「あいつは、必ず来る……」
同じ頃、ゲリルはかがり火のそばに立ちながら、つぶやいていた。星明かりで明るい空には、真円の月が静かに浮かんでいた。
「あいつは、必ず来る」と、ゲリルは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
十字架にかけられたカッカの周りを、鎧を纏った兵卒達がぐるりと取り囲んでいた。銃を持つ者を前に、剣を手にした者は後ろに。そして、手に手に松明を持った僧達が、町中を巡回していた。
カッカは、赤紫色に腫らした顔をうつむけ、力のこもった目だけをギョロリとさせ、唇を噛みながら、グレイが来ないでくれることを一心に念じていた。
「くっそう――あのガキめ」と、ゲリルは膝を絶えず動かし、イライラとした口調で言った。
「ケッ、あいつはそんなにばかじゃねぇよ」と、カッカが小さな声でつぶやいた。
ゲリルはその声を聞き、どきりとするような悪意に満ちた笑いを浮かべると、言った。
「山男め、おまえが望むなら、ひと足早くあの世に送ってやろう――」と、ゲリルはそばにいた兵を向き、手で首をちょん切る真似をしながら、「やれ」とつまらなさそうに言った。
兵卒はうなずくと、構えていた銃をおろし、腰に帯びた剣を抜いて、カッカの足元に近寄った。
いまにも、重たい剣がカッカの体を突き刺そうとする時、松明を持って見回っていた僧達が、色めき立った。
「来たか――」
ゲリルは兵卒を制すると、拳銃を取りだして声のした方へと駆けていった。
グレイは、やって来た。
夜の町は、放り投げられた松明と、僧達があげる苦悶の声で溢れかえっていた。
グレイは、まるで風のようだった。短刀を手にした僧をたたき伏せ、取り押さえようとする僧達を飛び越し、その鬼神のごとき前進を止めようとする者は、すべて天を仰いで泡を吹いた。
「来たな、小僧!」
と、ゲリルは片膝を突いて銃を構え、走って来るグレイに照準を合わせた。
グレイがゲリルの横を走り抜けようとした刹那、引き金が絞られた。
轟音がこだました。「やった」という思いが、ゲリルの脳裏に浮かんだ。しかし、確かにグレイの胸を撃ち抜いたはずの銀の弾は、グレイの足を止めることができなかった。あっけにとられるゲリルを尻目に、グレイはカッカが張りつけられた十字架にたどり着き、兵卒をことごとく打ち倒した。