お伽の里通信 ~湯之谷けんぽセンター~

四季折々の湯之谷のようすをご覧ください。

おじさんずラブ 手打ちそば天池 編

2021-09-11 13:11:05 | 日記





うな重のふたを開けると私たちは湯気と甘い香りにつつまれた。

そして長年連れ添っていたかのようなタイミングで石田部長が箸を差し出してくれる。





ここ 手打ちそば天池(あまいけ)は長岡市にある地元の人気店である。

蕎麦の有名店であるがご飯物のメニューも豊富で、じつは最高のうな重を食べさせてくれる隠れた名店なのだ。

味はもちろんであるがそのボリューム、リーズナブルさ、県内屈指のうな重といってもいい。




私自身、鰻をそれほど好む方でではなかった。

しかし石田部長の話のうまさやその嬉しそうな表情でつい、天池のうな重を食べてみたいと思った、いや思わされたのだ。

私たちはすぐにお互いの休みを確認し、二人で店に訪れた。



渡された箸で最初の一口を味わう。

鰻とタレの香りが一瞬で私を支配し、二口目からは自分の意思とは関係なく食べ続けた。

タレをかけることを計算し少し硬めに炊いたご飯と口の中でとろける鰻、まったく別の生い立ちを背負った両者。

この距離感が絶妙なのだ。

心の底から美味しいと思った。


目の前では石田部長が子供のようにご飯を頬張っていた。






私には他に確かめたいことがあった。

数日前、偶然目に入った石田部長のスマホに私の姿が映っていた。

石田部長は私を待受画面にしていたのだ。




言葉を交わすことなく食べ終わると石田部長が「付いてるぞ、かずたん」と自分の頬をトントンとした。

すぐに頬のご飯を取り去ったが私はそのまま切り返した。

「私のこと言えないですよ」

私は言いながら石田部長の顎に付いたご飯粒を手に取り、そのまま自分の口に入れた。

一瞬驚いた表情を見せた石田部長だったが視線を下に向け大きく微笑んだ。






結局私は待受画面のことを聞くことはしなかった。

今はこの距離感でいようと思っていたからだ。

その後もほとんど言葉を交わすことなく店を出た。



9月の日差しはまだ強く、石田部長は眩しそうに目を細めた。

石田部長の手を握ると私たちは秋の風につつまれた。




おじさんずラブ 手打ちそば天池 編 完





あとがき

作家の星和馬です。

これはある作品のオマージュなんですが私は原作を全く知らず、じつは聞いた話と想像をもとに執筆しました。

新しいブログのスタイル、お店の紹介を模索した結果おかしなことになってしまいました。

話はフィクションですが、うな重の味はノンフィクションです。


【手打ちそば 天池】
新潟県長岡市浦654-1
TEL:0258-92-5330
コメント
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