今朝、燃えるゴミを出しに行って、散歩がてらに鶴羽田通りを歩いていると、道端にしゃがみ込んで美空ひばりの「川の流れのように」を歌っている小さな婆さんと遭遇した。うっかり、6月15日の演劇ワークショップを誘うところだった。すぐに若い女性が近寄って、目の前の家に連れ帰った。安堵する。
◆(以下、芥川龍之介「桃太郎」より抜粋)
鬼は熱帯的風景の中に琴を弾り踊りを踊ったり、古代の詩人の詩を歌ったり、頗(すこぶ)る安穏(あんのん)に暮らしていた。そのまた鬼の妻や娘も機(はた)を織ったり、酒を醸(かも)したり、蘭の花束を拵(こしら)えたり、我々人間の妻や娘と少しも変らずに暮らしていた。殊にもう髪の白い、牙の脱けた鬼の母はいつも孫の守りをしながら、我々人間の恐ろしさを話して聞かせなどしていたものである。――「お前たちも悪戯(いたずら)をすると、人間の島へやってしまうよ。人間の島へやられた鬼はあの昔の酒顛童子のように、きっと殺されてしまうのだからね。え、人間というものかい? 人間というものは角(つの)の生えない、生白(なまじろ)い顔や手足をした、何ともいわれず気味の悪いものだよ。おまけにまた人間の女と来た日には、その生白い顔や手足へ一面に鉛の粉をなすっているのだよ。それだけならばまだ好いのだがね。男でも女でも同じように、うそはいうし、欲は深いし、焼餅は焼くし、己惚(うぬぼれ)は強いし、仲間同志殺し合うし、火はつけるし、泥棒はするし、手のつけようのない毛だものなのだよ……」
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