「くわしい話は町長から聞けばいいが、この国はねむり王様が治めていらっしゃる国で、ドリーブランドって言うんだよ」
「――ふふん」
と、ジローは思わずくすりと笑った。「なんか、遊園地みたいな名前の国だな」
「ユウ? なんだって――」
「遊園地だよ」
――ふむ。と、マルコは首を傾げた。「聞いたことはないが、おまえさんが来たところに、あるものなのかい」
ジローはどきりとして言葉を詰まらせ、マルコを見て首を振った。
「だめだ。言葉は出てきたが、どんなものなのか、ぼんやりとしていて、はっきりと思い出せない」
「まぁ、気を落としちゃいけないよ」と、マルコは頭を掻きながら言った。「あそこに見える家が、町長の家だよ」
「ありがとう」と、ジローは言って、マルコが指を差している家に目を向けた。
「歩いても、大丈夫そうかい」と、マルコが訊くと、ジローは小さくうなずいた。「それじゃあ、行こうか――」
二人は、ゆっくりと歩き始めた。
すっきりと晴れ渡った空の下、時折聞こえる鳥や虫の鳴き声以外、しんと静まり返っていた。
マルコの後ろを歩いていたジローは、ふと妙な違和感を覚えていた。
小さいが、しっかりと作物が育っている畑のあぜ道を抜け、道路に出たが、二人の前にも後ろにも、人影は見あたらなかった。ただ、そこかしこから、誰かに見られているような視線だけは、不思議と感じられた。
ジローは、町の人達はどうしたのか、前を行くマルコに訊こうとしたが、はっとして口を閉じた。
まぶしい光に照らされて、ジローの足元には、はっきりと黒い影が落ちていた。しかし、マルコの足元には、白い霧がかかったような薄い影しか、落ちていなかった。
――――……
「町長はいるかい」
と、マルコはドアの奥から、ノックに答えて聞こえた声に言った。
「おや、マルコさん。いらっしゃい」と、かすかに軋むドアを開けて、フードを被った女性が出迎えた。
にこやかだった顔は、しかしジローに気がつくと、笑顔のまま固まってしまった。
二人を出迎えた女性が急に口をつぐんで背を向けると、マルコはあわてて、その後を追いかけていった。