武弘・Takehiroの部屋

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『天安門は見ていた』第1部③ 毛沢東の死と“四人組”の滅亡

2024年06月19日 02時12分06秒 | 文学・小説・戯曲・エッセイなど

第3幕・・・毛沢東の死と“四人組”の滅亡

第1場 <8月上旬のある日、北京・中南海にある江青の居宅。江青ら四人組が集まっている>

江青 「唐山の大地震はすごかったですね。ようやく余震も治まってきましたが、被害は甚大だと聞いていますよ」
張春橋 「死者がどのくらいになるのか分からない。20万人、いや30万人以上になるとか・・・ もっと多いかもしれない」
王洪文 「政府も党も一丸となって救援活動を続けていますが、復旧の見通しはまったく立っていません。恐るべき大地震でした」
姚文元 「外国からも救援の申し出がありましたが、わが国は“自力更生”がモットーですから、丁重にお断りしました。
それに、もし外国の救援隊やマスコミを受け入れたら、どんな報道をされるか分かりませんよ」

張春橋 「うむ、ここは自力更生で行くしかない。わが国の底力が試されている時だ。 ところで、毛主席はご健在でしょうか」
江青 「地震の直後に、車輪付き寝台で頑丈な建物に移ってもらったから問題はないですよ。ただ、余震がすごかったのでずいぶん驚いたでしょうね」
姚文元 「その後、容体の方はどうですか?」
江青 「心筋梗塞を起こしてから、容体は悪くなっていますよ。呼吸が困難になることもあるし、一時は意識を失ったこともあります。 正直言って、いつ“他界”してもおかしくありません」
王洪文 「いよいよ、われわれは覚悟しなければなりませんね」

張春橋 「重大な時が近づいているようだ。政府も党も今は大地震の後始末で手一杯だが、ある日 突然、主席の訃報が舞い込むかもしれない。
医師団は全力で看病に当たっているそうだが、人の寿命というのは分からない。覚悟を決めて事に当たりましょう」
江青 「そうです。 私たちは主席の心を心とし、主席の意志に徹頭徹尾 従って行動してきました。私たちこそ、毛沢東思想を最も忠実に実行している者はほかにありません。
ところが、それを良しとしない連中がいますね。鄧小平たちがそうです。また、それを支援する輩(やから)もけっこういます。
毛主席に万一のことがあれが、こういった連中との“決戦”を避けることはできません。お三方の協力を得ながら、私はこれからも戦っていきます。よろしく頼みますよ」
(3人がうなずく)

 

第2場 <8月下旬の某日午後、北京・海淀区(かいでんく)にある小さな公園。先に着いた宋哲元(北京大学生)のところへ、李慶之の妹でガールフレンドの李美瑛(りびえい・精華大学の新入生で19歳)が現われる>

李美瑛 「お待たせしました」
宋哲元 「やあ、よく来てくれたね、ありがとう。とても元気そうだね」
李美瑛 「ええ、大学にもなんとか慣れました」
宋哲元 「会えて嬉しいな、君はまた美しくなったね」
李美瑛 「まあ・・・」
宋哲元 「兄さんにも今日のデートのことは言っておいたよ。慶之君の“許可”をもらわないといけないからね(笑)」

李美瑛 「兄は大丈夫ですよ、哲元さんを信頼していますから」
宋哲元 「それはありがたい。天安門広場で受けた兄さんの脚のケガはどうなったかしら?」
李美瑛 「お蔭さまですっかり良くなりました」
宋哲元 「それは良かった。僕も警官に殴られたりしたが、大したことはなかったよ。 友人の陶円方は“抵抗”したため逮捕されたが、2週間ぐらいで釈放されたんだ」
李美瑛 「天安門事件はひどかったですね。私は大学受験の準備で手一杯でしたが、落ち着かなくてどうしようもありませんでした。あんな事件は二度と起きてほしくないですね」

宋哲元 「今年は唐山で大地震も起き、まったく不幸な年だ。これからまだ何か起きるかもしれないね。 どうかしら、なにか飲みながら話ができる所へ行かない?」
李美瑛 「いいですよ」
宋哲元 「それじゃ、近くに“茶館”があるからそこへ行こう。文化大革命で茶館がずいぶん減ったけど、そこはずっとやっているんだ」
李美瑛 「いいですね、ゆっくり話しましょう」
(2人は海淀区の通りの方へ歩いていく) 

 

