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くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

未来の落とし物(162)

2025-07-11 21:01:00 | 「未来の落とし物」


 ――チェンジ。

 と、耳元で声が聞こえたかと思うと、鋭い刃が空間を切り裂いていくのが見えた。孝弘の周囲の景色が途端に合わせ鏡のように重なり合い、目まいを覚えるほど複雑に動き出した。

「重たっ。どうしておまえがここにいるんだ」

 背中がなにかに当たって気がつくと、孝弘は自転車を避けて立ち上がった瞬の上に、仰向けに落ちていた。
「あんた、どっから出てきたのよ」と、言ったSガールは、うつ伏せに倒れていたはずの沙織と、剣を咥えた鳥の姿が見えないことに気がついた。

「あいつらは?」

 なにが起こったのかわからないでいる孝弘を除き、Sガールと瞬はすぐに周りを見回すと、二人が見つけたのは、どろどろの熱い溶岩のような物を腕から染み出させて、凍りついた亜珠理を元どおりに解凍しようとしている沙織の姿だった。
「なによ、あの女。また変身してるじゃない」と、Sガールは舌打ちをして言うと、自転車を起こした瞬は三連の太鼓を背負い、両手にバチを構えると、沙織に向かって叩いた。

 ドドン、パッ、ドッドン……

 夜空の彼方で煌めいた稲光と共に、幾筋もの電撃が寄り合い、束になって沙織に向かっていった。
 雷の直撃を受け、沙織は再び倒れるかと思われたが、Sガール達の予想は外れ、轟音とともに沙織を襲った雷は、短いながらも鋭く一閃したアオの剣に方向を変えられ、球場のスコアボードを撃ち抜いた。
「なんだよ、あの鳥」と、孝弘は驚いた声を上げたが、Sガールと瞬は悔しそうに地団駄を踏んだ。

「大丈夫? まだ動けそう――」

 と、凍りついていた動けなくなっていた亜珠理を、全身から滲み出す溶岩の熱で溶かした沙織は、息を吹き返した亜珠理に言った。「あなたが戦うことなんてないのよ。ましてや命を賭ける必要なんてないわ」
「――」と、亜珠理は首を振ると、こちらを見ているSガール達を見返しながら、立ち上がった。「いいえ。スカイ・ガールが戦うなら、私も戦います。今はなにも伝わってこないけれど、この覆面を通じて確かにわかったんです。彼女は決して悪人じゃないんです。私が、彼女を止めてあげないといけないんです」

 

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未来の落とし物(161)

2025-07-11 21:00:00 | 「未来の落とし物」

「いてててて……」と、倒れた自転車の下になっていた翔は、Sガールを見ながら言った。「できたら、手を貸して貰えませんかね」

 ――――    

 亜珠理が立ち上がろうとすると、なにか人の形に似たものが目の前を通り過ぎていった。
 さっと立ち上がった亜珠理だったが、沙織の元に急ごうとしていた足をはたと止め、軽く腰を落として耳を澄ませた。
 ドン――。と、背中にしたたか当たる物があった。思わず前のめりになった亜珠理だったが、器用に踵を返すと、目にも止まらぬ速さでかすめ過ぎていく陽炎をとらえ、右足で蹴り上げた。

「痛ってえ――」

 と、転がり出てきた孝弘は、頭の後ろをさすりながら立ち上がった。「なにするんだよ、マスク女」
「そんなんじゃない」と、ズボンの汚れを払っている孝弘の前に立って、亜珠理は言った。

「私は、闇を退治る正義の使者。シャドウ・ライト・キングよ」

「それ、本気で言ってる」と、軽く腰を落とした孝弘は言うと、亜珠理に向かって今にも飛びかかりそうな様子だった。「これ以上邪魔するんなら、おまえもやっつけるだけだ」
 両手を顔の前に持ち上げて構えた亜珠理は、孝弘が目にも止まらぬ速さで攻撃を仕掛けてくるもの、とそう踏んでいた。

 ――けやっ。

 と、亜珠理の声が響いた。
 しかし、亜珠理よりもやや早く、地面を蹴るように疾走した孝弘は、亜珠理の脇をまんまとかすめ過ぎ、背後に抜けていた。
 間髪を入れず後ろを振り返るかに思えた亜珠理だったが、前屈みになって動き出そうとした格好のまま、微動だにしていなかった。
「残念でした。足が速いだけじゃないんだよ」と、ほっと息をついた孝弘は、横目でSガール達の様子をうかがいつつ、亜珠理を見て言った。「まだ使い慣れていないから、凍らせ過ぎちゃったかもね」

