ザウルスの法則

真実は、受け容れられる者にはすがすがしい。
しかし、受け容れられない者には不快である。
ザウルスの法則

超音波で自閉症?(5) 胎児超音波で、日本がトップなわけ

2022-07-17 12:05:26 | 電磁波

超音波で自閉症?(5) 胎児超音波で、日本がトップなわけ

日本の胎児超音波の歴史についての優れた論文をぜひご紹介したい。看護学の立場から、この筆者は超音波の安全性について強い疑いを抱いている。しかし、超音波によると考えられる個々の具体的な障害、疾患については、自閉症を含めて、いっさい言及はない。18年前のこの論文を、日本における自閉症の増加の歴史の背景として読むことに価値がある。この論文は、同じ筆者の著書「超音波診断と妊婦」(2011)にも収録されている。

以下、文中の赤い文字列はザウルスの注である。

 

川崎医療福祉学会誌 Vol. 14  No. 1    2004. 11.18.

 

[総 説]

妊婦健診時に用いられる超音波診断についての諸議論
鈴 井 江三子

要 約
過去30年間(1974~2004)、超音波診断の重要性について、とくに早期妊娠診断と胎児診断については、臨床上効果的であると強調されてきた。その結果、従来の妊婦健診のあり様が変容し、超音波診断を用いた妊婦健診が奨励されるようになった。そしていま(2004)では病院、診療所だけでなく、助産所においても超音波診断を用いた妊婦健診が毎回提供されるようになっている。
しかしながら日本の場合、こうした超音波診断の用いられ方に対して、その使用方法が適切であるかどうかに関する情報は、それを受け取る女性には殆ど提供されてこなかった といっても過言ではない。産科領域において用いられる超音波診断については、潜在的利益および潜在的リスクの両方において十分な議論がなされるべきであろう。
したがって、本稿ではこれまで議論されてきた超音波診断を取り巻く諸問題について、例えば潜在的リスクや診断の限界、および超音波診断を用いる際の倫理問題 について、文献を元にその内容を明らかにする。

 

① 厚生労働省が例示する、標準的な妊婦健診の回数は、1回目を妊娠8週目とした場合、全14回。妊娠から出産までの間に胎児は14回超音波を照射される。これ以外に「エコー外来」として非医療的な3D・4Dの記念撮影をするケースが多い。

② 具体的には、「超音波が胎児に有害である可能性」について妊婦は全くと言っていいほど知らされていない。

③ 知らされないどころか、「超音波はX線と違って放射線ではないので、無害で安全です」と、無防備なまま不当に安心させられている。お腹の赤ちゃんにとって一番大事なことについて、日本の妊婦はすっかり騙されてきたと言える。そしてそれは今でも続いている。

 

総 説

緒言
超音波診断が産婦人科領域に導入されてから、(2004年で)およそ50年が経過する。その間、同法は病院や診療所だけでなく、自然出産を提唱する助産所においても急速に導入され、超音波診断を用いた妊婦健診が一般的に行われるようになった。そして、今では妊婦健診における超音波診断は必要不可欠な存在になっているといえる。
しかし その一方で、超音波診断の普及と平行して、今も議論され 続けている諸問題がある。それらは、

1)超音波診断開発・導入期の議論:  1930年代~1980年代前半  と、

2)超音波診断普及後の議論: 1980年代後半以降、 に大別することができる。
本稿は、それらの諸議論を明らかにすることで、妊婦健診場面における超音波診断の用いられ方を再考する一資料とすることを目的とする。

 

2. 超音波診断装置開発・導入期の議論(1950年代~1980年代前半)

超音波診断の開発・導入期には、超音波そのものがもつ生体への影響の有無が議論され、とくに胎児に与える影響が問題視された。しかし、この時期に用いられる超音波診断装置の出力が微弱であることから、胎児への生体作用は殆ど問題視されなかった。「生体作用」「生体への影響」とは、要するに、超音波の持つ、胎児に対する破壊的作用、危険性のことである。

 

2.1 超音波がもつ生体作用

超音波を用いた医療機器には、診断用と治療用があり、前者は微弱な超音波を用いた診断機器をさし、後者は超音波メスや衝撃波結石破砕等、超音波が持つ破壊力を応用した治療機器をさす。つまり超音波は、微弱ながらも生体内で組織の破壊を起こす可能性があることから、それが生体内の障害につながるかどうかが、日本を含む産業諸国で長年議論されてきたのである。


