。副長のブラン、復讐に燃えるマルコ、何を考えているかわからないファビアンら総勢50名の騎士と、「あのお方」のことでメンタルボロボロのヴァレリウスと師匠を心配するアッシャの旅は、ファビアンの挑発による喧嘩騒ぎ以外、まずは順調に進みます。しかしイシュトバーンが既にクリスタルパレスを去ったという噂を知った一行は、梯子を外された感で内心忸怩たるものがあるようです。

第二話 カラヴィア、マルガ
ダネイン大湿原を越えた一行はカラヴィア経由でパロに入ります。カラヴィアは魔物の被害は薄かったようです。息子を溺愛していたカラヴィア公アドロンは息子の捜索をヴァレリウスに懇願します。

第三話 美貌のもの
クリスタルパレスの封印を解いた途端、ヴァレリウスとアッシャは、カル・ハンに飛ばされ騎士団と引き離されます。魔道師の鬼火に導かれ辿り着いた先にいたのはナリスその人。彼はヤンダルの魔道により死んだ身体の一部から再生されたことを認めた上で、ヤンダルの目的はナリスを使って古代機械を操作することだったが、生前のナリスによりシャットダウンされた機械は今のナリスを受け付けなかったと言います。パロへの忠誠や愛情を失くしているナリスは、あらゆる桎梏から自由になり、ただ宇宙生成の真実を知りたいだけなのだと語って「最高の股肱」として、再び忠誠を捧げることをヴァレリウスに求めます。(ちなみに竜王により彼は自殺することができず傷や毒にも影響を受けない身体になっています。)
それを聞いたヴァレリウスは、このナリスはかつて自らが愛情と命を捧げた人物とは、全く異なると確信します。ヴァレちゃんが惹かれたのは「孤独な小児の魂」を持ったかつてのナリスであって、現在のナリスはその残滓に過ぎないと告げ袂を分かつことを宣言したのです。ヴァレリウスの中でずっとわだかまっていた迷いがふっきれた瞬間ですね。

 第四話 救出と破壊
淫魔ユリウス登場。めんどりぴよぴよと言われたってブランには意味不明だよな~。
騎士団から抜け出したファビアンは古代機械に近づきボルゴ・ヴァレンが持っていたような謎の道具を使って開こうとしますが、シルヴィアを探してやってきたパリスの邪魔が入ります。(邪魔が入らなくても開かないだろうけどね。)彼が誰の命を受けて動いているのか、あとがきに書かれた古代機械がパロ以外にも存在する可能性を考えると別角度からの検討もありですね。
水晶宮の結界を逃れたヴァレリウスはリンダの救出を諦め、白亜宮のレムス救出に向かいます。竜頭兵や銀騎士を次々倒していくヴァレ&アッシャ師弟の魔道師の本領発揮です。
発見されたレムスは、ジェニュア神殿地下で会ったアルカンドロス王は本物ではないとの疑念を持ちながら戴冠したことを告白します。この時既にヤンダルの介入が示唆されていますね。
自分は生きているべきではないと脱出を拒むレムスを連れ出すヴァレちゃんですが、この後のレムスの運命はどうなっていくのかな?

竜頭兵の孵化場の中心にある物体の破壊に力を合わせるブランとヴァレリウスの場面で終わる本作の続きが待たれますね。

トーラスの炎 グイン・サーガ148

2025年04月30日 | 
五代ゆう(著)ハヤカワ文庫

ドリアン王子が攫われたとの知らせを受けたイシュトヴァーンは、急遽クリスタルを出てイシュタールに引き返す。旧モンゴールの徒が、ドリアン王子をアムネリスの血を引く正統なゴーラ王として擁立し、トーラスを占拠してイシュトヴァーンの王権を否定したのである。ついに上がった反乱の狼煙に、イシュトヴァーンは激怒し、自ら軍を率いてトーラスへと進軍する。モンゴールのかつての都、トーラスに戦火の嵐が迫っていた。(内容説明より)

宵野ゆめと二人体制だった続編が五代ゆう一人の執筆になっていたのね~~。(宵野氏は病気療養で離脱したそう)
141巻『風雲のヤガ』:2017年4月
142巻『翔けゆく風』:2018年1月
143巻『流浪の皇女』:2018年5月
144巻『流浪の皇女』:2018年11月
145巻『水晶宮の影』:2019年5月
146巻『雲雀とイリス』:2019年10月
147巻『闇中の星』:2020年7月
そして今作が2022年11月の刊行です。

うっかり137~140巻をまた借りてしまったのですが、検索したところ『雲雀とイリス』を除いて読了してました。146巻だけは図書館になかったんだよな~(泣)

第一話 黒い炎
モンゴール残党の蜂起を知らされたイシュトバーンはすぐさまクリスタルを引き払ってゴーラに帰還し、3万の討伐軍を引き連れてトーラスに向かいます。俺にたてつく奴らは容赦しないと、まさに鬼神の勢いの彼の前に、ガイルン砦はあっけなく陥落。イシュトの前に現れたカル・ハンはナリスの使いと言って残党軍が旗印としているドリアンが偽物だと告げます。 
5千の兵を率いてトーラスに向かうイシュトを迎え撃つのはアリオンの2万の軍勢でしたが、これもあっさり撃破され、アリオンは金蠍城へ退却を余儀なくされます。
トーラスではホン・ウェンが偽ドリアンを連れて逃亡。その際アリサは同行を断り残ります。モンゴール軍は反乱の大義名分を失います。
「煙とパイプ亭」ゴダロ一家が気になりますが、息子のダンが一家で避難を決意したのでまずは一安心かな。

