針は、ほかの二人にも同様に試された。そのことごとくが、柄まで突き刺さり、血も流れぬまま、引き抜かれた。気の弱い女達は、緊張の余り、その場に倒れこんでしまった。
試練による裁判を終え、ゲリルは最後に――と、ジムが手渡した布袋を取りだした。そして、中身の宝石を手に取り、集まっていた住民達に見せた。
「これを見ろ。これらの宝石類は、昨夜我が同士によって、発見されたものだ。これら高価な貴金属は、ここにいる狼男どもによって盗まれたものだ。針の試練に加え、この盗品は合わせて決定的な証拠となる。この者どもを、異端のとがにより、有罪とする」
ゲリルは、人々に向かって言いながら、一人ほくそ笑んだ。
群衆は、どよめいた。アル達が狼男であった、という事実に衝撃が走った。
「あの子達が狼男だったなんて――」そう口々に囁きあった。子供達の親は、がっくりと膝をつき、自分達の愚かさを呪った。
ゲリルは言った。「狼男の汚れた血は、きっとまだこの町にはびこっているはずだ。気をつけろ、おまえ達のすぐそばにも、汚らわしい血を隠している者がいる――」
どよめいた群衆は、息を飲んだ。自分も異端者の疑いをかけられるかもしれない、という不安が、沈黙になったのだった。
公開の処刑は、裁判と同じく、大通りで行われた。多くの薪が積みあげられ、アル達が十字架にかけられた。
町の住民は、誰一人として見に来なかった。店は閉められ、人通りもまったくなく、ときおり木枯らしが吹きすぎる中、ゲリルの祈祷だけが、不気味に響いていた。
異端審問官による狼男狩りは、やはり終わらなかった。処刑の翌日、ゲリルは町の出入り口をすべて塞いだ。兵卒と僧が、その任についた、何人であろうと、いかなる理由があろうとも、町から外へ出ることは許されなかった。頻繁に行き来していた辻馬車も、大きな車庫に眠らされ、町々から戻ってきた馬車も、それっきり街道へ出ることはなかった。闇夜に隠れて逃げ出す者がいないよう、夜間は外出が禁止された。また、町のあちらこちらでは、かがり火が焚かれた。そのそばでは、常時二人の不寝番が見張りについていた。
毎日、何人かの男達が、ゲリルの元へ引っ立てられた。教会から聞こえる悲鳴は、決して途切れることはなかった。捕まえられた男達の家族の中には、なけなしの金や、とにかく家にある金になりそうなものを、こっそりとゲリルに渡し、裁判にかけられるのだけはまぬがれようと、必死に頼みこむ者もあった。
ゲリルは、そうしてやって来た家族に言うのだった。
「裁判で、みんなが見守る中、無実を証明しよう」と――。
一縷の望みを抱いた家族達は、裁判にやって来た。裁判は、試練を課せられる男達の家族だけが、見守っていた。ほかの住民達は、しっかりと閉められた窓の隙間から、こっそりとその様子をうかがっているのだった。
町では、よからぬ噂が広まっいていた。それは、審問官に金を持っていった者は助かるのだ、というものだった。この噂を聞きつけ、捕まえられた男達を心配する家族は、なんとか助けようと、財産をなげうってでも、まとまった金を作ろうと奔走した。