歩行速度が落ちたと何となく自覚し出したのが、70歳になってからだったと思う。
しかしそれが確実に、傍目からでもわかるようになり、しかも若い人並みに歩こうとすると
身体的に相当な無理を強いることになったのは、やはり80歳台に入ってからだ。
街中を「普通に歩いて」いて、「普通に歩いている」若い人に自然に追い抜かれることに気づいたことが
歩行速度低下を自覚した最初の現象だった。その当時それに気づいて、意識して歩行速度を上げれば、
それほど苦労せずに追いついたが、いつの間にか最大限努力しても絶対に追いつけないようになってしまった。
今では、横断歩道の信号が青になった瞬間に横断し始めないと渡りきれない。歩行者用の信号が青であっても、
青の経過時間が半分を過ぎていればもう諦めて、次の青を待つようになってしまった。
赤ん坊の時、最初に立ち上がって歩き始める瞬間のぎこちなさは誰でも経験する人間としての成長期の
代表的特徴だ。そして一歩、二歩と直立二足歩行がスムースにできるようになり、人類になる。
それが年老いて、何十年と何気なく「歩いて」いた動作の困難さに気づき始め、直立二足歩行が
本来はいかに難しい物であると気づくことになる。
若い時は何も感じなかった動作が「困難になる」一つの典型的な例が直立二足歩行であろう。
2メートル近い長さと数十キロの重さの「胴体」をわずか200平方センチの面積の足裏二つで
支え、時速4キロ以上の速度で移動する「直立二足歩行」とは今更ながら偉大な人類の特徴であると
実感する今日この頃である。