「ごめんね。このまま倒すとバラバラになっちゃうけど、悪気はないんだ――」

 孝弘は、凍りついて冷気を燻らせている亜珠理を地面に押し倒し、粉微塵に破裂させようとした。

 

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未来の落とし物(160)

2025-07-10 21:02:00 | 「未来の落とし物」

「ちょっと待って。私のせいにする気? そんな自転車に乗ってれば、誰だって悪目立ちするに決まってるでしょ」と、Sガールは翔が乗っている自転車を顎で指し示しながら言った。「せめてバイクにしなさいよ」
「背中にこんな重い太鼓なんか背負って、移動できませんよ」と、翔は自転車の荷台に乗せた三連の太鼓をちらりと見ながら言った。「それにバイクは、車道しか走れませんからね。自転車に比べれば不便でしょうがないんです」
「――なに言ってるの」と、Sガールは首を傾げながら言った。「車道しか走れないのは、基本的に自転車も一緒でしょ」
 翔は、困ったように俯いたまま、首を振るばかりだった。
「あんたがもう少し早く来れば、もっと簡単に済んだのよ」と、Sガールは唇をとがらせながら言った。「この女が持ってる宝石を取り戻せば、今日のところは終わりよ」
「えっ、聞き間違いじゃなければ、今日のところ、って言いました?」と、翔はビリビリと電気を発する指で頭を掻き掻き言った。「まだ続けるんですか」
「こっちはあんたがいないところで、悪魔にも出くわしたんだ」と、Sガールは力なく倒れている沙織の髪の毛を掴むと、目の前に持ち上げながら言った。「子供の姿をしていたけれど、手強いヤツだった。あいつを倒さなければ、終われやしないわ――」
「ええっと。悪魔って、リアルにいるんですか?」と、瞬はあきれたような顔をして言った。

「そういえば、孝弘はどうしているの」

 と、Sガールが翔に言うと、小さくうなずいた翔はわずかに後ろを振り返った。
 振り返った翔の目の先には、立ち上がった亜珠理と戦う孝弘の姿があった。

「まぁいいわ。逃げたんじゃなければ――」

 と、Sガールが言い終わるより前に、天地がひっくり返った。
 目の前に持ち上げられた沙織はSガールよりも上に、自転車に乗った翔と沙織を持ち上げているSガールは、頭に血が上るほど下に向かって立っていた。

「――……」

 と、Sガールと翔は、自分達がいつの間にか地面に向かって落ちていることに気がつき、あわてて手を伸ばして落下の衝撃をこらえた。
「誰。今度はなんなの」と、転がりながら体を起こしたSガールは、周りを目で探りながら言った。「――鳥?」
 Sガールと同じ方向を見ながら体を起こした翔は、力なく地面に横たわっている沙織の上に、小ぶりの鳩くらいの大きさをした青い鳥が、嘴に小ぶりの剣を持っている姿を捉えていた。
「あれって、本物の鳥――」

 

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未来の落とし物(159)

2025-07-10 21:01:00 | 「未来の落とし物」

「思ったとおり、飛んでるあなたは弱っちいのね」と、沙織は鞭を引き絞りながら言った。「このまま縛り上げてあげるわ」
 Sガールは体の自由を奪われたまま、目から発する熱線で沙織を狙ったが、沙織がわずかに鞭を緩めるだけで、Sガールは軽々とうつ伏せに転がり、熱線は空しく地面を焦がすばかりだった。
「このまま押さえていれば、すぐにタイムパトロールが来てくれるわ」と、沙織は息を切らせて走り寄ってきた亜珠理に言った。
「やりましたね」と、亜珠理はにこりとして言った。「――もう悪さはできないわよ」

 ククククク……

 と、うつ伏せに顔を地面に着けたまま、Sガールはほくそ笑んだ。
「なにがおかしいの」と、沙織は手にした鞭を強く引っ張りながら言った。

 ククククク……

「私にだって、仲間がいるのを忘れたの」と、Sガールの籠もった声が聞こえた。
「――」と、亜珠理と沙織は互いの顔を見合わせ、はっと目を見開いた。

「思いだ……」した、と言いたかったのだろうか。亜珠理の目の前で、沙織は目が眩むほどの閃光に包まれた。

 ドッドズドドンゴロロン――……

 と、閃光に続いて轟いた衝撃で、亜珠理は顔を腕で守った格好のまま、文字どおり飛び上がって転がり落ちた。

「なにしてんのよ」と、体に巻きついた鞭をブチブチと掴み切りながら、Sガールは立ち上がって言った。「警察を追い払ってあげた時、円山球場に集合って言ったでしょ。いつまで待たせんのよ。危うく捕まりそうになったじゃない」