超音波診断が導入された1950 (昭和25)年頃は、その診断対象が子宮筋腫や乳腺腫瘍等、婦人科疾患患者が主であり、超音波診断が与える生体への影響は余り危惧されなかった。生命を脅かす腫瘍疾患を診断する方が、微弱な超音波の影響よりも最優先課題であったためである。しかし、その後に同装置の診断対象が拡大し、早期妊娠診断や胎児診断に適応され始めると、超音波がもつ生体作用が問題視された。妊娠初期子宮に超音波を照射することは、活発な細胞分裂をおこしている胎児に対しても、同様の作用を与えるためであった。すなわち、組織を破壊する可能性のある超音波を、胎児に照射することで胎児に与える生体作用が現実のものとして危惧されたのである。

問題となった超音波の生体作用は、主に2つがあげられた。1つは局所温熱作用であり、 2つめは空洞形成(Cavitationsキャビテーション)である。1つめの局所温熱作用とは、超音波が生体内を伝わる際に、周波数に依存した超音波の分散が起こり、そのエネルギーが組織に吸収され熱エネルギーとなるものである。この局所温熱作用が生体にもっとも影響を与えるといわれている。この熱の発生量は、超音波の平均的強度と照射時間に関係し、局所の温度上昇は熱発生量と臓器、組織の種類に関係する。動物実験の結果では、胎児に与える影響の安全閾値は 39°Cであり、これを超えると細胞は破壊されるという。したがって平熱を37 °Cとした場合、診断で使用した超音波の熱発生は最大プラス1.5°Cまでが許容範囲となり、わずか0.5 °Cの余裕しかないことになる。この場合、妊婦が発熱している際は、その許容範囲がさらに狭くなるといわれている。


局所音熱作用の影響がとくに指摘され始めたのは1980年代からであった。この頃に開発・導入されたカラードプラー装置によるパルス・ドップラー法はその出力がかなり高く、熱の発生率も上昇し、生物学的な副作用の可能性が高いためであった。そのため妊娠経過が順調な妊婦を対象に、同法を不必要に使用すべきではないと指摘したのである。2つめの空洞形成とは、超音波による局所の圧変化が大きい場合に、その機械的作用により一時的な空洞が生じることをいう。従来は、こうした空洞形成による機械的な破壊作用や活性酸素発生による組織障害に関しては統一見解がなく、空洞形成による生体作用も問題とされてこなかった。しかし、最近のカラードップラー装置などの出現により、高出力化は否定できず、空洞形成が生じる可能性も高くなってきたといわれている。上記以外にも、超音波による生物学的作用は数多く報告されてきたが、主には前述した2つが、胎児に及ぼす影響として問題視されてきた。

 

2.2 日本における生体作用の議論

日本の場合、産婦人科領域で初めて超音波スコープ方式が臨床応用されたのは1962(昭和37)年頃であった。この頃は、超音波の生体作用について、「全例流早産は無く奇形の発生も認めなかったという臨床経験から、超音波は無痛無害である」 と報告された。また、超音波診断装置に使用されている周波数は、「高周波数で低出力の診断用パルスは問題にならない」と、胎児への影響はほとんど 無視できるという報告もあった。その後、1966(昭和41)年頃から、 スコープ方式を用いた超音波診断装置の導入が始まり、導入当初から、同装置の診断対象者は、下腹部腫瘤の患者と妊婦であった。この場合も、妊婦に超音波診断を臨床応用することについては、胎児に与える影響として、実際の臨床経験上危険であるという証拠のないことや、物理学的に診断用超音波のインパルスのエネルギーが非常に小さいこと、また動物実験上でも危険のないことから、胎児への影響は問題ないとされた。

ちょうどこの頃、胎児心音を聴取するために超音波ドップラー法が開発・導入された。同装置を用いることによって、妊娠12週前後で100%の胎児生存が確認できることから、妊婦健診時の診断装置として急速に普及していったのである。同法も、超音波診断装置と同様に人体に与える影響は無視できるものであるとされた。ただし、人体に与える影響についての明確な安全結果が提示されるまでは、その使用にあたっては慎重な配慮の必要性も示唆された。

