映画に 乾杯! / 知の彷徨者(さまよいびと)

名作映画に描かれている人物、物語、事件、時代背景などについて思いをめぐらせ、社会史的な視点で考察します。

辺境化するアメリカ  雑感・思索メモ 14

2012-02-04 13:59:43 | 現代アメリカ社会
■辺境化するアメリカの政治 没落への足音■

 衛星放送では連日、アメリカでの次期大統領選挙に向けた共和党候補者人気投票の様子が報道されている。
 報道される政策や中傷戦を見る限り、まあ酷いものだ。悲惨というか無残というか、政治や文化におけるアメリカの辺境化(偏狭化)と周辺化はいよいよ、もはや挽回できないほどに進んでしまったか見える。

 とりわけ悲惨なのは、地方の中下層民衆が《タリバン化》していることだ。
 繰り広げられている政治イデオロギー闘争では、もはやアメリカは先進国ではなく、まともな政治文化の洗礼を受けたこともないような辺境の世界のように見える。
 アフガニスタンのタリバンと同じように頑なで偏狭な、しかも狂信的な宗教的偏見に満ちた蒙昧な熱狂が荒れ狂っているとしか言いようがない。
 これほどに国内の階級格差が拡大してしまい、製造業=産業の空洞化が進展した以上、連邦国家の社会政策的な組織化介入とか産業育成・誘導政策なしには、もはやアメリカの衰退は押しとどめようがない。
 しかるに、むしろ「極力小さい政府」で、弱者の保護をさらに切り捨て、富裕者への課税をさらに軽くして貧富格差の拡大を放置する、というよりもそれを礼賛・賛美する。そういう政治姿勢をより強調した候補者ほど、優位を確保しやすいというイデオロギー的環境があるようにさえ見える。

 もっとも、あまりにタリバン的な下劣な争いが行きすぎて、保守=右派候補に幻滅して、ロムニーに票が集まる傾向も、一方に見えたりする。

■共和党政権になると没落は加速する■

 もともと国民国家としては(ヨーロッパや日本と比較して)特異な成り立ちと経緯をもつ大陸国家、アメリカは、そもそものはじめから国内に「奥深い辺境」を抱え込み、拡大しながら、強大化し、世界経済の覇権を握ってきた。
 しかしながら、ヘゲモニーを掌握したての1940年代から60年代には、知的・文化的・道徳的に世界の最先端を走り、世界をリードしようという気概があった。暑苦しくて、押しつけがましくて、強圧的だった。辟易するほどに。

 しかし、1980年代のレイガン政権の頃から、きわめて内向きの偏狭な価値観が共和党指導部に浸透していった。そして、今や、共和党右派(草の根右派、茶話会派)の思想たるや、おそらくヨーロッパや日本からは小馬鹿にされざるをえないような陳腐な狂信になり果てている。
 世界の動きや要請よりも、自分の内部しか見なくなっている。

 やがて、共和党保守派が政権をとる時期が来るとすると、そのときは、世界の悲劇が始まるだろう。
 アフガンのタリバン(おそらくアフガンでは現状に適合した政派なのだろうが)のように偏狭な狂信的な政派が政権を握り、アメリカの世界最大最強で最先端の軍事力を動かすようになったら、いったいどうなるのだろう。
 あの愚かなブッシュをはるかに凌ぐような、無謀なイデオロギー戦争、「宗教戦争」を繰り広げはしないか。

 そうなったとして、日本は相も変わらず、アメリカに親しげにしっぽを振り、追従する外交・軍事政策を取り続けるのだろうか。
 少なくとも、今の民主党とか自民党に、愚かな過去を清算できるほどの気のきいた政策を提示する能力は見当たらない。自民党以来、沖縄の軍事基地問題一つ解決できない、無能な歴代政権だったのだから。
 高級官僚もまた、気概と理想に欠けた利権集団でしかないように見える。

■分裂するアメリカ社会■

 ところで、共和党右派の辺境化・偏狭化の一方で、アメリカ社会には、政治的にも経済的にも、文化的にも、もはや修復のきかない底深い断裂と分裂が横たわっているようだ。その溝は深まりこそすれ、軽減かする見込みはなさそうだ。

 フェイスブックやブログで広がった「金融街を占拠せよ!」という運動は、もはやワシントンや連邦の中央政界に対して絶望し切っているように見える。若者たちの判断がそうなっているというよりも、国家の政策の担い手、連邦議員たちこそが、疎外された民衆の方向を見ようとしなくなっている厳しい現実がある。
 その現実の前に、既存の政治過程に変革の政治的プロセスを見出し持ち込もうとする意欲が、はじめから失われているというのが実相ではないか。
 有力議員たちは金融投機のチャンス拡大の方向ばかりを見てきた。

 ITによる知識や政治的議論のトランザクションがますます発達していく現況にあって、既存の利害構造化して身動きの取れない既成の政治過程の外部に、新たな改革の方途ができ上がっていくのだろうか。
 私の頭は古くなっていて、若者たちの行方については、皆目見通しが利かない。
 
 あるいは、いよいよ「先進諸国中心の現代文明の滅亡」に向けた動きが加速するのか。そうであっても仕方がない。
 



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