第二話 進撃
第三話 トーラス炎上
トーラスに入った追討軍は、市街に火をかけた上で籠城する金蠍宮のモンゴール反乱軍を血祭にあげていきます。捕らえたアリオンとハラスはイシュタールに連行され拷問の末に処刑する腹積もりのイシュト。イシュトの前に引き出されたアリサは、本物のドリアンがアストリアスに攫われたことを話してしまいます。ミロク教徒って嘘がつけないのね。残虐非道なイシュトだけど女子供には手をかけない、というか何故かできないようです。ドリアンには一片の愛情も持てないイシュトですが、フロリーの産んだもう一人の息子のことを思い出してしまうんですね~。これはやばいことになりそうな・・。
舞台はヴァラキアに移ります。
フロリー親子(スーティとリアことドリアン)に別れを告げたスカールは、ドライドン騎士団に同行してクリスタルを目指すことに。
アグラーヤ王ボルゴ・ヴァレンと、ライゴール評議長アンダヌスの密談で登場する古代機械の鍵のようなものの意味はまだ不明。ドライドン騎士団のイシュトへの復讐心を利用するボルゴ・ヴァレンの目的は?その会話を盗み聞くのはファビアン。彼の正体も謎ですが、その胡散臭さはブランも見抜いています。

第四話 なきひとへの哀歌
ケイロニアは『ケイロンの絆』で発見された白金鉱脈により経済が回復しつつあります。ラカント伯に幽閉されていたアクテと子供たちはグインの保護の下にありますが、ディモスの裏切りの理由がわからず困惑する面々。
アンテーヌ侯の子息、アウルス・アラン(アクテの弟)はシルヴィア探索の旅に派遣されることになり、アウロラに報告に行った際、思わず恋心を告白しますが、異母弟と知る彼女はもちろん拒絶します。でも真実を知らない恋する男は諦めないよな~~。

マリウスはトーラス炎上を知りゴダロ一家を探しに行こうとして止められます。内政干渉になるのでこの件に口を挟まないというグインに突っかかっていくマリウスが城を抜け出さぬようドルニウスの監視を付けるグインです。
マリウスには告げないと決めたグインですが、リギアには「アルド・ナリスを名乗る人物」のことを話します。衝撃を受けたリギアは激しく動揺します。ナリス様の存在の大きさが改めて浮き上がる感じですね。

本作ではイシュトバーンの人間離れした悪鬼のような振る舞いに嫌悪感が増していきます。陽気な傭兵だった彼のあまりの変わりようはまさにドールに魅入られたかのよう。その末路は決して安らかなものにはならないだろうと思うと哀しくなってきますね。


みかづき

2025年04月27日 | 
森絵都(著) 集英社(発行)

小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い――。昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編。(内容紹介より)

モデルになったのは、業界の先駆けとなった進学塾「市進学院」です。

第一章 瞳の法則
昭和36年。
大島吾郎は小学校の用務員ですが、授業についていけない子供たちに請われ勉強を教えていました。教え上手との噂を聞きつけた赤坂千明は、娘の蕗子を送り込んで彼の能力を確認した上で塾講師にスカウトします。その手段がかなりえげつないし、吾郎の女性に緩い性癖にも眉を潜めてしまったのだけれど、教育者=聖人君子とは限らないわけです。

第二章 月光と暗雲
昭和39年。千明と吾郎は結婚し、学習塾「八千代塾」を立ち上げて3年が経ちます。まだ世間は塾に懐疑的で娘の蕗子も塾子とからかわれる日々です。
大手塾の進出に対抗するため、千明はライバル塾の勝見と手を組もうとしますが吾郎は乗り気ではありません。
家族で出かけた束の間の休日は谷津遊園。(京成電鉄が運営していましたが昭和57年に閉演し現在は習志野市営の谷津バラ園 として残っています。)そこで蕗子の魂の叫びと親の職業のことで子供にみじめな思いをさせたくないという妻や義母・頼子の思いを知った吾郎は、勝見と会い教育への情熱を共有することになります。

第三章 青い嵐
勝見と「八千代進塾」を始めて7年。次女の蘭と三女の菜々美 が生まれています。
自主性を育むという理念のもと、知識の詰め込みより知的探求心を引き出すことに重きを置いているというのが素直に良いなと思います。講師には教え子の東大生や学生運動に熱心な上田、優秀な国分寺がいます。次女の蘭は自我が強く母親似。蕗子は母の忌み嫌う学校教師の道を選びます。妻との会話に教育以外の話題が上がることはなく、吾郎の心の隙間に古本屋の店主の娘・一枝が入り込みます。
TVの特集で塾を取り上げられ、期待を込めて放送を見守る面々ですが、流れたのは相談役の頼子の談話のみ。このエピソード笑える~~

第四章 星々が沈む時間
昭和54年。吾郎の著作「スホムリンスキーを追いかけて」が話題となり時の人となります。(執筆にあたり一枝との仲が深まったのですが、後に関係は解消されます。でも千明は感づいていたのよね~~。)
4年前、勝見は現役教師を引退し塾を去っています。蕗子が何か悩みを抱えている様子を心配する吾郎ですが、講師の引き抜きや蘭の怪我などトラブルも続き、また頼子が還らぬ人となり、遂には方針の違いから吾郎が塾長を退くことになります。
塾は学校の勉強を補助するものと考える吾郎と、公教育に疑問を抱き、進学塾として自社ビルを建て事業拡大を進める千明との溝は埋めがたいものになっていました。