超音波は一定の物理的エネルギーを人体に投射し、そのエネルギーの変化を情報源として用いる診断法であるため、絶対的な安全性は保障できない。また急激に進む妊婦への超音波照射、とくに妊娠早期の器官形成期の胎児に照射することに対し、慎重な対応が必要であるとする声もあった。そのため、とくに妊娠初期の超音波ドップラー法は短時間の使用にとどめるべきとの指摘もあった。さらに超音波の出力を上げたことで、染色体全体の形態損傷を認めたことから、超音波ドップラー効果を利用した分娩監視装置等を使用して、数時間から十数時間も使用することに慎重な配慮を促した。つまり胎児に及ぼす影響や、安全性の確認がまだ不十分であることから、胎児への影響が危惧され、慎重な対応が求められたのである。しかし超音波診断がもつ胎児への生体作用を危惧する報告は、超音波が持つ生体作用への懸念を認めながらも、第一義的には超音波診断の臨床効果を報告するものであるため、その安全性に対する危惧はあまり問題視されるものではなかったといえる。 超音波診断の便利さやメリットばかりが重視され、その弊害や潜在的な危険性はほとんど無視された。

すなわち、超音波診断を応用した診断装置が次々と開発・導入され、それに伴う臨床効果が多数報告されてきたが、胎児への生体作用も表裏一体となって議論され続けてきたのである。胎児への生体作用に関する議論が活発化するなか、日本で初めて超音波の生体作用に関する研究が本格的に行われたのは1972(昭和47)年であった。厚生省心身障害研究胎児環境研究班の中に、超音波胎児診断装置の安全基準に関する研究班(坂元正一班長)が発足し、 年間にわたる研究が進められた。次いで1977(昭和52)年、厚生省心身障害研究母体外因研究班の中に、超音波パルス波の胎児に対する安全性に関する研究分科会(前田一雄分科会長)が発足し、3年間にわたる検討が行われた。

この前田一雄氏は、2013年に「医学医療以外の目的で超音波診断装置を使用することは超音波安全の観点から許されない」と主張している[リンク]。ここで「医学医療以外の目的」とは主に、以下に出てくる「商業展示」のことである。 

その結果、胎仔の奇形発生率や死亡数が認められたことで、「全体として影響なしとしえない結果であった」 と報告された。また超音波の生体作用が照射時間に比例して増大することは重要な知見であり、短時間照射では全く効果が認められない微弱な超音波といえども、一定の上限を設けることが必要であると指摘された。さらに細胞の種類により超音波感受性に違いがあり、照射時間を延長すると細胞死は増加することから、照射時間の延長や音響強度上昇によって、細胞増殖抑制が確認され、その細胞増殖抑制は主としてキャビテーションによるものとして結論づけられた。

 

 1983(昭和58)年12月、日本超音波医学会超音波医用機器に関する委員会は、「診断用超音波の安全性に関する見解」として、「胎児奇形の発生には影響を認めないが、臨床応用は確かに医学的理由のあるときに人体に用いるようにし、ヒト、とくに妊婦には商業展示や、試験的映像を目的として超音波を用いてはならず、診断用機器の出力は、必要な診断情報を得るのに映像の質が充分な範囲で最低のレベルとする」という方針を提言した。ここで「商業展示」とは、親心につけこんだ「病院による見世物商売」のことで、昨今プレママの間で大人気の「3D・4Dエコー外来」がその例である。

 

とくに1980年代以降に導入された高出力の連続波によるカラードプラー装置は、同一部位に連続して高出力の超音波が照射されることから、局所温熱作用およびキャビテーションの出現率が高くなり、胎児への影響が否定できなくなったためである。また同時期に導入された経膣プローブも、高周波の超音波診断装置に直結し、直接子宮壁にプローブを当てて超音波を照射することから、超音波の分散が少ないためであった。つまり経膣プローブを用いることにより、高周波の超音波が至近距離から胎児に照射されるようになったためであった。  

カラードプラー装置も、経腟プローブも、日本人の発明である。この後に登場する3Dや4Dの超音波技術も日本人の開発である[岡井氏:リンク]。人体への安全を軽視し、ひたすら目先の技術ばかりを追求しながら常に世界の最先端を走って来たのが、日本の超音波機器の開発の60年の歴史であり、これは今でも続いている。