「こっちだって急いで来たんですよ」

 と、控え選手が交代のために出てくる場所から、自転車に乗った翔が立ち漕ぎをしながらやって来た。
「――あの後、応援に来た警察に追いかけられて、大騒ぎだったんですから」と、やって来た翔は疲れたように言った。「うまく振り切ったとは思いますけど、シーズンオフの球場に真夏のナイター並みに照明灯してりゃ、すぐに見つかりますよ。早いとこ逃げちゃいましょうよ」

 

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未来の落とし物(158)

2025-07-10 21:00:00 | 「未来の落とし物」


「――」

 と、なんということもない一撃に見えたが、思わぬ衝撃にSガールは後ろ手に尻餅をついた。
「えっ」と、驚いたのは亜珠理も同じだった。人を叩くなど、今までしたことがなかった。ましてや相手の暴力に抵抗して殴り返すなど、まったくしたことがなかった。暴れるSガールをなんとか止めようとして、気持ちだけで振るった拳だった。
「ふざけやがって」と、信じられないような表情をしていたSガールだったが、すぐに我に返ると立ち上がり、怒りにまかせた拳で亜珠理に殴りかかった。

 ドッスン――……

 と、空振りしたSガールに向かって、亜珠理の拳が再び打ちこまれると、大木がゆるゆると倒れるように、Sガールは仰向けにひっくり返った。
 人並み以上の体力と共に、飛躍的に向上した亜珠理の運動能力であれば、一度でも人に拳を振るう感覚を得るだけで、どうすれば傷つけずに全力の拳を振るうことができるのか、会得することは造作もないことだった。

「手加減してやれば、いい気になりやがって」

 と、尻餅をついたまま、Sガールは目から発する熱線を亜珠理に向けて放った。
 ひゃっ――と、言葉にならない悲鳴を上げて、亜珠理はどこまでも追いかけてくる熱線をすれすれの所で避け続けた。

 ザッキン――……

 と、Sガールは座ったまま宙に飛び上がると、今まで自分がいた地面に深々と突き刺さった剣を見下ろした。
「後ろから襲いかかるなんて、卑怯すぎない」と、Sガールは、戦士の姿をした沙織に言った。「いいわ。やっぱりあんたからひねり潰してやる」
「――上から見下ろされるのは好きじゃないのよ」と、沙織は地面に突き刺さった剣を離すと、腰の後ろに結わえていた鞭を取り出し、ゆらゆらと浮かんでいるSガールに打ちつけた。

 ビシュシュン――……

「悔しいなら、ここまで飛んできなさいよ」と、Sガールは、体に巻きついた鞭を引き外そうとした。
「あたしが飛ぶより、あなたが地面に転げ落ちる方が滑稽でいいわ」と、沙織はSガールに巻きつ付けた鞭を引っ張ると、ピンと張り詰めた鞭は波を打ってSガールをたぐり寄せ、いともやすやすと地面に転がしてしまった。

 

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未来の落とし物(157)

2025-07-09 21:02:00 | 「未来の落とし物」

 どこから出てきたのか、スリムなパワードスーツのような鎧を身につけた沙織は、あっけにとられているSガールに、鋼鉄の拳を打ちこんだ。

 ドゥゴゴン――……

 厚い鉄板が波を打ってたわむような音を立て、Sガールは倒れこそしなかったものの、足を引きずりながら凍てついた地面を削り取るようにして立ち止まった。
 二筋の線をくっきりと球場の地面に描きだしたSガールは、歯を食いしばりながら沙織を見ると、真っ赤になった目からまぶしい熱線を放った。
 はっとした沙織はとっさに鋼鉄の腕でガードしたが、パワードスーツでは防ぎきれず、鋼鉄の鎧はみるみるうちに溶け落ちていった。

「やめて――」

 と、Sガールの熱線が沙織から大きくそれ、遙かに離れた惑星を撃ち落とそうとするかのように、夜の空に奇妙な線を描いた。
「なにするのよ、離れな」と、背中から抱きついてきた亜珠理を振りほどこうとして、Sガールは首に巻きついた腕を掴んだ。「邪魔するな。おまえの相手なんかしてる暇はないんだよ」
 亜珠理の腕を掴んで捻り上げたSガールは、もう一方の手で固い拳を作り、足をばたつかせてもがく亜珠理の腹に打ちこんだ。
 肉を打つ鈍い音が響くと、亜珠理は先ほど転がされた場所まで、再び舞い戻されてしまった。「そこでおとなしくしてな。泥棒女を片付けたら、そのマスクをびりびりに引き裂いてやるから」
 Sガールは沙織に向き直ると、別のスーツに着替えていた沙織は、先ほどまではなかった剣を手にしていた。その姿はさながら、いにしえの英雄譚に出てくる戦士のようだった。
 星明かりに鈍く光る剣を見たSガールは、つまらなさそうに舌打ちをしたが、沙織に向かっていこうとしたところで、ぐらりと前屈みになって膝を突いた。

