男が死んだ・・・ 警備室のテープには その死に至る状況が克明に残っており さすがにそれはいかな厚顔無恥 火事場泥棒のような国としても 弁明できないものだった
男 大山隆史達が命賭けて始めた仕事は 思いがけず日本へ嫌がらせを続けてきた某国へ 世界からの批判を集めた
世界の注目を集めたことで 大山達の会社は成功も約束された
だが 大山は 恋人を残して死んだ
どれほど心残りであったろうか
結婚式を目前に
生と死を 投げ出し永眠(ねむ)る 男かな
そんな言葉が浮かぶ
さてその某国の狂人じみた仕返しが 大山の恋人とその子供にいかないように わたしはひそかに護衛してきた 大山は仮の姿の わたしに会っている
何かあった時は・・・そこまでの用心を こちらもしていた事が 大山へのせめてのはなむけ いや供養になればいいのだが
大山隆史 彼が愛した女性は しっかりした男 地味だが揺るぎない男 聡にこれから守られることになる
だが それでも わたしは 彼女達から 目を離さないでいよう
あの国は 何仕掛けてくるか判らない 常識外の国なのだ
そして見守る将来への密かな愉(たの)しみもできた
カシム 彼はなかなかの男に育ちそうではないか
それから史織ちゃん どういう女性に育っていくのか
わたしは それとは別の事として ある困惑を抱いている 妻の事だ
任務の為の偽装結婚の相手なのに わたしは 不覚にも恋してしまった・・・
彼女は割の良いアルバイトとして 妻を演じている
春日真理子 彼女は 早智子さんの教師時代の教え子
大山隆史に死なれ悲しむ早智子さんの姿も見ていた
先生を守る為に
それと結婚は完璧に偽装なままであること
早智子さん達の身が安全になれば いつでも偽装を解除する それなりの退職金つきで
それらが条件だった
多分 もう大丈夫なのだろう
そして真理子さんとは離婚になる
そういう約束であったのだから
そして彼女は いつか他の男と恋をし その妻になるのか
そう考えて吐きそうになった
この結婚を本当のものにしたいと 考えている
ぐだぐた迷うのは苦手だ
しかし家でも聞きにくい
「たまには 外で食事しないか」
誘ってみた
さぐるように こちらを見た真理子は「嬉しいわ」と答えた
「今夜は八時に仕事が終わる ホテルの最上階のレストランに席をとっておくよ 迎えに来る 支度しておいてくれ」 子供達を教えながら 八時までが長かった
いつもの3倍時計とにらめっこしていたようだ
頼んでおいた花束を受取り 妻を迎えに行く
彼女は とても綺麗だった
淡いピンクのブラウス 花柄のスカート 白の上着
「これ 素晴らしく素敵だ すぐに着替えてくる」
花束渡して一番いいスーツにネクタイ
ばたばたっと着替えた 「ごめん待たせた」
「お花有難う 凄く綺麗だわ」 花のように彼女が微笑む
ああ 君が大好きだ
呼んだ車でホテルまで そして夜景見ながらの食事
デザートのシャーベットを食べ終わり やっと本題にかかる
「君は もし独身になったら どうするつもりなんだろう?」