こうして超音波の絶対的な安全性がまだ証明されていないにもかかわらず、より鮮明な胎児画像を得るために、高周波や高出力の診断装置が開発・導入され、順調な妊娠経過を送る胎児にも慣習的に用いられるようになったことから、これまでは無害であるとされてきた超音波の安全性が、無視できないものとして疑問視されたのである。なかでも母体が発熱しているとか、胎児の血行状態が著しく不良である等の悪条件の際に、経膣的に超音波照射を実施した場合、障害の起こる可能性も高くなると危惧された。そしてこれらの報告を基に、周産期‑ 研究会は高速で特定の領域に集中して連続照射を行うカラードプラー装置は、無害であるとはいえないと結論づけた。

 

2.3 欧米における生体作用の議論

欧米においては、超音波診断装置が臨床応用された直後の1972(昭和47)年頃から、超音波が及ぼす生体作用に関する研究が盛んに行われた。

例えばMacintosh(1972)らは、●超音波の照射により染色体異常を増加させたと報告した。しかしこの報告に対して、他の研究者による追従実験では染色体の異常が見つからなかったことから、この結果は信憑性に欠けるものとして反証された。
その後も超音波が与える生体作用について多くの研究が報告された。●なかでも注目されたのはミトコンドリアの変化や、リソソームの障害であり、そこでは超音波の小さな照射量でも生体作用が起こると指摘されている。●また動物実験の結果から、脳が形成される時期(妊娠3週から妊娠4週頃で活発な細胞分裂が起こっている)に照射すると、先天性異常の発生が有意に多くなったという報告もあった。●さらに出生時の体重が減少し、流産率も高くなったと指摘するものや、●超音波を照射する際に生じる空泡は、無限に小さな振動を続け、この震動により細胞分解と細胞破壊が生じるという報告もあった。そしてこれらの研究発表は、研究方法や結果の信頼性・妥当性も高いことから、胎児への影響を明らかにしたものとして重要視された。他方、超音波の無害を指摘する研究も多数報告された。なかでもSalvesen(1992)が行った追跡調査の結果は、超音波の生体作用を否定するものとして高く評価された。ここでは妊娠中に超音波診断を受けた子供とそうでない子どもの読解力、文章表現力、計算力を比較検討し、双方の結果に相違がなかったことから、神経学的、生物学的、精神学的に超音波の安全性に問題がなかったことを明らかにしたのである。しかし、この論文の筆者 Salvesen自身は、「超音波が有害である証拠が見つからないことは、超音波が有害でないことを意味しない」と言っている。

この他、リソソーム膜の変化と超音波の生体作用の因果関係を証明するには、変化の出現率が低いことから、超音波が直接影響しているとは言い切れないとして、Dysonらの報告を否定する意見もあった。ただしここでの報告では、マウスを使った動物実験結果では異常を認めなかったが、免疫システムや神経系統など生命を維持する全てのものに与える影響はまだ不明瞭であるため、不必要に乱用すべきではないと指摘している。

1982(昭和57)年、世界保健機構(以下、WHO)は、全世界の超音波生体作用の文献を総括し、その結果を報告している。そこでは超音波診断装置の使用について、とくに胎児を対象に用いる場合には充分な配慮が必要であるとした。すなわち、WHOの方針は、超音波診断を利用することで、胎児生存の有無、双胎妊娠、外表奇形、胎盤の位置等を確認することは可能であるが、そのことが定期的に超音波診断を使用し、妊娠初期または妊娠末期に毎回提供することを意味するものではないと指摘した。この40年前のWHO の指摘は、当時すでに胎児を超音波漬けにしていた日本の医療政策を牽制したに等しかったが、日本には馬耳東風であった。

こうした影響を受けてか、イギリス、ド イツ、アメリカ等の欧米諸国では、開発当初より、妊娠中の超音波診断の利用を必要最小限にとどめ、可能な限り少ない回数と短時間で実施することが推奨されてきた。超音波検査が普及している先進諸国の中でも、日本がいかに突出しているかがわかる。脇目も振らず突き進んでいる背景には、安全性の観念の大きな欠落が疑われる。

