くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

機械仕掛けの青い鳥(34)

2019-05-04 20:54:19 | 「機械仕掛けの青い鳥」
 だんだんと日が落ちてきているせいで、あかね色に染まったまぶしい夕暮れの光が、窓から校舎の中を照らすように差しこんでいた。
 暗い階段から、急に明るいところに出てきたため、ソラは目がくらみ、思わず顔をうつむかせてしまった。視聴覚室に入っていくウミの後ろ姿を、ほんのわずかだけ、かろうじて目にすることができた。
「おい、待てったら」
 ソラは、開け放された防音の厚い扉をくぐって、視聴覚室の中に入っていった。
 視聴覚室に入ると、光のもれない黒いカーテンが、窓の端から端までしっかりと引かれていた。開け放された扉から入ってきた光が、整然と並べられた机を後ろから照らし出していた。見た限り、誰もいないようだったが、なぜか黒板の前にスクリーンが下ろされ、タイトルはわからなかったが、ソラにも見覚えのある映画が上映されていた。
「ウミ……」と、ソラは小声で名前を呼びながら、整然と並べられている机の間を、静かに歩いていった。
 どこに行ったのか、それほど大きくはない視聴覚室の中、ウミの姿は影も形もなかった。もしかしたら、見間違えたのだろうか――。
 踵を返したソラが、入ってきた扉から廊下に出ようとすると、
「お兄ちゃん」
 はっとして振り返ったソラの前には、映画が映し出されているスクリーンがあった。
(なんだよ、驚かせて。映画のセリフじゃないか――)
 ほっと胸をなで下ろしたソラだったが、前に向き直ると、すぐにまたなにかに気がついたように振り返り、映っている映画のシーンを、目をこらしてまじまじと確かめた。

「ウミ!」と、ソラは思わず、大きな声を上げていた。

 スクリーンに映し出されていたのは、ウミだった。大人の姿から、元どおりのウミの姿に戻っていた。しかし、着ている服は、落ち着いた暗い色のブレザーで、男の子の服のようだった。誰かに追われているのか、戦火に焼かれ、瓦礫の山のようになった街の中を、息を切らせて走っていた。

「お兄ちゃん、どこ――」

 スピーカーから、とてもセリフには思えない声が、腹の底にズシンと響くほどの迫力で聞こえてきた。
 ソラは、映画が映し出されたスクリーンに近づくと、のぞきこむように顔を近づけた。自分の姿が黒く影を落とし、ウミの写っているシーンが、塗りつぶされてしまった。
 後ろを向いたソラは、奥の準備室の中から、映画を映している光源を見て目を細めた。生きているようにチカチカと瞬く光が、音もなくこちらに向かってくるようだった。思わず目の前に手をかざすと、ソラはふらふらとスクリーンに吸い寄せられるように、後じさった。

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