第3場 <9月8日深夜~9日未明、北京・中南海の202号館。病床に横たわる毛沢東を囲むように華国鋒、王洪文、張春橋、汪東興がいる。ほかに主治医や医師、看護婦らが数人>

華国鋒 「主席のお命はどうですか?」
主治医 「もうむずかしいです。人工呼吸装置や心肺蘇生術などでなんとか持っていますが、今夜にはおそらく・・・」
張春橋 「それは仕方がない。医師団の方々は長い間よくやってくれました」
王洪文 「私からも御礼を申します」
汪東興 「われわれ4人は、政治局を代表して毛主席を何カ月も診てきたが、これが最後か・・・仕方がない。82歳、天命だ」

(その時、1人の看護婦が割って入る)
看護婦 「いま、毛主席の心臓の鼓動が止まり、心電図も完全に水平になりました」
主治医 「ご臨終です」
(一同、起立して“ご遺体”に深々と敬礼する。しばしの間)
華国鋒 「主席のご遺体は、これから人民大会堂に移し安置します。手筈どおり、弔問の受付けや追悼大会の準備を進めていきましょう。
訃報の公表は、本日午後4時としておきます」
張春橋 「王同志と私は、政治局員その他の要人にさっそく連絡します」
華国鋒 「よろしく頼みます」
(王洪文と張春橋が退席。華国鋒と汪東興が小声で話し出す)

華国鋒 「これでいよいよあの計画を実行する時が来たね」
汪東興 「四人組は、まだわれわれの計画に気づいていないと思う。主席の追悼大会が終われば、いつでも実行できるさ」
華国鋒 「党の長老たちには私が内密に話すが、軍の関係者はすべてあなたに任せるよ」
汪東興 「了解。上海などの動向に注意しないといけないな」
華国鋒 「四人組はまだ対抗手段など考えていないはずだ。生きるか死ぬか、万全を期してやっていこう」
(汪東興がうなずく) 

 

第4場 <9月中旬のある日、北京市郊外にある鄧小平の仮住まい。鄧小平と胡耀邦、趙刻明の3人>

鄧小平 「まもなく毛主席の追悼大会が行われるが、役職をはく奪されたわれわれは参列できないね。残念だが仕方がない」
趙刻明 「追悼大会が終われば、何が起きるか分かりませんよ。華国鋒たちも四人組も、いま水面下でいろいろな工作をしているでしょう。それが表面化していないだけです」
胡耀邦 「あなたもそう思うか・・・私も同感だ。(鄧小平に向かって)なにか情報は入っていますか」
鄧小平 「うむ、少しばかり聞いているが、それはここでは言えない。両陣営とも虚々実々の駆け引きのようだ。 
私は“門外漢”だから無責任なことは言えないが、華国鋒側の方がむしろ積極的に仕かけている感じだな」

胡耀邦 「そうですか、なにはともあれ、四人組には勝ってほしくない。彼らがもし最高権力を握ったら、われわれの出る幕は完全になくなります。 そうしたら、中国は一体どうなるか・・・考えただけでも恐ろしくなる」
鄧小平 「こういう話はもうやめよう。 
毛主席とはいろいろあったな・・・ ある時は同調し、またある時には対立する、その繰り返しだった。最後は対立しながら永遠の別れとなったが、私には悔いはない」
趙刻明 「毛主席があなたを高く評価していたことは間違いありません。どんなことがあっても、党籍はく奪までは絶対にいきませんでしたからね」

鄧小平 「うむ、そういうことだ。あの人はやはり偉大だった。
あの人がいなければ、革命も新中国の誕生も成功しなかったかもしれない。やり方については私とずいぶん違うところがあるが、目指す理想は一致していた。一つの時代が終わったという感じだな」
胡耀邦 「これからですよ。一つの時代が終わり、また新しい時代が始まる。それを担っていくのはあなたと、それに続くわれわれです。決して諦めないことですね」
鄧小平 「そのとおりだ、私は絶対に諦めない。もう72歳になってしまったが、命のあるかぎり私は闘っていく」
趙刻明 「力強いですね、ご健闘を祈ります」 

 