その結果、欧米諸国では全妊娠期間を通じて2回~3回(胎児の形態観察を行う妊娠16週前後と、胎盤の位置を確認する妊娠35週前後)が、一般的に提供されている超音波診断の回数である。通常、第1回目は妊娠16週前後が初回超音波診断になっている。胎児の臓器形態は妊娠12週頃までにほぼ完成し、妊娠13週から妊娠14週以降になれば、中枢神経系、体表、筋骨格系および血管系の大きな形態異常が診断可能になるためである。次いで、第2回目は胎位や胎盤の位置がほぼ確定する妊娠35週頃である。つまり異常症状がない場合は、これ以外の超音波診断が行われることはあまりない。しかし、日本では胎児に異常があるかないかにかかわらず、出産まで少なくとも14回超音波を照射される。海外の7倍である。これが日本では普通のこととなっている。日本の産科医が超音波の空疎な安全神話を築き上げたのである。電力会社が原子力発電所の、絵空事の安全神話を作って国民を騙していたのと同じ構造である。日本人は何度でも騙される。

 

総じて、欧米諸国に限らず、日本でも産婦人科領域に超音波診断が導入されて以降、超音波の胎児に及ぼす影響が議論されてきた。とくに最近では、カラードップラー装置や経膣プローブを使用した診断装置により、経年的に超音波の周波数や出力が高出力化していることから、胎児に与える影響は無視できないものとして、国内外を問わず、その予防策が活発に議論されている。すなわち多様な超音波診断装置が導入されたことにより、超音波の「安全神話」が問い直されているのである。


3.超音波診断装置普及後の議論 1980年代以降

超音波診断装置の普及が一般的になって以降、胎児に及ぼす生体作用以外に、新たな視点での議論も行われるようになった。それは超音波診断がもつ臨床効果の有無と、医療従事者の倫理等であった。

3.1 超音波診断がもたらす経済効果と臨床効果の有無超音波診断が導入されて以降、同法を用いた臨床効果に関する研究が多数報告されてきた。従来は診断が困難であるとされた早期妊娠診断の確立、胎児診断、妊娠に付随する婦人科疾患の診断等がそれであり、個人を対象にして用いた場合の局所的な診断効果を報告するものであった。しかし、超音波診断が慣習的に用いられるようになってからは、同法に対する長期的効果の評価が求められるようになってきた。疾患診断が行えるという短期的な臨床効果ではなく、長期的な展望に立った母子保健向上に値する包括的な評価が期待されたのであった。

これを受けて、1989(平成元)年、Chervenakは急速に臨床応用が進んだ超音波診断に対し、導入目的に沿った効果が得られているのかどうかを調査した。なぜならば前述した理由以外に、アメリカ全土の全妊婦に適応されている妊娠18週頃の超音波診断は、その対象者数から算出すると膨大な医療費の額であり、それに見合った経済効果を評価するためでもあったという。その結果、全妊婦に適応されている超音波診断の経済効果に妥当性は見られないと指摘した。また臨床効果と胎児への影響を勘案した上で同法の実施は決定するべきであり、その決定は妊婦自身にあると強調している。そしてその際には、胎児への影響等に関する情報提供も十分行うべきであるとした。

 1993(平成5)年、Ewigmanは、Chervenakの報告をもとに、超音波診断に対する効果を評価するため、15,151人の妊婦を対象に大規模な無作為比較化試験を実施した。その結果、超音波診断を用いた妊婦と超音波診断を用いない妊婦の双方共に、出生時の体重、分娩予定日の超過、双胎や胎児奇形の発生率は同様であり、超音波診断による妊婦健診が周産期の異常を低下させるという効果はなかったと報告した。また、定期的な超音波診断の実施と、妊婦の健康管理に対する生活改善との関係性についても、両群に有意差はなく、とくに妊娠中の喫煙量についても、明らかな減少効果はなかったと指摘した。すなわち、超音波診断の効果とそれにかかる経済効果を考えれば、全妊婦に定期的に実施する意味がないことを提言した。その後、Bucher(1993)も同様な追調査を行った。その結果、Bernardと同様に、定期的な超音波診断を実施しても、周産期死亡率の低下には影響がないことを報告した。それは超音波診断を実施しても胎児異常の診断が困難な場合と、異常を診断しても、その後の治療法が確立していないために、結果的に周産期死亡率の改善を図ることには限界があるためであった。また Bucherは胎児異常を診断した場合、その後どう説明し、支援するかが重要であることを示唆し、生命倫理に関する問題も提起した。つまり超音波診断により胎児の障害を発見した場合、妊婦やその家族に対して、妊娠の中断を選択するように誘導するべきではないという指摘であった。