「――やめろって言ったばかりだろ」
 
 と、Sガールが顔を上げると、苦痛に耐えながら駆け戻ってきた亜珠理が、体当たりをした姿勢のまま立っていた。
「あなたこそやめなさい」と、亜珠理は言った。「その力は、人を傷つけるために使うものじゃないわ」
「なにをっ」と、鬼のような形相で立ち上がろうとしたSガールの頬に、亜珠理の拳が打ちこまれた。

 

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未来の落とし物(156)【13章 正義も悪も】

2025-07-09 21:01:00 | 「未来の落とし物」

         13章 正義も悪も
「出口が見えたわ」と、沙織は後ろを振り返って言った。「多田さんは大丈夫?」
「はい、大丈夫です」と、背中に多田を背負った亜珠理は、大きくうなずいて言った。「大丈夫ですか――」と、マスクを被った亜珠理は、背負った多田に顔を向けて言った。
「大丈夫です。今日は少し歩き過ぎたようだ」と、多田は申し訳なさそうに言った。
「ひどいアップダウンでしたから、こんな道を歩き続けていたら、そりゃ痙攣だってしますよ」と、亜珠理は前に向き直ると、疲れ知らずのようにずんずんと沙織の後を追いかけて行った。

「さぁ、到着。長かったわね――」

 と、沙織が目の前のドアを開けると、球場の夜間照明に照らし出されたSガールが、腕組みをして立っていた。

「遅かったじゃない」

 と、Sガールは射るような目で沙織を見て言った。
「えっ、どうしてスカイ・ガールが?」と、ドアを出てきた亜珠理は、驚いたように言った。「潜水艦の二人は、どうしたの――」
 と、Sガールは音も立てずに浮き上がると、つまらなさそうに言った。
「今頃はこっちに向かってるんでしょうけど、その前にあんたたちから片付けてやるわ」

「多田さん、ドアの後ろに戻って」

 と、亜珠理が言うのと、Sガールが音よりも早い蹴りを放つのとは、ほぼ同時だった。
“気をつけて”とかすかに聞こえる声を残し、多田は出てきたばかりの通路に戻り素早くドアを閉めたが、ドアの前で多田を守ろうとした亜珠理は避ける間もなく、Sガールの強烈な蹴りを受け、冬枯れした芝生の上を弾むように転がっていった。

「なんてことするの」

 と、マスクで目を隠した沙織はSガールに言った。「あなたになんて、負けやしないわ」
「面白いこと言うのね」と、瞬間に移動したSガールは、沙織に手の平を振り上げた。
 バチン――という音と共に、沙織はふらふらと地面に崩れ落ちたが、すぐに起き上がった沙織を見て、Sガールは目を疑った

「いつの間に着替えたんだ」

 目だけを隠すマスクに、体の線がはっきり見えるようなコスチュームを身につけていた沙織は、Sガールの一撃を食らって力なく倒れるその前に、真人から貰ったブレスレットを構えて、素早く「チェンジ」と、叫んでいた。

 

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未来の落とし物(155)

2025-07-09 21:00:00 | 「未来の落とし物」

「――島か」と、ジローは考えるように言った。「一緒に行ってくれるのか」

「腐れ縁だ。仕方がない」

 と、真人は潜水艦に戻りながら言った。「早く乗るんだ。サオリ達がピンチかもしれない」
「操縦桿はおれが握る」と、ジローは真人より先を歩きながら言った。「それでいいだろ。寄り道はしていられない」
「ああ。右腕もさっさと取り替えなきゃならないからな」と、真人は言うと、ジローの手を借りながら潜水艦に乗りこんだ。

 チャププン ――……

 と、二人を乗せた潜水艦は、海岸の地中深くに潜って行った。

 

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未来の落とし物(154)

2025-07-08 21:02:00 | 「未来の落とし物」

 胸に受けたわずかな光のエネルギーを使って、Sガールは空高く飛び上がった。みるみる小さくなっていったその姿は、すぐに夜空の星と見分けがつかなくなり、太陽光を求めて、地球の周りを空と宇宙の境目に沿って、進んでいった――。