第5場 <9月末のある日、北京市・玉泉山の密会場所。 華国鋒、葉剣英副主席(元帥)、李先念副総理、汪東興の4人が集まっている>

李先念 「江青一派は毛主席の“遺書”を偽造したり、自分らが正当な後継者だと盛んに訴えている。なにせ、あいつらは党の広報や宣伝機関を抑えているから困ったものだ。
『人民日報』や『光明日報』は完全にあいつらの手先になっていますよ」
華国鋒 「こうなっては、もうじっとしているわけにはいきません。葉元帥、いよいよ決断の時が来ましたよ。四人組を逮捕しましょう」
葉剣英 「うむ、軍や関係機関には内密に伝えているが、軍事的な非常手段を使うというのは、これまでに例がないことだ。
毛主席だって、文革の真っ最中でも民主的な多数決原理で事を処理してきた。非常手段に訴えるというのは、一種の“クーデター”だよ。
有効な手段ではあるが、党の歴史に問題点を残すことになるのでは・・・」

汪東興 「分かっています。これが軍事クーデターだということは、よく分かっています。 しかし、中央委員会総会などに持ち込めば、事態がもの凄く紛糾することは目に見えています。
しかも、中央委員の中には、四人組に味方する者がかなりいます。事態が紛糾すれば、予想もしないことが起きる可能性もありますよ」
葉剣英 「しかし・・・」
李先念 「葉元帥、決断の時です。四人組は上海の部隊に声をかけたり、北京の民兵組織にも手を出しています。
つまり、あいつらだって軍事的な行動に打って出る可能性があります。そうなったら、北京や上海は“内乱状態”になる恐れがありますよ。ここは、ぜひ決断してください!」

華国鋒 「いま、諸兄が言われたとおり、一刻の猶予もありません。このままずるずると事態が進めば、間違いなく混乱状態に陥ります。混乱が長引いてはいけません!
元帥が言われるとおり、党の歴史に問題点を残す懸念はあります。しかし、事の“正否”は歴史が判断して決めることです。後世の人たちが、良かったか悪かったか判断すればよいのです。ぜひ、決断をお願いします」
葉剣英 (しばらくの間)「うむ、そうか・・・ 諸君の話を聞いていると決断しないわけにはいかない。事の良し悪しは後世の人が決める、そのとおりだな。
よし、軍の関係者たちに“ゴーサイン”を出そう! 決行する日取りや手筈は諸君に任せる」

華国鋒 「分かりました、ありがとうございます」
汪東興 「これですっきりした!」
李先念 「江青なんかに、党主席になられたらたまらんぞ! 雌鶏(めんどり)鳴けば、国 滅ぶと言うからな」
汪東興 「歴史は勝った方が正しいのだ。 ところで、元帥は美しい奥さんを何度ももらって女にとても“もてる”と聞きましたが、男にももてますね」 
葉剣英 「コラッ!」(一同、大いに笑う) 

 

第6場 <10月初旬、北京・中南海にある江青の居宅。江青、王洪文、張春橋、姚文元の四人組が話し合っている>   

江青 「私のことを女帝だとか西太后などと批判する声が上がっていますが、私は毛主席のれっきとした妻ですよ。 党員の中には“雌鶏(めんどり)鳴けば 国滅ぶ”などと抜かす者もいるようです。
しかし、女性が国の政治を動かして何が悪いのですか。毛主席の“遺志”を受け継いで、この国の未来を切り開くには私どもが最適だと自負しています。みなさん、そう思いませんか?」
王洪文 「もちろん、そうですよ。あなたが毛主席の後を継いで当然です。また、そう思っている党員も多数います。正々堂々と前を向いて進みましょう」
姚文元 「あなたが党主席、王洪文同志が全人代委員長、そして、張春橋同志が国務院総理というのが最適です。 それをあらゆる広報・宣伝機関を通じて、私が訴えますよ」

張春橋 「姚同志、ありがとう。問題は、それをいつ中央委員会総会に諮(はか)るかということだ」
王洪文 「次の政治局会議で、そうしたことを議題にしましょう。早ければ早いほどいい。 反対意見もあるかと思うが、国民は“後継者問題”にいちばん関心があるはずです」
江青 「そのとおりですね。政治局会議を早急に開くよう華国鋒氏に言いましょう。 ただ気になるのが、党の長老や軍部、古い官僚たちがどう反応するかです。
特に、軍部の動きには注意しないといけません。そこで私は、甥の毛遠新にずっと北京にいるように言っておきましょう。あれがいれば安心です」
張春橋 「それはいい。彼は瀋陽軍区の政治委員だからなにかと好都合です。われわれを守ってくれますね」

