ソラは、困ったように言った。
「妹がいますけど、なにか?」
「アーン……」と、女の人はまた考えるように言った。「ワタシ、青色の鳥を探してるんですが、この家の女の子が拾ったって、聞いて来たんですけど」
「――いらっしゃいますか?」と、言われたソラは、青い鳥を探している人物がまた現れて、ちょっと驚いたが、顔には出さず、とぼけるように言った。
「青い鳥って、世界的に珍しいって鳥のことでしょ」
外国人の女の人は、ニッコリと微笑みながらうなずいた。
「さっきもこの近くで、男の人達に同じことを聞かれたんですけど、知りあいですか」
女の人は、ソラと目を合わせたまま、ため息をつくように言った。
「アーン……そうですね。もしかしたら、ワタシの仲間かも、しれません――」
「その人達にも言いましたけど、青い色の鳥なんて、見たことありません」
「オウ……」と、女の人は残念そうに言うと、がっかりしたように首を振った。「わかりました。ドモありがとうございます」
ソラがドアを閉めようとすると、わずかに開いた隙間から、さっと手が伸び、薄いピンク色に塗りそろえられた爪の手が、がっちりと強い力で、閉まりかけたドアをつかみ止めた。
「あの、私の名前はシェリルと言います。あなたの名前、教えてもらっていいですか」
驚いたソラは目を白黒させながら、顔をのぞかせている女の人に言った。
「眞空、です――」
「妹さんは?」
「えっ」と、ソラは言うのをためらったが、「海密です」と口ごもりながら答えた。
「ごめんなさい。ありがとうゴざいました」と、女の人はさっと手を引き、後ろにさがった。
どういたしまして、と言いながら、ソラは急いでドアを閉めると、カチャリカチャッとすぐに鍵をかけ、のぞき窓に目を当てて、外の様子をうかがった。
シェリルと名乗った外国人の女の人は、残念そうに玄関のドアに向かったまま、手に持っていたサングラスをかけると、がっかりしたようにくるり、と振り返り、家の前に駐車していた赤いスポーツカーに乗りこんだ。
運転席のドアを閉めると、女の人がエンジンをかけた。お腹の底に響くような重い音が、ブルルンッと空気を揺らすように轟いた。ソラの父親が、一度でいいから乗ってみたい、と風呂上がりによく口にする、黄色いエンブレムの高価な外国車に間違いなかった。
――――
シェリルは、ガラス越しにチラリとソラの方を見てから、車を発進させた。
まるで、ソラがのぞき窓から様子をうかがっているのを、最初から承知していたかのようだった。
と、甲高い急ブレーキの音が聞こえた。
驚いたソラは、とっさに首を引っこめてのぞき窓から目を離すと、両手で頭を守るようにかばいつつ、その場にしゃがみこんだ。