第五章 津田沼戦争
昭和59年。中学受験ブームの中、津田沼に塾が増殖し同業者からの嫌がらせや塾講師たちのストライキ、文科省の圧力などの様々なトラブルが降りかかります。
事務員となっていた蘭の能力は高いのですが、その姿勢に一抹の不安を覚える千明。
蕗子は吾郎が塾長を退き姿を消した後、母と袂を分かっています。上田と結婚し子供が生まれたことを偶然出会った一枝から聞いた千明は、思い切って電話しますが・・。
勉強嫌いな菜々美は進学しないと千明に宣言しますが、吾郎に言われて翻意し高校受験を決めます。三女の言葉に触発され千明は私立学校創設を思い立ちます。

第六章 最後の夢
語学留学中の菜々美からの手紙を胸に、秋田に住む蕗子を訪ねた千明は私立学校の運営を考えていると打ち明け、蕗子の助力を請いますが拒否されます。蘭子もまたその話が危ないことを理詰めで千明を説得し、彼女の夢は終わります。
文部省の泉から協力を求められ困惑する千明。昔蕗子が泉から求婚された時に反対していたことが明かされます。家柄の良いエリートとの結婚は不幸を招くとの母心からでした。蕗子と疎遠になっていたのもこれが原因だったのね。
夢破れ元気のない千明に、国分寺は用務員室を補習教室にすることを提案します。

第七章 赤坂の血を継ぐ女たち
夫を亡くした蕗子は長男・一郎と長女・杏と千明の家で暮らしています。
平成5年に始まった塾生への補習授業も7年目に入っています。
千明は塾長の座を国分寺に継いで欲しいと考えますが、彼は蘭が継ぎたいのではと言います。その蘭は力試しをしたいと「オーキッドクラブ」という塾を立ち上げていましたが、講師と生徒のスキャンダルが持ち上がったことで教育から退く決意をします。その最中千明が病に倒れます。退院の日、千明を迎えにきた国分寺は塾に連れて行き、吾郎が補習授業を代わっていたことを打ち明け、彼に塾長の座に戻って欲しいと言います。
菜々美が娘のさくらと帰国します。蘭は恋人の佐原修平を紹介します。

第八章 新月
平成11年。
千明の入院がきっかけとなり再び手を取り合った千明と吾郎でしたが、バブル崩壊で経営は悪化し都内から撤退しています。その後千明は病死しています。
この章では蕗子の息子の一郎を軸に語られます。祖母とソリが合わず教育業界から足を遠ざけていた彼は、あることをきっかけに教育と向き合うことになります。
彼が選んだのは塾に行く金銭的な余裕のない家庭(シングルマザー)のこどもを無償で教える学習支援の会「クレセント」の活動です。ボランティアの教師を募り、国分寺の協力で研修を受けさせ、最初こそ生徒集めに苦労しましたが、やがて軌道に乗っていきます。生徒数が増えると教える側の負担も増すのですが、スポンサーを名乗り出てくれた人たちの支えもあって順調に活動しています。
祖父・吾郎が記念祝賀会の場で語る「満月たりえない途上の付きを悩ましく仰ぎ奮闘を重ねる教育現場」というフレーズが響きます。タイトルにも繋がっています。

親子三代にわたり教育に真剣に向き合ってきた家族。それぞれ理想とする道は違ったかもしれませんが、その中心にあるのは子供たちへの熱い想いでした。
公教育が太陽で塾が月との例えは、千明と吾郎の関係にも当てはまりそうです。
気になったのは官僚の中に根強く残る選民思想でした。世代交代が進んできたとはいえ、戦前からのこの考え方は国の舵取りをする一部のエリートに主を置いたもので今後も根底に居座る気がしてうすら寒い思いになります。

図書館のお夜食

2025年04月24日 | 
原田 ひ香 (著) ポプラ社(発行)

東北の書店に勤めるもののうまく行かず、書店の仕事を辞めようかと思っていた樋口乙葉は、SNSで知った、東京の郊外にある「夜の図書館」で働くことになる。そこは普通の図書館と異なり、開館時間が夕方7時~12時までで、そして亡くなった作家の蔵書が集められた、いわば本の博物館のような図書館だった。乙葉は「夜の図書館」で予想外の事件に遭遇しながら、「働くこと」について考えていく。(内容紹介より)


読書仲間のお薦めで手に取りました。
本は好きで小中時代は図書館に入り浸っていた身としてはなかなか興味深いタイトルですが、お夜食??と思ったら物語の舞台は所謂普通の図書館じゃなく夜だけ開館している設定なのね。通常の貸し出しはしておらず、館内での閲覧のみ、しかも亡くなった作家の所蔵本だけが収められているというかなり特殊な場所です。そこで働くことになった乙葉の目を通して語られる日々がお夜食に出される作家の作品ゆかりのメニューと共に綴られていきます。

第一話 しろばばんばのカレー
乙葉が働くことになった図書館の職員、管理人の篠井、受付の北里、渡海、みなみ、蔵書整理室の亜子と正子、食堂の木下、掃除の小林が紹介されます。
木下は元カフェ店長で、この夜のまかないは井上靖の小説「しろばんば」に登場するおぬい婆さんが作るカレーを再現したもの(大根が入っていて肉はコンビーフ)。食後の水出し珈琲も時間をかけて抽出したもので、読んでいるだけで美味しそうな香りが想像できます。

