中々戻って来ないので心配した倉元さんは 香夜美さんと仲よさ気に話しながら歩いていた
ほっとする反面 何か胸の奥に はねるものがある
まるで別の生き物のように
それを捩じ伏せる
香夜美さんは美しかった
甥の陽一のことも可愛がっている
いい人なのだと 何故思えないのか
あの美しさ
自分の心の狭さを思うのだけれど どうしようもない 情けない
香夜美さんは美し過ぎる
無言になってしまった私の前を探偵が通り過ぎー少し間をあいて香夜美さんと並んで歩いた 「あんまり田舎で驚いたでしょう
ここで閉じ込められるように育ったのよ
だから姉もわたしも人とは何処か違うかもしれない
でも姉はゼロから あなた達という居場所を見つけた
ひどく羨ましいと思う
わたしは姉のように作りあげることができないから 子供の頃からずっと姉が持つモノを せがんでねだって 時にひどいことして横取りするしかなかったの
姉は頼めば 大抵譲ってくれる優しい人なのに わたしは問答無用にただ取り上げたくなるのだわ
でもね わたしに無いもの持つ姉が わたしはひどく好きなの
人が姉にひどいことをしたら わたしは許せない
だけどその大切な姉にいつもわたしはひどいことをしてしまうの
後でひどく寂しく辛い思いも味わうというのに
きっとわたしは何処か壊れているのね」
「何故会ったばかりの私に?」
寂しそうに香夜美さんは微笑む
「 さあ いつか姉にわたしが何を感じていたのか知ってほしいから
わたしは姉のようでありたかった
けれど 姉にはなれないの
わたしは自分を抑えられない
じきに じきに 酷いことをしでかしてしまうわ」
自制できない感情の烈しさ
善悪も何もない
良い存在でありたいのに その枠にはまっていられないと
香夜美さんは言うのだった
許さなくてもいい
判ってほしいと
私には 香夜美さんが何をしようとしているのか 分からなかった
一緒に姉の家へ来るかと思えた香夜美さんは 少し手前で他の家へと行き
これからの事を兄達と話すうち
私は眠り込んでしまった
それは私だけでなく 兄も探偵さんも
義姉もだった
その間に陽一ちゃんがいなくなっていた
雨の音で目が覚めたのだ
探偵は香夜美さんの家へと走り 義姉のはるみは 動きやすい私の服に着替えた
地理に不案内な私が家に残り 兄と義姉も陽一ちゃんを捜して外へ
暫くして戻ってきた探偵は 香夜美さんも 近所の人もいないと言う
一体 何が起きようとしているのか
雨は激しさを増してきている
探偵は気になる事を言った
小道脇を流れる川の水嵩が増していると
水
氾濫する怖れがあるのは川なのに 濃い潮の香りがした
ひどくひどく嫌な感じがする
香夜美さん
あの人は止めて欲しかったのではないだろうか
だからこそのあの言葉
なら 止めるのは 私の仕事
あの美しい人が どう壊れてしまうと しまうというのか
私が見つけて止めなくては!
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