――チェンジ。
と、耳元で声が聞こえたかと思うと、鋭い刃が空間を切り裂いていくのが見えた。孝弘の周囲の景色が途端に合わせ鏡のように重なり合い、目まいを覚えるほど複雑に動き出した。
「重たっ。どうしておまえがここにいるんだ」
背中がなにかに当たって気がつくと、孝弘は自転車を避けて立ち上がった瞬の上に、仰向けに落ちていた。
「あんた、どっから出てきたのよ」と、言ったSガールは、うつ伏せに倒れていたはずの沙織と、剣を咥えた鳥の姿が見えないことに気がついた。
「あいつらは?」
なにが起こったのかわからないでいる孝弘を除き、Sガールと瞬はすぐに周りを見回すと、二人が見つけたのは、どろどろの熱い溶岩のような物を腕から染み出させて、凍りついた亜珠理を元どおりに解凍しようとしている沙織の姿だった。
「なによ、あの女。また変身してるじゃない」と、Sガールは舌打ちをして言うと、自転車を起こした瞬は三連の太鼓を背負い、両手にバチを構えると、沙織に向かって叩いた。
ドドン、パッ、ドッドン……
夜空の彼方で煌めいた稲光と共に、幾筋もの電撃が寄り合い、束になって沙織に向かっていった。
雷の直撃を受け、沙織は再び倒れるかと思われたが、Sガール達の予想は外れ、轟音とともに沙織を襲った雷は、短いながらも鋭く一閃したアオの剣に方向を変えられ、球場のスコアボードを撃ち抜いた。
「なんだよ、あの鳥」と、孝弘は驚いた声を上げたが、Sガールと瞬は悔しそうに地団駄を踏んだ。
「大丈夫? まだ動けそう――」
と、凍りついていた動けなくなっていた亜珠理を、全身から滲み出す溶岩の熱で溶かした沙織は、息を吹き返した亜珠理に言った。「あなたが戦うことなんてないのよ。ましてや命を賭ける必要なんてないわ」
「――」と、亜珠理は首を振ると、こちらを見ているSガール達を見返しながら、立ち上がった。「いいえ。スカイ・ガールが戦うなら、私も戦います。今はなにも伝わってこないけれど、この覆面を通じて確かにわかったんです。彼女は決して悪人じゃないんです。私が、彼女を止めてあげないといけないんです」