これらの報告を基に、Bronshtein(1997)は妊婦健診時の超音波診断に対して、全ての妊婦が受ける必要性、実施時の責任の所在、診断の範囲と適応等、超音波診断を提供する際に考えられる諸問題を整理した。そして全妊婦に超音波診断を用いた場合、異常の疾患を診断するという短期的な臨床効果は認められるが、長期的な展望にたった経済効果と母子保健向上の効果を比較検討した場合、長期的な展望にたった効果は殆ど認められなかったという。したがって超音波診断を提供する場合は、妊婦への十分な情報提供と選択権の保障が大切であると示唆したのである。胎児が出生後生命の危機にさらされるような重篤な心疾患を診断する場合は別して、それ以外の微細な形態診断を行ったとしても医学的にはあまり重要な診断効果は出ないためであった。

 

3.2 医療従事者がもつ職業的倫理

前述したように、欧米諸国では超音波診断の普及に伴って同法の臨床効果や経済的効果に対する議論が 活発であった。また1998(平成10)年にはChervenakらによって、妊婦健診時に定期的に実施される超音波診断に対しては、医療従事者の職業的倫理の欠落も問題視された。殆どの妊婦を対象に慣習的に使用する姿勢とインフォームド ・コンセントの欠落、及び 妊婦の選択権の欠如である。さらに、超音波診断を用いる世界中の臨床医は、そのことを遵守するべきであると強調した。他方、日本の場合、超音波診断の臨床効果に関するものは、多数報告されてきたが、その臨床効果を見直すための議論や研究は、殆どなされてこなかったといっても過言ではない。ただし超音波診断装置の導入が急速に展開し始めた頃、ME機器の導入に対して、充分な配慮が必要であるという指摘は1970(昭和45)年代頃からみることができる。例えばME機器開発による医療産業の市場拡大は、往々にして経済効率が優先され、個人の健康を守る筈の医療思想が、利潤追求に変化する恐れがあるとの指摘である。医者の要望や注文を率先して実現する医療機器メーカーが、胎児をさらに超音波に曝露する新製品を次々に作っては病院に売り込むという社会悪的構造がすっかり出来上がっている。

また出生前診断の弊害を危惧した声もあった。そこでは先天性の障害を持った子供と家族が必要としているのは、障害を持った子どもの出生を閉ざすことではなく、障害を持った子どもが生活できる社会の支援であり、生涯を不幸と捉える差別意識の改善であると指摘した。出生前診断により、決して先天性の障害を持った子供の出生を阻むものではないと強調したのである。この他、ME機器を用いた医学的管理の出生は、不必要なME機器の介入を誘発することにつながるという警告もあった。臨床医学を基盤に専門性を高めた医師は、疾患学の視点をもって出産管理にあたるため、生理的な変化のプロセスである出産に対しても疾患診断と同様の対処を行いやすいというものである。したがって、正常出産を取り扱う助産婦と、疾患・治療が専門の医師には、それぞれの専門性を確立する基本的概念の構築が必要であるとした。しかしながら、そういった指摘を反映せず、日本における超音波診断の普及・推進は止まることが無かったといえる。

 

4. 結語
欧米諸国に限らず、日本でも、超音波診断の生体作用に関する議論は、臨床効果の研究結果と同様に報告されてきた。その内容は、胎児への生体作用を指摘するものと、それを否定するものに2極分化していた。「2極分化」ではあっても、医者の世界において、超音波の安全性については圧倒的多数が楽観論であり、懐疑論は絶望的少数派である。懐疑論ではとても日本の産科医にはなれないのが現実である。ただし超音波診断装置の開発当初は、同装置に用いられる超音波が低周波であり、そのエネルギーが僅かであることから、胎児に与える影響はほとんど 問題がないと結論づけられてきた。しかし胎児に与える超音波の生体作用が、現実のものとして危惧され始めたのは1980年代からであった。超音波の連続照射を行うカラードップラー法と、胎児の至近距離から照射する経膣法が導入されたためである。とくに両者併用の照射による高出力の連続波を、近距離から胎児に照射することで、局所温熱作用やキャビテーションの出現率が高まった。より鮮明な胎児画像を得ようと開発された超音波診断装置は、高周波・高出力化を招き、胎児に与える生体作用の危険性を高めたのである。