第二話 「ままや」の人参ご飯
元警官で図書館探偵の黒岩は警備員の役割。
作家の田村淳一郎が突然押しかけてきて、先日亡くなった友人の作家・白川忠介の蔵書を見せろと我儘な無茶ぶりを要求します。強引さに押し切られ整理前で離れた場所にある倉庫からの運搬をさせられた乙葉たち。田村と白川は些細なことから仲違いをしていたのですが、白川の蔵書の中に自分の著書が全てあったことで田村の中にあった長年のわだかまりが融けます。疲労困憊の乙葉たちの前に出されたまかないは向田邦子の遺したレシピから。素朴な人参ご飯に癒されます。

第三話 赤毛のアンのパンとバタときゅうり
蔵書印のない本(太宰治の『女生徒』)が見つかり、急遽失くなった本がないか調べることになります。元司書だった正子さんの独白では、いつからか本を読むことに心からの喜びを感じられなくなったことが語られます。
休日、本好きな女性が集まって『赤毛のアン』の映画談義からまかないで出たサンドイッチとチョコレートキャラメルの話題になり、亜子が初めて作ったそれの感動が二度目に作った時に薄れたことを話します。うんうん、なんかわかる気がする~。

第四話 田辺聖子の鰯のたいたんとおからのたいたん
覆面作家の高城瑞樹が亡くなり、遺族の希望で蔵書を引き取ることになります。
高城の大ファンだった乙葉も手伝うことになり、高城の部屋を訪れますが、そこで高城の妹を名乗る人物に違和感を覚えます。どうしても高城の死を現実と受け入れられない乙葉はこの妹と覆面作家の関わりについて想像を働かせます。

蔵書印の無い本を置いた犯人は年パスを持つ常連の二宮と判明します。
彼女は時代小説かの故高木幸之助の愛人で、ある目的のために通っていましたが、万引きした本を置く場所がなくなったからという理由で置いていっていました。元書店員の乙葉でなくてもそのあまりにも身勝手な理由に唖然&激怒です。万引きが文化人の間で正当化されていた時代があったなんて更に驚愕です。他に行くところもない彼女の寂しさはわからないでもないけれど、結局唯一の場所すら失うことになるのよね。

まかないのたいたんとは「炊いたもの」 の意で、甘辛く煮付けた鰯の煮付けと、その出汁を使ったおからの煮物でした。

最終話 森遥子の缶詰料理
篠井の正体とオーナーの謎が明かされます。
二宮の事件を受け、図書館の一時閉館がオーナーから指示されます。蔵書整理の後で二週間からひと月ほど休みに入るけれど、休館中も給料は支払われるとのことでしたが、乙葉はこのまま図書館が閉鎖されるのではと不安になります。

篠井は両親を事故で亡くしたあと祖父母たちの親権争いに巻き込まれたあげく劣悪な学校に入れられましたが、伯母であるオーナーに助けられます。伯母の半生(アラブの富豪との恋愛関係や資産管理)も相当ぶっとんでいてちょっとありえね~~!なんですが、小説だからね~😁 
乙葉は図書館の入り口の額に入っていた「蛾」からオーナーの正体に気付いて声をかけ図書館を閉鎖しないで欲しいと訴えます。

乙葉と篠井は互いに好意を感じているように見えます。
覆面作家の正体についてもまだすっきりしていないのでもし続編があるなら読んでみたいかな。(現時点ではなさそうですが)



アマチュア

2025年04月22日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2025年4月11日公開 アメリカ 123分 G

内気な性格で愛妻家のチャーリー・ヘラー(ラミ・マレック)は、CIA本部でサイバー捜査官として働いているが、暗殺の経験もないデスクワーカーだ。最愛の妻とともに平穏な日々を過ごしていたが、ある日、無差別テロ事件で妻を失ったことで、彼の人生は様変わりする。テロリストへの復讐を決意したチャーリーは、特殊任務の訓練を受けるが、教官であるヘンダーソン(ローレンス・フィッシュバーン)に「お前に人は殺せない」と諭されてしまう。組織の協力も得られない中、チャーリーは彼ならではの方法でテロリストたちを追い詰めていくが、事件の裏には驚くべき陰謀が潜んでいた。(映画.comより)

戦闘や暗殺については素人のCIA職員の男が、殺された妻の復讐に乗り出す姿を描いたアクションサスペンス。原作はロバート・リテルの小説。監督はジェームズ・ホーズ。

幸せな日常が一転。愛する妻サラ(レイチェル・ブロズナハン)がテロに巻き込まれて殺されたと知ったチャーリーは、犯人検挙を訴えますが、上司のムーア(ホルト・マッキャラニー)は言葉を濁します。
チャーリーは自分で犯人探しを始め、妻の殺害現場付近の監視カメラの映像を解析して犯人がシラー(マイケル・スタールバーグ)、グレッチェン、エリッシュ、ミシカで、妻を撃ったのがシラーだと突き止めます。しかしムーアは他の大きな案件のため彼らの暗殺に動けないと言います。

納得できないチャーリーは、以前からやりとりしていた相手・インクワライン(カトリーナ・バルフ)からの情報で、ムーアの行った報告書の改ざんや、妻を殺したテロリストがCIAの隠密作戦に関わっていたことを知ります。(隠密作戦にシラーたち傭兵を利用していたけれど、ロンドンでの交渉が決裂し、逃げるためにホテルで人質を取ったシラーたちがサラを殺したのが真相のよう) ムーアにその事実を突きつけたチャーリーは彼を脅して暗殺のトレーニングを要求し、ヘンダーソン大佐から射撃や即席の爆弾製造を習いますが、銃もまともに撃てない彼にヘンダーソンは「お前は殺人者にはなれない」と言われてしまいます。

