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労働時間管理の是正

2017-12-27 | 日記

労働時間管理の是正

必要のない残業をやめさせて帰らせる

 残業の必要性をよく調べてみたところ,従来の残業時間ほど残業させる必要性はないことが判明することは珍しくありません。
 使用者に残業させるかどうかを決める権限があるのであって,労働者に残業するかどうかを決める権限があるわけではありません。残業を指示していないのに残業をしている労働者がいることに気付いたら,事情を聴くなどして,残業をやめさせて帰宅させるか,残業を続けさせて残業代を支払うかを判断しなければなりません。
 残業させる必要性が低いのであれば,早く帰るよう声がけするだけでなく,現実に退勤させましょう。残業をやめさせずに放置すると黙示の残業命令の存在が認定されるのが通常であり,残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払義務を免れられるケースは限定されます。(労働審判や訴訟における主張はともかく)事前対応としては,現実に退勤させることで対応すべきであって,残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払義務を免れることを期待すべきではありません。
 「定額(固定)残業代を導入すれば,残業代を稼ぐために残業する社員が減るから,無駄な残業を抑制することができる」という発想は本筋ではありません。使用者に残業させるかどうかを決める権限があるのであって,労働者に残業するかどうかを決める権限はないのです。
 【医療法人社団康心会事件最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決】
 「労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される」

必要のない残業をしていないかを確認する

 タイムカード,ICカード,日報等を基礎として労働時間を管理し,残業する必要がないと思われるのに残業していることがタイムカード等から読み取れる場合は,残業が必要な理由の説明を求めるようにしましょう。
 タイムカード等を確認すれば,残業していることが容易に分かるにもかかわらず残業を放置し,未払残業代の請求を受けた後になって必要のない残業だから残業していた時間は労働時間ではないと主張しても,なかなか認められません。

仕事をしていない在社時間を抑制する

 始業時刻前・終業時刻後は,その時間に仕事をする必要がある場合を除き,社内の仕事をするスペースにいることを禁止するようにしましょう。
 在社時間と労働時間は異なる概念であり,在社していたからといってそれが直ちに労働時間と評価されるものではありません。しかし,労働者が社内の仕事をするスペースにいる場合,仕事をしている可能性が高いと推定され,使用者側が有効な反証ができない限り,労働時間と評価されるリスクを生じさせることになります。

残業禁止命令

 残業をしないよう強く注意指導しても指示に従わない場合は,書面で残業禁止命令を出さなければならないこともあります。書面で残業禁止命令を出したにもかかわらず,命令に反して残業した場合は,残業時間として認められないのが原則です。
 残業禁止命令を出したにもかかわらず,残業時間として認められてしまう事案としては,事実上,残業を容認していたような場合や,不当労働行為に当たるような場合くらいです。書面で残業禁止命令を出すくらいのことまでしていれば,無駄な残業は解消することがほとんどです。

残業の事前許可制

 残業する場合には,上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定め,実際に,残業の事前許可なく残業することを許さない運用がなされているのであれば,不必要な残業時間の抑制になります。
 しかし,就業規則に残業の事前許可制を定めて周知させたとしても,実際には事前許可なく残業しているのを上司が知りつつ放置しているような職場の場合は,黙示の残業命令により残業させたと認定され,残業代の支払を余儀なくされることになります。
 残業の事前許可制を採用した場合,事前許可なく残業している従業員を見つけたら,現実に残業を止めさせて帰らせるか,許可申請させて残業を許可するかを判断しなければなりません。
 就業規則を整備しても,実態を伴わなければ,残業代請求対策として不十分であり,不必要な残業時間の抑制にも想定外の残業代請求対策にもなりません。
 残業の事前許可制を採用した場合における典型的な失敗事例は,残業の事前許可なく残業しているのを見かけたものの,事前許可がない残業だから残業代を支払わなくてもいいと思い込んで残業を放置していたところ,残業代請求を受けるケースです。事前許可なく残業していることを上司が知りながら放置しているような場合は,黙示の残業命令があったと認定され,残業時間と評価される可能性が高くなります。

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所
会社経営者のための残業代請求対応
会社経営者のための労働審判対応

 

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