猿八座 渡部八太夫

古説経・古浄瑠璃の世界

忘れ去られた物語たち 34 古浄瑠璃 よりまさ ⑥終

2014年12月29日 17時25分59秒 | 忘れ去られた物語シリーズ
よりまさ⑥終

 平家の軍勢二万余騎が、平等院を取り囲んで、鬨の声を上げています。頼政は、討ち死にの覚悟をすると、装束を整えました。赤地色の直垂に、緋縅の鎧を身につけました。猪早太は、黒糸縅の鎧を着けました。主従二人は、切って出ると、
「やあ、如何に。平家の軍兵ら、手並みの程をよっく見よ。」
と、大勢の中に割って入り、ここを最期と戦いました。頼政の手に掛かった者は、五十三名。残りの者どもを、四方へばっと追い散らすと、平等院へと引き戻り、いよいよ切腹と、思い定めました。鎧を脱ぎ捨てると、扇を打ち敷いて座りました。辞世の句は、
『埋もれ木の 花咲く事も なかりしに 身の成る果てぞ 哀れなりけり』
そうして、腹を十文字に掻き切ると、猪早太が介錯しました。早太も自ら、腹を掻き切ると、臓物を掴んで繰りだし、念仏を唱えるのでした。
 二人の首が清盛の所に届けられました。清盛は喜んで、
「これで、もう国々に、気になる源氏もいなくなったわい。それでは、平家一門で官職を思いのままにしてやろう。」
と、嫡子の重盛を小松の太夫に任ずるなど、昔から位の高かった公家大臣を差し置いて、平家の無位無官の者達を、続々と、中将、別当、宰相、右大臣、左大臣と任官して行ったのでした。
 上古も今も末代も、例し少なき次第とて、感ぜぬ者こそ、なかりけり
おわり

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