一方秘密を知られたムーアはチャーリーを始末しようと動きます。

ロンドンからパリに飛んだチャーリーは、グレッチェンのアレルギーを利用して彼女からシラーの居場所を聞き出そうとしますが失敗して逃げられ、追いかける彼の前で彼女は車に轢かれて死亡します。苦しむ彼女を見て思わず扉を解除するなんてまさに素人。道に飛び出した彼女が車に轢かれたのも偶然の結果です。

ムーアの命を受けて追ってきたヘンダーソンを即席の爆弾でまいたチャーリーは、インクワラインに協力を求めます。トルコのイスタンブールで落ち合ったインクワラインは女性でした。彼女の夫は元KGBでしたがCIAに寝返ってKGBに殺され、後を継いだ彼女も命を狙われていました。

スペインのマドリードに飛んだ二人は、ミシカが屋上のナイトプールを独占することを利用して、泳いでいたミシカをプールの底を破壊して地上に墜落死させます(ジェイソン・ステイサムの『メカニック ワールドミッション』を連想させました)が、チャーリーを追ってきたヘンダーソンが他のスパイと鉢合わせして乱闘になり撃たれてしまいます。

インクワラインの協力で、エリックに武器の取引を持ちかけますが、居場所がバレてCIAに襲撃され、逃げる途中でインクワラインが撃たれて死亡します。
エリックとの取引現場で、武器の代わりに爆弾を仕掛けたチャーリーは、シラーの居場所を聞き出して彼を爆殺します。

シラーがいるロシアの港町にやってきたチャーリーは、以前命を救ったCIAスパイの友人のジャクソン(ジョン・バーンサル)と再会し、彼からもう復讐はやめろと説得されますが拒否します。
シラーの部下に拉致され船に連行されたチャーリーに、シラーは銃を渡して撃ってみろと言います。シラーはチャーリーが自分の手で人を殺せないと気付いているのね。
その通りなのですが、実はチャーリーは船の操縦に細工してロシア領海からフィンランドの領海に侵入させていて領海侵犯でシラーたちは捕まります。チャーリーにとってサイバーシステムの操作は朝飯前ですもんね。

ムーアを疑っていたCIA長官サマンサ・オブライエン(ジュリアンヌ・ニコルソン)も密かに捜査を進めていたようで、ムーアは罪に問われ、チャーリーはCIAに復帰となります。彼の前に現れたヘンダーソン(予想通り死んでなかった)から「お前は期待以上だった」と言われ嬉しそうなチャーリー。(ヘンダーソンはムーアの命令で動いていたけれどチャーリーを殺したくはなかったように見えました。)

妻から誕生祝で贈られたセスナ(おんぼろだったのを修理しています)を操縦して空に飛び立つラストシーンでした。
サラの遺品にあったチャーリーへの贈り物はパズルでした。次々犯人を殺していく中、パズルを解いたチャーリーは中に方位磁石と“あまり空高く飛びすぎて迷わないで” という手紙が入っているのを見つけます。
妻を殺したシラーを敢えて殺さなかったのはメッセージを読んだ彼が復讐に囚われ自分を見失うのはやめようと我に返ったということなのかも。

Mass@Mania presents “春の葡萄祭 2025” グレープ コンサート 

2025年04月20日 | ライブ・コンサート他
2025年4月20日 16時開場 17時開演
神田共立講堂

セットリスト
・紫陽花の詩
・雪の朝
・蝉時雨
・春への幻想
・殺風景
・残像
・交響楽
・朝刊
・ジャカランダの丘
・祇園会
・夢の名前   
・天人菊
・精霊流し
Ac1花会式 
Ac2フレディもしくは三教街 -ロシア租界にて-

神田共立講堂は1976年のグレープ解散ラストライブが行われた伝説の会場です。更に2022年11月3日に「GRAPE 50年坂 一夜限りのグレープ復活コンサート.」もここで行われており、ファンにとっての聖地でもあります。
そんな憧れのコンサートに遂に参加することができました😀 
自分がファンクラブに入ったのはさださんがソロになってからですが、きっかけはグレープです。

8分遅れで始まったステージ上にはヤクルトスワローズのユニホーム(レアものらしい)を着た吉田さん(以下マチャミ)とさださん。基本マチャミは椅子に腰かけまっさんは立ちっぱでした。
二人の間にはX金箱(年寄臭い話や動作をしたら千円罰金で貯まったお金はスタッフの打ち上げに使うとのこと)トーク中に何度も千円札が箱に投入されていきました。

歌の合間のトーク(歌より長いのはいつも通り)
グレープ良さは曲が短いことだねと言いながらノンストップでトークが続きます。

まっさんが教習所で高齢者講習を受けた時のことを面白おかしく再現します。ゴールド免許でも5年ではなく3年なんだよと言うとマチャミが「俺は5年」と返します。どうやら更新時の年齢で違いがあるようです。

鉄板ネタのグレープ時代のマネージャー話はラブホ事件
デヴューについて話し合った時にもう少し練習してからと渋るまっさんにマチャミが「チャンスの神様には後ろ髪がない」と背中を押したとか。
寡黙なイメージのマチャミですが、グッズの宣伝には熱弁を振るいまくってました。(社長だもんね~。)どうやら会場販売は現金の他の決済手段も取り入れられているようです。グッズ販売は長蛇の列で売り切れ続出だったらしい。
会場ロビーが狭くて列を見ただけで諦めた人です。