こういった議論が盛んになる一方で、経済効果と長期的な展望にたった臨床効果を評価するために、大規模な無作為化比較調査が実施された。全妊婦に慣習的に用いることが、果たしてどれだけの臨床効果と経済効果があるのかを問うたのである。またインフォームド・コンセントや妊婦の選択権の欠如等、医療従事者の職業的倫理についても議論が高まった。
つまり当然のこととして定期的に実施されている超音波診断に対して、医療従事者は臨床効果だけでなく、診断の限界、胎児への生体作用に関する情報等を提供し、その上で妊婦が同診断法を受けるか否かを決定する権利を保証する義務があると指摘したのである。そしてその際は、胎児診断に対する生命倫理の重要性も強調された。
以上が、これまでに報告されてきた超音波診断を取り巻く諸議論である。日本の場合、多くの医療機関では毎回の妊婦健診時に超音波診断が提供されるという日本独自の様相を呈している。したがってこれらの諸議論を熟慮した上で、現在の妊婦健診時に提供される超音波診断のあり方を再考する必要がある。

日本では医者と医療機器メーカーがスクラムを組んで、「より鮮明な画像で、より的確な診断」という楽天的で強気のビジョンのまま突き進んでいる。厚生労働省はWHOやFDAの警告や、他の先進諸国の抑制的な超音波使用の例をずっと無視してきている。日本における超音波漬けの非人道的な産科医療を放置し、過度な超音波曝露によって胎内で脳と体に不可逆的な損傷を受ける子供を量産している。数十年にわたる自閉症児の増加は、そうした日本の医療政策の一つの結果であるかもしれない。

自閉症の原因はたった1つではなく、複数あると考えられる。いっぽう、超音波が胎児に与えるダメージは自閉症以外にも、さまざまな障害や、いわゆる現代病の原因となっている可能性がある。

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4 コメント

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民営化の水道水 (B)
2022-07-17 19:38:44
泣いて生まれてきたけれど vol323で紹介されていた
宮城県の人がメダカの水槽の水を交換したら、5~6時間でメダカやエビが死んだ話が気になる
今月から民営化した宮城県の上水道
ペットボトルの水はどうなのか分からないし
濾過形式の性能がどこまでなのか分からないから蒸留水でも飲まないとヤバいのかもね

歯医者での定期健診義務化の流れと麻酔の注射が気になる
ワクチン避けたのに歯医者でヤラレルノハ悔しいね
MMSを定期的に口に含むように飲んで歯医者で治療を受けなくていいように自衛しないと
返信する
Unknown (チキンのチキン)
2022-07-22 14:40:20
ザウルスさん、こんにちは。
この記事とは関係ない事で恐縮ですが…
ここ数年、ザウルスさんのブログを読んでいなかったのですが、長引くコロナ禍(?)で「そういえばザウルスさんはこの騒ぎについてどんな事を書いているのだろう?」と思い、久しぶりに訪問しました。
あ然としました。(私はザウルスさんの記事はすべて信憑性が高いと思っています。)
何も知らずにコロナワクチンを3回までうちました。
職場の集団接種だったので、拒否も何も…。
もう、かなり危ない状態なのでしょうか?
今後、接種を止めても無駄な抵抗なのでしょうか?
まだ、平均寿命の半分も生きていないので…こわいです。
返信する
チキン さま (ザウルス)
2022-07-23 06:39:21
いちばん見に来ていなければならないときにご無沙汰だったようですね。あとになってから「しまった!」というひとはけっこういます。そういう人たちのために「ワクチンデトックス」の方法をいろいろ研究しているひとたちもいます。似たような境遇の人たちが手探りでいろいろな方法を試しています。以下のキーワードで検索されてください。

● ワクチンデトックス
● コロナワクチンデトックス

あきらめないことです。被害を最小限にするためにできることはまだまだたくさんあります。
返信する
Unknown (チキンのチキン)
2022-07-23 23:11:43
ザウルスさん、回答ありがとうございます。
検索して、自分なりにできる限りの事をやっていきます!
本当に、これからは毎日、ブログをチェックします。
返信する

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