北海道昆虫同好会ブログ

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チョウセンウスバキチョウ Parnassius eversmannni sasai  0. Bang-Haas  1937   秘話。

2023-01-03 10:49:27 | うすばきちょう

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チョウセンウスバキチョウ Parnassius eversmannni sasai  0. Bang-Haas  1937  秘話。

 

 

チョウセンウスバキチョウの命名。

この新亜種の記載はきわめて異例なパターンでした。命名者の O.Bang-Haas は実際には標本現物を見たことがなかったにも関わらず玉川學 園の荒川節士による朝鮮半島のウスバキチョウの記 録などを報じる論文(英文:Arakawa, 1936 ) を目にするやいなや、それを丸写しする形で、論文中のデータ不詳の 1♂の標本 写真のみをタイプ(完模式標本)として 1937年に電光石火の早業でチョウセンウスバキチョウ sasai の新亜種記載をした。sasai は第一発見者の佐々亀雄(さっさかめお )氏に献名したつもりのようだが、苗字の実際の読みは ササ ではなく サッサ sassa 氏が正しい。O.Bang-Haas がそれを知っていれば ssp. sassai となっていたかも知れません。

 

 

 

下記の記載文は本来ドイツ語であるが朝日純一氏の努力で日本語訳されたものです。

 

1937 年 4 月 22 日発行のフ ランクフルト昆虫学会の会誌Entomologische Zeitschrift に新亜種名 sasai を記載(Otto.Bang-Haas, 1937)。 

 

Parnassius eversmanni sasai O.B-Haas, 新亜種 

P.eversmanni M., 土居, Zephyrus 6, p.17, f.2 (1935) ― 

P.eversmanni maui Bryk, 土居・佐々, 1936、科学館報(京 城)52 号1頁、本文と写真2葉、1♂ab.mediocaeca(両方と も日本文);Arakawa, 1936、蝶學雑誌1巻 47 頁、本文 7 頁図版 1頁(英文) 

採集地:Corea sept., Kankyonando, Chozu (!), Yurienei (!) (朝鮮北部咸鏡南道長津郡有麟嶺) 1500-1900m、4♂1♀、1934 年8月 Kameo Sasa (佐々亀雄氏) 採集 開張♂♂60-62mm、 ♀64mm 

朝鮮の採集家からの便りによると、第1世代は 5 月中旬から 6月中旬、第2世代は 7 月から 8 月にかけて飛翔する。私は、シ ホテ・アリニ山脈の亜種 maui Bryk から第1世代を mauoides O.B.-H.として分離した(模式標本はバング·ハース・コレクショ ン中に所蔵)。それゆえ、Moltrecht 博士の記述に対しては、いく つかの点から批判した。Vergl. Horae Macr. I. p7(1927)。 

私は模式標本として荒川氏が図示した♂を示す。Sasai は、 mauoides O.B.-H と似るが、幾分大きい。前翅では、黒色帯と暗 色斑はより濃色でより広い。後翅では、弧状紋の帯は明瞭に現れ、 2 つの眼状紋は延伸している。新鮮な eversmanni の標本では通 常濃赤色の眼状紋を有するが、長く飛び古すとこの赤色は褪色し てくる。荒川氏の別刷送付に感謝する。

 

 

 

 

当時、極東のウスバキチョウは年2化と考えられていました。

 

 

 

 

 

現在、一般的な考えではパルナシウス属の蝶が年2化とはちょっと考えにくい。ながらく謎でしたが、近年、下記のようにその疑問は解明されています。

 

 

 

 

ウスバキチョウに関しては、極東ロシアの産地の殆んど の場所で半化性(2年に1回発生:飛翔時期が5-6月 と早いので、初夏型 Early Summer Form と呼ばれる) と年1化性(1年に1回発生:飛翔時期が7-8月と遅 いので、盛夏型 Middle Summer Form と呼ばれる)がほ ぼ同所的に棲息することが Gluschenko ら(2001)によ って確認・発表されている。 

 

 

 

 

ただ、実際に チョウセンウスバキチョウ ssp. sasai が 半化性(2年に1回発生)と初夏型(年一化)があるのかどうかは不明です。

 

 

 

 

 

ちなみに北海道大雪山のウスバキチョウは過酷な棲息環境のため、産卵から羽化までに二冬を越し、あしかけ3年目にチョウの姿になります。

 

 

 

 

佐々氏が 北朝鮮の蓋馬高台でチョウセンウスバキを新発見した経 緯。当時現在の北朝鮮および韓国は日本の領土でした。

 

 

 

 

1934 年 8 月、昭和九年(1934 年)の夏、朝鮮山岳会の一員だった佐々亀雄氏 (34歳)は、未踏査の遮日峰頂を目指した。 

 

 

 

佐々が 1934 年 8 月 7 日にチョウセンウスバキを初め て採集したとき、それは針葉樹林帯のクガイソウに吸蜜 中であったという。紫色のクガイソウに色鮮やかなウスバキチョウ。デジカメの発達した現在なら、なんとphotogenic な光景でしょうか。

 

 

 

 

 

北海道大雪山のコマクサ平から東岳の広大なお花畑を低くふわふわと舞う多数のウスバキチョウを原風景として脳裏に刻み込んでいる私には、針葉樹林帯のクガイソウに吸蜜 中というウスバキチョウの姿はやにわには想像しがたい。 しかし、実際に世界的視野でみれば大雪山のウスバキチョウの棲息環境があまりにも特異なだけで、大陸などのウスバキチョウは草原や森林、山地、ないしはツンドラや亜高山の灌木帯の蝶であることのほうが多いのです。

 

 

 

 

日本人蝶愛好家のウスバキチョウ崇拝熱は尋常ではなく、その理由は美しい高山帯に舞う夢の最美麗亜種、特異な大雪山のウスバキチョウに対するかなわぬ憧れの裏返しと考えています。

 

 

 

 

朝日純一氏の名著 北満と北鮮のウスバキ秘話(キトリナ通信 No.432-434)  によれば、その後のチョウセンウスバキの数奇な運命が詳細かつ胸躍る読み物として紹介されていますので、興味のあるかたは是非一読をお勧めします。今回のブログ記事は、これを元に作成させていただきました。

 

 

 

 

ここに示したウスバキチョウは 現在の北朝鮮北部で採集されたものとされ、とある方からいただいたものですが 色々な意味合いで採集データ等はあえてつけておりません。

 

 

 

 

私のみたてでは、おそらく チョウセンウスバキチョウ Parnassius eversmanni sasai  0. Bang-Haas  1937  と同一の個体群ではないかとおもわれますが如何でしょうか。

 

 

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