ラジオ番組の宣伝もしっかり入れられていました。
5月発売のアルバム「生命の樹~」は、グレープ4枚+レーズン1枚で50枚目になり、グレープとして3曲入っているそうです。

さだ工務店のメンバーも一緒でもちろん彼らのアルバムの宣伝もありました。
ピアノ 倉田信雄
ギター 田代耕一郎
パーカッション 木村キムチ誠
ベース 平石カツミ
ドラムス 島村英二
ギター YUMA HARA

終演は19:59 約三時間のコンサートでした。

薬屋のひとりごと15

2025年04月12日 | 
日向夏(著) しのとうこ (イラスト) ヒーロー文庫

翡翠牌の持ち主である皇族の末裔を追う中で、猫猫たちは禁書でありながら優れた医学書でもある『華佗の書』を手に入れた。 傷んだその書が復元されるのを待つうち、医官たちは抜き打ち試験を受けさせられる。 猫猫は試験に合格して養父である羅門の下で投薬実験を行うことになり、羅門から医術について学べることを喜ぶが、その実験は大掛かりであり、市井の病人たちを使うというものだった。薬が効かぬ者は、場所を移されて外科手術が行われるという。医官たちを集めて大掛かりな投薬実験が繰り返されるが、一体何のために? そして誰のために? 猫猫の疑問は、口に出すことは許されない。 他の医官たちも実験の目的に薄々気づきつつも、誰も答えをはっきり言おうとしない。やんごとなき身分のかたが病に臥されたと気づいても、それを公にすることは国を揺るがすことになると、皆が皆わかっている? そして、猫猫は復元された『華佗の書』を壬氏に見せてもらうことになるが、そこには、決して忘れられぬ名前が書かれてあるのだった。 『曼陀羅華』。朝顔に似たその植物は、とある秘薬の材料だったのである。 

一話 選抜試験
二話 疱瘡と水疱瘡
三話 辞令
四話 投薬実験
五話 復元書
六話 病の主
七話 男の浪漫
八話 麻酔
九話 適材適所
十話 僥陽
十一話 特別版
十二話 説明と同意
十三話 種まき
十四話 患者の意思
十五話 告白 表
十六話 告白 裏
十七話 不安
十八~二十話 手術 前・中・後
終話

投薬実験だの手術だのと今回は医学薬学要素がこれでもかと詰め込まれていつもの謎解きより面白かった😀 
謎解き部分は何故そんな実験(治験だね)をするのかということになるのだけれど、早々に主上の病だと察せられるのはちょっと物足りなかったかな。
現代なら盲腸は重病とは言えない部類ですが、麻酔さえ確率していない時代設定なので外科手術も高難易度が予想される中、それが主上の玉体にメスを入れるという超ハイリスクを伴うスリリングな展開になります。

主上の病はストレス性盲腸炎で、東宮時代に発症して一度は緩解しています。壬氏様のやらかし(焼き印事件&西都での長期滞在)はもちろん、国内外の様々な問題が要因となっていることは想像に難くない😁 
何とか薬物治療で治めようとしたものの、容体は回復せず遂に手術を選択せざるを得なくなります。ここで問題なのが、失敗した時です。手術に関わった者はその縁者まで処刑される可能性も出てくるわけで、猫猫が選ばれたのも羅門が加わっていることと、万が一が起きても羅漢がゴネてくれるのを劉医官が期待した節もあります😅 

もし皇帝が亡くなったら、時期皇帝をどうするかという問題が出てきます。
現在の東宮はまだ幼く、摂政となるだろう玉葉后の父・玉袁は高齢です。となれば壬氏を推す声が大きくなり権力争いが勃発する恐れがあります。

主上が東宮時代にこの病は発症していますが、その原因となったストレスが祖母である女帝なんですね。80歳を超え痴呆が入ってきていた女帝と政について言い合いになり、阿多に愚痴をこぼしていたこと、女帝VS東宮になった時に味方したのが羅漢だという事実も判明します。(だから羅漢の数々の振る舞いがお咎め無しなのかぁ)

猫猫は手術に備えて『華佗の書』の「麻沸散」(麻酔薬)の研究に翠苓を巻き込みます。蘇りの薬は一度心臓を停めるけれど、今回は痛みを押さえたいわけでその調合の度合いが難しそう。
また、主上を心配する玉葉后に病状と手術内容を説明し納得してもらいます。
他にも安氏の兄 ・豪 (帝の伯父)が手術に反対して主上の部屋に押し掛けてきて温厚な高順がキレたりする一幕もありました。

壬氏の元には上級妃の補充の報告が上がります。安氏側・玉袁側双方から候補が上がり政治バランスと帝のストレス軽減に一役買ったよう。(病を押してそれぞれの妃のもとに通う主上の精力も凄いぞ😅

やっと手術が決まったと思ったら直前に本人から待ったがかかり焦る医官チーム。
何故か猫猫が呼ばれ向かった先は例の焼き印事件の部屋です。そこで主上・阿多・壬氏と4人での会合が開かれるのですが、当然ながら猫猫に発言権はありません。
主上は壬氏に皇帝を継ぐ意思を訪ねますが彼はきっぱり断ります。仮に皇位を継ぐことになるなら愛する者は手放すと告げた壬氏の言葉に一粒の涙をこぼす阿多。
息子が「天」であることより「人」であることを選んだことを知り嬉しかったのね。

