「――よう、アリエナ」
肩を叩かれて振り向くと、そこにはトーマスがいた。
「トーマス、どうしたの、その格好」と、アリエナは眉をひそめた。それだけ、トーマスの仮装は異様なものだった。それは、どう見ても狼男だった。本物の狼の皮を剥ぎ、頭からすっぽり被ったようだった。
「じいちゃんから貰ったんだよ。旅のお土産に」と、トーマスは自慢げに言った。「あっちで、みんな集まってるんだぜ。一緒に行こうよ」
アリエナは躊躇した。ダイアナの事件が頭をよぎった。しかし、みんなの中で孤立したくはなかった。
「いいわ。どこなの――」
トーマスは、「ついてこいよ」と、そう言うと、アリエナの前を小走りに駆けていった。
「おいで、アリス」
アリエナは革のリードをつけたアリスを連れながら、トーマスを見失わないよう懸命についていった。トーマスは、やけに早足だった。アリエナについてこいと言いながら、後ろのことなどまるで無関心といった感じだった。
トーマスの後についていくだけに集中していたアリエナは、次第に周囲から人の気配が消えていくのに気がつかなかった。アリエナが不安を覚えたのは、町はずれの、もうぼんやりとした明かりしか届かない、小さな野道にさしかかってからだった。
立ち止まったアリエナに、先を走っていたトーマスが、
「早く来いよ、花火が終わっちまうじゃないか」
と、しきりに手招きをして見せた。
花火は、相変わらずアリエナの正面の空で、きれいな火花を満開に咲かせていた。
「早く来いよ!」と、トーマスがじれたように言った。
アリエナは、唇を噛みながら走り出した。トーマスもそれを見て、前よりもいっそう早く駆けていった。
トーマスは、みるみるうちにアリエナとの距離を離してしまった。ひとりぼっちで道を走る心細さに、アリエナがたまらず声をかけても、ただ「早く来いよ」と、そう繰り返すだけで、ずんずんと先を走っていった。やがて、アリエナの視界からトーマスの姿が消えた。寂しい木立の中に延びる一本道で、追いつくのをあきらめたアリエナは、寒さからとは違う溢れる鼻をすすりながら、駆けていた足を早足に変えた。もういい加減帰ろうか、と迷ったが、アリスが一緒にいるんだから、と勇気を奮い立たせ、歯を食いしばりながら進んでいった。
アリエナが行き着いたところは、バードの遺骨が眠る墓場だった。アリエナは直感で、自分が騙されたのだとわかった。案の定、闇夜に隠れていたトーマスが、狼男の姿をして近づいてきた。