江青 「そうですよ、私のことを今でも“お母さん”と呼ぶんですから。可愛いものですね、ホッホッホッホ」
張春橋 「私は内密に上海の軍部にも声をかけておきます。これで当面は、われわれの安全が確保されると思うが・・・」
王洪文 「そうでしょうが、華国鋒らは何を考えているか分かりません。一部に不穏な噂も聞いていますよ。  
いろいろ内偵を進めていますが、特に葉剣英や汪東興の動きがあやしい。注意しないといけませんね」
江青 「分かりました。みなさんのご意見を参考にしながら事を進めていきましょう。われわれの勝利も間近です。
われわれが勝った暁には、今度こそあの鄧小平の息の根を止めることができるでしょう」
姚文元 「勝利の“青写真”ができましたね。私は広報・宣伝活動に全力をあげます」 

 

第7場 <10月6日の夜8時ごろ、北京・中南海の懐仁堂。華国鋒、葉剣英、李先念、汪東興らがいるところに張春橋が現われる>

張春橋 「やあ、みなさん、政治局会議をこんなに遅く開くのですか?」
華国鋒 「そうです。ここでしばらくお待ちを・・・」
汪東興 「張春橋、待っていたぞ!」(汪東興が声をかけると、武装した数人の兵士が屏風の陰から現われる)
華国鋒 「あなたを反党、反革命活動の容疑で逮捕します」
張春橋 「そんな馬鹿な・・・私がなぜ反党、反革命活動をしたというのか」
汪東興 「問答無用だ、こいつを逮捕しろ!」(兵士たちが張春橋を拘束する。彼が少し抵抗しているところへ、王洪文が現われる)

華国鋒 「王洪文、あなたも反党、反革命活動の容疑で逮捕します」
王洪文 「えっ、なぜ私が逮捕されるのか!?」
汪東興 「おとなしくしろ! おい、こいつも拘束しろ」(兵士たちが王洪文を取り押さえようとすると、彼は激しく抵抗する)
王洪文 「冗談じゃない! 誰が逮捕を決めたというのか、これは“違法”ではないか! お前たちこそ反革命、反党分子だ! 許せない!」
(王洪文が必死に抵抗するものの、兵士たちに力づくで押し倒される)
葉剣英 「若いだけあって、王洪文は元気だな~、ハッハッハッハ」
(やがて張春橋、王洪文は兵士たちによって外へ連行される)

華国鋒 「よし、これでいいだろう、あとは江青と姚文元だ」
汪東興 「姚文元はまだ自宅にいるはずだ。江青はきょう郊外で“リンゴ狩り”を楽しんでいたそうだが、わが8341部隊が逮捕するでしょう。その連絡を待っているところです」
華国鋒 「4人を逮捕すれば、あとで緊急の政治局会議を開いてみなさんの“追認”を得るだけです。これですべてが解決されます」
李先念 「よくやった、四人組の仲間である毛遠新らもあとで逮捕されるだろう。緊急会議では、問題なくみんなの了解が得られるはずだ」
葉剣英 「あ~、すっきりした。これで党は新しい体制で出直すのだ」 

 

第8場 <10月中旬のある日、北京市郊外にある秦城(しんじょう)監獄の一室。取り調べを受けたあと、江青のモノローグ>

江青 「私はいまこうして監獄の中にいる。自分がまさか逮捕され、ここに幽閉されるとは誰が思っただろうか。私は毛沢東主席のれっきとした妻であり、輝かしい文化大革命を指導してきたのだ。
だから私が逮捕されるなど、1カ月前には誰が予想しただろうか。 しかし、私はいまむさ苦しいこの監獄に閉じ込められている。同様に張春橋、王洪文、姚文元、甥の遠新らも囚われの身となった。
ということは、それを喜んでいる輩(やから)が大勢いるのか・・・ そうか、私たちの考え、見方は甘かったのだ。しかし、反省しても悔やんでも仕方がない。これは私たちの“運命”だったのだ。

私が最も嫌った女・王光美(おうこうび・劉少奇夫人)と同じ運命をたどるとは、なんという皮肉だろうか・・・ 彼女もいま同じ監獄にいる。顔を合わせるのも嫌だ!
いずれ、裁判が始まる。どんなことがあっても、私は屈しない。私は自分の正当性を主張し、華国鋒らの“非”を訴えていく。それが認められなくても、私は最後まで戦っていく。
どうせ“政治裁判”であることは分かっている。有罪になることは必至だが、私は正々堂々と戦っていこう。それが偉大な毛沢東主席の妻であり、最も忠実な部下であった私の務めなのだ!」 <続く>


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