壬氏と猫猫を帰した後で、主上と阿多の腹を割った会話もあり、15.16話は注目!
国母にはならないけれど骨を埋めるまで傍にいて愚痴を聞いてやるから月(壬氏)の好きなようにやらせてあげて欲しいと頼む阿多はまさに子の幸せを想う母親そのものです。💛

いよいよ手術が始まるのですが、開腹早々アクシデントで劉医官が手に怪我を負い執刀できなくなります。代打・天祐と思ったら「飽きた」からやりたくないと。おいっ!さすがに自由過ぎるというか医師失格というか…猫猫でなくても激怒しますな😡 
執刀は羅門になり、猫猫が羅門の身体を支えるアシストに回り何とか手術は成功!
実はこの時主上の意識はあり、天祐と猫猫の会話も耳に入っていたことがわかります。
術後、そのことを聞いた猫猫は天祐がお咎め無しになるのは腹の虫がおさまらないので彼の減給を主上に頼んで溜飲を下げます😁 

終話では、久しぶりに壬氏と二人きりになった猫猫が、帝の代わりにいつも以上にハードに仕事をしてやつれている彼に「帝になったら死にますね・・絶対向かない地位です・・・ならないで下さいね」と。この時の二人の会話がとっても自然です。
ゆっくりゆっくり食事をする二人の時間が束の間の休息という感じでした。

八月の銀の雪

2025年03月29日 | 
伊与原 新(著) 新潮文庫

耳を澄ませていよう。地球の奥底で、大切な何かが静かに降り積もる音に――。
不愛想で手際が悪い。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた真の姿とは(「八月の銀の雪」)。会社を辞め、一人旅をしていた辰朗は、凧を揚げる初老の男に出会う。その父親が太平洋戦争に従軍した気象技術者だったことを知り……(「十万年の西風」)。科学の揺るぎない真実が、傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。(内容紹介より)


作者は地球惑星物理学 を専門とする理系出身者です。去年秋に窪田正孝主演で『宙わたる教室』がドラマ化 されましたが、この原作が伊予原氏であることを読書仲間から教えられ興味を持って読んでみました。
物語には専門的な科学技術情報がたくさん登場し、主人公たちの心の内側にもともとあったものを照らし出す小さな灯のきっかけとなっています。といっても素人にも理解できるよう丁寧に分かりやすく説明されているので問題なく楽しめました。

・八月の銀の雪
就活で内定が一つも取れない理系学生の堀川は、行きつけのコンビニ店員のグエンのいつまでたっても慣れない接客を苛立たしく感じていました。店で会った同じ大学だった清田に、怪し気なマルチ商法の手伝いを持ち掛けられた堀川は、報酬に釣られ商談のサクラ役を引き受けます。
グエンから忘れ物を知らないかと尋ねられたことから、彼女が地震の研究をしている大学院生で恩師から貰った論文を探していると知ります。清田が堀川に説明するために要らない紙と思って書いた紙がその論文の一枚と気付いた堀川は、そのことを清田に話しますが、彼は何故彼女に肩入れするのか訝しがります。
迷っている女子学生にアドバイスを求められ「就活やめていいなんて簡単に他人に言えるものなのかな」と話したことで商談が破談となったことを清田に問い詰められた堀川は、就活に対する思いや、三年前のゼミで独りあぶれていた自分に声をかけてくれたことが嬉しかったことを話します。
清田が堀川に声をかけたのは、昔の自分と似ていたからだと漏らします。
 グエンがコンビニを辞めたと知った堀川は彼女の通う大学を訪ね、彼女がバイトが禁じられている奨学生で、日本語学校に通う妹の学費を助けるために身分を偽って働いていることを知ります。
使えないコンビニ店員とどこかで蔑んでいたグエンは、実はベトナムの貧しい農村育ちの家族思いの優秀な大学院生でした。
グエンは地球の中心にある内核に、鉄の結晶が銀の雪のように降っているかもしれないと言い、その音を聞くためにもっと研究を頑張りたいと話します。
『意外なことばかりだと考えるのは、間違いだ。深く知れば知るほど、その人間の別の層が見えてくるのは、むしろ当たり前のこと。今はそれがよくわかる』(文中より)

人の中にある感情を地殻に擬えて捉えるのがとても興味深かったです。


・海へ還る日
シングルマザーの「わたし」は娘の果穂が電車内でぐずった時に席を譲ってくれた女性から博物館のチラシを渡されます。クジラが好きな娘にせがまれ博物館の<海の哺乳類展>に行くとあの女性と再会します。彼女は動物研究部の委託職員として働く宮下和恵と名乗り、クジラたちの生物画の全てを描いていました。
宮下さんに誘われ網野先生のトークイベントに参加したわたしは、クジラやイルカについて色々なことを知ります。イベント後、宮下さんから果穂と一緒にスケッチのモデルを頼まれます。宮下さんが描いた絵の中の幸せな母子を見て、わたしは思わず「この子に何もしてやれない」と本音を漏らします。すると宮下さんは「大事なのは、何かしてあげることじゃない。この子には何かが実るって、信じてあげることだと思うのよ。」と言いました。自分に自信をもてずに大人になり、行き当たりばったりで妊娠・結婚したけれど離婚し、娘にも自分と同じような人生しか与えてやれないと思っていたわたしはその言葉に胸を衝かれます。
後日、宮下さんに誘われ九十九里浜で白骨化したクジラの掘り起こし作業を見学に行ったわたしは、網野先生から「クジラたちは、人間よりずっと長く深く考えごとをしていると思う」と聞かされます。
わたしの意識は海へと潜り、自分が以前に想像したプランクトンとしてではなく、人としてクジラと一緒に泳ぐ姿を見、クジラが歌う歌もその考えも想像が浮かばないことに気付きます。
自分たちは生命や神や宇宙について何も知らない、けれどもしかしたらその片鱗を知っているかもしれないと考えて嬉しくなったわたしは、娘には世界をありのままに見つめる人間に育ってほしい、そうすればきっと宮下さんのように何かを見つけるだろう、そしていつか必ず何かが実るだろうと思うのでした。

