ギギグッ――
と、自分の部屋と同じように硬く軋む音をさせ、わずかにドアを開けると、足音を立てずに部屋に入って行った。
ジョンという偽名を名乗って部屋を借りた男は、こちらに背中を向けて椅子に腰を下ろし、ダラリと両腕を下げて首をかしげ、気持ちよさそうに小さないびきをかいていた。
右手に枕カバーを巻きつけ、拳銃のように見せたシェリルは、男が間違いなく居眠りしているのを確認すると、わずかな荷物を調べ始めた。これから、犯罪を犯すような雰囲気ではなかった。疲れきった一人の男が、正体なく、ただ泥のように眠っているだけだった。
犯罪に使ったとされるライフル銃は、どこにも見あたらなかった。隠しておけるほど、小さな物ではなかった。男を起こさないように注意をしつつ、シェリルは、狭い部屋の中を隅々まで調べた。
見つかったのは、結局、弾が数発しか入っていない小型の拳銃と、双眼鏡。どうやって手に入れたのか、男には似つかわしくないほど大金の詰まった財布だった。
歴史に記録されているライフル銃が見つけられないまま、シェリルは、とりあえず拳銃を手にとると、足音を立てないように部屋を後にした。
釈然としないまま、チェックアウトせずホテルの外に出たシェリルは、ソラとウミの兄妹を迎えに行くため、車に向かった。
と、見覚えのある一台のパトカーが、向かい側から走ってくるのが見えた。シェリルは、反射的に街路樹の陰に隠れ、走り去っていくパトカーの様子をうかがった。
時間的には一瞬だったのかもしれない。しかし、シェリルの目は、車の中にいた男達が押し黙り、緊張した表情をしていたのを捉えていた。例えるなら、指名手配中の凶悪犯を、これから確保しに向かうような、重々しい雰囲気だった。
助手席に乗っていたのは、ソラ達を警棒で脅していた、いけ好かない警察官だった。黒人が多く住む地区で、住民の反感をわざと買うような真似をしていたのは、自由を求める運動が各地で行われている中、決して利口なこととは思えなかった。
どうしてなのか……。個人が物好きでやるような、悪ふざけであるはずがなかった。
車に乗ったシェリルは、ハンドルを握りながら、なにか得体の知れない、大きな意志のようなものを感じていた。
――……
牧師が泊まっているホテルが見えた。シェリルはそのまま車を走らせ、ホテルを通り過ぎたところで、車を止めた。待ち合わせをしたソラ達が無事に帰ってくれば、歴史を変えることができたと言っても、言い過ぎではないはずだった。
ラジオのスイッチを入れると、当時は最先端の音楽が、小気味のいいリズムを刻み、シェリルもわずかに肩を揺すりながら、外の様子に目を向けた。あっけないほど、簡単に仕事を成し遂げることができた。それにしても、歴史に書かれた記述と、実際の状況とは、ずいぶんと違っていた。