「ようやく居場所を突き止めたぜ」

 と、Sガールが夜空の彼方に飛び去ったすぐあと、真人がカクカクと折れ曲がって飛んできた光の先に目を向けて、言った。

「――覚悟しろ。空き家泥棒め」

 真人が目の前にゆっくりと右腕を持ち上げると、右腕が二つに割れて奇妙に開き始めた。驚いたジローは、ただ目を見開いていた。真人の腕はすぐに変形を終えると、口径の太い銃が現れた。

 ――ズッドドドドン……

 夜空を切り裂くように、黄色ともオレンジ色ともつかない光線が、ヒリヒリとする熱でバリバリと空気を焦がしながら、どこかに向かって飛んで行った。

「ほら、一発で壊れた」

 と、真人はつまらなさそうに言った。「見てくれよ、オレの腕」と、ジローが真人の右腕を覗きこんだ。
「どうしたんだ、内側から破裂しているじゃないか」と、ジローは言った。「どうしてこうなったんだ。義眼に義手に、ほかに隠していることはないんだろうな」
「右腕の中には、サオリが持っていた石に似せて作った石が入っていたんだ」と、真人は壊れてしまった右腕を見ながら言った。「原因はその石なんだ。あり合わせの材料で作った安もんじゃ、威力のある射撃はできないってことさ」
「まさか、さっきの射撃は聞こえた声の主を狙って撃ったのか」と、ジローは驚いたように言った。
「空気中の微細な塵を、反射板のように使って通信する妙な技術だったが、居場所を隠すにはちょいと大雑把すぎだぜ」と、真人は壊れた右腕をはずしながら言った。「威力はそこそこだが、少なくとも今の一撃でシステムは破壊できたはずだから、空飛ぶお姉ちゃんは無事に解放されたはずだ」
「狙いどおりに当たったのかもしれないが――」と、ジローは考えるように言った。「余計な挑発をして、相手を怒らせたんじゃないのか。次はもっとあくどいやり方で命を狙ってくるぞ」
「ふん――」と、真人はつまらなさそうに言った。「それはおまえ達には関係ないことだ。人の島で我が物顔をしている王様に、警告しておかなくちゃならないからな。これに臆して逃げ出してくれりゃいいが、そもそもそんな弱虫なら、はなっからオレの息の根を止めようなんて真似はしないはずだ」

 

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未来の落とし物(153)

2025-07-08 21:01:00 | 「未来の落とし物」


「――子供のくせに」

 と、Sガールはうつ伏せに倒れたジローの背中に足を乗せ、ズブリと体が深く地面にめりこむほど踏みつけると、真人に向き直ってゆっくりと歩き始めた。

「チックタック、チックタック、チックタック……」と、真人は怒りに目を血走らせたSガールが近づいてくるのも構わず、挑発を続けるように繰り返して言った。

「はい、終了」

 と、真人が最後に言うのと、Sガールがはっとして足を止めるのとは、ほとんど同時だった。
 足を止めたSガールが呆けたように目を宙に泳がせていると、体中にまとわりついた砂をざらざらと落としながら立ち上がったジローが、振り返りざまに大きく拳を振り出した。
 文字どおり宙に舞い上がったSガールは、先ほどまでの力が嘘のように、頭から波打ち際に倒れこんだ。
「なんだこれは」と、Sガールに拳を叩きこんだジローは、困ったように言った。「まるで手応えがなかったぞ」
「――ふふん」と、小さく笑った真人は、ジローの横に立って、ふらふらと立ち上がるSガールに目を向けた。
「あのスーツは、まぶしい太陽光の下で活動する条件で作られているんだよ」と、真人はジローに言った。「日中蓄積された力は、残念ながら夜は消費する一方になる。そろそろ深夜に近い時間だ。補充しなければ、力を失ってただのスーツになるのは、そりゃ当然なんだよ」
 よろよろと息を切らして立ち上がったSガールの胸元に、空にカクカクとした光跡を描いた光線が、Sガールの胸を狙ったように照らし出した。

“ここからでは、それくらいしかやってやれない”

 と、途切れ途切れの声が聞こえた。

“一人で悪魔と対峙できるほど、お前は強くはないんだ”

「うるさい」

 と、Sガールがしゃがれた声で言った。
「おまえにいいように利用されるのは、もうこりごりだ。私は自由なんだ」
“いいだろう”と、姿の見えない声は言った。“早く太陽光を浴びに行くんだ。石を持った女は、球場にいる――”
「くっそ」と、Sガールは腕を押さえながら、言った。「石を取り返したら、私達は自由にさせて貰うからな。約束だからな」

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