自分を否定してきた女性が宮下さんと出会ったことで意識が変わっていく様が心地よかったです。クジラの生態についても興味深く読むことができました。


・アルノーと檸檬
正樹は不動産管理会社の契約社員です。再開発によるアパートの立ち退きを拒む寿美江の説得に難航する中、彼女がベランダで飼っている迷い鳩の苦情が入ります。
立ち退きの前に脚環に<アルノー19>とある迷い鳩の飼い主を探すよう言われ、鳩レースの事務局を訪れた正樹は、そこでハトや渡り鳥の本を書いている小山内を紹介されます。迷い鳩はレース鳩ではなく新聞社の伝書鳩の血統であることがわかりますが、飼い主の存在がつかめません。
寿美江の検査入院中に鳩の世話を頼まれた正樹は、帰る場所を失った自分と<アルノー19>を重ね愛着が湧いてきます。彼は役者を目指して上京し、レモン農家をしている実家と絶縁状態になっていました。
やがて飼い主が見つかりますが既に亡くなっていて、家も無くなり跡地にタワマンが建っていることがわかります。退院してきた寿美江にそのことを話した正樹は、このまま飼って欲しいと言います。
正樹は同じ夢を追う仲間だった順也が売れたことに喜びと同時に嫉妬の感情がありました。だから彼からプロヂューサーを紹介すると言われた時、彼はもう違う世界の人間だと感じて、役者はやめて今の会社で働くことにしたと一世一代の演技をしました。そんな彼が迷い鳩の飼い主探しをするうちに、自分が見失っていたものに気付いていくのですね。

実家を思い出すレモンを嫌い避けていた彼が、八百屋で一個買ったレモンの香りを深くかぐ描写が、正樹の気持ちの変化を表していました。


・玻璃を拾う
瞳子がSNSにUPした画像に<休眠胞子>から著作権侵害を訴えるコメントが入ります。幾何学的な形の繊細なガラス片のようなもを並べて作られたその画像は、親友の奈津から送られた写真に混じっていたものだったことがわかります。
奈津と<休眠胞子>こと野中は、はとこで、膠原病を患う野中の母の雅代から奈津の母へ送られたものでした。野中に会いに行った瞳子は、SNSに公開されたことでそっくりのアクセサリーが無断で売られていたと聞かされます。
その画像はガラス細工ではなく、ガラスの殻を身にまとう珪藻でできたものだと明かした野中が、珪藻が気持ち悪いと言った瞳子に実際に見て確かめろと家に連れて行かれます。顕微鏡で見た珪藻の精緻な美しさと、それが相当な労力をかけて並べられたことを知ります。雅代のあたたかなもてなしを受け、例の画像が母の誕生祝いの作品だったことを知ると、それまで彼に抱いていた印象も覆り、彼と母親が互いを思いやって生活していたことを感じます。
雅代の訃報を聞き葬儀に参列した瞳子は、後日野中から見せたいものがあると言われ会いに行きます。彼に、母の日の作品製作の際に、瞳子のまつげを使ったと言われても不思議と嫌悪感を抱いていないことに気付いた瞳子は、またまつげを渡すことを約束します。
これまでありのままでうまく生きて来れなかった瞳子は、美しいガラスをまとう珪藻のように、人間のありのままの姿の本質を、見栄えよく繕った殻とそれに不釣り合いな中身を抱えていると考えるのでした。

野中の製作する珪藻の作品を実際に見てみたくなりました。不器用な生き方しかできない二人の今後もなんだか予想できそう。

・十万年の西風
原発の下請け会社を辞めた辰朗が、福島へ向かう途中に立ち寄った茨城の海岸で六角凧を上げている滝口と出会います。彼は気象学の元研究者で、父親が戦時中に気象技術者として軍事協力していたと話します。
原発の町で生まれ育った辰朗は、自分の仕事を誇りに働いてきましたが、会社で隠蔽行為を強要されたことで辞職し、福島を見ておきたいという思いに突き動かされます。
滝口と凧の話をする中で、彼から戦時中に使われた風船爆弾(偏西風に乗せてアメリカに攻撃を仕掛ける「気球兵器」)の話が出ます。滝口の父は風船爆弾の誤爆で亡くなっていました。
「風も、平和に使われるとは限らない」との滝口に、原発の仕事にも重なるところがあると感じた辰朗は、自分が子供の頃に父とあげた思い出のあるゲイラカイトを買って子供と一緒に凧あげをしながら、滝口の話やこれから訪れる福島でのことを話そうと思います。「たとえ何も伝わらなくても、今は構わない。いつかその意味を感じ取ってくれるような生き方を、父親である自分が見せてやれればいい。(本文より)」と。

風船爆弾のことは初耳でした。科学は人間の好奇心が発展させてきましたが、同時に間違った使い方をされることがあるのも事実です。あの原発事故から時が経ち、既に風化の兆候の見られる現在において、とても考えさせられる話でした。